自販機「私は自販機。工場から来ました」
Part2
26 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:27:00 MQ3NqSoA
自販機「それからあっという間に1ヶ月が過ぎ」
自販機「1月1日、正月を迎えました」
自販機「夜中の正午」
自販機「神社のある山の方を見ると」
自販機「たき火で山の空が赤くなっています」
自販機「今日で、ここに来てもうすぐ半年になるのかと思いを馳せながら」
自販機「ディスプレイにある甘酒の味を想像します」
27 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:29:23 MQ3NqSoA
自販機「こんな農村ですから」
自販機「人が少ないのは当然のことです」
自販機「もしも、もう一人隣に自販機があれば」
自販機「きっと仲良くなれたのかなぁといろいろ考えたりもしました」
自販機「もちろん言葉はしゃべれませんが、自分以外の誰かがそばにいるというのに憧れます」
自販機「そんなふうに普段は見向きもしないようなことを想ったり」
自販機「これまでの日々を振り返りながら新年を迎えました」
28 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:35:23 MQ3NqSoA
自販機「田んぼが一面真っ白に染まり」
自販機「遠くの山の木々が雪の華を咲かせます」
自販機「行き過ぎる人々の吐く息は白く」
自販機「誰もかれもが下を向きながら歩いていきます」
自販機「私は機械ですから」
自販機「人間と同様の"寒い"という感覚はありません」
自販機「暑さも同様に感じません」
自販機「ただ、夏暑いとドリンクが冷やしにくく」
自販機「冬寒いとドリンクが温まりにくいと言うのはあります」
自販機「行き交う人々は、どれも凍えると眉を顰め顔をしかめ」
自販機「照り付けられると力もなく重い足取りでふらふらと彷徨うようです」
自販機「辛そうな顔をしていると、どうにか癒してあげたいと思うのです」
自販機「寄り添ったりすることは、かなわないですけど」
29 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:37:49 MQ3NqSoA
自販機「三が日を過ぎると、人通りはいつもどおりの少なさに戻り」
自販機「トラックのおじさんも、これでやっと落ち着くわ、とこぼしています」
自販機「もうすっかり冬ですから、あったか~い ばかりが売れていきます」
自販機「この4日間は正月シーズンでいつもより多い客足を見込んで」
自販機「たくさんのドリンクが詰まっていたので温めるのが大変でしたが」
自販機「今日からは人が減る分、またゆっくり温められますね」
30 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:40:10 MQ3NqSoA
自販機「2月上旬」
自販機「コートとマフラーで完全防備を整えた中学生の女の子二人組」
自販機「おしるこやコーンスープを飲みながらベンチに座り、話をしています」
「"やっぱり、チョコは手作りのがいいのかな・・・?"」
「"えっ、誰かに渡すの?え~誰誰~?"」
「"やーだ、言わないよぉ~"」
「"いいじゃん教えてよ~~"」
「"ダーメ!"」
「"えぇ~・・"」
自販機「どうやら彼女は、好きな男の子にチョコを渡したいようです」
自販機「なんでも、バレンタインデーが近づいているんだとか」
31 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:41:48 MQ3NqSoA
自販機「翌日から、彼女はいつもより早くバス停に来て」
自販機「ベンチで難しそうな顔をしながら本を読んでいます」
「"甘くないのがいいのかな・・・"」
「"ん~・・・"」
「"ハートマークは・・・やりすぎだよねぇ~・・"」
自販機「これだ!とピンとくるようなチョコは、まだまだ見つかりません」
32 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:42:44 MQ3NqSoA
自販機「朝早くバス停に来て、難しい顔で本を見つめ悩む日々が続きました」
自販機「しかし3日が経つ頃」
「"ああっ!!これいいじゃん!!"」
自販機「と、大きい声を出して目を輝かせました」
自販機「彼女のお目当てのチョコレートが見つかったのです」
自販機「その日の夕暮れ時、彼女がバス停に降り立ったその手には」
自販機「大小のビニール袋が2つありました」
自販機「思い立ったが吉日と言わんばかりに、」
自販機「学校終わりに急いで家に帰り、私服に着替えてバスに飛び乗った甲斐がありました」
33 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:44:25 MQ3NqSoA
