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キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」 『作者』編

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Part26
914 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/10(月)00:26:46 ID:A18
ヤーコプ「根拠のない慰めはやめておけ、空しいだけだ」
ヴィルヘルム「兄さん、本当に根拠がないと思ってるかい?」
ヤーコプ「…フン」
ヴィルヘルム「チャールズ君、ペロー先生は知っているね?」
チャールズ「もちろんです。【シンデレラ】や【眠り姫】で有名ですもんね」
ヴィルヘルム「シャルル・ペロー先生はかつて民間伝承の物語を脚色し、親しみやすい童話にして世に出した」
ヴィルヘルム「そして僕と兄さんは様々な地方の民間伝承をまとめて童話集にした。これは様々な童話を世間に知って貰うことに成功したと思っているよ」
ヤーコプ「童話集がさほど批判されなかったのは、作品としての価値よりも様々な地方の物語をまとめたという資料的な価値を評価されてだろうがな」
ヴィルヘルム「そして君の師匠、アンデルセンは民間伝承ではないオリジナルの作品…創作童話をいくつも世に出した」
ヴィルヘルム「今までの話を聞いていれば解ると思うけれどこれはすごいことなんだよ。童話という作品が軽視されているこの時代、歴史や文化の裏付けがある民間伝承ではなく創作童話を発表し、支持を受けてるんだから」
アンデルセン「運が良かっただけです、なにしろライバルとなる同業が少なかったですから」
ヴィルヘルム「あれね、謙遜だからね」クスクス
チャールズ「ですよね、先生は才能ありますもん!」ハハハ
ヴィルヘルム「僕もそう思うよ。兄さんが言ったように世間には童話を文学として認めていないという声が大きいけれど…逆の意見だって少しずつ増えてきている」
ヴィルヘルム「アナスンは少しずつだけど、世間の童話に対する考えを変えることに成功しているんだ。そしておそらく遠くない将来、アナスンはきっと成し遂げる」
ヴィルヘルム「童話は立派な文学だという事を世間に認めさせることにね」

916 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/10(月)00:28:54 ID:A18
アンデルセン「ヴィルヘルムさん、それはさすがに買い被りすg」
チャールズ「そぉですよおおぉぉ!!よくぞ言ってくれましたよヴィル先生!俺もおんなじ意見です!アナスン先生は絶対にやってくれます!」ガタッ
チャールズ「なにしろアナスン先生は世界で一番の童話作家ですから!絶対に、絶ッ対ッにっ!童話はもっともっと親しみやすくそして価値ある物だって世界に知らしめられるはずです!そして世界の幼女はみんな幸せ!ラブアンドピース!」ズワッ
ヴィルヘルム「そ、そうだね」ドンビキ
チャールズ「アナスン先生、俺、故郷に帰っても作家以外の仕事に付いたとしても一生先生のこと応援してますから!」
アンデルセン「あ、あぁ…ありがとう」
チャールズ「そうと決まったら次の作品に取りかかりましょ!俺、何でも手伝いますよぉぉぉ!!」
ヤーコプ「チャールズ」スクッ
チャールズ「はいっ、なんですか?ヤーコプ先生!」
ヤーコプ「勝手に盛り上がるな、俺の話はまだ終わっていない」ドゴォ
チャールズ「そうでしたスンマセンッ!」
ヤーコプ「確かにヴィルヘルムが言うように、少しずつであるが童話を取り巻く環境は改善されつつある。だがそれでも一つだけ変わらない物がある、童話にとって欠かせないとされているものがな」
チャールズ「あっ、もしかしてそれが『教訓』ですか?」
ヤーコプ「そうだ。少数派である童話を文学と認めるという者達もこれに関しては譲らず、一様にこう口にする」
ヤーコプ「童話には教訓がなければならない、とな」

