キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」 ヘンゼルとグレーテル編
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360 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)22:58:52 ID:l4v
夕飯後 ヘンゼルとグレーテルの部屋
グレーテル「ふんふんふーん〜♪」ゴソゴソ
グゥー
ヘンゼル(夕ご飯を食べたばかりなのにお腹が空いたな。やっぱり昼ご飯に水だけというのは無茶だったかな…)
グレーテル「お兄ちゃん?どうかしたの?どこか痛いの?」オロオロ
ヘンゼル「平気だよ、何でもないから気にしなくて明日の支度を続けると良いよ」ナデナデ
グレーテル「そうなの?でも、なんだかお兄ちゃんボーっとしてたよ?」
ヘンゼル「それは、あれさ、えーっと…そうだ、なんだかグレーテルが少し嬉しそうだったから何かなって思ってね」
グレーテル「えへへ、つい鼻歌歌っちゃった。今日の夕飯、お豆のスープだったから嬉しかったんだ。ごちそうだよ」ニコニコ
ヘンゼル(今日の夕飯は一切れの薄いパンと、痩せた豆が一粒二粒入ったお湯のようなスープだった。)
ヘンゼル(こんな質素な食事でも…グレーテルには好物の豆が入っているだけでごちそうなんだ、それがたった萎びた小さな豆二粒でも)
ヘンゼル「グレーテルは豆が好物だったもんね、具の入ったスープなんて久しぶりだったからね」
グレーテル「うん!いつか…一度だけで良いから、スプーンですくいきれないくらいいっぱいお豆が入ったスープ、食べてみたいな。でも、すごく贅沢かな」ニコッ
ヘンゼル(僕はグレーテルの笑顔が大好きだけど、それを見るのは…とても辛い)
ヘンゼル(グレーテルのその願いは、きっと叶わないんだ。たかが豆をお腹いっぱい食べたいなんていう願いすら叶わない。だから僕は妹に嘘をつかないといけない)
ヘンゼル「そんなことないよ、グレーテルが真面目にキチンと頑張れば神様が助けてくださる、いつかきっとお腹いっぱいに豆のスープが食べられるよ」ニコッ
361 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:00:58 ID:l4v
グーッ
グレーテル「えへへ、食べ物の話してたらなんだかお腹すいちゃったね。ごはん食べたばっかりなのに、変なの」クスクス
ヘンゼル「そうだ、豆のスープは無いけど…とっておきのお土産があるんだ、グレーテルびっくりしちゃうよ、きっと」ゴソゴソ
グレーテル「お土産!なにかなぁ…今日はお兄ちゃん森に行ったからもしかして綺麗なお花とか?」ワクワク
ヘンゼル「どんなにきれいでも花は食べられないだろう?だからもっと素敵なものだよ、ほら!切ってないまるごとのパンだよ」スッ
グレーテル「……」グシグシ
ヘンゼル「グレーテル?目なんか擦ってどうしたんだい?」
グレーテル「うん、ホントに…本物だね。切ってないパンなんて凄く久しぶりに見たから、もしかしたら幻かもって思っちゃった」エヘヘ
ヘンゼル「あはは、幻って…そんなわけないよ、ちょっと硬いけれど…全部グレーテルのだから、全部食べて良いんだよ」
グレーテル「でも、もしかしてこれって…お兄ちゃんのお昼ご飯のはずだったんじゃないのかな?それを私の為に我慢したの?」
ヘンゼル「違うよ、僕のお昼ご飯は…ほら、パンが二つあったんだ。だから一個はグレーテルの分、兄妹なんだからはんぶんこするのはあたりまえだよ」ニコッ
グレーテル「そっか…だったら、このパンは私が好きなだけ食べても良い?」ニコニコ
ヘンゼル「グレーテルのものなんだから、遠慮せずに全部食べたら良いんだよ」
グレーテル「そっかぁ…私が好きにしていいんだったら、はんぶんこにするからお兄ちゃん半分食べてくれる?」ニコニコ
362 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:02:21 ID:l4v
ヘンゼル「いや、僕はお昼に食べたからいいよ。それよりもグレーテルが…」
グレーテル「私はお兄ちゃんと一緒にパンが食べたいの、一人で食べてもおいしくないよ。二人で仲良く食べたほうがずっと美味しいよ」ニコニコ
ヘンゼル「…そういう事なら、半分貰おうかな」ソッ
グレーテル「はい、どうぞ。えへへ、それじゃあいただきまーす」モサモサ
ヘンゼル「うん、いただきます」モサモサ
グレーテル「お兄ちゃんのお土産のパン、おいしいね。きっと夕飯のパンと同じなのにずーっとおいしいよ」ニコニコ
ヘンゼル「グレーテルの言ってた事、本当なんだね。二人で食べた方がおいしいって」
ヘンゼル(これは嘘じゃない。口の中には硬くて、パサパサしたあまりおいしくないパン。だけど、今はなんだかいつもよりもおいしい気がした)
グレーテル「えへへ、だから私が言ったでしょ?二人で食べた方が…ケホケホ」ケホケホ
ヘンゼル「あぁ、パンだけじゃのどを通らないよね、水を汲んできてあげるよ。ちょっと待っていてね、グレーテル」スクッ
グレーテル「うん、ありがとうね。お兄ちゃん」ニコッ
スタスタ
継母「…どうするってんだい!このままじゃ…一家そろって飢え死しちまうよ!」バンッ
父親「もう少し静かにしてくれ、子供たちに聞こえてしまう。二人に心配を掛けたくない」
ヘンゼル(パパと母さん……何の話をしてるんだろう)コソコソッ
363 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:04:24 ID:l4v
キッチン
継母「心配かけたくないだって?今更そんな風に父親面してどうすんだい、もう家中をひっくり返したって食べ物はここにあるだけなんだよ!?」
継母「萎びた野菜くずと古い穀物粉、乾燥しちまったパンがいくつかだ。これじゃあ新しいパンも焼けやしない」
父親「わかってる。でも仕方がないだろう、うちだけじゃない…国中が飢饉で大変なんだから…」
継母「そんなこと知ってるさ。でもね、近頃は木材もなかなか売れない。木材を売った金でいくらかの穀物粉を買っても…何日もつのかわかったもんじゃないんだよ!」
父親「そんときは、お前…俺達の分を減らして、ヘンゼルとグレーテルに食わしてやるしか…ないだろう」
継母「そんなことをしたって…三日四日しのげるだけさね。今のうちには二人も子供を養ってる余裕は無いんだよ。こうなりゃあいっそ森の奥に二人を置き去りにしてくればさしあたり二人分の食料が浮くってもんさ」
父親「この状況が辛いのは何もうちだけじゃないんだぞ、なのにお前はよくもまぁそんな事を……」
継母「そうさ、うちだけじゃない。よその家だって食べ物に困って年寄りやら子供を口減らしにしてんだ…なにも子供達を森に置き去りにするのはうちだけじゃないのさ、誰も責めやしない」
父親「それは……そうかもしれんが……しかし、あの二人が可哀そうだ」
継母「例えこのまま四人で暮らしても、近いうちに四人とも飢え死にだ。だとしたら、あの二人を森に置き去りにする方が…お互いに未来があるってもんさ」
父親「森には獣だって出るんだ、僕達はともかくあの二人を森に捨て置いて…子供たちになんの未来があるっていうんだ」
継母「バカだねお前さん。考えてもみなよ、森にはきこりだって狩人だってくるんだ。森の中を子供が歩いていれば不憫に思った優しい人が拾って育ててくれるかもしれないじゃないか」
父親「……」
継母「このままじわじわと死に近づくか、あの二人が幸せになる可能性にかけるか…もうそれしかないんだ、さぁ決めとくれ」
