キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」 ヘンゼルとグレーテル編
Part19
Part1<<
Part15
Part16
Part17
Part18
Part19
Part20
Part21
Part22
Part23
>>Part26
評価する!(2313)
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」一覧に戻る
評価する!(2313)
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」一覧に戻る
520 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:13:08 ID:rQn
その夕方 弥平の家
ザーザー ザーザー
隣のおっさん「おぉい、弥平。弥平おるかー?この雨で大変な事になったぞー!」ドンドン
弥平「おう、お前か。どうしたんだ…なんだよ大変な事って」
隣のおっさん「まずいぞ弥平。さっき聞いたんだけど、犀川にかかっとる橋が流されてしまったらしいんだ…ほら、街道に続く橋だ」
弥平「本当か?おいおい、あの橋が流されちまったら川向うに渡るのに随分遠回りになっちまうぞ?それじゃあ仕事にならねぇじゃねぇか」
隣のおっさん「ああ、こりゃあどうにかしないといけねぇって事で、今から地主様の屋敷で話し合いだ。お前はお千代ちゃんがいるから欠席だろうが、橋の事だけでも伝えておこうと思ってな」
弥平「そうか、悪ぃな。酷い雨だ、お前も地主の屋敷に行くまでに流されたりしないようにな」
隣のおっさん「おう、それじゃあまた」スタスタ
グレーテル「弥平パパ……橋、流されちゃったの……?」
弥平「ああ、そうらしい。どうにか氾濫を止められないかって話し合いをするんだとよ。氾濫を止める方法や、橋を掛け直す方法とかな…」
ヘンゼル「もうさ、氾濫を止められないならもう橋を掛けるのも諦めればいいんじゃないの?」
お千代「それじゃすごく不便なんよ。それに犀川は人も呑み込む恐ろしい川なんよ……だから犀川の氾濫を止める事が出来たら、村のみんなが幸せになれるんよ」
弥平「確かにそうだけどな、オラ達がここで話しても仕方ねぇ事だ。さぁ雨もひどい、さっさと飯食って今日は休むか」
弥平(あの橋が流されたとなると今年の犀川は例年以上に酷く氾濫するに違いねぇ、それは村の連中も予想がつくはずだ、そうなるとおそらく、人柱を選ぶ事になるだろう…)
弥平「……バレるのも時間の問題か」ボソッ
・・・
521 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:14:30 ID:rQn
地主の家
地主「……うむ、まさかあのような強固な橋が流されるとは」
村のおっさん1「今年は今のところまだ誰も犀川に流されちゃあいないから安心してたけど…甘かった!」
村のおっさん2「あの丈夫な橋が流されたんだ、人間が流されるのも…この村の誰かがまた死んじまうのも時間の問題だ!」
村のおっさん3「すぐにでも何か手を打つしかねぇんじゃねぇのか!?もたもたしてたら家も畑も村人も…それどころかこの村ごと全部流されちまうぞ」
村のおっさん1「だったらどうすんだよ?何かいい方法があるのかよ?あの犀川の氾濫を止める方法が!」
村のおっさん3「ねぇよ!あるわけねぇだろうが!方法がねぇからみんなで考えるんだろうが、その為の集会だろうがクソが!」
村のおっさん2「俺達が喧嘩しても仕方ないだろ、言い争うなら何か建設的な話し合いをすべきだ!」
ワーワー ザワザワ ワーワー ザワザワ
地主「やはりまとまらんか…こうなれば、今年は人柱を立てるしかあるまい。生贄を捧げて、犀川の神様に怒りを鎮めて貰うんじゃ」
村のおっさん達「……」ピタッ
地主「橋を掛け直すにしても川が穏やかにならねばまた同じ事、いずれ流される。ならばもうこれしか方法はあるまい」
新入り若者「あの、俺最近この村に来たばかりでわかんないんスけど、人柱って何をするんすか?」コソコソ
古参おっさん「この村ではな、あまりに犀川の氾濫が酷い時には犀川の神様の怒りを鎮める為に人柱を……生贄をささげるんだ。つまりな、人間を生きたままの状態で川の近くの地面に埋めてしまうんだ」
新入り若者「生きたままの人間を地面に!?そんなもん死んでしまうじゃないすか!」
古参おっさん「生贄だからな。それで犀川の氾濫が収まるのならば安いもんよ」
新入り若者(そりゃあ氾濫を何とかしないと何十人と言う人間が死ぬかもしれねぇけど…そんな恐ろしい風習があるのかこの村。やべぇな)
522 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:17:12 ID:rQn
村のおっさん1「じ、地主様!それには賛成だけども、俺の家からは人柱なんかだせねぇぞ!?」
村のおっさん2「そんなもんウチからもだせねぇ!うちの息子は隣村から嫁さんを貰う事が決まってるんだ、人柱なんてとんでもねぇ!」
村のおっさん3「ずるいぞお前ら!どこの家も人柱になんか家族を出せるわけが無いだろ!もちろん、ウチだって嫌だ!」ドン
新入り若者「あの、全然話が進みそうにないすよ?でもそうっすよ、誰だって人柱なんかにはなりたくないに決まってる」
古参おっさん「ああ、そうだ、だれも人柱なんかなりたくない。だから本来は何か悪い事をした奴…罪人、犯罪者を人柱にするんだよ」
村のおっさん1「罪人を人柱にするって言ってもよぉ…この村の奴らはどいつもこいつもいい奴ばっかりだぜ?」
村のおっさん2「そうだよな、人柱にできるような罪人はこの村にはいねぇ。いねぇもんは人柱に出来ねぇ」
村のおっさん3「じゃあどうすんだよ!もう一回言うけど、うちは絶対に人柱とか嫌だからな!」
地主「予想はしていたが、そうなってしまうか……しかし、犀川の神様をほっておくわけにもいかん。だが、この村に罪人が居ない以上は…どうしようもない」
スッ
薄毛のおっさん「……いや、罪人がいないこともねぇ。この村には盗人が居る、そいつを人柱にすりゃあええ」
地主「お前は薄毛の……それはどういうことじゃ?この村に罪人がいるじゃと?」
薄毛のおっさん「ああ、そうじゃ。地主様、先日蔵に盗人が入ったと言っていたじゃろ?」
地主「おお、ほんの僅かな米と小豆じゃったで気にも留めてなかったが……まさかその犯人をお前は知っていると言うのか?」
薄毛のおっさん「そうじゃ、ワシはその盗人の正体を知っておる。聞いたんじゃよ、歌を……娘の歌う手毬唄じゃ」
薄毛のおっさん「このワシは聞いたでの……弥平が盗人だと証明する、お千代の手毬唄をな……」
523 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:19:48 ID:rQn
とあるおとぎ話の世界 弥平の家
弥平「……」
お千代「ごちそうさま。今日も粟の粥美味しかったんよ、グレーテルの料理はすごくおいしいからうちは嬉しいんよ」
グレーテル「うん、嬉しい……お粥作るの、慣れてきたから……今日は私がお片づけする番……お茶碗洗ってくるね……」スタスタ
弥平「グレーテル、オラはヘンゼルと少し話がしたい。皿洗い変わってやる、行くぞヘンゼル」スッ
グレーテル「うんん……それはいいけど……じゃあ私はお千代ちゃんと一緒にお話ししてるね……」
スタスタ
ヘンゼル「どうしたのパパさん?僕と話があるなんて改まって、腰が痛いからどうにかしたいって話?」ザブザブ
弥平「いや、そうじゃねぇよ。ただな、今頃村の奴らで集まって犀川の氾濫をどう防ぐか話してるだろうなと思ってな」
ヘンゼル「それがどうかしたの?さっき自分で言ってたじゃないか、僕達が話したってどうにもならないって」
弥平「…大切な橋が流された、雨の季節は始まったばかりだって言うのに今年の犀川の被害は既にでかい。これ以上被害を大きくしないためにはもう今年は人柱を立てるしかない、村の連中はそういう結論を出すはずだ」
ヘンゼル「人柱…?なんなのそれ…?」
弥平「いいか、ヘンゼル良く聞け。オラがお前達と一緒に居られなくなった時の事を話す、一番年上のお前が頼りだ。しっかり頼むからな」
ヘンゼル「ちょっと待って、なんなの急に。パパさんが僕達と一緒に居られなくなるなんて、ありえないでしょ」
弥平「良いから聞け。お前の事だ、オラがいなくなれば誰も信じられないとか言って二人を連れて家を出て行きそうなもんだけどな、そこはなんとか我慢しろ」
弥平「事情を話せば隣のばあさんとおっさんはお前達を気に掛けてくれるはずだ。おっさんに頼んでこの家と畑を金に変えて貰え、それを渡して一緒に住ませてもらえるように頼みこめ」
