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放火魔「今夜はベッドで燃え上がろうぜぇぇぇ!!!」嫁「……暑苦しい」

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Part1
1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 20:47:47.43 ID:EQiuTItd0
< 公園 >
男(この公園で、その放火魔はいつもたき火をしてるという……)
男(あ、あれか!)
放火魔「…………」メラメラ… パチパチ…
男(あれが裏社会で“放火魔”と恐れられてる男なのか?)
男(なんてことない普通そうな兄ちゃんじゃないか……)

2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 20:48:39.78 ID:EQiuTItd0
子供「お兄さーん!」
放火魔「おう、なんだ?」
子供「お芋ちょうだい!」
放火魔「はいよ」サッ
子供「わーいっ、ありがとーっ!」
男(子供に焼き芋なんか振る舞ってるし……とても放火をするような人間には見えない)
男(まぁいいや、情報屋に言われた通りに話しかけてみよう)

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 20:51:44.45 ID:EQiuTItd0
男「……焼けてますか?」
放火魔「ああ、焼けてるよ! 一つ、どうだい?」
男「いただきます」ハフハフ…
男「うん、よく焼けてますね!」
放火魔「…………」
放火魔「……で、何を焼いて欲しいんだ?」ギロッ
男「!」
男(目つきが変わった! ーー“放火魔”の目になった!)

4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 20:53:36.58 ID:EQiuTItd0
男「焼いて欲しいのは……産業スパイに盗まれた重要書類です」
男「ライバル社のビルに忍び込んで、書類を燃やして下さい」
放火魔「ってことは、泥棒みたいな真似をしなきゃならねえのか」
男「無理ですか?」
放火魔「いいや、できるぜ。多少料金に上乗せするがな」
放火魔「しかし、なぜ燃やすんだ? 取り返すんじゃダメなのか?」
男「控えはありますし、相手に“警告”を与えたいんです」
男「書類を処分すると同時に、『こちらはこういう手段を持っている』という警告をね」
男「そうなると、あなたに依頼するのが一番という結論に至りまして……」
放火魔「なるほど……そういうことか。分かった、燃やしてやるぜェ! 燃えてきたぜェ!」メラメラ…
男(おおっ、目の中に炎が灯った!)

5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 20:56:20.31 ID:EQiuTItd0
その夜ーー
< ライバル社 >
放火魔(ここがライバル社だな……)
放火魔(愛用のマッチでピッキングしてっと……)カリカリ…
カチッ
放火魔(よし開いた!)
放火魔(声は出せねえが、心の中で叫ぶぜ! いざ侵入ゥ!!!)コソコソ…


7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 20:58:34.11 ID:EQiuTItd0
放火魔(こいつが重要書類だな。盗んだばかりで管理がおざなりでラッキーだ)
放火魔(さぁって、燃やすぜェ!)シュボッ…
メラメラ…
放火魔(これでよし、と)
放火魔(焼けた書類はわざと残して……さ、帰るとするか!)
放火魔(愛する嫁さんのもとに!)

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:00:42.29 ID:EQiuTItd0
< 放火魔の家 >
放火魔「ただいまァ!!!」
嫁「お帰りなさい」
嫁「お風呂とご飯、どっちにする?」
放火魔「風呂だァァァ!!!」
嫁「うるさい……もっと小さな声で喋ってよ」
放火魔「そりゃ無理ってもんだ! 仕事が終わったばかりで燃え上がってるからなァ!」
嫁「……もう」

9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:02:34.03 ID:EQiuTItd0
放火魔「さぁって」ザブッ
放火魔「!?」
放火魔「なんだこりゃあ!? ーーつめたっ! ほとんど水じゃねェか!」
嫁「ごめんなさい、さっきまで私が入ってたから」
放火魔「んもう……俺はグツグツに煮えたぎってる風呂が好きなのに……!」
嫁「すぐ沸かすわ」
放火魔「沸くまで時間かかるよな……仕方ねえ、先にメシにするかァ!!!」

10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:06:11.49 ID:EQiuTItd0
放火魔「炊きたてのご飯ッ! 熱々の味噌汁ッ! 野菜炒めッ! よく焼けたステーキッ!」
嫁「私は冷えたご飯、冷めた味噌汁、冷しゃぶサラダを食べるわ」
放火魔「いただきます!!!」
嫁「いただきます」
モグモグ… パクパク…
放火魔「うんまァい!!!」
嫁「おいしいわ」

11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:08:32.74 ID:EQiuTItd0
放火魔「寝るかァ!!!」
嫁「おやすみなさい」
放火魔「……なぁ」
嫁「なに?」
放火魔「今日はひと仕事終えて、俺の体は燃え上がってるんだ!」
放火魔「今夜はベッドで燃え上がろうぜぇぇぇ!!!」
嫁「……暑苦しい」
嫁「悪いけど、一人で燃え上がってて」
放火魔「ちぇっ、お前を燃え上がらせるのは、俺でもなかなかできねえや!」

