キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」 『作者』編
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728 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:14:50 ID:agy
現実世界 デンマーク アンデルセンが住む街 パーティー会場前
アンデルセン「あぁ、夜の風が心地よいな。やはり人混みは私の性に合わない」フフッ
雪の女王「…アンデルセン。私はお前が【マッチ売りの少女】を生み出した理由を知るためにここにいるんだ」
アンデルセン「あぁ、知っているよ。私もそのために君を連れてきたんだ」
雪の女王「ならば答えて貰おうか。このくだらないパーティーに私を連れてきた理由はなんだ?」
アンデルセン「言っているじゃあないか、私が【マッチ売りの少女】を生み出した理由を君に教えるためだよ」
雪の女王「そうは言うが、私にはこの時間に意味があったようには思えない」
雪の女王「貴族が道楽でパーティーを開催し、富や名声のある連中が集まって体面や社交を気にして無為な時間を過ごしていただけだ。そんな場に…」
アンデルセン「【マッチ売りの少女】が生み出された理由があるとは思えない…と言いたいのかな、君は」
雪の女王「そうだな、あれはマッチ売りの悲惨な結末とはかけ離れた場だった」
アンデルセン「昨日、私がこう言ったのを覚えているかい?『このおとぎ話は限り無く現実に近い形に仕上げたい』と」
雪の女王「あぁ覚えている。しかしそれとこのパーティーに参加した事に何の関係がある?」
アンデルセン「マッチ売りが生きる世界は【マッチ売りの少女】の世界だがそれはこの現実世界に限りなく似ている。そしてマッチ売りが住む街をこの街に例えるのなら…」
アンデルセン「さっきの会場にいた人々は、マッチ売りの街に住んでいた裕福な人々だ」
雪の女王「【マッチ売りの少女】の街の連中?あの会場にいた連中がか?」
729 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:16:21 ID:agy
アンデルセン「例えるならだ。思い出して欲しい、マッチ売りは貧しかったが何もあの街全体が貧困に苦しんでいたわけじゃない」
アンデルセン「マッチ売りが寒さに震えて売れないマッチを握りしめている時、あの街の人々の多くは暖かく明るい家の中で美味しい料理を食べていただろう」
雪の女王「そう考えると随分と無慈悲な連中だ。その金の一部を使ってマッチを買ってやれば彼女は救われるだろうに」
アンデルセン「気持ちは解るが彼等を責めるのは筋違いだ。彼等の多くは真っ当な仕事をしてそれ相応の生活を手に入れている、後ろ指を指されるようなことはしていないさ」
アンデルセン「だがいくら懐に余裕があっても街の連中はマッチを買わない、絶対に。私がそう書き記したからじゃなく、絶対にマッチを買わない理由がある。それが何だか解るかい?」
雪の女王「街の連中が…マッチを必要としていなかったから、か?」
アンデルセン「それもあるだろうね。他には?」
雪の女王「優しい心を持っていなかったからじゃあないか?例えマッチが必要なくても可哀想な少女を見かけたら手をさしのべるものだ」
アンデルセン「なるほど、どちらも正解と言えるだろうね。でも私の考えはこうだ」
アンデルセン「街の人々はマッチ売りに気付いていない。だからマッチを絶対に買わない」
雪の女王「気付いていない?裸足の少女が一人でマッチを売る姿なんか目立つ筈だ、気が付かないなんて有り得ないだろう。絶対に目に付く」
アンデルセン「私が言っているのは視覚的な意味ではないんだ」
雪の女王「なんだそれは。目に見えているのに気付いていない…という事か?なおさら理解できない…貴様は何が言いたい?」
アンデルセン「私が言いたいこと、私の考え。それを知るために君はここにいるんだろう?」
アンデルセン「ならば容易に聞かずに感じ取ることだ。私が生み出した君ならばきっと同じ考えにたどり着けるだろうからね」クスクス
730 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:18:07 ID:agy
アンデルセンの住む街 大通り
雪の女王「…いいだろう、私はそれを知るためにここにいるんだ。貴様の挑発めいた物言いは気に入らないがな」
アンデルセン「フフッ、それならばいつまでもここでおしゃべりをしていても仕方がない。先を急ごう」
雪の女王(もう日も暮れている、こんな時間に何処へ向かうというのだ?)
アンデルセン「さて、行き先だが…この街道を真っ直ぐ向こう側へ進んでいく。ただただ道なりに進んでいくだけだから迷うことはないだろう」スッ
アンデルセン「では私は先に向かう、君は少し後からついてくるといい。ある程度の距離をとりながらな、ただしはぐれると面倒だから私を見失わないように」
雪の女王「待て。同じ場所に向かうのだろう?はぐれると面倒だと解っていながら何故わざわざ別行動する必要があるのか?」
アンデルセン「おやおや、なんだかんだ言いながら見知らぬ街で独りきりなのは心細いのかい?だから私と共に行動したいと」クスクス
雪の女王「茶化すんじゃない。人通りの多いこの街道でそのような意味のない行動をとる必要は無いと言っているんだ」
アンデルセン「私がわざわざ無意味な行動に時間を費やす理由があるのかい?あるというのならその理由を聞かせて貰おう」
雪の女王「そういう訳ではない。だが一般的に考えて……」
アンデルセン「君は雪深い氷の世界で長らく独りで生活してきた、誰とも関わらずにね。だからこそ自分の考えを常に正しく思い、自分の行動に迷いなど無かっただろう」
アンデルセン「誰も反対意見を出す者が居ないし、自分と比較する相手が居たわけでも無いからね。だが女王、同じ場所に立っていてはそこからは同じ風景しか見えない」
アンデルセン「実際の風景は自分の目に映っているものだけじゃあない、見方を変えなければ見えないものがたくさんある。その事に気がつけなければ…」
アンデルセン「君も、君が無慈悲と称したマッチ売りの街の連中と同じだよ」スタスタ
731 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:19:24 ID:agy
スタスタ スタスタ
雪の女王「……」ギロリ
雪の女王(結局あの男は私の少し前を歩いていく。そしてそれを見失わないように距離を置いて私は後を追う)
雪の女王(あの男の挑発じみた口調は頭に来る、おそらくはそれが無自覚だということもそれに拍車をかけた)