自販機「そしてバレンタイン当日の朝」
自販機「カゴに赤いリボンで結った水色の小さい箱を入れ」
自販機「ペダルを回す彼女の姿がありました」
自販機「今日はバスではなく自転車で学校へ行くようです」
自販機「その表情はいつもとは打って変わって不安と緊張の入り混じったものでした」
自販機「髪を揺らしながら一生懸命に自転車をこぐ彼女の顔は、本気そのものでした」
34 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:45:36 MQ3NqSoA
自販機「農村の冬は寒く」
自販機「一晩もあれば雪はうず高く積もってしまいます」
自販機「秋まで自転車で通っていた人たちも」
自販機「寒さが強くなるほどバスに流れていきます」
自販機「自転車に乗る人が減っている今日」
自販機「寒空の下、広い歩道を一人自転車で駆け抜ける彼女は」
自販機「いったいどんな気持ちだったんでしょうか」
35 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:52:54 MQ3NqSoA
自販機「雪も解け、桜もつぼみになり、春ももう間もなくといった3月のある日」
自販機「制服の胸元に花をつけ」
自販機「黒い筒を持った生徒たちが目の前を過ぎていきます」
自販機「中にはその目に涙を浮かべる人もいました」
自販機「しかし、悲しそうではありません」
自販機「泣いている人も、そうでない人も、みんなニコニコしています」
36 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:55:20 MQ3NqSoA
自販機「そんな中」
自販機「あの日自転車で駆け出して行った彼女は」
自販機「同じ色の制服を着た男の子と二人並んで」
自販機「他の生徒たちから離れた、後ろの方からゆっくり自転車を押していました」
37 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:56:20 MQ3NqSoA
自販機「分かれ道」
自販機「立ち止まった彼がぽつりと一言、二言話すとうつむき、彼女は黙ってしまいました」
自販機「ゆっくりと深呼吸をし、彼は何も言わず制服のボタンをちぎり、彼女の前に差し出します」
「"こんなものしか渡せない、けど・・・"」
自販機「所々メッキの剥がれたそのボタンには、彼の3年間と、言葉だけでは形容できない意味が込められていました」
自販機「彼女はそのボタンを受け取ると、その手でゆっくりと首元のリボンをはずし、男の子に渡します」
38 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:58:42 MQ3NqSoA
自販機「手の中で脈拍を増幅させ存在感を主張するその贈り物をポケットにしまい」
自販機「どちらともなく名残惜しそうな目で見つめ合いました」
「"・・・じゃあ、お元気で"」
「"・・・"」
「"うん・・・またね・・・!"」
自販機「男の子は自転車に乗ると全力で漕ぎ出しました」
自販機「その背中に向かって大きな声で呼びかけながら、姿が見えなくなるまでいつまでも見送ります」
自販機「彼を見つめる彼女の頬は、いつもよりも赤かった気がしました」
39 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 22:00:23 MQ3NqSoA
自販機「山々が一面の鮮やかな桜色に彩られた4月上旬」
自販機「彼女は折り目のない真新しいセーラー服を着てバスを待っています」
自販機「その顔はどこか寂しげで、不安で」
自販機「どこかほんのり期待を寄せた面持ちをしていました」
自販機「乗り込むバスもこれまでとは行き先が違います」
自販機「彼女は新しい一歩を踏み出したのでした」
40 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 22:01:31 MQ3NqSoA
自販機「4月というのに吹く風はまだ冷たくて」
自販機「玄関口でごねているのか、冬将軍はまだお帰りにならないようです」
自販機「この分だと、あったか~い もまだしばらく続きそうです」
自販機「冬ほどではないですが安定した売れ行きで」
自販機「トラックのおじさんもせっせと補充してくれるのです」
41 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 22:03:42 MQ3NqSoA
自販機「長く感じた梅雨を通り越すといよいよ夏がやってきます」
自販機「あの日から1年が経つのです」
自販機「初めてやってきたこの土地でいろんな人に出会い」
自販機「いろんな別れに立ち会ってきました」
自販機「自販機の私にとっては売上を伸ばすのが仕事かもしれませんが」
自販機「ここは競争社会の真っただ中にあるような都会ではなく、農村です」
自販機「のどかでゆったりとした心にゆとりのある場所です」
