男「少し不思議な話をしようか」女「いいよ」
Part7
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:51:37.30 ID:bgmstPv8o
母「そのお巡りさんが言うには」
母「娘が、ひどく真剣で嘘をついている様には見えないと、そう言われるんです」
母「最初、お巡りさんが『大丈夫だよ。宇宙人に誘拐されるとか、そんな事はないから』と、言ったところ」
母「娘は『本当なの! 本当に宇宙人に誘拐されちゃうの!』って」
母「交番の前で涙を流して、必死にそう言ったらしくて」
母「ええ、そうです」
母「だから、お巡りさんも、少し気になったらしくて」
母「わざわざ家まで来て、私にそういう質問をしたんですね」
母「『娘さんには申し訳ないですけど、私は宇宙人だとかは信じてません。ただ』と、そう前置きをした上で」
母「『少し、この子の怯えかたが気になったものですから』と」
母「『ですので、家の近くで怪しい人物がうろついていたとか、妙な人影を見ただとか、そういった事はありませんでしたか?』」
母「『もしくは、娘さんがそういう話をしていた事はありませんでしたか?』と、そう尋ねられました」
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:52:04.93 ID:bgmstPv8o
母「ですけど、そういう怪しげな人を見た記憶は、私にはありませんでしたし」
母「娘が『宇宙人に誘拐される』と言い出した理由も、最近読んだ本の影響だと思ったんです」
母「確か……アブダクション? でしたっけ?」
母「宇宙人にUFOで連れ去られて、頭の中に変なICチップを埋められてしまったとか、そういう話……」
母「ええ、そういう内容の事が娘の読んでいた本にも書いてありましたので」
母「多分、それに影響されて、そんな事を言い出したんだと思ったんです」
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:52:32.71 ID:bgmstPv8o
母「それで、そのお巡りさんにもその事を話して」
母「『お騒がせして申し訳ありません。きっと娘の思い込みですから』と、もう一度丁寧に謝罪したんです」
母「そうしたら、お巡りさんの方も苦笑いをされまして」
母「『わかりました。ですが一応、用心はして下さいね』と」
母「『子供に悪戯する変質者とかも、世の中にはいますので』と」
母「そう言って帰られました」
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:53:07.33 ID:bgmstPv8o
母「その後、もちろん、私は娘を叱りました」
母「もうこんな事は絶対にしないで、と。お巡りさんの仕事の邪魔をしちゃ駄目だから、と」
母「もしまた同じ事をしたら、本とか全部、読むのを禁止するわよ、と」
母「そうやって、かなりきつく叱ったんです」
母「娘は涙をためて、『ごめんなさい……』と謝りました」
母「『もう、しません』と、そう私と約束したんです」
母「なのに」
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:53:35.50 ID:bgmstPv8o
母「ええ、そうです」
母「その翌日にも、娘はまた、同じ事をしたんです」
母「はい。次の日も交番に行って」
母「『三日経ったら、私はUFOに連れてかれちゃうの! 助けて!』って」
母「そうやってお巡りさんに泣きついたそうです」
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:54:16.94 ID:bgmstPv8o
母「はい。それで、また昨日と同じ様に、お巡りさんが家まで娘を連れてきてくれまして」
母「私は、また平謝りしました。『申し訳ありません、昨日、娘にはよく言ってきかせたんですが……』と」
母「そう釈明しました」
母「ええ。お巡りさんも昨日と同じで、苦笑いをされまして」
母「『パトロールのついでなので、構いませんよ』と、そう言ってくれたんですが」
母「その次の日も、娘は同じ事をしたんです」
母「『あと二日したら、私はUFOに拐われちゃうの! ホントなの!』って」
母「また、涙混じりで、そう言ったらしく」
母「それで、またお巡りさんが娘を家まで連れてきました」
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:54:47.08 ID:bgmstPv8o
母「はい。娘には、更にきつく叱って」
母「お尻を叩いたりもしました。『どうして約束を破るの。二度としないって言ったでしょ』って」
母「娘はその度に泣いて謝って、『もう、しません』とそう言うのですけど」
母「その翌日も、また同じ事をしたんです」
母「『明日、私は宇宙人に連れてかれちゃう! お願いだから、助けて!』って」
