キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」 ヘンゼルとグレーテル編
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594 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:42:03 ID:vqR
ヘンゼル「それは違うじゃないか!パパさんは罪を犯していないのに罪人として殺された!村の連中はパパさんを見殺しにした悪人…パパさんを見捨てた罪人じゃないか!殺されて当然じゃないか!」
雪の女王「本当にそうか?弥平を見殺しにしたとは言うが、罪人として扱われている弥平を庇うという事が小さな村に住むただの村人にとってどれだけ大変な事かわかっているだろう?下手をすれば自分に罪が及ぶ」
ヘンゼル「それでも、誰かがパパさんを信じて無実を主張すれば人柱は中止になったかもしれないじゃないか!自分が罪をかぶるのが嫌だからパパさんの味方をしなかった、それは悪じゃないの!?」
雪の女王「誰かの味方を出来ない事は必ずしも悪ではないよ。自分や家族を護る為の行動を自分勝手というのなら、私もキミも相当に自分勝手な人間だ」
ヘンゼル「……」
雪の女王「確かに弥平が人柱にされた理由は理不尽なものだ、大好きな弥平を失ったキミやグレーテルが頭に血を登らせてしまうのも理解できる」
雪の女王「だがな、大好きな人を殺されたからなりふり構わず殺して村やおとぎ話を消滅するというのは…あまりにも身勝手だ」
ヘンゼル「じゃあどうすればよかったの!?僕達は理不尽な理由で家族を失ったんだ!僕がどう行動すればお千代とグレーテルを悲しみから守る事が出来たの?教えてよ女王!」
雪の女王「残念だが人の死には必ず悲しみが付きまとう、弥平の死は事実として受け入れるしかない。残されたものは愛する者の死を受け入れる責任がある。だがそこで復讐の為に他人を殺せば憎しみは連鎖する、それはやってはいけない事だ」
ヘンゼル「それじゃあお千代やグレーテルの悲しみはどうなるんだ!パパさんの無念は誰が晴らすの!?大好きな人が殺されてしまったならその原因になった奴らを殺すしかない!」
ヘンゼル「殺してしまえばそいつらが僕達を苦しめる事はもう無い!恨みの原因を潰すには殺すのが一番確実じゃないか、僕はそれしか復讐の方法を知らない!」
雪の女王「ヘンゼル…憎しみというのは伝染する、復讐では憎しみも悲しみも晴らせない…新たな憎悪を生みだすだけだ。だから殺すような復讐はしちゃいけない」
ヘンゼル「なんだよそれ…僕の家族は幸せになれないけど他人は殺すなって事?じゃあ結局貧しい人間や弱い奴等は無き寝入りしろって事じゃないか!」
雪の女王「泣き寝入りじゃない。復讐なんかしなくても殺された人間の無念を晴らす事は出来る、それに復讐なんかじゃ悲しみは癒せない」
ヘンゼル「理解出来ないよ…全然理解出来ない!大好きなパパさんを殺されても我慢しろって言うのが女王の考えなの!?結局、僕達はどこに逃げたって誰かに利用される運命だってことじゃないか!」
ヘンゼル「あぁ、そうか、前からそうだったね……僕はグレーテルや女王とカイ、パパさんやお千代との生活が楽しくて忘れかけてた。でも、思い出したよ」
ヘンゼル「なんだかんだ言っても僕達は現実世界の作者に作られた存在なんだ、あいつ等の良いように利用される為に作られた存在なんだ。だから不幸になる事を決められている以上、結局幸せになんかなれない…!」
595 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:44:29 ID:B3l
雪の女王「ヘンゼル…それは違う、作者は私達を利用する為に生み出したりしていない」
ヘンゼル「何が違うっていうの!?作家っていうのは話を作って金を稼ぐ仕事でしょ?おとぎ話だってそいつらの金稼ぎの道具にすぎないじゃないか!結局はそれに利用されてるんだ、違う?」
雪の女王「断言する、それは絶対に違う。キミ達は作者に利用なんかされていない。キミ達の作者だってキミ達にハッピーエンドを用意していたじゃないか、忘れてしまったのか?」
ヘンゼル「ハッピーエンド!?【ヘンゼルとグレーテル】がハッピーエンドだって本気で言ってるの?」
ヘンゼル「僕達は貧しくひもじい生活の果てに親に捨てられた!二度もだよ!そのうえ魔女に利用されて僕は一カ月も監禁されて、グレーテルは奴隷扱いだ!」
ヘンゼル「その結末が魔女の宝石を奪ってあの父親ともう一度幸せに暮らしました。だよ?それのどこが幸せなんだ、僕やグレーテルが受けた悲しみや苦しみはそんな宝石なんかで埋められない」
ヘンゼル「しかも、あんな信用の出来ない男ともう一度暮らす事が僕達の幸せだと本当に思ってるの?例えお金があったとしても飢饉には違いないんだ、またすぐに食べ物は尽きて僕達は捨てられる」
雪の女王「家族と一緒に居られる事は幸せな事だ。しかし、大飢饉であるあの時代…キミの世界ではそれは当然なことではなかった」
雪の女王「口減らし、餓死、悪化していく治安の中で命を落としたり離れ離れになったり…家族が離散する事が珍しくない世界で、一緒に暮らせる事は幸せな事だ」
ヘンゼル「それがあんな父親でも?馬鹿げてるよ、だったら作者は僕達を捨てさせなければいい!飢饉なんていう設定にしなければ良かったんだ!作者になら出来たはずだ、それなのにしなかったのは僕達を利用する為じゃないか!」
ヘンゼル「悲惨な兄妹の物語の方が盛り上がるから、有名になれるから、本が売れるから、金儲けができるから…だから僕達を幸せにするつもりなんか無いんだよ、そりゃそうだよね作者に取ったら僕達の存在はただのフィクションだ、ただの創作なんだから!」
雪の女王「キミは作家を…作者を誤解している、富や名声の為だけに物語を綴った作者も確かに存在した。だが少なくともキミ達のおとぎ話の作者の一人、ヴィルヘルムはそんな男ではなかった」
ヘンゼル「ヴィルヘルム・グリムか。確か……僕達を不幸にした二人の作者、グリム兄弟の弟の方だったっけ?」
雪の女王「ああ、私はキミがこの世界に来た時【ヘンゼルとグレーテル】をキミが消滅させたと聞いてヴィルヘルムに申し訳なかった。おとぎ話に込められた人々の想いまで消えたからだ」
ヘンゼル「人々の想い…?」
雪の女王「民間伝承。という言葉を知っているか、ヘンゼル?」
596 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:46:26 ID:B3l
ヘンゼル「民間伝承…って、村や町の人の間で語られてる、言い伝えとか昔話みたいな…そういうものの事でしょ?」
雪の女王「概ね正解だ。おとぎ話は無数に存在するがその成り立ちはいくつかの種類に分けられる、ひとつは作者が展開や設定や結末全てを自作した『創作童話』というおとぎ話」
雪の女王「この【雪の女王】や【マッチ売りの少女】がそれにあたる。別の作者の作品ならば【不思議の国のアリス】や【オズの魔法使い】もこの創作童話だ」
雪の女王「それとは別の形式が民間伝承のおとぎ話だ。これは民話や昔話に多い、『桃太郎』や『舌切り雀』がそうだ」
ヘンゼル「それがなんなの?創作童話だか民間伝承だか知らないけど、現実世界の人間が作った事には変わりないでしょ?」
雪の女王「【ヘンゼルとグレーテル】は創作童話と民間伝承の中間と言えばいいだろうか。キミ達のおとぎ話が収録されているグリム童話集は、ある国に民間伝承として伝えられていた物語をヤーコプとヴィルヘルムが手を加えて書籍にしたもの」
雪の女王「キミ達の作者はグリム兄弟だ、しかしその物語の大本は昔からその国の人々が口伝えで語り継いできたもの…なぁヘンゼル、何故語り継がれてきたかわかるかい?」
雪の女王「何故その国の人々はキミ達兄妹の話を何年も語り継いだと思う?ヤーコプとヴィルヘルムは何故、キミ達の物語をおとぎ話として残そうと考えたと思う?」
ヘンゼル「そんなの…知らないよ。現実世界の奴らの考えることなんかわからない」
雪の女王「忘れてはいけないからだ。自分達が経験した辛い出来事や悲惨な歴史の真実を…時の流れに埋もれさせない為に語り継ぐんだ」
ヘンゼル「悲惨な歴史を忘れない為…?なにそれ…それじゃあまるで、僕達のおとぎ話での出来事が現実世界で実際にあった出来事みたいじゃないか」
雪の女王「そうだ。キミ達の境遇は現実世界で起きた出来事が元にされている」
雪の女王「長く続く飢饉。不足していく食料、それによって強いられる口減らし。子捨て。それは何も【ヘンゼルとグレーテル】の世界だけの出来事じゃない」
雪の女王「遠い遠い昔、現実世界でも実際に起きた出来事だ」
597 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:47:50 ID:B3l
雪の女王「現在の現実世界は当時と比べれば相当豊かになった。地域や国での格差はあるが、肩書も階級も持たない一般人でも食料に困らず生活できる国も多い」
雪の女王「しかし、グリム兄弟が生きていた当時よりずっと以前は…農耕技術も機械も発達していなかった。その上、その国は痩せた土地も多かったと聞く」
雪の女王「その国は長い間飢饉に悩まされていたんだ。当然食べ物は無い、子供に食べさせられず苦渋の選択として子捨てを選ぶ者もいただろう」
雪の女王「飢饉、食糧難、犯罪、口減らし、子捨て…そういう行為が横行した。現実世界でもキミ達の様に多くの子供が捨てられたり、餓死していったんだ。キミ達と同じ境遇の子供たちがたくさんいた」
ヘンゼル「……」
雪の女王「やがて農耕技術が進み、荒れた大地でも育つ芋や野菜が見つかり飢饉は解消されていった。口減らしも子捨ても行われる事は無くなった。だがその記憶を薄れさせてはいけないと人々は考えた」
雪の女王「時が経ち農耕技術や輸送技術が発達すればいずれ食糧難になる事もそうそうなくなるだろう、文明や経済の発達した未来では口減らしも子捨ても無くなるだろう」
雪の女王「いつかは飢饉や口減らしなんて事が現実的じゃない世の中が来る。飢饉で苦しんだ多くの人々や、捨てられたたくさんの子供の苦しみもいつかは忘れられる」
雪の女王「それではいけない、辛い歴史の記録として大飢饉の事実は後世に残さないといけないと人々は考えた。歴史の真実、辛い現実を糧として生きる為に」
ヘンゼル「…現実世界の人間は自分達を襲った大飢饉での悲惨な歴史を後世に伝える為に、僕達のおとぎ話を作ったの?」