弥平「それから三人で出来る限りの仕事と手伝いをしろ。家も畑も二束三文だが生活の足しにはなる、それにあのばあさんとおっさんは情に厚いからお前達を立派に育ててくれる」
ヘンゼル「いや、なんなの?なんで突然そんな事…」
524 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:21:41 ID:rQn
弥平「お千代は働き者だがすぐに無理をする奴だ。それにオラが居なくなればきっと一番悲しむ、よく気に掛けてやってくれ」
弥平「グレーテルの事はお前の方がよく知ってるだろうがな、あいつは控えめに見えて妙に思い切りがいい。それが悪い方面に転がらないように見てやってくれ」
弥平「それとお前は…大人を信用する事を覚えろ。俺の子供達は三人とも立派だがそれでも子供だ、大人の力ってのが社会を生き抜くには必要なんだからな」
ヘンゼル「ねぇ、パパさんは何が言いたいの?さっきから意味がわかんないんだけど」
弥平「お前達は両親に捨てられた過去がある、だから大人や運命を憎んでるだろう…そんなお前には難しいかもしれねぇけど聞いてくれ」
弥平「いいか?運命を恨むな、周りの人間を憎むな。幸せってのは憎悪に敏感だ、お前が憎しみを抱えてる限り幸せってのは寄ってこねぇ」
弥平「だからな運命や大人を睨むくらいなら未来をしっかりと見据えてやれ、睨みつけるくらいにしっかりと未来だけ見て…腐らずにがむしゃらに生きてやれ、そうやって生きてりゃ運は向いてくるからな」
ヘンゼル「ねぇ、本当にパパさんどうしたの…?」
弥平「…オラはお前達三人の父親だけどな、父親らしい事は何もできなかった。せめてお前の抱えてる憎しみを取り払いたかったがもう間に合いそうにねぇ」
弥平「いいか、お千代もグレーテルも女の子だ。あいつを護れる家族はお前だけだ、お前だけが頼りだ。言わなくてもわかってるだろうけどな、格好や体裁なんか気にするな。オラはもうお前達を護ってやれない、だからその分はお前に託す」
ヘンゼル「……まぁ、あの二人は何があっても護る覚悟はしてるけど。それよりパパさんがもう護ってやれないってどういうこt」
弥平「覚悟してるんならいい、頼むぜヘンゼル……お前、お兄ちゃんだろ?」ニカッ
ドンドンドンドン
役人「弥平!おい弥平、身を隠しても無駄だ!おとなしくせよ!」ドンドンドン
525 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:24:46 ID:rQn
弥平「おいでなすったか……戸締りなんざしてねぇからよ、入ってきなよ役人共」
バターン!
お千代「ど、どうしたん?こんな夜に、びっくりするんよ……」
グレーテル「……」ジッ
弥平「お前等もう少し静かに入れねぇのか?うちの子供達が怯えちまってるだろうが、野蛮な奴らだぜ」
役人「随分と胆が座っているようだな弥平。お前、自分の犯した過ちを理解しているのか?この盗人めが!」
弥平「盗人ねぇ……ああ、何日か前に地主の蔵から米と小豆が盗まれた、その犯人としてオラを捕まえに来たんだな?」
ヘンゼル「パパさん、もしかしてこの事覚悟してさっき僕にあんな事……!」
役人「フンッ、覚悟の上か。その通り、お前は数日前に地主さまの蔵に忍び込み米と小豆を盗み出した。お前の娘、お千代が歌っていた手毬唄がその証拠だ!」
お千代「あ…っ」
弥平「ああ、証拠とかあんのか。てっきりヘンゼルとグレーテルを引き取ったオラに難癖付けて捕まえようとしてると思ったんだがなぁ、まぁいいや。いこうぜ役人共」
役人「ほう、罪人の癖に随分と思い切りがいいのだな。さぁ来い、弥平!地主さまの蔵から盗みを働いた罪で貴様を人柱にする!」
526 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:27:08 ID:rQn
ヘンゼル「ちょっと待ってよ、パパさんは盗みなんかしてない!僕達のパパを罪人扱いしないでよ、あの日地主の蔵に忍び込んだのh」
弥平「ヘンゼル。余計な事言うな、オラは立派な罪人なんだからよ」
ヘンゼル「でも…米と小豆を盗んだのは…!」
弥平「あの日、察しの良いお前はオラが何をしようとしているのか察したんだろ?それをオラは見抜いていた、ほおっておけばお前がオラの代わりにそれを実行するって事も予想できた」
弥平「でもな、オラはお千代にあずきまんまを食わせたやりたかった。だからオラの考えをお前が実行に移すと解っていながら、止められなかった…息子の過ちを見過ごすなんてのは父親として失格だ」
弥平「そんな父親は罪人も同然だ、だからオラは立派な罪人。だからお前は何も喋るな。言っただろ、あの二人を護れるのはもうお前だけだってな」
ヘンゼル「パパさん、なんで…なんで、パパさんが役人に連れて行かれなきゃなんないんだよ!」
役人「ええい、大人しくしていると思えばごちゃごちゃと訳のわからぬ事を…!」
お千代「お役人さん、やめて欲しいんよ!何かの間違いなんよ!父ちゃんが悪いことなんかするわけないんよ!」ガシッ
役人「ええい、離せ小娘が!父親はお前の為に盗みを働いた立派な罪人だ!離さぬというのならお前も同罪だ」ブンッ ドサッ
ヘンゼル「お千代…!お前等、お千代に暴力振るうなんて僕が許さないからな…!」バッ
グレーテル「私の家族……いじめる人……嫌い、絶対許さない……」
役人「ええい、小賢しい童共が!逆らうならば貴様らも…!」
弥平「ああもう、お前等やめろやめろ!お千代、ヘンゼル、グレーテル……お前等は本当にしょうがねぇなぁ、役人に逆らうような事して一体誰に似たんだよ…って父ちゃんに似たんだな」ハハッ
弥平「いいか、お前等と父ちゃんはここでお別れだ。父ちゃんちょっくら犀川の神様のご機嫌取りに行ってくるからよぉ…しっかり協力して立派な大人になれ、いいな?」
527 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:29:01 ID:rQn
役人「フンッ、別れは済んだな?さっさと行くぞ、キビキビ歩け弥平!」
弥平「ヘイヘイ…ったく、乱暴が過ぎる役人だなクソッ…」
スタスタ
お千代「父ちゃん…!父ちゃん!待って、待って欲しいんよ!父ちゃん!」バッ
隣のばあさん「いけねぇよ、お千代ちゃん…!行っちゃならねぇ!父ちゃんを追っちゃいけねぇだよ…!」ガバッ
ヘンゼル「お千代を離してあげてよ!なんで引きとめるんだよ!あんたは信用できる大人だと思っていたのに、なんでそんな事するんだよ!」
隣のばあさん「あんたらの父ちゃんはあんた達の為とはいえ罪を働いたんだ。もう弥平さんを人柱にする事は決められた……もうワシやお前達に出来る事は無いんじゃ…」
グレーテル「おばあちゃん……人柱って……なに……?」
隣のばあさん「…生贄じゃ、氾濫を防ぐために弥平さんは犀川の土手に生き埋めにされるんじゃ……!」
お千代「……っ!そんなことされたら父ちゃん死んじゃうんよ……!ばあちゃん、離して欲しいんよ!父ちゃんを助けるんよ!」ジタバタ
隣のばあさん「駄目じゃ…!言ったじゃろ、もうどうにもできん……!あんたが無茶して役人に殺されでもしたら…弥平さんの気持ちは誰が汲むんじゃ…!頼むからおとなしくするんじゃ…!」
ヘンゼル「僕は……役人とパパさんを追う、お婆さんはお千代の事見てて」バッ
グレーテル「お兄ちゃん……私も、行く……」
隣のばあさん「駄目じゃ!ヘンゼル坊!グレーテルちゃんや!もうこれは村で決まった事じゃ!あんたらに止められるような事じゃないんじゃよ!」
ヘンゼル「ふざけないでよ、僕達は自分達の結末は自分で決める、パパさんの運命だって変えて見せる…決められてることなんか何一つ無いんだ!」
ヘンゼル「だから諦めるなんて…僕には出来ない。パパさんは僕達を護ってくれた立派な父親なんだ、あいつとは違う!」
ヘンゼル「あんな小さな盗みで…何が人柱だ!何が罪人だ!もう、家族が傷つくのは嫌だ。僕は何をしてでもパパさんを助ける。役人どもを殺して、もう一度一緒に暮らすんだ……!」
528 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:31:43 ID:rQn
別のおとぎ話の世界 バラの咲き誇る庭園
・・・
野獣「貴様、そのバラをどうするつもりだ…!」グルルルルッ
商人「はわわ…出来心だったんです!私の娘にバラを土産にしてやろうと思ったんですぅ!」ビクビク
野獣「私は寒さと空腹に苦しんでいるお前をこの城へと導き、食事はおろか寝室まで与えたというのに……お前は私の育てた大切なバラを盗むと言うのか!!」グオォォォ!!