917 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/10(月)00:32:22 ID:A18
ヤーコプ「童話は子供向けの作品だ。そこに教育をねじ込むという行為は理にかなっている」
ヴィルヘルム「確かに…それに関してはね。僕達が編集したグリム童話にもほぼ全て教訓が存在するしね」
アンデルセン「…私の童話もそうだ。むしろ世間で一定の知名度を得ている作品で、教訓が存在しない作品などありはしない」
チャールズ「うーん…まぁ確かにそうですよね。どんな童話にも教訓はあります、俺やっぱ少数派なのかな…」
雪の女王(昨晩アンデルセンが言っていた、チャールズの弱点の件。どうやら二人も童話には教訓が必要と考えているようだな)
雪の女王「私には問題がないように思える。教訓というのはそんなに必要なものか?」
ヤーコプ「教訓とは童話とは切り離せないものだ。素人は黙っていろ」
雪の女王「何だと…?」キキッ
ヴィルヘルム「言い過ぎだよ兄さん、彼女はチャールズ君を心配して言っているのにそんな言い方は良くない」
ヤーコプ「何が言い過ぎなものか、子供の為の物語に娯楽は必要無い。それが世間の総意であり、童話が童話である理由だ。それだけはアナスンであろうと何者であろうとねじ曲げることはできない」
ヤーコプ「だが、チャールズの作品には教訓が無い。故にこの物語がいかに優れていようとも…これは童話として認められることは決してない。条件を満たすことが出来ていないのだからな」
雪の女王「……っ」
雪の女王(アンデルセンが言っていたのはこの事だったのか…教訓がない物語は、世間から童話として認められない。認められないという事は…チャールズは評価されないという事だ、童話作家として)
ヤーコプ「これで理解できただろう。俺がお前の作品を認めないと言った理由が」

918 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/10(月)00:34:18 ID:A18
チャールズ「うーん……でもまぁ、いいんじゃないですかね?教訓なくても」
ヤーコプ「お前は何を言っている、俺の話を聞いていなかったのか?」
ヤーコプ「ただでさえ文学として完全には認められていない童話という作品、その絶対条件とも言える教訓を取り去っては…それはもはや童話ではない」
チャールズ「でもそれは童話じゃないっていうんじゃなくて、世間から童話として認められないってだけの話ですよね?」
ヤーコプ「同じ事だ。認められなければお前の作品が世に出たところでそれは受け入れられない。プロを目指す以上は受け入れられ評価される作品を生むことが第一だ」
チャールズ「ヴィルヘルム先生とヤーコプ先生は何で童話集創ったんですか?」
ヤーコプ「その話が今、関係あるのか?」
ヴィルヘルム「いいじゃないか兄さん、答えて困ることはないんだ。まぁちょっと複雑な理由だけどね」
ヴィルヘルム「僕は各地で細々と語り継がれている物語を世界に…後世に伝えたいと思ったんだ。まぁ他にも理由はあるけれど、基本的にはそれが理由だよ」
ヤーコプ「民間伝承とはその土地の歴史の断片、過去の記憶の欠片。俺は学者としてそれに興味を持ち、保護すべきと考えた」
ヴィルヘルム「僕と兄さんの思惑には違いがあったけれど、童話集としてまとめる事はお互いの目的を叶えることに繋がると考えた」
ヤーコプ「故に俺とヴィルヘルムは各地を周り、物語を集めた。というのがグリム童話成立の始まりだ」

919 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/10(月)00:36:25 ID:A18
チャールズ「なるほど…!本人の口からこう言うこと聞けるの感激だなー!」
ヤーコプ「お前…話を逸らすつもりか?」
チャールズ「いやいや、そうじゃないです!えーっと、アナスン先生はなんで童話を書き始めたんですか?」
アンデルセン「子供達に、読者に想いを伝えるためだ。…だがこれは何度も話したはずだが」
チャールズ「あははっ、確認ですよ!確認!」ヘラヘラ
ヤーコプ「お前は何がしたい?今更、俺達やアナスンが童話を書いた理由など聞いて何になる」
チャールズ「ヤーコプ先生、初対面の時俺に聞いたじゃないですか。なんで童話を書くのかって」
ヤーコプ「聞いたな、そしてお前は『幼女を笑顔にするため』と答えていたか…フン、ふざけた理由だ」
チャールズ「やっぱり、俺にとってはそれなんですよ、童話を書く理由って。ヤーコプ先生からしたらふざけた理由に見えるかもですけど」アハハ
チャールズ「俺はヤーコプ先生みたいに童話の保護とか、ヴィル先生みたく童話を広めるとか…ペロー先生みたいに童話を親しみやすくするとか、そういう立派な考え持ってないんですよ」
チャールズ「ましてやアナスン先生みたいに子供達に何か大切なことを伝えたい!なんて大それた事、できません。幼女に笑っていて欲しい、それだけです、でも…」
チャールズ「幼女を笑顔にしたいっていう事に関しては誰にも負けない強い思いがあるって言い切れます。やっぱ俺って生粋の健全なロリコンですからねー」アハハ