雪の女王「私がかつて現実世界に赴いたときヴィルヘルムに聞いた事が真実ならば、そうなるな」
ヘンゼル「おとぎ話を盛り上げる為のただの設定じゃなかったんだね…僕は現実世界の人間が自分の私利私欲のために悲惨な境遇の僕達を作って利用したとばかり考えていたけど」
雪の女王「確かに童話集の作者としてグリム兄弟は富も名声も得ていたけど、それは私利私欲のためという訳ではなかったよ」
雪の女王「兄弟は少し変わり者だったが…特に弟のヴィルヘルムは私達からすれば少し信じられない事を口にしていた」
598 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:49:41 ID:B3l
ヘンゼル「何を言っていたの?その、ヴィルヘルムは」
雪の女王「ある時、ヴィルヘルムはグリム童話の加筆修正作業を行っていた。そのおとぎ話は…大飢饉の末に両親に捨てられる兄と妹のおとぎ話だった」
ヘンゼル「それって…僕達の事だよね?」
雪の女王「ああ、ヘンゼルとグレーテル…キミ達の事だな。だがその兄と妹は実の父親と……実の母親に捨てられたんだ。キミ達の様な継母じゃなく、実の両親に捨てられた」
ヘンゼル「? …僕達とは、別のおとぎ話なの?僕とグレーテルを捨てたのは実の父親と継母だよ?」
雪の女王「いいや、キミ達のおとぎ話【ヘンゼルとグレーテル】だ。ヴィルヘルムが加筆修正する以前、元々のキミ達は父親と継母じゃなく実の両親に捨てられるという内容だった」
ヘンゼル「…なんでそこだけ変えたの?そんな細かい修正、必要なの?現実世界の奴らの考える事なんてやっぱり良くわからない」
雪の女王「私は気になってヴィルヘルムに聞いたよ、何故二人が捨てられるという運命は変わらないのにそんな細かい部分を変えるんだ?とね、すると彼はこう答えた」
ヴィルヘルム『飢饉が生んだ悲劇のせいでヘンゼルとグレーテルはこの後、捨てられて魔女に襲われてしまう。しかし、自分達を捨てたのが実の両親だというのはあまりに悲惨すぎる』
ヴィルヘルム『せめて…継母の口車に乗せられて捨てられたという内容の方が…少しでも、彼らの心の救いになるだろう』
ヘンゼル「……」
雪の女王「作者といえどもキミ達の境遇を変える事は出来ない。いや、作者だからこそ変えてはいけなかったんだ。キミ達の辛い境遇は、かつての現実世界の人々が経験した歴史の真実……それを捻じ曲げては意味が無い」
雪の女王「それでもヴィルヘルムはせめてキミ達の心の救いになればと思って、その部分を修正した」
雪の女王「彼は当然、おとぎ話の世界が存在する事なんか知らない。自分の書いたおとぎ話はあくまで作品の一つ、それなのに彼は主人公のキミ達の為に内容を変更したんだ」
599 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:50:53 ID:B3l
ヘンゼル「…そんな些細な変更、何になるっていうんだ。実母だろうと継母だろうと僕達が捨てられたことに変わりないんだ」
雪の女王「確かに些細な変更だ、キミ達が実の母親に捨てられようと継母に捨てられようとおとぎ話の内容や現実世界の人間にたいした影響は無い」
雪の女王「だがキミ達にとっては大きな違いじゃないか?優しい母親に捨てられるのと意地悪な継母に父親をそそのかされて捨てられるのとでは随分と意味が違うと思うが」
ヘンゼル「…まぁ、そうかもしれないけど」
雪の女王「キミは書庫にあるグリム童話をいくつも読んだだろう?ならばわかるはずだ、ヤーコプとヴィルヘルムはキミ達の様な罪のない子供が悲しい経験や辛い結末を与えるおとぎ話ばかり書いていたか?」
ヘンゼル「…いいや、そんな事は無かったよ。【星の銀貨】みたいに優しい女の子が幸せになるおとぎ話もあったよ」
雪の女王「そうだろうな、グリム童話集には百以上もおとぎ話がある。【星の銀貨】の様な救いのあるおとぎ話もあれば【トゥルーデおばさん】のような悲惨なおとぎ話もある」
雪の女王「ヘンゼル、グリム童話に限らずおとぎ話には存在する意味がある。作者がおとぎ話を生み出すのは私達を不幸にする為でも幸せにする為でもない」
雪の女王「誰かに何かを伝える為。その為に作者はペンを取り、私達はその為に生み出された」
ヘンゼル「何かを伝える為に、僕達おとぎ話の主人公は生み出された…パパさんやお千代も、そうなの…?」
雪の女王「ああ、そうだ。そして私達に込められた作者の想いは何十年何百年も先の未来であろうと何千何万キロ離れた別の国だろうと届けられる、言葉や人種の壁など容易く乗り越えてな」
雪の女王「だから辛い境遇を我慢しろ、なんて言わない。だがなヘンゼル、少しは世界の見え方が代わってくるんじゃないか?」
ヘンゼル「……」
雪の女王「キミ達は必要とされて生まれてきた。確かに辛い運命を強いられていると感じるかもしれない、しかしそれは作者が誰かに伝えたい大切な事だ」
雪の女王「今のキミにそれを理解して受け入れろと言うのは少々酷かもしれない。だから、焦る必要は無い私の元のゆっくりと成長していけばいい、キミが慕う弥平の様な心優しい人間に」
ヘンゼル「…わかった。しばらくはお千代の所にはいかない。グレーテルの側に居るよ」
雪の女王「そうか、ならば足元の氷は溶かしておこう。ヘンゼル、キミには時間がたくさんある、悩んで悩んでキミが鳴りたいと思う人間になると良い。それじゃあ、おやすみ」パタンッ
600 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:52:09 ID:B3l
雪の女王の宮殿 廊下
カイ「珍しいな、あんたがあんな事まで喋るなんて」
雪の女王「…なんだカイ、盗み聞きなんて趣味を始めたのか?それじゃあグレーテルやお千代に近づけさせられないな」フフッ
カイ「人を変態のように言うな。お千代に着替えを渡して、あんたに言われた事は住ませたから報告に来たんだ。まぁ確かにお前達の話は聞こえちまったけどな。ヴィルヘルムの事、初耳だぜ」
雪の女王「誰にも言うつもり無かったからな。本当はヴィルヘルムが加筆修正をしたことも、【ヘンゼルとグレーテル】の成り立ちも…言わないつもりだったんだが、話す事になってしまった」
雪の女王「下手におとぎ話の成り立ちや作者が込めた気持ちに関して詳しく話してしまうと、ヘンゼルとグレーテルがいつかおとぎ話を大切に思えるようになった時、自分達のおとぎ話を消してしまった事に責任を感じるかもしれないからな」
カイ「まぁ、確かにそういう事もあるかもしれねぇけどな。で、それじゃあなんで言ったんだ?」
雪の女王「このままだとヘンゼルは憎悪を手放せなくなると思ったからな」
雪の女王「彼にとって作者は自分やお千代を悲惨な運命に縛り付ける輩だった。弥平にお千代、そして多くのおとぎ話で辛い思いをする登場人物のためにヘンゼルは悲しみ、そして憤るだろう」
雪の女王「ヘンゼルはまだ悲しみを正しく受け止める事も憎悪を飼いならす事も出来ない。他人の為に悲しんだり怒れる事は良い事だ、しかしその感情を制御しきれないとなるとそれはとても恐ろしい」
カイ「まぁ、実際問題…ヘンゼルが暴れたのは弥平やお千代の為だもんな。つっても、それで村を焼き払うってのは過激すぎる。確かに何度もこんな事してたら洒落にならねぇな」
雪の女王「方法を知らないんだ、彼は。正しい怒り方を知らない、正しい悲しみ方を知らない、そして正しく他人を信用する方法を知らない」
カイ「だから作者が悪い奴じゃないぞって事、とりあえず教えてやったのか。少しでもあいつの憎悪を和らげるために」
雪の女王「ああ言えば彼も少しは作者の事を見直すだろう。本当は彼自身が気づく方が良い、しかし期を逃せばヘンゼルは戻れないところまで行ってしまうと思ったんだ」
カイ「まぁこう言うのもなんだが……このままだとあいつは大人や現実世界の奴を憎しみ過ぎてとんでもない事しでかすような気はするけどな」
雪の女王「それは防ぎたい、彼の為にもな。だが私に出来るのはこのくらい、あまり私の考えを押し付けすぎるのは間違っていると思うんだ。だからあとはヘンゼルが成長するのを見守るだけ……」
雪の女王(どれだけ時間がかかっても良い、私に手伝える事ならば手助けする。だからキミが望む正しい大人に成長してくれ、ヘンゼル)
601 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:56:20 ID:B3l
雪の女王の宮殿 ヘンゼルとグレーテルの部屋
グレーテル「……スゥスゥ」スヤスヤ
ヘンゼル「……僕は、どうすればいいんだろうね。グレーテル」ナデナデ
ヘンゼル「女王は心配を掛けた上に無茶苦茶した僕をまだ家族だと言ってくれた。そんな女性が言うんだ、作者にだって良い大人はいるんだと思う」
ヘンゼル「でも、たとえそうだとしても…ヴィルヘルムが僕達の為に救いを与えてくれたのだとしても……やっぱり、僕は……」
ーーグレーテル「ねぇ、お兄ちゃん…私達、本当に捨てられちゃうの…?」ポロポロ
ーーグレーテル「……お兄ちゃん、私……頑張ったよ……頑張って……あの魔女、殺したの……」
ーー弥平「いいか、お前等と父ちゃんはここでお別れだ!オラはちょっくら犀川の神様のご機嫌取りに行ってくるからよぉ…しっかり協力して立派な大人になれ、いいな?」
ーーお千代「……っ!そんなことされたら父ちゃん死んじゃうんよ……!ばあちゃん、離して欲しいんよ!父ちゃんを助けるんよ!」ジタバタ
ーーお千代「だからうちはもう…何も喋らない方がいいんよ…」ポロポロ
ヘンゼル「許せない……例え善人だとしてもグレーテルやお千代に辛い運命を押し付けた作者を……僕は許す事は出来ない」
ヘンゼル「今回は僕が未熟なせいでグレーテルにも辛い思いをさせて女王やカイにも心配を掛けた。だから、もっと強くなろう……強くなって何もかも守れるようになるんだ」
ヘンゼル「そしていつか僕の家族を脅かす大きな悪が現れたら、今度こそ僕はこの身体を犠牲にしても感情を代償にしてでも…絶対に護り抜く、絶対に……!」
・・・
602 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:59:44 ID:B3l
今日はここまでです
女王の言葉を理解できても目の当たりにした惨状を振り払えないヘンゼル
ヘンゼルとグレーテル。キジも泣かずば編 次回に続きます
603 :名無しさん@おーぷん :2015/09/07(月)00:06:24 ID:0YO
乙です!
