キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」 かぐや姫とオズの魔法使い編
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704 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:24:28 ID:tT7
かぐや「救って貰うつもりは無い…。今、あなたはそう言ったのですか?」
ネロ「うん、そう言ったよ。でもかぐやさんは僕とは違う考えなんだよね…きっと【フランダースの犬】の結末を、僕の運命を不憫に思ってくれたんだ。だからここに居る、そうだね?」
かぐや「えぇ、その通りです。私はある男からあなたの話を聞きました、あなたが辿る運命とその末路を」
ネロ「そっか…それで僕を運命から救うため、おとぎ話の結末から逃す為にこの世界に来てくれたって事なんだね」
かぐや「はい、私は今までに様々なおとぎ話の世界を旅してきました。【さるかに合戦】や【瓜子姫と天邪鬼】【千匹皮】…他にもいくつもの世界を飛び回りました」
かぐや「そして…弱き者、不幸な者を何度も見てきました。狡猾な悪党に騙された者、嫉妬を向けられ命を脅かされた弱者、権力を振るわれ望まぬ婚姻を結ばされた者…どんな世界でも例外なく、悪党と被害者は存在していました」
かぐや「私はそんな弱者を救い、悪党を葬る為に旅を続けてきました。そしてこの能力で大勢の人々を救い、そして悪党を滅してきたのです」
ネロ「能力…コゼツおじさんに使ったあの重力の力だね?」
かぐや「はい、私の能力はそれだけではありませんが…。ですが重力操作は私が持つ最も強力な能力です、増加すれば押し潰す事も減少させれば身軽にし浮かせる事もできる」
かぐや「こんなに優れた力を私以外の誰が持っているというのです?私は特別なのです、神に愛された特別な存在。だからこそ生まれながらにこの素晴らしい力を授けられました」
かぐや「そして私は、この能力を弱き者達の為に使うと決めたのです。不幸な者達を救う為に、正義を執行し世界を平和で包む為に…私はこの能力を行使するのです」
ネロ「……」
かぐや「あなたは救って貰うつもりは無いと言いましたが…もう一度よく考えてみてください。何故、身に降りかかる不幸に歯をくいしばって耐える必要があるのです?」
かぐや「私はネロを不幸な運命から救う為にこの世界に来たのです…そして私にはそれを叶える力がある。安心してすべて私に任せなさい、あなたに確かな幸せを約束しますから」
705 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:26:06 ID:tT7
ネロ「確かな幸せを約束する、か…。ははっ、そんな事言えちゃうなんてすごいね…かぐやさんは…」
かぐや「いえ、力を持つ者として当然の行いです。まず手始めにあなたを蔑ろにしてきた悪党コゼツというあの男を殺しましょうか?復讐の為に」
ネロ「かぐやさん、それさっきも言ってたけど…駄目だよ、そんな事は何にもならない」
かぐや「そうですか?しかしあなたがそう望むのなら悪党を殺すのは見送るとしましょう。となると別の方法であなたを幸せにしなければなりませんね」
かぐや「あなたがまたアロアと遊びたいというのなら私があの男と『交渉』して首を縦に振らせましょう。食べ物にもお金にも不自由させません、私が工面してあげます」
かぐや「ルーベンスの絵を見る為の見料も与えます、画家になりたいという夢を叶える為に別の世界の画家を探して弟子入りするというのもいいですね」
ネロ「うん…うん、どれもこれも素敵な提案だ」
かぐや「そうでしょう?清く正しく生きてきたあなたには幸せを掴む権利がある、さぁまずはどの夢から叶えますか?もちろん、全てでも構いませんよ」
ネロ「……。パトラッシュ、僕の側においで」スッ
パトラッシュ「わうんわうんっ!」ペロペロペロ
ネロ「よーしよし。よかったなパトラッシュ、アロアに食べ物を分けて貰って…ちゃんと感謝しながら食べなきゃね」ナデナデ
パトラッシュ「くぅんくぅん」ペロペロ
ネロ「ねぇ、かぐやさん…僕の為にいろいろしてくれるというのはうれしいんだけどさ…」
かぐや「…はい、どうかなさいましたか?」
ネロ「折角だけど、僕は…なにもいらない。僕は自分に与えられたありのままの運命を受け入れる事を選ぶよ」
706 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:28:51 ID:tT7
かぐや「理解に苦しみますね…正気なのですか?」
ネロ「うん、ごめんね。折角僕の為にわざわざ別の世界から来てくれたっていうのに」
かぐや「そんな事はどうでもいいのです、それよりもネロはわかっているのですか?あなたの場合、運命を受け入れるという事は命を失うということなのですよ?」
かぐや「あなたは優しい。お爺様やパトラッシュにはもちろん、見ず知らずの私にも声をかけてくれました。コゼツの言いつけを破ってここに来たアロアを心配し優しく諭しもしました」
かぐや「他人を思いやる事の出来る素敵な心をあなたは持っている。それは短い時間しか関わっていない私にでも解る事です」
ネロ「ははっ、僕はそんな大層な人間じゃないよ」
かぐや「…いいえ、謙遜の必要はありません。そして私は思うのです、真の幸せを掴む権利があるのはあなたのような善人だと」
かぐや「今、あなたの目の前には確かな幸せが迫っている…それなのに手を伸ばす事も無く見過ごそうとしている。何故あなたが元々与えられた悲惨な結末にこだわるのか、私にはわかりません」
ネロ「……」
かぐや「その理由…教えてはくれませんか?」
ネロ「失礼な言い方になっちゃうけど、かぐやさんには理解出来ないかもしれないよ?」
かぐや「構いません」
ネロ「わかった、話すよ。まず…この後、【フランダースの犬】で起きる事を聞いて貰おう…今から大体二週間後くらいかな、今月の半ばにアロアは誕生日を迎えるんだ」
ネロ「でもその日の夜、コゼツおじさんの風車小屋が何者かに燃やされる。怪我人は出ないけど…風車小屋が全て焼け果てるほどの大火事だ」
707 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:30:37 ID:tT7
ネロ「翌日になって、放火の犯人捜しが始まる。何しろ全ての風車が燃えたんだからその被害は甚大で…そしてコゼツおじさんは僕が放火の犯人に違いないと怒鳴りつけるんだ」
かぐや「根拠は何なのですか?あの男は悪党ですが、なんの根拠も無くあなたに放火の容疑を駆ける等出来ない筈」
ネロ「間の悪い事に僕は放火があったその夜、風車小屋の側の道を通ったんだ。アロアの元に向かう為にね」
かぐや「…アロアの誕生日のお祝いをする為に向かったのですね?会う事を禁じられているあなた達は昼間に会うのは難しい、故に夜遅く…人目を避けるように出歩いた」
ネロ「うん、その通りだよ。それが仇になっちゃったんだね、でも真実を言う事は出来ない…僕の容疑は晴れるかもしれないけれど、アロアが叱られてしまうから」
かぐや「…しかし、証拠があるわけではないのでしょう?いくら疑わしいとはいえ、村の者たちはコゼツの言葉をそのまま信じるというのですか?」
ネロ「村のみんなだって僕が犯人だなんて思わないと思うけど…でもコゼツおじさんが言っていた通り、あの人はこの村一番の富豪だ」
ネロ「余計な事を言わずに、従っていた方が波風が立たない。こんな小さな村ではそのほうが賢い生き方なんだ」
かぐや「…自分の身可愛さに悪党に従うなど、悪事の片棒を担いでいるに等しいです」ギリッ
ネロ「とにかく…村の人たちに相手にされなくなれば牛乳運びだって出来ない、それが原因で僕は仕事まで失うんだ。そしてクリスマスを数日後に控えたある日、お爺さんはこの世を去る…もう随分高齢だからね」
ネロ「クリスマスを前に仕事を失って収入も無い、お爺さんの葬儀でもう僅かなお金さえも手元に無い僕は家賃を払う事も出来ず、住む場所まで失う」
