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勇者「淫魔の国の王になったわけだが」
ワルキューレ編

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Part3
49 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/03/27(火) 02:40:44.77 ID:h7sEMOtHo
中庭にて
堕女神「また脅したのですか?」
勇者「ああ、つい面白くて。初々しくて貴重な反応だったぞ」
堕女神「……」
勇者「どうした?」
堕女神「あ、いえ……何でもありません」
勇者「……心配しなくてもいい」
堕女神「はい?」
勇者「お前に飽きた事などない。……だから、拗ねるな」
堕女神「拗ねてなど……」
勇者「……まぁ、それでもいい。ところで、今更だが」
堕女神「…はい、何でしょうか」
勇者「『ワルキューレ』、というのは、その、何だ?……どうも耳慣れなくてさ」

50 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/03/27(火) 02:42:27.40 ID:h7sEMOtHo
堕女神「我が国より、数種のモンスターの群生地を挟んで北方に位置する国。彼女らは、自国をヴァルハラと呼びます」
勇者「ヴァルハラ?」
堕女神「人界で果てた戦士の魂が集う土地、とも呼び習わします。『主神』とも呼ばれる国王が治めていると」
勇者「ふむ」
堕女神「性質としては、我が国の真逆です。彼女らは、美しさ、強さ、処女性を備えた『戦乙女』です」
勇者「なるほど、確かに逆だな」
堕女神「これまでにも小競り合いを起こした事はございますが、斥候にしても二人というのは……」
勇者「ちなみに……『主神』ってどんな奴だ?」
堕女神「詳しくは分かりません。ただ、途轍もなく豪放な性質だと」
勇者「へぇ。会ってみたいな、是非とも」
堕女神「ともあれ、ワルキューレを捕まえられたのは僥倖。この機会に、彼女からたっぷりと情報を引き出しましょう」
勇者「はいはい」
堕女神「……話は変わりますが、夕餉の御所望などございますか?」
勇者「ああ。……今日は、何が入ってる?」
堕女神「上質の鹿肉が。ローストしてタイムを添えると、格別かと」
勇者「じゃ、それを」
堕女神「はい、畏まりました」

51 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/03/27(火) 02:43:02.52 ID:h7sEMOtHo

身に刺さるような寝藁の上、惰眠を貪る「彼女」。
その寝顔は、囚われの身とは思えぬほどに、美しく見える。
ブロンドの髪はゆるいウェーブを描き、乱れて。
すぅすぅと寝息を立てる姿は、最低限に身を隠すだけのボロ布をまとって、儚げに美しい。
ばしゃぁ、っと、サキュバスAは提げたバケツから水をかける。
瞬間、ワルキューレは身を切るような冷たさに覚醒して、格子から反対側の壁へと飛び起きて逃避した。
サキュバスA「……お目覚め?捕虜の分際で、ずいぶんとよくお眠りでしたわね」
痛烈な言葉に、彼女は言い返す事ができない。
眠っている所に、冷え切った水を浴びせられたのだから。
ただでさえ寒い地下牢に、気化した体温が失せていく。
抗議の声すら上げられず、遂にはかたかたと震えだす。
サキュバスA「さて、お楽しみの時間ですわ」
がちゃがちゃと金属音を立て、鉄格子の錠前が開けられ、格子扉も開放された。
逃げるなら、今だろう。
しかし――冷え切った地下室で冷水を浴びせられた体は、言う事を聞いてくれない。
体温を少しでも上げるために震え続け、ろくに抵抗もできないまま、独房から引きずり出される。

52 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/03/27(火) 02:43:28.16 ID:h7sEMOtHo
気付けば、昨日と同じように、天井の滑車から下がるフックに吊り下げられていた。
伸びきった体は尋常ではない寒さに震え、少しでも体温を上げようと試みる。
サキュバスA「どうかしら?気が変わった?」
ワルキューレ「っふ……うぅ……ん……!」
サキュバスA「……返事になってませんわ。それとも、暖めてほしいのかしら?」
机の上から、焼き鏝を手に取る。
先端には、とてもその意味を述べられないような言葉が彫られている。
サキュバスAが先端に左手を翳すと、すぐに、真っ赤に焼け付くような熱が灯った。
サキュバスA「……うふふ。どこがいいかしら?……胸?あぁ、それともお尻?よく鍛えられたお腹もいいですわね」
わざとらしく迷いながら、焼き鏝の先を迷わせる。
10cmほど離れた状態でもなお、焼け付くような熱を感じる。
もし押し当てられてしまったら、豚のように情けなく悲鳴を上げるに違いない。
ワルキューレ「うっ……あぁ……熱……!止め……止めろ……!」
サキュバスA「あら?」
彼女は、見逃さない。
寒さに震えたまま、それでも一線を越えまいと強い語調を保つ言葉。
ワルキューレを突き動かすのは、単なる意地だ。
完全にイニシアチブを握られた今では、どのような言葉も意味を果たさないのに。
サキュバスA「……『やめてください、お願いします』でしょう?」

