キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」 人魚姫編
Part11
Part1<<
Part7
Part8
Part9
Part10
Part11
Part12
Part13
Part14
Part15
>>Part22
評価する!(2301)
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」一覧に戻る
評価する!(2301)
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」一覧に戻る
447 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:06:46 ID:EwW
ドロシー「あっ、ごめんごめん!もう一つ選択肢があったね、全部投げ出して人魚姫もおとぎ話も見捨てて逃げちゃう!それでもいいよ?そのほうが赤ずきんも楽でしょ?」ヘラヘラ
ドロシー「だって【赤ずきん】のおとぎ話からもみんな見捨てて自分1人だけ逃げてきたんだからさ!もうおとぎ話を見捨てることに関してはベテランだもんね!」クスクス
赤ずきん「言わせておけば…!」グッ
ドロシー「あれ?いいの?あんたのマスケットは預けてるんだよね?武器もないのにドロシーちゃんに挑む?いいよ、私は靴を打ち鳴らすだけだから、いつでも相手になったげるよん♪」ニヤニヤ
赤ずきん「マスケットがなければ戦えないとでも思ってる?舐めないで、そのヘラヘラした顔を殴りつけてあげる」ググッ
赤鬼「やめろ!あいつはお前を挑発してんだ!お前だって頭では解ってるんだろう?ドロシーは王子にとっては介抱してくれた恩人なんだ、殴ったりしたら面倒なことになるぞ!」ガバッ
ドロシー「よくわかってんじゃん!あんたに殴られたら私は王子に泣きつくよぉ?いくらあんた達も恩人だって言っても王子は優しいから絶対に私の味方してくれるけど、どうする?」
ドロシー「そしたらどうやって説明する?おとぎ話のこと話してみる?このままじゃこの世界がなくなっちゃうって?そんなの信じてくれるかなー?どーせ子供の言い訳だと思われちゃうよね」クスクス
赤ずきん「くっ……!」
赤鬼「今ドロシーを殴ったらあいつの思うつぼだぞ!あいつがただ【人魚姫】を消したいだけなら昨日海岸で王子の息の根を止めることも出来たはずだ、だがあいつはそれをしなかったんだ。オイラ達を精神的に追いつめるためにだ」
赤鬼「ヘラヘラしちゃあいるが…こっちが思ってる以上に策を練った上で行動をしているんだドロシーは。これ以上、あいつの策に乗っちまったらまずい。最悪、人魚姫もおとぎ話も両方とも救えなくなるかもしれねぇ、だから今は耐えろ!」
赤ずきん「……こんなに近くにいるのに、殴りかかれば届きそうなほど近くにいるのに……」ググッ
赤ずきん「私は家族の仇を討つこともできない…!」ジワッ
448 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:14:55 ID:EwW
赤ずきん「私はおばあちゃんやママを殺したあいつを見過ごせない、私のおとぎ話…私の世界を消したあいつを…このままほおっておくなんてできないのよ!わかって頂戴、赤鬼!」ワナワナ
赤鬼「熱くなるんじゃない!いいか、ドロシーを殴るのは今じゃねぇ。オイラ達は何のために力を付けようとしているんだ?よく思い出せ。いいか、もう一度言うぞ、あいつを殴るのは今じゃない」
赤鬼「だそうだ、今じゃないだけだ…力を付けて万全な状態で挑んだとき、あいつにお前の感情の全てをぶつけてやれ。だから今は堪えるんだ」
赤鬼「これ以上状況を悪くする必要はないだろ?今はドロシーよりも人魚姫だ。なっ?」
赤ずきん「……」ギリッ
ドロシー「クスクス、その今度がいつか来ればいいけどね?じゃあ私は親友達が待ってるお部屋へ帰りまーす♪また会おうね二人とも!その時は友達を売った感想でも聞こうかな?それじゃーねー」クスクス
タッタッタ
赤鬼「…仇を見過ごすのは悔しかっただろう、だがよく耐えた。ひとまず、あいつは今は手を出してこないだろう」
赤ずきん「……」ドンッ
赤鬼「難題をふっかけられちまったが…今後どうするかは後でじっくりと話そうじゃねぇか。だが今は人魚姫の所へ戻るとしよう、急に部屋を飛び出して心配しているだろうからな」
赤ずきん「……わかったわ、戻りましょう。人魚姫のいる王座の間に」
449 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:17:45 ID:EwW
王座の間
人魚姫『赤ずきん!どーしたわけ?急に飛び出していってびっくりしたじゃん!』
赤ずきん「……悪かったわ、何でもないのよ」
人魚姫『ふーん?まぁ良いけどさ、っていうか二人がいない間チョー大変だったんだかんね!国王とも王子とも話せないからとりあえずニコニコして凌いだけどさー』ヘラヘラ
王子「赤ずきん…もしや、ドロシーと喧嘩でもしたのかい?彼女は遠慮なく言葉を放つからな、私も初対面でタメ口を聞かれたのはドロシーが初めてだ、だが許してやってくれないか」
赤ずきん「……王子、私は喧嘩なんかしていないから安心して頂戴」
赤鬼「ところで、国王の姿が見えないが?さっきはろくに挨拶もせずに飛び出してしまったからな…一言謝っておきたい」
王子「国王は少し前に出て行かれたよ、入れ違いになったんだろう。元々多忙な方だったが今回の事故で更にスケジュールに余裕がなくなったようだったから」
赤鬼「それは申し訳ないことをしたな、折角予定をあけて貰ったというのに」
王子「気にせずともいい、どうやら国王……いや、父上も姫の事を気に入ってくれたようだ」
人魚姫『国王の話は難しくてよくわかんなかったけどさ、優しそうな人だなってのはわかったよ。あとさ、少しだけどこの国のことも聞けたし』ヘラヘラ
赤鬼「この国のこと…何か話したのか?」
450 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:20:52 ID:EwW
王子「あぁ、君たちも話には聞いているだろう?この国の港町は昔は大いに栄えていたという話さ」
赤ずきん「ええ、聞いているわ。確か、十年ほど前から急に海難事故が多発して船を出せなくなったのよね」
王子「そうだね、十年近く経過した今でも全くの原因不明さ。一時は国が傾きかけたそうだが、国王が自ら奔走してなんとか国民達が毎食食べていけるまでに経済は回復したけれど」
王子「依然として原因は不明。けれど国は以前のような賑やかな港を取り戻す事を諦めてはいないんだ。造船技術の向上や海域調査……私も主にこの方面で助力している」
赤鬼「ってことは、もしかして昨日の船もそれに関係してるのか?」
王子「そうだね、表向きには私が主催する貴族や王族を招待しての船上パーティ。だが本当の目的は別にあった。私は新たに作った船で安全に海を渡れば国民達に安心感を与えられると思ったんだ」
人魚姫『……でも、姉ちゃんが襲ったから失敗しちゃったんだ。ごめんね、王子…』ションボリ
王子「だが結果は知っての通り、裏目に出てしまったよ。私の見通しが甘かったんだ、逆に国民に不安を与えてしまった…王子としてあるまじき失態だ」
赤ずきん「王子は悪くない、国民のために港を再興したいという思いからの行動だもの。誰も責めたりしないわ」
人魚姫『そうそう!王子はむしろ立派じゃん!ちゃんと国の人たちのこと考えてんだからさ!さすがは私の彼氏だよ』コクコク
赤鬼「そうだ。姫も言っている、王子は国民の事を考えていて立派だとな。さすがは自分の恋人だと誇らしそうにしているぞ」ガハハ
人魚姫『赤鬼!そんなとこまで伝言しなくて良いっての!』ペシペシ
王子「そう言ってもらえるといくらか気が楽だよ。だが、私は諦めてはいないよ。かならずこの港町にかつての栄光を取り戻す!国民達のためにもね」キリッ
451 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:21:59 ID:EwW
人魚姫『ねぇ、赤ずきん。王子に人魚のことどう思ってるか聞いてくれない?』
赤ずきん「……ええ、わかったわ。ねぇ王子」
王子「どうしたんだい?赤ずきん」
赤ずきん「あなたは人魚についてどう思う?そう姫が聞いているわ」
王子「人魚…というと、あの昔話や伝説で聞く人魚かい?」
赤ずきん「いいえ、実際の人魚よ」
王子「実際の……?」
王子(もしも実際に居たら、ということだろうか?)
