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堕女神「私を、『淫魔』にしてください」

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Part14
301 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:25:59.48 ID:DU8XxeDfo
胸中での叫びが、あふれて声となった時。
声とともに、熱い血の塊が喉から流れ落ちた。
細い体の血潮を全て吐き尽くすかのように、緑の丘を余り無く真っ赤に染め抜くほどの血が吐かれた。
次に彼女を襲ったのは、髪を力任せに毟り取られるような痛み。
吐き尽くされない血反吐が邪魔をし、叫ぶ事さえできない。
美しかった金髪は根元から全て抜け落ち、直後、闇のように黒い髪が、先ほど以上の痛みとともに、ぞろぞろと生えてきた。
激痛と毒の針が皮膚を突き破るような痛みは、人であれば、狂気に逃げ込む事もできたであろう。
しかし、"神"の身体は、死ぬことも、狂う事もままならない。
ようやく吐血が止まり、頭部の痛みが治まれば、次は、爪。
桃色の爪は、すべて苦痛とともに根元から腐り落ちた。
代わりに生えてきたのは、凶鳥の鉤爪のように、真っ黒な爪。
"彼女"は、自らの身体が作り変えられていくのを感じた。
"女神"の身体は、"女神"ではなくなってきていた。
そして、苦痛の進軍の最後に――――眼球が溶け落ちた。
空っぽの眼窩に生まれたのは、黒水晶のような、新しい眼。
中心には血の色が集まり、漆黒と真紅の眼球が生じた。
最後に……黒い眼球のその中心にある真紅の領域に細い切れ込みが入り、そこでようやく、彼女は視界を取り戻す事ができた。
苦痛の尾を引く体を引きずり、川へと這い寄り、そこでようやく、水面にうつった自らの姿を、"彼女"は見た。
おぞましく変化した、"女神"であった者の姿を。
――――――――

302 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:26:26.33 ID:DU8XxeDfo
時は、再び淫魔の城、肖像画の間に戻る。
堕女神「……私は、あの時に"愛の女神"を辞めました。私に……"愛"を司る資格など、もはや無かったのです」
勇者「…………」
堕女神「私は、人間達を救えませんでした。……世界が砕かれるその瞬間を、指をくわえて見ている……しか……」
勇者「……堕女神」
堕女神「なのに。……なのに……何故、ですか」
勇者「え……?」
堕女神「……何故、現れてしまったのですか」
震え、定まらない声質が一転し、勇者へと叩きつけられる。
力任せにではなく、冷静でもなく、弱々しく泣き伏せる子供の手のように、勇者には感じられた。
堕女神「……陛下を、"人間"を見ていると……」
伏せられた顔は、彼には見えない。
堕女神「あの晩の無力を……思い出して、しまいます」

303 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:26:53.83 ID:DU8XxeDfo
今でも、彼女は思い出す。
何十万年を数えようとも、あの晩の無力感と、雨の中の堕天の苦痛を。
人間を愛していたがために、"愛の女神"でいられなくなった。
"愛の女神"である事をやめてしまえば、惨めな無力感を味わう事もない、そう思っていた。
しかし、終わらない。
ただ、募っただけだった。
――――――人間の世界を一度終わらせてしまった事を、今でも、気負っていた。
堕女神「………申し訳、ございません。話しすぎてしまいました」
勇者「一つ、訊いていいかな」
堕女神「何なりと」
勇者「……今でも、人間達を愛しているのか?」
堕女神「…………分かりません」
唇を噛み締めるとともに、彼女の手がぎゅっと閉じられる。
答えを絞り出すかのように、しばしそうしたまま、時が過ぎる。
堕女神「……私には、もう……何も、分かりません」
勇者「……話に戻らせてくれ。その後、君はどうなったんだ」
堕女神「………覚えていません」
勇者「覚えていない……?」
堕女神「私は、神々の国には戻れませんでした。そして……人間界にいる事もまた、辛かったのです」

