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勇者「真夏の昼の淫魔の国」

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Part7
236 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/08(日) 02:14:31.55 ID:T3Ls3/Imo
****
「だから、許してくれ。気付かなかったんだ、本当に!」
朝食の席は、どうにも気まずい。
対面に座った彼女は妙な様子で、少し顔を染めながら、唇をもにゅもにゅと蠢かしている。
手にしたフォークでテーブルをとんとんと叩き、その度に、半ばまで突き刺さって穴が穿たれていた。
必死で見た物を忘れようとしているようで、その様子は、どこか初々しかった。
「ふざ、けんな……!千年ぶりに見ちまったじゃん。ああ、クソッ……! 脳ミソにこびり付いてやがる! 消えねェ!」
「悪いとは思ってるが、『サキュバス』の反応じゃないな」
「アホか! 朝からあんなビッキビキのフルチャージのエグいブツ見せつけやがって! さっさと死ね、変態!」
「だから、悪かったって……。それに、朝だから仕方ないんだよ! 分かるだろ、淫魔なんだから!」
「馬撫でて勃ててるようにしか見えねぇっつんだよ!」
櫛形切りのトマトを口へ運び、咀嚼し、飲み込むと、どうにか話題を切り替えようと試みる。
「……ところで、脚……大丈夫なのか?」
訊ねると、彼女は頬杖をついて横を向いたまま、目だけをこちらへ向けた。
「…………大丈夫。昨日悪かったね」
「いや、気にはしてない。……怪我か? それとも」
「怪我でもビョーキでもねぇよ。もう、その話はやめにしろ。……で、お前……あの馬」
「?」
「トボけんじゃねぇよ。ありゃ『ナイトメア』だ。人間界の馬じゃない。……お前、アレに吸われ……いや、『アレ』を吸われただろ?」
「……は?」
「まさかお前、そこまでアタシに言わすつもりじゃねぇよな?」
「ああ、確かに。だが……夢なのか現実なのかもまだ分からないんだ」
「半々、だよ」
「え?」
「『ナイトメア』は、夢を見せる。夢の中で人の精を吸って、力に換える。……悪夢を見せて苦しめる場合もあるね」
「じゃ、……あれは」
「ヤられたんだよ、お前。まぁ、ヤツらは人にも化けるから、どっちかは分からんわ」

237 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/08(日) 02:15:32.32 ID:T3Ls3/Imo
あれは――――――夢なのか、現実なのか。
結局それさえも、分からなかった。
「だけど、何でだ?」
「その前にまず、お前……何があった? 何があって、行き倒れたんだよ」
「……そういえば、話してなかったかな」
そして、話して聞かせた。
『王だ』と言う部分は伝えず、ナイトメアに乗ってあの林道を抜ける途中、謎の魔物に襲撃された事。
撒いたと思ったら、土中からの突き上げを食らい、崖下へ投げ出されてしまった事。
最後に――――あれについて、何か知らないかと訊ねてみた。
「なるほど、なるほど? 興味深いねェ、そいつ」
「本体の姿は確認できなかった。日光を嫌っているようではあったが」
「そいつの事は分かんねェけどさ、お前が獣姦ぶっこいた理由は分かったよ」
「獣姦って言うな。そろそろ本気で怒っていいか?」
陶製のコップに水を注ぎ、飲み干してから彼女は続ける。
「どうどう。まず、さ。……アタシらにとって、『精液』って何だと思う?」
「……栄養源、じゃないのか?」
「正確じゃあないね。なら、出せる男が一人もいない『淫魔の国』が成立するワケないじゃん?」
「すると……」
「『淫魔』は他の魔族に比べてかなり特殊でさ。魔界にいる限り、精液を啜る必要はないんだわ。あればもちろん飲むけどね?」

238 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/08(日) 02:16:10.14 ID:T3Ls3/Imo
淫魔の生態についてはもちろん学んでいた。
その歴史も特性も、――――人間とのかかわり方も。
「人間界で活動する時は、ちゃんと摂らなきゃダメさ。でなきゃ体力低下、最悪死ぬ。精液無しじゃ、十年も生きられやしねぇ」
「…………」
「個人差はあるケド、基本的に体力魔力完全回復ポーション、完全栄養食、ついでに酒を合わせたようなもんだ」
「……すごいな、それは」
「だろ? それに、逆にアタシらにはヤった相手を回復させる秘術だってあるのさ」
数日前、サキュバスBに施された『あれ』を、思い出した。
何の変哲もない口淫だったのに、もはや蘇生呪文の域だった。
「体力を吸い取るんじゃないのか?」
「そいつもできるけど、吸い取れるんならその逆もできるだろ、って事よ」
「まぁ……理屈は分かるよ」
「ここまで言えば、お前がお馬さんに寝込み襲われた理由も分かるだろ?」
「……ああ」