雪の女王「私が…マッチ売りに手をさしのべなかった薄情な街の連中と同じ?ふざけるのも大概にしろ、そんな訳がないだろう」ブツブツ
雪の女王(私が【マッチ売りの少女】の結末に納得がいかないのは彼女を思ってのことだ、可哀想な少女が可哀想なまま死ぬ結末など…何よりも残酷だ)
雪の女王(だがあの男にはそうしてでも誰かに伝えたい何かがあったわけで…そして奴はそれを私に伝えるためにどこかへ向かっている)
雪の女王(少しの距離を置いて歩くという一見無意味な行動をして、だ)
雪の女王「…見方を変えなければ見えないものがあると奴は言った。おそらく…一緒にいては見えないものを後ろから見ていろという事だろうが…」
アンデルセン「……」スタスタ
雪の女王「有名な童話作家だか何だか知らないが…ただの男にしか見えない。あんな奴の背中を見て何が解ると言うんだ」
雪の女王(…いや、奴は腹の立つ男だが無意味なことをさせたりはしないだろう。今は文句を言うよりも奴が何を言おうとしているのか汲み取ることの方が大切だ)
雪の女王(奴が言うように、見方を変えれば今まで気づけなかったことが見えるかも知れない。今はそれを信じる事にしようか)スタスタ
732 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:21:36 ID:agy
スタスタ スタスタ
アンデルセン「……」スタスタ
雪の女王「とはいえ、何も変わった事など…。んっ…?誰かが奴に近づいて来る、カゴ一杯の花束…あの風貌は花売りか?」
花売りの少女「ごきげんよう、素敵なお洋服のおじさま。綺麗なお花はいかがですか?」ニコッ
アンデルセン「花か、そういえば久しく飾っていないな。ひとつ貰おうか、お嬢さんいくらだい?」スッ
花売りの少女「ありがとうございます!こっちの花は銅貨一枚、花束だと銅貨五枚です」ニコッ
アンデルセン「そうか、どれも美しくて目移りしてしまうな…どうしたものか」
花売りの少女「おじさま。もしよろしければこのカゴには無い特別なお花もお売りできますよ?お暇ならいかがですか?」ニコニコ
アンデルセン「…そうか、値段を聞いても構わないかな?」
花売りの少女「一晩で金貨30枚です」ニコッ
アンデルセン「そうだな…せっかくだけど時間が無い、この花束を金貨一枚で貰おう」スッ
花売りの少女「そうですか、ありがとうございます!でも花束はひとつ銅貨五枚ですよ?お釣りは無いんですが…」
アンデルセン「いいんだ。君に洋服を誉められて気分がいいから、とっておきなさい」スッ
花売りの少女「ありがとうございます、素敵なおじさま。では、ごきげんよう」ニコッ
733 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:24:03 ID:agy
アンデルセン「……」スタスタ
雪の女王「アンデルセンの奴、花を買ってあげるなんて優しいところがあるじゃないか」フフッ
雪の女王「しかし…あいつ花束似合わなすぎるな…。……なんだ、あいつまた花売りに話しかけられてるじゃないか」
花売りの娘「素敵なお花をお持ちですねおじさま」ニコリ
アンデルセン「ありがとう。見たところ君も花売りのようだね」
花売りの娘「はい、よろしければおひとついかがですか?おじさまはとてもお花が似合いますからきっとより素敵に見えますよ」ニコニコ
アンデルセン「フフッ、君は随分と口がうまいな。いくらだい?」スッ
花売りの娘「花束はひとつで銅貨五枚です。一晩でしたら金貨35枚ですけどおじさまは優しそうな方なので金貨28枚でお売りしますよ」ニコッ
アンデルセン「折角だが気持ちだけ受け取っておこう。金貨一枚で花束をひとつ貰えるかい?」
花売りの娘「はいっ、ありがとうございます」ニコッ
雪の女王「来るときは気が付かなかったが…この辺りには随分と物売りや物乞いが多いな。しかし何故私のところには花売りが来ないんだ?アンデルセンは既に二人に声をかけられているのに」
雪の女王「勝ち負けでは無いが…なんだか妙に悔しいな。これでは私が声をかけづらい女のようじゃないか。花なんていくらでも買ってやるのに」ギリッ
花売りの女の子「あの…お姉さん、今の本当ですか?お花、買ってくれますか?」トテトテ
雪の女王「んっ…聞かれてしまったか、恥ずかしいな。だがいいだろう、君も花売りなんだろう?一つと言わず残っている花束すべて買ってやろう、いくらだ?」スッ
734 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:25:19 ID:agy
花売りの女の子「ぜ、全部ですか?本当にですか?でも、それだと……」キョトン
雪の女王「あぁ、カゴごと全部貰おう。いくらだ?」
花売りの女の子「全部だとえっと…銀貨20枚です。あの、でも……」
雪の女王「そうか、ではこれで」スッ
花売りの女の子「あ、あの…とても嬉しいんですけど全部買っていただくとあの、その……」ペコペコ
雪の女王「なんだ?売れ残りが出るよりも売り切った方がいいだろう?」
花売りの女の子「そうなんですけど、でもそれじゃ…花売りが出来なくなっちゃうので…」オドオド
雪の女王「……?」
ザッ
アンデルセン「まったく君は何をやっているんだ、彼女の仕事の邪魔をして…営業妨害かい?」
雪の女王「邪魔とは随分だな、私はただこの子から花束を全て買おうとしただけだ。貴様にそんな言い方をされるいわれは無い」
アンデルセン「私の連れ合いが申し訳ないことをしたねお嬢さん。お詫びに花束を一つだけ頂こう、金貨二枚でいいかな?」スッ
花売りの女の子「えっ、あっ、ありがとうございます。じゃあこれ…どうぞ」スッ
アンデルセン「ありがとう、確かに。さぁ行こうか女王、これ以上彼女の邪魔をしては悪いからね」スッ
雪の女王「何が邪魔だと言うんだ?この少女もマッチ売りのように花が売れなければ親に叱られるかも知れない、それならば全て花を買ってやった方がいいだろう」
アンデルセン「…思った以上に君は純粋なんだな。とにかく行こう、私達が騒いで目立っては彼女も仕事をしづらくなるだろうからね」
735 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:27:45 ID:agy
スタスタ スタスタ
雪の女王「流石にこれは説明して貰うぞアンデルセン!納得がいかない」ギロリ
アンデルセン「説明はする、だからそう憤らないでくれ女王。なんならさっき買った花束は君に贈るよ、ほらこれで怒り心頭の君もとりあえず外見だけは美しくて穏やかな女性に見えるぞ」ハハハ
雪の女王「貴様は本当に私を落ち着かせるつもりがあるのか?それとも馬鹿にしているのか?」ギロリ
アンデルセン「馬鹿にしたつもりはないんだが…気に障ったのならば謝るよ」
雪の女王「いいか?彼女は花束を売っていた、私はそれを全て買おうとしただけだ。花が全て売れればそれに越したことはない、これのどこが問題なんだ?」