王子「そうだなぁ……私は見たことがないけどもしも人魚がいるなら会ってみたいね。それに人魚は海に詳しい、この海難事故の原因も教えてくれるだろうしね」
王子「それに……もし本当にいるのなら協力して貰いたいな、安全に海を渡ることにね。人魚なら海の中の危険や危ない海流にだって対応できる。そのかわりに私たち人間は海では手には入らない物資などを提供する、そんな風に協力しあえたら素敵だね」
赤ずきん「あなたも、協力すべきという考えかしら?」
王子「そうだね、私はそう思うよ。お互いに幸せになれる、そんな素敵なことは他にないだろう?」
452 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:24:45 ID:EwW
王子「とはいえ、人魚に会ったこともないのにこんな風に考えるのはおかしいかな?」ハハッ
人魚姫『そんなことない!王子、マジでかっこいいよ!そんな風に思ってくれるなんてさ!』ギュー
王子「や、やめないか姫!赤ずきんや赤鬼もいるんだ、急に抱きつくなど…!」ワタワタ
人魚姫『いいじゃん!あたしはさ、ものっすごく嬉しいよ!ちゃんと人間にも優しい人はいる、そしてそれがあたしが好きになった人なんだからさ!』ギューッ
赤鬼「……なんだったら、席を外そうか?」
赤ずきん「……」ジトー
王子「い、いや…二人とも居てくれて構わない」ワタワタ
人魚姫『…赤ずきん、赤鬼。マジで嬉しいよあたし!』ニコニコ
人魚姫『あたしはもう海の底には潜れないし声も出せない…けど王子が夢見る港の復興に協力したい!』
人魚姫『できるなら、人魚と人間の共存だってやっぱり目指したい。王子が…あたしの好きな人もそれを望むなら、あたしはマジ全力で手伝うよ』ニコニコ
453 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:27:21 ID:EwW
王子「姫、もうそろそろ離れてくれないか…」ワタワタ
人魚姫『嫌だって伝えて!あたしは今、チョー幸せだからさ!』ヘラヘラ
赤鬼「嫌だとさ、王子。もう観念したほうがいいんじゃねぇか?」ガハハ
王子「やむを得ないか……わかった、ただし部屋の中だけだ。兵達に見られては示しが付かないからね」
人魚姫『仕方ないなー、王子は気にしぃだなー』コクコク
王子「どうもこういうのは苦手だ……赤鬼、君の国ではこういうのは普通なのかい?」
赤鬼「いや、人前では無いな。というかこりゃあ国どうこうより姫の性格だ」ガハハ
人魚姫『好きな人に抱きつくのに理由なんていらないっしょ?』ヘラヘラ
ワイワイ
赤ずきん「……」
赤ずきん(人魚姫、嬉しそう……)
赤ずきん(当然ね、ディーヴァの運命からも解放されて王子とも結ばれた。王子は人魚との協力にも前向き。人魚姫にとっては幸せな事ばかり)
赤ずきん(彼女が幸せならもちろん私も嬉しい、けれど…今の私は幸せそうな人魚姫を見るのが辛い)
赤ずきん(彼女の笑顔をまっすぐ見つめることが…私には出来ない)
454 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:29:38 ID:EwW
赤ずきん(どうしたらいい……?)
赤ずきん(このままだとおとぎ話が消える。それを防ぐなら人魚姫を王子から引き離すことになる…そんなこと)
人魚姫『王子は意外と照れ屋だよねー、チョーうけるよー』 ニコニコ
赤ずきん(……できない)
赤ずきん(だったらどうすべきかしら……人魚姫の幸せを望めばおとぎ話が消える……私はそれも嫌)
赤ずきん(おとぎ話が消える…私の世界【赤ずきん】の時のように……)
──おばあちゃん「別の世界に赤ずきんだけでも逃げるんだ」
──狼「さっき喰ったの、お前の母ちゃんだったかもな」ゲラゲラ
──狩人「強く生きろ。お前の手で悲しみを振り払え」
フラッ
赤ずきん「……っ」ガタッ
人魚姫『赤ずきん!大丈夫!?』
赤鬼「うぉっ!?どうした!?どこか痛いのか?」
赤ずきん「……ただの目眩よ、大丈夫。考え事をしていたら…【赤ずきん】が消えた日のことを鮮明に思い出してしまったの。もう、平気」
455 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:31:46 ID:EwW
王子「旅の疲れがでたのかな?今日は休むといい。城の客間をお貸ししよう、滞在期間中は是非そこを使ってくれたまえ」
赤ずきん「…そうね、折角だから姫はお城に泊めて貰いなさいな。その方が少しでも王子と一緒にいられるでしょう」
人魚姫『それは嬉しいけどさ、赤ずきん達はどーすんの?一緒に泊めて貰おうよ』
赤ずきん「私は赤鬼と話したいことがあるの、それにもう宿の予約をしているから……そうよね、赤鬼?」
赤鬼「あぁ、王子の好意は受け取らせて貰うが今日は町の宿に宿泊する事にする」
王子「そうかい?ならば止めないけれど……部屋が必要になったらいつでも言ってくれていいんだよ?すぐに支度をさせるから」
赤ずきん「ありがとう、王子。それと姫の事お願いね…あまり食事のマナーとか得意じゃないから大目に見てあげて頂戴」
人魚姫『残念なんですけどー、赤ずきん達と一晩中話できると思ってたんだけどなー?』
赤ずきん「いつだって話くらい出来るわよ。いつだってね……」
人魚姫『…?うん、まぁそれもそだね』
赤鬼「じゃあオイラ達はこれで失礼する。人魚姫、明日また城に来るからそれまで王子達に迷惑かけないようにな」
人魚姫『ちょっと、そんな子供に言うみたいに言わないで欲しいんだけど?人間のマナー分かってなくても空気くらいは読めるよ、だから心配しないでよね』ヘラヘラ
赤ずきん「……」
人魚姫『そんじゃ、また明日ね』ニコニコ
赤ずきん「ええ、また明日」
ガチャッ
457 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:35:01 ID:EwW
港町 宿の部屋
赤ずきん「……どうしたものかしらね」
赤鬼「……そうだな、困ったことになっちまった」
赤ずきん「…だけど決断しなければいけないわ。私たちはどう動くか」
赤鬼「……おとぎ話を救うか、人魚姫を救うか……どちらにしても失う物がでかすぎる」
赤ずきん「ねぇ、赤鬼は……どう考えているの?」
赤鬼「……そうだな、まずオイラの考えを話そうじゃねぇか」
赤ずきん「えぇ、お願い」
赤鬼「オイラは昨日もお前に話したよな、人魚姫を助けたいと」
赤ずきん「ええ、そう聞いたわ」
赤鬼「今もその気持ちに変化はねぇ。昨日とは状況が変わっちまったが、むしろその気持ちは強くなってる。お前も見ただろう?あの幸せそうな人魚姫を……あいつを悲しませるなんて出来ねぇ」
赤鬼「オイラは人魚姫の好きなように生きさせてやりてぇ、それは何も過ぎた願いじゃねぇと思うんだ」
赤ずきん「人魚姫の幸せを奪いたくない。それは私も一緒、けれど人魚姫の幸せを願えばおとぎ話は消えてしまう…」
赤鬼「それだ、おとぎ話の消滅…」
赤鬼「実はな…オイラは常々考えていたことがあるんだ」
赤ずきん「考えていたこと…?」
赤鬼「ああ、おとぎ話という存在についてだ」
458 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:36:09 ID:EwW
赤鬼「おまえはどう思ってるんだ?おとぎ話っていう存在を」
赤ずきん「どうって……キモオタの住む現実世界の人間に作られた物語でしょう?」
赤鬼「そうだな、おとぎ話は現実世界の人間に作られた物語。オイラ達はその登場人物」
赤鬼「オイラは鬼に生まれて両親に育てられて、青鬼と親しくなって、金棒を使った武術や薬学を学び、人間との共存を夢見てあの村のはずれに家を構えた」
赤鬼「だが村人から恐れられて…なかなか打ち解けられずにいた。それは紛れなくオイラの人生だとそう思っていた。だがあの世界から旅立った後に道中でお前は教えてくれたな」