239 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/08(日) 02:18:11.37 ID:T3Ls3/Imo
つまり、何の事もない。
ナイトメアは、自分の怪我を治そうとしていたのだ。
夢に現れた時の、少女の似姿は全身が傷ついていた。
その傷を治すために、薬として精液を求めた。
よく見れば、納屋の床には乾いた血痕があった。
それほどの負傷をしていたのに――――朝に、馬の姿に戻っていた彼女の体には、治りかけの傷しか残っていない。
「…………だから、アタシらは千年前は……回復し放題、魔力も使い放題だったな」
「千年?」
追従するようについ呟くと、彼女は、しくじったような苦み走った表情で舌打ちした。
「まぁ、どうせ知らんだろーな。それはまぁ、後でいいや。……っていうかイチモツ見せるわ精液連呼するわ、朝イチから何だ!」
「いや、最初のは事故――――」
「あーあー、うるせェ! メシ食ったら働け! 草取りだ、草取り!」
「……昨日、それはやっただろ?」
「話聞いてた? ココはな、何でも育っちまうんだよ。ウソだと思うなら見に行けよ。元以上に伸びてんぞ?
 一日二回は刈らにゃならん」
「え、マジで……」
「ほらほら、行け。……っと、そうだ」
サキュバスCはおもむろに立ち上がり、台所へと重い音を響かせて消えて行った。
そして戻ってきた時には、木製の桶に、瑞々しい野菜をたっぷり詰め込んで小脇に抱えていた。
再び食卓前まで来ると、彼女はそれを乱暴に置いた。

240 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/08(日) 02:19:29.43 ID:T3Ls3/Imo
「馬にやっとけ。水飲ましたきゃ好きにしな」
「すまないな。それにしても……」
「あ?」
「…………優しいんだな」
「は、はぁ!?」
呟くと、裏返った叫びが響いた。
「なんて、な。食わせて貰うぶんは働くよ。そうそう、地図があれば……後で、貸してくれないか」
「あ、あァ。わ、かっ……た……」
茹ったように頬を染めて立ち尽くす彼女の横をすり抜けていく。
ナイトメアの食事が用意された桶はずしりと重くて、落としかけた。
まだ一日しか、この一帯を調べていない。
ならば、さっさと作業を終わらせて地図を見直し、調べ直す。
ここには、遊びに来た訳では無い。
なのに。
なのに――――ここは、まるで里帰りしたように懐かしくて、落ち着く。
土の香りと草の匂い、鶏の鳴き声と寝藁の感触。
それは、全て。
壮麗な『淫魔の王』の城にも、その城下町にも存在しないものだった。
――――――どこまでも落ち着く、故郷の匂い、そのものだった。


241 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/08(日) 02:21:36.84 ID:T3Ls3/Imo
****
「……はい、どうぞ、堕女神様。特製コーヒーです」
「ありがとうございます。……良い薫りがしますね」
「お好みで砂糖とミルクをどうぞ。ここに置いておきます」
勇者が旅立って、四日目。
幾星霜の時を経て、初めて過ごす『休日』の四日目。
堕女神は、城下の書店に来ていた。
しばらく火の入る予定の無い暖炉近くの椅子に腰掛け、小ぶりなテーブルに置かれたカップを手に取りつつ訊ねる。
薫りを確かめると、初めて飲んだ時とは違い、どこか炭のようなニュアンスが混じっていた。
「…………炭火?」
「あれ、分かりますか? 実は最近、凝ってまして。豆にも何種類もあるんですよ。
 焙煎の具合や方法、豆の調合で更に味に変化が現れるんです」
「それは、是非今度ご教授願いたいところ。……店主殿は本日はどちらへ?」
コーヒーを供してくれたのは、店主ではなくその娘だった。
どちらかといえば母とは違い、怜悧な空気、隙無い物腰で、外見年齢は少し大人びて見える。

