クズな俺でも夢を持った
Part5今思えば、あそこまで言うカドワキさんも少々変だけど
この時の俺は不思議と、全面的に自分がいけないんだって信じて疑わなかった
宿に戻ってから、玄関に置いてある灰皿の前でひたすら煙草を吸った
なんかもう、この世の終わりと感じるくらいに悲しかった
次の日から朝起きるのもひたすらしんどくなって
あと一歩でまたニート時代に戻る寸前だった
親父さんにも「元気ないけど大丈夫?」と心配されるくらいだった
506 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 17:57:30.17 ID:4WWO0I6y0
勝手に落ち込んで、元気をなくして周りに心配させる自分
そんな状態が本当に申し訳なくて、自分に嫌気が差した
あんなにも楽しかった宿の仕事の一つ一つが、
「なんで事してんだろう」に変わり始めて
「そろそろ辞めてしまおう」そんな思考になりかけていた頃だった
昼のヒマな時間、休憩してる時
滅多に鳴ることのない俺の携帯に着信があった
508 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 18:06:26.70 ID:4WWO0I6y0
俺「もしもし…」
カドワキ「あの…」
その声は、聞いてすぐに普通じゃないと分かるくらいにしゃがれ声だった
俺「どうかしたんですか?」
カドワキ「助けてくれませんか」
俺「え?」
509 :名も無き被検体774号+:2013/04/07(日) 18:08:07.03 ID:hoRHwgr20
え?
510 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 18:12:59.85 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「いあ…その、なんというか…」
俺「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
カドワキ「体調を壊して…」
俺は突然のことだったので動転した
カドワキ「動けないんです…今…」
俺「は、はい…」
カドワキ「凄く近所なので…何か食べるものを…」
俺「持っていけばいいんですね?」
おおおおおおおおおお
512 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 18:28:26.18 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「は…はい…」
俺「分かりました。てきとーに見繕ってすぐ行きますね?」
カドワキ「ごめんなさい…」
この時、様々な疑問が浮かんだ
何故俺なんだ?確かに至極近所ではあるが
他に頼る人は?親はいないのか?
しかしそんな事は気にせず、
とにかくすぐにカドワキさんの家へと向かうことにした
513 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 18:36:17.53 ID:4WWO0I6y0
俺はコンビニへと走って、
栄養ドリンクやバナナ、お粥のパックなんかを買って
すぐにカドワキさんの家へと向かった
自分が何をしていて、何故こんな状況になっているのか
よく分からなかったけど、必死になって走って
早く届けてあげよう、と思った
あんな事を言われた後だったのに、頼ってくれた嬉しさがあったんだ
なぜか、ドキドキしてる自分がいたんだよな
514 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 18:47:31.12 ID:4WWO0I6y0
コンビニの袋を下げて、必死になって走った
6月の終わりくらいでもう凄く熱くて、汗だくになった
カドワキさんの家の前に着くと、息が上がりきってクラクラした
「カドワキ豆腐店」と書かれた家の前は、シャッターが下りていた
豆腐屋だったのか、と一人で思って
急いで入れるドアを探す
回りこんで家の側面に入ると、玄関らしき扉があったので
インターホンを鳴らして「いますかー?」と必死に呼びかけた
515 :名も無き被検体774号+:2013/04/07(日) 18:51:34.06 ID:zClEHoXu0
>>1はいい人だなぁ.....
516 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 18:55:11.75 ID:4WWO0I6y0
しばらく待っていると、古ぼけた薄茶色の扉が開いた
マスクをして、目を真っ赤にしたカドワキさんが出てきた
俺「大丈夫ですか…?これ、買って来ましたよ」
カドワキ「ありがと…」
そう言ってだるそうにして差し出した袋を受け取る
本当に虚ろと言った感じなので、俺は心配になった
俺「いや、熱何度あるんですか…?」
517 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 18:58:37.91 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「ん…40度くらい…」
俺「はい?そんなんじゃお粥なんか自分で作れないでしょう」
カドワキさんは「う〜…」という返事ともとれない返事をしたので、俺は決心した
俺「嫌かもしれませんが、お粥くらい作ってきますよ?」
カドワキ「あ…え…」
俺「なんか食べないと本当に死んじゃいます」
カドワキ「う…」
518 :名も無き被検体774号+:2013/04/07(日) 19:01:51.92 ID:akmBWQch0
読みやすいな……
一気に読んで すんなり追いついた
519 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 19:02:00.04 ID:4WWO0I6y0
俺「お粥だけ作って、すぐに出て行きます…」