うぅ…。ヘンゼルの気持ちもわかるけど………。
続き待ってます!!
605 :名無しさん@おーぷん :2015/09/07(月)02:13:58 ID:sbn
>>1さん乙です!
女王の言葉が胸に染みました…
こんな時に青い鳥だとかが現れたらと思うと怖ろしい…
ヘンゼル達に幸あれ
とにかく報われて欲しいです
次回も楽しみにしています!!
606 :名無しさん@おーぷん :2015/09/07(月)06:43:05 ID:mMj
乙です
何だかキモオタが恋しいw
616 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/11(金)23:26:40 ID:apV
それから月日は流れ……
雪の女王の世界 雪の女王の宮殿 キッチン
・・・
カイ「お前が書庫に居ないなんて珍しいと思えばこんなところに居たのかグレーテル」ガチャッ
グレーテル「あっ……カイお兄ちゃん……どうしたの……?」カチャカチャ
カイ「お前、治癒系の魔法について調べたいって言ってただろ?いくつか参考になりそうな魔法書が見つかったから渡してやろうと思ってな」
グレーテル「ありがとう……お千代ちゃんや女王さまには内緒で調べたかったから……持ってきてくれて嬉しいの……」
カイ「内緒だって言ってもよ、あの二人お前が魔法の勉強してる事知ってると思うぜ?何も言わねぇだけで」
グレーテル「そうかな……?でもお千代ちゃんも女王さまも私が魔法の勉強してるって知ったら、心配して止めるんじゃないかな……?」
カイ「お前が夢中になって勉強してるの知ってるから止められねぇんだろ。それにお前はもうあんな無茶しないって信じてるんだろうぜ」
グレーテル「うん、もう無茶な魔法の使い方はしないよ……でも少ない魔力で傷を治す魔法が使えたら……みんなが怪我しても私が治してあげられるでしょ……もしそんなふうにできたらすごく嬉しい……私もみんなの役に立ちたいもん……」
カイ「それで治癒魔法か…まぁ周りに迷惑かけない程度に頼むぜ。それよりもお前は今日のメシ当番じゃないだろ?何を作ってるんだ?」
グレーテル「卵料理作ってるの……これは、えっと……潰したゆで卵……?」
カイ「潰したゆで卵は料理じゃねぇ。しかしなんだこれ……なんでこんな大量のゆで卵潰してんだお前。何の儀式かと思ったぞ……」
グレーテル「儀式じゃないよ……お料理だよ……カイお兄ちゃん……あれ、見て……」スッ
617 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/11(金)23:28:20 ID:apV
ヘンゼル「…殻だけ割るイメージ…ゆで卵の殻だけ割るイメージ。殻だけ…中身は傷付けない、エッグスタンドも壊さないように……」ブツブツ
カイ「……なんでゆで卵とにらめっこしてんだあいつ」
ヘンゼル「……っ」スッ
パキッパキパキッ
ヘンゼル「よし…!綺麗に割れたっ、少しずつコントロールできるようになってきたぞ。あっ、グレーテル!このゆで卵も潰してくれるかな?」スッ
グレーテル「わかった……今日はたまごサラダたくさん食べられるね……」カチャカチャ
ヘンゼル「十分すぎるくらいにね。さて、今日は女王が居ないから直接教えて貰えない分キチンと練習しないと。えっと、次の卵は…」スッ
カイ「おい待て、宮殿の卵使い果たすつもりか。何してるんだお前」
ヘンゼル「あれ、カイ来ていたの?なにって、魔力コントロールの練習だよ。卵使うのも魔力使うのも女王には許可貰ってる」
グレーテル「女王さまからの宿題……中身のゆで卵やエッグスタンドを傷付けずにゆで卵の殻だけ魔力で割るんだって……」
ヘンゼル「最初はちょっと苦戦したけどもう慣れてきたよ。食べ物で特訓するなんて嫌だったけど…でも魔力のコントロールにはこの方法が一番らしいから仕方ないよ」
カイ「どうでもいいけどなぁ…お前この間制御しくじって書庫の壁壊しただろ?あんなのはもう勘弁しろよ、広いところでやれ広いところで」
ヘンゼル「平気だよ、魔力のコントロールには慣れてきてる。例え一日中グレーテルと手をつないでいても魔力を流し込むかどうかは僕自身で調整ができる、もうあの日のような失敗はしないよ」
カイ「そうかよ、まぁ俺の読書の邪魔しねぇならいいさ。どうでもいいけどよ、このゆで卵五人で食いきれるのか?俺はあんまりゆで卵って好きじゃねぇんだ」
ヘンゼル「そんな事言わないでさ、悪いけど付き合って貰うよ?頼むよカイお兄ちゃん」フフッ
カイ「テメェはまた都合のいい時ばっかりそんな呼び方しやがって……まぁいい、その程度の協力ならしてやるか」
・・・
618 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/11(金)23:30:02 ID:apV
ヘンゼル(パパさんが人柱にされたあの日からどれくらいの月日が流れただろうか)
ヘンゼル(安静にしていたおかげでグレーテルは何日か後にはもう普段通りの生活ができるまで回復していた、後遺症も特に残らなかったのは女王の処置が適切だったからだと思う)
ヘンゼル(グレーテルが元気になってから僕達二人は改めて女王の部屋を訪れた。心配を掛けた事と勝手に宮殿を出ていった事、そして言いつけを破った事を謝った。そしてこれからも一緒に居たいことも伝えた)
ヘンゼル(勝手な事をして迷惑を掛けた事は叱られたけれど、女王は優しく微笑んで僕達を抱きしめてくれた)
ヘンゼル(宮殿には新たな家族としてお千代を迎え、五人になった家族は幸せに暮らしていた。宮殿は極寒の大地にそびえていたけれど、僕は寂しさや辛さを感じた事は無かった)
ヘンゼル(助けあったり、ふざけ合ったり、笑いあったりして…僕達は長い長い時間を共に過ごしていた。平和で、すごく幸せな毎日だ)
グレーテル「……私にもっとすごい魔法が使えたら……卵元通りに出来たりするのかな……?」
ヘンゼル「駄目だよ、例え出来ても僕は魔力を貸さないからね?」
グレーテル「わかってる……でもちょっぴりの魔力なら平気なのに……お兄ちゃん心配性なの……」
ヘンゼル(グレーテルはあの日から少しずつ魔法について勉強している。正直、僕は今すぐに辞めさせたいけど…)
ヘンゼル(確かに少しの魔力で使える魔法なら身体への負担も少ないようだし、魔法の素質があるグレーテルなら一般的には弱い魔法でも強力な効果を得られるらしい)
ヘンゼル(とはいえ僕はグレーテルには魔法を使うのはやっぱり控えて欲しい、なにせそのせいで死に掛けたんだから。だけど頑張って魔法の勉強をしているグレーテルの姿をみると、どうにも強く言いだせない)
ヘンゼル(本人は家族の役に立ちたいという一心で勉強をしているから頭ごなしに止めるのも気が引ける。どっちにしろ僕が魔力を貸さなければ滅多な事は出来ないから、僕はもうなにも言わないようにしている)
ヘンゼル(きっと、魔法を使う事が危険だと言う事はグレーテルも理解してるんだと思うし…そのうえで家族の為に勉強しているというのはきっとそれほど僕達の事を大切にしてくれてるからだ)
ヘンゼル(だから、僕も同じ時期から魔力のコントロールの訓練を始めた。もうグレーテルを傷付けない為に)
619 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/11(金)23:33:14 ID:apV
ヘンゼル(僕には魔力を扱うセンスも魔法を行使する素質もまるでない。でも鍛錬を続けていれば魔力を打ち出す度に腕を潰さなくても済むくらいにはコントロールできると女王に聞いた)
ヘンゼル(何度も言うようだけど僕にはセンスも素質もない。それでも努力は無駄じゃなかったようで女王の厳しい特訓は魔力のコントロールを可能にした、まだ全然完全ではないけれど)
ヘンゼル(特訓は容易いものじゃなかったけどグレーテルが努力してるんだ、僕だけ何もしないわけにはいかない。それに僕だって全て守れるくらい強くなりたいって気持ちはあるんだ)
カイ「しかし、女王とお千代は今日も二人で外出か。最近多いと思わないか?どこで何してるんだかしらねぇけど、外出が多いのは気になるよな」
グレーテル「カイお兄ちゃん……やきもち、良くないよ……?」
カイ「違ぇよ。俺は心配してるんだ、どっかの兄妹みてぇに急に居なくなって迷惑かける奴もいるからな。なぁ?ヘンゼル、グレーテル」
グレーテル「カイお兄ちゃんイジワルなの……その話出すの……ズルイ……」プクーッ
ヘンゼル「随分経つのにいつまでたっても言われてるよね……もうずっと言われるパターンだよ、これ」
ガチャ
遠くに聞こえるお千代の声「ただいま戻ったんよー、みんなどこにおるんー?」スタスタ
ヘンゼル「噂をすればだね。帰ってきたみたいだ。お千代ー!僕達はキッチンに居るんだ。キミもおいでよ!」
ヘンゼル(魔法の勉強をしたり、魔力のコントロールを学んだり…僕とグレーテルはあの日を境に以前とは大きく生活が変わった。だけど、年齢も外見も変わっていない)
ヘンゼル(女王が言っていたように【ヘンゼルとグレーテル】で年齢の変化が無い僕達はこれ以上年齢を重ねる事は無い、それはカイも同じで年月は経っても三人とも子供のままだ。だけどお千代だけは違った)