242 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/08(日) 02:22:34.45 ID:T3Ls3/Imo
「ああ……お母さんなら、今日は風邪引いて寝てますよ。暑いからって裸で寝てお腹冷やしたんです」
「大丈夫なのですか?」
「寝てれば治ります。それにしても、お一人でいらしてくれるなんて……珍しいですね」
「ええ。『休日』というものを賜りまして。陛下は……その、少しの間避暑へ」
「……すれ違いすれ違い。『陛下』の外見も声も知らないんですよね」
小高くなったカウンターに背を預け、彼女はがっくりとうなだれる。
堕女神はそんな彼女を少し気の毒そうに見てから、コーヒーを生のまま一口啜る。
「……美味しいです。まずは、何も入れずに一杯いただきます」
「そうおっしゃってくれると嬉しいです。ところで何かお探しの本など?」
「いえ、特に目当てなどは。ただ、少し物色してみようかと思いまして」
「なるほど。……しかし」
「?」
「堕女神様の『休日』というのは、想像がつきません。どうお過ごしに?」
「それが……私も手探りでして。『休み』と言うからには、体を休めなければならないのでしょうが……かえって疲れまして」
「はぁ」
二度寝を試みても、そう幸せではなかった。
眠気自体が元来少なく、朝も早く、日の出とともにぱっちりと目が覚めてしまった。
昼寝をしようにも、働いていないのだから眠くもならない、疲れない。
ならば、と外出を楽しむ事にしても、行くあてが少ない。
初日にサキュバスAと酒場に出かけた程度だ。
『何もしなくていい』というのは、どうにも性に合わなかったのだ。

243 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/08(日) 02:23:19.94 ID:T3Ls3/Imo
「……あなたは、休日はどのようにお過ごしですか?」
「え? 私は……そうですね。お家の掃除や洗濯とか」
「他には?」
「本読んだりお昼寝したり、お母さんと買い物に出かけたり…………」
「……ありがとうございました。中々参考になります」
そしてカップを置き、店内を回る。
埃っぽい店内に並んだ書架から、何冊かの本を取ってはめくり、検める。
十分ほどして、二冊ほど、目当ての本を探し当てて払いを済ませ、店を出た。
日差しはまだ強く、露わになった二の腕を容赦なく焼いた。
ひりひりするような日差しの下を、城へと向かって歩く。
相変わらず、城下の空気は暑さに負けない活気がある。
歩いていると子供達が堕女神を見つけ、大声で呼びかけた。
その度に彼女は微笑みかけ、時には手を振りながら、静々と歩いて行く。
途中で金物屋や薬屋の店主とも世間話を交わして、他愛もない談笑に浸る。

244 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/08(日) 02:24:59.91 ID:T3Ls3/Imo
城に戻って、何気なく、堕女神は『彼』の私室に足を向けた。
そこへ行くための道のりが、既に懐かしい。
絨毯を踏みしめる感触は、そして虚しい。
朝を告げに行く時も、夜に訪れた時も、いつも胸が高鳴っていた道のりが、何ももたらしてくれない。
いないと分かっているのに、それでも、つい――――毎日のように、訪れてしまっていた。
部屋の前に来た時、ノックをしようと手を構えたあたりで思い出して、俯く。
主は、今はいない。
だから入室の許可を求める必要さえない。
ドアノブを捻ると、簡単に開いた。
心なしか扉は軽くて、押すまでもなく、吸い込むように開いてくれた。
「…………私は、何を……しているのでしょうか」
独りごちて、室内を虚しく飾る家具の数々に手を触れ、しばし彷徨う。
机にサイドテーブル、ドレッサーに鏡台、猫脚の椅子に腰掛けても、落ち着かない様子で。
やがて、ベッドに近づく。
そこは幾つもの思い出が、早くも眠っていた。
このベッドは先代の時代から変わっていない。
先代が崩御し、勇者が現れるまでの間、一時的な代理を務めていた時期も、堕女神がここで眠ったことは無い。
ここに身を沈めたのは、『彼』が現れてから一週間後の、堕落の夜が初めてだった。
やがて、堕女神の身体がそこへ倒れ込んだ。
あの夜の名残を探すように、沈んだ砂粒を掻き集めるように、重厚な寝床へ身を横たえる。
枕に顔を寄せて息を吸い込んでも、勇者の残り香は無い。
出発したその夜には、全てを洗い替えしてしまっていたからだ。
ドレッサーにかかった衣類もまた同様で、幾分の背徳感とともに、その香りを確かめても、まるでしなかった。
そうしているうちに、堕女神は寝台で眠りに落ちてしまった。
枕には一滴分の滲みができていたのを、彼女は、知らずにいる。