304 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:27:20.27 ID:DU8XxeDfo
――――――――
どれだけの時が過ぎたか、分からない。
気付けば、その不吉な"闇の女神"は、魔界を歩いていた。
幽鬼のごとく、いくつもの次元を彷徨った。
そして、行き着いたのは――――かつての人間界にも似た、魔界の次元。
暖かな空気と豊かな四季、すでに帰れない故郷にも似た、美しく囀る小鳥が飛び交う世界。
彼女はそこが最初、「魔界」であると気付かなかったほどに美しかった。
澱んだ肺が浄化されるような、爽やかな緑の香りが鼻腔をくすぐる。
木々から吐き出された新鮮な空気は、彷徨の中で吸った魔界の瘴気とは似ても似つかない。
整備された道を歩き続けていると、視界が開けた彼方に、都市が見えた。
その中心には遠目にも見て取れるほど巨大な建造物があり、更に見ると、高い壁のようなものに都市全体が囲まれていた。
自然と、足はそちらへ向いていた。
この世界には、果たして何があるのか。
あの建物は、いったい何なのか。
そもそも、ここは……本当に、魔界なのか。
疲れ切った足は、何度ももつれて転んだ。
消耗しきった体には、せめて頭をかばう事しか許されていない。
いや、疲れていたのは、体ではない。
心が――――魂が、擦り減り、今にも千切れそうだった。
そして、壁の間近に辿り着き、その根元に大きな扉がある事を知った時。
張り詰めていた糸を切られるように、その場に彼女の身体は、崩れ落ちた。
遠ざかる意識の中で、重く響く音を彼女は聞いた。

305 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:27:55.71 ID:DU8XxeDfo
目が覚めると、久しぶりに、「天井」が見えた。
高い石造りの、冷たく荘厳な、最後に見た天井とは違う。
きれいな木目の刻まれた、低い天井。
彼女の体を包むのは、暖かな毛布と、起毛のシーツの温もり。
初めての感触だった。
冷え切った体を温め、その体温が二つの布を温め、体を優しく包んでくれている。
体を起こし、今その身が置かれた狭い空間を見渡す。
彼女が今横たわっている台は、その中心に、頭側を壁に接して配置されている。
右側数歩の所には木の扉があり、手が届く距離には、引き出し付の小さなテーブルがある。
左を見れば、透明の板が嵌まった木枠があり、そこから、外の風景が覗けた。
見えるのは、別の建物の石壁と屋根。
それとともに、外から、活気のある声が聞こえていた。
透明板の嵌まった枠へと近づこうと立ち上がった時、扉の向こうから足音が聞こえた。
木製の床がぎしぎしと音を立て、とん、とんという足音と交ざり合い、近づいてくる。
慌てて寝床へ戻り、足音の主を待つ。
扉が内側に開くと、すぐに、その足音の正体が見えた。
その、姿は――――
外観は人間と酷似した、翼と青い肌を持つ、若い女性のものだった。


306 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:28:21.47 ID:DU8XxeDfo
???「……あら、目が覚めたのね。よかった」
微笑みながら近づく青い肌の女性は、桶の載った盆を持っていた。
見れば見る程に、彼女の細部は、人間とは違っており―――そして、削ぎ落とせば限りなく人間に近かった。
頭部に生じた二つの角、コウモリの翼、先端が鏃のように尖った、床につくほど長い尻尾。
青い肌と、そして首元に刻まれた赤く光る紋様。
太腿から胸までを隠す一つなぎの紫の服は、それでも彼女の肢体の悩ましさを押さえていない。
怖くは、なかった。
むしろ、興味さえ湧いた。
彼女が、果たして何者なのか。
ここは、何なのか。
???「…ごめんなさいね。勝手に服、脱がせちゃったけど……大丈夫、何もしてないわ」
言われて初めて、"闇の女神"は気付く。
今、自分が――何一つ、纏ってなどいない事に。
慌てて毛布を手繰り寄せ、胸元までを覆い隠すと、訪れた女性は苦笑を漏らしてその盆をベッド脇のテーブルに置いた。
???「…私は、この宿屋の主よ。昨日のお昼、あなたが倒れてるのを偶然見つけて、連れて来たの」
彼女の尻尾が木製の簡素な椅子を引き寄せ、腰掛けた。
宿屋主「それで、あなたは? 見たところ、サキュバスじゃないみたいだけど………堕天使? それなら、羽があるはずだから……違うか」

