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魔法使い「勇者がどうして『雷』を使えるか、知ってる?」

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Part11
198 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:12:05.08 ID:E/Gr+tAqo
短編投下します
投下後、一週間ほどしたらHTML依頼を出します
キーワードを完全に無視してスレ立てて申し訳なかった
次回はtwitterの方でも予告するので、許してほしい

199 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:18:04.52 ID:E/Gr+tAqo
夕焼けを受けて琥珀色に染まる、小さな村。
そこには今、収穫の祭りとも違う活気があり、その中心には、花飾りをつけた若い一組の男女がいる。
酒に、焼きたてのパンや新鮮な作物、肉や魚を使った料理が惜しみなく振る舞われ、
それらを囲むように、村人たちが歌い踊り、宴を楽しんでいた。
丘の上の忘れられた教会から、その様子が見下ろせた。
ステンドグラスは割れて鐘楼もとうに朽ち果て、もはや訪れる者などいない。
祭壇の原型は残っているが、もはやそこに教典が置かれる事など、ない。
ここまでもリュートや横笛、鼓の音色は届いて、村人たちの歌声と歓声とが聴こえて、
更に廃教会の侘しさを増すように、虚しく、そして慰めるように響いた。
その屋根の上に、異形の影がひとつ。
片方しかない翼を折りたたみ、屋根の上に腰掛けるように、横目で村の様子を見下ろしている。
その瞳は、輪の中心にいる、『花嫁』を、じっと捉えていた。
正しくは――――白いケープと、レースで飾り立てた、素朴ながらも間違いなく華やかなドレスを。
淫魔「……似合ってんじゃん」
ぽつりと呟くと、彼女は沈みゆく夕日を見つめながら、喜びの音色に、再び耳を澄ませた。

200 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:18:55.25 ID:E/Gr+tAqo
――――――――遡る事、数ヶ月。
少女「き、きゃあぁぁぁぁぁぁ!」
淫魔「……るっせぇな! 何もしやしねーよ」
祭壇の前で、少女は一人の『淫魔』と鉢合わせた。
かつて司教が説教を繰り広げた壇上に、『魔族』が一人。
蒼く輝く肌、山羊の角を生やして、銛先のような尾に、端正だが、どこか危険な香りを湛えた美貌。
針金のようにまっすぐな銀髪はショートカットに整えられており、
蠱惑的な肢体の右足は、反して無骨な真鍮の脚甲に包まれていた。
対角にある左背の翼は失われており、翼は一枚しか残っていない。
胸元から太ももまでを覆う、一つなぎの黒い服は、側面にスリットが入り、動きやすさを重視されている。
彼女は、心底うるさそうに顔をしかめて、不機嫌そうに少女を見つめた。
そうしていると少女も落ち着きを取り戻し、それでも少しだけ怯えながら、向かう淫魔の姿に改めて見入る。
淫魔「…………デケェ声出すのやめろよ。天井高いからクソ響くんだわ」
少女「ご、ごめんなさい……その、あ、え……と……」
淫魔「あぁ? ンだよ、言ってみろ」
少女「えぇと……天使さま、じゃ……無いですよね? どう見ても……」
淫魔「『どう見ても』って何だよ、オイ。こんな天使サマがどこにいるよ? 『淫魔』だ、『淫魔』」
『少女』の姿は、見積もっても15~6歳。
薄汚れたチュニックをまとっているが、中々に器量は良い。
革を張り合わせて作っただけの靴は、草の汁で汚れていた

201 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:19:41.17 ID:E/Gr+tAqo
淫魔「……で、何しに来たんだい? 悪ィけど、ここはもう『カミサマ』は品切れだぜ。他を当たんな」
底意地の悪い笑みを浮かべて、妙に大人げなく、彼女は言った。
見た目だけなら間違いなく美人と呼べるが、少女が訪れてから、悪辣に嘲るような表情を崩していない。
冷笑的に切れ込んだ唇の端からは、鏃のように鋭い歯列が覗かせていた。
淫魔「…………それとも、何? アタシと契約でもすんの? 魂取っちゃうよー?」
少女「あ、あ……ぅ……!」
ことさら脅かすような口調でからかうと、少女は後ずさった。
目の前にいるものが『人間』ではない事を確信して、慄いているようだ。
淫魔は、更に反応を愉しむように、言葉を続けた。
淫魔「悪い子は食べちゃうよ? それとも、魔界に連れていっちゃう?」
少女「いっ……イヤっ……こ、来ないでください!」
翼と尾をわざとらしく蠢かせて迫ると、少女はその場に尻餅をつき、かたかたと震え出す。
淫魔はそれを見て、一瞬表情を曇らせると――――
淫魔「なぁんちゃってさ。魂なんかいらねーよ、バーカ。……ゴメンゴメン、からかいすぎたわ」
ケラケラと笑い、軽い調子で、彼女にあっさりと詫びた。
淫魔「どした? ……アッハハハハ! 腰抜かしてやんの!」
少女「っ……!」
教会に響き渡る哄笑を受けて、少女は、恥ずかしそうに頬を染めるが、腰が落ち着くまでそうしているしかなかった。
彼女が立ち上がる事ができたのは、およそ数分後の事だ。