赤鬼「オイラ達が生活している世界は…現実世界の人間達が創り出したおとぎ話の世界だと言うこと、そしてオイラはそのひとつ【泣いた赤鬼】の主人公だと言うこと」
赤鬼「オイラが現実だと思っていた世界は別世界の人間によって作った物語に過ぎなかったってわけだ」
赤鬼「人間に恐れられるのも、青鬼が一芝居打ったのも、自分の事を一番考えてくれた親友を失ったことも、それに涙したことも全て最初から決まっていたんだ」
赤ずきん「そうね…私たちは考えて行動し、幸せなときも辛いときもあるごく普通の日常を過ごしているつもりだけど…」
赤鬼「それでもやはりおとぎ話ってのは作りもんだ。オイラ達がどう考えてどう過ごしても結末は決められている」
459 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:37:38 ID:EwW
赤鬼「その事にオイラはずっと疑問を持っていたんだ。じゃあオイラ達は何のために存在するんだ?結末が決まっている世界を生きるためか?それが例え辛い未来でもか?考えたが納得できる答えは出なかった」
赤ずきん「それは…私にも正しい答えは分からない。けれどキモオタとティンクは【マッチ売りの少女】の世界で一つの答えを出したじゃない」
赤ずきん「おとぎ話は現実世界の子供達を正しく育てるために必要な物語。楽しいおとぎ話は子供達を愉快な気持ちにさせ、悲しいおとぎ話で心を育て、厳しいおとぎ話で教訓を与える」
赤ずきん「【マッチ売りの少女】のマッチ売りも、現実世界の子供達の優しい心を育てるために自分のつらい境遇が役立つならと、自らの運命を受け入れた。そうでしょう?」
赤鬼「それはそれで構わない、オイラの【泣いた赤鬼】が現実世界の子供達の心を打つなら…それは素晴らしいことだ。オイラみたいな過ちを犯して親友と会えなくなるなんて事がなくなるなら、それはオイラも嬉しい」
赤鬼「だが、現実世界の人間にとってはお話の中の出来事に過ぎない事でもオイラ達には現実だ。そうだろう?」
赤ずきん「そうね…つまりこういうことでしょう?」
赤ずきん「現実世界では【シンデレラ】はお姫様になる貧しい娘のおとぎ話。【裸の王様】は愉快な王が恥をかくおとぎ話。【マッチ売りの少女】は可哀想な女の子のおとぎ話。【桃太郎】は勇敢な侍が鬼退治をするおとぎ話……」
赤ずきん「けれど私たちにとってそれはすべて現実。優しくて姉のような王妃がいる世界も、変わり者だけど頼れる国王がいる世界も、友達と一緒に一人の少女の為に過ごした世界も、どこか頼りないけれど根は勇敢な侍がいる世界も……」
赤ずきん「どれも紛れもない現実。どれも語り継がれた物語なんかじゃない、この肌で感じた実際の出来事。あなたもそう言いたいのね?」
赤鬼「そうだ、確かにおとぎ話は現実世界にの人間が子供達のために作ったものかもしれない。だが、その中に生きるオイラ達にとっては全てが現実だ」
赤鬼「人魚姫もそうだ。現実世界の人間にとって【人魚姫】は恋破れて泡になる悲しいおとぎ話だが、オイラ達にとっては作り話でもおとぎ話でもねぇんだ」
赤鬼「親しくなった人魚の娘が、泡になって消える。そんな現実だ」
460 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:38:57 ID:EwW
赤鬼「おとぎ話の消滅を防ぐことももちろん大事なことだと思うぞ。だがここまでの状況になっちまったら……あいつを不幸にする必要があるくらいならオイラはおとぎ話より人魚姫を選びたい」
赤鬼「あいつがあの幸せな状況から一転して死んじまうのはオイラにとってもあいつにとっても物語じゃなく現実だからだ」
赤鬼「友達が苦しんで悲しみ恋破れ、泡になって死んじまうなら……おとぎ話自体が消えちまってもいいんじゃねぇかと思う」
赤ずきん「……」
赤鬼「おとぎ話か人魚姫かどちらかしか選べないなら、オイラは人魚姫の幸せを選ぶ。そいつが身勝手な選択だとしても…だ」
赤ずきん「私は……私の選択は」
赤ずきん「あなたとは違う。私はおとぎ話か人魚姫かどちらか選ぶなら…」
赤ずきん「おとぎ話を選ぶ」
赤鬼「……」
赤ずきん「…それが非情で薄情な選択だと罵られたとしてもね」
461 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:42:22 ID:EwW
赤鬼「…お前を罵るつもりなんかねぇさ、だが理由を聞かせてくれ」
赤ずきん「……仮にあなたの選択の通り人魚姫を救ったとしましょう」
赤ずきん「彼女はどうするの?口も利けない足も不自由な人魚姫を旅に同行させられないわ」
赤鬼「【シンデレラ】の魔法使いに相談して新たな世界に暮らして貰う、王子も一緒にだ。ここではないどこかで結ばれる、悪くねぇ未来だと思うぞ」
赤ずきん「そうなるわよね……でも、例え王子が側にいたとしても彼女は辛い思いをするわよ。この世界のことを忘れきれないから」
赤鬼「この世界のことを忘れきれない?そりゃあどういう意味だ?」
赤ずきん「……ある女の子の話をしましょうか」
赤ずきん「その女の子はおとぎ話の主人公だった。けれど元居た世界を失って別の世界を旅することになったの、元の世界から生き残ったのは彼女一人」
赤ずきん「始めその女の子は孤独だった。でも一度家族や友達を全て失ったからもう友達は作らないと決めていた、人付き合いも最小限にするように心掛けていたの。もう家族や友達を失いたくなかったからね」
赤ずきん「でも、ある時…あるおとぎ話で出会った者と仲良くなってしまった。それでもその女の子は深い関係を築かないようにと思っていたの、辛くなるのが分かっているからね…でも無理だった」
赤ずきん「楽しかったのよ。もう孤独じゃなかった、嬉しかった。それまでも親しくなった人は居たけど、彼らはそれよりも特別な存在になった…けれど女の子には気がかりなことがあったの」
赤鬼「……」
赤ずきん「友達との楽しい日々を過ごしていくうちに元居た世界の記憶が少しづつ薄れていることに気が付いたのよ」
462 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:48:33 ID:EwW
赤ずきん「元の世界は消滅した。そのおとぎ話は現実世界にはもう存在しない」
赤ずきん「別のおとぎ話にならおはなしの内容を知っている人物はいるかもしれないけれど…その世界のことを知っているのは彼女だけ」
赤ずきん「元の世界の空の色を知っているのも、あの村がどんな村でどこのお店のおばさんが優しくて、どこの畑を耕しているおじさんが気むずかしいとか…些細だけど確かにあの世界を作っていたものの記憶が曖昧になってきてる」
赤ずきん「そんな些細なものでもあの世界の記憶が消えかけていることが恐ろしかった。だってそうでしょう?」
赤ずきん「その世界はもうその女の子の記憶にしか存在しない。その女の子が忘れてしまえば……存在どころか記憶も無い、もはや証明できないのよ、その存在を」
赤ずきん「わかるかしら?無くなってしまうのよ」
赤ずきん「ママと一緒に食べた料理の味とか、森のどこどこに綺麗な花畑があるとか、おばあちゃんに教えて貰った村の成り立ちとか」
赤ずきん「大切な物も些細な物も無くなってしまう。もとからそんな世界が存在していなかったかのように」
赤ずきん「今はまだ鮮明に覚えて居ても…そのうち大好きなママやおばあちゃんの笑顔まで忘れてしまうんじゃないかと怯えて、眠れない夜もあった」
赤ずきん「そんな風に…消えてしまった世界に未練が残ってしまう。そしてきっと怯えてしまうわ…大切な物を忘れてしまうんじゃないかってね」
赤ずきん「人魚姫は悪態を付いたりもしていたけど姉のことを『姉ちゃん』って呼んでいる以上…まだ優しいお姉さんの部分も彼女の中には残っている。そんな人たちを残して別の世界へ生き延びたとしても後悔する」
赤ずきん「今を凌いだとしても、人魚姫は辛い思いをしてしまう。この世界を思い出す度に」
赤ずきん「自分のおとぎ話を失うって、そういう事よ」