成長したお千代「ヘンゼル、グレーテル!それにカイ、ただいま!お土産買って来たから、みんなで一緒に食べるんよ」ニコニコ
ヘンゼル(前は僕達と変わらないくらいの年齢だったのに、お千代はすくすく成長して今ではすっかりお姉さんだ)
620 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/11(金)23:35:22 ID:apV
成長したお千代(以下、お千代)「それにしてもヘンゼルは一人でも魔力のコントロールの訓練頑張ってて偉いね、ご褒美にナデナデしてあげるんよ」ウフフ
ヘンゼル「遠慮しとくよ。それよりお千代って最近女王様に似てきたよね。唐突に撫でようとするところとか」
お千代「そうなんかな?もしかしてヘンゼルはうちに撫でられるんいやなん?」
ヘンゼル「嫌じゃないけど、なんだか変な感じなんだよ。なんというかこう、もやっ…とするんだ」
ヘンゼル(慣れはしたけど僕にとってお千代は妹のような存在だ。だから目の前にいる綺麗な黒髪のお姉さんがお千代だというのはいつまでたっても少し不思議な感じがする)
グレーテル「お姉ちゃんになったお千代ちゃん……私はもう慣れちゃった……それに私、どんな姿になってもお千代ちゃんの事大好き……だからナデナデしていいよ……?」
お千代「うふふ、うちもグレーテル大好きなんよ。もちろんヘンゼルの事もカイの事も好きなんよ、だからカイもナデナデしてあげるんよ」ウフフ
カイ「おいやめろ。外見はお前の方が年上に見えるとしても本当は俺の方が年上なんだ、妹分が兄貴の頭撫でるとかありえねぇだろ」
お千代「うふふ、カイは相変わらず厳しいんよ。それじゃあ妹らしくお兄ちゃんの為にお茶を入れてあげるんよ。グレーテル、手伝ってほしいんよ」スッ
グレーテル「うん……わかった……」スッ
ヘンゼル(女王が言うには……)
雪の女王『お千代は【キジも鳴かずば】のおとぎ話の中では幼い子供だ。しかし、そのおとぎ話の結末でお千代は大人へと成長した姿でキジを撃ち落とした猟師の目の前に現れる』
雪の女王『おとぎ話の住人は基本的に歳を取らない。けれどお千代のように物語の結末までに年齢を重ねる人物の場合は別の世界に居ても一定の年齢までは成長する』
ヘンゼル(ということだった。とはいっても、年齢が変わったから姿が変わったからといっても特に僕達の関係に変化があるわけでもなかった)
ヘンゼル(子供だろうが大人だろうがお千代はお千代。僕の大切な家族の一人、その事には変わりが無いんだ)
621 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/11(金)23:37:08 ID:apV
雪の女王「お千代は本当に働き者だな、今日は疲れただろうに」フフッ
ヘンゼル「おかえり。お千代がお茶入れてくれてるから女王も入ってきたら?」
雪の女王「フフッ、キミ達はあれか?もしかして私を避ける為にわざわざキッチンに集まっているのか?隣の部屋に立派な食卓があるだろうに」フフッ
カイ「パーティや茶会ならまだしもちょっと茶を飲むくらいならキッチンで済ませるだろ。冬を司る魔女が湯を沸かす程度の火にビビるなよ」
雪の女王「フフッ、キミは相変わらず失礼だな、私はただ熱が籠り易い場所にはあまり居たくないだけだよ。お千代、すまないが私にはアイスコーヒーを頼む」スッ
お千代「はーい、女王は本当に冷たい飲み物好きなんね。宮殿は寒いから身体を冷やさないようにしないといけないんよ?」カチャカチャ
雪の女王「気づかいはありがたいが私は雪の女王だ。身体が冷えていれば冷えているほど…大気が冷たければ冷たいほど力が増すんだ。だから身体が冷えるのは好都合だ」
お千代「そう言われればそうかも知れんね、じゃあ女王様には冷たいコーヒーと…ヘンゼルとカイには温かい紅茶なんよ」スッ
カイ「おう、悪いな。俺はこいつと違ってこんな場所で冷たいもんなんか馬鹿馬鹿しくて飲む気しねぇからな、こっちの方がありがたいぜ」ズズー
ヘンゼル「またカイはそんな憎まれ口を叩いて…素直に美味しいって事だけ言えば良いのに」
雪の女王「フフッ…この方がカイらしいじゃないか、私は嫌いじゃないぞ?ただあまり口が過ぎるのは感心しないな、愛しい家族が一人氷漬けになるのは私も辛い」フフッ
グレーテル「ねぇ女王さま……私ね……宮殿のエントランスががらんとしててなんだか寂しいと思う……氷像つくるなら……そこに飾ったらいいと思うの……」チラッ
雪の女王「そうだな、私も同じ考えだ。口の悪い少年の氷像なんてどうだろう、寂しいエントランスがグッと賑やかになる」クスクス
カイ「グレーテルお前…さっきの仕返しかそれは、女王に余計な事吹き込むんじゃねぇよ」
グレーテル「気のせい……何度もあの日の事言われるの嫌だからカイお兄ちゃんにシカエシしたとか……そういうんじゃないよ……全然違うよ……」
お千代「うふふ、みんな仲良くしなきゃいけないんよ?ほらほら、みんなでおみやげのお菓子食べるんよ、今日のおみやげは街で噂のチョコレートなんよ」ガサガサ
622 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/11(金)23:39:30 ID:apV
グレーテル「チョコレートおいしい……チョコレートは甘いから大好き……ビスケットの次に好き……」モグモグ
お千代「グレーテルは美味しそうに食べてくれるからうちも嬉しいんよ。カイはビターチョコレートが好きだったと思うんよ、はい」スッ
カイ「おっ、悪ぃな」パクッ
雪の女王「家族相手でも気づかいを忘れない精神、立派だな。これも私の教育の賜物というわけだ」フフッ
お千代「うふふ、それならうちは女王様にもっと感謝しないといけないんよ」ウフフ
ヘンゼル「…ねぇ、女王にお千代。さっきカイも気にしてたんだけどさ…近頃よく女王と二人で出掛けるけど、どこに行ってるの?」
雪の女王「どうしたヘンゼル、藪から棒に」
ヘンゼル「いや、本当は前から気になってはいたんだよ。最近は結構頻繁に二人で出掛けるし、何かあるのかなって思ってね」
グレーテル「私も……気になってた……おみやげのお菓子も楽しみだけど……どこに出かけてるのかも気になってたの……」モグモグ
お千代「うーん…えーっと、えっとね……」
カイ「なんだ?俺達には言えないような場所なのかよ?」
お千代「そういうわけじゃないんよ?でも……女王様……うち、どうしたらいいかわからないんよ……言っていいのかな?」チラッ
雪の女王「隠すような事じゃないだろう。それにいずれは話さないといけない事だ、キミが良いのならこの場で全て話せばいいさ。むしろ良い機会だ」
お千代「うん、えっとね……三人には言ってなかったんけど……うち、どうしてもやりたいことがあってね。近頃よく出掛けてたのはその為の準備を女王様に協力してもらってたからなんよ」
お千代「それでね、うちがやりたい事はここにいたら出来ない事なんよ。だから…うちはこの宮殿を出ていく事に決めたんよ」
ヘンゼル「それは違うじゃないか!パパさんは罪を犯していないのに罪人として殺された!村の連中はパパさんを見殺しにした悪人…パパさんを見捨てた罪人じゃないか!殺されて当然じゃないか!」
雪の女王「本当にそうか?弥平を見殺しにしたとは言うが、罪人として扱われている弥平を庇うという事が小さな村に住むただの村人にとってどれだけ大変な事かわかっているだろう?下手をすれば自分に罪が及ぶ」
ヘンゼル「それでも、誰かがパパさんを信じて無実を主張すれば人柱は中止になったかもしれないじゃないか!自分が罪をかぶるのが嫌だからパパさんの味方をしなかった、それは悪じゃないの!?」
雪の女王「誰かの味方を出来ない事は必ずしも悪ではないよ。自分や家族を護る為の行動を自分勝手というのなら、私もキミも相当に自分勝手な人間だ」
ヘンゼル「……」
雪の女王「確かに弥平が人柱にされた理由は理不尽なものだ、大好きな弥平を失ったキミやグレーテルが頭に血を登らせてしまうのも理解できる」
雪の女王「だがな、大好きな人を殺されたからなりふり構わず殺して村やおとぎ話を消滅するというのは…あまりにも身勝手だ」
ヘンゼル「じゃあどうすればよかったの!?僕達は理不尽な理由で家族を失ったんだ!僕がどう行動すればお千代とグレーテルを悲しみから守る事が出来たの?教えてよ女王!」
雪の女王「残念だが人の死には必ず悲しみが付きまとう、弥平の死は事実として受け入れるしかない。残されたものは愛する者の死を受け入れる責任がある。だがそこで復讐の為に他人を殺せば憎しみは連鎖する、それはやってはいけない事だ」
ヘンゼル「それじゃあお千代やグレーテルの悲しみはどうなるんだ!パパさんの無念は誰が晴らすの!?大好きな人が殺されてしまったならその原因になった奴らを殺すしかない!」
ヘンゼル「殺してしまえばそいつらが僕達を苦しめる事はもう無い!恨みの原因を潰すには殺すのが一番確実じゃないか、僕はそれしか復讐の方法を知らない!」
雪の女王「ヘンゼル…憎しみというのは伝染する、復讐では憎しみも悲しみも晴らせない…新たな憎悪を生みだすだけだ。だから殺すような復讐はしちゃいけない」