自販機「そんなところで売上ばっかり求めるのは」
自販機「野暮ってものじゃないでしょうかね?」
42 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 22:06:40 MQ3NqSoA
「"おー、暑いなーやっぱり"」
「"そうね、やっぱり暑いわね~"」
「"あなた、バス酔いは大丈夫なの?"」
「"ああ大丈夫だ"」
「"ぱぱ、ばすだいすきだからへいきだもんねー!"」
「"そうだぞー、パパはバス大好きだからへっちゃらなんだぞー!"」
「"わーっ!!たかーいたかーい!"」
自販機「バス停に降り立った若いご夫婦と女の子」
自販機「和気あいあいとしたご家族が今年もこの村にやってきました」
自販機「今年はどんな思い出が出来るのでしょうか」
43 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 22:10:58 MQ3NqSoA
自販機「自販機の寿命は大体6年前後と言われています」
自販機「これから残りの5年の間に、たくさんの人に出会うでしょう」
自販機「もしかしたら、いつか出会う誰かにとって」
自販機「思い出の1ページとなる場面に長く残れるかもしれません」
自販機「果てしなく遠い道のりの途中で」
自販機「汗だくで疲れた体をそっと癒して、凍え震えた心をじんわりとほぐせる、」
自販機「そんな役割ができたらいいなぁと思います」
自販機「心も、体も、あったか~く出来るように。」
ー完ー
44 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/28(月) 22:17:41 WxG53ByA
あったか~くなれるSSだったよ
おつおつ
47 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/28(月) 22:45:12 hhFpSCSE
いいSSだ、あったか~くなれたわ
おつ
48 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/29(火) 14:14:50 omIZ6FCw
今日はちょっと肌寒いだけに、このSSで心があったか~い
おつおつ
49 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/29(火) 18:34:58 t1LGN9ks
乙
いいな~このぼのぼの感
50 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/29(火) 23:46:38 VS8mG/PE
ゆるい空気、たまらなくすき
自販機「それからあっという間に1ヶ月が過ぎ」
自販機「1月1日、正月を迎えました」
自販機「夜中の正午」
自販機「神社のある山の方を見ると」
自販機「たき火で山の空が赤くなっています」
自販機「今日で、ここに来てもうすぐ半年になるのかと思いを馳せながら」
自販機「ディスプレイにある甘酒の味を想像します」
27 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:29:23 MQ3NqSoA
自販機「こんな農村ですから」
自販機「人が少ないのは当然のことです」
自販機「もしも、もう一人隣に自販機があれば」
自販機「きっと仲良くなれたのかなぁといろいろ考えたりもしました」
自販機「もちろん言葉はしゃべれませんが、自分以外の誰かがそばにいるというのに憧れます」
自販機「そんなふうに普段は見向きもしないようなことを想ったり」
自販機「これまでの日々を振り返りながら新年を迎えました」
28 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:35:23 MQ3NqSoA
自販機「田んぼが一面真っ白に染まり」
自販機「遠くの山の木々が雪の華を咲かせます」
自販機「行き過ぎる人々の吐く息は白く」
自販機「誰もかれもが下を向きながら歩いていきます」
自販機「私は機械ですから」
自販機「人間と同様の"寒い"という感覚はありません」
自販機「暑さも同様に感じません」
自販機「ただ、夏暑いとドリンクが冷やしにくく」
自販機「冬寒いとドリンクが温まりにくいと言うのはあります」
自販機「行き交う人々は、どれも凍えると眉を顰め顔をしかめ」
自販機「照り付けられると力もなく重い足取りでふらふらと彷徨うようです」
自販機「辛そうな顔をしていると、どうにか癒してあげたいと思うのです」
自販機「寄り添ったりすることは、かなわないですけど」
29 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:37:49 MQ3NqSoA
自販機「三が日を過ぎると、人通りはいつもどおりの少なさに戻り」
自販機「トラックのおじさんも、これでやっと落ち着くわ、とこぼしています」