463 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:53:26 ID:EwW
赤鬼「たとえ人魚姫を助けても、この世界への未練があいつを苦しめる……そう言いたいんだな」
赤ずきん「そうよ」
赤鬼「……確かにお前の言うとおりかもしれねぇ」
赤ずきん「そうでしょう?だから私たちがするべき事は…」
赤鬼「だが、お前は……赤ずきんはおとぎ話を失っても強く生きてるじゃねぇか?」
赤ずきん「……」
赤鬼「そりゃあ、元の世界を思い出して辛い思いをしたこともあるだろうが…自分と同じ思いをさせないようにと他のおとぎ話を救おうとしてるだろ?すげぇ事じゃねぇか」
赤ずきん「……」
赤鬼「自分のおとぎ話を元に戻すつもりなんか今更無いって言っていたけどよ、そうやって過去を振り払って前を向いて強く生きているじゃねぇか赤ずきんは」
赤ずきん「やめて…」ボソッ
赤鬼「お前は強いよ。おとぎ話を失っても強く生きてる。だからお前と同じように人魚姫だって多少の苦難なんか乗り越えられると思うぞ?」
赤ずきん「……く…ない」プルプル
赤おに「赤ずきん?」
赤ずきん「私は強くなんかない…!」
赤ずきん「強く生きてる?前を向いて生きてる?…そんなこと言わないで、私は……」
赤ずきん「とても、とても弱い…あなたが思ってるような強い女の子じゃないのよ…!」ポロポロ
464 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:58:25 ID:EwW
赤ずきん「以前少し話したでしょう…私が一人で旅をしていた頃の話」
赤鬼「お、おう……【泣いた赤鬼】の世界へ来る前は一人旅をしてたんだったな」
赤ずきん「想像できる?私みたいな女の子が一人で旅をしていると周りがどう接してくるか…」
赤ずきん「不憫がられるの、何か可哀想な事情があるだろうとね。そのくせまともに相手をしてくれない商人や店も少なくなかったわ」
赤ずきん「さらわれそうになったことも身ぐるみ剥がされそうになったこともあったわね。だから宿に泊まれず野宿をしなければいけないときは一睡も出来なかった」
赤鬼「……」
赤ずきん「だから私は舐められてはいけなかったの。弱いと奪われる、だから弱くても強い振りをしなきゃいけない。人前で泣かない、子供っぽいしゃべり方はしない、大人相手でも怯まない…」
赤ずきん「そうしなきゃ旅なんか出来なかった。だから本当は過去なんか振り払えてない……後悔してばかり、後ろばかり見て歩いてる。【赤ずきん】の世界だって本当は……」ギリッ
赤ずきん「鬼神病にかかったあなたを止められず…鬼に襲われて足を折られて…今回は目の前にいるドロシーを殴ることすら出来ず、挑発されて…だから、私は強くない…!」ポロポロ
赤鬼「お、おい…感情的になるな、気持ちは分かるがそれはなにもお前が悪いわけじゃねぇだろう」
「いいえ、何もかも持っているあなたには分からないわよ…私の欲しい物を何もかも持っているあなたには…」ポロポロ
465 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)23:00:00 ID:EwW
赤ずきん「あなたは仲間を守れる丈夫な身体を持ってる、敵を退けるだけの強い腕力もある…」
赤ずきん「外套を羽織っていても周りの人はあなたを一人前として扱ってくれる、子供扱いなんて決してされない…!」
赤ずきん「強靱な身体も強い腕力も私は持っていない…けれど私が強ければ…もっともっと強ければ…なんだって守れた!ママやおばあちゃんだって…人魚姫だって…!」ポロポロ
赤鬼「おい落ち着こう、な?お前の気持ちは分かるが…今はいろんなことがあり過ぎてちょっと興奮してんだ、まず落ち着いてだな…」
赤ずきん「わかるわけない…わかるわけがないじゃない…!」ポロポロ
赤ずきん「あなたは自分の【泣いた赤鬼】を失っていない…自分の世界を失っていないもの…それに鬼のあなたは人間の私よりも遙かに強い…そう、わかるわけがないのよ…」
赤ずきん「だってそうでしょう…あなたは強い鬼で私は弱い人間だもの…」
赤ずきん「あなたに私の気持ちなんか…鬼に人間の気持ちなんかわかるわけないのよ…!わかりあえる訳なんかないのよ…!」ポロポロ
466 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)23:08:45 ID:EwW
赤鬼「……っ!」グッ
赤ずきん「……あっ」ポロポロ
赤鬼「……」
赤ずきん「ご、ごめんなさい…違うの…赤鬼、私…!」ポロポロ
赤鬼「…確かにお前の辛さをオイラは分かってやってなかった。大人びた言動をするお前を見て、そんな苦しみを背負っているなんて考えもしなかった…だが」
赤鬼「おまえの気持ちを分かってやりたいと思う気持ちは嘘じゃねぇ…だがお前を傷つけたのは確かだ、すまねぇことをした。許してくれ」
赤ずきん「…違う、あなたは悪くない…悪いのは私よ、だって…!」
赤鬼「わかってるさ、お前はオイラの友達だ。本気で人間と鬼が分かり合えないなんて思っちゃいないんだよな?ちょっと感情的になっちまってつい言っちまっただけだろう」
赤ずきん「でも…私…あなたを傷つけて…!」
赤鬼「なに、オイラは気にしちゃいねぇよ。だが、お前があんな事を言っちまうってのは相当精神的に追いつめられてるからだろうな…」
赤鬼「今日の所は話し合いはここまでだ、今日一日お互い一人で考えをまとめよう。オイラも人魚姫を救った後の考えが甘かったって分かった、もう少し考えをまとめてくる」
ガチャッ
赤ずきん「待って頂戴!私も、私も一緒に…!」
赤鬼「いや、人魚姫の未来がかかった大事なことだ。お互い冷静になるまで少し時間をおこう、また明日に城で落ち合おう」
赤ずきん「……でも」
赤鬼「大丈夫だ、オイラ達は喧嘩してる訳じゃねぇだろ?時間を置いて冷静になって、もう一度話し合おうじゃねぇか。そしたら今まで通りだ。お前は少し疲れてるのさ、何も気にすることはねぇんだ。また明日会おう、な?」ポンポン
赤ずきん「待って頂戴、赤鬼…!」
バタン
467 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)23:17:36 ID:EwW
赤ずきん「……私は、私はなんで…!」ポロポロ
赤ずきん「いろんな事がありすぎて…つい感情的になって…でも」
赤ずきん「あれだけは……言っちゃいけなかったのに、鬼と人間が分かり合えないなんて…」
赤ずきん「そんなこと…思っていないのに…八つ当たりで赤鬼に投げかけちゃいけない事なのに…!」ポロポロ
── …だがお前を傷つけたのは確かだ、すまねぇことをした。許してくれ
赤ずきん「違う、悪いのは私。赤鬼を傷つけたのは私の方だ……だから」
赤ずきん「私は、私は赤鬼に優しい言葉をかけて貰う資格なんて……泣く資格なんて無いのに……!」
赤ずきん「……うぐっ……うぅ……うぇぇん……」ポロポロ
・・・
・・
・
468 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)23:19:56 ID:EwW
今日はここまでです レスありがとー!
優しい相手にはつい感情をぶつけてしまう、そして後悔するというね…
人魚姫編 次回に続きます
469 :名無しさん@おーぷん :2015/04/17(金)23:21:27 ID:Stv
泣いた
更新早くて助かります
470 :名無しさん@おーぷん :2015/04/17(金)23:31:25 ID:y45
これは辛いな…
多分今までの話の中で人魚姫編が一番辛いかも
471 :名無しさん@おーぷん :2015/04/18(土)10:49:21 ID:9x4
本当に切なすぎる…
話の世界を取るか、友人を取るかの二択それだけじゃないから、赤ずきんちゃんがとてもとても切ない…
>>1さん更新ありがとうございます!