920 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/10(月)00:38:53 ID:A18
チャールズ「俺にとってはそれが全てなんですよ」
チャールズ「世間に評価されなくても悪く言われても食いつなげなくても、俺が書いた物語で幼女を笑顔にすることが出来たなら俺の勝ちです!」
チャールズ「それ以外はまぁ、割と二の次ですかね」アハハ
ヤーコプ「…例え生活に苦しもうと、後ろ指を指されようとその信念は曲げないつもりか?」
チャールズ「世間の目を気にして心にもない教訓入れても意味ないと思うし、それで幼女を楽しませるっていう目的失ったら意味ないですよー」
チャールズ「だから俺は今後も童話には教訓入れません!世間が俺を認めなくても幼女が笑えばそれでオッケーですよ」アハハ
アンデルセン「実に君らしい答えだな。実のところ、教訓がない物語という事が君が童話作家を目指す上での障害になるのではないかと思っていたが…杞憂だったな」
雪の女王「私としては心配して損をしたという気分だな。元々こいつは自分のことなど二の次、幼女を一番に考える変態だ」
チャールズ「ちょ、変態じゃないですってー!健全なロリコンですって!健全な!」
ヤーコプ「…フン、笑わせる。幼女を笑顔にできれば世間の評価などいらないだと?とんだ綺麗事だな」
ヴィルヘルム「兄さん、だから言い過ぎだって…いいとおもうよ僕は、彼はまだ若いし」
ヤーコプ「甘い、プロを目指す以上は世間の評価は必須。それを必要ないと言うのならばそいつはもう童話作家ではない、ただの素人だ」

921 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/10(月)00:43:23 ID:A18
ヤーコプ「俺はお前を作家とは認めん。これ以上の話は無駄だ、童話作家など諦めて別の職を探せ、幼女の為などという淡い幻想を抱いたまま作家の真似事を続けていろ。世間の評価を捨てた以上、行く末は見えて居るがな」
雪の女王「…貴様、大概にするんだな。こいつは変態だが私の後輩だ、それ以上の侮辱は後悔することになるぞ」ガタッ
アンデルセン「助手クン、やめるんだ。それ以上は私が許さない」
雪の女王「お前は弟子があそこまで言われているというのに聞き流すのか…?」
アンデルセン「そうじゃない。いいから座るんだ」
雪の女王「……」スッ
チャールズ「あはは…なんか俺のせいで雰囲気悪くなっちゃってすんませーん。ヤーコプ先生も、話聞いてくれてどーもでした」ペコ
ヤーコプ「……ヴィルヘルム、ペンと紙を寄越せ」
ヴィルヘルム「あぁ、はいはい…はい、これでいい?」スッ
ヤーコプ「十分だ。おい…チャールズ、このメモを取っておけ」サラサラサラ スッ
チャールズ「んっ?なんなんですか?このメモ…」
ヤーコプ「私の連絡先だ。先程言ったように俺は貴様を作家として認めん、認めんが…それで諦めるような奴では無さそうだ、お前は」
ヤーコプ「不相応に夢を追いかけて野垂れ死なれても迷惑だ。とはいえアナスンの弟子を見捨てるのも忍びないからな…助けが欲しければ訪ねてこい、職の手配くらいはしてやる」
チャールズ「おぉ…!わかりました!ありがとうございます!」

922 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/10(月)00:46:59 ID:A18
アンデルセン「フフッ、相変わらず素直じゃないな、ヤーコプさんは」ヒソヒソ
ヴィルヘルム「なんだかんだで期待してるんだろうね、彼に。若手にこんな風に連絡先なんか絶対渡さないからね、普段は」ヒソヒソ
雪の女王「アンデルセンは奴の真意を見抜いていたから私を止めたのか…。しかし面倒な男だ、素直にチャールズの力になればいいだろうに」ヒソヒソ
アンデルセン「彼のように少々キツい物言いをする人間も必要だ。特にチャールズのようなタイプにはね」ヒソヒソ
雪の女王「まぁ…確かにそうかも知れないな」ヒソヒソ
ヤーコプ「お前達、ヒソヒソと密談をするのはやめろ気分が悪い。言っておくがなチャールズ、くだらないことで私を訪ねてくるんじゃあないぞ、迷惑だからな」
チャールズ「あはは、わかってますってー!それにしてもヤーコプ先生も素直じゃないですよねー、一見気難しそうに見えて俺のこと気遣ってくれるんですもん!いやー、本当に素直じゃないんd…痛いっ!」ドゴォ
ヤーコプ「お前はまず目上の人間に対する作法を学べ」
チャールズ「なんでヤーコプ先生は学者なのにこんなに強いの…おかしい、おかしくない…?」ゲホゲホ
ヤーコプ「童話収集の際に必要だったから身に付けた体術だ。お前が私に舐めた言動を繰り返すのなら容赦なく繰り出す」
チャールズ「うぅ、気を付けます…」
ヤーコプ「フン、さて…長々と話し込んだせいか少々空腹だ。アナスン、何処か食事の出来る場所へ案内してくれ。出来れば堅苦しくない場所がいい」
アンデルセン「えぇ、わかりました。弟子に指導をしていただいた礼に、良い店にご案内しますよ」フフッ
・・・