カドワキ「あー…」
俺「ちょっとだけ、入れてもらえますか?」
俺が意を決してそう言うと、
カドワキ「どうぞ…」
とだけ言ってフラフラと家の中に戻っていった
俺は「お邪魔します…」とだけ生真面目に言って、カドワキさんの家に入った
520 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 19:07:05.35 ID:4WWO0I6y0
カドワキさんの家の中は昔ながらの感じで
イメージとはまったく違った 何というか、年季が入っている
板張りの廊下は昼間なのに暗くて、なんだかひんやりしていた
もっと、小綺麗でおしゃれな感じにしてるかと思っていた
俺が居間に入ると、カドワキさんはその場に座り込んでしまった
カドワキ「ごめんなさい…」
俺「いいんです。すぐにお粥だけ作っちゃうんで、少しだけ待っててくださいね」
521 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 19:13:46.16 ID:4WWO0I6y0
台所に続く玉のれんをくぐると、使い込まれたキッチンがあった
年季が入った家ではあったけど、いつも綺麗にしてるんだなってすぐ分かった
買ってきた栄養ドリンクやゼリーなどを冷蔵庫に入れていると
冷蔵庫に貼ってある一枚の写真に気付いた
あどけない少女と初老の男性が、ピアノの前で花束を持って笑っている
カドワキさんだろうか?そんな事を思ったけど
すぐに袋からお粥のパウチを取り出して、
今自分がやるべきことに専念することにした
527 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:06:02.36 ID:4WWO0I6y0
鍋を探して、水を入れて、火にかける
沸騰するのを待ってる間、買ってきた冷えピタをカドワキさんに渡し
スポーツ飲料をコップに入れて居間のテーブルに置いた
カドワキさんは「ありがと…」と言いながらグッタリしていた
本当に朦朧としている様子
俺はありがとう、と言われることが何だか嬉しくて
こんな状況ながら、少しだけときめいていたんだ
528 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:10:08.45 ID:4WWO0I6y0
そうこうしてるうちに鍋の中が沸騰して、お粥が完成した
俺「お粥できました。卵は無理だろうから、普通のやつです」
俺「海苔とか、塩とかで味つけましょうね」
カドワキ「ありがと…」
俺「いえいえ」
そう言って、居間のテーブルにお粥と、塩を並べた
そして、しばらくぼーっと出来上がったお粥を眺めているカドワキさん
529 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:17:10.51 ID:4WWO0I6y0
俺「食べられそうにないですか?」
カドワキ「うん…」
俺「まいったな…少し、頑張ってみましょう」
そう言って俺もゆっくり待つことにした
居間を見回していると、わきにピアノがあるのに気付いた
さっきの写真は、やっぱりカドワキさんだったのか…
気づけば、そのピアノの上に幾つかの盾やトロフィーも並んでいた
530 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:20:23.21 ID:4WWO0I6y0
しかし、こんな状況下でさすがに
「カドワキさんピアノ弾くんですかー?」なんて話しかけることもできず
自分の中で納得しただけだった
趣味でピアノ弾くのかな…なんて一人で思っていたら
カドワキ「だめ…だめだ…」
と話しかけてきた
俺「え、やっぱり無理ですか?」
カドワキ「食べる…どころじゃない…」
参った、これが食べられないなら、とうとう急いで病院に行かないと
俺「少しも無理ですか?」
カドワキ「ん…」
そして喋るのすら辛そうになってきている
俺「分かりました。カドワキさん、外に車ありましたね?」
カドワキ「え…はぁ…」
俺「病院行きましょう」
533 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:30:36.82 ID:4WWO0I6y0
カドワキ「あ…え…」
俺「いやいや、悩んでる暇ないです。」
俺「大丈夫です、安全運転で連れてってあげますw」
そう言うと、カドワキさんの顔が少しだけほころんで、
「わかった…」とだけ俺に言った
俺「財布はどっちでもいいですけど、保険証だけは持ってくださいね」
カドワキ「うん…」
もうフラフラだったので、俺が肩を貸して外に出て、車に乗せた
535 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:47:59.24 ID:4WWO0I6y0
正直、俺はペーパードライバーに近かったので、かなり緊張した
ただ、助手席で今にも崩れ落ちそうなカドワキさんを乗せていたので
そんな事は言い出せなかった
幸い、一度こっちに来てから消化不良で内科に行ったことがあったので
病院の場所だけは頭に入っていたんだ
カドワキさんを安心させたかったので、
「すぐに着きますよ」とか言いながら車を発進させた
536 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/07(日) 22:55:54.81 ID:4WWO0I6y0
道中、俺が車の運転に集中していたのもあって、沈黙が続いた
すると、熱に浮かされたのか、カドワキさんが喋り出した
カドワキ「良かった…」
俺「はい?」
カドワキ「ありがとう…」
シートを倒して背もたれに倒れかかっているカドワキさんが
必死になって喋っていた
俺「無理して喋らなくていいんですよ」
542 :名も無き被検体774号+:2013/04/08(月) 00:34:01.83 ID:3CWvOdFD0
今日はもうおしまい?