472 :名無しさん@おーぷん :2015/04/18(土)14:39:48 ID:jFE
人魚姫読んだけどおとぎ話と人魚姫の幸せ
両方とれる道もありそうに見えたよ。
いずれにせよ2人の選択は楽しみ。
473 :名無しさん@おーぷん :2015/04/18(土)19:13:08 ID:7qh
だめだ...一番弱いタイプの話来た
泣きそう
ドロシー「あっ、ごめんごめん!もう一つ選択肢があったね、全部投げ出して人魚姫もおとぎ話も見捨てて逃げちゃう!それでもいいよ?そのほうが赤ずきんも楽でしょ?」ヘラヘラ
ドロシー「だって【赤ずきん】のおとぎ話からもみんな見捨てて自分1人だけ逃げてきたんだからさ!もうおとぎ話を見捨てることに関してはベテランだもんね!」クスクス
赤ずきん「言わせておけば…!」グッ
ドロシー「あれ?いいの?あんたのマスケットは預けてるんだよね?武器もないのにドロシーちゃんに挑む?いいよ、私は靴を打ち鳴らすだけだから、いつでも相手になったげるよん♪」ニヤニヤ
赤ずきん「マスケットがなければ戦えないとでも思ってる?舐めないで、そのヘラヘラした顔を殴りつけてあげる」ググッ
赤鬼「やめろ!あいつはお前を挑発してんだ!お前だって頭では解ってるんだろう?ドロシーは王子にとっては介抱してくれた恩人なんだ、殴ったりしたら面倒なことになるぞ!」ガバッ
ドロシー「よくわかってんじゃん!あんたに殴られたら私は王子に泣きつくよぉ?いくらあんた達も恩人だって言っても王子は優しいから絶対に私の味方してくれるけど、どうする?」
ドロシー「そしたらどうやって説明する?おとぎ話のこと話してみる?このままじゃこの世界がなくなっちゃうって?そんなの信じてくれるかなー?どーせ子供の言い訳だと思われちゃうよね」クスクス
赤ずきん「くっ……!」
赤鬼「今ドロシーを殴ったらあいつの思うつぼだぞ!あいつがただ【人魚姫】を消したいだけなら昨日海岸で王子の息の根を止めることも出来たはずだ、だがあいつはそれをしなかったんだ。オイラ達を精神的に追いつめるためにだ」
赤鬼「ヘラヘラしちゃあいるが…こっちが思ってる以上に策を練った上で行動をしているんだドロシーは。これ以上、あいつの策に乗っちまったらまずい。最悪、人魚姫もおとぎ話も両方とも救えなくなるかもしれねぇ、だから今は耐えろ!」
赤ずきん「……こんなに近くにいるのに、殴りかかれば届きそうなほど近くにいるのに……」ググッ
赤ずきん「私は家族の仇を討つこともできない…!」ジワッ
448 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:14:55 ID:EwW
赤ずきん「私はおばあちゃんやママを殺したあいつを見過ごせない、私のおとぎ話…私の世界を消したあいつを…このままほおっておくなんてできないのよ!わかって頂戴、赤鬼!」ワナワナ
赤鬼「熱くなるんじゃない!いいか、ドロシーを殴るのは今じゃねぇ。オイラ達は何のために力を付けようとしているんだ?よく思い出せ。いいか、もう一度言うぞ、あいつを殴るのは今じゃない」
赤鬼「だそうだ、今じゃないだけだ…力を付けて万全な状態で挑んだとき、あいつにお前の感情の全てをぶつけてやれ。だから今は堪えるんだ」
赤鬼「これ以上状況を悪くする必要はないだろ?今はドロシーよりも人魚姫だ。なっ?」
赤ずきん「……」ギリッ
ドロシー「クスクス、その今度がいつか来ればいいけどね?じゃあ私は親友達が待ってるお部屋へ帰りまーす♪また会おうね二人とも!その時は友達を売った感想でも聞こうかな?それじゃーねー」クスクス
タッタッタ
赤鬼「…仇を見過ごすのは悔しかっただろう、だがよく耐えた。ひとまず、あいつは今は手を出してこないだろう」
赤ずきん「……」ドンッ
赤鬼「難題をふっかけられちまったが…今後どうするかは後でじっくりと話そうじゃねぇか。だが今は人魚姫の所へ戻るとしよう、急に部屋を飛び出して心配しているだろうからな」
赤ずきん「……わかったわ、戻りましょう。人魚姫のいる王座の間に」
449 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:17:45 ID:EwW
王座の間
人魚姫『赤ずきん!どーしたわけ?急に飛び出していってびっくりしたじゃん!』
赤ずきん「……悪かったわ、何でもないのよ」
人魚姫『ふーん?まぁ良いけどさ、っていうか二人がいない間チョー大変だったんだかんね!国王とも王子とも話せないからとりあえずニコニコして凌いだけどさー』ヘラヘラ
王子「赤ずきん…もしや、ドロシーと喧嘩でもしたのかい?彼女は遠慮なく言葉を放つからな、私も初対面でタメ口を聞かれたのはドロシーが初めてだ、だが許してやってくれないか」
赤ずきん「……王子、私は喧嘩なんかしていないから安心して頂戴」
赤鬼「ところで、国王の姿が見えないが?さっきはろくに挨拶もせずに飛び出してしまったからな…一言謝っておきたい」
王子「国王は少し前に出て行かれたよ、入れ違いになったんだろう。元々多忙な方だったが今回の事故で更にスケジュールに余裕がなくなったようだったから」
赤鬼「それは申し訳ないことをしたな、折角予定をあけて貰ったというのに」
王子「気にせずともいい、どうやら国王……いや、父上も姫の事を気に入ってくれたようだ」
人魚姫『国王の話は難しくてよくわかんなかったけどさ、優しそうな人だなってのはわかったよ。あとさ、少しだけどこの国のことも聞けたし』ヘラヘラ
赤鬼「この国のこと…何か話したのか?」
450 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:20:52 ID:EwW
王子「あぁ、君たちも話には聞いているだろう?この国の港町は昔は大いに栄えていたという話さ」
赤ずきん「ええ、聞いているわ。確か、十年ほど前から急に海難事故が多発して船を出せなくなったのよね」
王子「そうだね、十年近く経過した今でも全くの原因不明さ。一時は国が傾きかけたそうだが、国王が自ら奔走してなんとか国民達が毎食食べていけるまでに経済は回復したけれど」
王子「依然として原因は不明。けれど国は以前のような賑やかな港を取り戻す事を諦めてはいないんだ。造船技術の向上や海域調査……私も主にこの方面で助力している」
赤鬼「ってことは、もしかして昨日の船もそれに関係してるのか?」
王子「そうだね、表向きには私が主催する貴族や王族を招待しての船上パーティ。だが本当の目的は別にあった。私は新たに作った船で安全に海を渡れば国民達に安心感を与えられると思ったんだ」
人魚姫『……でも、姉ちゃんが襲ったから失敗しちゃったんだ。ごめんね、王子…』ションボリ
王子「だが結果は知っての通り、裏目に出てしまったよ。私の見通しが甘かったんだ、逆に国民に不安を与えてしまった…王子としてあるまじき失態だ」
赤ずきん「王子は悪くない、国民のために港を再興したいという思いからの行動だもの。誰も責めたりしないわ」
人魚姫『そうそう!王子はむしろ立派じゃん!ちゃんと国の人たちのこと考えてんだからさ!さすがは私の彼氏だよ』コクコク
赤鬼「そうだ。姫も言っている、王子は国民の事を考えていて立派だとな。さすがは自分の恋人だと誇らしそうにしているぞ」ガハハ
人魚姫『赤鬼!そんなとこまで伝言しなくて良いっての!』ペシペシ
王子「そう言ってもらえるといくらか気が楽だよ。だが、私は諦めてはいないよ。かならずこの港町にかつての栄光を取り戻す!国民達のためにもね」キリッ
451 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:21:59 ID:EwW
人魚姫『ねぇ、赤ずきん。王子に人魚のことどう思ってるか聞いてくれない?』
赤ずきん「……ええ、わかったわ。ねぇ王子」
王子「どうしたんだい?赤ずきん」
赤ずきん「あなたは人魚についてどう思う?そう姫が聞いているわ」
王子「人魚…というと、あの昔話や伝説で聞く人魚かい?」
赤ずきん「いいえ、実際の人魚よ」
王子「実際の……?」
王子(もしも実際に居たら、ということだろうか?)