かぐや「…ネロ、もういいです。これ以上は聞くに堪えられません、あなたが不幸だという事はもう十分に…」
ネロ「…違うよ、僕は自分が不幸だってことを証明したいわけじゃないんだ。最後まで聞いて欲しい」
かぐや「……わかりました、続きをどうぞ話して下さい」
708 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:32:24 ID:tT7
ネロ「行くあても無い僕はコンクールの結果発表がその日だという事を思い出して、その結果に最後の望みを掛けるんだ」
ネロ「雪の降る中、僕はパトラッシュと二人でアントワープまで歩いていく…でも結果は落選だ。僕は仕方なく、村に戻る事にしたんだ」
ネロ「その途中でパトラッシュは道に落ちている袋を見つけるんだ。それはコゼツさんが落としたもので、中には大金が詰まっていた。先の火事で大損害を受けたコゼツさんにとってそれは失えば一家離散を免れないほどの額だった」
かぐや「それを、あなたはどうしたのですか?悪党の持ち物だとはいえ自分のモノにする様な事は…」
ネロ「もちろんしないよ。僕はお金をアロアのおばさんに渡した、そしてパトラッシュの事もお願いするんだ。どうか、僕の愛犬の事をよろしくお願いしますって」
パトラッシュ「くぅん…」スリスリ
ネロ「そんな顔をするなよパトラッシュ。未来の僕は、せめて君には生きて欲しいと思ってアロアの家に預けようとしたんだから」ナデナデ
かぐや「しかし、パトラッシュはあなたと共に息を…」
ネロ「うん。本格的に行くあての無くなった僕はアントワープにある大聖堂に向かっていた、ルーベンスの絵がある場所だね」
かぐや「あなたの後を追ってそこにパトラッシュも向かうわけですね?」
ネロ「うん。夜になると絵には布がかけられるんだけど…その日は係が忘れたのか布は掛けられていなくて、月灯りに照らされたその美しい絵を僕とパトラッシュは見る事が出来るんだ」
ネロ「ずっと見たいと思っていたその絵を最後に見る事が出来て、もう何も思い残すことなんか無い。僕とパトラッシュはそのまま…息を引き取る」
かぐや「絵を見るなんてそんな小さな夢をかなえたところで、死んでしまっては何の意味も……」
ネロ「そう言わないでよかぐやさん、僕にとってその絵を見る事は画家になるのと同じくらい大切な夢なんだ」
709 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:35:21 ID:tT7
ネロ「それにね、僕とパトラッシュは死んでしまうけれど…このおとぎ話には続きがあるんだ」
かぐや「続き…ですか?」
ネロ「どれだけ探しても落としたお金が見つからなくて、コゼツさんは絶望しながら家に戻るんだ。でもそこで、僕がお金を届けた事をおばさんに聞くんだ」
ネロ「僕がキチンとお金を届けた事にコゼツさんは感動して…そして反省してくれるんだ。ネロは正直者だったのに信じてやる事が出来なかった、アロアとの仲を引き裂いて悪い事をしてしまった…ってね」
かぐや「…反省なんてしたところでもう遅いでしょう、コゼツが今までの行いを悔いる頃にはあなたはもう既に…」
ネロ「それだけじゃないんだ、コンクールで審査員を務めた一人の画家が…僕の絵を絶賛してくれるんだ。ルーベンスの後を継ぐ才能を持つ少年…だなんて言ってくれるんだ」エヘヘ
ネロ「その上、僕を引き取って弟子として育てたいと思ってくれるんだ。僕の作品は落選したけれど…でも、僕の才能を信じてくれる画家が居た…僕はそれがすごく嬉しい」
かぐや「……」
ネロ「かぐやさんは僕の運命が悲惨だと言ったけれど…僕はそうは思わないんだよ」
ネロ「お爺さんが亡くなる事は悲しいけれど、別れはいつか来るものだ。放火の濡れ衣を着せられた事だって僕が疑われるような場所に居た事が悪いし、アロアが叱られなかったならそれでいい」
ネロ「仕事を失った事も住む場所を失った事もコンクールに落選した事も、何一つ誰かが悪いわけじゃない。誰かを恨む事なんて間違っている」
ネロ「僕はどんなに貧しくてもコゼツさんの財布を盗むような悪事に手を出さなかったし、夢だったルーベンスの絵を見る事だって出来た。コゼツさんや画家の先生だって僕を認めてくれた」
ネロ「それに…僕は愛する家族のパトラッシュと一緒に天国へいけるんだ。最期まで清く正しく生きて、夢も叶って自分の事を認めて貰って…家族ともずっと一緒だ」
ネロ「僕にとってこんなに幸せな事は無いよ。だから僕は別の結末なんて望まない、元の結末のままで十分に幸せなんだ」
710 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:39:42 ID:tT7
かぐや「例え命を失ったとしても、辛い人生を送ったとしても…ネロは自分自身の結末に不満が無いというのですか?」
ネロ「うん。ルーベンスの絵の前で息を引き取れるだけでも幸せなのに…コゼツさんや画家の先生にまで認められて、むしろ幸せ者だよ」
ネロ「それに大好きなお前と離れ離れにならずに済むしね、パトラッシュ」ナデナデ
パトラッシュ「くぅんくぅん」スリスリ
かぐや「……」
かぐや「ネロの考えはわかりました。私とは随分考え方が違うようですが…」
ネロ「解ってくれたなら嬉しいよ。お願いするよかぐやさん、僕はこの物語の本当の結末を望んでる…だから妙な手出しをして、物語を改変したりしないで欲しいんだ」
かぐや「解りました、あなたがそれを望むというのなら…私は余計な手出しはしません」
ネロ「うん、ありがとうかぐやさん。もしかしたらかぐやさんは納得してくれないかもって思ってたから、嬉しいよ。僕の気持ちを理解してくれて」
かぐや「ですが…私がこの世界に居る事自体は問題ありませんね?折角ここまで来たのですから、どうかこのおとぎ話が結末を迎えるまではあなたの側に居させてください」
かぐや「クリスマスの夜にあなたが息を引き取るまで…異国の居候が側に居たとしても、物語に大きな影響は出ないでしょう?」
ネロ「うん、もちろん。かぐやさんがそうした言って言うなら、僕は歓迎だよ。何もしてあげられないのが申し訳ないけど」
ネロ「さぁ、すっかり長話をしちゃったね。小屋の中に入ろう、暗くなるまでにしてしまわないといけない事もあるし、折角だからかぐやさんの話も色々と聞きたいしね。いいよね?」フフッ
かぐや「ええ、私が旅してきた世界の話ならば喜んでお聞かせしますよ。あぁ、私は少し風に当たってからいきますから、ネロは先にいっていて下さい」フフフ
ネロ「そう?うん、わかった。いこうパトラッシュ」スッ
スッ パタン
かぐや「……。あり得ません、死んで幸せになんてなれるわけがないでしょう。彼は解っていないだけ…本当の幸せを…解っていないだけなのです…」ボソッ
711 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:42:06 ID:tT7
その夜遅く
フランダースの犬の世界 ネロの住む小屋
・・・
爺さん「ぐぅぐぅ……」
ネロ「スゥスゥ……」
かぐや「……」ムクッ
かぐや(……何だか、眠る事が出来ないわね。月灯りでも眺めていれば、眠くなるかしら)スッ
かぐや「……ネロが考える『幸せ』の意味、理解しようと考えてはみましたが…やはり私には理解できません」
ネロ「スヤスヤ……」
かぐや「なんて可愛らしい寝顔なのでしょう。この心優しい少年が命を落とす必要などありましょうか…」
かぐや(けれど、この子は自分の死を受け入れると言った…。あぁ…ネロは本当に可哀そうな少年。彼は本当の幸せがどういうものなのか知らないのね)
かぐや(知らないから、自分に与えられた結末に満足してしまう。あんな悲惨で救いの無い結末を曲解して、自分が幸せだと思いこもうとしているのね)
かぐや(ルーベンスの絵を見れたからなんだというの?そんなものはただの絵画…見たところで何が変わるわけでもない)
かぐや(コゼツや画家が認めてくれたとは言うけれど、そのころにはもうネロは死んでしまっているのにそんな事に何の意味があるというの?)