母「はい。また涙をぼろぼろ流して、必死にそんな風に、お巡りさんにお願いしたそうです」
母「ええ。ここまでくると、流石に私もお巡りさんも妙に思えて」
母「変な不安が広がりました」
母「もしかしたら、明日、本当に宇宙人に連れ去られてしまうんじゃないかって」
母「そんな事はまず有り得ないはずなのに、ひょっとしたら、とそう思えてきたんですね」
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:55:42.99 ID:bgmstPv8o
母「理由ですか?」
母「いえ、それはまるで……」
母「どうして娘が、そんな風に思う様になったのかも」
母「何で、明日連れ去られると考えているのかも」
母「それを娘に尋ねても、答えないんです」
母「娘が言う事はたった一つだけ」
母「『明日、私は宇宙人に誘拐されちゃうの! だから、助けて!』と……」
母「それだけなんです」
母「理由を聞いても、言わないんです」
母「なのに、ものすごい必死で」
母「ふざけている様にも、イタズラの様にも思えないのだけは確かでした」
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:56:16.70 ID:bgmstPv8o
母「ええ。そうです」
母「ですから、私も心配になりまして、一応、お巡りさんにお願いしたんです」
母「明日一日だけでいいので、この子の通学路をパトロールしてもらえませんかと、そう頼みました」
母「はい。その日は平日でしたので、学校がありましたから」
母「行きと帰りは、私が一緒についていく事に決めまして」
母「念の為に、お巡りさんにもそうお願いしたんです」
母「この子の変な思い込みなら、まだ笑い話で済む話ですからね」
母「はい。そうしたら、お巡りさんもそれを引き受けて下さいまして」
母「なので、これで安心出来ると、その時の私はそう思っていたんですね」
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:58:21.89 ID:bgmstPv8o
母「はい」
母「それで、その日、娘は無事に学校に行って、無事に帰ってきまして」
母「それからずっと私が娘を見ていましたが、何も起こりませんでした」
母「それでも、娘はまだ心配していました。私の服をつかんで『お母さん、今日はどこにも行かないでね』って、そう怯えたように言うんです」
母「ですので、私もそれを約束して」
母「その日は一日中、娘の近くにいました」
母「娘も私から離れませんでした」
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:58:57.90 ID:bgmstPv8o
母「それで、夜になって、夫が帰ってきて、三人で揃って夕食を食べて」
母「それから居間で、やはり三人で揃ってテレビを見ていたんですね」
母「それで、あっという間に時間が経ちまして」
母「もう夜の遅い時間になっていたんです。娘が寝るような時間に」
母「その頃になると、流石に娘も安心したのか、居間で眠そうにまぶたをこすっていました」
母「ええ。ですので、私は一安心して」
母「妙な取り越し苦労をしてしまったなと、そんな風に思っていました」
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:00:04.20 ID:bgmstPv8o
母「それで、お巡りさんにも改めて電話でお礼を言いまして」
母「それが終わってから、娘を寝かしつけようと私はしたんです」
母「そうしたら」
母「娘が、いつのまにか居間からいなくなってるんです」
母「はい。つい先程まで、そこでテレビを見ていたはずなのに」
母「いないんです」
母「見当たらないんです。さっきまでは確かにいたのに」
母「ですので、そばにいた夫に娘の事を尋ねたら」
母「『ついさっき、部屋から出ていったぞ。トイレじゃないのか』と」
母「ですので、少し心配になって、私はトイレへと見に行ったんですが」
母「そこにもいないんですね」
母「まさかと思って、家中を探しました」
母「部屋を全部回って、台所やトイレや風呂場や庭なども」
母「でも、どこにもいなくて」
母「いつのまにか、消えてしまったんです。娘が」
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:01:56.26 ID:bgmstPv8o
母「私の家は一軒家とはいえ、そんなに広くはないです。なので、主人と一緒になって家中を探したんですが」
母「それこそ、物置の中や押し入れの中、タンスの中まで」
母「それでも見つからなくて、だから、もしかして外に出ていったんじゃないかと思い、玄関の鍵を確認したところ」
母「何故か、家の鍵はかかってませんでした……」
母「いえ……。それはわかりません」
母「単に、帰ってきた主人が鍵をかけ忘れたのかもしれませんし……」