王子「そうだなぁ……私は見たことがないけどもしも人魚がいるなら会ってみたいね。それに人魚は海に詳しい、この海難事故の原因も教えてくれるだろうしね」
王子「それに……もし本当にいるのなら協力して貰いたいな、安全に海を渡ることにね。人魚なら海の中の危険や危ない海流にだって対応できる。そのかわりに私たち人間は海では手には入らない物資などを提供する、そんな風に協力しあえたら素敵だね」
赤ずきん「あなたも、協力すべきという考えかしら?」
王子「そうだね、私はそう思うよ。お互いに幸せになれる、そんな素敵なことは他にないだろう?」
王子「とはいえ、人魚に会ったこともないのにこんな風に考えるのはおかしいかな?」ハハッ
人魚姫『そんなことない!王子、マジでかっこいいよ!そんな風に思ってくれるなんてさ!』ギュー
王子「や、やめないか姫!赤ずきんや赤鬼もいるんだ、急に抱きつくなど…!」ワタワタ
人魚姫『いいじゃん!あたしはさ、ものっすごく嬉しいよ!ちゃんと人間にも優しい人はいる、そしてそれがあたしが好きになった人なんだからさ!』ギューッ
赤鬼「……なんだったら、席を外そうか?」
赤ずきん「……」ジトー
王子「い、いや…二人とも居てくれて構わない」ワタワタ
人魚姫『…赤ずきん、赤鬼。マジで嬉しいよあたし!』ニコニコ
人魚姫『あたしはもう海の底には潜れないし声も出せない…けど王子が夢見る港の復興に協力したい!』
人魚姫『できるなら、人魚と人間の共存だってやっぱり目指したい。王子が…あたしの好きな人もそれを望むなら、あたしはマジ全力で手伝うよ』ニコニコ
453 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:27:21 ID:EwW
王子「姫、もうそろそろ離れてくれないか…」ワタワタ
人魚姫『嫌だって伝えて!あたしは今、チョー幸せだからさ!』ヘラヘラ
赤鬼「嫌だとさ、王子。もう観念したほうがいいんじゃねぇか?」ガハハ
王子「やむを得ないか……わかった、ただし部屋の中だけだ。兵達に見られては示しが付かないからね」
人魚姫『仕方ないなー、王子は気にしぃだなー』コクコク
王子「どうもこういうのは苦手だ……赤鬼、君の国ではこういうのは普通なのかい?」
赤鬼「いや、人前では無いな。というかこりゃあ国どうこうより姫の性格だ」ガハハ
人魚姫『好きな人に抱きつくのに理由なんていらないっしょ?』ヘラヘラ
ワイワイ
赤ずきん「……」
赤ずきん(人魚姫、嬉しそう……)
赤ずきん(当然ね、ディーヴァの運命からも解放されて王子とも結ばれた。王子は人魚との協力にも前向き。人魚姫にとっては幸せな事ばかり)
赤ずきん(彼女が幸せならもちろん私も嬉しい、けれど…今の私は幸せそうな人魚姫を見るのが辛い)
赤ずきん(彼女の笑顔をまっすぐ見つめることが…私には出来ない)
454 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:29:38 ID:EwW
赤ずきん(どうしたらいい……?)
赤ずきん(このままだとおとぎ話が消える。それを防ぐなら人魚姫を王子から引き離すことになる…そんなこと)
人魚姫『王子は意外と照れ屋だよねー、チョーうけるよー』 ニコニコ
赤ずきん(……できない)
赤ずきん(だったらどうすべきかしら……人魚姫の幸せを望めばおとぎ話が消える……私はそれも嫌)
赤ずきん(おとぎ話が消える…私の世界【赤ずきん】の時のように……)
──おばあちゃん「別の世界に赤ずきんだけでも逃げるんだ」
──狼「さっき喰ったの、お前の母ちゃんだったかもな」ゲラゲラ
──狩人「強く生きろ。お前の手で悲しみを振り払え」
フラッ
赤ずきん「……っ」ガタッ
人魚姫『赤ずきん!大丈夫!?』
赤鬼「うぉっ!?どうした!?どこか痛いのか?」
赤ずきん「……ただの目眩よ、大丈夫。考え事をしていたら…【赤ずきん】が消えた日のことを鮮明に思い出してしまったの。もう、平気」
455 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:31:46 ID:EwW
王子「旅の疲れがでたのかな?今日は休むといい。城の客間をお貸ししよう、滞在期間中は是非そこを使ってくれたまえ」
赤ずきん「…そうね、折角だから姫はお城に泊めて貰いなさいな。その方が少しでも王子と一緒にいられるでしょう」
人魚姫『それは嬉しいけどさ、赤ずきん達はどーすんの?一緒に泊めて貰おうよ』
赤ずきん「私は赤鬼と話したいことがあるの、それにもう宿の予約をしているから……そうよね、赤鬼?」
赤鬼「あぁ、王子の好意は受け取らせて貰うが今日は町の宿に宿泊する事にする」
王子「そうかい?ならば止めないけれど……部屋が必要になったらいつでも言ってくれていいんだよ?すぐに支度をさせるから」
赤ずきん「ありがとう、王子。それと姫の事お願いね…あまり食事のマナーとか得意じゃないから大目に見てあげて頂戴」
人魚姫『残念なんですけどー、赤ずきん達と一晩中話できると思ってたんだけどなー?』
赤ずきん「いつだって話くらい出来るわよ。いつだってね……」
人魚姫『…?うん、まぁそれもそだね』
赤鬼「じゃあオイラ達はこれで失礼する。人魚姫、明日また城に来るからそれまで王子達に迷惑かけないようにな」
人魚姫『ちょっと、そんな子供に言うみたいに言わないで欲しいんだけど?人間のマナー分かってなくても空気くらいは読めるよ、だから心配しないでよね』ヘラヘラ
赤ずきん「……」
人魚姫『そんじゃ、また明日ね』ニコニコ
赤ずきん「ええ、また明日」
ガチャッ
457 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:35:01 ID:EwW
港町 宿の部屋
赤ずきん「……どうしたものかしらね」
赤鬼「……そうだな、困ったことになっちまった」
赤ずきん「…だけど決断しなければいけないわ。私たちはどう動くか」
赤鬼「……おとぎ話を救うか、人魚姫を救うか……どちらにしても失う物がでかすぎる」
赤ずきん「ねぇ、赤鬼は……どう考えているの?」
赤鬼「……そうだな、まずオイラの考えを話そうじゃねぇか」
赤ずきん「えぇ、お願い」
赤鬼「オイラは昨日もお前に話したよな、人魚姫を助けたいと」
赤ずきん「ええ、そう聞いたわ」
赤鬼「今もその気持ちに変化はねぇ。昨日とは状況が変わっちまったが、むしろその気持ちは強くなってる。お前も見ただろう?あの幸せそうな人魚姫を……あいつを悲しませるなんて出来ねぇ」
赤鬼「オイラは人魚姫の好きなように生きさせてやりてぇ、それは何も過ぎた願いじゃねぇと思うんだ」
赤ずきん「人魚姫の幸せを奪いたくない。それは私も一緒、けれど人魚姫の幸せを願えばおとぎ話は消えてしまう…」
赤鬼「それだ、おとぎ話の消滅…」
赤鬼「実はな…オイラは常々考えていたことがあるんだ」
赤ずきん「考えていたこと…?」
赤鬼「ああ、おとぎ話という存在についてだ」
458 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:36:09 ID:EwW
赤鬼「おまえはどう思ってるんだ?おとぎ話っていう存在を」
赤ずきん「どうって……キモオタの住む現実世界の人間に作られた物語でしょう?」
赤鬼「そうだな、おとぎ話は現実世界の人間に作られた物語。オイラ達はその登場人物」
赤鬼「オイラは鬼に生まれて両親に育てられて、青鬼と親しくなって、金棒を使った武術や薬学を学び、人間との共存を夢見てあの村のはずれに家を構えた」
赤鬼「だが村人から恐れられて…なかなか打ち解けられずにいた。それは紛れなくオイラの人生だとそう思っていた。だがあの世界から旅立った後に道中でお前は教えてくれたな」
赤鬼「オイラ達が生活している世界は…現実世界の人間達が創り出したおとぎ話の世界だと言うこと、そしてオイラはそのひとつ【泣いた赤鬼】の主人公だと言うこと」
赤鬼「オイラが現実だと思っていた世界は別世界の人間によって作った物語に過ぎなかったってわけだ」
赤鬼「人間に恐れられるのも、青鬼が一芝居打ったのも、自分の事を一番考えてくれた親友を失ったことも、それに涙したことも全て最初から決まっていたんだ」
赤ずきん「そうね…私たちは考えて行動し、幸せなときも辛いときもあるごく普通の日常を過ごしているつもりだけど…」
赤鬼「それでもやはりおとぎ話ってのは作りもんだ。オイラ達がどう考えてどう過ごしても結末は決められている」