かぐや(大好きなパトラッシュと一緒に息を引き取れたから幸せ?馬鹿馬鹿しい…死ぬ事は不幸な事なのです、それが幸せに繋がることなど決してない。生きてこそ幸せは得られるもの)
かぐや(あぁ、可哀そうなネロ…。でも安心なさい、私があなたを絶対に幸せにしてみせる。あなたが口にしていたのは全て偽物の幸せ…そんな者比べモノにならないほどの幸福を与えてあげるわ)
かぐや「何も心配はいらないのですよネロ。私が本当の幸せというものをあなたに教えてあげます。私に任せていれば、何の心配も無いのです」
712 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:45:36 ID:tT7
現在
かぐや姫の世界 悟空達の住む小屋
かぐや「私は自惚れていた…。幸せというのは全ての人間に共通しているものだと思い込んでいたのです」
かぐや「辛い生活からの解放、食卓いっぱいの美味しい食べ物、使いきれないほどの大金…豊かな暮らしが送れて、心配事がなければ幸せだと思いこんでいた」
かぐや「だから…ネロが見出していたささやかな幸せなんか、ニセモノでしかないと考えていたの。その頃の私は…自分の考えこそが正しい、自分の考えが間違っている事なんて想像すらしなかった」
かぐや「強力な重力操作能力…そのおかげで私は何だって思い通りにしてきた、だから自分が神様のように絶対的な存在だと信じて疑わなかった」
孫悟空「まぁ、何が幸せでそうじゃないかなんざ、そいつ次第だからな…むずかしい問題ではあるが」
玉龍「でもぶっちゃけ、ウチもネロの考えは理解できないッスね!絶対に生きていた方が何かしら良い事あるッス、それなのに諦めるのは駄目ッス!」
ドロシー「生きててこそ楽しい事も辛い事もあるんですもんね…やっぱり死んじゃったら幸せも何もないと、私も思います…」
ティンカーベル「うーん、私はネロ派かなー。そりゃ死なないで済むならその方が良いけど、例え死んじゃったとしても強い想いは消えないわけだしー」
キモオタ「ですなwwwマッチ売り殿もそうでござった、少し状況は違うでござるが自分の死を受け入れていたでござる」
キモオタ「ネロ殿と違ってあの子の場合は自分ではなく…他人の幸せを願って死を受け入れたでござるけど」
かぐや「ネロもマッチ売りちゃんも自分の境遇に負けることなく、正しいと思った事をしていて…とても立派ね」
ティンカーベル「ねぇねぇ、それで…かぐやはどうしたの?ネロは元々の結末に満足してるって言ってたけど、かぐやは納得してないんだよね?」
かぐや「そうねその時のあたしの頭の中にあるのは…どうやってネロを幸せにするか。ただそれだけ…
714 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)01:01:38 ID:tT7
かぐや「そうこうしているうちに月日は流れていったわ」
かぐや「私はそのままネロとお爺様の小屋に居候していた、ネロには『折角だからあなたの結末に付き合いたい』と言っていたけれど、本当は違った」
かぐや「なんとかしてネロを幸せにしようとしていた。ううん、『私が考える幸せ』をネロに押し付けようとしていたのね」
キモオタ「正義感が空回りしていたのでござるなぁ…」
孫悟空「しかも強力な能力をもっちまってるからそれに気が付けねぇ…俺も似たようなもんだ」
玉龍「強すぎて敵がいなかったッスから天界までいって大暴れッスもんね。強力な力を持つって言うのも考えもんッスね」
かぐや「でも…私は少なくともこの頃は幸せだったわ。貧しかったけれど、ネロとお爺さんとパトラッシュと暮らして…この頃はまだ村の人たちも優しかったから」
かぐや「それにきっと…ネロも同じ気持ちでいてくれたんじゃないかしらね」
ティンカーベル「そうだねぇ…でもこの頃はって事は、じゃあこのあとは優しくなくなっちゃう…?」
ドロシー「コゼツさんの風車小屋が燃えてしまった後は…村の人たちはネロに厳しくなっちゃうんですね…?」
かぐや「そうね、その通りよ。そこから私は…ネロの運命を間近でみる事になって、その事に耐えられなくなってしまったの」
かぐや「そして…私は決断した。交わした二つの約束を両方とも破ってしまうことを」
715 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)01:04:29 ID:tT7
今日はここまでです
短めですが今日はおしまい、次回更新は日曜日更新予定です
かぐや姫とオズの魔法使い編 次回に続きます
716 :名無しさん@おーぷん :2016/02/06(土)01:10:57 ID:S8w
乙。やはりかぐやは止まらないのだな……
717 :名無しさん@おーぷん :2016/02/06(土)01:19:53 ID:46H
乙!
かぐやが何をやらかすかちょっと期待してしまう自分がいる
721 :名無しさん@おーぷん :2016/02/06(土)23:07:42 ID:jry
乙です!
旧かぐやに嫌な予感しかしない…。
続き待ってます!!