923 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/10(月)01:07:26 ID:A18
今日はここまで 『作者』編 次回へ続きます
当時はまだ童話というジャンルが文学として確立されていませんでした
実際、有名どころ作者のペローは詩人の傍ら童話を、グリムは学者の傍ら編者をしていたくらいで童話ほぼ一本なのはアンデルセンくらいのようです
そのうえ、作中にもあるように童話=教訓というのが当たり前の時代でした
十数年後、童話には教訓があって当然という流れを断ち切り
一人の少女を笑顔にするため、教訓が無いという童話の新しい形を示すあの有名なおとぎ話がイギリスで生み出されるわけですが
それはまだ先のお話
(諸説あります)
次回
チャールズの弟子期間も終わりを迎えます
そんななか本来の居場所ではない場所に長居している女王にも身の振り方を決断するときが来たようです
過去編、そろそろ終わりです
続きは明日の更新予定!お楽しみに

925 :名無しさん@おーぷん :2016/10/10(月)09:49:29 ID:9av
乙!
強烈なツンデレ・・・なのか?w

926 :名無しさん@おーぷん :2016/10/10(月)10:38:05 ID:rOm
ヤーコプ先生は幼女も世間の一部だということを
忘れているように見えてならない…
っていうのは現代の感覚なのかな
ともあれ明日が楽しみ

928 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/11(火)00:32:05 ID:OJH
過去 現実世界
デンマーク アンデルセンが住む町 とある料理店
………
ヴィルヘルム「ほー、なかなか雰囲気のいい店じゃないか。店内は小綺麗だし、料理の味にも期待できそうだね」
ヤーコプ「俺は堅苦しいマナーに縛られず食事ができるのならば何よりだな、料理に味の良し悪しは求めん」
アンデルセン「その口ぶりだと、相変わらずお仕事の方忙しいようですね」クスクス
ヤーコプ「あぁ、毎日毎日接待だの会食だので落ち着いて飯を食う事ができない。仕事とはいえ正装して物を口に運ぶ作業はもううんざりでな」
ヴィルヘルム「兄さんは顔が広いし有名だからね。そういう場所にお呼びがかかるのは仕方ないよ。今やただの学者じゃないんだからそれくらいはね、それに言いたくないけどこの前だって…」
ヤーコプ「ヴィルヘルム、休暇中だ。仕事の話は控えろ」
ヴィルヘルム「もう、都合が悪くなるとこうなんだから…。でも折角みんなで食事だっていうのにチャールズ君来れなくて残念だね」
雪の女王「仕方ないさ、突然アルバイト先の奥さんが倒れたって言うんだから。手伝いに向かわないわけにはいかないだろう」
アンデルセン「とはいえ相当後ろ髪引かれていたな。グリム兄弟と食事をする機会など滅多に無い、その貴重な機械を失ったのだからね」クスクス
ヴィルヘルム「滞在中に絶対ご一緒させてくださいね!絶対ですよ!約束ですよ!幼女に誓ってくださいよ!?なんて言っていたね、食事なんかいつだってできるだろうに」ハハハ
ヤーコプ「フン、俺としてはやかましい若僧が不在だとゆったりと飯が食えて喜ばしい限りだがな」
ヤーコプ「しかし、あいつが言葉の端々に幼女幼女言うのはどうにかならないのか?いい加減にうっとうしく感じるのだが」
アンデルセン「それは無理ですね、誰も彼の幼女愛を止めることなどできませんよ。そうだろう助手クン」
雪の女王「あぁ、あいつの幼女好きを治すよりもひとつの戦争を収める方がずっと容易そうだ」クスクス