459 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:37:38 ID:EwW
赤鬼「その事にオイラはずっと疑問を持っていたんだ。じゃあオイラ達は何のために存在するんだ?結末が決まっている世界を生きるためか?それが例え辛い未来でもか?考えたが納得できる答えは出なかった」
赤ずきん「それは…私にも正しい答えは分からない。けれどキモオタとティンクは【マッチ売りの少女】の世界で一つの答えを出したじゃない」
赤ずきん「おとぎ話は現実世界の子供達を正しく育てるために必要な物語。楽しいおとぎ話は子供達を愉快な気持ちにさせ、悲しいおとぎ話で心を育て、厳しいおとぎ話で教訓を与える」
赤ずきん「【マッチ売りの少女】のマッチ売りも、現実世界の子供達の優しい心を育てるために自分のつらい境遇が役立つならと、自らの運命を受け入れた。そうでしょう?」
赤鬼「それはそれで構わない、オイラの【泣いた赤鬼】が現実世界の子供達の心を打つなら…それは素晴らしいことだ。オイラみたいな過ちを犯して親友と会えなくなるなんて事がなくなるなら、それはオイラも嬉しい」
赤鬼「だが、現実世界の人間にとってはお話の中の出来事に過ぎない事でもオイラ達には現実だ。そうだろう?」
赤ずきん「そうね…つまりこういうことでしょう?」
赤ずきん「現実世界では【シンデレラ】はお姫様になる貧しい娘のおとぎ話。【裸の王様】は愉快な王が恥をかくおとぎ話。【マッチ売りの少女】は可哀想な女の子のおとぎ話。【桃太郎】は勇敢な侍が鬼退治をするおとぎ話……」
赤ずきん「けれど私たちにとってそれはすべて現実。優しくて姉のような王妃がいる世界も、変わり者だけど頼れる国王がいる世界も、友達と一緒に一人の少女の為に過ごした世界も、どこか頼りないけれど根は勇敢な侍がいる世界も……」
赤ずきん「どれも紛れもない現実。どれも語り継がれた物語なんかじゃない、この肌で感じた実際の出来事。あなたもそう言いたいのね?」
赤鬼「そうだ、確かにおとぎ話は現実世界にの人間が子供達のために作ったものかもしれない。だが、その中に生きるオイラ達にとっては全てが現実だ」
赤鬼「人魚姫もそうだ。現実世界の人間にとって【人魚姫】は恋破れて泡になる悲しいおとぎ話だが、オイラ達にとっては作り話でもおとぎ話でもねぇんだ」
赤鬼「親しくなった人魚の娘が、泡になって消える。そんな現実だ」
460 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:38:57 ID:EwW
赤鬼「おとぎ話の消滅を防ぐことももちろん大事なことだと思うぞ。だがここまでの状況になっちまったら……あいつを不幸にする必要があるくらいならオイラはおとぎ話より人魚姫を選びたい」
赤鬼「あいつがあの幸せな状況から一転して死んじまうのはオイラにとってもあいつにとっても物語じゃなく現実だからだ」
赤鬼「友達が苦しんで悲しみ恋破れ、泡になって死んじまうなら……おとぎ話自体が消えちまってもいいんじゃねぇかと思う」
赤ずきん「……」
赤鬼「おとぎ話か人魚姫かどちらかしか選べないなら、オイラは人魚姫の幸せを選ぶ。そいつが身勝手な選択だとしても…だ」
赤ずきん「私は……私の選択は」
赤ずきん「あなたとは違う。私はおとぎ話か人魚姫かどちらか選ぶなら…」
赤ずきん「おとぎ話を選ぶ」
赤鬼「……」
赤ずきん「…それが非情で薄情な選択だと罵られたとしてもね」
461 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:42:22 ID:EwW
赤鬼「…お前を罵るつもりなんかねぇさ、だが理由を聞かせてくれ」
赤ずきん「……仮にあなたの選択の通り人魚姫を救ったとしましょう」
赤ずきん「彼女はどうするの?口も利けない足も不自由な人魚姫を旅に同行させられないわ」
赤鬼「【シンデレラ】の魔法使いに相談して新たな世界に暮らして貰う、王子も一緒にだ。ここではないどこかで結ばれる、悪くねぇ未来だと思うぞ」
赤ずきん「そうなるわよね……でも、例え王子が側にいたとしても彼女は辛い思いをするわよ。この世界のことを忘れきれないから」
赤鬼「この世界のことを忘れきれない?そりゃあどういう意味だ?」
赤ずきん「……ある女の子の話をしましょうか」
赤ずきん「その女の子はおとぎ話の主人公だった。けれど元居た世界を失って別の世界を旅することになったの、元の世界から生き残ったのは彼女一人」
赤ずきん「始めその女の子は孤独だった。でも一度家族や友達を全て失ったからもう友達は作らないと決めていた、人付き合いも最小限にするように心掛けていたの。もう家族や友達を失いたくなかったからね」
赤ずきん「でも、ある時…あるおとぎ話で出会った者と仲良くなってしまった。それでもその女の子は深い関係を築かないようにと思っていたの、辛くなるのが分かっているからね…でも無理だった」
赤ずきん「楽しかったのよ。もう孤独じゃなかった、嬉しかった。それまでも親しくなった人は居たけど、彼らはそれよりも特別な存在になった…けれど女の子には気がかりなことがあったの」
赤鬼「……」
赤ずきん「友達との楽しい日々を過ごしていくうちに元居た世界の記憶が少しづつ薄れていることに気が付いたのよ」
462 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:48:33 ID:EwW
赤ずきん「元の世界は消滅した。そのおとぎ話は現実世界にはもう存在しない」
赤ずきん「別のおとぎ話にならおはなしの内容を知っている人物はいるかもしれないけれど…その世界のことを知っているのは彼女だけ」
赤ずきん「元の世界の空の色を知っているのも、あの村がどんな村でどこのお店のおばさんが優しくて、どこの畑を耕しているおじさんが気むずかしいとか…些細だけど確かにあの世界を作っていたものの記憶が曖昧になってきてる」
赤ずきん「そんな些細なものでもあの世界の記憶が消えかけていることが恐ろしかった。だってそうでしょう?」
赤ずきん「その世界はもうその女の子の記憶にしか存在しない。その女の子が忘れてしまえば……存在どころか記憶も無い、もはや証明できないのよ、その存在を」
赤ずきん「わかるかしら?無くなってしまうのよ」
赤ずきん「ママと一緒に食べた料理の味とか、森のどこどこに綺麗な花畑があるとか、おばあちゃんに教えて貰った村の成り立ちとか」
赤ずきん「大切な物も些細な物も無くなってしまう。もとからそんな世界が存在していなかったかのように」
赤ずきん「今はまだ鮮明に覚えて居ても…そのうち大好きなママやおばあちゃんの笑顔まで忘れてしまうんじゃないかと怯えて、眠れない夜もあった」
赤ずきん「そんな風に…消えてしまった世界に未練が残ってしまう。そしてきっと怯えてしまうわ…大切な物を忘れてしまうんじゃないかってね」
赤ずきん「人魚姫は悪態を付いたりもしていたけど姉のことを『姉ちゃん』って呼んでいる以上…まだ優しいお姉さんの部分も彼女の中には残っている。そんな人たちを残して別の世界へ生き延びたとしても後悔する」
赤ずきん「今を凌いだとしても、人魚姫は辛い思いをしてしまう。この世界を思い出す度に」
赤ずきん「自分のおとぎ話を失うって、そういう事よ」
463 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:53:26 ID:EwW
赤鬼「たとえ人魚姫を助けても、この世界への未練があいつを苦しめる……そう言いたいんだな」
赤ずきん「そうよ」
赤鬼「……確かにお前の言うとおりかもしれねぇ」
赤ずきん「そうでしょう?だから私たちがするべき事は…」
赤鬼「だが、お前は……赤ずきんはおとぎ話を失っても強く生きてるじゃねぇか?」
赤ずきん「……」
赤鬼「そりゃあ、元の世界を思い出して辛い思いをしたこともあるだろうが…自分と同じ思いをさせないようにと他のおとぎ話を救おうとしてるだろ?すげぇ事じゃねぇか」
赤ずきん「……」
赤鬼「自分のおとぎ話を元に戻すつもりなんか今更無いって言っていたけどよ、そうやって過去を振り払って前を向いて強く生きているじゃねぇか赤ずきんは」
赤ずきん「やめて…」ボソッ
赤鬼「お前は強いよ。おとぎ話を失っても強く生きてる。だからお前と同じように人魚姫だって多少の苦難なんか乗り越えられると思うぞ?」
赤ずきん「……く…ない」プルプル
赤おに「赤ずきん?」
赤ずきん「私は強くなんかない…!」