商人「ひぃぃっ…!ど、どうか許して下さい許して下さい!」ペコペコ
野獣「……貴様、娘が居ると言ったな。ならばその娘をこの城へと連れてこい。ただし、娘が自分の意思でここに来る事が条件だ、娘がもしもこの場へ来る事を拒むのならばお前が一人で戻ってくるのだ」
野獣「その時には……私が貴様の五体をズタズタに引き裂き、殺す。いいな?」
商人「ひっ…わ、わかりました…!か、必ず戻りますぅぅ!」
野獣「ならば部屋へと戻れ。いくらかの金貨と馬を手配してやる。その代わり、約束は護るようにな…私は嘘をつかれるのが嫌いだ」
商人「は、はい!わかりました、し、失礼いたしますぅ!」
バタバタ
野獣「ふむ…筋書き通りとはいえ、丹精込めて育てたバラが摘み取られると言うのは心が痛む」サワッ
野獣「……さて、君はいつまで様子を見ているつもりだ?」
雪の女王「流石は魔力を操りし野獣だ、やはり気がついていたのだな……」
野獣「当然だ。悪いが君が纏う冷気は私のバラに悪影響を及ぼす……応接室へ案内しよう、話はそこで聞かせて貰う」スッ
529 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:35:05 ID:rQn
立派な城 応接室
野獣「そこに腰かけてくれ。雪の女王といったな、君はローズティーで構わないか?」
雪の女王「気づかい感謝する。だが急ぐんだ、茶はまたの機会に頂く事にして私の要件をまず聞いて欲しい」
野獣「ふむ、そうか。話してみるがいい」ドスッ
雪の女王「私は【雪の女王】の世界で少し前に姿を消した兄妹を探している、ヘンゼルとグレーテルと言う子供だ……理由はすまないが割愛する」
雪の女王「どうやら崖から滑り落ちた拍子に別のおとぎ話の世界へ飛ばされたようなんだ。だがその二人は世界移動の手段を持たない、帰る事が出来ないんだ」
野獣「それは難儀な事だな」
雪の女王「私はそれに気がついて、すぐにあらゆるおとぎ話の世界を飛び回って魔力を頼りに探しまわった……だが、無数にあるおとぎ話の世界をひたすらに探しても……二人は見つからなかった」
雪の女王「出来る事ならば他のおとぎ話の世界に手を借りるのは避けたかった。おとぎ話の世界全体の危機ならばともかく、これは私の家族の問題だ。別のおとぎ話に干渉はしたくなかった…」
野獣「だがこうして私を訪ねてきたという事は…そうも言ってられなくなったのだな?」
雪の女王「恥ずかしながらその通りだ。時間の経過速度はおとぎ話の世界によってまちまちだ…彼等は私の迎えを待っている。大人に裏切られた過去を持つ彼等をもうこれ以上待たせるのは不憫だ」
雪の女王「そこで君に力を借りたい。【美女と野獣】の野獣よ、君が所有する鏡を貸してほしい。兄妹を探し出す為に」
野獣「ベルの部屋にある『見たい相手を思い浮かべて覗くと姿を見る事が出来る鏡』か……」
野獣「いいだろう。幸い、まだベルがこの城へ来るまで時間がある。持って来てやろう、好きに使うと良い」
530 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:40:00 ID:rQn
野獣「これがその鏡だ。ヘンゼルとグレーテルの事を思い浮かべ、鏡を覗いて見ろ」ゴトッ
雪の女王「……」スッ
ポワワー
雪の女王「鏡にヘンゼルの姿が…!どこだ…!どこの世界に居るんだ!手掛かりを探さなければ…!」
野獣「落ち着け、次回に制限がある魔法では無い。風景や様子から手掛かりを拾い出すんだ。ふむ、どうやらあの建物は…日ノ本の建築物だな」
雪の女王「酷い雨だな。」
野獣「むっ……あの川の土手に祭られているものはなんだ?確か以前に文献で目にしたな、しかし何の儀式の準備だったか思いだせん……」
雪の女王「あの儀式は恐らく……日ノ本に伝わる人柱の儀式……っ!」バッ
野獣「大雨、川の土手…そして人柱の儀式となると……おそらく、あのおとぎ話だな。日ノ本の、民話……」
雪の女王「【キジも鳴かずば】……!なんてことだ、何故よりによってあの悲劇のおとぎ話へ飛ばされてしまったんだ…!」
雪の女王「もしも主人公のお千代や弥平と親しくなっていれば……ヘンゼルは村の大人達を憎んでしまう、すぐに向かって止めなければいけない…!」
野獣「一人で平気か、女王。私の助力が必要ならば言ってくれ」
雪の女王「いや、大丈夫だ。すまないが私はもう行くよ。慌ただしくてすまない…後日改めて礼に伺うよ」ヒュォッ
雪の女王「ヘンゼル…!グレーテル…!何が起きても早まるんじゃないぞ、冷静でいてくれよ……!」
雪の女王「そして無事でいてくれ……お前達は私の家族なんだ……!」ヒュォッ
531 :名無しさん@おーぷん :2015/08/23(日)23:43:06 ID:apB
弥平さん……(つД`)ノ
532 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:56:05 ID:rQn
今日はここまでです レスありがとうー!また今回も長くなりそう、まぁ佳境ではあるんだけど……
【キジも鳴かずば】
弥平とお千代という貧しい親子の悲劇のおとぎ話
善人の弥平が瀕死の娘の為に一度だけ犯した小さな罪、それが原因で弥平は人柱にされてしまう
その罪が発覚する事になった原因が自分の手毬唄にあったと知ったお千代は泣きに泣きやがて喋る事を自ら封じる
それから月日がたち、猟師に撃ち落とされたキジを抱いたお千代は鳴き声を上げたせいで猟師に撃たれたキジを
自分の手毬唄のせいで人柱にされた弥平を重ねて一言「キジも鳴かずば撃たれまいに」と呟き、人々から姿を消す。という内容
民話がベースの為お千代や弥平の名前が違ったり細部が違うバージョンも多いですが、このSSではお千代と弥平で統一します。
ヘンゼルとグレーテル・キジも鳴かずば編 次回に続きます
533 :名無しさん@おーぷん :2015/08/24(月)00:15:18 ID:jeJ
乙です…。
すごく悲しい物語ですね……。
ですが、続き待ってます……。
556 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/30(日)23:13:15 ID:CCE
キジも鳴かずばの世界 農道
グレーテル「急がなきゃ……弥平パパ……埋められちゃう……」タッタッタ
ヘンゼル「させないよ、そんな事。なんであんな些細な盗みを命で償わなきゃならないんだ、そもそもパパさんは何も悪くない…悪いのは僕だ」タッタッタ
グレーテル「ううん……お兄ちゃんも弥平パパも悪くない……悪いのはお千代ちゃんを泣かせちゃう大人達だよ……絶対、許さない……」タッタッタ
ヘンゼル「ああ、許さない。すぐに追いついて…村の大人共を僕の魔力で叩きのめす。僕達の家族を苦しめる悪人に容赦なんか絶対にしない」タッタッタ
スッ
地主「おぉ、ヘンゼル君とグレーテルちゃんじゃないか。こんな時間にどこへ行くのかね?」
グレーテル「あっ……地主さん……」
地主「ちょうどよかった、君達の家を訪ねようと思っていたのだ。是非ともお礼が言いたくてね」
グレーテル「お礼……?私達、地主さんにお礼を言われるような事……してないよ……?」
ヘンゼル「相手しちゃダメだ、行こうグレーテル」
地主「おぉ…これだけの大役を果たして謙遜するとはその謙虚さ恐れ入った。しかしもっと誇って良いのだぞ?この世界を消滅から救ったのは間違いなく君たちなんだから」ハハハ
ヘンゼル(僕達がこの世界を消滅から救った?なにを言ってるんだこいつ)
地主「いやはや、一時はどうなる事かと思ったが…これで筋書き通り無事に弥平を人柱にする事が出来る」ハハハ
ヘンゼル「……筋書き通り?」
地主「ああ、本来の【キジも鳴かずば】の筋書き通り、弥平は人柱にされる。これでこの世界は消滅の危機から逃れられたんだ。いやはや、めでたい事だ」ハハハ
地主「これも君達がこの世界を救うためにざわざわ足を運んでくれたおかげだ、ワシが代表として礼を言おう。ありがとう、ヘンゼル君にグレーテルちゃん」ハハハ
557 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/30(日)23:15:19 ID:CCE