53 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/03/27(火) 02:44:34.71 ID:h7sEMOtHo
試すような言葉を投げかけ、すぐにサキュバスAの眼は嗜虐を帯びて輝く。
真っ赤に焼けた鏝の先端は、ワルキューレの胸から下腹部にかけて彷徨う。
その度に反応を示し、明確な恐怖に瞳孔が広がっている。
今、彼女は何に震えているのか。
冷えた地下室で、それでも寝ているところに冷水を浴びせられた事にか。
あるいは、恐ろしい未来を予見しての、魂の震えか。
後者であろう、と心を浮き立たせながら、なおも楽しむように淫魔は続ける。
サキュバスA「……ほらほら、押し付けちゃいますわよ?……内腿、というのもいいですわね。
      神経が集まっていて、きっと凄く熱く感じると思いますわ。それとも、……顔?」
振れ幅が大きくなり、太ももから顔まで、焼き鏝が揺れ動く。
顔に近づいた瞬間、ワルキューレは可能な限り遠ざかろうと顔を動かす。
熱という根源的な恐怖は、例えワルキューレだろうと例外なく、反射の運動を取らせる。
サキュバスA「…………仕方ないですわ。お腹にしましょう。強情な貴女が悪いのよ?」
ワルキューレ「ふん。……好きに……する…が、いい。例え全身を焼かれようと、淫魔に屈するものか」
サキュバスA「気に入りましたわ。……でも、ただそうするだけじゃ面白くありませんわね」
ぱちん、とサキュバスAが左手の指を鳴らす。
弾けるような警戒な音の直後、虚空に一匹のコウモリが現れる。
魔力で形作られたコウモリの似姿であり、足は存在せず、翼と胴体だけというフォルムだ。
しかしその動きは実際のものと変わらず、暗い拷問部屋を所狭しと飛び回る。
不規則に飛んでいたそれはおもむろに目標を据えて飛来し、ワルキューレの目元に翼で目隠しをするように張り付く。
ワルキューレ「うっ……!な、何をする!?」
ぶんぶんと顔を動かしても、コウモリは剥がれる様子が無い。
両手を頭上で拘束され、顔の近くにある上腕に押し付けて抵抗しても無駄だった。


54 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/03/27(火) 02:45:18.78 ID:h7sEMOtHo
サキュバスA「心配なさらないで。……単なる目隠しですわ」
再び、ぱちんと指を鳴らす。
すると、魔力のコウモリが実体化し、アイマスクとなって顕現した。
ぴったりと張り付き、ワルキューレの視界を奪うそれは、もはやどうやって外すのかさえ分からない。
一体化したように、コウモリの形のアイマスクが顔の上半分に張り付いているのだ。
ワルキューレ「くそっ……外せ!外せぇ!」
サキュバスA「嫌よ。だって、こんなにお似合いなんですもの。それはそうと」
忘れていたのか、とでも言いたげに焼き鏝を顔の近くに持っていく。
押し付けてしまわないように細心の注意を払いつつ、鼻先につくかつかないかの部分で止めた。
ワルキューレ「ひっ……!」
アイマスク越しに、目の奥にまで熱が伝導されるような感覚。
鼻先からうっすらと肉が焦げた匂いすら、彼女は感じていた。
実際には錯覚なのだが、視界を奪われた恐怖と極限状態で、感覚が暴走しているのだろう。
サキュバスA「あら、可愛い声。……予告なんてしませんわよぅ。どこを焼いちゃおうかしら?」
愉しげに――いや、愉しみながら鏝を遊ばせる。
露わになった太ももに近づけても、薄布に隔てられた腹部に近づけても、
その反応の鋭さは先ほどまでとは桁違いだ。
近づけたまま、迷うように鏝を動かす。
あるいは、不意打ちで背中に近づける。
時間を置いてから、敏感な上腕へと突きつける。
しばらくの間、彼女はそうして「遊んで」いた。
時間にして、10分ほどだろうか。
視界を奪われた彼女にとっては、その何倍に感じただろう。
未だ、どこの部位も焼かれてはいない。
寸止めの繰り返しは、ともすれば実際にそうするよりも消耗させているかもしれない。
現に、哀れなワルキューレは――嗚咽に似た情けない声を上げ、頬には涙の筋さえ伝っていた。