アンデルセン「彼女達は花売りに扮しているだけだ、自分の本来の仕事を隠すために花売りの姿をしているだけ。だから花を全て買われると困ってしまうわけだな、変装道具を奪われるようなものだからな」
雪の女王「そういうことならば…私の好意が仇となった理屈は解る。しかし何故自分の仕事を隠す必要がある?」
アンデルセン「彼女達は自分自身の身体を売って生活しているからだ」
アンデルセン「彼女達の中には未成年の少女も少なくない。目立った売春行為はトラブルを招きかねないだろう、だから花売りとして客に近づく…表向きの職業が花売りならばいざというとき言い訳も利く」
雪の女王「笑えないジョークだな。貴様の書くおとぎ話にそんな下品な冗談は無かったと思うが?」キッ
アンデルセン「冗談ではないさ。実際、女性の君に声をかけた花売りが他にいたかい?」
雪の女王「いいや、居なかった。しかし…」
アンデルセン「そりゃあ居る訳はないだろう、少女を買う女性なんかいないからね。もし彼女達が本物の花売りならば君にも声をかけるはずだろう。違うか?」
雪の女王「待て、話の筋は通っているが…あまりに馬鹿げている!花売りの中には年端もいかない娘だって紛れていた、彼女達が身を売っているなど…そんなおかしな話があるか!」グイッ
アンデルセン「おかしな話でも何でもない。彼女達はほとんどが貧民街の出身、親もなく金もなく読み書き計算がろくに出来ない者も多いだろう」
アンデルセン「それでも男ならば肉体労働の仕事に就けるが…彼女達はそうもいかない。生きていくには金が必要だが…働き口がない」
アンデルセン「ただでさえ女性の働き口は少ないと言うのに学がなければまともな仕事に就くのは難しい。となるともう身体を売って金を得るしかない」
アンデルセン「信じたくないという君の気持ちは分かるが…これが現実だ」
736 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:30:35 ID:agy
アンデルセン「彼女達のような貧しい子供たちは生きるために手段を選んでいられない。食事を得るためには身を売ろうと心を売ろうと金を手にしなければならない」
雪の女王「それなら誰かが手をさしのべればいい……お前は相当高名な童話作家だ。収入だって十分あるだろう」
アンデルセン「だから私に彼女たちを養えと?」
雪の女王「そこまでは言わない、だが少なくともお前になら彼女達が身を売らなくても生活できるようにするだけの資産がある…そうだろう」
アンデルセン「私財をなげうつのは構わない、私は独り身だからな。だがそれで何人の子供たちが救える?あいにくだが貧困に苦しむ子供たちを全て助けられるほどの資産は持っていない」
雪の女王「だが何もやらないよりもずっと良い。少なくとも救われる子供はいるわけだからな…なんだったら私の宮殿の資産も使ってくれ、それならば…」
アンデルセン「私と君が全ての財産を寄付したとしてもそれは一時的な救済にしかならない。根本的な解決策にはならない」
雪の女王「だから何もしないというのか?根本的な解決が出来ないからといって見捨てるのか?」
アンデルセン「そうは言っていない。だがこれは…貧困層の子供たちを取り巻く問題は思いつきの寄付で解決できるような根の浅い問題じゃない」
アンデルセン「同じような苦しみを持っている子供たちはこの街の外…いやデンマーク国外の様々な国々に存在する。そのすべての子供たちを救うなど今の私達には不可能だ」
雪の女王「……」
アンデルセン「今の我々に出来ることはせめて、せめて彼女達から花を買い…わずかばかりの金銭を渡すことくらいだ」
737 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:32:22 ID:agy
雪の女王「…馬鹿げている」
アンデルセン「そうだな、私もそう思う。だが…彼等彼女らを取り巻く問題は何もこれだけじゃない」
雪の女王「まだ何かあるっていうのか?」
アンデルセン「もう暗いというのに道の端に子供が多いと思わないか?」
雪の女王「確かに言われてみればそうだが…まさか彼等には帰る家もないというのか?」
アンデルセン「ほとんどがそうだ、スラム街に住む場所があるのならまだ良いが…そうでない子供も多い。この大通りは飲食店や商店も多いから路地裏よりいくらか暖かいし雨をしのげる場所もある」
アンデルセン「だがそれはあくまで最低限だ、野外で寝泊まりして体調を崩すこともあるだろうが当然医者にかかる金など無いわけだ。だがそれを覚悟で路上生活をしなければ他にいくところ等無い」
アンデルセン「無理がたたって病死する子供だって少なくない」
雪の女王「……お前がおとぎ話を通して言いたい事、少しは理解できたかも知れない」
アンデルセン「そうかい、それはなによりだ…ならば最後にそこの路地を曲がろう。より現実を見ることができる」
雪の女王「そこの路地…先が見えないほど真っ暗じゃないか、街灯が赤々と灯るこの大通りと違って薄暗いが…」
アンデルセン「言っただろう、見方を変えなければ他の景色は見えない。ただ…十分に警戒をして進むことを勧めるよ」
アンデルセン「身に危険が及びかねない場所に女性を連れ行くのは忍びないが…現実を見据えるためにはこれも必要だ」
738 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:35:33 ID:agy
アンデルセンが住む街 町外れの路地
スタスタ スタスタ
アンデルセン「……」
雪の女王「……おい、アンデルセン。平気なのか?」
アンデルセン「何がだい?」
雪の女王「暗くてよく見えないが明らかに誰かに見られている。いや監視されているといってもおかしくない」
アンデルセン「まぁそうだろうね。私達はパーティー帰りでそれなりに身なりだ。平気かどうかで言えば…平気ではないな」
雪の女王「……予想はしていたが、きっと想像通りなんだろう」
アンデルセン「あぁ、きっと君の予想は正しい。だからこそ決して隙を見せないことだ。そうでなければ……持って行かれるぞ、何もかも」
ガタッ ビュバッ
賊の少年1「…外したか。気をつけろ、この女良い身なりをしている割には素早いぞ」
雪の女王「やはり予想通り…こんな薄暗い小道に入り込めばこうなるのは当然か。貴様は相当無茶をする…」スッ
アンデルセン「あまり悠長にしている場合では無さそうだな、想定よりも数が多い」スッ
賊の少年2「怯むな!相手は二人、数ではこっちが圧倒的有利だ!」
賊の少年3「男の方はそこそこのコートを着込んでいるし女の方は見たこともない生地の洋服だ。剥ぎ取って売ればいくらかは凌げる」
雪の女王「こんな少年たちが追い剥ぎに身を落とすか…嘆かわしく悔しいが、今はそんなことを行っている場合でもないな」