地主「ささやかな礼しか出来ぬが屋敷に食事の用意がしてある。是非とも二人d」
ヒュッ ガシッ
地主「ぬぐっ…!突然に掴みかかるとは…どうしたというんだヘンゼル君!?」グヌヌ
ヘンゼル「答えて貰うよ。パパさんが人柱にされるのが『筋書き通り』ってどういう意味?」
グレーテル「もしかして……弥平パパは……このおとぎ話で重要な役割の人なの……?」
地主「ど、どういう事だ?二人は【ヘンゼルとグレーテル】の兄妹だろう?他のおとぎ話の主人公が別の世界に来る理由などそう多くは無い…君達は助けに来てくれたんだろう?」
地主「消滅しかけていたこの世界を…おとぎ話【キジも鳴かずば】を救うために、危機を察知した君達が助けに来てくれたんじゃないのか!?君達が物語の展開を元に戻す為に!」
ヘンゼル「呆れた大人だね、どうしてそんなに都合のいい考え方が出来るの?」
グレーテル「違うよ……私たちは偶然……この世界に来ちゃっただけなの……それで偶然、弥平さんとお千代ちゃんと家族になったの……それだけ……」
地主「な、なんてことだ…ならば全ては偶然だったと言う訳か…!てっきり全てを知った上であの二人に近づいたのだとばかり…!」
ヘンゼル「話を戻すけどさ、あんたが言ってた『筋書き通り』っておとぎ話の筋書きの事だよね…パパさんが人柱にされるのがこの【キジも鳴かずば】とかいうおとぎ話の内容なの?ほら、答えてよ」グイッ
地主「うぐぐっ……そ、そうだ!このおとぎ話は貧しい親子の弥平とお千代が主人公だ、今にも死んでしまいそうなお千代の為に弥平は一度だけ盗みを働き…」
地主「そしてお千代が歌った手毬唄が原因でその事が公になり、弥平が人柱にされてしまう。これがこのおとぎ話の内容だ」
558 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/30(日)23:16:46 ID:CCE
ヘンゼル「…なんなのそれ、なんで二人がそんな目に合うんだ…!」グイッ
地主「わ、ワシに言うんじゃない!ワシはこの【キジも鳴かずば】の登場人物の一人に過ぎん、ただこの世界がおとぎ話の世界だと知っているだけだ…!」
グレーテル「……ひどい……お千代ちゃんも弥平パパも悪くないのに……こんなのってないよ……」
地主「しかし…現実世界でこのおとぎ話は忘れかけられているのだろう…異変によってこのおとぎ話の内容は少し変わってしまった」
ヘンゼル「おとぎ話の内容が変わった…?」
地主「ああ、そうだ。君達は知っているだろう?お千代が倒れたあの日、弥平は畑で腰を痛めてしまった。それは本来の展開に大きく影響する異変だった」
グレーテル「腰を痛めちゃう事……そんなにおとぎ話に影響与えちゃう事なの……?」
地主「本来ならば弥平はワシの蔵に忍び込んで米と小豆を盗むはずだ、そしてそれが原因で人柱にされる。しかし、弥平は腰を痛めて蔵に忍び込めない」
ヘンゼル「……っ!」ハッ
地主「蔵に忍び込めなければあずきまんまをお千代に食わせてやれない。それでお千代がどうなるかは知らんが…少なくとも弥平は人柱になる事は無い」
地主「しかし、それだと物語が完全に立ち行かなくなる。この物語の結末はお千代の手毬唄のせいで弥平の盗みがバレて人柱にされる事だ、人柱にされなければ物語は進まない。この世界は消滅するしかない…はずだった」
地主「だがこのおとぎ話は消えなかった。異変は防げず弥平は腰を痛めたままだったが…弥平の代わりに米と小豆を盗んでくれた人物が居たからだ。それがk」
バンッ
地主「ぐえっ!ゲホゲホ…何をするんだね君は…いきなり叩きつけるなんてどういうつもりd」
ヘンゼル「理解出来たよ。異変でパパさんは蔵に忍び込めない……でも都合の良い事にパパさんの代わりに僕が盗みを働いた」
ヘンゼル「そしてあんたは、この世界を救うためにそれをパパさんの罪にして、無実のパパさんを罰する事にしたんだ……!」
559 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/30(日)23:19:19 ID:CCE
ヘンゼル「ねぇ…答えてよ、答えろ!そうなんだろ!」グイッ
地主「は、離してくれ…!く、苦しい…!」グエェ
ヘンゼル「……聞くまでもないよね。事実、パパさんは盗みなんてしちゃいないんだ。盗みを働いたのは僕だ」
ヘンゼル「あの夜、パパさんは腰の痛みで盗みなんて出来なかった…だから僕が代わって米と小豆を盗むためにあんたの蔵に忍び込んだ。それはあんたも知っていた」
ヘンゼル「本当なら…僕達がこの世界に来なければ、お千代はあずきまんまを食べられなかった。だから手毬唄も歌えないし、パパさんが人柱にされる事も無かった」
ヘンゼル「でもあんたはそれじゃあ都合が悪かったんだ、おとぎ話が消滅すればあんた達も巻き込まれて消えるから。だからあんたはパパさんが無実だと知っていながら…それを公にしなかった」
地主「……」ゲホゲホ
ヘンゼル「犯人は僕…ヘンゼルだとあんたは知ってた。でもそれじゃあおとぎ話の展開に差し支える、僕が人柱になっても意味が無いからだ。だからあんたは僕の罪をパパさんの罪にした…!」
地主「仕方のない事だ。誰が犯人だろうがこの際構わなかった、弥平が人柱にならなければこのおとぎ話は消える……それだけは避けなければいけない」
地主「お千代の手毬唄を聞いた薄毛は弥平がこの窃盗の犯人だといいだした。それは本来の展開通りだ、ワシにはそれを否定する理由は無かった。真犯人が別にいると知っていてもな」
グレーテル「弥平パパは……悪くないって知ってるのに……人柱にする為にみんなには言わず……弥平パパを悪者にしたの……?」
地主「そんな言い方はやめてくれ…ワシはこの世界のみんなを救うために、仕方なく…!」
ヘンゼル「その『みんな』にはパパさんもお千代も含まれてないんだね」
地主「そんなこと当然だろう!?そもそも異変がおきなければ弥平は人柱になるはずだった、なにもおかしい事は無い!ワシは少し変わってしまった運命を元に戻しただけだ!」
その夕方 弥平の家
ザーザー ザーザー
隣のおっさん「おぉい、弥平。弥平おるかー?この雨で大変な事になったぞー!」ドンドン
弥平「おう、お前か。どうしたんだ…なんだよ大変な事って」
隣のおっさん「まずいぞ弥平。さっき聞いたんだけど、犀川にかかっとる橋が流されてしまったらしいんだ…ほら、街道に続く橋だ」
弥平「本当か?おいおい、あの橋が流されちまったら川向うに渡るのに随分遠回りになっちまうぞ?それじゃあ仕事にならねぇじゃねぇか」
隣のおっさん「ああ、こりゃあどうにかしないといけねぇって事で、今から地主様の屋敷で話し合いだ。お前はお千代ちゃんがいるから欠席だろうが、橋の事だけでも伝えておこうと思ってな」
弥平「そうか、悪ぃな。酷い雨だ、お前も地主の屋敷に行くまでに流されたりしないようにな」
隣のおっさん「おう、それじゃあまた」スタスタ
グレーテル「弥平パパ……橋、流されちゃったの……?」
弥平「ああ、そうらしい。どうにか氾濫を止められないかって話し合いをするんだとよ。氾濫を止める方法や、橋を掛け直す方法とかな…」
ヘンゼル「もうさ、氾濫を止められないならもう橋を掛けるのも諦めればいいんじゃないの?」
お千代「それじゃすごく不便なんよ。それに犀川は人も呑み込む恐ろしい川なんよ……だから犀川の氾濫を止める事が出来たら、村のみんなが幸せになれるんよ」
弥平「確かにそうだけどな、オラ達がここで話しても仕方ねぇ事だ。さぁ雨もひどい、さっさと飯食って今日は休むか」
弥平(あの橋が流されたとなると今年の犀川は例年以上に酷く氾濫するに違いねぇ、それは村の連中も予想がつくはずだ、そうなるとおそらく、人柱を選ぶ事になるだろう…)
弥平「……バレるのも時間の問題か」ボソッ
・・・
521 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:14:30 ID:rQn
地主の家
地主「……うむ、まさかあのような強固な橋が流されるとは」
村のおっさん1「今年は今のところまだ誰も犀川に流されちゃあいないから安心してたけど…甘かった!」