自販機「もうすっかり冬ですから、あったか~い ばかりが売れていきます」
自販機「この4日間は正月シーズンでいつもより多い客足を見込んで」
自販機「たくさんのドリンクが詰まっていたので温めるのが大変でしたが」
自販機「今日からは人が減る分、またゆっくり温められますね」
30 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:40:10 MQ3NqSoA
自販機「2月上旬」
自販機「コートとマフラーで完全防備を整えた中学生の女の子二人組」
自販機「おしるこやコーンスープを飲みながらベンチに座り、話をしています」
「"やっぱり、チョコは手作りのがいいのかな・・・?"」
「"えっ、誰かに渡すの?え~誰誰~?"」
「"やーだ、言わないよぉ~"」
「"いいじゃん教えてよ~~"」
「"ダーメ!"」
「"えぇ~・・"」
自販機「どうやら彼女は、好きな男の子にチョコを渡したいようです」
自販機「なんでも、バレンタインデーが近づいているんだとか」
自販機「翌日から、彼女はいつもより早くバス停に来て」
自販機「ベンチで難しそうな顔をしながら本を読んでいます」
「"甘くないのがいいのかな・・・"」
「"ん~・・・"」
「"ハートマークは・・・やりすぎだよねぇ~・・"」
自販機「これだ!とピンとくるようなチョコは、まだまだ見つかりません」
32 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:42:44 MQ3NqSoA
自販機「朝早くバス停に来て、難しい顔で本を見つめ悩む日々が続きました」
自販機「しかし3日が経つ頃」
「"ああっ!!これいいじゃん!!"」
自販機「と、大きい声を出して目を輝かせました」
自販機「彼女のお目当てのチョコレートが見つかったのです」
自販機「その日の夕暮れ時、彼女がバス停に降り立ったその手には」
自販機「大小のビニール袋が2つありました」
自販機「思い立ったが吉日と言わんばかりに、」
自販機「学校終わりに急いで家に帰り、私服に着替えてバスに飛び乗った甲斐がありました」
33 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:44:25 MQ3NqSoA
自販機「そしてバレンタイン当日の朝」
自販機「カゴに赤いリボンで結った水色の小さい箱を入れ」
自販機「ペダルを回す彼女の姿がありました」
自販機「今日はバスではなく自転車で学校へ行くようです」
自販機「その表情はいつもとは打って変わって不安と緊張の入り混じったものでした」
自販機「髪を揺らしながら一生懸命に自転車をこぐ彼女の顔は、本気そのものでした」
34 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:45:36 MQ3NqSoA
自販機「農村の冬は寒く」
自販機「一晩もあれば雪はうず高く積もってしまいます」
自販機「秋まで自転車で通っていた人たちも」
自販機「寒さが強くなるほどバスに流れていきます」
自販機「自転車に乗る人が減っている今日」
自販機「寒空の下、広い歩道を一人自転車で駆け抜ける彼女は」
自販機「いったいどんな気持ちだったんでしょうか」
35 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:52:54 MQ3NqSoA
自販機「雪も解け、桜もつぼみになり、春ももう間もなくといった3月のある日」
自販機「制服の胸元に花をつけ」
自販機「黒い筒を持った生徒たちが目の前を過ぎていきます」
自販機「中にはその目に涙を浮かべる人もいました」
自販機「しかし、悲しそうではありません」
自販機「泣いている人も、そうでない人も、みんなニコニコしています」
36 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:55:20 MQ3NqSoA
自販機「そんな中」
自販機「あの日自転車で駆け出して行った彼女は」
自販機「同じ色の制服を着た男の子と二人並んで」
自販機「他の生徒たちから離れた、後ろの方からゆっくり自転車を押していました」
37 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:56:20 MQ3NqSoA
自販機「分かれ道」
自販機「立ち止まった彼がぽつりと一言、二言話すとうつむき、彼女は黙ってしまいました」
自販機「ゆっくりと深呼吸をし、彼は何も言わず制服のボタンをちぎり、彼女の前に差し出します」
「"こんなものしか渡せない、けど・・・"」
自販機「所々メッキの剥がれたそのボタンには、彼の3年間と、言葉だけでは形容できない意味が込められていました」
自販機「彼女はそのボタンを受け取ると、その手でゆっくりと首元のリボンをはずし、男の子に渡します」