259 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/10(火) 02:12:08.04 ID:iyjPN0cAo
****
この地へ訪れて、七日が経ってしまった。
同時に相変わらずの野良仕事を片付けて井戸の整備や柵の修繕、作物の収穫や剪定を行って、
完全に『勘』を取り戻してしまった。
ナイトメアも、あれから夢には出てこないし、ずっと、『馬』の姿のままだ。。
ときおりは何か言いたげな視線を向けてくる事もあるが、怪訝に思って語りかけても返っては来ない。
「おい、行き倒れ」
トマトの支柱の具合を直していると、背後から声がかけられた。
「…………ちょっと、顔貸せよ」
「……今か?」
「他にいつだよ。そいつを区切ったら、リンゴの木に来な」
「ああ……分かった」
いつになく、彼女の口調は静かだ。
それだけに押し殺した迫力が感じられて、心なしか、喉が細く窄まった。
あれから、結局彼女の右脚について訊けてはいない。
たまに顔をしかめて擦ったり、寝室から苦しそうな声が聴こえてくる事がある。
その痛々しさが、また――――踏み越えられない一線を引いていた。
訊くタイミングを逃してしまっていて、今さら訊けば訊いたで、彼女に何をか言われてしまいそうだ。
「遅ェよ」だとか、「気ィ使うんなら最後まで気ィ使ってスルーしろ」だとか、そんな返しをもらうに違いない。

260 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/10(火) 02:13:03.15 ID:iyjPN0cAo
それでも、翼の事だけは訊ねた事がある。
すると、彼女はこう答えた。
「『太陽』に近づきすぎて、溶けちまった」と、唇を吊り上げて笑いながら。
羽ばたく力で飛ぶのではないというから、彼女は片翼だけでも飛べるらしい。
実際に見せてくれたし、その時、彼女の翼は開いていても、鳥のようにはためかせはしなかった。
空は、相変わらずの真夏日だった。
暑い事には変わりなくとも、壮大な風景の開放感のおかげで、城にいた時ほどには感じない。
仕事に区切りをつけて立ち上がると、裏の果樹園へ向かう。
賑わい、競うように身を結ぶ果樹の林を抜け、一本だけぽつんと外れて丘の上に立っている、『結ばない木』を目指す。
しかしそこに、サキュバスCの姿は無かった。
先回りしてしまったかと思い、木陰に腰を下ろして小さな『農園』を見下ろす。
見れば見る程、その佇まいは似ていた。
『勇者』の使命を背負う前、どこにでもある農村の一人として、ささやかで貧しくて、満ち足りた日々を送っていた日の事を。
「何だ、早ェな。もうちょいチンタラこいてくるかと思ったぜ」
がさ、っと葉が揺れる音がして、すぐ近くに重い着地音が聴こえた。

261 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/10(火) 02:13:47.67 ID:iyjPN0cAo
「隠れてたのか。びっくりしたな」
「誰が隠れるって? オイ」
「で、俺に……何か話があるのか」
「…………話があんのはお前の方だ。ココに、何を、しに、来た?」
問い詰める言葉ではあっても、声色に脅しは無い。
呆れたように、ただただ訊ねただけ。
「すまない、長居してしまったみたいだ」
「そういう話じゃねェ。……お前、よく働くし……まぁ、もうちょっといてもいいんだ。だけど、気になるじゃん」
「…………」
「……別に、出てけとか言ってんじゃないんだ。ただ、さ。こんな、何も……ない、場所、っに……!」
「サキュバスC?」
また――――彼女は、右足を押さえて顔を顰めた。
手が置かれた場所は、素肌の太腿ではなく脚甲の膝上。
そこを、まるで生身にそうするように撫でさする。
「…………サキュバスC。……もしかして……その、脚」
呼びかけても、答えは無い。
だがそれでも、言葉を続ける。
「『中身』、無いんじゃないのか」