村のおっさん2「あの丈夫な橋が流されたんだ、人間が流されるのも…この村の誰かがまた死んじまうのも時間の問題だ!」
村のおっさん3「すぐにでも何か手を打つしかねぇんじゃねぇのか!?もたもたしてたら家も畑も村人も…それどころかこの村ごと全部流されちまうぞ」
村のおっさん1「だったらどうすんだよ?何かいい方法があるのかよ?あの犀川の氾濫を止める方法が!」
村のおっさん3「ねぇよ!あるわけねぇだろうが!方法がねぇからみんなで考えるんだろうが、その為の集会だろうがクソが!」
村のおっさん2「俺達が喧嘩しても仕方ないだろ、言い争うなら何か建設的な話し合いをすべきだ!」
ワーワー ザワザワ ワーワー ザワザワ
地主「やはりまとまらんか…こうなれば、今年は人柱を立てるしかあるまい。生贄を捧げて、犀川の神様に怒りを鎮めて貰うんじゃ」
村のおっさん達「……」ピタッ
地主「橋を掛け直すにしても川が穏やかにならねばまた同じ事、いずれ流される。ならばもうこれしか方法はあるまい」
新入り若者「あの、俺最近この村に来たばかりでわかんないんスけど、人柱って何をするんすか?」コソコソ
古参おっさん「この村ではな、あまりに犀川の氾濫が酷い時には犀川の神様の怒りを鎮める為に人柱を……生贄をささげるんだ。つまりな、人間を生きたままの状態で川の近くの地面に埋めてしまうんだ」
新入り若者「生きたままの人間を地面に!?そんなもん死んでしまうじゃないすか!」
古参おっさん「生贄だからな。それで犀川の氾濫が収まるのならば安いもんよ」
新入り若者(そりゃあ氾濫を何とかしないと何十人と言う人間が死ぬかもしれねぇけど…そんな恐ろしい風習があるのかこの村。やべぇな)
522 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:17:12 ID:rQn
村のおっさん1「じ、地主様!それには賛成だけども、俺の家からは人柱なんかだせねぇぞ!?」
村のおっさん2「そんなもんウチからもだせねぇ!うちの息子は隣村から嫁さんを貰う事が決まってるんだ、人柱なんてとんでもねぇ!」
村のおっさん3「ずるいぞお前ら!どこの家も人柱になんか家族を出せるわけが無いだろ!もちろん、ウチだって嫌だ!」ドン
新入り若者「あの、全然話が進みそうにないすよ?でもそうっすよ、誰だって人柱なんかにはなりたくないに決まってる」
古参おっさん「ああ、そうだ、だれも人柱なんかなりたくない。だから本来は何か悪い事をした奴…罪人、犯罪者を人柱にするんだよ」
村のおっさん1「罪人を人柱にするって言ってもよぉ…この村の奴らはどいつもこいつもいい奴ばっかりだぜ?」
村のおっさん2「そうだよな、人柱にできるような罪人はこの村にはいねぇ。いねぇもんは人柱に出来ねぇ」
村のおっさん3「じゃあどうすんだよ!もう一回言うけど、うちは絶対に人柱とか嫌だからな!」
地主「予想はしていたが、そうなってしまうか……しかし、犀川の神様をほっておくわけにもいかん。だが、この村に罪人が居ない以上は…どうしようもない」
スッ
薄毛のおっさん「……いや、罪人がいないこともねぇ。この村には盗人が居る、そいつを人柱にすりゃあええ」
地主「お前は薄毛の……それはどういうことじゃ?この村に罪人がいるじゃと?」
薄毛のおっさん「ああ、そうじゃ。地主様、先日蔵に盗人が入ったと言っていたじゃろ?」
地主「おお、ほんの僅かな米と小豆じゃったで気にも留めてなかったが……まさかその犯人をお前は知っていると言うのか?」
薄毛のおっさん「そうじゃ、ワシはその盗人の正体を知っておる。聞いたんじゃよ、歌を……娘の歌う手毬唄じゃ」
薄毛のおっさん「このワシは聞いたでの……弥平が盗人だと証明する、お千代の手毬唄をな……」
523 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:19:48 ID:rQn
とあるおとぎ話の世界 弥平の家
弥平「……」
お千代「ごちそうさま。今日も粟の粥美味しかったんよ、グレーテルの料理はすごくおいしいからうちは嬉しいんよ」
グレーテル「うん、嬉しい……お粥作るの、慣れてきたから……今日は私がお片づけする番……お茶碗洗ってくるね……」スタスタ
弥平「グレーテル、オラはヘンゼルと少し話がしたい。皿洗い変わってやる、行くぞヘンゼル」スッ
グレーテル「うんん……それはいいけど……じゃあ私はお千代ちゃんと一緒にお話ししてるね……」
スタスタ
ヘンゼル「どうしたのパパさん?僕と話があるなんて改まって、腰が痛いからどうにかしたいって話?」ザブザブ
弥平「いや、そうじゃねぇよ。ただな、今頃村の奴らで集まって犀川の氾濫をどう防ぐか話してるだろうなと思ってな」
ヘンゼル「それがどうかしたの?さっき自分で言ってたじゃないか、僕達が話したってどうにもならないって」
弥平「…大切な橋が流された、雨の季節は始まったばかりだって言うのに今年の犀川の被害は既にでかい。これ以上被害を大きくしないためにはもう今年は人柱を立てるしかない、村の連中はそういう結論を出すはずだ」
ヘンゼル「人柱…?なんなのそれ…?」
弥平「いいか、ヘンゼル良く聞け。オラがお前達と一緒に居られなくなった時の事を話す、一番年上のお前が頼りだ。しっかり頼むからな」
ヘンゼル「ちょっと待って、なんなの急に。パパさんが僕達と一緒に居られなくなるなんて、ありえないでしょ」
弥平「良いから聞け。お前の事だ、オラがいなくなれば誰も信じられないとか言って二人を連れて家を出て行きそうなもんだけどな、そこはなんとか我慢しろ」
弥平「事情を話せば隣のばあさんとおっさんはお前達を気に掛けてくれるはずだ。おっさんに頼んでこの家と畑を金に変えて貰え、それを渡して一緒に住ませてもらえるように頼みこめ」
弥平「それから三人で出来る限りの仕事と手伝いをしろ。家も畑も二束三文だが生活の足しにはなる、それにあのばあさんとおっさんは情に厚いからお前達を立派に育ててくれる」
ヘンゼル「いや、なんなの?なんで突然そんな事…」
524 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:21:41 ID:rQn
弥平「お千代は働き者だがすぐに無理をする奴だ。それにオラが居なくなればきっと一番悲しむ、よく気に掛けてやってくれ」
弥平「グレーテルの事はお前の方がよく知ってるだろうがな、あいつは控えめに見えて妙に思い切りがいい。それが悪い方面に転がらないように見てやってくれ」
弥平「それとお前は…大人を信用する事を覚えろ。俺の子供達は三人とも立派だがそれでも子供だ、大人の力ってのが社会を生き抜くには必要なんだからな」
ヘンゼル「ねぇ、パパさんは何が言いたいの?さっきから意味がわかんないんだけど」
弥平「お前達は両親に捨てられた過去がある、だから大人や運命を憎んでるだろう…そんなお前には難しいかもしれねぇけど聞いてくれ」
弥平「いいか?運命を恨むな、周りの人間を憎むな。幸せってのは憎悪に敏感だ、お前が憎しみを抱えてる限り幸せってのは寄ってこねぇ」
弥平「だからな運命や大人を睨むくらいなら未来をしっかりと見据えてやれ、睨みつけるくらいにしっかりと未来だけ見て…腐らずにがむしゃらに生きてやれ、そうやって生きてりゃ運は向いてくるからな」
ヘンゼル「ねぇ、本当にパパさんどうしたの…?」
弥平「…オラはお前達三人の父親だけどな、父親らしい事は何もできなかった。せめてお前の抱えてる憎しみを取り払いたかったがもう間に合いそうにねぇ」
弥平「いいか、お千代もグレーテルも女の子だ。あいつを護れる家族はお前だけだ、お前だけが頼りだ。言わなくてもわかってるだろうけどな、格好や体裁なんか気にするな。オラはもうお前達を護ってやれない、だからその分はお前に託す」
ヘンゼル「……まぁ、あの二人は何があっても護る覚悟はしてるけど。それよりパパさんがもう護ってやれないってどういうこt」
弥平「覚悟してるんならいい、頼むぜヘンゼル……お前、お兄ちゃんだろ?」ニカッ
ドンドンドンドン
役人「弥平!おい弥平、身を隠しても無駄だ!おとなしくせよ!」ドンドンドン
弥平「おいでなすったか……戸締りなんざしてねぇからよ、入ってきなよ役人共」
バターン!