723 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/08(月)00:08:40 ID:Xjq
かぐやがこの世界に訪れて三週間ほど後
フランダースの犬の世界 ネロの家
ガチャッ
かぐや「只今戻りましたお爺様。お身体の具合はいかがでしょう?」スッ
爺さん「ゲホゲホ…。おぉ…かぐやさん、おかげさんで随分と調子がいいんじゃ…ゲホゲホッ、ゲホゲホ」
かぐや「とてもそうは見えませんが…それにまた食事を残していますね、召し上がらないと具合も良くなりませんよ」
爺さん「すまんのぉ、食欲が沸かんのじゃ…。折角、かぐやさんが貴重な食材を使ってワシの為に作ってくれたというのに…」ゲホゲホ
かぐや「それはお気になさらず。鳥獣の肉なら野山に入ればまた手に入ります、食欲がないのならせめて水分だけでもしっかりと摂ってください。どうぞ、お水です」スッ
爺さん「あぁ、ありがとう…。しかし、情けの無い事じゃ…この老いぼれはもはや何の役にも立たん。旅人のあんたにまで世話をして貰って…申し訳ない限りじゃ」
かぐや「何を言っているのですか、申し訳ないというのはこちらの方です。思ったようにお金を稼ぐ事が出来ず、あなたに薬ひとつ買う事が出来ないのですから」
爺さん「旅人のあんたがこんなところで無駄金使ってどうするんじゃ。こりゃあもう薬でなおるようなもんじゃない…もう歳なんじゃからそう長くはないじゃろう」ゲホゲホ
かぐや「そんな事を言うのはやめてください、あなたが亡くなってはネロが悲しみます。さぁ、起きていては身体に障りますから少し休んでいてください」
爺さん「そうじゃな…せめてネロのコンクールの結果が解るまでは生きておらんとな…」ゲホゲホ
かぐや「…ええ、そうです。彼の晴れ姿を見ずに逝ってしまうなど勿体無いですよ」
かぐや(……)
724 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/08(月)00:11:16 ID:Xjq
かぐや(私がこの世界に訪れて三週間ほどの月日が流れた)
かぐや(あの日から私はこの家に居候をしている。ネロは相変わらず牛乳配達をしていたけれどお爺さんはあの日の無理がたたったのかもう寝たきりの生活が続いていた)
かぐや(私はというと、この家に少しでも恩を返す為と野山に入っては鳥獣を捕えてそれを売り稼ぎにしている。しかし、真冬のこの時期に捕えられる獲物の数はそう多くない)
かぐや(稼ぎは思ったより増えず、相変わらずネロ達は貧しい生活をしていた。けれど、以前よりは食事を取る事が出来る回数は増えたようだったから、それは嬉しいと思う)
かぐや(それに、私が家事をするようになってネロは絵を描く時間を取れるようになった。彼は楽しそうに絵を描く、きっとその時だけは苦しさから解放されるのだろう)
かぐや(私もそんなネロを見ているのは楽しかったし、一時でも彼が幸福感を感じているのならば喜ばしい事だった)
かぐや「……けれど、そんなものはあくまで一時的なもの。私が彼に与えたいものはそんな小さなモノじゃない」
かぐや(貧しくても幸せだというネロの主張は少しだけ理解出来た。けれど…死ぬ事を幸せと結び付ける考えは未だに理解できないしするつもりもない)
かぐや(私は今、ネロたちと過ごす時間が幸せよ。彼が楽しげに絵を描く姿は、夢に向かって努力している姿は好き。けれど…結末が不幸じゃあ意味なんか無い)
かぐや「このままじゃ駄目ですね…。私がネロをうんとに幸せしないといけません、彼が幸福というものを理解していないのだから正義の使者たる私が彼を導かなければいけない…」
ガチャッ
パトラッシュ「わうんわうんっ」
ネロ「ただいま。あぁ、かぐやさん帰っていたんだね、お疲れ様」
かぐや「おかえりなさいネロ、パトラッシュ。今日は随分と早かったのですね…。やはりもう…牛乳運びの仕事はできそうにありませんか?」
ネロ「うん…無理そうだね。新しく街から来た業者は随分とサービスが良くて評判もいいみたいだし、どうしようもないよ」
725 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/08(月)00:13:36 ID:Xjq
かぐや(あの日ネロが教えてくれた通り、コゼツの風車小屋は全焼し…ネロはその罪を着せられた。ネロの強い意志もあって、私にはそれを防ぐ事が出来なかった)
かぐや「コゼツのやり口は非常に卑劣なものです。商売敵を呼び、ネロの仕事を奪うなど…人の所業とは思えません」
ネロ「仕方がないよ。この村じゃ僕はコゼツさんの風車小屋を燃やした犯罪者扱いだ、そんなところと取引なんかしてて良い事なんか無いから」
かぐや「いいえ、平然と悪に屈する事が私には許せないのです。あなたが無罪だと多くの村人たちは信じている、だというのに保身の為にあなたを見捨てた」
ネロ「そんな言い方はよくないよ。みんなだってそれぞれの生活があるんだし」
かぐや「いえ、真に心の強い者は悪党に屈したりはしません。村はずれの牧場の主人を見てみなさい、彼は強い人です…ネロの無罪を信じて今も牛乳の取引を続けているではないですか」
ネロ「あのおじさんは正義感が強いからね…でも今日言って来たよ、今までのお礼と…明日からは新しい業者に牛乳運びを依頼して欲しいって事をね」
かぐや「…何故ですか?仕事を失うのは貴方の運命かもしれませんが、そんな自ら投げ出すような真似をする必要は…」
ネロ「牧場の奥さんね、お腹に赤ちゃんがいるんだって。僕に同情したせいでおじさんまで仕事を失ったら大変だよ、そんな事になっちゃ嫌だしね」
かぐや「…私はあなたが仕事を失い、不幸になる事の方が嫌ですけどね。しかし職を失ったとしても、私ならばあなたを幸せに出来ますよ?今からでも遅くは…」
ネロ「もう、かぐやさんは何かというとその話ばっかりなんだから。その話は決着付いたでしょ?」
ネロ「僕はそのままの結末で十分幸せなんだ。むしろかぐやさんが来てくれたおかげで毎日が前よりも楽しいよ、絵を描く時間も増やして貰えたし…食事も前よりとれるようになった」
ネロ「こんな事言うのは照れ臭いけど…お姉さんが出来たみたいで僕は嬉しいんだ。だから不幸だなんて僕は微塵も思わない、むしろ幸せ者だよ」
ネロ「ちょっぴり強情だけど、こんなに綺麗で優しいお姉さんが出来たんだから」フフッ
726 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/08(月)00:16:12 ID:Xjq
かぐや「強情なのはお互い様ですね。この際だから言ってしまいますが…実は私も、ネロの事を弟のような存在だと思えていたのです」フフッ
ネロ「そうなの?ははは…お揃いだね。でもこういうのって面と向かって口にするとなんだか恥ずかしいね」
かぐや「そうでしょうか?恥ずべき事では無いのですから口にすべきです、今やあなたもお爺様もパトラッシュも私にとっては大切な家族なのですから」
かぐや(……だからこそ、私には納得がいかない)
かぐや(ネロと過ごせば過ごすほど、彼の事を知れば知るほど…。彼の運命に納得できない、このおとぎ話の結末を受け入れられない)
かぐや(どうしてネロなの?どうしてネロが苦しまなければいけないの?他に苦しむべき悪党は大勢いるというのに…)
かぐや(それに…私は気が付いてしまった。何故、あのつぐみの髭の王が私にあんな約束をさせたのか、何故この世界を消滅させないようになどといったのか…)
かぐや(ネロの話だと、彼が命を失った後コゼツは今までの行いを悔いる。ネロが死んでから反省したところで何の意味も無いけれど…コゼツの反省も含めてこのおとぎ話の結末になる)
かぐや(だからコゼツを殺せばこの世界を消滅させる事になる。他の事も全て同じだ…ネロが不幸になる要因に私は何一つ手が出せない)
かぐや(私には重力を操れても人の生き死には操れない、だからお爺様を救う事は出来ない。命を失ったネロをよみがえらせる事も出来ない)