ヘンゼル「なんだよそれ…僕の家族は幸せになれないけど他人は殺すなって事?じゃあ結局貧しい人間や弱い奴等は無き寝入りしろって事じゃないか!」
雪の女王「泣き寝入りじゃない。復讐なんかしなくても殺された人間の無念を晴らす事は出来る、それに復讐なんかじゃ悲しみは癒せない」
ヘンゼル「理解出来ないよ…全然理解出来ない!大好きなパパさんを殺されても我慢しろって言うのが女王の考えなの!?結局、僕達はどこに逃げたって誰かに利用される運命だってことじゃないか!」
ヘンゼル「あぁ、そうか、前からそうだったね……僕はグレーテルや女王とカイ、パパさんやお千代との生活が楽しくて忘れかけてた。でも、思い出したよ」
ヘンゼル「なんだかんだ言っても僕達は現実世界の作者に作られた存在なんだ、あいつ等の良いように利用される為に作られた存在なんだ。だから不幸になる事を決められている以上、結局幸せになんかなれない…!」
595 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:44:29 ID:B3l
雪の女王「ヘンゼル…それは違う、作者は私達を利用する為に生み出したりしていない」
ヘンゼル「何が違うっていうの!?作家っていうのは話を作って金を稼ぐ仕事でしょ?おとぎ話だってそいつらの金稼ぎの道具にすぎないじゃないか!結局はそれに利用されてるんだ、違う?」
雪の女王「断言する、それは絶対に違う。キミ達は作者に利用なんかされていない。キミ達の作者だってキミ達にハッピーエンドを用意していたじゃないか、忘れてしまったのか?」
ヘンゼル「ハッピーエンド!?【ヘンゼルとグレーテル】がハッピーエンドだって本気で言ってるの?」
ヘンゼル「僕達は貧しくひもじい生活の果てに親に捨てられた!二度もだよ!そのうえ魔女に利用されて僕は一カ月も監禁されて、グレーテルは奴隷扱いだ!」
ヘンゼル「その結末が魔女の宝石を奪ってあの父親ともう一度幸せに暮らしました。だよ?それのどこが幸せなんだ、僕やグレーテルが受けた悲しみや苦しみはそんな宝石なんかで埋められない」
ヘンゼル「しかも、あんな信用の出来ない男ともう一度暮らす事が僕達の幸せだと本当に思ってるの?例えお金があったとしても飢饉には違いないんだ、またすぐに食べ物は尽きて僕達は捨てられる」
雪の女王「家族と一緒に居られる事は幸せな事だ。しかし、大飢饉であるあの時代…キミの世界ではそれは当然なことではなかった」
雪の女王「口減らし、餓死、悪化していく治安の中で命を落としたり離れ離れになったり…家族が離散する事が珍しくない世界で、一緒に暮らせる事は幸せな事だ」
ヘンゼル「それがあんな父親でも?馬鹿げてるよ、だったら作者は僕達を捨てさせなければいい!飢饉なんていう設定にしなければ良かったんだ!作者になら出来たはずだ、それなのにしなかったのは僕達を利用する為じゃないか!」
ヘンゼル「悲惨な兄妹の物語の方が盛り上がるから、有名になれるから、本が売れるから、金儲けができるから…だから僕達を幸せにするつもりなんか無いんだよ、そりゃそうだよね作者に取ったら僕達の存在はただのフィクションだ、ただの創作なんだから!」
雪の女王「キミは作家を…作者を誤解している、富や名声の為だけに物語を綴った作者も確かに存在した。だが少なくともキミ達のおとぎ話の作者の一人、ヴィルヘルムはそんな男ではなかった」
ヘンゼル「ヴィルヘルム・グリムか。確か……僕達を不幸にした二人の作者、グリム兄弟の弟の方だったっけ?」
雪の女王「ああ、私はキミがこの世界に来た時【ヘンゼルとグレーテル】をキミが消滅させたと聞いてヴィルヘルムに申し訳なかった。おとぎ話に込められた人々の想いまで消えたからだ」
ヘンゼル「人々の想い…?」
雪の女王「民間伝承。という言葉を知っているか、ヘンゼル?」
596 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:46:26 ID:B3l
ヘンゼル「民間伝承…って、村や町の人の間で語られてる、言い伝えとか昔話みたいな…そういうものの事でしょ?」
雪の女王「概ね正解だ。おとぎ話は無数に存在するがその成り立ちはいくつかの種類に分けられる、ひとつは作者が展開や設定や結末全てを自作した『創作童話』というおとぎ話」
雪の女王「この【雪の女王】や【マッチ売りの少女】がそれにあたる。別の作者の作品ならば【不思議の国のアリス】や【オズの魔法使い】もこの創作童話だ」
雪の女王「それとは別の形式が民間伝承のおとぎ話だ。これは民話や昔話に多い、『桃太郎』や『舌切り雀』がそうだ」
ヘンゼル「それがなんなの?創作童話だか民間伝承だか知らないけど、現実世界の人間が作った事には変わりないでしょ?」
雪の女王「【ヘンゼルとグレーテル】は創作童話と民間伝承の中間と言えばいいだろうか。キミ達のおとぎ話が収録されているグリム童話集は、ある国に民間伝承として伝えられていた物語をヤーコプとヴィルヘルムが手を加えて書籍にしたもの」
雪の女王「キミ達の作者はグリム兄弟だ、しかしその物語の大本は昔からその国の人々が口伝えで語り継いできたもの…なぁヘンゼル、何故語り継がれてきたかわかるかい?」
雪の女王「何故その国の人々はキミ達兄妹の話を何年も語り継いだと思う?ヤーコプとヴィルヘルムは何故、キミ達の物語をおとぎ話として残そうと考えたと思う?」
ヘンゼル「そんなの…知らないよ。現実世界の奴らの考えることなんかわからない」
雪の女王「忘れてはいけないからだ。自分達が経験した辛い出来事や悲惨な歴史の真実を…時の流れに埋もれさせない為に語り継ぐんだ」
ヘンゼル「悲惨な歴史を忘れない為…?なにそれ…それじゃあまるで、僕達のおとぎ話での出来事が現実世界で実際にあった出来事みたいじゃないか」
雪の女王「そうだ。キミ達の境遇は現実世界で起きた出来事が元にされている」
雪の女王「長く続く飢饉。不足していく食料、それによって強いられる口減らし。子捨て。それは何も【ヘンゼルとグレーテル】の世界だけの出来事じゃない」
雪の女王「遠い遠い昔、現実世界でも実際に起きた出来事だ」
597 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:47:50 ID:B3l
雪の女王「現在の現実世界は当時と比べれば相当豊かになった。地域や国での格差はあるが、肩書も階級も持たない一般人でも食料に困らず生活できる国も多い」
雪の女王「しかし、グリム兄弟が生きていた当時よりずっと以前は…農耕技術も機械も発達していなかった。その上、その国は痩せた土地も多かったと聞く」
雪の女王「その国は長い間飢饉に悩まされていたんだ。当然食べ物は無い、子供に食べさせられず苦渋の選択として子捨てを選ぶ者もいただろう」
雪の女王「飢饉、食糧難、犯罪、口減らし、子捨て…そういう行為が横行した。現実世界でもキミ達の様に多くの子供が捨てられたり、餓死していったんだ。キミ達と同じ境遇の子供たちがたくさんいた」
ヘンゼル「……」
雪の女王「やがて農耕技術が進み、荒れた大地でも育つ芋や野菜が見つかり飢饉は解消されていった。口減らしも子捨ても行われる事は無くなった。だがその記憶を薄れさせてはいけないと人々は考えた」
雪の女王「時が経ち農耕技術や輸送技術が発達すればいずれ食糧難になる事もそうそうなくなるだろう、文明や経済の発達した未来では口減らしも子捨ても無くなるだろう」
雪の女王「いつかは飢饉や口減らしなんて事が現実的じゃない世の中が来る。飢饉で苦しんだ多くの人々や、捨てられたたくさんの子供の苦しみもいつかは忘れられる」
雪の女王「それではいけない、辛い歴史の記録として大飢饉の事実は後世に残さないといけないと人々は考えた。歴史の真実、辛い現実を糧として生きる為に」
ヘンゼル「…現実世界の人間は自分達を襲った大飢饉での悲惨な歴史を後世に伝える為に、僕達のおとぎ話を作ったの?」
雪の女王「私がかつて現実世界に赴いたときヴィルヘルムに聞いた事が真実ならば、そうなるな」
ヘンゼル「おとぎ話を盛り上げる為のただの設定じゃなかったんだね…僕は現実世界の人間が自分の私利私欲のために悲惨な境遇の僕達を作って利用したとばかり考えていたけど」
雪の女王「確かに童話集の作者としてグリム兄弟は富も名声も得ていたけど、それは私利私欲のためという訳ではなかったよ」
雪の女王「兄弟は少し変わり者だったが…特に弟のヴィルヘルムは私達からすれば少し信じられない事を口にしていた」
598 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:49:41 ID:B3l
ヘンゼル「何を言っていたの?その、ヴィルヘルムは」
雪の女王「ある時、ヴィルヘルムはグリム童話の加筆修正作業を行っていた。そのおとぎ話は…大飢饉の末に両親に捨てられる兄と妹のおとぎ話だった」
ヘンゼル「それって…僕達の事だよね?」
雪の女王「ああ、ヘンゼルとグレーテル…キミ達の事だな。だがその兄と妹は実の父親と……実の母親に捨てられたんだ。キミ達の様な継母じゃなく、実の両親に捨てられた」
