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幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.

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Part8
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:38:57.77 ID:h5xVrpm/o
「今日、金曜日じゃん」
「そうだね」
「うちの妹、今週、給食当番だったみたいなんだよ」
「なんで妹のクラスの給食事情を知ってるんだよ……」
 佐藤は呆れていた。態度にちょっと余裕がある。非童貞の余裕。悔しい。
「で、俺はどうすればいい? やっぱ匂いとか嗅いどくべき? 兄として」
「やめといた方がいいんじゃないかな……」
 やめておくことにした。そもそも冗談だけど。
 実際、他の人も使うものだしね。うん。
 逆に考えると、別の生徒の兄が妹が使った給食着の匂いを嗅いでいるのかもしれないのだ。
 胃がむかむかしてくる。

155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:39:36.34 ID:h5xVrpm/o
 馬鹿な思考を終わらせたとき、誰かが俺の制服の裾を引っ張った。くいくい。
「ちょっといいかな?」
 幼馴染だった。
 呼ばれて廊下に出る。俺がついてくるのを確認すると、彼女は周囲に気を配りながら歩き始めた。
「あのね、実は……その」
 そこまで言ってから、幼馴染は何かに遠慮するみたいに言葉を詰まらせた。
 
 沈黙の中で俺の妄想ゲージがフルスロットル。
『実は先輩とは遊びで、あなたのことが好きなの』
 キャラじゃない。
『先輩、えっちへたなの!』
 キャラじゃない。聞かされてもうれしくない。
 どう妄想しても先輩を貶める方向に話が進む。俺って嫌な奴。

156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:40:01.52 ID:h5xVrpm/o
 妄想で時間を潰している間も、幼馴染は押し黙ったままだった。
 何かあったんだろうか、と少し心配になったところで、幼馴染が口を開く。
 同時に、その背中に声がかけられた。
 例の、幼馴染の彼氏。と、その友人と思しき男女三名。
 幼馴染は居心地悪そうに視線をあちこちにさまよわせた。
 そうこうしているうちに、先輩たちが幼馴染の名前を呼んだ。
「ごめん。ちょっといってくるね」
 気まずそうに目を伏せて、彼女は先輩たちに駆け寄っていった。
 何を言いたかったんだろう?
 気付けば、例の彼氏のうしろに並んでいた三人のうちの一人が、俺を睨んでいた。
 ……シリアスな感じがする。
 そのあと、始業の鐘が鳴るまで幼馴染は戻ってこなかった。

157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:40:33.26 ID:h5xVrpm/o
 休み時間、ふと気になってキンピラくんに話しかける。
「キンピラくんって童貞じゃないの?」
「死ね」
 キンピラくんはとてもフレンドリーだ。
「クラスメイトとして知っておきたいじゃん?」
 俺は彼が童貞と踏んでいた。なんか仕草から童貞っぽさが滲み出てる。かっこいいけど。
 なんだろう。童貞だけど不良、的な空気。
「童貞じゃねえよ」
 キンピラくんは不愉快そうに続けた。
「仲間が欲しくて必死だな、チェリー」
 せせら笑うキンピラくん。
 見下されてる感じ。
 ぶっちゃけ、キンピラくんの不良っぽい態度はあんまり怖くない。マスコット的ですらある。
 デフォルメされたチビキャラが煙草吸ってるような雰囲気。

158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:41:22.52 ID:h5xVrpm/o
「そっかそっか。キンピラくんは大人だったのか」
 適当に返事をする。
「おまえ信じてないだろ」
 彼は語気を荒げた。
「信じてる信じてる」
 軽口を叩く。彼は毒気を抜かれたように溜め息をついた。
「で、相手は誰だったの?」
「……俺、おまえのそういうところすげえ嫌いだわ」
 キンピラくんに嫌われた。
 クラスにはまだ童貞が隠れていそうだ。
 あんまりいじくりまわすのも可哀相なので、そこそこで切り上げる。