アンデルセン「君のことだから実際に目にしてみないと信じきれないと思ってね。だがこれで信じざるをえないだろう、あとは彼らをいなして帰宅するのみだ」スッ
740 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:42:04 ID:agy
賊の少年1「逃がす隙を与えるな、取り囲め。逃げ道を塞げ」ヒュッ
チャキッ
雪に女王「錆び付いてはいるが…子供がナイフなんか握るものじゃないよ」スッ
賊の少年「だったらこいつでブン殴るってのなら構わないよなぁー!」ビュオンッ
パキパキパキ
雪の女王「私相手になら構わないよ。その程度の強度しかない角材なら…氷の盾で十分だ」パキキ
族の少年3「何もない場所から氷が…!何者だこいつ…!」
雪の女王「暗がりでこそ実力が出せるのは君たちだけじゃない。助けてあげたいところだが…理由があろうとも君たちの行為は悪だ、見過ごすことは出来ないな」スッ パキパキパキ
アンデルセン「女王、駄目だ。君の氷結に耐えられるほどの体力は彼等にはないかもしれない…あくまで魔法の類は無しだ」
賊の少年1「ごちゃごちゃとやかましい。一斉にかかれば避けられまい、攻め手を休めるな。生きるために容赦はするな」バッ
雪の女王「アンデルセン、悠長なことを言っているのはお前じゃないか。この力を使わなければ私など腕力もないただの女だ、避けるのが精一杯だぞ」スッ
739 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:39:17 ID:agy
賊の少年2「クソッ…まただ!さっさと殺しちまわないと騒ぎを嗅ぎつけて誰かきちまう」チャキッ
賊の少年3「女が手強いなら男の方からだ!見るからにほそっちょろい優男だ、俺たちが一斉にかかれば一瞬だ」ババッ
アンデルセン「その考えは的確だ、私は闘いの心得がないからね。だが私は作家だ、作家には作家なりの戦い方があるというものだ」スッ キュルキュル
ビュンッ ビチャッ
賊の少年2「うわっ!目の前が真っ暗に…何かぶちまけてくるぞ気をつけろ!」グアアア
賊の少年3「クソッ、得体の知れない液体で目潰ししてくるとは…これ以上は無理だ、引き上げよう」
賊の少年1「やむを得ない、引くぞ」スッ
スタタタタ
雪の女王「どうやら彼等は追い払えたようだな。しかし…インク瓶、こんなものを投げつけて応戦するとは呆れた作家根性だな」
アンデルセン「仕事柄必要な消耗品だからな、それに相手を倒すほどの力は私にないからな。そもそも倒す必要はない、追い払えればそれで上々だ。これに懲りればいいのだが…難しいか」
雪の女王「どちらにしろ無茶をする奴だ。賊に襲撃されると解っていながら人目に付かない路地に入り込むんだからな」
アンデルセン「言っただろう、こうしないと君が信じないと思った。本当は彼等にも僅かばかりでも援助をしたいが…悪事に手を染めて利益を得たんじゃあ彼等の身にならない」
雪の女王「味を占めて犯罪に手を染めることが常態化するのは良くないからな」
アンデルセン「さぁ、どちらにしろ…これで見て貰うものは全て見て貰った。予定より遅くなってしまったけれど、我が家に帰るとしよう」
アンデルセン「そしてそこで聞かせて貰おう、君が感じたこと。そして私の想いや考えを理解することが出来たかどうかを」
741 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:56:54 ID:agy
アンデルセンの自宅 キッチン
雪の女王「貴様が無茶をするせいで無駄に疲れてしまったな」ドサッ
アンデルセン「そう言わないでくれ、私が口で言ったところで君は容易には信じないだろう?っと、お茶より冷たい水の方がいいかい?」
雪の女王「頂こう。まぁ…それに関しては否定しないがな」
アンデルセン「それで、わかってくれたかな。私が何故マッチ売りを生み出したのかが」コトッ
雪の女王「あぁ、私が今日目にした身を売る少女も路上生活をする子供も追い剥ぎに身を落とす子供も…紛れもない現実。そして彼等は…マッチ売りと同じだ」
雪の女王「おとぎ話の中でマッチ売りは報われずに死んだ、それを私は残酷だと思ったが……少なくともマッチ売りは自分の身体を売ることは無かったし、酷い父親が居るといえ帰る家もあった、犯罪に手を染めることも無かった」
雪の女王「逆に行えば…そこまで身を削ることなく安らかに眠れたのは確かにある種の幸福かもしれない。私が出会った彼等は明日も明後日も辛い生活を強いられる、それならいっそのこと楽になった方が幸せだという考えも理解できなくはない」
アンデルセン「あぁ、彼らは死ぬことでしか幸福になれない」
雪の女王「そしてお前が見えていないと言ったのは…私をあの街の連中と同じにしたのは、その事が見えていなかったからだ」
雪の女王「自分は平和な人生を送っている、不足のない生活が送れている、だからそれに満足して現実を別の角度から見ようとしない」
雪の女王「だから気づけない。同じ街に住んでいても気づけない。同じ大通りにいながらも私やあのパーティー会場の人間はきっと目と鼻の先に貧困に苦しむ子供が居るとは思っていない」
雪の女王「少し角度を変えて見ようとすれば見えるのに、そうしないからあの辛い生活を強いられたら子供たちに気付いてあげられない」
雪の女王「貴様が…アンデルセンが読者に伝えたい言葉はおそらくこうだろう」
雪の女王「『君の隣にいるマッチ売りに気付いてくれ』」
アンデルセン「流石は雪の女王、君なら解ってくれると信じていたよ。…そう、君の言う通り。私の気持ちはまさにそれだよ」
アンデルセン「何処にでもマッチ売りのような子供はいる、お話の中の彼女が特別な訳じゃない。だからその存在に気づいてあげてほしくて…私はこの物語を執筆したんだ、すぐ隣にいるマッチ売りに気づいてほしくてね」
742 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)01:06:58 ID:agy
今日はここまで 『作者』編 次回へ続きます
アンデルセンがマッチ売りに込めた思いは俺の解釈が入ったもので真実とは異なるかも、このssではそーなのねって感じで思ってください
次回、真実にたどり着けた女王。アンデルセンはそのおとぎ話に込められた思いを静かに語っていく
お楽しみに!
746 :名無しさん@おーぷん :2016/09/01(木)13:29:16 ID:p49
乙!
わかってるつもりだったけど…、そうだよなあ…
747 :名無しさん@おーぷん :2016/09/02(金)00:17:24 ID:BK9
乙です!
まぁ、そうなるよなぁ…
うーん、ここからアンデルセンが何と語るのか
続き待ってます!!