364 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:07:07 ID:l4v
父親「…二人を森に置き去りにすれば、優しい人が助けてくれるだろうか……」
継母「きっと助けてくれるさね、あんただって森で見知らぬ子供が歩いていたら助けちまうだろう?」
父親「……そりゃあそうだが」
継母「さぁ、どうするんだい?森に置き捨てるなら早い方がいい、何なら明日にでもね」
父親「……仕方ないことだ」
継母「それじゃあ、いいんだね?」
父親「ああ、明日だ。明日、ヘンゼルとグレーテルを…森に連れていく」
ヘンゼル(……何故、何故そんな結論になってしまうんだい、パパ)
ヘンゼル(優しい人なんか、現れるわけないじゃないか…この国の人はみんな飢饉に苦しんでいるのに、見知らぬ子供を養う余裕なんてどこの家にだってないよ)
ヘンゼル(それともそんなの口実で、本当は僕達の事なんか……いいや、そんな事疑っちゃいけない。自分の子供を必要ないと思う大人なんて、いないもんね)
ヘンゼル(……とにかく、この事はグレーテルには言えない。なんとか、僕が何とかしないと…)
グレーテル「…お兄ちゃん」ギュッ
ヘンゼル「…グレーテル。お前、どこから聞いていたんだ…?」
グレーテル「……私達を置き去りにしたら、優しい人が助けてくれるかなってところから、だよ」ジワッ
グレーテル「ねぇ、お兄ちゃん…私達、本当に捨てられちゃうの…?」ポロポロ
365 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:09:39 ID:l4v
ヘンゼルとグレーテルの部屋
グレーテル「ぐすっ…ぐすん……ひっくひっく……」
ヘンゼル「グレーテル…もう泣きやもう、泣いたって。どうにもならない…」
グレーテル「だって、私達…明日には森の奥に捨てられちゃうんでしょ?」
ヘンゼル「……きっとね。一度決まってしまえば、あの母さんの事だ。なんとしても僕達を捨てさせるだろう」
グレーテル「私ね…お家が貧乏でもご飯が少ししか食べられなくっても平気だよ?お兄ちゃんもパパもいるし、ちょっと意地悪だけど母さんもいるもん…」
グレーテル「でも、パパ達は…平気じゃなかったんだね。私は家族の事大好きだけど……パパ達は、私の事なんか好きじゃないんだね」ポロポロ
ヘンゼル「グレーテル、そんな事言っちゃいけない。娘の事が嫌いな父親なんか、いるわけないじゃないか」
グレーテル「でも、パパは決めたよ?私とお兄ちゃんを捨てちゃう事…」
ヘンゼル「パパは…少し間違えた選択をしちゃっただけなんだ。僕達の事を嫌いでこのことを決めた訳じゃないよ」
グレーテル「本当…?私、パパに嫌われてないの…?」
ヘンゼル「ああ、大丈夫。僕だっている。僕は何があってもグレーテルの事を大切に思っているよ。僕はグレーテルのお兄ちゃんなんだから」
366 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:11:38 ID:l4v
グレーテル「…うん、私もお兄ちゃんの事。好きよ」ニコッ
ヘンゼル「うん、それに安心しても大丈夫だよグレーテル。僕に考えがある」
ヘンゼル「明日僕等は森に奥に置き去りにされるけど…なんとしても家まで帰ってくるんだ」
グレーテル「でも…お家に帰ってこられても、また捨てられちゃったりしないかな?」
ヘンゼル「大丈夫さ、グレーテルはパパの事好きだろう?」
グレーテル「うん、大好き」コクコク
ヘンゼル「僕だってパパの事が大好きだ。だから僕はもっとパパの事、信じてみようと思う」
ヘンゼル「さっきのは母さんに良いように言いくるめられて、それでつい間違えた選択をしちゃっただけだよ。僕達を捨てた後きっとパパは後悔する」
ヘンゼル「そうに決まってるさ、パパはお腹が空きすぎてちゃんと物事が考えられないだけなんだ。だから後で絶対に悔むよ」
ヘンゼル「だから僕達がなんとか家に帰れば、パパは反省してもう僕達を手放そうなんて思わないよ」
グレーテル「そっか、そうかも…やっぱりお兄ちゃんは賢いね」ニコッ
ヘンゼル「僕達はパパの事が大好きだ、パパだって僕達の事を愛してくれているんだ。少し選択を間違えたくらい、どうってことないんだ」
ヘンゼル「さぁ、グレーテル。明日に備えて今日はもうお休み、後の事は全部お兄ちゃんに任せたら良いんだよ」
グレーテル「うん、ありがとう。お兄ちゃん、おやすみ……あのね、お兄ちゃん…お兄ちゃんは、私の事置いて行ったりしないでね…?」
ヘンゼル「当然だよ、そんな心配しなくても平気だよ。兄妹だろう?」
グレーテル「うん、私、安心した。じゃあね、おやすみ」ニコッ
367 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:15:53 ID:l4v
二人の部屋が見える庭
ヘンゼル(そうだ、大丈夫だ…こうやって目印の小石を集めて、明日はこれを落としながら森へ入る。それを目印に帰ればいいんだ)ヒョイヒョイ
ヘンゼル(うん、平気だ。パパは僕達の事を愛してるんだ。今回の事は、ちょっと母さんに言いくるめられただけだ)
ヘンゼル「うん、そうだ。そうに違いないんだ……パパはちょっと間違えただけ、本気で僕達を捨てようなんて思ってない…」
ヘンゼル「そうじゃないと……こんなの、あまりに悲しすぎる……僕はともかく、グレーテルが…なんであんな健気な女の子が、こんな酷い目に会わないといけないんだ……」
チラッ
グレーテル「……すぅすぅ」スヤスヤ
ヘンゼル「…大丈夫だからね、グレーテル。お兄ちゃんが、お前を不幸になんかさせない」
ヘンゼル(……神様)
ヘンゼル(……パパと一緒に居たいと願う事は…僕やグレーテルが望んでるのはそんなに贅沢な事ですか?)
ヘンゼル(昔、町に出かけた時神父さんは仰ってました。生きていると辛いことや苦しい事があるけれどそれは神様が僕達に与えた試練だと)
ヘンゼル(その試練を乗り越えれば…日々真面目に暮らしていれば、きっと神様は僕達を幸せにしてくださると。そう神父さんは仰いました)
ヘンゼル(僕達はどうやら明日、パパ達に森の奥へ捨てられます。それが神父様の仰っていた試練だというのなら…僕は何としても乗り越えます、だから…)
ヘンゼル(神様。僕は幸せにならなくったって構いません、だから妹のグレーテルには…どんな小さな物でも良いです。大きなものは望みません)
ヘンゼル(豪華な家も高級な料理も立派な洋服もいりません、慎ましく暮らせる場所と少しの食べ物…少し贅沢を言えば豆のスープを毎日。そんな些細なもので良いんです、だからどうか…)
ヘンゼル(神様。どうかグレーテルには…幸せを与えてください)
368 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:17:54 ID:l4v
今日はここまで
自分達を捨てることを選択した父親
それでも父親を信じるヘンゼル
ヘンゼルとグレーテル。とある消滅したおとぎ話編 次回に続きます
369 :名無しさん@おーぷん :2015/08/06(木)08:12:26 ID:UWH
>>1さん乙です!
これから、ヘンゼルとグレーテルにとって辛くなる一方でしょうけど、先の展開が楽しみです…
次回も期待しています!!
P.S.ヘンゼルがカッコいいです
がんばれヘンゼル!!
370 :名無しさん@おーぷん :2015/08/06(木)19:30:58 ID:hlv
乙です!
暗く重い話ですが、続き待ってます!
371 :名無しさん@おーぷん :2015/08/06(木)19:33:37 ID:GlQ
乙!