159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:41:58.95 ID:h5xVrpm/o
 昼休みに、屋上で屋上さんと話をする。
 屋上で屋上さんと話をする。奇妙な語感。
 屋上さんはツナサンドをかじりながら言った。
「好き」
「は?」
 深く動揺する俺をよそに、彼女は俺の胸の中に飛び込んできた。「ぽすん」と漫画みたいな音がする。
 なんだこれ。
 なんだこれ。
 エマージェンシー。
「私のこと、嫌い?」
 屋上さんが俺の顔を見上げる。美少女。
「嫌いじゃないけど」
 思わず目をそらす。どこからかいい匂い。柔らかな感触。
 彼女は俺の背に腕を回してぎゅっと力を込めた。
 胸が当たる。
 なんだこれ。
「じゃあ好き?」
「好きっていえば……好きだけど」

160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:42:25.79 ID:h5xVrpm/o
「じゃあ好きって言ってよ」
「ええー?」
 どう答えろというのだろう。
「四六時中も好きって言ってよ!」
 サザンっぽい要求をされた。
 どうしよう。
「あ……」
 脳が混乱している。甘い匂いに脳を侵される。どうしろっていうのよ? 頭の中で誰かが言った。やっちまえよ。頭の中のなおとが言った。
「愛してるの言葉じゃ足りないくらいに君が好きだ」
 消費者金融っぽい雰囲気の返事をした。
 そこで、チャイムが鳴った。
「はい、授業終わり」
 夢だった。

161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:43:03.78 ID:h5xVrpm/o
 せっかくだし、正夢になるかもしれないので屋上に向かう。
 屋上さんは今日も今日とてサンドウィッチをかじっていた。ツナサンド。正夢。
「愛してるの言葉じゃ足りないくらいに君が好きだ」
「は?」
 何を胡乱なことを言い始めとるんだこいつは、みたいな目で睨まれた。
 目は口ほどにものを言う。
「何寝言いってるの?」
 確かに、夢の中で言った台詞をそのまま繰り返しただけなので、寝言であってる。
「現実って厳しい」
「なんで落ち込むの?」
「いや、しばらく放っておいて欲しい」
 正夢なんてものを信じるなんて、俺はよっぽど恋愛的なサムシングに飢えていたらしい。
 屋上さんと雑談しながら昼食をとった。

162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:43:57.87 ID:h5xVrpm/o
 放課後、部活に行くかどうかを机に座って悩んでいると、ふと天啓を受けた。
「図書室に行くべし」
 その声は神秘的な響きを持って俺の脳を甘く溶かした。
 図書室。素敵な響き。文学少女。無口不思議系後輩。髪色は青か? 悩みどころだ。
 そんなわけで図書室に向かった。
 来なきゃよかった。
 天啓なんてものを信じるなんて、俺はよっぽど運命的なサムシングに飢えていたらしい。
「あれ。君は確か……」
 幼馴染の彼氏がいた。
 
「……ども」
 ふてぶてしい感じに挨拶をした。生意気な後輩っぽさを滲ませるのがポイントだ。目を合わせないで唇を突き出すとそれっぽくなる。
「君、あの子の友達だったよね」
 幼馴染のことだろう、と考えて、違和感を抱く。
『あの子』。
 ーーなんだろう、この違和感。
 胸の内側がぞわぞわする。
 何かを見逃している感じ。
 俺を睨む先輩。何かを言いそびれた幼馴染。それに、この人の態度。
 なにかがおかしい。

163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:44:05.37 ID:SueIwXG0o
ちょっとクスっときた

164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:44:25.68 ID:h5xVrpm/o
 黙りこんだ俺を不審に思ったのか、先輩が怪訝そうに眉根を寄せた。
「どうしたの?」
「いえ……」
 そもそも、どうしてこの人は俺のことを知っていたんだろう。
 幼馴染といつも一緒にいたから?
 