母「娘が鍵を開けて、外に出ていったのかもしれませんし……」
母「もしかしたら、私達の知らない『誰か』が鍵を開けたのかもしれません……」
母「それで、とにかく外を探そうという事になりまして」
母「私と主人とで、手分けして近所を見て回ったんですが」
母「それでも、娘はやっぱり見つかりませんでした」
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:02:58.31 ID:bgmstPv8o
母「はい……」
母「突然、いなくなった事もそうですが」
母「あれだけ怖がっていた娘が、勝手に一人で外に出るとは思えなかったので」
母「その後、すぐに警察に電話しまして」
母「娘がいなくなった事を伝えました。誰かに拐われたかもしれないと」
母「そうですね。ええ。驚いていましたけど」
母「すぐに家に来て下さいました」
母「そして、私達から事情を聞くと共に」
母「他の警察の方がパトカーで近所を巡回して、娘を探し回ってくれました」
母「ですが、その甲斐なく、娘はずっと見つからず」
母「ただ時間だけが過ぎていきました」
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:03:41.13 ID:bgmstPv8o
母「それで、深夜になった頃でしょうか」
母「パトカーがもう一台来て、それで一緒に警察犬を連れてきてくれて」
母「娘の匂いを追跡してくれたんです」
母「はい……ですけど」
母「警察犬は、玄関から出て」
母「それで、二歩か三歩ほど歩いたところで、止まってしまいまして」
母「そこで、ずっと右往左往してるんです」
母「まるで、そこでいきなり娘の匂いが途切れたみたいに」
母「匂いを辿れなかったんです」
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:06:01.90 ID:NfoNVPd6O
実際あったな…警察犬が匂いを辿れなくて見つからなかった行方不明事件…怖い
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:11:23.44 ID:bgmstPv8o
母「はい。そうです」
母「玄関から少し行った先で、止まってしまうんです」
母「警察の方が言うには」
母「ここで、何かの乗り物に乗せられた可能性が高いと」
母「それで、娘の匂いが途切れてしまい、追跡出来なくなっているのではないかと」
母「そう言われるんです」
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:12:16.22 ID:bgmstPv8o
母「ええ……」
母「なので、娘は誘拐された可能性が高いという事で、誘拐事件として扱われました」
母「それで、ひょっとしたら、犯人から身代金の要求がくるかもしれないという事で」
母「家の電話には、逆探知が出来る機械が取り付けられたのですが」
母「電話はそれから丸一日経ってもかかってきませんでした」
母「そして、大勢の警察の方が捜査をしてくれたにもかかわらず、娘の行方もずっとわからないままで」
母「それから、三日も過ぎてしまったんです」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:12:50.81 ID:bgmstPv8o
母「ところが」
母「ええ、三日目の朝方です」
母「娘が見つかったんです」
母「いたのは、家の中でした」
母「ええ。娘は押し入れの中にいて」
母「そこで寝ていました」
母「昨日までは、確かにいなかったのに」
母「いつのまにか、そこにいたんです」
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:13:33.59 ID:bgmstPv8o
母「……それは、わかりません」
母「ですが……」
母「今度は、家には鍵がかかっていたんです」
母「窓も全部、鍵がかかっていました」
母「間違いありません。確認しましたから」
母「はい。うちの鍵は、全部、家の中にありましたし……」
母「娘も鍵を持って、いなくなった訳ではないので……」
母「娘がいつのまにか中にいる、というのは、有り得ないんです」
母「ええ。ですので、娘を連れ去った犯人が、夜の間に家の鍵を開けて」
母「娘を押し入れに入れて、また鍵をかけて帰ったとしか、考えられないんですね」
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:14:19.78 ID:bgmstPv8o
母「はい。それはもちろん」
母「娘に、すぐに尋ねました」
母「『この三日の間、どうしてたの? どこにいたの?』と」
母「ですが、娘が言うには……」
母「わからないと」
母「それどころか、何も覚えてないと言うんです」
母「娘は三日経ってた事も知らなくて」
母「気が付いたら、ここで寝ていたと」
母「そう言うんです」