お千代「ど、どうしたん?こんな夜に、びっくりするんよ……」
グレーテル「……」ジッ
弥平「お前等もう少し静かに入れねぇのか?うちの子供達が怯えちまってるだろうが、野蛮な奴らだぜ」
役人「随分と胆が座っているようだな弥平。お前、自分の犯した過ちを理解しているのか?この盗人めが!」
弥平「盗人ねぇ……ああ、何日か前に地主の蔵から米と小豆が盗まれた、その犯人としてオラを捕まえに来たんだな?」
ヘンゼル「パパさん、もしかしてこの事覚悟してさっき僕にあんな事……!」
役人「フンッ、覚悟の上か。その通り、お前は数日前に地主さまの蔵に忍び込み米と小豆を盗み出した。お前の娘、お千代が歌っていた手毬唄がその証拠だ!」
お千代「あ…っ」
弥平「ああ、証拠とかあんのか。てっきりヘンゼルとグレーテルを引き取ったオラに難癖付けて捕まえようとしてると思ったんだがなぁ、まぁいいや。いこうぜ役人共」
役人「ほう、罪人の癖に随分と思い切りがいいのだな。さぁ来い、弥平!地主さまの蔵から盗みを働いた罪で貴様を人柱にする!」
526 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:27:08 ID:rQn
ヘンゼル「ちょっと待ってよ、パパさんは盗みなんかしてない!僕達のパパを罪人扱いしないでよ、あの日地主の蔵に忍び込んだのh」
弥平「ヘンゼル。余計な事言うな、オラは立派な罪人なんだからよ」
ヘンゼル「でも…米と小豆を盗んだのは…!」
弥平「あの日、察しの良いお前はオラが何をしようとしているのか察したんだろ?それをオラは見抜いていた、ほおっておけばお前がオラの代わりにそれを実行するって事も予想できた」
弥平「でもな、オラはお千代にあずきまんまを食わせたやりたかった。だからオラの考えをお前が実行に移すと解っていながら、止められなかった…息子の過ちを見過ごすなんてのは父親として失格だ」
弥平「そんな父親は罪人も同然だ、だからオラは立派な罪人。だからお前は何も喋るな。言っただろ、あの二人を護れるのはもうお前だけだってな」
ヘンゼル「パパさん、なんで…なんで、パパさんが役人に連れて行かれなきゃなんないんだよ!」
役人「ええい、大人しくしていると思えばごちゃごちゃと訳のわからぬ事を…!」
お千代「お役人さん、やめて欲しいんよ!何かの間違いなんよ!父ちゃんが悪いことなんかするわけないんよ!」ガシッ
役人「ええい、離せ小娘が!父親はお前の為に盗みを働いた立派な罪人だ!離さぬというのならお前も同罪だ」ブンッ ドサッ
ヘンゼル「お千代…!お前等、お千代に暴力振るうなんて僕が許さないからな…!」バッ
グレーテル「私の家族……いじめる人……嫌い、絶対許さない……」
役人「ええい、小賢しい童共が!逆らうならば貴様らも…!」
弥平「ああもう、お前等やめろやめろ!お千代、ヘンゼル、グレーテル……お前等は本当にしょうがねぇなぁ、役人に逆らうような事して一体誰に似たんだよ…って父ちゃんに似たんだな」ハハッ
弥平「いいか、お前等と父ちゃんはここでお別れだ。父ちゃんちょっくら犀川の神様のご機嫌取りに行ってくるからよぉ…しっかり協力して立派な大人になれ、いいな?」
527 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:29:01 ID:rQn
役人「フンッ、別れは済んだな?さっさと行くぞ、キビキビ歩け弥平!」
弥平「ヘイヘイ…ったく、乱暴が過ぎる役人だなクソッ…」
スタスタ
お千代「父ちゃん…!父ちゃん!待って、待って欲しいんよ!父ちゃん!」バッ
隣のばあさん「いけねぇよ、お千代ちゃん…!行っちゃならねぇ!父ちゃんを追っちゃいけねぇだよ…!」ガバッ
ヘンゼル「お千代を離してあげてよ!なんで引きとめるんだよ!あんたは信用できる大人だと思っていたのに、なんでそんな事するんだよ!」
隣のばあさん「あんたらの父ちゃんはあんた達の為とはいえ罪を働いたんだ。もう弥平さんを人柱にする事は決められた……もうワシやお前達に出来る事は無いんじゃ…」
グレーテル「おばあちゃん……人柱って……なに……?」
隣のばあさん「…生贄じゃ、氾濫を防ぐために弥平さんは犀川の土手に生き埋めにされるんじゃ……!」
お千代「……っ!そんなことされたら父ちゃん死んじゃうんよ……!ばあちゃん、離して欲しいんよ!父ちゃんを助けるんよ!」ジタバタ
隣のばあさん「駄目じゃ…!言ったじゃろ、もうどうにもできん……!あんたが無茶して役人に殺されでもしたら…弥平さんの気持ちは誰が汲むんじゃ…!頼むからおとなしくするんじゃ…!」
ヘンゼル「僕は……役人とパパさんを追う、お婆さんはお千代の事見てて」バッ
グレーテル「お兄ちゃん……私も、行く……」
隣のばあさん「駄目じゃ!ヘンゼル坊!グレーテルちゃんや!もうこれは村で決まった事じゃ!あんたらに止められるような事じゃないんじゃよ!」
ヘンゼル「ふざけないでよ、僕達は自分達の結末は自分で決める、パパさんの運命だって変えて見せる…決められてることなんか何一つ無いんだ!」
ヘンゼル「だから諦めるなんて…僕には出来ない。パパさんは僕達を護ってくれた立派な父親なんだ、あいつとは違う!」
ヘンゼル「あんな小さな盗みで…何が人柱だ!何が罪人だ!もう、家族が傷つくのは嫌だ。僕は何をしてでもパパさんを助ける。役人どもを殺して、もう一度一緒に暮らすんだ……!」
528 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:31:43 ID:rQn
別のおとぎ話の世界 バラの咲き誇る庭園
・・・
野獣「貴様、そのバラをどうするつもりだ…!」グルルルルッ
商人「はわわ…出来心だったんです!私の娘にバラを土産にしてやろうと思ったんですぅ!」ビクビク
野獣「私は寒さと空腹に苦しんでいるお前をこの城へと導き、食事はおろか寝室まで与えたというのに……お前は私の育てた大切なバラを盗むと言うのか!!」グオォォォ!!