かぐや(牛乳屋を殺すのも村の連中を懲らしめる事も、コンクールの審査員にネロの絵を選ばせるように仕向けても…この世界は消える)
かぐや(その上…ネロはそれを望んでいない。小さな幸せを得る為に死を選ぶような少年だもの。だから私には…この世界とネロを両方とも救う事は決してできない)
かぐや(…つぐみの髭の王はそれを知って、私を騙した。出来もしない難題を押し付けて私を苦しめる為に。悪党の言葉を信用すべきじゃなかったのよ…)
かぐや(でも今はそんな事を言っても仕方がない…。今の所憎らしいほど順調に物語が進んでいる。お爺様の命は……あと数日持たないでしょうね)
かぐや「救って貰うつもりは無い…。今、あなたはそう言ったのですか?」
ネロ「うん、そう言ったよ。でもかぐやさんは僕とは違う考えなんだよね…きっと【フランダースの犬】の結末を、僕の運命を不憫に思ってくれたんだ。だからここに居る、そうだね?」
かぐや「えぇ、その通りです。私はある男からあなたの話を聞きました、あなたが辿る運命とその末路を」
ネロ「そっか…それで僕を運命から救うため、おとぎ話の結末から逃す為にこの世界に来てくれたって事なんだね」
かぐや「はい、私は今までに様々なおとぎ話の世界を旅してきました。【さるかに合戦】や【瓜子姫と天邪鬼】【千匹皮】…他にもいくつもの世界を飛び回りました」
かぐや「そして…弱き者、不幸な者を何度も見てきました。狡猾な悪党に騙された者、嫉妬を向けられ命を脅かされた弱者、権力を振るわれ望まぬ婚姻を結ばされた者…どんな世界でも例外なく、悪党と被害者は存在していました」
かぐや「私はそんな弱者を救い、悪党を葬る為に旅を続けてきました。そしてこの能力で大勢の人々を救い、そして悪党を滅してきたのです」
ネロ「能力…コゼツおじさんに使ったあの重力の力だね?」
かぐや「はい、私の能力はそれだけではありませんが…。ですが重力操作は私が持つ最も強力な能力です、増加すれば押し潰す事も減少させれば身軽にし浮かせる事もできる」
かぐや「こんなに優れた力を私以外の誰が持っているというのです?私は特別なのです、神に愛された特別な存在。だからこそ生まれながらにこの素晴らしい力を授けられました」
かぐや「そして私は、この能力を弱き者達の為に使うと決めたのです。不幸な者達を救う為に、正義を執行し世界を平和で包む為に…私はこの能力を行使するのです」
ネロ「……」
かぐや「あなたは救って貰うつもりは無いと言いましたが…もう一度よく考えてみてください。何故、身に降りかかる不幸に歯をくいしばって耐える必要があるのです?」
かぐや「私はネロを不幸な運命から救う為にこの世界に来たのです…そして私にはそれを叶える力がある。安心してすべて私に任せなさい、あなたに確かな幸せを約束しますから」
705 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:26:06 ID:tT7
ネロ「確かな幸せを約束する、か…。ははっ、そんな事言えちゃうなんてすごいね…かぐやさんは…」
かぐや「いえ、力を持つ者として当然の行いです。まず手始めにあなたを蔑ろにしてきた悪党コゼツというあの男を殺しましょうか?復讐の為に」
ネロ「かぐやさん、それさっきも言ってたけど…駄目だよ、そんな事は何にもならない」
かぐや「そうですか?しかしあなたがそう望むのなら悪党を殺すのは見送るとしましょう。となると別の方法であなたを幸せにしなければなりませんね」
かぐや「あなたがまたアロアと遊びたいというのなら私があの男と『交渉』して首を縦に振らせましょう。食べ物にもお金にも不自由させません、私が工面してあげます」
かぐや「ルーベンスの絵を見る為の見料も与えます、画家になりたいという夢を叶える為に別の世界の画家を探して弟子入りするというのもいいですね」
ネロ「うん…うん、どれもこれも素敵な提案だ」
かぐや「そうでしょう?清く正しく生きてきたあなたには幸せを掴む権利がある、さぁまずはどの夢から叶えますか?もちろん、全てでも構いませんよ」
ネロ「……。パトラッシュ、僕の側においで」スッ
パトラッシュ「わうんわうんっ!」ペロペロペロ
ネロ「よーしよし。よかったなパトラッシュ、アロアに食べ物を分けて貰って…ちゃんと感謝しながら食べなきゃね」ナデナデ
パトラッシュ「くぅんくぅん」ペロペロ
ネロ「ねぇ、かぐやさん…僕の為にいろいろしてくれるというのはうれしいんだけどさ…」
かぐや「…はい、どうかなさいましたか?」
ネロ「折角だけど、僕は…なにもいらない。僕は自分に与えられたありのままの運命を受け入れる事を選ぶよ」
706 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:28:51 ID:tT7
かぐや「理解に苦しみますね…正気なのですか?」
ネロ「うん、ごめんね。折角僕の為にわざわざ別の世界から来てくれたっていうのに」
かぐや「そんな事はどうでもいいのです、それよりもネロはわかっているのですか?あなたの場合、運命を受け入れるという事は命を失うということなのですよ?」
かぐや「あなたは優しい。お爺様やパトラッシュにはもちろん、見ず知らずの私にも声をかけてくれました。コゼツの言いつけを破ってここに来たアロアを心配し優しく諭しもしました」
かぐや「他人を思いやる事の出来る素敵な心をあなたは持っている。それは短い時間しか関わっていない私にでも解る事です」
ネロ「ははっ、僕はそんな大層な人間じゃないよ」
かぐや「…いいえ、謙遜の必要はありません。そして私は思うのです、真の幸せを掴む権利があるのはあなたのような善人だと」
かぐや「今、あなたの目の前には確かな幸せが迫っている…それなのに手を伸ばす事も無く見過ごそうとしている。何故あなたが元々与えられた悲惨な結末にこだわるのか、私にはわかりません」
ネロ「……」
かぐや「その理由…教えてはくれませんか?」
ネロ「失礼な言い方になっちゃうけど、かぐやさんには理解出来ないかもしれないよ?」
かぐや「構いません」
ネロ「わかった、話すよ。まず…この後、【フランダースの犬】で起きる事を聞いて貰おう…今から大体二週間後くらいかな、今月の半ばにアロアは誕生日を迎えるんだ」
ネロ「でもその日の夜、コゼツおじさんの風車小屋が何者かに燃やされる。怪我人は出ないけど…風車小屋が全て焼け果てるほどの大火事だ」
707 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:30:37 ID:tT7
ネロ「翌日になって、放火の犯人捜しが始まる。何しろ全ての風車が燃えたんだからその被害は甚大で…そしてコゼツおじさんは僕が放火の犯人に違いないと怒鳴りつけるんだ」
かぐや「根拠は何なのですか?あの男は悪党ですが、なんの根拠も無くあなたに放火の容疑を駆ける等出来ない筈」
ネロ「間の悪い事に僕は放火があったその夜、風車小屋の側の道を通ったんだ。アロアの元に向かう為にね」
かぐや「…アロアの誕生日のお祝いをする為に向かったのですね?会う事を禁じられているあなた達は昼間に会うのは難しい、故に夜遅く…人目を避けるように出歩いた」
ネロ「うん、その通りだよ。それが仇になっちゃったんだね、でも真実を言う事は出来ない…僕の容疑は晴れるかもしれないけれど、アロアが叱られてしまうから」
かぐや「…しかし、証拠があるわけではないのでしょう?いくら疑わしいとはいえ、村の者たちはコゼツの言葉をそのまま信じるというのですか?」
ネロ「村のみんなだって僕が犯人だなんて思わないと思うけど…でもコゼツおじさんが言っていた通り、あの人はこの村一番の富豪だ」
ネロ「余計な事を言わずに、従っていた方が波風が立たない。こんな小さな村ではそのほうが賢い生き方なんだ」
かぐや「…自分の身可愛さに悪党に従うなど、悪事の片棒を担いでいるに等しいです」ギリッ
ネロ「とにかく…村の人たちに相手にされなくなれば牛乳運びだって出来ない、それが原因で僕は仕事まで失うんだ。そしてクリスマスを数日後に控えたある日、お爺さんはこの世を去る…もう随分高齢だからね」