 知っていてもおかしくはない、けれどーー何か、不安が胸のうちで燻った。
 
「先輩、幼馴染と付き合ってるんですよね?」
 本人に直接きいたことがなかったと思い、訊ねてみる。
「ああ、……うん。まぁ」
 彼は気のない返事をした。
 ーーなんだ? この反応。
 答えにくいことを訊かれたように、先輩は頭を掻いた。
「まぁ、いろいろあってね」
 彼の態度があからさまにおかしいのか、それとも、俺が先輩に先入観を持っているせいで、粗探しをしようとしているのか。
 分からないけれど、何かがあるように思える。

165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:45:36.31 ID:h5xVrpm/o
「君には悪いと思ったけど」
「どういう意味です?」
「どういう意味って……」
 言ってから、先輩は何かに気付いたように口を覆った。怪しすぎるだろこの人。
「いや……君は彼女が好きなんじゃないかと思ってたから」
 ーーこの態度。
 
 なぜ、会ったこともないような後輩の恋心を気にかける必要がある?
 たとえば俺は、もし幼馴染と付き合うことになったって、幼馴染を好きだったかもしれない先輩のことなんて気にもかけないだろう。
 それなのに彼の態度はなんだろう。
 まるで、俺がいることを見越した上で幼馴染と付き合い始めたと言うような。
 でもーーただ好きなだけなら、なぜ俺がいることを気にかける必要がある?
 俺が彼女を好きだったかもしれないと思うなら、幼馴染の方に確認をとるだけでいいはずだ。

166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:46:03.52 ID:h5xVrpm/o
 先輩は落ちつかないように頬を掻いた。
 悪い人じゃない。そう思う。だから、幼馴染に対して何かをするというのではないのだろう。
 でも彼は、悪い人じゃない代わりに、自分の意志が強いというわけでもないのだろう。ヘタレっぽいのは見れば分かる。
 
 誰かが、何かをしているのか?
 正々堂々と告白して付き合いはじめたなら、なぜ「悪い」と思う必要があるのだろう。
 付き合い始めたなら、「彼の彼女」であって、「俺の幼馴染」ではなくなる。
 なぜ、幼馴染を横取りしたような言い方をするんだ?
 ーー後ろめたい手を使ったから?
 考えて、自分の妄想だけが先走っていることに気付く。ただ話したことのない後輩を相手に緊張しているだけかもしれない。
 何もおかしなところなんてない。そうだ。
 ーー君には悪いと思ったけど。
 馬鹿馬鹿しい。何を考えているんだろう。幼馴染に執着しているから、彼が悪いように見えるだけだ。
 俺はいまだに、彼が生粋の悪人で、幼馴染が彼にだまされているだけ、という展開を期待しているにすぎない。
 だから、彼が何かを企んでいるように見えるのだ。馬鹿な考えはやめろ。
 でもーーこの胸騒ぎ。なんだろう。何かが変だ。

167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:46:33.35 ID:h5xVrpm/o
 先輩が人のよさそうな表情で俺を見る。その顔は本物だろう。彼は善人だ。ーー俺の見る目が正しければ。
 彼が善人だとして、どんなパターンがあるだろう。
 幼馴染が何かを言いたげにして、先輩の友人が俺を睨んで、先輩の様子がおかしいという状況は。
 ーー俺を睨んだ先輩。
 幼馴染の話を聞いてみるべきかもしれない。
「そういえば、先輩。サッカー部はどうしたんですか?」
 彼は安堵したように溜息をついて、俺の質問に答える。
「テスト前だから休みだよ。今日から」
「ああ、そういえば」
 ちびっ子担任がそのようなことを言っていた。
 教室で悩んでいたとき、部室にいけ、という天啓がなかったことに心底安心する。危なく赤っ恥だ。
 ひょっとして、昨日が最後だったから、部長は俺に部活に出るかどうかを訊ねたんだろうか。
 俺がこれからどうしようかと考えていると、誰かが先輩に話しかけた。

168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:47:52.15 ID:h5xVrpm/o
 その顔を見て、また胸中で何かが疼いた。
 今朝、俺を睨んでいた女子の先輩だ。
 彼女は先輩の肩に手を置いて笑いかけたあと、俺の存在に気付いて顔をしかめた。
 あからさまに、邪魔者を見るような目。
「アンタ、ちょっと来て」
 彼女は俺の手を掴んで図書室の外へと誘導した。うしろから戸惑ったような先輩の声が聞こえた。
 彼女は図書室を出てすぐのところにある階段を下りて、誰もいない二年の廊下に俺を導いた。
 教室からは話し声が聞こえるけれど、ほとんどの生徒は既に帰っているか、他の場所にいるのだろう。
「アンタ、なんのつもり?」
「なんのつもり、と言われても」
 今朝からずっと思っていたが、この人は何かを誤解している。
 朝は幼馴染から話しかけてきたのだし、さっきは先輩から声をかけてきた。俺が何か行動を起こしているわけではない。