商人「ひぃぃっ…!ど、どうか許して下さい許して下さい!」ペコペコ
野獣「……貴様、娘が居ると言ったな。ならばその娘をこの城へと連れてこい。ただし、娘が自分の意思でここに来る事が条件だ、娘がもしもこの場へ来る事を拒むのならばお前が一人で戻ってくるのだ」
野獣「その時には……私が貴様の五体をズタズタに引き裂き、殺す。いいな?」
商人「ひっ…わ、わかりました…!か、必ず戻りますぅぅ!」
野獣「ならば部屋へと戻れ。いくらかの金貨と馬を手配してやる。その代わり、約束は護るようにな…私は嘘をつかれるのが嫌いだ」
商人「は、はい!わかりました、し、失礼いたしますぅ!」
バタバタ
野獣「ふむ…筋書き通りとはいえ、丹精込めて育てたバラが摘み取られると言うのは心が痛む」サワッ
野獣「……さて、君はいつまで様子を見ているつもりだ?」
雪の女王「流石は魔力を操りし野獣だ、やはり気がついていたのだな……」
野獣「当然だ。悪いが君が纏う冷気は私のバラに悪影響を及ぼす……応接室へ案内しよう、話はそこで聞かせて貰う」スッ
529 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:35:05 ID:rQn
立派な城 応接室
野獣「そこに腰かけてくれ。雪の女王といったな、君はローズティーで構わないか?」
雪の女王「気づかい感謝する。だが急ぐんだ、茶はまたの機会に頂く事にして私の要件をまず聞いて欲しい」
野獣「ふむ、そうか。話してみるがいい」ドスッ
雪の女王「私は【雪の女王】の世界で少し前に姿を消した兄妹を探している、ヘンゼルとグレーテルと言う子供だ……理由はすまないが割愛する」
雪の女王「どうやら崖から滑り落ちた拍子に別のおとぎ話の世界へ飛ばされたようなんだ。だがその二人は世界移動の手段を持たない、帰る事が出来ないんだ」
野獣「それは難儀な事だな」
雪の女王「私はそれに気がついて、すぐにあらゆるおとぎ話の世界を飛び回って魔力を頼りに探しまわった……だが、無数にあるおとぎ話の世界をひたすらに探しても……二人は見つからなかった」
雪の女王「出来る事ならば他のおとぎ話の世界に手を借りるのは避けたかった。おとぎ話の世界全体の危機ならばともかく、これは私の家族の問題だ。別のおとぎ話に干渉はしたくなかった…」
野獣「だがこうして私を訪ねてきたという事は…そうも言ってられなくなったのだな?」
雪の女王「恥ずかしながらその通りだ。時間の経過速度はおとぎ話の世界によってまちまちだ…彼等は私の迎えを待っている。大人に裏切られた過去を持つ彼等をもうこれ以上待たせるのは不憫だ」
雪の女王「そこで君に力を借りたい。【美女と野獣】の野獣よ、君が所有する鏡を貸してほしい。兄妹を探し出す為に」
野獣「ベルの部屋にある『見たい相手を思い浮かべて覗くと姿を見る事が出来る鏡』か……」
野獣「いいだろう。幸い、まだベルがこの城へ来るまで時間がある。持って来てやろう、好きに使うと良い」
530 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:40:00 ID:rQn
野獣「これがその鏡だ。ヘンゼルとグレーテルの事を思い浮かべ、鏡を覗いて見ろ」ゴトッ
雪の女王「……」スッ
ポワワー
雪の女王「鏡にヘンゼルの姿が…!どこだ…!どこの世界に居るんだ!手掛かりを探さなければ…!」
野獣「落ち着け、次回に制限がある魔法では無い。風景や様子から手掛かりを拾い出すんだ。ふむ、どうやらあの建物は…日ノ本の建築物だな」
雪の女王「酷い雨だな。」
野獣「むっ……あの川の土手に祭られているものはなんだ?確か以前に文献で目にしたな、しかし何の儀式の準備だったか思いだせん……」
雪の女王「あの儀式は恐らく……日ノ本に伝わる人柱の儀式……っ!」バッ
野獣「大雨、川の土手…そして人柱の儀式となると……おそらく、あのおとぎ話だな。日ノ本の、民話……」
雪の女王「【キジも鳴かずば】……!なんてことだ、何故よりによってあの悲劇のおとぎ話へ飛ばされてしまったんだ…!」
雪の女王「もしも主人公のお千代や弥平と親しくなっていれば……ヘンゼルは村の大人達を憎んでしまう、すぐに向かって止めなければいけない…!」
野獣「一人で平気か、女王。私の助力が必要ならば言ってくれ」
雪の女王「いや、大丈夫だ。すまないが私はもう行くよ。慌ただしくてすまない…後日改めて礼に伺うよ」ヒュォッ
雪の女王「ヘンゼル…!グレーテル…!何が起きても早まるんじゃないぞ、冷静でいてくれよ……!」
雪の女王「そして無事でいてくれ……お前達は私の家族なんだ……!」ヒュォッ
531 :名無しさん@おーぷん :2015/08/23(日)23:43:06 ID:apB
弥平さん……(つД`)ノ
532 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/23(日)23:56:05 ID:rQn
今日はここまでです レスありがとうー!また今回も長くなりそう、まぁ佳境ではあるんだけど……
【キジも鳴かずば】
弥平とお千代という貧しい親子の悲劇のおとぎ話
善人の弥平が瀕死の娘の為に一度だけ犯した小さな罪、それが原因で弥平は人柱にされてしまう
その罪が発覚する事になった原因が自分の手毬唄にあったと知ったお千代は泣きに泣きやがて喋る事を自ら封じる
それから月日がたち、猟師に撃ち落とされたキジを抱いたお千代は鳴き声を上げたせいで猟師に撃たれたキジを
自分の手毬唄のせいで人柱にされた弥平を重ねて一言「キジも鳴かずば撃たれまいに」と呟き、人々から姿を消す。という内容
民話がベースの為お千代や弥平の名前が違ったり細部が違うバージョンも多いですが、このSSではお千代と弥平で統一します。
ヘンゼルとグレーテル・キジも鳴かずば編 次回に続きます
533 :名無しさん@おーぷん :2015/08/24(月)00:15:18 ID:jeJ
乙です…。
すごく悲しい物語ですね……。
ですが、続き待ってます……。
556 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/30(日)23:13:15 ID:CCE
キジも鳴かずばの世界 農道
グレーテル「急がなきゃ……弥平パパ……埋められちゃう……」タッタッタ
ヘンゼル「させないよ、そんな事。なんであんな些細な盗みを命で償わなきゃならないんだ、そもそもパパさんは何も悪くない…悪いのは僕だ」タッタッタ
グレーテル「ううん……お兄ちゃんも弥平パパも悪くない……悪いのはお千代ちゃんを泣かせちゃう大人達だよ……絶対、許さない……」タッタッタ
ヘンゼル「ああ、許さない。すぐに追いついて…村の大人共を僕の魔力で叩きのめす。僕達の家族を苦しめる悪人に容赦なんか絶対にしない」タッタッタ
スッ
地主「おぉ、ヘンゼル君とグレーテルちゃんじゃないか。こんな時間にどこへ行くのかね?」
グレーテル「あっ……地主さん……」
地主「ちょうどよかった、君達の家を訪ねようと思っていたのだ。是非ともお礼が言いたくてね」
グレーテル「お礼……?私達、地主さんにお礼を言われるような事……してないよ……?」
ヘンゼル「相手しちゃダメだ、行こうグレーテル」
地主「おぉ…これだけの大役を果たして謙遜するとはその謙虚さ恐れ入った。しかしもっと誇って良いのだぞ?この世界を消滅から救ったのは間違いなく君たちなんだから」ハハハ
ヘンゼル(僕達がこの世界を消滅から救った?なにを言ってるんだこいつ)
地主「いやはや、一時はどうなる事かと思ったが…これで筋書き通り無事に弥平を人柱にする事が出来る」ハハハ
ヘンゼル「……筋書き通り?」
地主「ああ、本来の【キジも鳴かずば】の筋書き通り、弥平は人柱にされる。これでこの世界は消滅の危機から逃れられたんだ。いやはや、めでたい事だ」ハハハ