ネロ「クリスマスを前に仕事を失って収入も無い、お爺さんの葬儀でもう僅かなお金さえも手元に無い僕は家賃を払う事も出来ず、住む場所まで失う」
かぐや「…ネロ、もういいです。これ以上は聞くに堪えられません、あなたが不幸だという事はもう十分に…」
ネロ「…違うよ、僕は自分が不幸だってことを証明したいわけじゃないんだ。最後まで聞いて欲しい」
かぐや「……わかりました、続きをどうぞ話して下さい」
708 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:32:24 ID:tT7
ネロ「行くあても無い僕はコンクールの結果発表がその日だという事を思い出して、その結果に最後の望みを掛けるんだ」
ネロ「雪の降る中、僕はパトラッシュと二人でアントワープまで歩いていく…でも結果は落選だ。僕は仕方なく、村に戻る事にしたんだ」
ネロ「その途中でパトラッシュは道に落ちている袋を見つけるんだ。それはコゼツさんが落としたもので、中には大金が詰まっていた。先の火事で大損害を受けたコゼツさんにとってそれは失えば一家離散を免れないほどの額だった」
かぐや「それを、あなたはどうしたのですか?悪党の持ち物だとはいえ自分のモノにする様な事は…」
ネロ「もちろんしないよ。僕はお金をアロアのおばさんに渡した、そしてパトラッシュの事もお願いするんだ。どうか、僕の愛犬の事をよろしくお願いしますって」
パトラッシュ「くぅん…」スリスリ
ネロ「そんな顔をするなよパトラッシュ。未来の僕は、せめて君には生きて欲しいと思ってアロアの家に預けようとしたんだから」ナデナデ
かぐや「しかし、パトラッシュはあなたと共に息を…」
ネロ「うん。本格的に行くあての無くなった僕はアントワープにある大聖堂に向かっていた、ルーベンスの絵がある場所だね」
かぐや「あなたの後を追ってそこにパトラッシュも向かうわけですね?」
ネロ「うん。夜になると絵には布がかけられるんだけど…その日は係が忘れたのか布は掛けられていなくて、月灯りに照らされたその美しい絵を僕とパトラッシュは見る事が出来るんだ」
ネロ「ずっと見たいと思っていたその絵を最後に見る事が出来て、もう何も思い残すことなんか無い。僕とパトラッシュはそのまま…息を引き取る」
かぐや「絵を見るなんてそんな小さな夢をかなえたところで、死んでしまっては何の意味も……」
ネロ「そう言わないでよかぐやさん、僕にとってその絵を見る事は画家になるのと同じくらい大切な夢なんだ」
ネロ「それにね、僕とパトラッシュは死んでしまうけれど…このおとぎ話には続きがあるんだ」
かぐや「続き…ですか?」
ネロ「どれだけ探しても落としたお金が見つからなくて、コゼツさんは絶望しながら家に戻るんだ。でもそこで、僕がお金を届けた事をおばさんに聞くんだ」
ネロ「僕がキチンとお金を届けた事にコゼツさんは感動して…そして反省してくれるんだ。ネロは正直者だったのに信じてやる事が出来なかった、アロアとの仲を引き裂いて悪い事をしてしまった…ってね」
かぐや「…反省なんてしたところでもう遅いでしょう、コゼツが今までの行いを悔いる頃にはあなたはもう既に…」
ネロ「それだけじゃないんだ、コンクールで審査員を務めた一人の画家が…僕の絵を絶賛してくれるんだ。ルーベンスの後を継ぐ才能を持つ少年…だなんて言ってくれるんだ」エヘヘ
ネロ「その上、僕を引き取って弟子として育てたいと思ってくれるんだ。僕の作品は落選したけれど…でも、僕の才能を信じてくれる画家が居た…僕はそれがすごく嬉しい」
かぐや「……」
ネロ「かぐやさんは僕の運命が悲惨だと言ったけれど…僕はそうは思わないんだよ」
ネロ「お爺さんが亡くなる事は悲しいけれど、別れはいつか来るものだ。放火の濡れ衣を着せられた事だって僕が疑われるような場所に居た事が悪いし、アロアが叱られなかったならそれでいい」
ネロ「仕事を失った事も住む場所を失った事もコンクールに落選した事も、何一つ誰かが悪いわけじゃない。誰かを恨む事なんて間違っている」
ネロ「僕はどんなに貧しくてもコゼツさんの財布を盗むような悪事に手を出さなかったし、夢だったルーベンスの絵を見る事だって出来た。コゼツさんや画家の先生だって僕を認めてくれた」
ネロ「それに…僕は愛する家族のパトラッシュと一緒に天国へいけるんだ。最期まで清く正しく生きて、夢も叶って自分の事を認めて貰って…家族ともずっと一緒だ」
ネロ「僕にとってこんなに幸せな事は無いよ。だから僕は別の結末なんて望まない、元の結末のままで十分に幸せなんだ」
710 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:39:42 ID:tT7
かぐや「例え命を失ったとしても、辛い人生を送ったとしても…ネロは自分自身の結末に不満が無いというのですか?」
ネロ「うん。ルーベンスの絵の前で息を引き取れるだけでも幸せなのに…コゼツさんや画家の先生にまで認められて、むしろ幸せ者だよ」
ネロ「それに大好きなお前と離れ離れにならずに済むしね、パトラッシュ」ナデナデ
パトラッシュ「くぅんくぅん」スリスリ
かぐや「……」
かぐや「ネロの考えはわかりました。私とは随分考え方が違うようですが…」
ネロ「解ってくれたなら嬉しいよ。お願いするよかぐやさん、僕はこの物語の本当の結末を望んでる…だから妙な手出しをして、物語を改変したりしないで欲しいんだ」
かぐや「解りました、あなたがそれを望むというのなら…私は余計な手出しはしません」
ネロ「うん、ありがとうかぐやさん。もしかしたらかぐやさんは納得してくれないかもって思ってたから、嬉しいよ。僕の気持ちを理解してくれて」
かぐや「ですが…私がこの世界に居る事自体は問題ありませんね?折角ここまで来たのですから、どうかこのおとぎ話が結末を迎えるまではあなたの側に居させてください」
かぐや「クリスマスの夜にあなたが息を引き取るまで…異国の居候が側に居たとしても、物語に大きな影響は出ないでしょう?」
ネロ「うん、もちろん。かぐやさんがそうした言って言うなら、僕は歓迎だよ。何もしてあげられないのが申し訳ないけど」
ネロ「さぁ、すっかり長話をしちゃったね。小屋の中に入ろう、暗くなるまでにしてしまわないといけない事もあるし、折角だからかぐやさんの話も色々と聞きたいしね。いいよね?」フフッ
かぐや「ええ、私が旅してきた世界の話ならば喜んでお聞かせしますよ。あぁ、私は少し風に当たってからいきますから、ネロは先にいっていて下さい」フフフ
ネロ「そう?うん、わかった。いこうパトラッシュ」スッ
スッ パタン
かぐや「……。あり得ません、死んで幸せになんてなれるわけがないでしょう。彼は解っていないだけ…本当の幸せを…解っていないだけなのです…」ボソッ
711 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:42:06 ID:tT7
その夜遅く
フランダースの犬の世界 ネロの住む小屋
・・・
爺さん「ぐぅぐぅ……」
ネロ「スゥスゥ……」
かぐや「……」ムクッ
かぐや(……何だか、眠る事が出来ないわね。月灯りでも眺めていれば、眠くなるかしら)スッ
かぐや「……ネロが考える『幸せ』の意味、理解しようと考えてはみましたが…やはり私には理解できません」
ネロ「スヤスヤ……」
かぐや「なんて可愛らしい寝顔なのでしょう。この心優しい少年が命を落とす必要などありましょうか…」
かぐや(けれど、この子は自分の死を受け入れると言った…。あぁ…ネロは本当に可哀そうな少年。彼は本当の幸せがどういうものなのか知らないのね)
かぐや(知らないから、自分に与えられた結末に満足してしまう。あんな悲惨で救いの無い結末を曲解して、自分が幸せだと思いこもうとしているのね)
かぐや(ルーベンスの絵を見れたからなんだというの?そんなものはただの絵画…見たところで何が変わるわけでもない)
かぐや(コゼツや画家が認めてくれたとは言うけれど、そのころにはもうネロは死んでしまっているのにそんな事に何の意味があるというの?)
