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妹「電気つけないでぇっ!!!!」

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Part1
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/08(月) 23:59:11.24 ID: 4yIK5nqT0
妹「電気つけないでぇっ!!!!」
馬鹿でかい声が部屋に響いた。
家全体が揺れるくらいの叫び声に、思わず耳を塞ぎそうになる。
兄「す、すまん…」
妹「……」
そうすると、妹はパソコンに集中し始める。
カチ――カチというクリック音が部屋に鳴り渡る。
兄「ほ、ほら…正月ぐらいはさ…、部屋から出たらどうなんだ?」
妹「……」
お菓子のゴミや飲み物のペットボトルが乱雑した部屋。
妹の使っているパソコンデスク…といってもただのちゃぶ台だが、持ってきたお雑煮をそこに置いた。
そして――妹は、重度の引きこもり症だった。

2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:00:17.19 ID: Kav2TyQH0

(……)

慣れない臭いが漂う部屋の中――僕は適当に座ることにした。


兄「今日もそうやって一日中パソコンしてるつもり?」

妹「……」

モニターに向かい、ただ一点を見つめる妹の目。
どうやら返事は返ってきそうにない。

兄「学校も行かないで…毎日つまらなくないか?」

妹「…別に」

兄「オジサン達、1階に居るけど」

リビングのある1階には、ここ何年かぶりに来た親戚が集っている。
ただ、酒飲みの場と化している故、高校生の僕にとっては居ずらいのだが。

3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:01:12.10 ID: Kav2TyQH0

兄「…挨拶ぐらいしたら?」

妹「…いい」

兄「あっそう…」

僕は近くにあった漫画を手に取ると、ペラ――ペラとめくり読み始めた。





やがて夕方になり、窓の外は夕焼け一色に染まっている。

どうやら1階で騒いでいた親戚たちは帰ったようだった。

静かな時間が流れる。


5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:02:14.12 ID: Kav2TyQH0

すると、部屋の外…階段からドンッドンッという強い足音が聞こえてくる。

妹もそれを察知したのか、少し脅えている。


父「おい、妹っ!!!!」

勢いよく開いたドアの音と、父さんの罵声。
妹はその場でビクッと反応し、身をすくませた。

父「正月ぐらい挨拶ぐらいしたらどうだったんだ、ええ!!」

妹「……っ」

父さんは散らかった部屋の中をズカズカと進んでいくと、妹の腕を引っ張った。

9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:03:17.54 ID: Kav2TyQH0

妹「……いたっ、…い」

父「こんな暗くしょうもない部屋の中で…、風呂くらい入れ!!」

妹が無理やり父さんの手から逃れると、崩れるようにその場に座り込んだ。


兄「あの、父さん…そのくらいにさ」

父「兄ぃ、お前はいつも甘やかしすぎなんだ。厳しくやらんと引きこもりなんて直らん」

兄「まぁ、そうだけどさ…とりあえず、ちゃんと僕から言っておくから」


そして、父は僕と妹を交互に見比べると

父「…ったく」

そう言い、部屋を出て1階に帰っていった。


11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:04:29.11 ID: Kav2TyQH0

妹「……」

目に涙を溜めながら、すっかり体操座りをしてしまった妹の背中を撫で下ろす。

兄「ほら、父さん怒らすと怖いんだから…」

妹「……」

兄「お雑煮持ってきたんだから、食べようよ」

妹「……」

妹は腕に顔をうずめたまま、黙ったままでいた。
時々、泣き声のようなものが聴こえてくる。

(どうしたものか…)

12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:05:35.43 ID: Kav2TyQH0

兄「あ、そうだ…今月の小遣い…」

僕は財布から数千円を取り出すと、妹に差し出した。
一生懸命バイトで溜めた金。給料が入ると妹に少し与えてやっている。

妹「……」

兄「ここに置いておくね」

ちゃぶ台の上にそれを置くと、僕はそのまま部屋を立ち去った。


妹は、人と接することを拒んでいる。
いわゆる対人恐怖症ってやつだろうか?