557 :名も無き被検体774号+:2013/04/09(火) 01:08:16.54 ID:XMzOo5r50
保守の時間ですか
558 :名も無き被検体774号+:2013/04/09(火) 01:17:53.51 ID:edaBVOEA0
また、明日だな
583 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:34:12.40 ID:1qYjTR8a0
こんばんは>>1です
>>536の続きから書きます
待たせて本当ごめんなさい
584 :名も無き被検体774号+:2013/04/10(水) 22:35:11.25 ID:5L8bURwh0
まってたぞー
585 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:37:30.41 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「いいの…あのね…」
俺「はい…」
熱気が溜まって蒸し暑い車内で、カドワキさんは必死に喋る
カドワキ「頭のこれ…が」
俺「ええ」
カドワキ「ひんやりしてて…気持ちいい」
俺「ああ、冷えピタですね。買ってきて良かったw」
586 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:39:59.89 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「昔…さ…」
俺「はいはい」
カドワキ「よく…お父さんがね…」
俺「ええ」
カドワキ「氷枕を…作ってくれて…」
俺「氷枕ですか。」
カドワキ「すごく…嬉しくて…」
俺「へえ、そうなんですかw」
588 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:43:37.80 ID:1qYjTR8a0
カドワキ「なんだか…それをね」
俺「はい。」
カドワキ「思い出しちゃった…」
俺はその言葉に、何も言い返せなかった
信号に止まって横を見ると、ぐったりして椅子に寝ているカドワキさんがいる
カドワキ「本当はすごく…不安で…」
俺「はい」
カドワキ「嬉しい…よ」
589 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:46:35.16 ID:1qYjTR8a0
俺「嬉しいって…何がですか?」
カドワキさんは、そんな俺の言葉も意に介さず続けた
カドワキ「誰かと一緒だと…」
カドワキ「こんなに嬉しいんだね…」
俺はその言葉に胸がきゅんとしたが、何も言えず
そして、カドワキさんもそれだけ言うと
疲れてしまったのか、まったく喋らなくなった
590 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:50:41.95 ID:1qYjTR8a0
しばらく車内は沈黙のまま病院に向かった
カドワキさんのお父さんはどんな人なんだろう?
さっきの写真の人?それにしても何故食べ物くらい買ってこないのか?
今はお父さんは家にいないのか?
いろんな考えが頭を渦巻いた
そして小十分車を走らせると、病院に着いた
ドアを開けて「さ、行ける?もう大丈夫ですよ」と言ってカドワキさんの手を取る
カドワキさんはもう限界のようで
無言のまま俺に手を取られ、病院に入った
591 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 22:56:24.00 ID:1qYjTR8a0
まあ予想通りというか、カドワキさんは典型的な風邪だった
しばらく何も食べてないと伝えると、点滴を打つことになったので
俺はベッドで朦朧としてるカドワキさんに
「これでもうバッチリですね。」と話しかけた
するとカドワキさんは寝たままこちらを見上げて、口元だけで笑ってみせた
それを見て、これならもう安心だな、と気が抜けた
点滴が終わるまで駐車場に戻って煙草を吸う事にした
592 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:21:03.50 ID:1qYjTR8a0
1時間ほど経って、カドワキさんを迎えに行く
相変わらずフラフラな状態は変わらなかったので
病院のお金と薬代は、俺が立て替えた
俺が腕を引いて、カドワキさんを車まで連れて行く
俺「点滴もしたし、これでひとまずは安心です」
するとカドワキさんは笑顔になって
「ありがとう」とだけ言った
593 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:24:45.94 ID:1qYjTR8a0
帰りの車も、カドワキさんは点滴を打って眠くなったのか終始無言だった
俺も、負担にならないようにゆっくり運転して、黙って帰った
家に着いて、カドワキさんを部屋まで連れて行く
カドワキさんはやはりよっぽど辛いのか、着替えることもなくベッドに倒れ込んだ
俺「もらった薬はここに置いておきます」
カドワキ「うん…」
俺「ゼリーとかバナナがあります。夜になったら食べて、ちゃんと薬飲んでくださいね?」
カドワキ「うん…」
595 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:27:06.63 ID:1qYjTR8a0
俺「ここにタオルも置いときますね。汗かいたらちゃんと拭くんですよ?」
カドワキ「うん…」
俺もすっかり安心して、帰ろうとする
俺「もう大丈夫です。何かあったら、電話してください」
そう言って部屋から出て行こうとした
カドワキ「あ…」
カドワキさんが不意に俺を呼び止めた
596 : ◆GZ9LcuBAFk :2013/04/10(水) 23:31:05.21 ID:1qYjTR8a0
俺「どうかしました…?」
カドワキ「まだ…その…」
とてもか細い声で話しかけてくる
カドワキ「氷…枕…」
俺「え?でも…そんな作り方とか知らないですし…」
カドワキ「や…やだ…」
正直驚いた 普段強気なカドワキさんが
こんな風に駄々をこねてわがままを言うなんて、想像がつかなかった
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