赤ずきん「強く生きてる?前を向いて生きてる?…そんなこと言わないで、私は……」
赤ずきん「とても、とても弱い…あなたが思ってるような強い女の子じゃないのよ…!」ポロポロ
464 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)22:58:25 ID:EwW
赤ずきん「以前少し話したでしょう…私が一人で旅をしていた頃の話」
赤鬼「お、おう……【泣いた赤鬼】の世界へ来る前は一人旅をしてたんだったな」
赤ずきん「想像できる?私みたいな女の子が一人で旅をしていると周りがどう接してくるか…」
赤ずきん「不憫がられるの、何か可哀想な事情があるだろうとね。そのくせまともに相手をしてくれない商人や店も少なくなかったわ」
赤ずきん「さらわれそうになったことも身ぐるみ剥がされそうになったこともあったわね。だから宿に泊まれず野宿をしなければいけないときは一睡も出来なかった」
赤鬼「……」
赤ずきん「だから私は舐められてはいけなかったの。弱いと奪われる、だから弱くても強い振りをしなきゃいけない。人前で泣かない、子供っぽいしゃべり方はしない、大人相手でも怯まない…」
赤ずきん「そうしなきゃ旅なんか出来なかった。だから本当は過去なんか振り払えてない……後悔してばかり、後ろばかり見て歩いてる。【赤ずきん】の世界だって本当は……」ギリッ
赤ずきん「鬼神病にかかったあなたを止められず…鬼に襲われて足を折られて…今回は目の前にいるドロシーを殴ることすら出来ず、挑発されて…だから、私は強くない…!」ポロポロ
赤鬼「お、おい…感情的になるな、気持ちは分かるがそれはなにもお前が悪いわけじゃねぇだろう」
「いいえ、何もかも持っているあなたには分からないわよ…私の欲しい物を何もかも持っているあなたには…」ポロポロ
465 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)23:00:00 ID:EwW
赤ずきん「あなたは仲間を守れる丈夫な身体を持ってる、敵を退けるだけの強い腕力もある…」
赤ずきん「外套を羽織っていても周りの人はあなたを一人前として扱ってくれる、子供扱いなんて決してされない…!」
赤ずきん「強靱な身体も強い腕力も私は持っていない…けれど私が強ければ…もっともっと強ければ…なんだって守れた!ママやおばあちゃんだって…人魚姫だって…!」ポロポロ
赤鬼「おい落ち着こう、な?お前の気持ちは分かるが…今はいろんなことがあり過ぎてちょっと興奮してんだ、まず落ち着いてだな…」
赤ずきん「わかるわけない…わかるわけがないじゃない…!」ポロポロ
赤ずきん「あなたは自分の【泣いた赤鬼】を失っていない…自分の世界を失っていないもの…それに鬼のあなたは人間の私よりも遙かに強い…そう、わかるわけがないのよ…」
赤ずきん「だってそうでしょう…あなたは強い鬼で私は弱い人間だもの…」
赤ずきん「あなたに私の気持ちなんか…鬼に人間の気持ちなんかわかるわけないのよ…!わかりあえる訳なんかないのよ…!」ポロポロ
466 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)23:08:45 ID:EwW
赤鬼「……っ!」グッ
赤ずきん「……あっ」ポロポロ
赤鬼「……」
赤ずきん「ご、ごめんなさい…違うの…赤鬼、私…!」ポロポロ
赤鬼「…確かにお前の辛さをオイラは分かってやってなかった。大人びた言動をするお前を見て、そんな苦しみを背負っているなんて考えもしなかった…だが」
赤鬼「おまえの気持ちを分かってやりたいと思う気持ちは嘘じゃねぇ…だがお前を傷つけたのは確かだ、すまねぇことをした。許してくれ」
赤ずきん「…違う、あなたは悪くない…悪いのは私よ、だって…!」
赤鬼「わかってるさ、お前はオイラの友達だ。本気で人間と鬼が分かり合えないなんて思っちゃいないんだよな?ちょっと感情的になっちまってつい言っちまっただけだろう」
赤ずきん「でも…私…あなたを傷つけて…!」
赤鬼「なに、オイラは気にしちゃいねぇよ。だが、お前があんな事を言っちまうってのは相当精神的に追いつめられてるからだろうな…」
赤鬼「今日の所は話し合いはここまでだ、今日一日お互い一人で考えをまとめよう。オイラも人魚姫を救った後の考えが甘かったって分かった、もう少し考えをまとめてくる」
ガチャッ
赤ずきん「待って頂戴!私も、私も一緒に…!」
赤鬼「いや、人魚姫の未来がかかった大事なことだ。お互い冷静になるまで少し時間をおこう、また明日に城で落ち合おう」
赤ずきん「……でも」
赤鬼「大丈夫だ、オイラ達は喧嘩してる訳じゃねぇだろ?時間を置いて冷静になって、もう一度話し合おうじゃねぇか。そしたら今まで通りだ。お前は少し疲れてるのさ、何も気にすることはねぇんだ。また明日会おう、な?」ポンポン
赤ずきん「待って頂戴、赤鬼…!」
バタン
467 :◆oBwZbn5S8kKC :2015/04/17(金)23:17:36 ID:EwW
赤ずきん「……私は、私はなんで…!」ポロポロ
赤ずきん「いろんな事がありすぎて…つい感情的になって…でも」
赤ずきん「あれだけは……言っちゃいけなかったのに、鬼と人間が分かり合えないなんて…」
赤ずきん「そんなこと…思っていないのに…八つ当たりで赤鬼に投げかけちゃいけない事なのに…!」ポロポロ
── …だがお前を傷つけたのは確かだ、すまねぇことをした。許してくれ
赤ずきん「違う、悪いのは私。赤鬼を傷つけたのは私の方だ……だから」
赤ずきん「私は、私は赤鬼に優しい言葉をかけて貰う資格なんて……泣く資格なんて無いのに……!」
赤ずきん「……うぐっ……うぅ……うぇぇん……」ポロポロ
・・・
・・
・
今日はここまでです レスありがとー!
優しい相手にはつい感情をぶつけてしまう、そして後悔するというね…
人魚姫編 次回に続きます
469 :名無しさん@おーぷん :2015/04/17(金)23:21:27 ID:Stv
泣いた
更新早くて助かります
470 :名無しさん@おーぷん :2015/04/17(金)23:31:25 ID:y45
これは辛いな…
多分今までの話の中で人魚姫編が一番辛いかも
471 :名無しさん@おーぷん :2015/04/18(土)10:49:21 ID:9x4
本当に切なすぎる…
話の世界を取るか、友人を取るかの二択それだけじゃないから、赤ずきんちゃんがとてもとても切ない…
>>1さん更新ありがとうございます!
472 :名無しさん@おーぷん :2015/04/18(土)14:39:48 ID:jFE
人魚姫読んだけどおとぎ話と人魚姫の幸せ
両方とれる道もありそうに見えたよ。
いずれにせよ2人の選択は楽しみ。
473 :名無しさん@おーぷん :2015/04/18(土)19:13:08 ID:7qh
だめだ...一番弱いタイプの話来た
泣きそう
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」 人魚姫編
Part1<< Part7 Part8 Part9 Part10 Part11 Part12 Part13 Part14 Part15 >>Part22
評価する!(2301)
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」一覧に戻る
ショートストーリーの人気記事
神様「神様だっ!」 神使「神力ゼロですが・・・」
神様の秘密とは?神様が叶えたかったこととは?笑いあり、涙ありの神ss。日常系アニメが好きな方におすすめ!
→記事を読む
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
→記事を読む
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」
→記事を読む
魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」
→記事を読む
男「少し不思議な話をしようか」女「いいよ」
→記事を読む
同僚女「おーい、おとこ。起きろ、起きろー」
→記事を読む
妹「マニュアルで恋します!」
→記事を読む
きのこの山「最後通牒だと……?」たけのこの里「……」
→記事を読む
月「で……であ…でぁー…TH…であのて……?」
→記事を読む
彡(゚)(゚)「お、居酒屋やんけ。入ったろ」
→記事を読む