748 :名無しさん@おーぷん :2016/09/03(土)20:50:16 ID:Pfh
乙です
アンデルセンのキャラ好きだな
現実世界 デンマーク アンデルセンが住む街 パーティー会場前
アンデルセン「あぁ、夜の風が心地よいな。やはり人混みは私の性に合わない」フフッ
雪の女王「…アンデルセン。私はお前が【マッチ売りの少女】を生み出した理由を知るためにここにいるんだ」
アンデルセン「あぁ、知っているよ。私もそのために君を連れてきたんだ」
雪の女王「ならば答えて貰おうか。このくだらないパーティーに私を連れてきた理由はなんだ?」
アンデルセン「言っているじゃあないか、私が【マッチ売りの少女】を生み出した理由を君に教えるためだよ」
雪の女王「そうは言うが、私にはこの時間に意味があったようには思えない」
雪の女王「貴族が道楽でパーティーを開催し、富や名声のある連中が集まって体面や社交を気にして無為な時間を過ごしていただけだ。そんな場に…」
アンデルセン「【マッチ売りの少女】が生み出された理由があるとは思えない…と言いたいのかな、君は」
雪の女王「そうだな、あれはマッチ売りの悲惨な結末とはかけ離れた場だった」
アンデルセン「昨日、私がこう言ったのを覚えているかい?『このおとぎ話は限り無く現実に近い形に仕上げたい』と」
雪の女王「あぁ覚えている。しかしそれとこのパーティーに参加した事に何の関係がある?」
アンデルセン「マッチ売りが生きる世界は【マッチ売りの少女】の世界だがそれはこの現実世界に限りなく似ている。そしてマッチ売りが住む街をこの街に例えるのなら…」
アンデルセン「さっきの会場にいた人々は、マッチ売りの街に住んでいた裕福な人々だ」
雪の女王「【マッチ売りの少女】の街の連中?あの会場にいた連中がか?」
729 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:16:21 ID:agy
アンデルセン「例えるならだ。思い出して欲しい、マッチ売りは貧しかったが何もあの街全体が貧困に苦しんでいたわけじゃない」
アンデルセン「マッチ売りが寒さに震えて売れないマッチを握りしめている時、あの街の人々の多くは暖かく明るい家の中で美味しい料理を食べていただろう」
雪の女王「そう考えると随分と無慈悲な連中だ。その金の一部を使ってマッチを買ってやれば彼女は救われるだろうに」
アンデルセン「気持ちは解るが彼等を責めるのは筋違いだ。彼等の多くは真っ当な仕事をしてそれ相応の生活を手に入れている、後ろ指を指されるようなことはしていないさ」
アンデルセン「だがいくら懐に余裕があっても街の連中はマッチを買わない、絶対に。私がそう書き記したからじゃなく、絶対にマッチを買わない理由がある。それが何だか解るかい?」
雪の女王「街の連中が…マッチを必要としていなかったから、か?」
アンデルセン「それもあるだろうね。他には?」
雪の女王「優しい心を持っていなかったからじゃあないか?例えマッチが必要なくても可哀想な少女を見かけたら手をさしのべるものだ」
アンデルセン「なるほど、どちらも正解と言えるだろうね。でも私の考えはこうだ」
アンデルセン「街の人々はマッチ売りに気付いていない。だからマッチを絶対に買わない」
雪の女王「気付いていない?裸足の少女が一人でマッチを売る姿なんか目立つ筈だ、気が付かないなんて有り得ないだろう。絶対に目に付く」
アンデルセン「私が言っているのは視覚的な意味ではないんだ」
雪の女王「なんだそれは。目に見えているのに気付いていない…という事か?なおさら理解できない…貴様は何が言いたい?」
アンデルセン「私が言いたいこと、私の考え。それを知るために君はここにいるんだろう?」
アンデルセン「ならば容易に聞かずに感じ取ることだ。私が生み出した君ならばきっと同じ考えにたどり着けるだろうからね」クスクス
730 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:18:07 ID:agy
アンデルセンの住む街 大通り
雪の女王「…いいだろう、私はそれを知るためにここにいるんだ。貴様の挑発めいた物言いは気に入らないがな」
アンデルセン「フフッ、それならばいつまでもここでおしゃべりをしていても仕方がない。先を急ごう」
雪の女王(もう日も暮れている、こんな時間に何処へ向かうというのだ?)
アンデルセン「さて、行き先だが…この街道を真っ直ぐ向こう側へ進んでいく。ただただ道なりに進んでいくだけだから迷うことはないだろう」スッ
アンデルセン「では私は先に向かう、君は少し後からついてくるといい。ある程度の距離をとりながらな、ただしはぐれると面倒だから私を見失わないように」
雪の女王「待て。同じ場所に向かうのだろう?はぐれると面倒だと解っていながら何故わざわざ別行動する必要があるのか?」
アンデルセン「おやおや、なんだかんだ言いながら見知らぬ街で独りきりなのは心細いのかい?だから私と共に行動したいと」クスクス
雪の女王「茶化すんじゃない。人通りの多いこの街道でそのような意味のない行動をとる必要は無いと言っているんだ」
アンデルセン「私がわざわざ無意味な行動に時間を費やす理由があるのかい?あるというのならその理由を聞かせて貰おう」
雪の女王「そういう訳ではない。だが一般的に考えて……」
アンデルセン「君は雪深い氷の世界で長らく独りで生活してきた、誰とも関わらずにね。だからこそ自分の考えを常に正しく思い、自分の行動に迷いなど無かっただろう」
アンデルセン「誰も反対意見を出す者が居ないし、自分と比較する相手が居たわけでも無いからね。だが女王、同じ場所に立っていてはそこからは同じ風景しか見えない」
アンデルセン「実際の風景は自分の目に映っているものだけじゃあない、見方を変えなければ見えないものがたくさんある。その事に気がつけなければ…」
アンデルセン「君も、君が無慈悲と称したマッチ売りの街の連中と同じだよ」スタスタ
731 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:19:24 ID:agy
スタスタ スタスタ
雪の女王「……」ギロリ
雪の女王(結局あの男は私の少し前を歩いていく。そしてそれを見失わないように距離を置いて私は後を追う)
雪の女王(あの男の挑発じみた口調は頭に来る、おそらくはそれが無自覚だということもそれに拍車をかけた)
雪の女王「私が…マッチ売りに手をさしのべなかった薄情な街の連中と同じ?ふざけるのも大概にしろ、そんな訳がないだろう」ブツブツ
雪の女王(私が【マッチ売りの少女】の結末に納得がいかないのは彼女を思ってのことだ、可哀想な少女が可哀想なまま死ぬ結末など…何よりも残酷だ)