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:11:25.08 ID:EQiuTItd0
数日後ーー
< 公園 >
放火魔「!」
黒服「よう」ザッ…
放火魔「あんたか。数ヶ月ぶりだな」
黒服「ちょいと頼みがーー」
放火魔「おっと、一応いつものをやってくれ。ルールなんでな」
黒服「ったく急いでんのに……分かったよ! 焼けてるか?」
放火魔「ああ、焼けてるよ! 一つ、どうだい?」
黒服「いただきます」ハフハフ…
黒服「うん、よく焼けてやがる! こりゃうめえ! 甘くてうめえ!」
放火魔「……で、何を燃やして欲しいんだ?」
黒服「ちょっと待って。落ち着いてこれを食べさせて」ハフハフ…
放火魔「急いでるんじゃないのかよ」

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:13:37.61 ID:EQiuTItd0
黒服「ある山小屋を燃やして欲しい」
放火魔「山小屋?」
黒服「ああ……うちの組織のバカが、“クスリ”をしこたま貯め込んでたのが分かってな」
放火魔「クスリ? ヤクか。あんたンとこの組織はーー」
黒服「ああ、あんなもん、ご法度だ」
黒服「そいつにはきっちり“落とし前”をつけさせたんだが、その山小屋はまだ健在でよ」
黒服「サツも動き出してやがる」
黒服「もしうちの組織の奴が、ヤクを扱ってたなんて分かったら」
黒服「俺たちの組織の誇りは地に落ちることになる……!」
放火魔「だから全部燃やしてくれってことだな?」
黒服「そうだ。悪党にゃ悪党なりのプライドってもんがあるんでな」
放火魔「分かった、アンタの組織にゃ世話になったこともある。引き受けてやるよ」
黒服「ありがてえ……!」
放火魔(山小屋への放火は、山火事になる危険がある。あいつの協力が必要だな)

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:15:11.01 ID:EQiuTItd0
< 山小屋 >
放火魔「さぁって、派手に燃やすぜェ!」
放火魔「灯油まいて!」ジャボッ
放火魔「愛用マッチで……燃え上がれェ!!!」シュボッ
ゴォォォォォッ!!!
ボォォォォォ……!
メラメラメラメラ… パチパチパチパチ…

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:17:04.47 ID:EQiuTItd0
放火魔「……よし、ほとんど燃え尽きたな。警察が来てもなんにも分かりゃしねえ」
放火魔「後始末は任せたぜェ!!!」
嫁「分かったわ」
嫁「私特製の消火剤で……」スッ
ザバァァァァァッ……
シュゥゥゥゥゥゥ…

16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:19:37.54 ID:EQiuTItd0
プスプスプスプスプス…
放火魔「これでよし! いつもながら鮮やかな消火だぜェ!」
嫁「山火事になる可能性はゼロ、よ」
放火魔「さっすが俺の嫁!」
嫁「…………」
放火魔「……なぁ」
嫁「なに?」
放火魔「久しぶりの共同作業だし、今夜はベッドで燃えーー」
嫁「……暑苦しい」

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:22:15.21 ID:EQiuTItd0
……
……
刑事「くそっ! ーー燃やされてしまったか!」
刑事「貯め込んでいたであろう薬物が、跡形もなく燃え尽きてしまった……」
刑事「まさか、こんなに早く手を打つとは……」
消防士「しかし……見事な腕ですね。この小屋を燃やした犯人は」
消防士「この乾いた天候の中、一切延焼させることなく、この山小屋だけを正確に燃やしている」
消防士「よほど炎に精通した者の仕業のようですねえ……」
刑事「感心してる場合か!」
消防士「これは失礼」

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:24:33.61 ID:EQiuTItd0
消防士「いずれにせよ、犯人が只者ではないことは間違いありません」
消防士「この犯人……もしや、今巷を騒がしている連続放火殺人となにか関連があるのでは?」
刑事「うむ……」
消防士「我々としては、刑事さんのご活躍を期待していますよ」
消防士「このところ、我々の出動回数が多すぎて困っているのですよ。このままでは過労死です」
刑事「……分かっている!」
刑事「…………」

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:27:48.12 ID:EQiuTItd0
< 公園 >
黒服「焼けてるか?」
放火魔「……あんたか」
放火魔「またなにか依頼か?」
黒服「いんや、今日はこないだの礼に来ただけさ」
黒服「あんたのおかげで、うちの組織の看板は汚れずに済んだ……ありがとう」
放火魔「俺は自分の仕事をしただけのことだ」
黒服「とりあえず、これ……熱々の焼き鳥だ」ホカホカ…
放火魔「お、ありがてェ! 熱燗も欲しいところだな」
黒服「おっと、俺としたことが忘れちまった」

