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魔法使い「勇者がどうして『雷』を使えるか、知ってる?」

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Part12
210 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:28:28.09 ID:E/Gr+tAqo
少女「あ、淫魔さん。何やってんですか?」
淫魔「見りゃ分かるだろ?」
少女「……ポイント稼ぎ?」
淫魔「次にナメた口聞いたら卵巣エグるぞ」
少女「冗談ですって。怒らないでください」
淫魔「……で、今日は何だよ?」
少女「……付き合う事になりました」
淫魔「よかったじゃん。……で?」
少女「殺し文句を教えてください。『今日は大丈夫な日なの』って言っても通じませんでした」
淫魔「脳ミソは相変わらずの超排卵日な。ちょっとずつ下から出てんじゃねぇの」
少女「草むしりしながら言いますか、それ」
淫魔「キリがねぇんだよ、オマエも、こっちも」
少女「じゃ、淫魔さんが前に男の人誘った時は、どんなだったんですか?」
淫魔「さぁ。忘れた。何十年前だったかなー……?」
少女「わぁお、ゾンビ羊水」
淫魔「卵巣か? 前歯か? 好きな方選べ。どっちいらない? どっちくれる?」

211 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:29:31.79 ID:E/Gr+tAqo
少女「怒らないでくださいってば。……そういえば、淫魔さんって何歳なんですか?」
淫魔「あ? ……だいたい一万七千ぐらい。数えてねーや、メンドい」
少女「ゾンビっていうかもうミイラ羊水ですね。腐る分も枯れ果ててますね」
淫魔「オマエ、命いらなくなってきてない? アタシがこんな優しい美人じゃなきゃ殺されてんぞ?」
少女「大丈夫です大丈夫です。お姉さん以外にはちゃんと口に気をつけます」
淫魔「アタシにもそうしろやっ!」
少女「もう、さっきから話進んでないですよ」
淫魔「主にオマエのせいでな」
少女「で、どうなんですかね。ド鈍感でも一発で誘える魔法のワードってありません?」
淫魔「……そんなに鈍感なの?」
少女「『好きです』と言えば居眠り、目を瞑って顔近づけたら『熱でもあるの?』ですよ。やってらんねぇよちきしょう」
淫魔「そらヒドい。人格を疑うね」
少女「あ、あの人を悪く言わないでください! 怒りますよ!」
淫魔「うーん、様式美だな、オイ。……ところで」
少女「?」

212 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:30:33.92 ID:E/Gr+tAqo
淫魔「アタシの国の隣にさぁ、とんでもねー種族の『淫魔』が住んでんの、知ってる? ……わきゃねーよな」
少女「どんな種族です?」
淫魔「どいつも見た目ガキで貧弱なんだけどさ、男を命ごとしゃぶり尽くすんで有名なんだよ」
少女「そんなにすごいんですか?」
淫魔「弱っちいけど、手に余るんだわ。しかもそいつら、同族の『淫魔』にさえも手ェ出すんだ。共食いだな」
少女「…………」
淫魔「で、何でそんな事するかっていうと……『弱い』からさ」
少女「え?」
淫魔「そりゃ、人間よりは強いけどさ。寿命も人間とあんま変わんねェの。……種族としてクソ弱いんだ」
草むしりの手を休め、久しぶりに腰を伸ばし、思い切り捻って、解す。
小気味よく関節音が鳴り、吐息が悩ましく漏れた。
淫魔「だから、一人でも多く子供を作らなきゃなんねぇ。ネズミと牛じゃ、産むガキの数が違うだろ?」
少女「なるほど……」
淫魔「……自分でも何言いてぇのか分かんね。つまり、その……別に、来年あたり死ぬって訳でもないんだろ?」
少女「ええ」
淫魔「だったら、ゆっくりでいいんじゃねェーか。……それにさ、マネすんなよ」
少女「え?」