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:14:51.31 ID:bgmstPv8o
母「はい。宇宙人の事も娘には尋ねました」
母「ですが、それすらも娘は覚えてなかったんです」
母「ええ、宇宙人に誘拐されると言っていた事も、何もかも」
母「きょとんとした顔で、『私、そんな事言ってないよ』って」
母「そう言うんです」
母「他にも色々尋ねてみたんですが、それも忘れていて」
母「ここ数日の記憶が、全部、なくなってたんです」
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:15:34.82 ID:bgmstPv8o
母「それで、私達は警察の方に連絡をした後で」
母「娘を病院に連れていって、精密検査をお願いしました」
母「警察の方が事情を話してくれたので、娘の検査は念入りに行われたのですが」
母「特に、異常はないと」
母「そうお医者様は言われました」
母「記憶が消えている事も話したのですが、脳の方にも異常は一切見られないという事で」
母「単に忘れてしまったとしか、考えられないと言われるんです」
母「でも、いくら子供とはいえ、数日前の記憶全部を忘れるなんて事があるんでしょうか?」
母「その前の事は覚えているのに」
母「そこだけが綺麗に、まるで記憶を消されでもしたかの様に忘れてしまうなんて」
母「そんな事、有り得るんでしょうか?」
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:16:29.72 ID:bgmstPv8o
母「結局、娘がその三日の間、どこで何をしていたのかはわかりません」
母「警察の方が、家や娘の服などから犯人の痕跡が何かないかと調べたんですが」
母「それも一切、出ませんでしたから」
母「ただ、精密検査の結果、娘には何の異変もないとの事でしたし」
母「無事に戻ってきたので、事件として大きく扱われる事もありませんでした」
母「ええ、家の鍵も替えました。それからはそういった事はありませんでした」
母「それが、家の鍵を替えたからなのかはわかりませんが……」
母「不思議ですよね」
母「娘は、本当に三日の間、一体どこへ行ってたんでしょうか」
母「そして、どうして娘はUFOに拐われるなんて、思ったんでしょうか」
母「何より、どうして娘は『いなくなる日付』を予め知っていたんでしょうか」
母「そして、娘はどうして自分から外に出ていって」
母「その時の記憶を一切なくしてしまっているんでしょうか……」
母「未だにそれがわかりません」
母「娘は何も覚えてませんから」
母「そのお巡りさんが言うには」
母「娘が、ひどく真剣で嘘をついている様には見えないと、そう言われるんです」
母「最初、お巡りさんが『大丈夫だよ。宇宙人に誘拐されるとか、そんな事はないから』と、言ったところ」
母「娘は『本当なの! 本当に宇宙人に誘拐されちゃうの!』って」
母「交番の前で涙を流して、必死にそう言ったらしくて」
母「ええ、そうです」
母「だから、お巡りさんも、少し気になったらしくて」
母「わざわざ家まで来て、私にそういう質問をしたんですね」
母「『娘さんには申し訳ないですけど、私は宇宙人だとかは信じてません。ただ』と、そう前置きをした上で」
母「『少し、この子の怯えかたが気になったものですから』と」
母「『ですので、家の近くで怪しい人物がうろついていたとか、妙な人影を見ただとか、そういった事はありませんでしたか?』」
母「『もしくは、娘さんがそういう話をしていた事はありませんでしたか?』と、そう尋ねられました」
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:52:04.93 ID:bgmstPv8o
母「ですけど、そういう怪しげな人を見た記憶は、私にはありませんでしたし」
母「娘が『宇宙人に誘拐される』と言い出した理由も、最近読んだ本の影響だと思ったんです」
母「確か……アブダクション? でしたっけ?」
母「宇宙人にUFOで連れ去られて、頭の中に変なICチップを埋められてしまったとか、そういう話……」
母「ええ、そういう内容の事が娘の読んでいた本にも書いてありましたので」
母「多分、それに影響されて、そんな事を言い出したんだと思ったんです」
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:52:32.71 ID:bgmstPv8o
母「それで、そのお巡りさんにもその事を話して」
母「『お騒がせして申し訳ありません。きっと娘の思い込みですから』と、もう一度丁寧に謝罪したんです」
母「そうしたら、お巡りさんの方も苦笑いをされまして」
母「『わかりました。ですが一応、用心はして下さいね』と」
母「『子供に悪戯する変質者とかも、世の中にはいますので』と」
母「そう言って帰られました」