307 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:29:02.50 ID:DU8XxeDfo
聞き慣れない言葉が飛び出て、思わず目が丸くなった。
その様子を酌んでくれたのか、眼前の"サキュバス"は、更に言葉を付け足す。
宿屋主「…ひょっとして、サキュバスを見るの、初めて?」
声が出ない代わりに、こくり、と首が前に倒れる。
宿屋主「……この国は、『淫魔の国』よ。私の種族が一番多いけど、他にも色々いるわよ」
そして、彼女は様々な種族の名前を上げて聞かせてくれた。
人間と神、その二つしか知らない身には、分からない事ばかりだった。
途中で何度も彼女は補足を挟みながら、この国について教えてくれた。
気の遠くなるほど昔、最初の「人間」が生み出されて数日経った頃に、「最初の女」が魔界へと追放された事。
彼女は幾つもの魔族と交わり、数々の「淫魔」を生み出した事。
そしてこの国が建国されると、女性型の魔物、堕天した神々や異国の精霊や天上の存在。
そういった者達が寄り集まって来て、いまやこの国は、魔族にさえも畏怖されるほどの大国へと成長した事。
宿屋主「で、何か質問とかあるかしら」
今度は、首を横に力無く振るう。
声は出ず、仕草もうまく力が籠もらない。
それでも回復し、受け答えをできる事に、彼女は安堵した様子だった。
宿屋主「待っててね、食べ物を持ってくるから。最初はスープからにしましょう」
そう言うと彼女は扉を出て、しばらくしてから、今度はスープの載った皿を盆に載せて運んできた。
最初の一口をほんの少しだけ、冷ましながら口中に流し入れる。
ほのかに甘い香りの中に、塩気も含んだ液体を、ごくりと喉を鳴らして、飲み込む。
―――――ただ、それだけの事なのに。
―――――飲み込んだスープのひと口と引き換えるように、涙がこぼれた。

308 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:29:32.53 ID:DU8XxeDfo
その後、彼女の厚意に甘えて宿屋で何日かを過ごした。
数日して食事に胃が慣れて、ようやくパンを食べられるようになった頃、ようやく、声の出し方を思い出せた。
さらに数日後の朝、訪ねてくる者があった。
彼女の「宿」を、ではなく。
淫魔の国へ行き倒れ、迷い込んだ"元女神"へ。
宿屋の主人以外の淫魔を見るのは、初めてだった。
初めて見た時―――――直感した。
この客人こそが、「淫魔の国」を治める者だと。
古びた扉を押し開け、さしたる足音も立てずに、彼女は現れた。
色を失ったかのように美しい、夜空の大河にも似た髪。
同じく、真っ白で、青い血管までも透けて見える肌。
反して唇の血色は良く、その瞳はどこまでも柔らかで、磨き上げられた鏡のような、美しい光が宿っていた。
角は、前髪をかき分けて一角の神馬のように立っている。
そして、彼女は名乗った。
自分は、淫魔の国を治める……「女王」だと。

309 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:30:11.17 ID:DU8XxeDfo
淫魔女王「……お初にお目にかかります。城壁の外に倒れていたとのことですが……どちらから?」
「……もう、分かりません」
淫魔女王「…お名前を頂いてもよろしいでしょうか?」
「……ありません。なくなってしまいました」
淫魔女王「まぁ……。……しつこいと思われるでしょうが、貴女は……何という種族でしょうか」
「………『女神』だった事があります」
淫魔女王「そうなのですか。……色々と探って申し訳ありませんでした。貴女に、ひとつお話があって参りました」
「…何でしょうか?」
淫魔女王「……私のお城へ、参りませんか?」
「え?」
淫魔女王「………この国の、住民として。私に、力を貸していただけないでしょうか」
「……私、が………?」
淫魔女王「ええ」
「…………」
――――――――――