202 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:20:09.92 ID:E/Gr+tAqo
淫魔「……でさ、さっきも訊いたけどよ。こんなトコに何しに来た?」
一脚だけ残っていた長椅子に隣り合わせに座り、素朴な少女と艶やかな淫魔が言葉を交える。
少女はちょこんと腰掛けているが、淫魔は足まで組み、ふんぞり返る姿勢で座っていた。
少女「……です」
淫魔「んん~? 何よ、聴こえねーよー?」
少女「そ、その……好きな人が、いて……」
淫魔「何何? 聴こえないなー」
少女「で、ですから……好きな人が! いるんです!」
淫魔「そんなデカい声出さなくたって聞こえてるよ? 神様に縁結びのお願いでもしに来たんだろ?」
少女「あなたが訊いたんじゃないですか!?」
淫魔「アハハッ! いいねェいいねェ、そういうの。……でもさ」
少女「?」
淫魔「やっぱり言ったけどよ、ココ、御利益なんかねーよ。アタシが出入りできる時点でアウトだ」
少女「……そうなんですか?」
淫魔「こォんな悪そうな美人が出入りする教会、信じられんの? アタシは無理だね」


203 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:20:45.45 ID:E/Gr+tAqo
少女「……あの……」
淫魔「あー?」
ニヤニヤと笑ったまま、少女へ顔を向ける。
すると、少女は対極的に、いかにも真面目くさった顔で。
少女「わ、私に……男の子を振り向かせる方法、教えてくださいっ!」
他でもない『淫魔』に、そんな事を口走った。
淫魔「お……オイ? ちょっと待てよ」
少女「お願いします!」
淫魔「い、いや……その、聞く相手……絶対違うと思うよ? うん」
少女「え? ……『淫魔』さんなんですよね?」
淫魔「だからそう言ってっだろ」
少女「お願いします! 平均経験人数四ケタ超、のべつまくなしド級人外ビッチ族と見込んでお願いします!」
淫魔「だァれがド級人外ビッチだ!? 恥骨割ってやんぞコラァ!」
少女「『淫魔』と書いてビッチじゃないんですか!? どうか、どうか……!」
淫魔「あのさぁ、わりにそういうの傷付くんだけどさぁ。あー……マジで?」
少女「……本気です」
淫魔「…………まぁ、何だ。詳しく話してみなよ」

204 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:22:01.80 ID:E/Gr+tAqo
少女はこの丘の下にある村で暮らしており、
どこにでもあるような農家の娘だが、今、村長の一人息子に恋をしている。
活力にあふれた快活で精悍な若者で、村の娘たちの憧れの的であり、大人達からも信頼が厚い。
農村ゆえに身分の差などそうないが、恋敵が最大の障害だという。
淫魔「……で、オマエ何が問題なのよ。フツーに仲良くなりゃいいだろ」
少女「だ、だって……恥ずかしくて、話しかけられ……」
淫魔「さっき『魔族』相手にムチャクチャ言ってたろ!? その度胸はどした!?」
少女「『魔族』は別ですよ! 牛とか豚と同じです!」
淫魔「…………オマエ、ブン殴っていい? グーで。鼻っ面にさ。ガッツリ前歯いっとくか?」
少女「それは駄目です。……で、どうすればいいんですか?」
淫魔「とりあえず、何でもいいから話かけとけよ。まず慣れろや」
少女「えー……それより、家の鍵開けて侵入して既成事実作った方が早くないですか? 教えてくださいよー」
淫魔「別にアタシらはピッキングして入ってる訳じゃねぇぞ! 既成事実とか言うな!」
少女「じゃ、惚れ薬の作り方教えてくださいよ。イモリの黒焼きとか使うんですよね?」
淫魔「さっきから飛び道具ばっか考えんなっ! 地道に行け、地道に! 普通にやれ!」
少女「ですから、その『普通』が分かんないんですよ」

205 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:22:42.02 ID:E/Gr+tAqo
淫魔「もう少し話してみろ、ソイツの事。趣味とか色々あんだろ?」
少女「そうですねぇ。……天気のいい日は、釣りとかしてるみたいです」
淫魔「釣り、ねぇ……イイじゃん。そっから話合わせていったらいんじゃね?」
少女「……なるほど、夜釣りに誘って……乗じる訳ですね。っていうか上に乗る訳ですね」
淫魔「だからっ! なんで! そっちに! 行くんだよ!?」
少女「あなたこそ、何『淫魔』のクセに普通にアドバイスしてるんです。やる気あるんですか? あーあ、ガッカリです」
淫魔「…………帰っていい?」
少女「ダメです」
淫魔「はぁ……」
少女「でも、分かりました。まず、普通に話せるようになる事からですね」
淫魔「だからそう言ってんだろ!」
少女「分かりました、ありがとうございます。……それでは、もう日が沈むので失礼しますね」
それだけ言うと、返事も待たずに、さっさと廃教会から出て行った。
差し込む日差しはいつの間にか橙色に変わっており、入り口から一直線に差し込んだ光が、祭壇を照らした。
淫魔「すっげー疲れた。……寝たい…………」