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:53:07.33 ID:bgmstPv8o
母「その後、もちろん、私は娘を叱りました」
母「もうこんな事は絶対にしないで、と。お巡りさんの仕事の邪魔をしちゃ駄目だから、と」
母「もしまた同じ事をしたら、本とか全部、読むのを禁止するわよ、と」
母「そうやって、かなりきつく叱ったんです」
母「娘は涙をためて、『ごめんなさい……』と謝りました」
母「『もう、しません』と、そう私と約束したんです」
母「なのに」
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:53:35.50 ID:bgmstPv8o
母「ええ、そうです」
母「その翌日にも、娘はまた、同じ事をしたんです」
母「はい。次の日も交番に行って」
母「『三日経ったら、私はUFOに連れてかれちゃうの! 助けて!』って」
母「そうやってお巡りさんに泣きついたそうです」
母「はい。それで、また昨日と同じ様に、お巡りさんが家まで娘を連れてきてくれまして」
母「私は、また平謝りしました。『申し訳ありません、昨日、娘にはよく言ってきかせたんですが……』と」
母「そう釈明しました」
母「ええ。お巡りさんも昨日と同じで、苦笑いをされまして」
母「『パトロールのついでなので、構いませんよ』と、そう言ってくれたんですが」
母「その次の日も、娘は同じ事をしたんです」
母「『あと二日したら、私はUFOに拐われちゃうの! ホントなの!』って」
母「また、涙混じりで、そう言ったらしく」
母「それで、またお巡りさんが娘を家まで連れてきました」
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:54:47.08 ID:bgmstPv8o
母「はい。娘には、更にきつく叱って」
母「お尻を叩いたりもしました。『どうして約束を破るの。二度としないって言ったでしょ』って」
母「娘はその度に泣いて謝って、『もう、しません』とそう言うのですけど」
母「その翌日も、また同じ事をしたんです」
母「『明日、私は宇宙人に連れてかれちゃう! お願いだから、助けて!』って」
母「はい。また涙をぼろぼろ流して、必死にそんな風に、お巡りさんにお願いしたそうです」
母「ええ。ここまでくると、流石に私もお巡りさんも妙に思えて」
母「変な不安が広がりました」
母「もしかしたら、明日、本当に宇宙人に連れ去られてしまうんじゃないかって」
母「そんな事はまず有り得ないはずなのに、ひょっとしたら、とそう思えてきたんですね」
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:55:42.99 ID:bgmstPv8o
母「理由ですか?」
母「いえ、それはまるで……」
母「どうして娘が、そんな風に思う様になったのかも」
母「何で、明日連れ去られると考えているのかも」
母「それを娘に尋ねても、答えないんです」
母「娘が言う事はたった一つだけ」
母「『明日、私は宇宙人に誘拐されちゃうの! だから、助けて!』と……」
母「それだけなんです」
母「理由を聞いても、言わないんです」
母「なのに、ものすごい必死で」
母「ふざけている様にも、イタズラの様にも思えないのだけは確かでした」
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:56:16.70 ID:bgmstPv8o
母「ええ。そうです」
母「ですから、私も心配になりまして、一応、お巡りさんにお願いしたんです」
母「明日一日だけでいいので、この子の通学路をパトロールしてもらえませんかと、そう頼みました」
母「はい。その日は平日でしたので、学校がありましたから」
母「行きと帰りは、私が一緒についていく事に決めまして」
母「念の為に、お巡りさんにもそうお願いしたんです」
母「この子の変な思い込みなら、まだ笑い話で済む話ですからね」
母「はい。そうしたら、お巡りさんもそれを引き受けて下さいまして」
母「なので、これで安心出来ると、その時の私はそう思っていたんですね」
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:58:21.89 ID:bgmstPv8o
母「はい」
母「それで、その日、娘は無事に学校に行って、無事に帰ってきまして」
母「それからずっと私が娘を見ていましたが、何も起こりませんでした」
母「それでも、娘はまだ心配していました。私の服をつかんで『お母さん、今日はどこにも行かないでね』って、そう怯えたように言うんです」
母「ですので、私もそれを約束して」
母「その日は一日中、娘の近くにいました」
母「娘も私から離れませんでした」
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 21:58:57.90 ID:bgmstPv8o