ヘンゼル「? …僕達とは、別のおとぎ話なの?僕とグレーテルを捨てたのは実の父親と継母だよ?」
雪の女王「いいや、キミ達のおとぎ話【ヘンゼルとグレーテル】だ。ヴィルヘルムが加筆修正する以前、元々のキミ達は父親と継母じゃなく実の両親に捨てられるという内容だった」
ヘンゼル「…なんでそこだけ変えたの?そんな細かい修正、必要なの?現実世界の奴らの考える事なんてやっぱり良くわからない」
雪の女王「私は気になってヴィルヘルムに聞いたよ、何故二人が捨てられるという運命は変わらないのにそんな細かい部分を変えるんだ?とね、すると彼はこう答えた」
ヴィルヘルム『飢饉が生んだ悲劇のせいでヘンゼルとグレーテルはこの後、捨てられて魔女に襲われてしまう。しかし、自分達を捨てたのが実の両親だというのはあまりに悲惨すぎる』
ヴィルヘルム『せめて…継母の口車に乗せられて捨てられたという内容の方が…少しでも、彼らの心の救いになるだろう』
ヘンゼル「……」
雪の女王「作者といえどもキミ達の境遇を変える事は出来ない。いや、作者だからこそ変えてはいけなかったんだ。キミ達の辛い境遇は、かつての現実世界の人々が経験した歴史の真実……それを捻じ曲げては意味が無い」
雪の女王「それでもヴィルヘルムはせめてキミ達の心の救いになればと思って、その部分を修正した」
雪の女王「彼は当然、おとぎ話の世界が存在する事なんか知らない。自分の書いたおとぎ話はあくまで作品の一つ、それなのに彼は主人公のキミ達の為に内容を変更したんだ」
ヘンゼル「…そんな些細な変更、何になるっていうんだ。実母だろうと継母だろうと僕達が捨てられたことに変わりないんだ」
雪の女王「確かに些細な変更だ、キミ達が実の母親に捨てられようと継母に捨てられようとおとぎ話の内容や現実世界の人間にたいした影響は無い」
雪の女王「だがキミ達にとっては大きな違いじゃないか?優しい母親に捨てられるのと意地悪な継母に父親をそそのかされて捨てられるのとでは随分と意味が違うと思うが」
ヘンゼル「…まぁ、そうかもしれないけど」
雪の女王「キミは書庫にあるグリム童話をいくつも読んだだろう?ならばわかるはずだ、ヤーコプとヴィルヘルムはキミ達の様な罪のない子供が悲しい経験や辛い結末を与えるおとぎ話ばかり書いていたか?」
ヘンゼル「…いいや、そんな事は無かったよ。【星の銀貨】みたいに優しい女の子が幸せになるおとぎ話もあったよ」
雪の女王「そうだろうな、グリム童話集には百以上もおとぎ話がある。【星の銀貨】の様な救いのあるおとぎ話もあれば【トゥルーデおばさん】のような悲惨なおとぎ話もある」
雪の女王「ヘンゼル、グリム童話に限らずおとぎ話には存在する意味がある。作者がおとぎ話を生み出すのは私達を不幸にする為でも幸せにする為でもない」
雪の女王「誰かに何かを伝える為。その為に作者はペンを取り、私達はその為に生み出された」
ヘンゼル「何かを伝える為に、僕達おとぎ話の主人公は生み出された…パパさんやお千代も、そうなの…?」
雪の女王「ああ、そうだ。そして私達に込められた作者の想いは何十年何百年も先の未来であろうと何千何万キロ離れた別の国だろうと届けられる、言葉や人種の壁など容易く乗り越えてな」
雪の女王「だから辛い境遇を我慢しろ、なんて言わない。だがなヘンゼル、少しは世界の見え方が代わってくるんじゃないか?」
ヘンゼル「……」
雪の女王「キミ達は必要とされて生まれてきた。確かに辛い運命を強いられていると感じるかもしれない、しかしそれは作者が誰かに伝えたい大切な事だ」
雪の女王「今のキミにそれを理解して受け入れろと言うのは少々酷かもしれない。だから、焦る必要は無い私の元のゆっくりと成長していけばいい、キミが慕う弥平の様な心優しい人間に」
ヘンゼル「…わかった。しばらくはお千代の所にはいかない。グレーテルの側に居るよ」
雪の女王「そうか、ならば足元の氷は溶かしておこう。ヘンゼル、キミには時間がたくさんある、悩んで悩んでキミが鳴りたいと思う人間になると良い。それじゃあ、おやすみ」パタンッ
600 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:52:09 ID:B3l
雪の女王の宮殿 廊下
カイ「珍しいな、あんたがあんな事まで喋るなんて」
雪の女王「…なんだカイ、盗み聞きなんて趣味を始めたのか?それじゃあグレーテルやお千代に近づけさせられないな」フフッ
カイ「人を変態のように言うな。お千代に着替えを渡して、あんたに言われた事は住ませたから報告に来たんだ。まぁ確かにお前達の話は聞こえちまったけどな。ヴィルヘルムの事、初耳だぜ」
雪の女王「誰にも言うつもり無かったからな。本当はヴィルヘルムが加筆修正をしたことも、【ヘンゼルとグレーテル】の成り立ちも…言わないつもりだったんだが、話す事になってしまった」
雪の女王「下手におとぎ話の成り立ちや作者が込めた気持ちに関して詳しく話してしまうと、ヘンゼルとグレーテルがいつかおとぎ話を大切に思えるようになった時、自分達のおとぎ話を消してしまった事に責任を感じるかもしれないからな」
カイ「まぁ、確かにそういう事もあるかもしれねぇけどな。で、それじゃあなんで言ったんだ?」
雪の女王「このままだとヘンゼルは憎悪を手放せなくなると思ったからな」
雪の女王「彼にとって作者は自分やお千代を悲惨な運命に縛り付ける輩だった。弥平にお千代、そして多くのおとぎ話で辛い思いをする登場人物のためにヘンゼルは悲しみ、そして憤るだろう」
雪の女王「ヘンゼルはまだ悲しみを正しく受け止める事も憎悪を飼いならす事も出来ない。他人の為に悲しんだり怒れる事は良い事だ、しかしその感情を制御しきれないとなるとそれはとても恐ろしい」
カイ「まぁ、実際問題…ヘンゼルが暴れたのは弥平やお千代の為だもんな。つっても、それで村を焼き払うってのは過激すぎる。確かに何度もこんな事してたら洒落にならねぇな」
雪の女王「方法を知らないんだ、彼は。正しい怒り方を知らない、正しい悲しみ方を知らない、そして正しく他人を信用する方法を知らない」
カイ「だから作者が悪い奴じゃないぞって事、とりあえず教えてやったのか。少しでもあいつの憎悪を和らげるために」
雪の女王「ああ言えば彼も少しは作者の事を見直すだろう。本当は彼自身が気づく方が良い、しかし期を逃せばヘンゼルは戻れないところまで行ってしまうと思ったんだ」
カイ「まぁこう言うのもなんだが……このままだとあいつは大人や現実世界の奴を憎しみ過ぎてとんでもない事しでかすような気はするけどな」
雪の女王「それは防ぎたい、彼の為にもな。だが私に出来るのはこのくらい、あまり私の考えを押し付けすぎるのは間違っていると思うんだ。だからあとはヘンゼルが成長するのを見守るだけ……」
雪の女王(どれだけ時間がかかっても良い、私に手伝える事ならば手助けする。だからキミが望む正しい大人に成長してくれ、ヘンゼル)
601 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:56:20 ID:B3l
雪の女王の宮殿 ヘンゼルとグレーテルの部屋
グレーテル「……スゥスゥ」スヤスヤ
ヘンゼル「……僕は、どうすればいいんだろうね。グレーテル」ナデナデ
ヘンゼル「女王は心配を掛けた上に無茶苦茶した僕をまだ家族だと言ってくれた。そんな女性が言うんだ、作者にだって良い大人はいるんだと思う」
ヘンゼル「でも、たとえそうだとしても…ヴィルヘルムが僕達の為に救いを与えてくれたのだとしても……やっぱり、僕は……」
ーーグレーテル「ねぇ、お兄ちゃん…私達、本当に捨てられちゃうの…?」ポロポロ
ーーグレーテル「……お兄ちゃん、私……頑張ったよ……頑張って……あの魔女、殺したの……」
ーー弥平「いいか、お前等と父ちゃんはここでお別れだ!オラはちょっくら犀川の神様のご機嫌取りに行ってくるからよぉ…しっかり協力して立派な大人になれ、いいな?」
ーーお千代「……っ!そんなことされたら父ちゃん死んじゃうんよ……!ばあちゃん、離して欲しいんよ!父ちゃんを助けるんよ!」ジタバタ
ーーお千代「だからうちはもう…何も喋らない方がいいんよ…」ポロポロ
ヘンゼル「許せない……例え善人だとしてもグレーテルやお千代に辛い運命を押し付けた作者を……僕は許す事は出来ない」
ヘンゼル「今回は僕が未熟なせいでグレーテルにも辛い思いをさせて女王やカイにも心配を掛けた。だから、もっと強くなろう……強くなって何もかも守れるようになるんだ」
ヘンゼル「そしていつか僕の家族を脅かす大きな悪が現れたら、今度こそ僕はこの身体を犠牲にしても感情を代償にしてでも…絶対に護り抜く、絶対に……!」
・・・
602 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/06(日)23:59:44 ID:B3l
今日はここまでです
女王の言葉を理解できても目の当たりにした惨状を振り払えないヘンゼル
ヘンゼルとグレーテル。キジも泣かずば編 次回に続きます
603 :名無しさん@おーぷん :2015/09/07(月)00:06:24 ID:0YO
乙です!