かぐや(大好きなパトラッシュと一緒に息を引き取れたから幸せ?馬鹿馬鹿しい…死ぬ事は不幸な事なのです、それが幸せに繋がることなど決してない。生きてこそ幸せは得られるもの)
かぐや(あぁ、可哀そうなネロ…。でも安心なさい、私があなたを絶対に幸せにしてみせる。あなたが口にしていたのは全て偽物の幸せ…そんな者比べモノにならないほどの幸福を与えてあげるわ)
かぐや「何も心配はいらないのですよネロ。私が本当の幸せというものをあなたに教えてあげます。私に任せていれば、何の心配も無いのです」
712 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)00:45:36 ID:tT7
現在
かぐや姫の世界 悟空達の住む小屋
かぐや「私は自惚れていた…。幸せというのは全ての人間に共通しているものだと思い込んでいたのです」
かぐや「辛い生活からの解放、食卓いっぱいの美味しい食べ物、使いきれないほどの大金…豊かな暮らしが送れて、心配事がなければ幸せだと思いこんでいた」
かぐや「だから…ネロが見出していたささやかな幸せなんか、ニセモノでしかないと考えていたの。その頃の私は…自分の考えこそが正しい、自分の考えが間違っている事なんて想像すらしなかった」
かぐや「強力な重力操作能力…そのおかげで私は何だって思い通りにしてきた、だから自分が神様のように絶対的な存在だと信じて疑わなかった」
孫悟空「まぁ、何が幸せでそうじゃないかなんざ、そいつ次第だからな…むずかしい問題ではあるが」
玉龍「でもぶっちゃけ、ウチもネロの考えは理解できないッスね!絶対に生きていた方が何かしら良い事あるッス、それなのに諦めるのは駄目ッス!」
ドロシー「生きててこそ楽しい事も辛い事もあるんですもんね…やっぱり死んじゃったら幸せも何もないと、私も思います…」
ティンカーベル「うーん、私はネロ派かなー。そりゃ死なないで済むならその方が良いけど、例え死んじゃったとしても強い想いは消えないわけだしー」
キモオタ「ですなwwwマッチ売り殿もそうでござった、少し状況は違うでござるが自分の死を受け入れていたでござる」
キモオタ「ネロ殿と違ってあの子の場合は自分ではなく…他人の幸せを願って死を受け入れたでござるけど」
かぐや「ネロもマッチ売りちゃんも自分の境遇に負けることなく、正しいと思った事をしていて…とても立派ね」
ティンカーベル「ねぇねぇ、それで…かぐやはどうしたの?ネロは元々の結末に満足してるって言ってたけど、かぐやは納得してないんだよね?」
かぐや「そうねその時のあたしの頭の中にあるのは…どうやってネロを幸せにするか。ただそれだけ…
714 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)01:01:38 ID:tT7
かぐや「そうこうしているうちに月日は流れていったわ」
かぐや「私はそのままネロとお爺様の小屋に居候していた、ネロには『折角だからあなたの結末に付き合いたい』と言っていたけれど、本当は違った」
かぐや「なんとかしてネロを幸せにしようとしていた。ううん、『私が考える幸せ』をネロに押し付けようとしていたのね」
キモオタ「正義感が空回りしていたのでござるなぁ…」
孫悟空「しかも強力な能力をもっちまってるからそれに気が付けねぇ…俺も似たようなもんだ」
玉龍「強すぎて敵がいなかったッスから天界までいって大暴れッスもんね。強力な力を持つって言うのも考えもんッスね」
かぐや「でも…私は少なくともこの頃は幸せだったわ。貧しかったけれど、ネロとお爺さんとパトラッシュと暮らして…この頃はまだ村の人たちも優しかったから」
かぐや「それにきっと…ネロも同じ気持ちでいてくれたんじゃないかしらね」
ティンカーベル「そうだねぇ…でもこの頃はって事は、じゃあこのあとは優しくなくなっちゃう…?」
ドロシー「コゼツさんの風車小屋が燃えてしまった後は…村の人たちはネロに厳しくなっちゃうんですね…?」
かぐや「そうね、その通りよ。そこから私は…ネロの運命を間近でみる事になって、その事に耐えられなくなってしまったの」
かぐや「そして…私は決断した。交わした二つの約束を両方とも破ってしまうことを」
715 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/06(土)01:04:29 ID:tT7
今日はここまでです
短めですが今日はおしまい、次回更新は日曜日更新予定です
かぐや姫とオズの魔法使い編 次回に続きます
716 :名無しさん@おーぷん :2016/02/06(土)01:10:57 ID:S8w
乙。やはりかぐやは止まらないのだな……
717 :名無しさん@おーぷん :2016/02/06(土)01:19:53 ID:46H
乙!
かぐやが何をやらかすかちょっと期待してしまう自分がいる
721 :名無しさん@おーぷん :2016/02/06(土)23:07:42 ID:jry
乙です!
旧かぐやに嫌な予感しかしない…。
続き待ってます!!