母「それで、夜になって、夫が帰ってきて、三人で揃って夕食を食べて」
母「それから居間で、やはり三人で揃ってテレビを見ていたんですね」
母「それで、あっという間に時間が経ちまして」
母「もう夜の遅い時間になっていたんです。娘が寝るような時間に」
母「その頃になると、流石に娘も安心したのか、居間で眠そうにまぶたをこすっていました」
母「ええ。ですので、私は一安心して」
母「妙な取り越し苦労をしてしまったなと、そんな風に思っていました」
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:00:04.20 ID:bgmstPv8o
母「それで、お巡りさんにも改めて電話でお礼を言いまして」
母「それが終わってから、娘を寝かしつけようと私はしたんです」
母「そうしたら」
母「娘が、いつのまにか居間からいなくなってるんです」
母「はい。つい先程まで、そこでテレビを見ていたはずなのに」
母「いないんです」
母「見当たらないんです。さっきまでは確かにいたのに」
母「ですので、そばにいた夫に娘の事を尋ねたら」
母「『ついさっき、部屋から出ていったぞ。トイレじゃないのか』と」
母「ですので、少し心配になって、私はトイレへと見に行ったんですが」
母「そこにもいないんですね」
母「まさかと思って、家中を探しました」
母「部屋を全部回って、台所やトイレや風呂場や庭なども」
母「でも、どこにもいなくて」
母「いつのまにか、消えてしまったんです。娘が」
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:01:56.26 ID:bgmstPv8o
母「私の家は一軒家とはいえ、そんなに広くはないです。なので、主人と一緒になって家中を探したんですが」
母「それこそ、物置の中や押し入れの中、タンスの中まで」
母「それでも見つからなくて、だから、もしかして外に出ていったんじゃないかと思い、玄関の鍵を確認したところ」
母「何故か、家の鍵はかかってませんでした……」
母「いえ……。それはわかりません」
母「単に、帰ってきた主人が鍵をかけ忘れたのかもしれませんし……」
母「娘が鍵を開けて、外に出ていったのかもしれませんし……」
母「もしかしたら、私達の知らない『誰か』が鍵を開けたのかもしれません……」
母「それで、とにかく外を探そうという事になりまして」
母「私と主人とで、手分けして近所を見て回ったんですが」
母「それでも、娘はやっぱり見つかりませんでした」
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:02:58.31 ID:bgmstPv8o
母「はい……」
母「突然、いなくなった事もそうですが」
母「あれだけ怖がっていた娘が、勝手に一人で外に出るとは思えなかったので」
母「その後、すぐに警察に電話しまして」
母「娘がいなくなった事を伝えました。誰かに拐われたかもしれないと」
母「そうですね。ええ。驚いていましたけど」
母「すぐに家に来て下さいました」
母「そして、私達から事情を聞くと共に」
母「他の警察の方がパトカーで近所を巡回して、娘を探し回ってくれました」
母「ですが、その甲斐なく、娘はずっと見つからず」
母「ただ時間だけが過ぎていきました」
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:03:41.13 ID:bgmstPv8o
母「それで、深夜になった頃でしょうか」
母「パトカーがもう一台来て、それで一緒に警察犬を連れてきてくれて」
母「娘の匂いを追跡してくれたんです」
母「はい……ですけど」
母「警察犬は、玄関から出て」
母「それで、二歩か三歩ほど歩いたところで、止まってしまいまして」
母「そこで、ずっと右往左往してるんです」
母「まるで、そこでいきなり娘の匂いが途切れたみたいに」
母「匂いを辿れなかったんです」
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:06:01.90 ID:NfoNVPd6O
実際あったな…警察犬が匂いを辿れなくて見つからなかった行方不明事件…怖い
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:11:23.44 ID:bgmstPv8o
母「はい。そうです」
母「玄関から少し行った先で、止まってしまうんです」
母「警察の方が言うには」
母「ここで、何かの乗り物に乗せられた可能性が高いと」
母「それで、娘の匂いが途切れてしまい、追跡出来なくなっているのではないかと」
母「そう言われるんです」
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:12:16.22 ID:bgmstPv8o