169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:48:18.29 ID:h5xVrpm/o
「何でアイツらの周りウロチョロしてるわけ?」
「どういう意味ですか?」
 女の先輩(面倒なので以下メデューサと呼称。目が異様にでかい。マスカラすごい)は俺を見下すように溜息をついた。
 
「とぼけなくても分かってるから。アイツの彼女に未練あるんでしょ?」
 幼馴染のことだろう。
「言っちゃ悪いけどさ、アンタ、振られたんだよ。ぶっちゃけ、未練がましくて気持ち悪い」
 メデューサの発言は続く。俺は彼女が言いたいことを言い終わるまで待つことにした。
 それにしてもーー彼女は何をそんなに焦っているのだろう。
「アイツになんか言いがかりでもつけてたわけ? 言っとくけど、あの二人、ホントに付き合ってるから」
 言われなくてもそうだと思っていたし、振られたとも思っていた。
 ーーメデューサがそんな発言をしなければ、疑うこともなかっただろう。

170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:48:47.36 ID:h5xVrpm/o
「それとも、どっかでなんかの噂でも聞いたわけ? 無責任な噂を信じるとか、馬鹿じゃないの?」
 それはつまり、何かの噂が流れる余地があるという意味だろうか。
 揚げ足を取るような思考。冷静になれ、と胸中で呟いた。それにしても一方的な人だ。
「あの二人の恋路、邪魔しないでくれる? アンタみたいなのにケチつけられたら可哀相だからさ」
 ーー何を、こんなに恐れているんだろう。彼女は何かが露呈することを恐れている。それは確実だ。
 確証はないけれど、ひょっとしたら、と思うと自然に考えが進んでいく。
「アンタみたいに見てるだけで恋してるみたいな気分になってる奴が一番イタいんだよ。もう二度と二人に近寄んな」
 メデューサは、最後にそれだけ言い残して去っていった。
 俺は彼女の言葉を踏まえて、改めて思考を組み立てなおした。
 ーー言いがかり、噂、「ホントに付き合ってる」。
 それを、なぜメデューサが言うのか?
 わざわざ「本当に付き合っている」と強調したということは、裏を返せばーー。

171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/27(水) 13:49:29.74 ID:h5xVrpm/o
 家に帰ってから、机に向かってテスト勉強を始める。
 といっても、教科書を眺めるだけだ。またPSPを起動する。いやになってすぐにやめた。
 携帯を開いてディスプレイの時計を確認する。五時。まだ早い。
 本当は今すぐにでも電話をかけたかったけれど、まだ出先かもしれない。
 それを思うと夜まで待つべきのように思える。
 
 気持ちを落ち着かせなければ。飲み物を求めて台所に行く。妹が料理の準備を始めていた。
 冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぐ。冷たさが喉を通って身体を伝っていく。緊張は解けなかった。
 電話の発明は相手の家まで行く手間を解消してくれたが、インターホンを押すのに必要な勇気までは肩代わりしてくれない。
 呼び出しボタンに指をあわせると心臓の鼓動が強まるのがその証拠だ。
 六時になる頃に妹が夕飯の準備を終えた。ひさびさに、母の帰りが早かった。何週間か振りに一緒に食事を取る。
 食事の量は足りる。妹はいつも、少し人数が増えても足りるくらいの量を作るからだ。
 妹の気持ちはよく分かっていたから、俺も二人分には多すぎる量を黙って食べた。それがいつも。
 ときどき、母か父かのどちらかと食事が一緒になると、妹はすごく喜ぶ。目に見えて上機嫌になる。
 大抵、帰ってきたとしても、そのときには俺たちが食べ終えているから。
 上機嫌になったあと、両方そろえばいいのに、と考えて、また落ち込む。見てれば分かる。

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