うぅ…。ヘンゼルの気持ちもわかるけど………。
続き待ってます!!
605 :名無しさん@おーぷん :2015/09/07(月)02:13:58 ID:sbn
>>1さん乙です!
女王の言葉が胸に染みました…
こんな時に青い鳥だとかが現れたらと思うと怖ろしい…
ヘンゼル達に幸あれ
とにかく報われて欲しいです
次回も楽しみにしています!!
606 :名無しさん@おーぷん :2015/09/07(月)06:43:05 ID:mMj
乙です
何だかキモオタが恋しいw
616 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/11(金)23:26:40 ID:apV
それから月日は流れ……
雪の女王の世界 雪の女王の宮殿 キッチン
・・・
カイ「お前が書庫に居ないなんて珍しいと思えばこんなところに居たのかグレーテル」ガチャッ
グレーテル「あっ……カイお兄ちゃん……どうしたの……?」カチャカチャ
カイ「お前、治癒系の魔法について調べたいって言ってただろ?いくつか参考になりそうな魔法書が見つかったから渡してやろうと思ってな」
グレーテル「ありがとう……お千代ちゃんや女王さまには内緒で調べたかったから……持ってきてくれて嬉しいの……」
カイ「内緒だって言ってもよ、あの二人お前が魔法の勉強してる事知ってると思うぜ?何も言わねぇだけで」
グレーテル「そうかな……?でもお千代ちゃんも女王さまも私が魔法の勉強してるって知ったら、心配して止めるんじゃないかな……?」
カイ「お前が夢中になって勉強してるの知ってるから止められねぇんだろ。それにお前はもうあんな無茶しないって信じてるんだろうぜ」
グレーテル「うん、もう無茶な魔法の使い方はしないよ……でも少ない魔力で傷を治す魔法が使えたら……みんなが怪我しても私が治してあげられるでしょ……もしそんなふうにできたらすごく嬉しい……私もみんなの役に立ちたいもん……」
カイ「それで治癒魔法か…まぁ周りに迷惑かけない程度に頼むぜ。それよりもお前は今日のメシ当番じゃないだろ?何を作ってるんだ?」
グレーテル「卵料理作ってるの……これは、えっと……潰したゆで卵……?」
カイ「潰したゆで卵は料理じゃねぇ。しかしなんだこれ……なんでこんな大量のゆで卵潰してんだお前。何の儀式かと思ったぞ……」
グレーテル「儀式じゃないよ……お料理だよ……カイお兄ちゃん……あれ、見て……」スッ
617 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/11(金)23:28:20 ID:apV
ヘンゼル「…殻だけ割るイメージ…ゆで卵の殻だけ割るイメージ。殻だけ…中身は傷付けない、エッグスタンドも壊さないように……」ブツブツ
カイ「……なんでゆで卵とにらめっこしてんだあいつ」
ヘンゼル「……っ」スッ
パキッパキパキッ
ヘンゼル「よし…!綺麗に割れたっ、少しずつコントロールできるようになってきたぞ。あっ、グレーテル!このゆで卵も潰してくれるかな?」スッ
グレーテル「わかった……今日はたまごサラダたくさん食べられるね……」カチャカチャ
ヘンゼル「十分すぎるくらいにね。さて、今日は女王が居ないから直接教えて貰えない分キチンと練習しないと。えっと、次の卵は…」スッ
カイ「おい待て、宮殿の卵使い果たすつもりか。何してるんだお前」
ヘンゼル「あれ、カイ来ていたの?なにって、魔力コントロールの練習だよ。卵使うのも魔力使うのも女王には許可貰ってる」
グレーテル「女王さまからの宿題……中身のゆで卵やエッグスタンドを傷付けずにゆで卵の殻だけ魔力で割るんだって……」
ヘンゼル「最初はちょっと苦戦したけどもう慣れてきたよ。食べ物で特訓するなんて嫌だったけど…でも魔力のコントロールにはこの方法が一番らしいから仕方ないよ」
カイ「どうでもいいけどなぁ…お前この間制御しくじって書庫の壁壊しただろ?あんなのはもう勘弁しろよ、広いところでやれ広いところで」
ヘンゼル「平気だよ、魔力のコントロールには慣れてきてる。例え一日中グレーテルと手をつないでいても魔力を流し込むかどうかは僕自身で調整ができる、もうあの日のような失敗はしないよ」
カイ「そうかよ、まぁ俺の読書の邪魔しねぇならいいさ。どうでもいいけどよ、このゆで卵五人で食いきれるのか?俺はあんまりゆで卵って好きじゃねぇんだ」
ヘンゼル「そんな事言わないでさ、悪いけど付き合って貰うよ?頼むよカイお兄ちゃん」フフッ
カイ「テメェはまた都合のいい時ばっかりそんな呼び方しやがって……まぁいい、その程度の協力ならしてやるか」
・・・
618 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/11(金)23:30:02 ID:apV
ヘンゼル(パパさんが人柱にされたあの日からどれくらいの月日が流れただろうか)
ヘンゼル(安静にしていたおかげでグレーテルは何日か後にはもう普段通りの生活ができるまで回復していた、後遺症も特に残らなかったのは女王の処置が適切だったからだと思う)
ヘンゼル(グレーテルが元気になってから僕達二人は改めて女王の部屋を訪れた。心配を掛けた事と勝手に宮殿を出ていった事、そして言いつけを破った事を謝った。そしてこれからも一緒に居たいことも伝えた)
ヘンゼル(勝手な事をして迷惑を掛けた事は叱られたけれど、女王は優しく微笑んで僕達を抱きしめてくれた)
ヘンゼル(宮殿には新たな家族としてお千代を迎え、五人になった家族は幸せに暮らしていた。宮殿は極寒の大地にそびえていたけれど、僕は寂しさや辛さを感じた事は無かった)
ヘンゼル(助けあったり、ふざけ合ったり、笑いあったりして…僕達は長い長い時間を共に過ごしていた。平和で、すごく幸せな毎日だ)
グレーテル「……私にもっとすごい魔法が使えたら……卵元通りに出来たりするのかな……?」
ヘンゼル「駄目だよ、例え出来ても僕は魔力を貸さないからね?」
グレーテル「わかってる……でもちょっぴりの魔力なら平気なのに……お兄ちゃん心配性なの……」
ヘンゼル(グレーテルはあの日から少しずつ魔法について勉強している。正直、僕は今すぐに辞めさせたいけど…)
ヘンゼル(確かに少しの魔力で使える魔法なら身体への負担も少ないようだし、魔法の素質があるグレーテルなら一般的には弱い魔法でも強力な効果を得られるらしい)
ヘンゼル(とはいえ僕はグレーテルには魔法を使うのはやっぱり控えて欲しい、なにせそのせいで死に掛けたんだから。だけど頑張って魔法の勉強をしているグレーテルの姿をみると、どうにも強く言いだせない)
ヘンゼル(本人は家族の役に立ちたいという一心で勉強をしているから頭ごなしに止めるのも気が引ける。どっちにしろ僕が魔力を貸さなければ滅多な事は出来ないから、僕はもうなにも言わないようにしている)
ヘンゼル(きっと、魔法を使う事が危険だと言う事はグレーテルも理解してるんだと思うし…そのうえで家族の為に勉強しているというのはきっとそれほど僕達の事を大切にしてくれてるからだ)
ヘンゼル(だから、僕も同じ時期から魔力のコントロールの訓練を始めた。もうグレーテルを傷付けない為に)
619 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/11(金)23:33:14 ID:apV
ヘンゼル(僕には魔力を扱うセンスも魔法を行使する素質もまるでない。でも鍛錬を続けていれば魔力を打ち出す度に腕を潰さなくても済むくらいにはコントロールできると女王に聞いた)
ヘンゼル(何度も言うようだけど僕にはセンスも素質もない。それでも努力は無駄じゃなかったようで女王の厳しい特訓は魔力のコントロールを可能にした、まだ全然完全ではないけれど)
ヘンゼル(特訓は容易いものじゃなかったけどグレーテルが努力してるんだ、僕だけ何もしないわけにはいかない。それに僕だって全て守れるくらい強くなりたいって気持ちはあるんだ)
カイ「しかし、女王とお千代は今日も二人で外出か。最近多いと思わないか?どこで何してるんだかしらねぇけど、外出が多いのは気になるよな」