母「ええ……」
母「なので、娘は誘拐された可能性が高いという事で、誘拐事件として扱われました」
母「それで、ひょっとしたら、犯人から身代金の要求がくるかもしれないという事で」
母「家の電話には、逆探知が出来る機械が取り付けられたのですが」
母「電話はそれから丸一日経ってもかかってきませんでした」
母「そして、大勢の警察の方が捜査をしてくれたにもかかわらず、娘の行方もずっとわからないままで」
母「それから、三日も過ぎてしまったんです」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:12:50.81 ID:bgmstPv8o
母「ところが」
母「ええ、三日目の朝方です」
母「娘が見つかったんです」
母「いたのは、家の中でした」
母「ええ。娘は押し入れの中にいて」
母「そこで寝ていました」
母「昨日までは、確かにいなかったのに」
母「いつのまにか、そこにいたんです」
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:13:33.59 ID:bgmstPv8o
母「……それは、わかりません」
母「ですが……」
母「今度は、家には鍵がかかっていたんです」
母「窓も全部、鍵がかかっていました」
母「間違いありません。確認しましたから」
母「はい。うちの鍵は、全部、家の中にありましたし……」
母「娘も鍵を持って、いなくなった訳ではないので……」
母「娘がいつのまにか中にいる、というのは、有り得ないんです」
母「ええ。ですので、娘を連れ去った犯人が、夜の間に家の鍵を開けて」
母「娘を押し入れに入れて、また鍵をかけて帰ったとしか、考えられないんですね」
母「はい。それはもちろん」
母「娘に、すぐに尋ねました」
母「『この三日の間、どうしてたの? どこにいたの?』と」
母「ですが、娘が言うには……」
母「わからないと」
母「それどころか、何も覚えてないと言うんです」
母「娘は三日経ってた事も知らなくて」
母「気が付いたら、ここで寝ていたと」
母「そう言うんです」
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:14:51.31 ID:bgmstPv8o
母「はい。宇宙人の事も娘には尋ねました」
母「ですが、それすらも娘は覚えてなかったんです」
母「ええ、宇宙人に誘拐されると言っていた事も、何もかも」
母「きょとんとした顔で、『私、そんな事言ってないよ』って」
母「そう言うんです」
母「他にも色々尋ねてみたんですが、それも忘れていて」
母「ここ数日の記憶が、全部、なくなってたんです」
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:15:34.82 ID:bgmstPv8o
母「それで、私達は警察の方に連絡をした後で」
母「娘を病院に連れていって、精密検査をお願いしました」
母「警察の方が事情を話してくれたので、娘の検査は念入りに行われたのですが」
母「特に、異常はないと」
母「そうお医者様は言われました」
母「記憶が消えている事も話したのですが、脳の方にも異常は一切見られないという事で」
母「単に忘れてしまったとしか、考えられないと言われるんです」
母「でも、いくら子供とはいえ、数日前の記憶全部を忘れるなんて事があるんでしょうか?」
母「その前の事は覚えているのに」
母「そこだけが綺麗に、まるで記憶を消されでもしたかの様に忘れてしまうなんて」
母「そんな事、有り得るんでしょうか?」
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/08/03(水) 22:16:29.72 ID:bgmstPv8o
母「結局、娘がその三日の間、どこで何をしていたのかはわかりません」
母「警察の方が、家や娘の服などから犯人の痕跡が何かないかと調べたんですが」
母「それも一切、出ませんでしたから」
母「ただ、精密検査の結果、娘には何の異変もないとの事でしたし」
母「無事に戻ってきたので、事件として大きく扱われる事もありませんでした」
母「ええ、家の鍵も替えました。それからはそういった事はありませんでした」
母「それが、家の鍵を替えたからなのかはわかりませんが……」
母「不思議ですよね」
母「娘は、本当に三日の間、一体どこへ行ってたんでしょうか」
母「そして、どうして娘はUFOに拐われるなんて、思ったんでしょうか」
母「何より、どうして娘は『いなくなる日付』を予め知っていたんでしょうか」
母「そして、娘はどうして自分から外に出ていって」
母「その時の記憶を一切なくしてしまっているんでしょうか……」
母「未だにそれがわかりません」
母「娘は何も覚えてませんから」
男「少し不思議な話をしようか」女「いいよ」
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