38 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 21:58:42 MQ3NqSoA
自販機「手の中で脈拍を増幅させ存在感を主張するその贈り物をポケットにしまい」
自販機「どちらともなく名残惜しそうな目で見つめ合いました」
「"・・・じゃあ、お元気で"」
「"・・・"」
「"うん・・・またね・・・!"」
自販機「男の子は自転車に乗ると全力で漕ぎ出しました」
自販機「その背中に向かって大きな声で呼びかけながら、姿が見えなくなるまでいつまでも見送ります」
自販機「彼を見つめる彼女の頬は、いつもよりも赤かった気がしました」
39 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 22:00:23 MQ3NqSoA
自販機「山々が一面の鮮やかな桜色に彩られた4月上旬」
自販機「彼女は折り目のない真新しいセーラー服を着てバスを待っています」
自販機「その顔はどこか寂しげで、不安で」
自販機「どこかほんのり期待を寄せた面持ちをしていました」
自販機「乗り込むバスもこれまでとは行き先が違います」
自販機「彼女は新しい一歩を踏み出したのでした」
40 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 22:01:31 MQ3NqSoA
自販機「4月というのに吹く風はまだ冷たくて」
自販機「玄関口でごねているのか、冬将軍はまだお帰りにならないようです」
自販機「この分だと、あったか~い もまだしばらく続きそうです」
自販機「冬ほどではないですが安定した売れ行きで」
自販機「トラックのおじさんもせっせと補充してくれるのです」
41 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 22:03:42 MQ3NqSoA
自販機「長く感じた梅雨を通り越すといよいよ夏がやってきます」
自販機「あの日から1年が経つのです」
自販機「初めてやってきたこの土地でいろんな人に出会い」
自販機「いろんな別れに立ち会ってきました」
自販機「自販機の私にとっては売上を伸ばすのが仕事かもしれませんが」
自販機「ここは競争社会の真っただ中にあるような都会ではなく、農村です」
自販機「のどかでゆったりとした心にゆとりのある場所です」
自販機「そんなところで売上ばっかり求めるのは」
自販機「野暮ってものじゃないでしょうかね?」
42 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 22:06:40 MQ3NqSoA
「"おー、暑いなーやっぱり"」
「"そうね、やっぱり暑いわね~"」
「"あなた、バス酔いは大丈夫なの?"」
「"ああ大丈夫だ"」
「"ぱぱ、ばすだいすきだからへいきだもんねー!"」
「"そうだぞー、パパはバス大好きだからへっちゃらなんだぞー!"」
「"わーっ!!たかーいたかーい!"」
自販機「バス停に降り立った若いご夫婦と女の子」
自販機「和気あいあいとしたご家族が今年もこの村にやってきました」
自販機「今年はどんな思い出が出来るのでしょうか」
43 : ◆fc1F/cDk16 :2014/04/28(月) 22:10:58 MQ3NqSoA
自販機「自販機の寿命は大体6年前後と言われています」
自販機「これから残りの5年の間に、たくさんの人に出会うでしょう」
自販機「もしかしたら、いつか出会う誰かにとって」
自販機「思い出の1ページとなる場面に長く残れるかもしれません」
自販機「果てしなく遠い道のりの途中で」
自販機「汗だくで疲れた体をそっと癒して、凍え震えた心をじんわりとほぐせる、」
自販機「そんな役割ができたらいいなぁと思います」
自販機「心も、体も、あったか~く出来るように。」
ー完ー
44 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/28(月) 22:17:41 WxG53ByA
あったか~くなれるSSだったよ
おつおつ
47 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/28(月) 22:45:12 hhFpSCSE
いいSSだ、あったか~くなれたわ
おつ
今日はちょっと肌寒いだけに、このSSで心があったか~い
おつおつ
49 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/29(火) 18:34:58 t1LGN9ks
乙
いいな~このぼのぼの感
50 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/29(火) 23:46:38 VS8mG/PE
ゆるい空気、たまらなくすき
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