雪の女王(だがあの男にはそうしてでも誰かに伝えたい何かがあったわけで…そして奴はそれを私に伝えるためにどこかへ向かっている)
雪の女王(少しの距離を置いて歩くという一見無意味な行動をして、だ)
雪の女王「…見方を変えなければ見えないものがあると奴は言った。おそらく…一緒にいては見えないものを後ろから見ていろという事だろうが…」
アンデルセン「……」スタスタ
雪の女王「有名な童話作家だか何だか知らないが…ただの男にしか見えない。あんな奴の背中を見て何が解ると言うんだ」
雪の女王(…いや、奴は腹の立つ男だが無意味なことをさせたりはしないだろう。今は文句を言うよりも奴が何を言おうとしているのか汲み取ることの方が大切だ)
雪の女王(奴が言うように、見方を変えれば今まで気づけなかったことが見えるかも知れない。今はそれを信じる事にしようか)スタスタ
732 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:21:36 ID:agy
スタスタ スタスタ
アンデルセン「……」スタスタ
雪の女王「とはいえ、何も変わった事など…。んっ…?誰かが奴に近づいて来る、カゴ一杯の花束…あの風貌は花売りか?」
花売りの少女「ごきげんよう、素敵なお洋服のおじさま。綺麗なお花はいかがですか?」ニコッ
アンデルセン「花か、そういえば久しく飾っていないな。ひとつ貰おうか、お嬢さんいくらだい?」スッ
花売りの少女「ありがとうございます!こっちの花は銅貨一枚、花束だと銅貨五枚です」ニコッ
アンデルセン「そうか、どれも美しくて目移りしてしまうな…どうしたものか」
花売りの少女「おじさま。もしよろしければこのカゴには無い特別なお花もお売りできますよ?お暇ならいかがですか?」ニコニコ
アンデルセン「…そうか、値段を聞いても構わないかな?」
花売りの少女「一晩で金貨30枚です」ニコッ
アンデルセン「そうだな…せっかくだけど時間が無い、この花束を金貨一枚で貰おう」スッ
花売りの少女「そうですか、ありがとうございます!でも花束はひとつ銅貨五枚ですよ?お釣りは無いんですが…」
アンデルセン「いいんだ。君に洋服を誉められて気分がいいから、とっておきなさい」スッ
花売りの少女「ありがとうございます、素敵なおじさま。では、ごきげんよう」ニコッ
アンデルセン「……」スタスタ
雪の女王「アンデルセンの奴、花を買ってあげるなんて優しいところがあるじゃないか」フフッ
雪の女王「しかし…あいつ花束似合わなすぎるな…。……なんだ、あいつまた花売りに話しかけられてるじゃないか」
花売りの娘「素敵なお花をお持ちですねおじさま」ニコリ
アンデルセン「ありがとう。見たところ君も花売りのようだね」
花売りの娘「はい、よろしければおひとついかがですか?おじさまはとてもお花が似合いますからきっとより素敵に見えますよ」ニコニコ
アンデルセン「フフッ、君は随分と口がうまいな。いくらだい?」スッ
花売りの娘「花束はひとつで銅貨五枚です。一晩でしたら金貨35枚ですけどおじさまは優しそうな方なので金貨28枚でお売りしますよ」ニコッ
アンデルセン「折角だが気持ちだけ受け取っておこう。金貨一枚で花束をひとつ貰えるかい?」
花売りの娘「はいっ、ありがとうございます」ニコッ
雪の女王「来るときは気が付かなかったが…この辺りには随分と物売りや物乞いが多いな。しかし何故私のところには花売りが来ないんだ?アンデルセンは既に二人に声をかけられているのに」
雪の女王「勝ち負けでは無いが…なんだか妙に悔しいな。これでは私が声をかけづらい女のようじゃないか。花なんていくらでも買ってやるのに」ギリッ
花売りの女の子「あの…お姉さん、今の本当ですか?お花、買ってくれますか?」トテトテ
雪の女王「んっ…聞かれてしまったか、恥ずかしいな。だがいいだろう、君も花売りなんだろう?一つと言わず残っている花束すべて買ってやろう、いくらだ?」スッ
734 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:25:19 ID:agy
花売りの女の子「ぜ、全部ですか?本当にですか?でも、それだと……」キョトン
雪の女王「あぁ、カゴごと全部貰おう。いくらだ?」
花売りの女の子「全部だとえっと…銀貨20枚です。あの、でも……」
雪の女王「そうか、ではこれで」スッ
花売りの女の子「あ、あの…とても嬉しいんですけど全部買っていただくとあの、その……」ペコペコ
雪の女王「なんだ?売れ残りが出るよりも売り切った方がいいだろう?」
花売りの女の子「そうなんですけど、でもそれじゃ…花売りが出来なくなっちゃうので…」オドオド
雪の女王「……?」
ザッ
アンデルセン「まったく君は何をやっているんだ、彼女の仕事の邪魔をして…営業妨害かい?」
雪の女王「邪魔とは随分だな、私はただこの子から花束を全て買おうとしただけだ。貴様にそんな言い方をされるいわれは無い」
アンデルセン「私の連れ合いが申し訳ないことをしたねお嬢さん。お詫びに花束を一つだけ頂こう、金貨二枚でいいかな?」スッ
花売りの女の子「えっ、あっ、ありがとうございます。じゃあこれ…どうぞ」スッ
アンデルセン「ありがとう、確かに。さぁ行こうか女王、これ以上彼女の邪魔をしては悪いからね」スッ
雪の女王「何が邪魔だと言うんだ?この少女もマッチ売りのように花が売れなければ親に叱られるかも知れない、それならば全て花を買ってやった方がいいだろう」
アンデルセン「…思った以上に君は純粋なんだな。とにかく行こう、私達が騒いで目立っては彼女も仕事をしづらくなるだろうからね」
735 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:27:45 ID:agy
スタスタ スタスタ
雪の女王「流石にこれは説明して貰うぞアンデルセン!納得がいかない」ギロリ
アンデルセン「説明はする、だからそう憤らないでくれ女王。なんならさっき買った花束は君に贈るよ、ほらこれで怒り心頭の君もとりあえず外見だけは美しくて穏やかな女性に見えるぞ」ハハハ
雪の女王「貴様は本当に私を落ち着かせるつもりがあるのか?それとも馬鹿にしているのか?」ギロリ
アンデルセン「馬鹿にしたつもりはないんだが…気に障ったのならば謝るよ」
雪の女王「いいか?彼女は花束を売っていた、私はそれを全て買おうとしただけだ。花が全て売れればそれに越したことはない、これのどこが問題なんだ?」
アンデルセン「彼女達は花売りに扮しているだけだ、自分の本来の仕事を隠すために花売りの姿をしているだけ。だから花を全て買われると困ってしまうわけだな、変装道具を奪われるようなものだからな」
雪の女王「そういうことならば…私の好意が仇となった理屈は解る。しかし何故自分の仕事を隠す必要がある?」