929 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/11(火)00:35:09 ID:OJH
ヴィルヘルム「それにしてもチャールズ君、面白い青年だったね。あの作品を読む限り才能もやる気もある、アナスンは良い弟子を持ったね」
アンデルセン「私には過ぎた弟子ですよ。他の大御所作家の弟子になった方が彼の成長のためには良かったのではないかと思うくらいでね」
雪の女王「そうは言うがあいつは童話作家を目指しているんだ、お前以上の適任はいないだろう」
アンデルセン「そうかも知れないが…どうも誰かにモノを教えるというのは苦手でな、今も手探り状態なんだ。こう見えて」
ヴィルヘルム「それでいいんじゃないかな?初めから完璧な師匠なんて居ない、弟子と一緒に成長すればいいのさ」
ヤーコプ「何にせよあの若造の師匠はお前にしか勤まらん」
ヤーコプ「師への敬意はあるようだが、あの様にお調子者で礼儀に欠けた変人、他の作家の下では数日で破門だ」
アンデルセン「ふふっ、そうかも知れませんね。でも私ですら着いていけない時がありますよ、課題の提出を求めると手作りパンを出してきたりしますから、彼」
ヴィルヘルム「へ、へぇ…才能があると言われる人は作家でも画家でも往々にして変人だけどね…ちょっと意味わからないね、それは」ドンビキ
ヤーコプ「フン、才能はあるというのに奇人で変質者とは惜しい若造だ」
アンデルセン「ともあれ、今日来れなかった彼の分も我々で楽しい食事にしよう。助手クン、二人にメニューを渡してくれるか」
雪の女王「あぁ、わかった。帰りが遅くなるかもしれないとチャールズは言っていたが、彼にも何か料理を持ち帰ってやろう」
アンデルセン「それがいい。彼もきっと喜ぶよ」

930 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/11(火)00:37:48 ID:OJH
しばらく後
………
ヴィルヘルム「うん、どの料理も美味しいね。店の雰囲気に負けてない、アナスン、いい店を知ってるじゃないか」カチャカチャ
ヤーコプ「確かに、悪くはない」ムシャリ
アンデルセン「私達は外食が多いからこの辺りの料理店は結構詳しいんだ、何か好みがあればそれに合った店を紹介しますよ」
ヤーコプ「外食が多い?それはおかしいな話だな、女の助手がいるんだからこいつに炊事を任せればいいだろう」
雪の女王「……」フイッ
ヤーコプ「あからさまに目をそらしたな。おい、まさかとは思うがお前、料理ができないのではないだろうな?」
雪の女王「見くびらないで貰おうか、出来るに決まっている。…やらないだけだ」
ヤーコプ「……ククッ」
雪の女王「何故笑った。答えろ、ヤーコプ」キッ
ヤーコプ「答えてもいいのか?お前のプライドを傷付ける事になるぞ?」クックック
雪の女王「いいだろう、覚悟ができているというのならばこの地を吹雪舞う真冬にしてy」
アンデルセン「ヤーコプさん、私は彼女の内面と教養に惚れたから助手にしたんです。炊事ができるできないは問題じゃない。だから君も気にしなくていい、怒りを納めてくれ」
雪の女王「…すまない。つい頭に来て我を忘れてしまった」
ヤーコプ「フン、単なる冗談のつもりだったのだがな。アナスンがそう言うのならば謝罪しておこう、悪かった」
ヴィルヘルム「もう、兄さんは本当に口が悪いんだからもう少しい考えて喋って欲しいよ。助手さん、兄が失礼な事を言って申し訳ない」ペコッ
雪の女王「構わない。ところで、ヴィルヘルム。ひとつ聞きたいことがあるのだが、構わないか?」
アンデルセン(さりげなく話をそらしたな…実は気にしているのか)
ヴィルヘルム「僕に?もちろん構わないけれど、なにを聞かれるのかドキドキするね」ハハハ