なんか鼻の頭がじわーっと熱いと言うかなんと言うか
375 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)22:44:09 ID:4CO
現実世界 廃墟
・・・
ヘンゼル「そして僕とグレーテルは翌日、深い森の奥深くに置き去りにされた」
グレーテル「……小さなパンを渡されて……パパが迎えに来るまで大人しくしてるんだよ……って言われたの……でもね、暗くなっても、パパは来なかったの……」
ヘンゼル「あの時はまだ、もしかしたら思い直すかもしれない…なんて愚かな希望にすがっていたよ。僕もグレーテルもまだ父親なんてものを信じていたからね、その時は」
グレーテル「……うん。でも……思い直してくれなかったの……」
キモオタ「しかし……我輩、解せませんな。先ほどラプンツェル殿におとぎ話を聞いたときにも思ったのでござるが、いくら飢饉とはいえ我が子を捨てるなど…」
ラプンツェル「うん、私もそれは思うよー!森に捨てちゃうなんて酷いなって、それも同じ気持ち!」
キモオタ「そうでござろう?そもそも食料に困っているからと言って口減らしなどという行為が行われていること自体がおかしいのでござるよ。多少我慢してでも家族で暮らせる事を優先するのが本当でござろう?」
ヘンゼル「あんたの立場から見たらそうだろうね。こんな裕福な国で暮らしていたら貧困や飢えなんて現実的じゃないもんね…飢饉の苦しみなんか想像もつかないに決まってる」
グレーテル「うん……キモオタお兄ちゃん……お腹が空いて困るって事……よくわかってないなって……私、思うの……」
キモオタ「いやいや、わかってないとか裕福だとか言う問題では無くてでござるな…貧しい時にどうするかという気持ちの問題でござって…」
孫悟空「だからテメェはその飢えてる奴の気持ちが理解できてねぇんだろ?だから口減らしって行為がおかしいとか言えるんじゃねぇか」
キモオタ「ご、悟空殿まで…我輩だって空腹の辛さくらいわかるでござるよ!だからこうしておかしいと思っているでござろう…!」
376 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)22:46:59 ID:4CO
ラプンツェル「ねーねー、キモオタ。私、うまくいえないけどさー…私もキモオタも、本当の本当にお腹が空いた事って無いんじゃないかなー?」
ラプンツェル「私はずーっと塔の中で暮らしてたけど食べ物に困った事は一度も無かったよ、でもねー現実世界に来てすっごく驚いちゃったんだ!どこにでも食べ物が売ってるから」
キモオタ「まぁ…コンビニやら屋台やらチェーン店やらでお金さえあればどこでも食べ物にはありつけますからな…」
ラプンツェル「でしょー?アイスクリームとかお菓子とかお腹がすいたらすぐに手に入るでしょ?それって凄いけどさー、だからこそ現実世界のキモオタやママに大切に育ててもらった私にはよくわかってないと思うの、本当にお腹がすくって事ー」
ラプンツェル「ヘンゼル達が経験した事ってさ、私達が考えてるよりずーーっと辛いことだったのかも」
キモオタ「……確かに、そうかもしれませんな。この飽食の時代、普通に生活して居ればこの日本で餓死など考えられませんからな」
ヘンゼル「言われてようやく気が付くんだね。それだけ食べ物があるこの状況が当たり前になってるんでしょ、本来は一日に三回も食事ができるだけでも感謝すべき事なのにね」
グレーテル「この世界のごはん……おいしい。コンビニのお菓子もおいしい……でも、それって私達にとってはすっごく……特別な感じ、全然普通じゃないの……」
孫悟空「俺もこいつら程じゃねぇが、旅の途中にまともに飯にありつけねぇ時期もあったからな。この現実世界には食い物であふれてやがるから、いまひとつ理解しがたいかもしれねぇ。だけどよぉキモオタ」
孫悟空「おとぎ話の世界ってのはこの世界より何百年も昔の世界が舞台になってんだよ。この世界と違って飢饉や飢えや貧困なんてのはかなり現実的だ、へたすりゃこいつらみたいにそれが日常ですらある」
孫悟空「テメェは口減らしなんてのはおかしいって言ったがな…今日の飯にも困ってる奴にとっちゃあ口減らしでもしねぇとどうにもならねぇ。それは現実なんだぜ?」
キモオタ「しかし、食料に困って家族を見捨てる……など、やはり我輩には受け入れられませんぞ…」
孫悟空「誰だって受け入れられねぇに決まってんだろ、だがそうしねぇと一人残らず飢え死にだ。それを防ぐには口減らししかねぇ」
孫悟空「便利なこの世界が悪いとはいわねぇがな。常に飢えと戦い、食いもんがねぇばっかりに死や別れを覚悟しねぇといけねぇ…そういう世界もあるって事だ、こいつらの世界みたいにな」
377 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)22:48:57 ID:4CO
孫悟空「それにな、キモオタ。こいつらには聞かせられねぇが……森への置き去りならまだ良い方だ」ボソッ
キモオタ「ファッ!?悟空殿は何を…実の父親に森に捨てられたヘンゼル殿とグレーテル殿がまだ良い方ですと!?」ボソッ
孫悟空「口減らしってのはな、ようは養う必要のある奴を減らす行為だ。死なせるつもりで森に置き去りにするのも口減らしだが…」ボソッ
孫悟空「絞殺…首を絞めて殺したり、土に埋めて殺したりな……直接手を下す手段ってのもわりと一般的だ」ボソッ
キモオタ「じ、実の親が飢えを理由に我が子を直接…!」ボソッ
孫悟空「ある程度育ってる子供なら殺さずに養子や身売りに出す親もいる。ヘンゼルみたいに若い男なら肉体労働の為に売られる事もある」ボソッ
キモオタ「……なんという」
孫悟空「だが女はそうもいかねぇ。となると…グレーテルなんかは特に愛嬌がある顔達だ。そういう娘は娼婦として店に売られる、いくらかの金で身体を売る為にな」ボソッ
キモオタ「い、いくら切羽詰まっているとはいえその様な行為が許されるはずがないでござる!」バンッ
孫悟空「落ち着け。テメェの憤りはわかるぜ。だがよぉ…こいつぁある種の親心でもあんだよ、辛かろうが悲しかろうが肉体労働してりゃあ食いぶちは少なからずある、身体を売って金持ちの男に気に居られりゃあ玉の輿。飢え死ぬよりはマシな人生を送れるかもしれねぇってな」ボソッ
キモオタ「そんなものは…詭弁でござる。そんなものは…単なる言い訳でござろう!」ヒソヒソ
孫悟空「そうでも思わねぇと親の方もまともでいられねぇのさ。そういう意味ではこいつ等の親父も時代の被害者ってわけだ」ボソッ
孫悟空「しかしだな、どんな理由があろうとこいつ等にとって自分達が捨てられた事は事実だ。ふてぶてしい態度だがよぉ、実の父親に見放されたヘンゼルは相当な心の傷を負ってやがる……」ボソッ
孫悟空「そうでなけりゃあ…あんな風に大人を憎んだりしねぇからな。俺達に出来るこたぁ、今はとにかくこいつの言葉に耳を傾けてやることだぜ」ボソッ
378 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)22:50:30 ID:4CO
孫悟空「気は進まないなんざ言っていたがよ、それでもヘンゼルは俺達に…憎い大人に過去を語るって決めたんだ。多少は心を許してくれてんじゃねぇか?」ボソッ
孫悟空「もしもそうだってぇなら、俺らに出来るこたぁあいつの話をしっかり聞いて導いてやることだぜ。まぁ…あいつの様子じゃあ一筋縄じゃあいかねぇだろうがな」
キモオタ「悟空殿、お主…なんというか、その見た目と粗暴な物言いからしてもっと自分主義というかKYというか…まわりに気遣い出来ないタイプだと思っていたのでござるがwww人は見かけによりませんなwww」
孫悟空「あぁ?人は見かけによらねぇって…テメェだって外見はブタだろうが!」バシッ
キモオタ「いやいやwww人間ですぞwww言うほどブタでもないでござろうwww」