55 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/03/27(火) 02:45:58.90 ID:h7sEMOtHo
サキュバスA「……情けないわぁ。戦乙女というのは、目を塞がれるだけで戦意喪失してしまうようですわね。
       全く、何が『戦乙女』なのやら。恥ずかしくないの?貴女」
ぴしゃりと冷たく言い放つと、ワルキューレの体が僅かに揺れた。
最後に残っていたプライドの欠片すら、踏み潰されたかのようだ。
屈服し、命乞いをしないのが不思議でもある。
サキュバスA「そうね、大事な所を焼いてしまいましょうか?どうせワルキューレなのだから、死ぬまで使わないでしょう?」
未だに熱を失わないそれを使って、粗末な衣の裾をめくり上げる。
言葉に混じるサディズムとは裏腹に、肌には絶対に触れないように、気を配りつつ。
ワルキューレ「…やっ……!」
サキュバスA「…………ん?」
ワルキューレ「……もう……やめて……」
サキュバスA「はぁい?」
ワルキューレ「…もう…やめてください……」
サキュバスA「……ふふっ…あはははは!言ってしまいましたわね!」
ワルキューレ「…お願いし……ます……やめ…て……」
うわ言のように、壊れたかのように、何度も呟く。
正面から浴びるサキュバスAの哄笑にも、もはや反応は返らない。
恐怖で失神する手前の、無意識の防衛本能の言葉。
まさしく、彼女は追い詰められている。
サキュバスA「でも、ダメなのよ。……ここまで来たら、一度ぐらい味わってみたいじゃない?」
サキュバスAは確かに、求め続けた言葉を聞いた。
ただ、それだけ。
「聞き入れる」事は、しない。
―――躊躇いなく、一息に。
―――焼き鏝の先端が、ワルキューレの秘所に強く押し当てられた。

56 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/03/27(火) 02:46:33.50 ID:h7sEMOtHo
ワルキューレ「嫌、あぁぁーーーっ!!」
割れ目の上に異物を感じた瞬間、体が大きく反れ、鎖を揺らし、伝わった振動で滑車が軋んだ。
最悪の想定が、現実になってしまった。
絶望、いやその先へと到達してしまった事に喪失感が心を埋め尽くす。
涙がぼろぼろと零れ、いっぱいになったアイマスクの縁が意思を持つように浮き上がり、頬へと伝わらせた。
直後、石造りの床へ大量の水滴が落ちる。
彼女の股間からほとばしる液体が、撒き散らされて足元へ水溜りを作る。
恐怖の絶頂で緩み切った尿道は、もはや留める力を持たない。
膀胱が空になるまで、止められはしなかった。
失禁の最中、彼女は、絶望とも恐怖とも喪失とも違う感情を密かに灯らせていた。
―――それは、解放感。
みっともなく悲鳴をあげ、涙と洟と唾液を垂れ流し、さらには下からも失禁する。
全身全霊で怯えを現し素の自分をブチ撒けるような、えもいわれぬ「快感」。
奔放な淫魔達とは違い、規律正しき戦乙女として生を受けた、「反動」。
膀胱の中身を吐き出し終えるまで、彼女は解放感に打ち震えていた。
サキュバスA「あらあら、凄いわ。……ところで、どこが熱いのかしら?」
ワルキューレ「…はぁっ……はぁっ………何……だ……?」
サキュバスA「いやね。ずっと押し付けたままなのだけど。……そんなに、熱かったかしら?」
ワルキューレ「えっ……!?」