アンデルセン「彼女達は自分自身の身体を売って生活しているからだ」
アンデルセン「彼女達の中には未成年の少女も少なくない。目立った売春行為はトラブルを招きかねないだろう、だから花売りとして客に近づく…表向きの職業が花売りならばいざというとき言い訳も利く」
雪の女王「笑えないジョークだな。貴様の書くおとぎ話にそんな下品な冗談は無かったと思うが?」キッ
アンデルセン「冗談ではないさ。実際、女性の君に声をかけた花売りが他にいたかい?」
雪の女王「いいや、居なかった。しかし…」
アンデルセン「そりゃあ居る訳はないだろう、少女を買う女性なんかいないからね。もし彼女達が本物の花売りならば君にも声をかけるはずだろう。違うか?」
雪の女王「待て、話の筋は通っているが…あまりに馬鹿げている!花売りの中には年端もいかない娘だって紛れていた、彼女達が身を売っているなど…そんなおかしな話があるか!」グイッ
アンデルセン「おかしな話でも何でもない。彼女達はほとんどが貧民街の出身、親もなく金もなく読み書き計算がろくに出来ない者も多いだろう」
アンデルセン「それでも男ならば肉体労働の仕事に就けるが…彼女達はそうもいかない。生きていくには金が必要だが…働き口がない」
アンデルセン「ただでさえ女性の働き口は少ないと言うのに学がなければまともな仕事に就くのは難しい。となるともう身体を売って金を得るしかない」
アンデルセン「信じたくないという君の気持ちは分かるが…これが現実だ」
736 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:30:35 ID:agy
アンデルセン「彼女達のような貧しい子供たちは生きるために手段を選んでいられない。食事を得るためには身を売ろうと心を売ろうと金を手にしなければならない」
雪の女王「それなら誰かが手をさしのべればいい……お前は相当高名な童話作家だ。収入だって十分あるだろう」
アンデルセン「だから私に彼女たちを養えと?」
雪の女王「そこまでは言わない、だが少なくともお前になら彼女達が身を売らなくても生活できるようにするだけの資産がある…そうだろう」
アンデルセン「私財をなげうつのは構わない、私は独り身だからな。だがそれで何人の子供たちが救える?あいにくだが貧困に苦しむ子供たちを全て助けられるほどの資産は持っていない」
雪の女王「だが何もやらないよりもずっと良い。少なくとも救われる子供はいるわけだからな…なんだったら私の宮殿の資産も使ってくれ、それならば…」
アンデルセン「私と君が全ての財産を寄付したとしてもそれは一時的な救済にしかならない。根本的な解決策にはならない」
雪の女王「だから何もしないというのか?根本的な解決が出来ないからといって見捨てるのか?」
アンデルセン「そうは言っていない。だがこれは…貧困層の子供たちを取り巻く問題は思いつきの寄付で解決できるような根の浅い問題じゃない」
アンデルセン「同じような苦しみを持っている子供たちはこの街の外…いやデンマーク国外の様々な国々に存在する。そのすべての子供たちを救うなど今の私達には不可能だ」
雪の女王「……」
アンデルセン「今の我々に出来ることはせめて、せめて彼女達から花を買い…わずかばかりの金銭を渡すことくらいだ」
737 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:32:22 ID:agy
雪の女王「…馬鹿げている」
アンデルセン「そうだな、私もそう思う。だが…彼等彼女らを取り巻く問題は何もこれだけじゃない」
雪の女王「まだ何かあるっていうのか?」
アンデルセン「もう暗いというのに道の端に子供が多いと思わないか?」
雪の女王「確かに言われてみればそうだが…まさか彼等には帰る家もないというのか?」
アンデルセン「ほとんどがそうだ、スラム街に住む場所があるのならまだ良いが…そうでない子供も多い。この大通りは飲食店や商店も多いから路地裏よりいくらか暖かいし雨をしのげる場所もある」
アンデルセン「だがそれはあくまで最低限だ、野外で寝泊まりして体調を崩すこともあるだろうが当然医者にかかる金など無いわけだ。だがそれを覚悟で路上生活をしなければ他にいくところ等無い」
アンデルセン「無理がたたって病死する子供だって少なくない」
雪の女王「……お前がおとぎ話を通して言いたい事、少しは理解できたかも知れない」
アンデルセン「そうかい、それはなによりだ…ならば最後にそこの路地を曲がろう。より現実を見ることができる」
雪の女王「そこの路地…先が見えないほど真っ暗じゃないか、街灯が赤々と灯るこの大通りと違って薄暗いが…」
アンデルセン「言っただろう、見方を変えなければ他の景色は見えない。ただ…十分に警戒をして進むことを勧めるよ」
アンデルセン「身に危険が及びかねない場所に女性を連れ行くのは忍びないが…現実を見据えるためにはこれも必要だ」
738 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:35:33 ID:agy
アンデルセンが住む街 町外れの路地
スタスタ スタスタ
アンデルセン「……」
雪の女王「……おい、アンデルセン。平気なのか?」
アンデルセン「何がだい?」
雪の女王「暗くてよく見えないが明らかに誰かに見られている。いや監視されているといってもおかしくない」
アンデルセン「まぁそうだろうね。私達はパーティー帰りでそれなりに身なりだ。平気かどうかで言えば…平気ではないな」
雪の女王「……予想はしていたが、きっと想像通りなんだろう」
アンデルセン「あぁ、きっと君の予想は正しい。だからこそ決して隙を見せないことだ。そうでなければ……持って行かれるぞ、何もかも」
ガタッ ビュバッ
賊の少年1「…外したか。気をつけろ、この女良い身なりをしている割には素早いぞ」
雪の女王「やはり予想通り…こんな薄暗い小道に入り込めばこうなるのは当然か。貴様は相当無茶をする…」スッ
アンデルセン「あまり悠長にしている場合では無さそうだな、想定よりも数が多い」スッ
賊の少年2「怯むな!相手は二人、数ではこっちが圧倒的有利だ!」
賊の少年3「男の方はそこそこのコートを着込んでいるし女の方は見たこともない生地の洋服だ。剥ぎ取って売ればいくらかは凌げる」
雪の女王「こんな少年たちが追い剥ぎに身を落とすか…嘆かわしく悔しいが、今はそんなことを行っている場合でもないな」
アンデルセン「君のことだから実際に目にしてみないと信じきれないと思ってね。だがこれで信じざるをえないだろう、あとは彼らをいなして帰宅するのみだ」スッ
740 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:42:04 ID:agy
賊の少年1「逃がす隙を与えるな、取り囲め。逃げ道を塞げ」ヒュッ