孫悟空「猪八戒と瓜二つの時点でブタだろうがテメェは。まぁ、それはいいがよ…俺も昔は自分の力だけ信じてたような口だからなぁ、まぁ見てられねぇよ」
キモオタ「我輩も激しく同意ですなwww」
ヘンゼル「……何をあんた達はぼそぼそ話してるの?」
キモオタ「いやはや、話の腰を折って申し訳ないwww続けてくだされwww」
孫悟空「おう、悪ぃな。続けてくれ」
ヘンゼル「……あいつ等に捨てられた僕とグレーテルは暗くなるのを待った。お月さまが昇って、それから家に帰る事にした」
グレーテル「お兄ちゃんが目印に落とした石……月灯りに照らされて光るの……だから夜になるの待つしかなかったの……」
ラプンツェル「でもさー、目印があったら迷わないから簡単にお家に帰れたんだよねー?よかったよかった」コロコロ
ヘンゼル「簡単に帰れる?そんなわけないでしょ…何の為に僕達を森の奥まで連れて行って捨てたの?確実に捨てる為だよ?」
キモオタ「嫌な言い方でござるが、両親としては簡単に戻られては意味が無いでござるからな…簡単には戻れなくて当然と言えば当然なのでござろうけど…」
ヘンゼル「僕達はあくまで帰り道がわかってるだけ。そこから実際に家に帰るまでは…容易くなんて無かった。そうだよね、グレーテル」
グレーテル「うん……大変だったの。ラプお姉ちゃんは……野犬って……知ってる……?」
379 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)22:52:06 ID:4CO
ラプンツェル「もちろん知ってるよ!お湯を沸かす道具でしょ?お茶を飲むときとかに火にかけt」
孫悟空「野犬…か、熊や狼と比べりゃあそうでもねぇが…それでも丸腰の子供二人の手に負えるような獣じゃあねぇ。襲われちまったのか?」
グレーテル「ううん……でもね、何匹もの野犬がね……茂みからこっちを見てたよ……ギラギラ光る眼で……」
キモオタ「二人が倒れるのでも待っていたのでござろうか……いやはや、恐ろしいでござるな……」
ヘンゼル「おとぎ話の【ヘンゼルとグレーテル】だと『二人は目印の小石を辿って家までたどり着きました』なんて軽い一言で済ませるだろうけど…」
ヘンゼル「真夜中。人気のまったく無い道、月灯りに照らされた小石だけが頼りだ。少し先の道の様子なんか全く分からない…飲み込まれそうな闇が続いてる」
グレーテル「恐くて……怖くて……でもあたりは全然見えないの……私がここに居るってこともなんだかハッキリとわかんなくなっちゃう気がして……必死に掴んでたお兄ちゃんの手を離しちゃったら……もう、死んじゃうって……思った」
ヘンゼル「僕も必死にグレーテルの手を握ってた。情けない話だけど……グレーテルを護るっていう強い意志が無かったら諦めてたと思う。もし一瞬でも手を離してしまったら僕は正気が保てなかったかもしれない」
グレーテル「何時間も……何時間も……ずっと歩いたの……お兄ちゃんを困らせちゃいけないって……泣かないように頑張って……弱音なんかはかないように飲み込んで……」
ヘンゼル「それでも握ったグレーテルの手はずっと震えていて、僕は不安にさせまいと自分自身の震えを隠すので精いっぱいだったんだ」
ヘンゼル「なにしろおぼろげな月灯りに照らされた道しるべはあまりにも儚くて、目をそらせば見失ってしまいそうだった」
ヘンゼル「それでも僕はそのささやかな希望を見逃すわけにはいかなかった」
ヘンゼル「僕はグレーテルのお兄ちゃんだからだ。何があっても妹を護らなくちゃいけなかった、大好きな妹だから」
380 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)22:53:13 ID:4CO
グレーテル「ずっとずっと……歩いて歩いて……森から出られて……そこからは街道を歩いて……やっとお家にたどり着いたの……」
ヘンゼル「疲れて疲れて、眠い目をこすりながら…それでもどうにか歩いてすがるように家のドアを叩くと僕等の父親が走って僕らを出迎えた」
グレーテル「ごめんね、ごめんねって……何度も謝りながらね……無事でよかったって……泣きながら私たち二人の事を抱きしめたの……あの時は、嬉しかったの……もう、全部終わったんだって思った」
ヘンゼル「父親は僕等を捨てた事を反省してるように見えた、だから僕もそれを見て安心してしまったんだ」
ヘンゼル「ああ、僕等の父親は自分の過ちに気が付いてくれた。もうこんな事は二度とないんだ、もう間違えた選択をしたりしない。ずっと家族一緒に暮らせる…そう思った」
ラプンツェル「でも、確かその後って…」
キモオタ「……ラプンツェル殿」
ラプンツェル「……でも」
孫悟空「あー……どうなっちまうか解ってると尚更堪えるなこいつぁ……」
グレーテル「そうだよね……みんな、このあとどうなるか……知ってるもんね……」
ヘンゼル「本当に甘かったよ。僕もグレーテルも…しばらくは元の生活が続いたけれど、それはほんの数日で終わったんだ」
ヘンゼル「信じられるかい?あれだけ反省した風に見せて、泣いて…抱きしめて…それなのにその反省は数日持たなかった」
ヘンゼル「僕等が帰ってから数日後、あの二人はまた僕達をもう一度捨てる計画を立てたんだ」
381 :名無しさん@おーぷん :2015/08/09(日)23:02:28 ID:sI8
わっしょいわっしょい\(・ω・\)(ノ・ω・)ノ
382 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)23:04:49 ID:4CO
ヘンゼル「キッチンを覗き見ていた僕達は目を疑ったよ」
ヘンゼル「怒鳴る母親に僕達の父親は何一つ言い返せず…もう一度僕達を森に捨て置く事に納得したんだ」
グレーテル「もう……私はその時は……泣かなかった……泣けなかったの……もう、信じられなくて……涙すら出なかったの……」
ヘンゼル「僕は父親の決断に失望したと思う、ひどく怒っていたと思う、悲しかったと思う、辛かったと思う、言ってやりたい事もたくさんあったと思う。でも……その時の僕の感情はただ一つだった」
ヘンゼル「ああ、もうこの人はダメなんだっていう諦め。この人は頼れない、この人は信じられない…信じちゃあいけない。もう、一言の言葉すら信用しちゃあいけない」
キモオタ(慕っていた父親に失望し…頼る事を諦めてしまうというのは子供にとってどれだけ辛いことなのでござろうか…?)
ヘンゼル「もうこんな男は父親じゃない。こいつじゃあグレーテルを幸せに出来ない。グレーテルを守れるのはもう世界中で僕だけだ、そう思った」
グレーテル「私も……もう、私の家族は……お兄ちゃんだけしかいないんだって……思ったよ……」
ヘンゼル「こいつ等は僕達が邪魔で殺そうとしている、それも二回目だ。だったら…僕達だって黙って殺される必要は無い」
ヘンゼル「僕が二人を殺す。そう誓った、どうせもう赤の他人なんだ…必ず僕は森からもう一度生還して、こいつ等を殺してその家にグレーテルと二人で暮らそうと思った」
グレーテル「それを静かに私に話すお兄ちゃんを見て……私はちょっぴり怖かったけど……でも、反対しなかったの……」
グレーテル「もう……私に優しくしてくれたパパは、大好きなパパは世界中のどこを探しても見つからないって……解ったから……」
グレーテル「私が……一緒に居たいのは……そのときは、もうお兄ちゃん一人だったから……」
383 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)23:06:24 ID:4CO
ラプンツェル「パパの事信頼できなくなっちゃうなんて…辛かったよね、悲しかったよね…寂しかったよね…!」ギューッ
グレーテル「ラプお姉ちゃん…?」ムギュー
ヘンゼル「ちょ、やめてよ…なんで抱きついてくるんだ。まだ話の途中なんだけど?」ムギュー
ラプンツェル「私には最初からパパ居ないけど…今まで大好きだった人の事が信じられなくなるなるって、すっごく辛いと思うよ!」ギューッ