723 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/08(月)00:08:40 ID:Xjq
かぐやがこの世界に訪れて三週間ほど後
フランダースの犬の世界 ネロの家
ガチャッ
かぐや「只今戻りましたお爺様。お身体の具合はいかがでしょう?」スッ
爺さん「ゲホゲホ…。おぉ…かぐやさん、おかげさんで随分と調子がいいんじゃ…ゲホゲホッ、ゲホゲホ」
かぐや「とてもそうは見えませんが…それにまた食事を残していますね、召し上がらないと具合も良くなりませんよ」
爺さん「すまんのぉ、食欲が沸かんのじゃ…。折角、かぐやさんが貴重な食材を使ってワシの為に作ってくれたというのに…」ゲホゲホ
かぐや「それはお気になさらず。鳥獣の肉なら野山に入ればまた手に入ります、食欲がないのならせめて水分だけでもしっかりと摂ってください。どうぞ、お水です」スッ
爺さん「あぁ、ありがとう…。しかし、情けの無い事じゃ…この老いぼれはもはや何の役にも立たん。旅人のあんたにまで世話をして貰って…申し訳ない限りじゃ」
かぐや「何を言っているのですか、申し訳ないというのはこちらの方です。思ったようにお金を稼ぐ事が出来ず、あなたに薬ひとつ買う事が出来ないのですから」
爺さん「旅人のあんたがこんなところで無駄金使ってどうするんじゃ。こりゃあもう薬でなおるようなもんじゃない…もう歳なんじゃからそう長くはないじゃろう」ゲホゲホ
かぐや「そんな事を言うのはやめてください、あなたが亡くなってはネロが悲しみます。さぁ、起きていては身体に障りますから少し休んでいてください」
爺さん「そうじゃな…せめてネロのコンクールの結果が解るまでは生きておらんとな…」ゲホゲホ
かぐや「…ええ、そうです。彼の晴れ姿を見ずに逝ってしまうなど勿体無いですよ」
かぐや(……)
724 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/08(月)00:11:16 ID:Xjq
かぐや(私がこの世界に訪れて三週間ほどの月日が流れた)
かぐや(あの日から私はこの家に居候をしている。ネロは相変わらず牛乳配達をしていたけれどお爺さんはあの日の無理がたたったのかもう寝たきりの生活が続いていた)
かぐや(私はというと、この家に少しでも恩を返す為と野山に入っては鳥獣を捕えてそれを売り稼ぎにしている。しかし、真冬のこの時期に捕えられる獲物の数はそう多くない)
かぐや(稼ぎは思ったより増えず、相変わらずネロ達は貧しい生活をしていた。けれど、以前よりは食事を取る事が出来る回数は増えたようだったから、それは嬉しいと思う)
かぐや(それに、私が家事をするようになってネロは絵を描く時間を取れるようになった。彼は楽しそうに絵を描く、きっとその時だけは苦しさから解放されるのだろう)
かぐや(私もそんなネロを見ているのは楽しかったし、一時でも彼が幸福感を感じているのならば喜ばしい事だった)
かぐや「……けれど、そんなものはあくまで一時的なもの。私が彼に与えたいものはそんな小さなモノじゃない」
かぐや(貧しくても幸せだというネロの主張は少しだけ理解出来た。けれど…死ぬ事を幸せと結び付ける考えは未だに理解できないしするつもりもない)
かぐや(私は今、ネロたちと過ごす時間が幸せよ。彼が楽しげに絵を描く姿は、夢に向かって努力している姿は好き。けれど…結末が不幸じゃあ意味なんか無い)
かぐや「このままじゃ駄目ですね…。私がネロをうんとに幸せしないといけません、彼が幸福というものを理解していないのだから正義の使者たる私が彼を導かなければいけない…」
ガチャッ
パトラッシュ「わうんわうんっ」
ネロ「ただいま。あぁ、かぐやさん帰っていたんだね、お疲れ様」
かぐや「おかえりなさいネロ、パトラッシュ。今日は随分と早かったのですね…。やはりもう…牛乳運びの仕事はできそうにありませんか?」
ネロ「うん…無理そうだね。新しく街から来た業者は随分とサービスが良くて評判もいいみたいだし、どうしようもないよ」
725 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/08(月)00:13:36 ID:Xjq
かぐや(あの日ネロが教えてくれた通り、コゼツの風車小屋は全焼し…ネロはその罪を着せられた。ネロの強い意志もあって、私にはそれを防ぐ事が出来なかった)
かぐや「コゼツのやり口は非常に卑劣なものです。商売敵を呼び、ネロの仕事を奪うなど…人の所業とは思えません」
ネロ「仕方がないよ。この村じゃ僕はコゼツさんの風車小屋を燃やした犯罪者扱いだ、そんなところと取引なんかしてて良い事なんか無いから」
かぐや「いいえ、平然と悪に屈する事が私には許せないのです。あなたが無罪だと多くの村人たちは信じている、だというのに保身の為にあなたを見捨てた」
ネロ「そんな言い方はよくないよ。みんなだってそれぞれの生活があるんだし」
かぐや「いえ、真に心の強い者は悪党に屈したりはしません。村はずれの牧場の主人を見てみなさい、彼は強い人です…ネロの無罪を信じて今も牛乳の取引を続けているではないですか」
ネロ「あのおじさんは正義感が強いからね…でも今日言って来たよ、今までのお礼と…明日からは新しい業者に牛乳運びを依頼して欲しいって事をね」
かぐや「…何故ですか?仕事を失うのは貴方の運命かもしれませんが、そんな自ら投げ出すような真似をする必要は…」
ネロ「牧場の奥さんね、お腹に赤ちゃんがいるんだって。僕に同情したせいでおじさんまで仕事を失ったら大変だよ、そんな事になっちゃ嫌だしね」
かぐや「…私はあなたが仕事を失い、不幸になる事の方が嫌ですけどね。しかし職を失ったとしても、私ならばあなたを幸せに出来ますよ?今からでも遅くは…」
ネロ「もう、かぐやさんは何かというとその話ばっかりなんだから。その話は決着付いたでしょ?」
ネロ「僕はそのままの結末で十分幸せなんだ。むしろかぐやさんが来てくれたおかげで毎日が前よりも楽しいよ、絵を描く時間も増やして貰えたし…食事も前よりとれるようになった」
ネロ「こんな事言うのは照れ臭いけど…お姉さんが出来たみたいで僕は嬉しいんだ。だから不幸だなんて僕は微塵も思わない、むしろ幸せ者だよ」
ネロ「ちょっぴり強情だけど、こんなに綺麗で優しいお姉さんが出来たんだから」フフッ
726 :◆oBwZbn5S8kKC :2016/02/08(月)00:16:12 ID:Xjq
かぐや「強情なのはお互い様ですね。この際だから言ってしまいますが…実は私も、ネロの事を弟のような存在だと思えていたのです」フフッ
ネロ「そうなの?ははは…お揃いだね。でもこういうのって面と向かって口にするとなんだか恥ずかしいね」
かぐや「そうでしょうか?恥ずべき事では無いのですから口にすべきです、今やあなたもお爺様もパトラッシュも私にとっては大切な家族なのですから」
かぐや(……だからこそ、私には納得がいかない)
かぐや(ネロと過ごせば過ごすほど、彼の事を知れば知るほど…。彼の運命に納得できない、このおとぎ話の結末を受け入れられない)
かぐや(どうしてネロなの?どうしてネロが苦しまなければいけないの?他に苦しむべき悪党は大勢いるというのに…)
かぐや(それに…私は気が付いてしまった。何故、あのつぐみの髭の王が私にあんな約束をさせたのか、何故この世界を消滅させないようになどといったのか…)
かぐや(ネロの話だと、彼が命を失った後コゼツは今までの行いを悔いる。ネロが死んでから反省したところで何の意味も無いけれど…コゼツの反省も含めてこのおとぎ話の結末になる)
かぐや(だからコゼツを殺せばこの世界を消滅させる事になる。他の事も全て同じだ…ネロが不幸になる要因に私は何一つ手が出せない)
かぐや(私には重力を操れても人の生き死には操れない、だからお爺様を救う事は出来ない。命を失ったネロをよみがえらせる事も出来ない)
かぐや(牛乳屋を殺すのも村の連中を懲らしめる事も、コンクールの審査員にネロの絵を選ばせるように仕向けても…この世界は消える)
かぐや(その上…ネロはそれを望んでいない。小さな幸せを得る為に死を選ぶような少年だもの。だから私には…この世界とネロを両方とも救う事は決してできない)
かぐや(…つぐみの髭の王はそれを知って、私を騙した。出来もしない難題を押し付けて私を苦しめる為に。悪党の言葉を信用すべきじゃなかったのよ…)
かぐや(でも今はそんな事を言っても仕方がない…。今の所憎らしいほど順調に物語が進んでいる。お爺様の命は……あと数日持たないでしょうね)
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」 かぐや姫とオズの魔法使い編
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キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」一覧に戻る
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