310 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:30:38.30 ID:DU8XxeDfo
勇者「…………」
堕女神「そして私は、女王陛下とともに、この城へ。………使用人として」
そう言って、彼女は、体ごと肖像画の前へ向き直る。
背筋を正し、身の上を話す中で潤んだ瞳で、肖像画に眠る「先代の女王」の瞳を見つめて。
堕女神「城での暮らしは、上手くいかない事ばかりでした。庭の手入れも、洗濯も、埃をはたき落とすだけの事でさえも私は不器用で」
堕女神「でも、私は、それを通して少しずつ……少しずつ、自らを取り戻し。……いや、形作っていく事ができました」
堕女神「……思い出深い事はあれど、全てを語り尽くす事は、到底できません」
目を閉じるたびに、彼女は思い出すのだろう。
女王に尽くした、あの遠き永き日々。
我武者羅に積み重ねていった、第二の生き方を培う日々を。
勇者「……人ではなく、淫魔達を見守る事に生きる意味を?」
堕女神「……女神が『人』を見守るというのなら、堕ちた女神が、『堕ちた人』を見守る事があっても良い筈です」
勇者「…………」
堕女神「私の話は、これにて終わります。………陛下、どうか……どうか、教えてください」
堕女神「……あなたは――――――」
問いかけを再び発しようとした時、入り口の扉が重い音を立てて開かれた。

311 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:31:11.27 ID:DU8XxeDfo
メイド「失礼いたします、こちらへいらっしゃると聞いたもので……」
堕女神「何事か起こりましたか?」
メイド「……本日の夜のメインに届く筈の肉が、手違いで遅れております。どういたしましょう」
堕女神「……すぐ参ります。厨房でお待ちください」
メイド「はい、かしこまりました」
堕女神「………申し訳ありません、陛下。残念ですが―――」
勇者「……夜だ」
堕女神「はい…?」
勇者「今日の夜、全てを話す。……俺が、何者なのか」
堕女神「……かしこまりました」
勇者「少し……頭の中を整理したくもあるんだ」
堕女神「はい。……それでは陛下、失礼いたします」

312 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:31:44.13 ID:DU8XxeDfo
雨は、降り続いていた。
勢いは少し弱まっているものの、尚も、止む気配は覗かせない。
晩餐は、喉を通らなかった。
空腹の筈の胃が、縮まっているようだった。
残さず平らげはできても、前菜も、主菜も、デザートも、素通りするようだった。
あまりにも、哀しい物語が――――彼女の影には、あったのだ。
彼女に、どう答えればよいのか。
人間を救えずに、哀しみと絶望のうちに世界を去った、非業の女神に。
人間を救ったが、それでも居場所を失って世界を去った、『勇者』が。
何をどう答えれば良いのか。
正体を明かせば、彼女の傷を広げるだけではないのか。
人間を救っても、結局世界は救えなかった。
人間達は争いに溺れて、結局は、憎み合う道を選んでいた。
雨足が再び強まった頃、彼女は、勇者の寝室を訪れた。
明かりを最低限まで落とした室内で窓辺に佇み、外を眺めていると、風雨の音に負けないやや強めのノックがされた。
普段なら声だけで答えたが、今日は、自ら扉を開けて――――訪れた彼女を、迎え入れた。

313 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:32:14.30 ID:DU8XxeDfo
勇者「……早いね」
堕女神「陛下をお待たせしてはと思いまして。……私も、逸っているのかもしれません」
勇者「それは?」
堕女神「……食後酒をお飲みにならなかったので、代わりにとお持ちしました」
彼女が持ってきた円形の盆の上には、細長い脚付きのグラスが一つと、霜のおりた酒瓶が載っている。
勇者「…それじゃ、貰おうかな。入ってくれ」
彼女を室内に招き入れると、真っ直ぐにベッド脇のテーブルへと向かい、盆を置く。
そのまま手慣れた動作でゆっくりと、音も無くコルクを抜き、グラスへと静かに注いだ。
グラスの縁から流れ込むように、黄金の液体が細かな泡とともに満ちていく。
七割ほどまで注がれると、彼女は勇者にグラスを差し出した。
それを手に取り、まずは一口、口をつける。
堕女神「……お口に合いましたでしょうか?」
勇者「うん。……ほら、堕女神も」
言うと、そのグラスを彼女へと返す。
堕女神「私……ですか?」
勇者「無理にとは言わない。……一人で味わうのも、気が引けるから」