ラプンツェル「これからは私も二人のお姉ちゃん!これでもう寂しくないでしょ?ねっ!困った事あったら何でも言ってね!全部ラプお姉ちゃんにまかせてよ!」フンス
グレーテル「……うん、ありがと……ラプお姉ちゃん……でも、私たちもう……寂しくないから平気だよ……?」ギュッ
ヘンゼル「……やめてよ。僕は寂しくなんかない。憐れみなんていらない」
スッ
ヘンゼル「そもそもさ、まかせてって言えるほど、あんたは立派な大人なの?キモオタお兄さんは現実世界の人間って時点で信用できないし…孫悟空とラプンツェルもそうだ」
ヘンゼル「あちこちで好き勝手やった上に待遇が気に食わないからって天界で大暴れして大迷惑かけた猿人を信用しろっていうの?」
孫悟空「テメェ……痛いところを突きやがるじゃねぇか……」
ヘンゼル「それに初対面の男を夜な夜な部屋に連れ込むような女の人、グレーテルに悪い影響与えるとしか思えないけど」
ラプンツェル「えっ?ダメなの?」
キモオタ「言い方に明らかに悪意があるでござるがwwwまぁ、言ってしまえば世間的にはダメでござろうなwww」
夕飯後 ヘンゼルとグレーテルの部屋
グレーテル「ふんふんふーん〜♪」ゴソゴソ
グゥー
ヘンゼル(夕ご飯を食べたばかりなのにお腹が空いたな。やっぱり昼ご飯に水だけというのは無茶だったかな…)
グレーテル「お兄ちゃん?どうかしたの?どこか痛いの?」オロオロ
ヘンゼル「平気だよ、何でもないから気にしなくて明日の支度を続けると良いよ」ナデナデ
グレーテル「そうなの?でも、なんだかお兄ちゃんボーっとしてたよ?」
ヘンゼル「それは、あれさ、えーっと…そうだ、なんだかグレーテルが少し嬉しそうだったから何かなって思ってね」
グレーテル「えへへ、つい鼻歌歌っちゃった。今日の夕飯、お豆のスープだったから嬉しかったんだ。ごちそうだよ」ニコニコ
ヘンゼル(今日の夕飯は一切れの薄いパンと、痩せた豆が一粒二粒入ったお湯のようなスープだった。)
ヘンゼル(こんな質素な食事でも…グレーテルには好物の豆が入っているだけでごちそうなんだ、それがたった萎びた小さな豆二粒でも)
ヘンゼル「グレーテルは豆が好物だったもんね、具の入ったスープなんて久しぶりだったからね」
グレーテル「うん!いつか…一度だけで良いから、スプーンですくいきれないくらいいっぱいお豆が入ったスープ、食べてみたいな。でも、すごく贅沢かな」ニコッ
ヘンゼル(僕はグレーテルの笑顔が大好きだけど、それを見るのは…とても辛い)
ヘンゼル(グレーテルのその願いは、きっと叶わないんだ。たかが豆をお腹いっぱい食べたいなんていう願いすら叶わない。だから僕は妹に嘘をつかないといけない)
ヘンゼル「そんなことないよ、グレーテルが真面目にキチンと頑張れば神様が助けてくださる、いつかきっとお腹いっぱいに豆のスープが食べられるよ」ニコッ
361 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:00:58 ID:l4v
グーッ
グレーテル「えへへ、食べ物の話してたらなんだかお腹すいちゃったね。ごはん食べたばっかりなのに、変なの」クスクス
ヘンゼル「そうだ、豆のスープは無いけど…とっておきのお土産があるんだ、グレーテルびっくりしちゃうよ、きっと」ゴソゴソ
グレーテル「お土産!なにかなぁ…今日はお兄ちゃん森に行ったからもしかして綺麗なお花とか?」ワクワク
ヘンゼル「どんなにきれいでも花は食べられないだろう?だからもっと素敵なものだよ、ほら!切ってないまるごとのパンだよ」スッ
グレーテル「……」グシグシ
ヘンゼル「グレーテル?目なんか擦ってどうしたんだい?」
グレーテル「うん、ホントに…本物だね。切ってないパンなんて凄く久しぶりに見たから、もしかしたら幻かもって思っちゃった」エヘヘ
ヘンゼル「あはは、幻って…そんなわけないよ、ちょっと硬いけれど…全部グレーテルのだから、全部食べて良いんだよ」
グレーテル「でも、もしかしてこれって…お兄ちゃんのお昼ご飯のはずだったんじゃないのかな?それを私の為に我慢したの?」
ヘンゼル「違うよ、僕のお昼ご飯は…ほら、パンが二つあったんだ。だから一個はグレーテルの分、兄妹なんだからはんぶんこするのはあたりまえだよ」ニコッ
グレーテル「そっか…だったら、このパンは私が好きなだけ食べても良い?」ニコニコ
ヘンゼル「グレーテルのものなんだから、遠慮せずに全部食べたら良いんだよ」
グレーテル「そっかぁ…私が好きにしていいんだったら、はんぶんこにするからお兄ちゃん半分食べてくれる?」ニコニコ
362 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:02:21 ID:l4v
ヘンゼル「いや、僕はお昼に食べたからいいよ。それよりもグレーテルが…」
グレーテル「私はお兄ちゃんと一緒にパンが食べたいの、一人で食べてもおいしくないよ。二人で仲良く食べたほうがずっと美味しいよ」ニコニコ
ヘンゼル「…そういう事なら、半分貰おうかな」ソッ
グレーテル「はい、どうぞ。えへへ、それじゃあいただきまーす」モサモサ
ヘンゼル「うん、いただきます」モサモサ
グレーテル「お兄ちゃんのお土産のパン、おいしいね。きっと夕飯のパンと同じなのにずーっとおいしいよ」ニコニコ
ヘンゼル「グレーテルの言ってた事、本当なんだね。二人で食べた方がおいしいって」
ヘンゼル(これは嘘じゃない。口の中には硬くて、パサパサしたあまりおいしくないパン。だけど、今はなんだかいつもよりもおいしい気がした)
グレーテル「えへへ、だから私が言ったでしょ?二人で食べた方が…ケホケホ」ケホケホ
ヘンゼル「あぁ、パンだけじゃのどを通らないよね、水を汲んできてあげるよ。ちょっと待っていてね、グレーテル」スクッ
グレーテル「うん、ありがとうね。お兄ちゃん」ニコッ
スタスタ
継母「…どうするってんだい!このままじゃ…一家そろって飢え死しちまうよ!」バンッ
父親「もう少し静かにしてくれ、子供たちに聞こえてしまう。二人に心配を掛けたくない」
ヘンゼル(パパと母さん……何の話をしてるんだろう)コソコソッ
363 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:04:24 ID:l4v
キッチン
継母「心配かけたくないだって?今更そんな風に父親面してどうすんだい、もう家中をひっくり返したって食べ物はここにあるだけなんだよ!?」
継母「萎びた野菜くずと古い穀物粉、乾燥しちまったパンがいくつかだ。これじゃあ新しいパンも焼けやしない」
父親「わかってる。でも仕方がないだろう、うちだけじゃない…国中が飢饉で大変なんだから…」
継母「そんなこと知ってるさ。でもね、近頃は木材もなかなか売れない。木材を売った金でいくらかの穀物粉を買っても…何日もつのかわかったもんじゃないんだよ!」
父親「そんときは、お前…俺達の分を減らして、ヘンゼルとグレーテルに食わしてやるしか…ないだろう」
継母「そんなことをしたって…三日四日しのげるだけさね。今のうちには二人も子供を養ってる余裕は無いんだよ。こうなりゃあいっそ森の奥に二人を置き去りにしてくればさしあたり二人分の食料が浮くってもんさ」
父親「この状況が辛いのは何もうちだけじゃないんだぞ、なのにお前はよくもまぁそんな事を……」
継母「そうさ、うちだけじゃない。よその家だって食べ物に困って年寄りやら子供を口減らしにしてんだ…なにも子供達を森に置き去りにするのはうちだけじゃないのさ、誰も責めやしない」
父親「それは……そうかもしれんが……しかし、あの二人が可哀そうだ」
継母「例えこのまま四人で暮らしても、近いうちに四人とも飢え死にだ。だとしたら、あの二人を森に置き去りにする方が…お互いに未来があるってもんさ」
父親「森には獣だって出るんだ、僕達はともかくあの二人を森に捨て置いて…子供たちになんの未来があるっていうんだ」