931 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/11(火)00:41:01 ID:OJH
雪の女王「お前は優しい人間で…その優しさからおとぎ話の内容を変える。そうアンデルセンから聞いたんだが、どういうことなんだ?」
ヴィルヘルム「アナスン、そんなこと話したのかい?」
アンデルセン「隠すようなことでもないと思って話したんですが、問題あったかな?」フフッ
ヴィルヘルム「いや、いいんだけど。えぇっと、助手さん。彼が言っている事は本当だよ、まぁ僕が優しい人間かどうかは知らないけれど」
ヴィルヘルム「僕は童話集の内容を少し改変してる。それは事実だよ」
雪の女王「何の為にそんなことを?童話集程の有名作品、改変なんかして下手すればその世界が消えてしまうというのに」
ヴィルヘルム「消えて…?それ、どういうことだい?」
雪の女王「知らないのならいい、忘れてくれ。それより聞かせてくれ、何故おとぎ話の改変なんかしているんだ?」
ヤーコプ「聞かない方がいい。実に馬鹿馬鹿しい理由だからな」
ヴィルヘルム「馬鹿馬鹿しいとはあんまりだよ兄さん、僕はこの改変に意味があると思っているし兄さんも認めたじゃないか」
ヤーコプ「確かに認めたが、それは改変が結果的に童話集の為になると思ったからだ。お前の考えに同調したからではない。そもそも…」
ヤーコプ「おとぎ話の登場人物が不憫だから物語を改変するなんて理由、誰が同調する?」

932 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/11(火)00:42:59 ID:OJH
雪の女王「おとぎ話の登場人物が不憫だから改変を?作者のお前がか?」
ヴィルヘルム「そうだよ、グリム童話集が世に出てから少しずつね」
雪の女王(確かに作者であるヴィルヘルムならそれは可能だ。だが、何の為に…?)
雪の女王「ヴィルヘルム…詳しく聞かせてくれないか?」
ヤーコプ「こんな事に興味があるのか?つくづく変わった奴だな」
ヴィルヘルム「いいじゃないか、別に。いいよ、話すよ。この事に興味を持ってくれたのは助手さんが初めてだ」
アンデルセン「女王、前もって言っておくが彼はおとぎ話の世界の存在について知らない」ボソッ
雪の女王「そうなのか?ならば尚更不思議だ、知らないのに何故…」
アンデルセン「聞けば分かるよ。ただ作者には彼のような人間もいるということ、君には知っていて欲しい」ヒソヒソ
ヴィルヘルム「えっと、話を続けても構わないかな?」
雪の女王「…わかった。ヴィルヘルム、続きをお願いするよ」
ヴィルヘルム「まず根本的な部分だけど…僕達はグリム童話集の作者だけど、その物語を一から作った訳じゃない」
ヴィルヘルム「そのほぼ全てが一般の人達の間に伝わっていた民間伝承の物語。グリム童話集はそれらをまとめたものなんだ」

933 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/10/11(火)00:45:42 ID:OJH
ヤーコプ「とはいえ、同じような民間伝承でも地域や話す人物によって細かな違いがあった。それらをひとつのおとぎ話として確立したという点では俺達は編者でありながら作者でもあると考えて差し支えはない」
ヴィルヘルム「さっきチャールズ君にグリム童話集の成立について話した時聞いていたと思うけど、兄さんの目的は童話の保護」
ヴィルヘルム「だから一番最初はなるべく手を加えないようにして世に出したんだ」
ヴィルヘルム「でも、僕は納得していなかったんだ。その童話集の内容に」
雪の女王「それは何故だい?」
ヴィルヘルム「元々、民間伝承の物語というのは刺激的で暴力的で、時に性的なものも多いんだ」
アンデルセン「昔は今よりも娯楽が少なかっただろうから、そういった要素が含まれた物語が好んで伝えられたのかもしれない」
ヤーコプ「暴力的な表現や性的表現を問題視することも昔はなかったのだろう。故に今の目線で見れば過剰な表現が目立つ」
ヴィルヘルム「それらの表現の中には童話集となって世界中の人の目に触れるようになった今、ふさわしくないものもあった。僕の改変、ひとつはそれを解決するためでもあった」
雪の女王「確かに子供たちが気軽に読める物語が暴力的過ぎたり性的なのは良くないな」
ヴィルヘルム「でも僕はそれよりもおとぎ話の登場人物たちが不憫だったんだ。子供たちには見せられないような残酷で酷い目にあうのは彼らなんだから」
雪の女王「だからこそ改変をした、という事か」
ヴィルヘルム「その通りだよ。例をあげるとキリがないけれどあえていくつか例を出すなら…助手さんは知っているかな?」
ヴィルヘルム「【ヘンゼルとグレーテル】というおとぎ話を」

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