チャキッ
雪に女王「錆び付いてはいるが…子供がナイフなんか握るものじゃないよ」スッ
賊の少年「だったらこいつでブン殴るってのなら構わないよなぁー!」ビュオンッ
パキパキパキ
雪の女王「私相手になら構わないよ。その程度の強度しかない角材なら…氷の盾で十分だ」パキキ
族の少年3「何もない場所から氷が…!何者だこいつ…!」
雪の女王「暗がりでこそ実力が出せるのは君たちだけじゃない。助けてあげたいところだが…理由があろうとも君たちの行為は悪だ、見過ごすことは出来ないな」スッ パキパキパキ
アンデルセン「女王、駄目だ。君の氷結に耐えられるほどの体力は彼等にはないかもしれない…あくまで魔法の類は無しだ」
賊の少年1「ごちゃごちゃとやかましい。一斉にかかれば避けられまい、攻め手を休めるな。生きるために容赦はするな」バッ
雪の女王「アンデルセン、悠長なことを言っているのはお前じゃないか。この力を使わなければ私など腕力もないただの女だ、避けるのが精一杯だぞ」スッ
739 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:39:17 ID:agy
賊の少年2「クソッ…まただ!さっさと殺しちまわないと騒ぎを嗅ぎつけて誰かきちまう」チャキッ
賊の少年3「女が手強いなら男の方からだ!見るからにほそっちょろい優男だ、俺たちが一斉にかかれば一瞬だ」ババッ
アンデルセン「その考えは的確だ、私は闘いの心得がないからね。だが私は作家だ、作家には作家なりの戦い方があるというものだ」スッ キュルキュル
ビュンッ ビチャッ
賊の少年2「うわっ!目の前が真っ暗に…何かぶちまけてくるぞ気をつけろ!」グアアア
賊の少年3「クソッ、得体の知れない液体で目潰ししてくるとは…これ以上は無理だ、引き上げよう」
賊の少年1「やむを得ない、引くぞ」スッ
スタタタタ
雪の女王「どうやら彼等は追い払えたようだな。しかし…インク瓶、こんなものを投げつけて応戦するとは呆れた作家根性だな」
アンデルセン「仕事柄必要な消耗品だからな、それに相手を倒すほどの力は私にないからな。そもそも倒す必要はない、追い払えればそれで上々だ。これに懲りればいいのだが…難しいか」
雪の女王「どちらにしろ無茶をする奴だ。賊に襲撃されると解っていながら人目に付かない路地に入り込むんだからな」
アンデルセン「言っただろう、こうしないと君が信じないと思った。本当は彼等にも僅かばかりでも援助をしたいが…悪事に手を染めて利益を得たんじゃあ彼等の身にならない」
雪の女王「味を占めて犯罪に手を染めることが常態化するのは良くないからな」
アンデルセン「さぁ、どちらにしろ…これで見て貰うものは全て見て貰った。予定より遅くなってしまったけれど、我が家に帰るとしよう」
アンデルセン「そしてそこで聞かせて貰おう、君が感じたこと。そして私の想いや考えを理解することが出来たかどうかを」
741 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)00:56:54 ID:agy
アンデルセンの自宅 キッチン
雪の女王「貴様が無茶をするせいで無駄に疲れてしまったな」ドサッ
アンデルセン「そう言わないでくれ、私が口で言ったところで君は容易には信じないだろう?っと、お茶より冷たい水の方がいいかい?」
雪の女王「頂こう。まぁ…それに関しては否定しないがな」
アンデルセン「それで、わかってくれたかな。私が何故マッチ売りを生み出したのかが」コトッ
雪の女王「あぁ、私が今日目にした身を売る少女も路上生活をする子供も追い剥ぎに身を落とす子供も…紛れもない現実。そして彼等は…マッチ売りと同じだ」
雪の女王「おとぎ話の中でマッチ売りは報われずに死んだ、それを私は残酷だと思ったが……少なくともマッチ売りは自分の身体を売ることは無かったし、酷い父親が居るといえ帰る家もあった、犯罪に手を染めることも無かった」
雪の女王「逆に行えば…そこまで身を削ることなく安らかに眠れたのは確かにある種の幸福かもしれない。私が出会った彼等は明日も明後日も辛い生活を強いられる、それならいっそのこと楽になった方が幸せだという考えも理解できなくはない」
アンデルセン「あぁ、彼らは死ぬことでしか幸福になれない」
雪の女王「そしてお前が見えていないと言ったのは…私をあの街の連中と同じにしたのは、その事が見えていなかったからだ」
雪の女王「自分は平和な人生を送っている、不足のない生活が送れている、だからそれに満足して現実を別の角度から見ようとしない」
雪の女王「だから気づけない。同じ街に住んでいても気づけない。同じ大通りにいながらも私やあのパーティー会場の人間はきっと目と鼻の先に貧困に苦しむ子供が居るとは思っていない」
雪の女王「少し角度を変えて見ようとすれば見えるのに、そうしないからあの辛い生活を強いられたら子供たちに気付いてあげられない」
雪の女王「貴様が…アンデルセンが読者に伝えたい言葉はおそらくこうだろう」
雪の女王「『君の隣にいるマッチ売りに気付いてくれ』」
アンデルセン「流石は雪の女王、君なら解ってくれると信じていたよ。…そう、君の言う通り。私の気持ちはまさにそれだよ」
アンデルセン「何処にでもマッチ売りのような子供はいる、お話の中の彼女が特別な訳じゃない。だからその存在に気づいてあげてほしくて…私はこの物語を執筆したんだ、すぐ隣にいるマッチ売りに気づいてほしくてね」
742 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/09/01(木)01:06:58 ID:agy
今日はここまで 『作者』編 次回へ続きます
アンデルセンがマッチ売りに込めた思いは俺の解釈が入ったもので真実とは異なるかも、このssではそーなのねって感じで思ってください
次回、真実にたどり着けた女王。アンデルセンはそのおとぎ話に込められた思いを静かに語っていく
お楽しみに!
746 :名無しさん@おーぷん :2016/09/01(木)13:29:16 ID:p49
乙!
わかってるつもりだったけど…、そうだよなあ…
747 :名無しさん@おーぷん :2016/09/02(金)00:17:24 ID:BK9
乙です!
まぁ、そうなるよなぁ…
うーん、ここからアンデルセンが何と語るのか
続き待ってます!!
748 :名無しさん@おーぷん :2016/09/03(土)20:50:16 ID:Pfh
乙です
アンデルセンのキャラ好きだな
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」 『作者』編
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