継母「バカだねお前さん。考えてもみなよ、森にはきこりだって狩人だってくるんだ。森の中を子供が歩いていれば不憫に思った優しい人が拾って育ててくれるかもしれないじゃないか」
父親「……」
継母「このままじわじわと死に近づくか、あの二人が幸せになる可能性にかけるか…もうそれしかないんだ、さぁ決めとくれ」
364 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:07:07 ID:l4v
父親「…二人を森に置き去りにすれば、優しい人が助けてくれるだろうか……」
継母「きっと助けてくれるさね、あんただって森で見知らぬ子供が歩いていたら助けちまうだろう?」
父親「……そりゃあそうだが」
継母「さぁ、どうするんだい?森に置き捨てるなら早い方がいい、何なら明日にでもね」
父親「……仕方ないことだ」
継母「それじゃあ、いいんだね?」
父親「ああ、明日だ。明日、ヘンゼルとグレーテルを…森に連れていく」
ヘンゼル(……何故、何故そんな結論になってしまうんだい、パパ)
ヘンゼル(優しい人なんか、現れるわけないじゃないか…この国の人はみんな飢饉に苦しんでいるのに、見知らぬ子供を養う余裕なんてどこの家にだってないよ)
ヘンゼル(それともそんなの口実で、本当は僕達の事なんか……いいや、そんな事疑っちゃいけない。自分の子供を必要ないと思う大人なんて、いないもんね)
ヘンゼル(……とにかく、この事はグレーテルには言えない。なんとか、僕が何とかしないと…)
グレーテル「…お兄ちゃん」ギュッ
ヘンゼル「…グレーテル。お前、どこから聞いていたんだ…?」
グレーテル「……私達を置き去りにしたら、優しい人が助けてくれるかなってところから、だよ」ジワッ
グレーテル「ねぇ、お兄ちゃん…私達、本当に捨てられちゃうの…?」ポロポロ
ヘンゼルとグレーテルの部屋
グレーテル「ぐすっ…ぐすん……ひっくひっく……」
ヘンゼル「グレーテル…もう泣きやもう、泣いたって。どうにもならない…」
グレーテル「だって、私達…明日には森の奥に捨てられちゃうんでしょ?」
ヘンゼル「……きっとね。一度決まってしまえば、あの母さんの事だ。なんとしても僕達を捨てさせるだろう」
グレーテル「私ね…お家が貧乏でもご飯が少ししか食べられなくっても平気だよ?お兄ちゃんもパパもいるし、ちょっと意地悪だけど母さんもいるもん…」
グレーテル「でも、パパ達は…平気じゃなかったんだね。私は家族の事大好きだけど……パパ達は、私の事なんか好きじゃないんだね」ポロポロ
ヘンゼル「グレーテル、そんな事言っちゃいけない。娘の事が嫌いな父親なんか、いるわけないじゃないか」
グレーテル「でも、パパは決めたよ?私とお兄ちゃんを捨てちゃう事…」
ヘンゼル「パパは…少し間違えた選択をしちゃっただけなんだ。僕達の事を嫌いでこのことを決めた訳じゃないよ」
グレーテル「本当…?私、パパに嫌われてないの…?」
ヘンゼル「ああ、大丈夫。僕だっている。僕は何があってもグレーテルの事を大切に思っているよ。僕はグレーテルのお兄ちゃんなんだから」
366 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:11:38 ID:l4v
グレーテル「…うん、私もお兄ちゃんの事。好きよ」ニコッ
ヘンゼル「うん、それに安心しても大丈夫だよグレーテル。僕に考えがある」
ヘンゼル「明日僕等は森に奥に置き去りにされるけど…なんとしても家まで帰ってくるんだ」
グレーテル「でも…お家に帰ってこられても、また捨てられちゃったりしないかな?」
ヘンゼル「大丈夫さ、グレーテルはパパの事好きだろう?」
グレーテル「うん、大好き」コクコク
ヘンゼル「僕だってパパの事が大好きだ。だから僕はもっとパパの事、信じてみようと思う」
ヘンゼル「さっきのは母さんに良いように言いくるめられて、それでつい間違えた選択をしちゃっただけだよ。僕達を捨てた後きっとパパは後悔する」
ヘンゼル「そうに決まってるさ、パパはお腹が空きすぎてちゃんと物事が考えられないだけなんだ。だから後で絶対に悔むよ」
ヘンゼル「だから僕達がなんとか家に帰れば、パパは反省してもう僕達を手放そうなんて思わないよ」
グレーテル「そっか、そうかも…やっぱりお兄ちゃんは賢いね」ニコッ
ヘンゼル「僕達はパパの事が大好きだ、パパだって僕達の事を愛してくれているんだ。少し選択を間違えたくらい、どうってことないんだ」
ヘンゼル「さぁ、グレーテル。明日に備えて今日はもうお休み、後の事は全部お兄ちゃんに任せたら良いんだよ」
グレーテル「うん、ありがとう。お兄ちゃん、おやすみ……あのね、お兄ちゃん…お兄ちゃんは、私の事置いて行ったりしないでね…?」
ヘンゼル「当然だよ、そんな心配しなくても平気だよ。兄妹だろう?」
グレーテル「うん、私、安心した。じゃあね、おやすみ」ニコッ
367 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:15:53 ID:l4v
二人の部屋が見える庭
ヘンゼル(そうだ、大丈夫だ…こうやって目印の小石を集めて、明日はこれを落としながら森へ入る。それを目印に帰ればいいんだ)ヒョイヒョイ
ヘンゼル(うん、平気だ。パパは僕達の事を愛してるんだ。今回の事は、ちょっと母さんに言いくるめられただけだ)
ヘンゼル「うん、そうだ。そうに違いないんだ……パパはちょっと間違えただけ、本気で僕達を捨てようなんて思ってない…」
ヘンゼル「そうじゃないと……こんなの、あまりに悲しすぎる……僕はともかく、グレーテルが…なんであんな健気な女の子が、こんな酷い目に会わないといけないんだ……」
チラッ
グレーテル「……すぅすぅ」スヤスヤ
ヘンゼル「…大丈夫だからね、グレーテル。お兄ちゃんが、お前を不幸になんかさせない」
ヘンゼル(……神様)
ヘンゼル(……パパと一緒に居たいと願う事は…僕やグレーテルが望んでるのはそんなに贅沢な事ですか?)
ヘンゼル(昔、町に出かけた時神父さんは仰ってました。生きていると辛いことや苦しい事があるけれどそれは神様が僕達に与えた試練だと)
ヘンゼル(その試練を乗り越えれば…日々真面目に暮らしていれば、きっと神様は僕達を幸せにしてくださると。そう神父さんは仰いました)
ヘンゼル(僕達はどうやら明日、パパ達に森の奥へ捨てられます。それが神父様の仰っていた試練だというのなら…僕は何としても乗り越えます、だから…)
ヘンゼル(神様。僕は幸せにならなくったって構いません、だから妹のグレーテルには…どんな小さな物でも良いです。大きなものは望みません)
ヘンゼル(豪華な家も高級な料理も立派な洋服もいりません、慎ましく暮らせる場所と少しの食べ物…少し贅沢を言えば豆のスープを毎日。そんな些細なもので良いんです、だからどうか…)
ヘンゼル(神様。どうかグレーテルには…幸せを与えてください)
368 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/05(水)23:17:54 ID:l4v
今日はここまで
自分達を捨てることを選択した父親
それでも父親を信じるヘンゼル
ヘンゼルとグレーテル。とある消滅したおとぎ話編 次回に続きます
369 :名無しさん@おーぷん :2015/08/06(木)08:12:26 ID:UWH
>>1さん乙です!
これから、ヘンゼルとグレーテルにとって辛くなる一方でしょうけど、先の展開が楽しみです…
次回も期待しています!!
P.S.ヘンゼルがカッコいいです
がんばれヘンゼル!!
370 :名無しさん@おーぷん :2015/08/06(木)19:30:58 ID:hlv
乙です!
暗く重い話ですが、続き待ってます!
371 :名無しさん@おーぷん :2015/08/06(木)19:33:37 ID:GlQ
乙!