地主「これも君達がこの世界を救うためにざわざわ足を運んでくれたおかげだ、ワシが代表として礼を言おう。ありがとう、ヘンゼル君にグレーテルちゃん」ハハハ
557 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/30(日)23:15:19 ID:CCE
地主「ささやかな礼しか出来ぬが屋敷に食事の用意がしてある。是非とも二人d」
ヒュッ ガシッ
地主「ぬぐっ…!突然に掴みかかるとは…どうしたというんだヘンゼル君!?」グヌヌ
ヘンゼル「答えて貰うよ。パパさんが人柱にされるのが『筋書き通り』ってどういう意味?」
グレーテル「もしかして……弥平パパは……このおとぎ話で重要な役割の人なの……?」
地主「ど、どういう事だ?二人は【ヘンゼルとグレーテル】の兄妹だろう?他のおとぎ話の主人公が別の世界に来る理由などそう多くは無い…君達は助けに来てくれたんだろう?」
地主「消滅しかけていたこの世界を…おとぎ話【キジも鳴かずば】を救うために、危機を察知した君達が助けに来てくれたんじゃないのか!?君達が物語の展開を元に戻す為に!」
ヘンゼル「呆れた大人だね、どうしてそんなに都合のいい考え方が出来るの?」
グレーテル「違うよ……私たちは偶然……この世界に来ちゃっただけなの……それで偶然、弥平さんとお千代ちゃんと家族になったの……それだけ……」
地主「な、なんてことだ…ならば全ては偶然だったと言う訳か…!てっきり全てを知った上であの二人に近づいたのだとばかり…!」
ヘンゼル「話を戻すけどさ、あんたが言ってた『筋書き通り』っておとぎ話の筋書きの事だよね…パパさんが人柱にされるのがこの【キジも鳴かずば】とかいうおとぎ話の内容なの?ほら、答えてよ」グイッ
地主「うぐぐっ……そ、そうだ!このおとぎ話は貧しい親子の弥平とお千代が主人公だ、今にも死んでしまいそうなお千代の為に弥平は一度だけ盗みを働き…」
地主「そしてお千代が歌った手毬唄が原因でその事が公になり、弥平が人柱にされてしまう。これがこのおとぎ話の内容だ」
558 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/30(日)23:16:46 ID:CCE
ヘンゼル「…なんなのそれ、なんで二人がそんな目に合うんだ…!」グイッ
地主「わ、ワシに言うんじゃない!ワシはこの【キジも鳴かずば】の登場人物の一人に過ぎん、ただこの世界がおとぎ話の世界だと知っているだけだ…!」
グレーテル「……ひどい……お千代ちゃんも弥平パパも悪くないのに……こんなのってないよ……」
地主「しかし…現実世界でこのおとぎ話は忘れかけられているのだろう…異変によってこのおとぎ話の内容は少し変わってしまった」
ヘンゼル「おとぎ話の内容が変わった…?」
地主「ああ、そうだ。君達は知っているだろう?お千代が倒れたあの日、弥平は畑で腰を痛めてしまった。それは本来の展開に大きく影響する異変だった」
グレーテル「腰を痛めちゃう事……そんなにおとぎ話に影響与えちゃう事なの……?」
地主「本来ならば弥平はワシの蔵に忍び込んで米と小豆を盗むはずだ、そしてそれが原因で人柱にされる。しかし、弥平は腰を痛めて蔵に忍び込めない」
ヘンゼル「……っ!」ハッ
地主「蔵に忍び込めなければあずきまんまをお千代に食わせてやれない。それでお千代がどうなるかは知らんが…少なくとも弥平は人柱になる事は無い」
地主「しかし、それだと物語が完全に立ち行かなくなる。この物語の結末はお千代の手毬唄のせいで弥平の盗みがバレて人柱にされる事だ、人柱にされなければ物語は進まない。この世界は消滅するしかない…はずだった」
地主「だがこのおとぎ話は消えなかった。異変は防げず弥平は腰を痛めたままだったが…弥平の代わりに米と小豆を盗んでくれた人物が居たからだ。それがk」
バンッ
地主「ぐえっ!ゲホゲホ…何をするんだね君は…いきなり叩きつけるなんてどういうつもりd」
ヘンゼル「理解出来たよ。異変でパパさんは蔵に忍び込めない……でも都合の良い事にパパさんの代わりに僕が盗みを働いた」
ヘンゼル「そしてあんたは、この世界を救うためにそれをパパさんの罪にして、無実のパパさんを罰する事にしたんだ……!」
559 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/30(日)23:19:19 ID:CCE
ヘンゼル「ねぇ…答えてよ、答えろ!そうなんだろ!」グイッ
地主「は、離してくれ…!く、苦しい…!」グエェ
ヘンゼル「……聞くまでもないよね。事実、パパさんは盗みなんてしちゃいないんだ。盗みを働いたのは僕だ」
ヘンゼル「あの夜、パパさんは腰の痛みで盗みなんて出来なかった…だから僕が代わって米と小豆を盗むためにあんたの蔵に忍び込んだ。それはあんたも知っていた」
ヘンゼル「本当なら…僕達がこの世界に来なければ、お千代はあずきまんまを食べられなかった。だから手毬唄も歌えないし、パパさんが人柱にされる事も無かった」
ヘンゼル「でもあんたはそれじゃあ都合が悪かったんだ、おとぎ話が消滅すればあんた達も巻き込まれて消えるから。だからあんたはパパさんが無実だと知っていながら…それを公にしなかった」
地主「……」ゲホゲホ
ヘンゼル「犯人は僕…ヘンゼルだとあんたは知ってた。でもそれじゃあおとぎ話の展開に差し支える、僕が人柱になっても意味が無いからだ。だからあんたは僕の罪をパパさんの罪にした…!」
地主「仕方のない事だ。誰が犯人だろうがこの際構わなかった、弥平が人柱にならなければこのおとぎ話は消える……それだけは避けなければいけない」
地主「お千代の手毬唄を聞いた薄毛は弥平がこの窃盗の犯人だといいだした。それは本来の展開通りだ、ワシにはそれを否定する理由は無かった。真犯人が別にいると知っていてもな」
グレーテル「弥平パパは……悪くないって知ってるのに……人柱にする為にみんなには言わず……弥平パパを悪者にしたの……?」
地主「そんな言い方はやめてくれ…ワシはこの世界のみんなを救うために、仕方なく…!」
ヘンゼル「その『みんな』にはパパさんもお千代も含まれてないんだね」
地主「そんなこと当然だろう!?そもそも異変がおきなければ弥平は人柱になるはずだった、なにもおかしい事は無い!ワシは少し変わってしまった運命を元に戻しただけだ!」
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」 ヘンゼルとグレーテル編
Part1<< Part15 Part16 Part17 Part18 Part19 Part20 Part21 Part22 Part23 >>Part26
評価する!(2313)
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」一覧に戻る
ショートストーリーの人気記事
神様「神様だっ!」 神使「神力ゼロですが・・・」
神様の秘密とは?神様が叶えたかったこととは?笑いあり、涙ありの神ss。日常系アニメが好きな方におすすめ!
→記事を読む
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
→記事を読む
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」
→記事を読む
魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」
→記事を読む
男「少し不思議な話をしようか」女「いいよ」
→記事を読む
同僚女「おーい、おとこ。起きろ、起きろー」
→記事を読む
妹「マニュアルで恋します!」
→記事を読む
きのこの山「最後通牒だと……?」たけのこの里「……」
→記事を読む
月「で……であ…でぁー…TH…であのて……?」
→記事を読む
彡(゚)(゚)「お、居酒屋やんけ。入ったろ」
→記事を読む