小学校の高学年に上がってから虐めを受け――そのまま不登校。
それきり、学校には一度も行っていない。

13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:06:16.95 ID: Kav2TyQH0

そのせいなのか、妹は親からたびたび暴力を受けるようになった。
それを毎回、僕は介入して止めてやっている。

仕方が無いことなのかもしれない…

ただ――
両親の妹に対してのやり方は、もう虐待と言っても過言ではない。

妹を見かけるたびに罵声を放ち、酷い時には手を出す。
僕が学校やバイトに行っている時に、どんなことをされているのかもすら分からない。


だから、気付けば同情するようになっていた。

両親から、親戚から、世間から非難され続ける、ただ一人の妹のことを…。

15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:07:16.58 ID: Kav2TyQH0

次の日、帰りのホームルーム。

友人「んで妹がこう言ったのよ…」

前の席の友人と話している内、気がつくと妹の話題になっていた。

――。

友人「そういえば、おまえの妹って今何してんの? ウチの妹が全然学校来てないって言ってるけど」

兄「ああ…、いつも部屋で引きこもってるよ」

今頃、何しているんだろうか。
きっとパソコンしているんだろうか。

友人「対人恐怖症だっけ…? そういうの早く治さないとマズイんじゃないの」

兄「まあ、そうなんだが」

17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:08:02.62 ID: Kav2TyQH0

友人「将来とか心配すぎるだろ。精神科連れて行くとかさ…」

(……)

たしかに、妹は将来どうするつもりなのだろう?

あのまま引きこもった生活を続けていれば…
いずれ、両親から家を追い出されるかもしれない。

そうなったら、あの子はどうなるのだろう?

兄「そう、だな…」

もしかすると、あの子を救い出す義務があるのかもしれない。
たった一人の兄である自分が。ただ味方でいてあげられる自分こそが。

20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:08:44.29 ID: Kav2TyQH0

(まず、妹と普通に会話できるようにならないとな…)

だから僕は、妹と会話をする努力を始めた。


家に帰り、そのまま2階に昇り、妹の部屋をノックした。

兄「……」

居ないのかな…?
いや、そんなことは滅多にないはずだが。

そっとドアを開けてみると、部屋の中には誰もおらず、寂しくパソコンだけがついていた。

兄「…ん?」

(おかしいな?)

22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:09:32.49 ID: Kav2TyQH0

1階に駆け下り、リビングを探すと母さんが座っていた。

兄「あのさ、妹は?」


母さんは僕のことを一瞬見て、タバコの紫煙を吐き出し

母「知らない」

そう言って、それを灰皿に擦り付けタバコの火を消した。

37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:15:09.20 ID: Kav2TyQH0

兄「あいつ何処行ったんだろ…」

妹が部屋から出るなんて、珍しい他ない。

その後、しばらくしてから2階に上がった。
妹の部屋の前に立ち、どうせ居ないだろうと思いノックもせずにドアを開けた。

妹「……」

兄「あ…」

妹が下着姿で、タオルを巻いた妹の姿があった。

兄「あ、ご、ごごめんっ」

焦って謝り、急いで部屋から出てドアを閉める。

(風呂に入ってたのか…)

43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:20:40.54 ID: Kav2TyQH0

部屋の前に座り込んで数十分が経つと、僕はそっと妹の部屋をノックする。

兄「入って…いいか」

…返事は無かった。

兄「入るぞ」

そう言って静かにドアを開くと、妹は暗い部屋の中でパソコンをしていた。
いつも通りの光景。

散らかった部屋の中を歩き、僕は妹のすぐ隣に座った。

兄「いつもパソコンで何やってるんだ?」

優しく声を掛けると、妹は「別に…」とそっけない顔をして言った。

48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:24:40.20 ID: Kav2TyQH0

兄「そっか…。…学校には行く気ないのか?」

妹「……」

兄「一週間に一回くらいで…いいからさ」

妹「…行きたくない」

兄「そっか…」


ただ、モニターに向かって一点をみつめる妹。
クラスから虐めを受けた経験を持つ妹にとって、そんな場所に行くよりもこうして部屋でパソコンしているほうがいいのだろう。

(でも、いつまでもそんなことじゃ…)