なんか鼻の頭がじわーっと熱いと言うかなんと言うか
375 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)22:44:09 ID:4CO
現実世界 廃墟
・・・
ヘンゼル「そして僕とグレーテルは翌日、深い森の奥深くに置き去りにされた」
グレーテル「……小さなパンを渡されて……パパが迎えに来るまで大人しくしてるんだよ……って言われたの……でもね、暗くなっても、パパは来なかったの……」
ヘンゼル「あの時はまだ、もしかしたら思い直すかもしれない…なんて愚かな希望にすがっていたよ。僕もグレーテルもまだ父親なんてものを信じていたからね、その時は」
グレーテル「……うん。でも……思い直してくれなかったの……」
キモオタ「しかし……我輩、解せませんな。先ほどラプンツェル殿におとぎ話を聞いたときにも思ったのでござるが、いくら飢饉とはいえ我が子を捨てるなど…」
ラプンツェル「うん、私もそれは思うよー!森に捨てちゃうなんて酷いなって、それも同じ気持ち!」
キモオタ「そうでござろう?そもそも食料に困っているからと言って口減らしなどという行為が行われていること自体がおかしいのでござるよ。多少我慢してでも家族で暮らせる事を優先するのが本当でござろう?」
ヘンゼル「あんたの立場から見たらそうだろうね。こんな裕福な国で暮らしていたら貧困や飢えなんて現実的じゃないもんね…飢饉の苦しみなんか想像もつかないに決まってる」
グレーテル「うん……キモオタお兄ちゃん……お腹が空いて困るって事……よくわかってないなって……私、思うの……」
キモオタ「いやいや、わかってないとか裕福だとか言う問題では無くてでござるな…貧しい時にどうするかという気持ちの問題でござって…」
孫悟空「だからテメェはその飢えてる奴の気持ちが理解できてねぇんだろ?だから口減らしって行為がおかしいとか言えるんじゃねぇか」
キモオタ「ご、悟空殿まで…我輩だって空腹の辛さくらいわかるでござるよ!だからこうしておかしいと思っているでござろう…!」
376 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)22:46:59 ID:4CO
ラプンツェル「ねーねー、キモオタ。私、うまくいえないけどさー…私もキモオタも、本当の本当にお腹が空いた事って無いんじゃないかなー?」
ラプンツェル「私はずーっと塔の中で暮らしてたけど食べ物に困った事は一度も無かったよ、でもねー現実世界に来てすっごく驚いちゃったんだ!どこにでも食べ物が売ってるから」
キモオタ「まぁ…コンビニやら屋台やらチェーン店やらでお金さえあればどこでも食べ物にはありつけますからな…」
ラプンツェル「でしょー?アイスクリームとかお菓子とかお腹がすいたらすぐに手に入るでしょ?それって凄いけどさー、だからこそ現実世界のキモオタやママに大切に育ててもらった私にはよくわかってないと思うの、本当にお腹がすくって事ー」
ラプンツェル「ヘンゼル達が経験した事ってさ、私達が考えてるよりずーーっと辛いことだったのかも」
キモオタ「……確かに、そうかもしれませんな。この飽食の時代、普通に生活して居ればこの日本で餓死など考えられませんからな」
ヘンゼル「言われてようやく気が付くんだね。それだけ食べ物があるこの状況が当たり前になってるんでしょ、本来は一日に三回も食事ができるだけでも感謝すべき事なのにね」
グレーテル「この世界のごはん……おいしい。コンビニのお菓子もおいしい……でも、それって私達にとってはすっごく……特別な感じ、全然普通じゃないの……」
孫悟空「俺もこいつら程じゃねぇが、旅の途中にまともに飯にありつけねぇ時期もあったからな。この現実世界には食い物であふれてやがるから、いまひとつ理解しがたいかもしれねぇ。だけどよぉキモオタ」
孫悟空「おとぎ話の世界ってのはこの世界より何百年も昔の世界が舞台になってんだよ。この世界と違って飢饉や飢えや貧困なんてのはかなり現実的だ、へたすりゃこいつらみたいにそれが日常ですらある」
孫悟空「テメェは口減らしなんてのはおかしいって言ったがな…今日の飯にも困ってる奴にとっちゃあ口減らしでもしねぇとどうにもならねぇ。それは現実なんだぜ?」
キモオタ「しかし、食料に困って家族を見捨てる……など、やはり我輩には受け入れられませんぞ…」
孫悟空「誰だって受け入れられねぇに決まってんだろ、だがそうしねぇと一人残らず飢え死にだ。それを防ぐには口減らししかねぇ」
孫悟空「便利なこの世界が悪いとはいわねぇがな。常に飢えと戦い、食いもんがねぇばっかりに死や別れを覚悟しねぇといけねぇ…そういう世界もあるって事だ、こいつらの世界みたいにな」
377 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)22:48:57 ID:4CO
孫悟空「それにな、キモオタ。こいつらには聞かせられねぇが……森への置き去りならまだ良い方だ」ボソッ
キモオタ「ファッ!?悟空殿は何を…実の父親に森に捨てられたヘンゼル殿とグレーテル殿がまだ良い方ですと!?」ボソッ
孫悟空「口減らしってのはな、ようは養う必要のある奴を減らす行為だ。死なせるつもりで森に置き去りにするのも口減らしだが…」ボソッ
孫悟空「絞殺…首を絞めて殺したり、土に埋めて殺したりな……直接手を下す手段ってのもわりと一般的だ」ボソッ
キモオタ「じ、実の親が飢えを理由に我が子を直接…!」ボソッ
孫悟空「ある程度育ってる子供なら殺さずに養子や身売りに出す親もいる。ヘンゼルみたいに若い男なら肉体労働の為に売られる事もある」ボソッ
キモオタ「……なんという」
孫悟空「だが女はそうもいかねぇ。となると…グレーテルなんかは特に愛嬌がある顔達だ。そういう娘は娼婦として店に売られる、いくらかの金で身体を売る為にな」ボソッ
キモオタ「い、いくら切羽詰まっているとはいえその様な行為が許されるはずがないでござる!」バンッ
孫悟空「落ち着け。テメェの憤りはわかるぜ。だがよぉ…こいつぁある種の親心でもあんだよ、辛かろうが悲しかろうが肉体労働してりゃあ食いぶちは少なからずある、身体を売って金持ちの男に気に居られりゃあ玉の輿。飢え死ぬよりはマシな人生を送れるかもしれねぇってな」ボソッ
キモオタ「そんなものは…詭弁でござる。そんなものは…単なる言い訳でござろう!」ヒソヒソ
孫悟空「そうでも思わねぇと親の方もまともでいられねぇのさ。そういう意味ではこいつ等の親父も時代の被害者ってわけだ」ボソッ
孫悟空「しかしだな、どんな理由があろうとこいつ等にとって自分達が捨てられた事は事実だ。ふてぶてしい態度だがよぉ、実の父親に見放されたヘンゼルは相当な心の傷を負ってやがる……」ボソッ
孫悟空「そうでなけりゃあ…あんな風に大人を憎んだりしねぇからな。俺達に出来るこたぁ、今はとにかくこいつの言葉に耳を傾けてやることだぜ」ボソッ
378 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)22:50:30 ID:4CO
孫悟空「気は進まないなんざ言っていたがよ、それでもヘンゼルは俺達に…憎い大人に過去を語るって決めたんだ。多少は心を許してくれてんじゃねぇか?」ボソッ
孫悟空「もしもそうだってぇなら、俺らに出来るこたぁあいつの話をしっかり聞いて導いてやることだぜ。まぁ…あいつの様子じゃあ一筋縄じゃあいかねぇだろうがな」
キモオタ「悟空殿、お主…なんというか、その見た目と粗暴な物言いからしてもっと自分主義というかKYというか…まわりに気遣い出来ないタイプだと思っていたのでござるがwww人は見かけによりませんなwww」
孫悟空「あぁ?人は見かけによらねぇって…テメェだって外見はブタだろうが!」バシッ
キモオタ「いやいやwww人間ですぞwww言うほどブタでもないでござろうwww」
孫悟空「猪八戒と瓜二つの時点でブタだろうがテメェは。まぁ、それはいいがよ…俺も昔は自分の力だけ信じてたような口だからなぁ、まぁ見てられねぇよ」
キモオタ「我輩も激しく同意ですなwww」
ヘンゼル「……何をあんた達はぼそぼそ話してるの?」
キモオタ「いやはや、話の腰を折って申し訳ないwww続けてくだされwww」
孫悟空「おう、悪ぃな。続けてくれ」
ヘンゼル「……あいつ等に捨てられた僕とグレーテルは暗くなるのを待った。お月さまが昇って、それから家に帰る事にした」
グレーテル「お兄ちゃんが目印に落とした石……月灯りに照らされて光るの……だから夜になるの待つしかなかったの……」