57 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/03/27(火) 02:47:01.67 ID:h7sEMOtHo
簡単で、そして心底意地の悪いトリックだ。
要するに――焼き鏝からは、熱など失われていたのだ。
裾をめくり上げ始める直前から、焼き鏝から熱を奪った。
本来ならば不可能な技ではあるが、そもそもサキュバスAの魔力を注入していたからであり、
その気になれば一瞬で冷却する事ができる。
それゆえ逆に極低温をまとわせたり、電流を流す事もできるのは言うまでもない。
サキュバスA「ふふ、引っかかりましたわね」
ワルキューレ「そ……んな……」
サキュバスA「貴女の心がちょっとだけ持ち堪えていれば気付いたかもしれないのに。あぁ、『情けない』わ」
ワルキューレ「嘘……!嘘だ……!!」
サキュバスA「本当よ。あと少し強気を保ってれば耐えられたのに。まるで未通女のような悲鳴を上げてしまって」
ワルキューレ「あ……あ、あぁ……」
サキュバスA「『やめてください』ですって?ボロボロ泣いてそんな言葉を絞り出して、そんなに怖かったかしら?」
ワルキューレ「っく……ぅ、うぅぅ……」
サキュバスA「挙句に、小便まで漏らして泣き叫んで。ねぇ、もう一度訊きますわ」
放たれる刃のような言葉に、ワルキューレはもはや憎まれ口さえ叩けない。
無防備な心を直撃し、大きく削り落としていくような「魔族」の言葉。
耳を塞ぐ事すら許されず、嬲られる事しかできない。
サキュバスA「……恥ずかしく、ないのかしら?」

58 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/03/27(火) 02:47:31.53 ID:h7sEMOtHo
最後の言葉で、ワルキューレは静かに泣き始めた。
それと同時に、かぶせられていたアイマスクが溶けるように消える。
視界を返してもらった事に、彼女は気付けない。
涙で揺らぐ視界は、地下室の闇しか映さないから。
穢された女のように、静かに、ただ静かに泣き続ける。
サキュバスA「……さて、明日は過酷ですわよ。体を休めておく事をおすすめしますわ」
「装置」を操作し、彼女の体を下ろす。
拷問部屋の一角にあらかじめ寝藁を敷いておいたため、今夜は独房まで運ぶ手間は無い。
彼女は、泣いていた。
地下室の暗闇の中、自らが作り出した水溜りの上にへたり込み、
枷をはめられた手で顔を覆いながら。
その一角を隔離するための格子扉を閉め、錠をかけた。
しくしくと泣き声の聞こえる地下室から、螺旋階段を通ってサキュバスAが上階へ戻る。
――長い階段の最中、彼女はおもむろに、ぶるりと身を震わせた。
サキュバスA「んぅっ……ふ……」
腰を落とし、内股になりつつ股間に指を這わす。
じっとりと浮かんだ粘性の液体が、秘所から太ももまでを盛大に濡れさせていた。
蜜を塗りたくられたようにべっとりと肌に張り付き、足元までも幾筋も伝い落ち。
加虐の悦びの中、転じた嗜虐の悦びがいつしか彼女に影を落としていた。
もしも――このワルキューレと、立場が逆だったのなら。
もしも――責め苦を受けているのが、自分だったのなら。
そんな感情移入をしながら、拷問の間中震えていた。
焼き鏝を近づける度に怯える彼女。
――もしも自分だったらどんなに怖くて、そして「気持ち良い」だろう?

59 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/03/27(火) 02:48:12.47 ID:h7sEMOtHo
ワルキューレの痴態を眼にした時、その嗜虐心は最高潮へ達した。
「虐めを加える者」から、「虐めを被る者」への心理の変換。
鏡合わせの快感が、相乗しながらサキュバスAに襲い掛かったのだ。
その感覚は、ワルキューレが味わったものより大きかっただろう。
凛とした「ワルキューレ」を嬲りものにし、その反応を愉しみ。
涙を流させ、命乞いを口にさせ、失禁までさせて。
サディズムに酔わされた。
陰鬱な地下室で、無いよりマシな程度の衣を着せられた彼女。
目の前には無慈悲な魔族が妖しく笑い、視界を奪われて散々に嬲られ、言葉で責められて。
哀れみの視線を向けられ、最後には無様な姿を見せてしまって。
そんな彼女の感覚を想像して、潜在的なマゾヒズムが湧き上がってきた。
もはや、立っている事などできない。
あと数段で上階への扉という所で、ついにはへたり込み、秘所に指先が伸びてしまった。
サキュバスA「あっ……ぅ……はぅ…」
くちゅ、くちゅと水音が響く。
吐息混じりの切なげな声が壁に反響し、螺旋階段を淫猥な空気が支配する。
気付けば、階段に腰を下ろし、壁に背を預けながら手淫に耽っていた。
脚を大きく開き、指先で慰める姿は先ほどまでの姿とはあまりにかけ離れていた。
左手の指先を口に含み、「王」に奉仕する時のようにしゃぶり上げる。
――否、指先で舌を、歯茎を弄ぶ姿は、彼の「キス」を模した動きのつもりだろうか。
口内から溢れた唾液が指を出し入れする度にあふれ出し、胸へと落ちた。
蒼い肌の上に垂れ落ちた滴が蝋燭の光に照らされ、艶めかしく光る。
サキュバスA「くっ……はあ、ぁ……………む、ぷちゅ……れろ……」
下から響く、内部をめちゃくちゃに掻き回す水音。
上から響く、口内を指先で蹂躙する水音。
そして、吐息に漏れ出す、切なげな望み。