53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:27:58.19 ID: Kav2TyQH0

ふと妹のパソコンの画面をみると、なにやらゲームをしているようだった。
キーボードに指を乗せ、小さいキャラクターを操作してモンスターを狩っている。

(オンラインゲーム、っていうんだっけか…? こういうの)

兄「……」

妹「……」

その後しばらく流れる沈黙…。
情けない話、こんな妹に何を話せばいいのか分からなかい。

兄「…あ、そうだ。どこか出かけないか?」

妹「……」

兄「可愛い服、たくさん買ってやるから…」

58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:34:51.20 ID: Kav2TyQH0

妹「…いらない」

涼しい顔して妹はそう言うと、近くにあった毛布に身を包み頭巾のようにかぶった。
まるで、僕を見ないように――視界から兄の姿を断ち切るとでも言うように。

(どうしたものか…)

その直後、部屋の扉が勢いよく開いた。
壊れるんじゃないかと思うほどの、すごい音が部屋に響いた。

思わず、僕と妹はビクッと反応してしまう。

母「ちょっと妹!! お前風呂場の電気消さなかっただろ!!」

床に散らばったペットボトルのゴミを蹴り飛ばし、部屋の中を進む。

61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:39:25.82 ID: Kav2TyQH0
妹が体をすくませている。怒り狂った母に対して脅えていのだ。

妹「――っ」

母が妹のシャツのえりを掴み、そのまま上へ勢いよく持ち上げた。

母「この馬鹿が!」

妹「…きゃっ」

そのまま引っ叩かれると、妹は後ろに投げ飛ばされる。

妹「…やめ」

母「うるさい!!」

母は足で妹の横腹を蹴り、腕を掴み無理やり立ち上がらせた。


65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:44:24.21 ID: Kav2TyQH0

妹「――っ、けほっ!」

そして、母の膝が腹に食い込み、妹がうめきを上げた。

ただ、兄である自分はポカーン…とその光景を見ているだけだった。
いつものように介入して止めなければ…そう思い立ち上がり

兄「そ、その辺にしなよ! 母さんっ」

母「タダ飯食らいが贅沢にパソコンなんか使ってんじゃねーよっ!」

僕の声を無視して妹を放り投げると、母はパソコンのコンセントを抜き投げ捨てた。

泣き叫ぶ妹の声が、部屋に響き渡っている。

72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:48:47.64 ID: Kav2TyQH0

兄「わかった!わかったから…俺から言っておくからもう止めてやりなよ!」

母の肩を両手で掴み、妹に振りかかる暴力を止める僕。


そして暫くし、母の怒りが静まると――

母「ったく…さっさとこの汚い部屋かたしておけよ」

そう妹に言い放ち、ドアを強く閉め母さんは部屋から出て行った。


兄「…大丈夫?」

妹「…うっ、…ぐすっ」

妹は泣きながらパソコンの電源を差し、スイッチを入れた…。


85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/03/09(火) 00:54:28.95 ID: Kav2TyQH0
兄「次怒られないように、ちゃんと部屋片付けような…」

妹「……」

妹の背中を撫でてやりながら、僕はそう言った。

本当に、父さんもそうだけど両親のやり方は乱暴で良くないと思う。
もっと優しく接してやるべきだと思うのに、2人はそれを理解していないのだ。

そして僕はその場から立ち上がると、一人で妹の部屋を片付け始めた…。





(ん…なんだこれ?)

散らかった物ゴミを袋に放り込んでいくと、部屋の片隅になにやらノートが落ちていることに気付いた。

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