213 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:31:19.30 ID:E/Gr+tAqo
ようやく、淫魔は体を少女へ向けた。
その目は、少女が下げた籠の中にある、赤い林檎に向いた。
尻尾を使ってひょい、と一つかすめ取り、右手に移してから教会の壁にもたれかかる。
淫魔「こういうのって、無いものねだりなんだよ。アタシらからすると、人間が羨ましいね」
スカート部分で林檎を一拭いして、丸かじりにする。
淫魔「……んめーな、コレ。オマエんとこで作ってんの?」
少女「え、ええ……はい」
淫魔「そっか。で、話に戻るけどさ。むしろ、アタシらの真似なんて、しない方がいいじゃん?」
少女「それはどうして……」
淫魔「オイオイ、考えろよ。……『淫魔』ってさ、人間の『精』を搾って生きてるんだよ」
少女「でも、フツーに食べられてるじゃないですか」
淫魔「人間界で活動するために必要なだけ。『魔界』なら別に無くても平気さ。で、つまりこれ」
既に半分ほどを食べ終えた林檎を掲げて見せる。
口の中の果肉を飲み下すと、講釈が続く。
淫魔「アタシらにとっては、『作業』なのさ。林檎を育てて収穫したり、牛の乳搾ったり、解体して肉にしたりとかと同じ。
    ……そこには何も無いの。ただの『作業』、あるいは『娯楽』。その手順を知ってるってだけの話さ」
少女は、何も答えない。
答えないが――――真っすぐに、淫魔の目を見つめる。

214 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:31:55.99 ID:E/Gr+tAqo
淫魔「なぁ。アタシらにとっては『作業』で『遊び』だけど、人間にとっては、違うんだろ? そこには、『あれ』があるはずだ」
少女「『あれ』?」
淫魔「くっせぇ言い方だけどさ。……『愛』っつーのかね。結ばれる事に喜びが伴うなら、それだろ?」
少女「……似合ってませんねぇ」
淫魔「その通り、アタシらに『愛』なんて似合わないのさ。……でもさ、『人間』には、やっぱり似合うよ」
芯を残して食べ終えた林檎から、種の部分を穿って、手元に弄ぶ。
直後、残った芯の部分までも口に放り込んで、かしかしと音を立てて噛み砕き、飲み込んでからなおも続けた。
淫魔「……ちゃんと付き合えよ。ちゃんと手ぇ繋いで、チューしてドキドキして、……その先は、結婚してからにしとけよ」
少女「……はい」
淫魔「よーし。……ところで、この種埋めたら……育つかな?」
少女「何年もかかりますよ?」
淫魔「アタシの歳、聞いたろ? そんなん、瞬きする間に過ぎちまうさ」
少女「それもそうですね。どこに埋めるんですか?」
淫魔「さぁ、どこにしよっかな。……『明日世界が滅ぶとしても、私は――――』」
少女「……?」
淫魔「なんでもねェ。ほらほら戻れ、『人間』。……何かあったら聞いてやるからさ。一生懸命、やってこい」
少女「はい!」
――――――――


215 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:32:46.54 ID:E/Gr+tAqo
時は、琥珀を溶かした夕景へ戻る。
廃教会の三角屋根の上に座る淫魔、その右足に夕日が映る。
真鍮の輝きに、はるか眼下からの祝いの音が乗り、響いた。
妙な疼きは、無い。
その代わりに、胸の中と目頭に、熱い脈動だけがある。
そっぽを向きながらも、その藍玉色の瞳は、村の広場の中心へ向く。
『淫魔』の眼は、村人たちが米粒に見えるようなこの距離でも一人一人の顔を見分けられる。
輪の中心には、聞いた通りの精悍な若者と、物怖じしない『例の少女』がいた。
白いレース編みで飾り立てたドレスは、よく似合っていた。
淫魔2「……貴女ってば、こんな所で何してるの?」
人影は、二つに増えていた。
三角屋根の頂点に爪先で立ち、揃った翼と尾でバランスを取る、『淫魔』がいた。
その目の色は、夕日に置いすがる空の色と、同じだ。
淫魔「……別に。飲み損ねただけだっつの」
淫魔2「そう?」
淫魔「アイツさ、スゲーよな」
淫魔2「?」
淫魔「アタシらが何万年経っても着れないのにさ。アイツ、二十年足らずであっさり着やがった」
淫魔2「……ああ…………」
得心して、彼女も、村で行われている婚礼の儀の中心を見つめた。