グレーテル「カイお兄ちゃん……やきもち、良くないよ……?」
カイ「違ぇよ。俺は心配してるんだ、どっかの兄妹みてぇに急に居なくなって迷惑かける奴もいるからな。なぁ?ヘンゼル、グレーテル」
グレーテル「カイお兄ちゃんイジワルなの……その話出すの……ズルイ……」プクーッ
ヘンゼル「随分経つのにいつまでたっても言われてるよね……もうずっと言われるパターンだよ、これ」
ガチャ
遠くに聞こえるお千代の声「ただいま戻ったんよー、みんなどこにおるんー?」スタスタ
ヘンゼル「噂をすればだね。帰ってきたみたいだ。お千代ー!僕達はキッチンに居るんだ。キミもおいでよ!」
ヘンゼル(魔法の勉強をしたり、魔力のコントロールを学んだり…僕とグレーテルはあの日を境に以前とは大きく生活が変わった。だけど、年齢も外見も変わっていない)
ヘンゼル(女王が言っていたように【ヘンゼルとグレーテル】で年齢の変化が無い僕達はこれ以上年齢を重ねる事は無い、それはカイも同じで年月は経っても三人とも子供のままだ。だけどお千代だけは違った)
成長したお千代「ヘンゼル、グレーテル!それにカイ、ただいま!お土産買って来たから、みんなで一緒に食べるんよ」ニコニコ
ヘンゼル(前は僕達と変わらないくらいの年齢だったのに、お千代はすくすく成長して今ではすっかりお姉さんだ)
620 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/11(金)23:35:22 ID:apV
成長したお千代(以下、お千代)「それにしてもヘンゼルは一人でも魔力のコントロールの訓練頑張ってて偉いね、ご褒美にナデナデしてあげるんよ」ウフフ
ヘンゼル「遠慮しとくよ。それよりお千代って最近女王様に似てきたよね。唐突に撫でようとするところとか」
お千代「そうなんかな?もしかしてヘンゼルはうちに撫でられるんいやなん?」
ヘンゼル「嫌じゃないけど、なんだか変な感じなんだよ。なんというかこう、もやっ…とするんだ」
ヘンゼル(慣れはしたけど僕にとってお千代は妹のような存在だ。だから目の前にいる綺麗な黒髪のお姉さんがお千代だというのはいつまでたっても少し不思議な感じがする)
グレーテル「お姉ちゃんになったお千代ちゃん……私はもう慣れちゃった……それに私、どんな姿になってもお千代ちゃんの事大好き……だからナデナデしていいよ……?」
お千代「うふふ、うちもグレーテル大好きなんよ。もちろんヘンゼルの事もカイの事も好きなんよ、だからカイもナデナデしてあげるんよ」ウフフ
カイ「おいやめろ。外見はお前の方が年上に見えるとしても本当は俺の方が年上なんだ、妹分が兄貴の頭撫でるとかありえねぇだろ」
お千代「うふふ、カイは相変わらず厳しいんよ。それじゃあ妹らしくお兄ちゃんの為にお茶を入れてあげるんよ。グレーテル、手伝ってほしいんよ」スッ
グレーテル「うん……わかった……」スッ
ヘンゼル(女王が言うには……)
雪の女王『お千代は【キジも鳴かずば】のおとぎ話の中では幼い子供だ。しかし、そのおとぎ話の結末でお千代は大人へと成長した姿でキジを撃ち落とした猟師の目の前に現れる』
雪の女王『おとぎ話の住人は基本的に歳を取らない。けれどお千代のように物語の結末までに年齢を重ねる人物の場合は別の世界に居ても一定の年齢までは成長する』
ヘンゼル(ということだった。とはいっても、年齢が変わったから姿が変わったからといっても特に僕達の関係に変化があるわけでもなかった)
ヘンゼル(子供だろうが大人だろうがお千代はお千代。僕の大切な家族の一人、その事には変わりが無いんだ)
621 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/11(金)23:37:08 ID:apV
雪の女王「お千代は本当に働き者だな、今日は疲れただろうに」フフッ
ヘンゼル「おかえり。お千代がお茶入れてくれてるから女王も入ってきたら?」
雪の女王「フフッ、キミ達はあれか?もしかして私を避ける為にわざわざキッチンに集まっているのか?隣の部屋に立派な食卓があるだろうに」フフッ
カイ「パーティや茶会ならまだしもちょっと茶を飲むくらいならキッチンで済ませるだろ。冬を司る魔女が湯を沸かす程度の火にビビるなよ」
雪の女王「フフッ、キミは相変わらず失礼だな、私はただ熱が籠り易い場所にはあまり居たくないだけだよ。お千代、すまないが私にはアイスコーヒーを頼む」スッ
お千代「はーい、女王は本当に冷たい飲み物好きなんね。宮殿は寒いから身体を冷やさないようにしないといけないんよ?」カチャカチャ
雪の女王「気づかいはありがたいが私は雪の女王だ。身体が冷えていれば冷えているほど…大気が冷たければ冷たいほど力が増すんだ。だから身体が冷えるのは好都合だ」
お千代「そう言われればそうかも知れんね、じゃあ女王様には冷たいコーヒーと…ヘンゼルとカイには温かい紅茶なんよ」スッ
カイ「おう、悪いな。俺はこいつと違ってこんな場所で冷たいもんなんか馬鹿馬鹿しくて飲む気しねぇからな、こっちの方がありがたいぜ」ズズー
ヘンゼル「またカイはそんな憎まれ口を叩いて…素直に美味しいって事だけ言えば良いのに」
雪の女王「フフッ…この方がカイらしいじゃないか、私は嫌いじゃないぞ?ただあまり口が過ぎるのは感心しないな、愛しい家族が一人氷漬けになるのは私も辛い」フフッ
グレーテル「ねぇ女王さま……私ね……宮殿のエントランスががらんとしててなんだか寂しいと思う……氷像つくるなら……そこに飾ったらいいと思うの……」チラッ
雪の女王「そうだな、私も同じ考えだ。口の悪い少年の氷像なんてどうだろう、寂しいエントランスがグッと賑やかになる」クスクス
カイ「グレーテルお前…さっきの仕返しかそれは、女王に余計な事吹き込むんじゃねぇよ」
グレーテル「気のせい……何度もあの日の事言われるの嫌だからカイお兄ちゃんにシカエシしたとか……そういうんじゃないよ……全然違うよ……」
お千代「うふふ、みんな仲良くしなきゃいけないんよ?ほらほら、みんなでおみやげのお菓子食べるんよ、今日のおみやげは街で噂のチョコレートなんよ」ガサガサ
622 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/09/11(金)23:39:30 ID:apV
グレーテル「チョコレートおいしい……チョコレートは甘いから大好き……ビスケットの次に好き……」モグモグ
お千代「グレーテルは美味しそうに食べてくれるからうちも嬉しいんよ。カイはビターチョコレートが好きだったと思うんよ、はい」スッ
カイ「おっ、悪ぃな」パクッ
雪の女王「家族相手でも気づかいを忘れない精神、立派だな。これも私の教育の賜物というわけだ」フフッ
お千代「うふふ、それならうちは女王様にもっと感謝しないといけないんよ」ウフフ
ヘンゼル「…ねぇ、女王にお千代。さっきカイも気にしてたんだけどさ…近頃よく女王と二人で出掛けるけど、どこに行ってるの?」
雪の女王「どうしたヘンゼル、藪から棒に」
ヘンゼル「いや、本当は前から気になってはいたんだよ。最近は結構頻繁に二人で出掛けるし、何かあるのかなって思ってね」
グレーテル「私も……気になってた……おみやげのお菓子も楽しみだけど……どこに出かけてるのかも気になってたの……」モグモグ
お千代「うーん…えーっと、えっとね……」
カイ「なんだ?俺達には言えないような場所なのかよ?」
お千代「そういうわけじゃないんよ?でも……女王様……うち、どうしたらいいかわからないんよ……言っていいのかな?」チラッ
雪の女王「隠すような事じゃないだろう。それにいずれは話さないといけない事だ、キミが良いのならこの場で全て話せばいいさ。むしろ良い機会だ」
お千代「うん、えっとね……三人には言ってなかったんけど……うち、どうしてもやりたいことがあってね。近頃よく出掛けてたのはその為の準備を女王様に協力してもらってたからなんよ」
お千代「それでね、うちがやりたい事はここにいたら出来ない事なんよ。だから…うちはこの宮殿を出ていく事に決めたんよ」
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