314 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:32:44.89 ID:DU8XxeDfo
堕女神「……かしこまりました、それでは……」
返杯を受け取ろうと伸びた白い手が、稲光で照らされる。
とっさに彼女が身を強張らせながら手を引っ込め、グラスに指先がかすり、液面が僅かに揺れた。
雷鳴が聞こえたのは、その三秒ほど後。
堕女神「あ……」
勇者「……これは、まだしばらくは降るかな」
堕女神「申し訳ありません、陛下」
勇者「……雷は、苦手なのか?」
堕女神「………はい、その通りです」
勇者「まぁ、雷が得意な奴なんてのもいないか」
堕女神「…陛下は」
勇者「ん」
堕女神「………陛下は、『得意』なのでは?」
勇者「ある意味では」

315 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:33:13.96 ID:DU8XxeDfo
彼女は窓辺へと一度近寄り、そして、数歩ほど下がり、外を見つめた。
窓に叩き付ける雨粒、遠くから聞こえる轟きと、彼方の山脈に走る稲妻が、終末の風景にも似たものを演出する。
――――遠い昔、実際に見たものを。
堕女神「……陛下は、何故……『雷』を……」
勇者「…使えるのか、か」
差し出したままだったグラスを再び引き寄せ、一気に半分ほどを空にする。
喉の奥にしゅわしゅわと泡が弾けて、奥に忍んだ爽やかな酸味が、甘い後味とともに喉を滑り降りた。
堕女神「……不思議だった事がございます」
勇者に背を向け、窓の外を眺めながら、彼女は独白するように語り始めた。
堕女神「………陛下の『雷』は、怖くはありませんでした」
勇者「え……?」
堕女神「…分からないのです。何故なのか」
勇者「…………」
堕女神「……陛下は、何者だったのですか?」
再びの問いかけに、勇者はグラスを持ったまま、項垂れながらベッドに腰を下ろす。
窓の外を見たままの彼女に背中合わせになるような形で、応えるように彼もまた独白する。

316 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:33:52.07 ID:DU8XxeDfo
かつて人間界で、何も知らない子供だった頃の事を。
長閑な農村で、牛の世話をしたり、薪を割ったり、小さな畑を耕していた幼少の頃を。
十世帯ほどしかないがその全てが顔見知りで、暖かく素朴な、ちっぽけで穏やかな村だった。
牛のお産の手助けをした事、薪割りを父親がなかなかやらせてくれなかった事。
村の教会の裏にある白い花畑で、村の子供達と遊んだ事。
晩には、家族とともに食べる焼きたてのパンと、暖かく湯気を立てる野菜のスープが美味しかった事。
屋根裏の小さな子供部屋の天窓から望む星空は、どれだけ見ていても飽きなかったこと。
夜空を眺めて夜更かしをしていると、たまに母が温めてくれたミルクの味が、今でも忘れられていない事。
父が語り聞かせてくれた「勇者」の童話に、心を昂らせていた事。
――――そして、ある晩……夢に「女神」が現れ、力を授かった事を。
堕女神「……『女神』と申されましたか?」
勇者「ああ。……目が覚めれば、俺は『雷』を操れるようになっていたのさ」
堕女神「…………つまり…」
勇者「…雷を操り、歴戦の将軍より力強く、影に溶ける暗殺者より速く、凶悪な魔物を物ともしない。そんな存在に、翌朝にはなっていた」
堕女神「そんな人間が、いるのですか?」
勇者「ああ」
勇者「――――『勇者』と呼ばれる存在に、俺はなっていたんだ」

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