216 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:35:20.34 ID:E/Gr+tAqo
淫魔「人間ってさ、綺麗だよな」
淫魔2「そうねぇ」
淫魔「……アタシ達って、何なんだろうなぁ。ただ、クソみてぇにしぶとく長生きするだけでさ」
『淫魔』の時は、永い。
数万年にもなり、男の精を求め、人間の男との子を宿しはしても、添い遂げられる『良人』はいない。
『人間』と同じ時を過ごす事など許されずに、自分は変われず、
あっという間に老いさらばえる相手に先立たれる運命しかない。
瞬きのさらに刹那の時、真似遊び程度にしか、同じ時を歩むことなどできない。
だから、彼女は『これ』を見るのが好きだった。
都で行われる華々しく壮麗な、貴族同士の婚礼も。
素朴な村で行われる、ささやかだが幸せの満ち溢れる、村人の婚礼も。
酒宴も、誓いの口づけも、ブーケを投げる儀式も。
何よりも…………『ドレス』を見るのが、好きでたまらない。
その視線には、羨望と、慈しみと、祝福が確かに注がれていた。
淫魔「……まぁ、機会があっても着ねぇよなぁ。似合わねぇよ、アタシ達には」
同意を求められた二人めの淫魔は答える代わりに、少し困ったように、視線を伏せて苦笑する。
淫魔「そういやオマエ、仕事はどーした?」
淫魔2「休みぐらいあるわよ。飲みに行かないかしら?」
淫魔「『どっち』を?」
淫魔2「そうねぇ……今日は、お酒でしょ? 奢るわよ」

217 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:36:35.79 ID:E/Gr+tAqo
淫魔「いいねぇ。『国』に戻るのも久しぶりだわ」
懐からあの時の林檎の種を取り出し、掌に載せて夕日に差し出し、照らす。
淫魔「……アタシ、不器用なんだよなぁ。枯れるかもな」
思わずぼやいた時、祝福の鐘の音が聴こえた。
今二人の『淫魔』がいる忘れられた廃教会ではなく、村にある、真新しい教会の鐘楼からだ。
そこではきっと、『神さま』が見てくれているはずだ。
淫魔の国には、女性型の『淫魔』のみが住む。
だから――――――『婚礼』が行われる事は、ない。
淫魔2「さぁ、行きましょう? 飲み明かすわよ」
虚空に開いた扉へ、二人目の『淫魔』は音も無く滑り込んでいく。
それから遅れて、数秒。
真鍮の脚の『淫魔』は、灯りがともされた村の広場にいる、一組の男女をもう一度だけ見た。
『彼』と『彼女』は、死が二人を分かつ時まで共にいて、子を為して、数十年の時を共に老いるのだろう。
子の成長を二人で見届け、いつか盃を交わす一時があるのだろうか。
祝福を受ける男女に、彼女が人知れず贈っていた言葉がある。
何百、何千年を数えても、その願いが揺らいだことはない。
そして、今も言葉に乗せる。
淫魔「――――末永く、お幸せに」


218 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:42:42.60 ID:E/Gr+tAqo
勝手ながら、これにて今回のスレを終了とさせていただきます
もしもまとめサイトの方が見てくださっているなら、重ね重ね勝手ながら、私のtwitterをお載せいただけると幸いです。
次回スレの時期を予告等できて、読んでくださっている方々にキーワードを検索させる手間をかけさせなくて済みますので。
それでは、一旦おやすみなさいー

219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/04(火) 04:09:43.34 ID:h+J3IN9+O

まとめ→Twitterからの荒らしが容易に想像できるな
まぁ、この>>1は荒らしをものともしない人だったが

220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/04(火) 08:37:45.09 ID:3y08hc5fO
なんでこんなに素敵な話を書けるのかな…
乙でした!

221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/04(火) 10:51:49.93 ID:lcUfsGuso
GJ!
義足の淫魔と二人目の淫魔は前にも出てきたっけ?

222 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 11:55:36.50 ID:E/Gr+tAqo
>>219
まぁ、殺されるわけじゃないですし問題ないですよ
買いかぶりですってばw
>>220
読んでいただき、ありがとうございました
見え見えの謙遜ですけど、そんな事ないですよー
>>221
今回の淫魔は多分次スレで登場。二人目のはサキュバスAです
短編一つ目のはサキュバスBです

223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/04(火) 18:40:32.49 ID:xVOw0Ags0
お?二人目は『淫魔』にしてくださいの時の、城下視察の際に訪ねた書店の書店主では?
コーヒーの下りもあるし。

224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/04(火) 18:53:35.72 ID:xVOw0Ags0
↑ごめん勘違い。
二人目=短編3つ目の淫魔2の事だったか。
失礼。

227 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/12(水) 00:37:31.28 ID:VUwYRR8Wo
HTML化の依頼を出して参りました。
次回は恐らく七~八月中旬です。
目処がつきましたらtwitterでも報告いたします。
それでは、今回も読んでいただき、ありがとうございました。
また次のスレで会いましょう~

228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/12(水) 00:47:21.57 ID:f7JSMKpXo
乙でした~

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