ラプンツェル「でもさー、目印があったら迷わないから簡単にお家に帰れたんだよねー?よかったよかった」コロコロ
ヘンゼル「簡単に帰れる?そんなわけないでしょ…何の為に僕達を森の奥まで連れて行って捨てたの?確実に捨てる為だよ?」
キモオタ「嫌な言い方でござるが、両親としては簡単に戻られては意味が無いでござるからな…簡単には戻れなくて当然と言えば当然なのでござろうけど…」
ヘンゼル「僕達はあくまで帰り道がわかってるだけ。そこから実際に家に帰るまでは…容易くなんて無かった。そうだよね、グレーテル」
グレーテル「うん……大変だったの。ラプお姉ちゃんは……野犬って……知ってる……?」
379 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)22:52:06 ID:4CO
ラプンツェル「もちろん知ってるよ!お湯を沸かす道具でしょ?お茶を飲むときとかに火にかけt」
孫悟空「野犬…か、熊や狼と比べりゃあそうでもねぇが…それでも丸腰の子供二人の手に負えるような獣じゃあねぇ。襲われちまったのか?」
グレーテル「ううん……でもね、何匹もの野犬がね……茂みからこっちを見てたよ……ギラギラ光る眼で……」
キモオタ「二人が倒れるのでも待っていたのでござろうか……いやはや、恐ろしいでござるな……」
ヘンゼル「おとぎ話の【ヘンゼルとグレーテル】だと『二人は目印の小石を辿って家までたどり着きました』なんて軽い一言で済ませるだろうけど…」
ヘンゼル「真夜中。人気のまったく無い道、月灯りに照らされた小石だけが頼りだ。少し先の道の様子なんか全く分からない…飲み込まれそうな闇が続いてる」
グレーテル「恐くて……怖くて……でもあたりは全然見えないの……私がここに居るってこともなんだかハッキリとわかんなくなっちゃう気がして……必死に掴んでたお兄ちゃんの手を離しちゃったら……もう、死んじゃうって……思った」
ヘンゼル「僕も必死にグレーテルの手を握ってた。情けない話だけど……グレーテルを護るっていう強い意志が無かったら諦めてたと思う。もし一瞬でも手を離してしまったら僕は正気が保てなかったかもしれない」
グレーテル「何時間も……何時間も……ずっと歩いたの……お兄ちゃんを困らせちゃいけないって……泣かないように頑張って……弱音なんかはかないように飲み込んで……」
ヘンゼル「それでも握ったグレーテルの手はずっと震えていて、僕は不安にさせまいと自分自身の震えを隠すので精いっぱいだったんだ」
ヘンゼル「なにしろおぼろげな月灯りに照らされた道しるべはあまりにも儚くて、目をそらせば見失ってしまいそうだった」
ヘンゼル「それでも僕はそのささやかな希望を見逃すわけにはいかなかった」
ヘンゼル「僕はグレーテルのお兄ちゃんだからだ。何があっても妹を護らなくちゃいけなかった、大好きな妹だから」
380 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)22:53:13 ID:4CO
グレーテル「ずっとずっと……歩いて歩いて……森から出られて……そこからは街道を歩いて……やっとお家にたどり着いたの……」
ヘンゼル「疲れて疲れて、眠い目をこすりながら…それでもどうにか歩いてすがるように家のドアを叩くと僕等の父親が走って僕らを出迎えた」
グレーテル「ごめんね、ごめんねって……何度も謝りながらね……無事でよかったって……泣きながら私たち二人の事を抱きしめたの……あの時は、嬉しかったの……もう、全部終わったんだって思った」
ヘンゼル「父親は僕等を捨てた事を反省してるように見えた、だから僕もそれを見て安心してしまったんだ」
ヘンゼル「ああ、僕等の父親は自分の過ちに気が付いてくれた。もうこんな事は二度とないんだ、もう間違えた選択をしたりしない。ずっと家族一緒に暮らせる…そう思った」
ラプンツェル「でも、確かその後って…」
キモオタ「……ラプンツェル殿」
ラプンツェル「……でも」
孫悟空「あー……どうなっちまうか解ってると尚更堪えるなこいつぁ……」
グレーテル「そうだよね……みんな、このあとどうなるか……知ってるもんね……」
ヘンゼル「本当に甘かったよ。僕もグレーテルも…しばらくは元の生活が続いたけれど、それはほんの数日で終わったんだ」
ヘンゼル「信じられるかい?あれだけ反省した風に見せて、泣いて…抱きしめて…それなのにその反省は数日持たなかった」
ヘンゼル「僕等が帰ってから数日後、あの二人はまた僕達をもう一度捨てる計画を立てたんだ」
381 :名無しさん@おーぷん :2015/08/09(日)23:02:28 ID:sI8
わっしょいわっしょい\(・ω・\)(ノ・ω・)ノ
382 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/08/09(日)23:04:49 ID:4CO
ヘンゼル「キッチンを覗き見ていた僕達は目を疑ったよ」
ヘンゼル「怒鳴る母親に僕達の父親は何一つ言い返せず…もう一度僕達を森に捨て置く事に納得したんだ」
グレーテル「もう……私はその時は……泣かなかった……泣けなかったの……もう、信じられなくて……涙すら出なかったの……」
ヘンゼル「僕は父親の決断に失望したと思う、ひどく怒っていたと思う、悲しかったと思う、辛かったと思う、言ってやりたい事もたくさんあったと思う。でも……その時の僕の感情はただ一つだった」
ヘンゼル「ああ、もうこの人はダメなんだっていう諦め。この人は頼れない、この人は信じられない…信じちゃあいけない。もう、一言の言葉すら信用しちゃあいけない」
キモオタ(慕っていた父親に失望し…頼る事を諦めてしまうというのは子供にとってどれだけ辛いことなのでござろうか…?)
ヘンゼル「もうこんな男は父親じゃない。こいつじゃあグレーテルを幸せに出来ない。グレーテルを守れるのはもう世界中で僕だけだ、そう思った」
グレーテル「私も……もう、私の家族は……お兄ちゃんだけしかいないんだって……思ったよ……」
ヘンゼル「こいつ等は僕達が邪魔で殺そうとしている、それも二回目だ。だったら…僕達だって黙って殺される必要は無い」
ヘンゼル「僕が二人を殺す。そう誓った、どうせもう赤の他人なんだ…必ず僕は森からもう一度生還して、こいつ等を殺してその家にグレーテルと二人で暮らそうと思った」
グレーテル「それを静かに私に話すお兄ちゃんを見て……私はちょっぴり怖かったけど……でも、反対しなかったの……」
グレーテル「もう……私に優しくしてくれたパパは、大好きなパパは世界中のどこを探しても見つからないって……解ったから……」
グレーテル「私が……一緒に居たいのは……そのときは、もうお兄ちゃん一人だったから……」
ラプンツェル「パパの事信頼できなくなっちゃうなんて…辛かったよね、悲しかったよね…寂しかったよね…!」ギューッ
グレーテル「ラプお姉ちゃん…?」ムギュー
ヘンゼル「ちょ、やめてよ…なんで抱きついてくるんだ。まだ話の途中なんだけど?」ムギュー
ラプンツェル「私には最初からパパ居ないけど…今まで大好きだった人の事が信じられなくなるなるって、すっごく辛いと思うよ!」ギューッ
ラプンツェル「これからは私も二人のお姉ちゃん!これでもう寂しくないでしょ?ねっ!困った事あったら何でも言ってね!全部ラプお姉ちゃんにまかせてよ!」フンス
グレーテル「……うん、ありがと……ラプお姉ちゃん……でも、私たちもう……寂しくないから平気だよ……?」ギュッ
ヘンゼル「……やめてよ。僕は寂しくなんかない。憐れみなんていらない」
スッ
ヘンゼル「そもそもさ、まかせてって言えるほど、あんたは立派な大人なの?キモオタお兄さんは現実世界の人間って時点で信用できないし…孫悟空とラプンツェルもそうだ」
ヘンゼル「あちこちで好き勝手やった上に待遇が気に食わないからって天界で大暴れして大迷惑かけた猿人を信用しろっていうの?」
孫悟空「テメェ……痛いところを突きやがるじゃねぇか……」
ヘンゼル「それに初対面の男を夜な夜な部屋に連れ込むような女の人、グレーテルに悪い影響与えるとしか思えないけど」
ラプンツェル「えっ?ダメなの?」
キモオタ「言い方に明らかに悪意があるでござるがwwwまぁ、言ってしまえば世間的にはダメでござろうなwww」
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」 ヘンゼルとグレーテル編
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