262 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/10(火) 02:15:58.40 ID:iyjPN0cAo
有り得そうにない、そんな推論を口にすると。
彼女はぎろりとこちらを睨みつけ、押し黙った。
それでも口から苦悶は漏らして、痛みを誤魔化しつづけるように。
さながらそれは、大型獣の発する威嚇だ。
「傷を隠すんなら、包帯か何か巻けばいい。……足音もおかしい。まるで鐘みたいに、やけに響いてた。
 ……流石に、こんな結論を出すのは自信が無かったよ」
「…………チッ」
「……俺も答えるよ。……といっても、俺は隠してなんかなかった。君はただ、『信じなかった』だけさ」
「『王さま』だってか? 冗談も笑えねぇって言ってんだろ?」
「ここに来たのは、手紙をもらったからだ」
ポケットを探り、彼女と出会った朝のように、再び差し出す。
サキュバスCも右足の痛みが治まったのか、今度は、静かにそれを受け取り、広げた。
「執務室で、その地図を見つけた。……堕女神によれば、この場所へ来るようにと書かれていたらしい。
 ……君なら、読めるんだろ?」
問うと、彼女もその場に足を投げ出すように座った。
黙ったまま、彼女は読み終えた『手紙』をこちらへ返す。
「それで、ここで何か見つけたかよ? 『王さま』」
「信じてくれるのか? ……随分、あっさりと」
「イタズラにしちゃ、手が込み過ぎだ。堕女神、なんて名前まで出して。
 よくよく考えると王都の方から来てやがった。……だけどなんで一人よ」
「色々と、事情があってね。それに一人じゃないさ」
「馬はカウントされねェだろ」
「『淫魔』なら俺の民だ」

263 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/10(火) 02:17:04.62 ID:iyjPN0cAo
そう言ってやると、彼女は足を組み換え、その場にアンバランスに胡坐を組んだ。
「……話、戻すわ。…………確かに正解。アタシの脚は、太ももまでしかない。魔術で無理やりくっつけて動かしてるだけさ」
「…………そうか」
「ンな顔すんな、バカ。言っとくけど別にトゲ踏んでねェぞ。もう千年前になるし、キズでもねーよ」
「千年前? ……もしかして」
サキュバスAに以前聞いた、あの話が再生された。
それを言葉に乗せて訊ねようとした時、一瞬早く、彼女の方から答えが来た。
「千年前、人間界に魔王が侵攻したのさ。……で、血迷った魔界のビッチ連中が乱入して、
 人間と組んだってワケ。アタシもそれさ」
「……酷い戦いだった、と聞いた」
「でもまぁ、勝った。アタシらも無事には済まなかったけどさ。…………考えて見りゃ、最強タッグだったよ」
「何?」
「アタシらは呪文や淫魔術で人間を回復できる。人間は精気で淫魔を回復できる。魔力も使い放題の無限ループさ」
「なるほど、勝てたのはそれか。……規模を聞けば聞くほど、勝てる理由が思いつかなかったんだが」
人間と淫魔は、互いを回復しあえた。
食料や十分な睡眠がなくとも、ただ『そう』するだけで、体力魔力を完全に回復できた。
それ故に人間は数億の魔族や空を埋め尽くすドラゴンにも立ち向かえ、力尽きても淫魔の呪文が蘇生させてくれた。

264 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/10(火) 02:18:25.01 ID:iyjPN0cAo
その逆に、淫魔も人間の精によって回復できる。
自然回復さえ追いつかないほどの膨大な魔力を一晩のうちの数分で補充でき、その人数自体も寡ではない。
無限に魔力を回復する魔族が、千、万の援軍として人間についた。
――――当時の人類には、どれほどの救いだったろうか。
「でも、ま。……体力魔力は回復できてもさ。『なくしちまった』モンは生えない。
 ブッ潰されてミンチにされちまったんだよ、アタシの右脚」
こんこんと『右脚』をノックしながら言う彼女の顔は、どこか辛そうに見える。
反響音が、中身が空洞である事を示していた。
その音色は、からからに晴れた青空へと吸い込まれていき――――
緑の丘に吹き抜けた風とのコントラストが、悲壮を掻き立てた。
「んで、たまたま近くに転がってた鎧からいただいた。ほんの少しいじったけどさ」
「……痛いのか?」
「あん?」
「今も。今も……痛むか?」
「今になって、さ。せいぜい継ぎ目が疼く程度だったのによ。……お前が来てから、妙に痛みやがるよ」
「…………」
「つっても、痛ェのは継ぎ目じゃない。……膝、脛、ふくらはぎ、踵に爪先」
「……『幻肢痛』?」
聞いた事があった。
身体のどこかを欠損させた者は、無い部位の痛痒に、悩まされる事があると。
恐らくそれは、思い出せば――――旅の途中、『戦士』に聞いた。
腕を失った兵士が、指の痛みに泣き叫んだと。
腿から下を失った者が、治療を受けている間、脚に寒さを訴えたと。

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