206 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:23:41.90 ID:E/Gr+tAqo
彼女も立ち上がると、真鍮の右足をがしゃがしゃと鳴らしながら、教会の奥へ引っ込んでいく。
そこには小部屋があり、机に椅子、ささやかなベッドが置かれていた。
シーツだけは一応真新しいものに替えているが、埃っぽさは残る。
投げ出すように横になると、ベッドがみしみしと軋んで、亀裂の入る音さえも聞こえた。
この廃教会を彼女が見つけて、一週間ほどになる。
建っている丘の上からの遠景が気に入って滞在しているが、そろそろ、『腹』が減ってきた頃合いだ。
丘の下にある海に面した村の住民から適当に見繕って『精』を得ようかと思っていたら、少女がやってきた。
しかも――――目をつけていた村長の息子に、恋をしているという。
淫魔「……あーもう……あのムカつくガキ、絶対また来んだろ……」
心底疲れた声で、ぼやく。
右足が、疼いた。
黄金に輝く脚甲に、『中身』はない。
叩けば空洞音がするし、事実、太ももの半ばまでしか入っていない。
その昔人間界で起こった争いに参じて、失った脚の代用として甲冑からもぎ取り、魔術で接合したからだ。
膝も、爪先も、足首も、慣れ親しんだ自分の脚のように動かせるし、生身さながらの触覚もある。
『人間』と長く話すと、その繋ぎ目が疼く事がある。
それが何故なのかは彼女には分からないが、考える事さえも、今は怠い。
しばらく、漆喰の剥がれた天井を眺めていると……唐突に、瞼が落ちた。
そのまま、『淫魔』は夢の中へ。

207 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:24:38.41 ID:E/Gr+tAqo
更に、一週間後。
少女「や、やりました! 話せるようになりましたよ!」
早朝から、少女が押しかけてきた。
教会の扉を開けてすぐ、響き渡る大声で、まるで叩き起こすように興奮しながら叫ぶ。
淫魔「おー……良かったじゃんよ」
目を擦りながら小部屋から礼拝堂に出て行くと、少女はまだ寝巻のまま。
淫魔の姿を見つけると、途端に走り寄ってきて、ぶちかますような勢いで抱き着いてくる。
空っぽの腹に打撃として重く響いたが、不思議と、嫌ではない。
淫魔「わかった、わかったってば。……後は勢いで行けっだろ。頑張れ」
少女「分かりました。……で、押し倒すのはいつ頃がいいですかね?」
淫魔「一旦そっから離れろや」
少女「…………やっぱりこういうの、まだるっこしいですよ。既成事実作りましょーよ」
淫魔「オマエ、実はアタシと同族だったりしない?」
少女「いえいえ、人類ですよ」

208 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:26:12.74 ID:E/Gr+tAqo
淫魔「……とりあえず、まず仲良くなって『告白』すんじゃねーの?」
少女「分かりました。『私の処女を、あなたので開通してください』って言えばいいんですね」
淫魔「違う! 普通に『好きです』でいいんだよっ!」
少女「そ、そんな……恥ずかしくて言えませんっ……!」
淫魔「どの口で言ってんだ」
少女「『好きです』なんて……そんな……」
淫魔「じゃあ、言わなきゃいいだろ」
少女「……でも、『好き』なんですよ」
淫魔「じゃあ言え」
少女「もう……どっちなんですか。ハッキリしてくださいよ、まったく。使えねーです」
淫魔「奇遇だね、アタシも同じ事言いたいわ」
少女「あらあら、気が合いますねぇ」
淫魔「……ともかく、帰れよ。着替えて、時間あったらまた今度来いや。アタシももうちょい寝たい」
少女「はーい。……それじゃ、失礼します」

209 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/06/04(火) 03:27:35.43 ID:E/Gr+tAqo
更に、一ヶ月。
夏の暑い盛りを越えた昼下がり、廃教会の裏手にある小さな墓地に、淫魔はいた。
苔生し、欠けた墓石はもはや銘すら読み取れない。
数にして十基足らずのそれらは、加えて伸び放題の草で覆い隠されていた。
淫魔「……ったく、『人間』ってヤツぁよ」
ぶつくさ文句を言いながら、彼女は雑草を一本一本、手で毟り取り続ける。
当然ながら鎌の類などないため、地道な手作業だ。
既に三基ほどの墓石の周りはすっきりとして、午後の日差しを照り返していた。
淫魔「ま、そのうち掃除してやるからさ。今は日向ぼっこでもしときな」
しゃがみ込んだまま愛おしむように置き去りの墓石へ語りかけ、額の汗を拭って再び作業に戻ること、数分。
少女「淫魔さーん! 見せかけビッチのお姉さーーん!!」
淫魔「……返事、したくねェ」
少女の呼ぶ声が、礼拝堂の中から、裏手まで……割れたステンドグラスを越えて、聞こえてきた。
少女「あれー? いないんですかー? おーーい! 清純ぶりっ子くそ人外ビッチさーーん!」
淫魔「単なる悪口じゃねェかっ!」
少女「やっぱりいましたね! お外ですかー? 今行きます!」

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