60 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/03/27(火) 02:49:11.82 ID:h7sEMOtHo
サキュバスA「あっ……は、……へ、陛……下……ぁ…!」
絶頂に達する直前、言葉を発してしまう。
何を望んで耽っていたのかが暴かれる、一言。
耽るあまり、彼女は気付いていなかった。
その「当人」が、近くにいた事に。
勇者「…俺が、どうかしたのか?」
サキュバスA「えっ!?」
驚きのあまり、指を止めて声のする方を見る。
扉の前、彼女の数段上から、「当人」が見下ろしていた。
見られてしまった恥ずかしさから、彼女は平素の余裕の片鱗も出せない。
サキュバスA「へ、陛下……!違います、違いますわ……これ、は……」
勇者「……俺を想像していたんじゃないって事?」
サキュバスA「あ、あの……その……」
勇者「…なんて、な。……こんなこったろうと思ってたよ、実際」
サキュバスA「え?」
勇者「…………行こうか?」
サキュバスA「あっ……」
彼女の前を通り過ぎ、下の段へと降りていく。
そのまま、おもむろに左手を彼女の膝裏へ滑り込ませ、右手は背中へ。
軽々と抱き上げ、開け放したままの扉へ向かい、階段を上がる。
勇者「……心配するなよ。今夜は、二人きりだ」

61 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/03/27(火) 02:50:18.55 ID:h7sEMOtHo
寝室に辿り着くまでの間、使用人とすれ違うたびに興味の視線を浴びた。
彼女を知る者なら、思わず振り返って見てしまうような、意外な光景だからだ。
珍しいものを見るかのような視線に晒され続け、寝室に着いた頃には、
肌は赤みが差して顔を俯かせていた。
あらかじめ半開きにさせておいた扉を押し開け、幾たびもの夜を過ごした寝室へ入り込む。
足で扉を閉め切った後、まっすぐに天蓋つきのベッドへと向かう。
暖炉には火が入れてあり、立場が逆とはいえ、冷え切った地下室で過ごした体を暖めようという配慮が見られた。
勇者が抱きかかえて連れてきた事、そして道中に伴う羞恥心で既に暖まってはいた。
それでも暖かい空気が肌を撫でると、ほっとするような、じんわりとした暖かみが沁みたようだ。
勇者は、ベッドに彼女の体を優しく下ろす。
ほどけるように首に回されていた腕が解かれ、ベッドの上に彼女が横たわる。
サキュバスA「……申し訳、ありません」
勇者「何が」
サキュバスA「お見苦しい所を……お見せして……」
勇者「野暮な事を言うなよ」
サキュバスA「あっ…!」
服も脱がず勇者は彼女に圧し掛かると、二人分の体重が一所に集まり、マットレスが大きく沈み込む。
彼女の両肩の辺りに手を突き、勇者が、彼女の瞳を覗き込み、しばし押し黙る。
―――ああ、この目は、見た事がある。
―――あの、「最初の夜」と同じだ。
既視感にはっきりと心当たりを見つけ、胸中を、懐かしく、苦く何かがこみ上げた。
その正体は、「勇者」だけが知っていた、「過去」でもあり、「現在」の記憶。
「勇者」だけが覚えていて、今では「勇者」以外知る者がいなくなった、七日間。
記録になど残らない、記憶にしか残らない七日間。
何かが頭の上から圧すかのように―――唇が、下りていく。

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