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:30:01.37 ID:EQiuTItd0
放火魔「うまいな、これ」ハグハグ…
黒服「だろ? なかなか昔堅気の屋台でよ……」ハグハグ…
黒服「そういや一度、聞きたかったんだがーー」
放火魔「なんだ?」
黒服「なぜ、あんたはどこにも所属しない“放火魔”になったんだ?」
黒服「しかも『絶対に人が死ぬ放火はしない』なんて美学まで持って……」
黒服「俺たちの業界じゃ、他人の過去には触れないって暗黙のルールがあるが」
黒服「どうしても気になっちまってね」
放火魔「……俺らしくもねえ、シケた話だ」
黒服「ぜひ聞かせてもらいたいね」
放火魔「俺はな……ガキの頃、俺は親に捨てられたんだ」
黒服「!」
放火魔「それも、ゴミ捨て場によ……」
放火魔「あのままだったら俺はくたばって、ゴミ収集車に回収されてもおかしくなかったーー」

21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:32:40.07 ID:EQiuTItd0
~ 回想 ~
少年「うう……寒い、寒い……」ガチガチ
少年(寒くて体が動かない……声もでない……。ぼく、このまま死ぬのかな……)
少年(誰か……助けて……)
浮浪者「お?」
浮浪者「こんなところにガキが捨てられてやがる。ヒャッハッハ、傑作だ!」
少年「おじさん、誰……?」
浮浪者「お前と同じ。世の中から捨てられたモンよ」
少年「捨てられた……」
浮浪者「寒いだろ? よっしゃ、一緒にあったまるか!」
浮浪者「どうせヤケクソに、どこかに火をつけちまおうと思ってたんだ」


22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:34:44.59 ID:EQiuTItd0
ボォォォォ……! 
浮浪者「おおぉ~、よく燃えてやがる。きっと分別されてねえスプレー缶でも入ってたんだな」
少年(ゴミを燃やして……)
浮浪者「どうだボウズ、あったけえだろ!」
少年「うん! あったか~い! 生き返ったみたいだ!」
浮浪者「あったまったら、交番行け! きっとおまわりさんが何とかしてくれる!」
少年「ありがとう……おじさん!」
浮浪者「俺こそシャバにいい思い出ができたってもんよ」

23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:36:50.16 ID:EQiuTItd0
……
…………
放火魔「ーーってな具合だ」
黒服「……シケてるなんてとんでもねえ。打ち上げ花火みてえにブッ飛んでるぜ」
放火魔「あの一件で、俺は放火ってやつにすっかり憧れちまってな」
放火魔「将来は、放火で人助けをするような仕事をしたいって思ったんだ」
放火魔「ま、さすがにおおっぴらにやるのは無理だから、こうして裏社会でやらせてもらってるが」
黒服「ハハハ、そりゃそうだ! 『放火でお悩み解決します』なんて看板出したら、即お縄だ!」
黒服「ちなみに、その命の恩人は?」
放火魔「とっくに捕まったよ。今も刑務所にいるんじゃねえかな……」

24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:38:50.10 ID:EQiuTItd0
黒服「じゃ、聞くついでにもう一つ」
放火魔「ん?」
黒服「奥さんとの出会いはどんな感じだったんだ?」ニヤニヤ
放火魔「そんなこと聞くもんじゃねえ。ヤケドしちまうぜ……」
黒服「おっと……おっかねえ。じゃあやめとくか」
放火魔「でも、聞きたいんだろ?」
黒服「ん?」
放火魔「そんなに聞きたいならしょうがねぇ……話してやっかァ!!!」
黒服(話したかったんだな……)
放火魔「あいつとの出会いは、こんな感じだったーー」

25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:41:03.54 ID:EQiuTItd0
~ 回想 ~
シュボッ…
放火魔「ふぅぅ……こうして一人、マッチの火を見てると落ち着くぜ……」ユラユラ…
ザバッ!
放火魔「ぶっ!?」
放火魔(いきなり水をぶっかけられて、火が消えた……)ビショビショ…
放火魔「だ、誰だ!?」
女「やったのは私よ」
放火魔「いい度胸してんじゃねえか……なんでこんなことしやがった!?」
女「私、火が嫌いだから」
放火魔「…………!」

26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:43:09.03 ID:EQiuTItd0
放火魔「そ、そうか……火が嫌いなのか」
女「ええ、嫌いなの。熱いのも嫌いだし、赤いのも苦手ね。一番嫌いな季節は夏よ」
放火魔「ふぅ~ん……」
放火魔「あ、あのさ……」
女「なに?」
放火魔「俺、あんたに惚れちまった! 火がついちまったァァァ!!!」
放火魔「よかったら……俺と付き合ってくれねえか!」
女「いいけど」
放火魔「俺は火が大好きだけど、よろしく!」
女「うん」

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/23(月) 21:45:34.97 ID:EQiuTItd0
……
…………
放火魔「ーーってな具合さ」
黒服「えええ……!?」
放火魔「あいつにかけられた水で、俺のハートはキャンプファイヤーみてえに燃え上がったのさ!」
放火魔「分かるだろ!?」
放火魔「この燃え上がる気持ち、分かるだろォ!?」
黒服「ああ、分かる分かる」
黒服(わけ分からん……)
黒服(最初の浮浪者に助けられたエピソードのが、まだ理解できたぞ……)

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