幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.
Part20
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 10:47:04.20 ID:cE6zqUV5o
「まずは修行だ。るー、何か欲しいプライズはあるか?」
「プライズってなんですか?」
「景品って意味だ。用例を挙げると『彼女はUFOキャッチャーのプライズを物欲しそうな顔で見つめていた』となる」
「ひとつ賢くなりました」
「で、あるか? 欲しいプライズ」
「じゃああのぬいぐるみで」
るーはUFOキャッチャーのプライズを物欲しそうな顔で見つめていた。キャラモノのぬいぐるみ。
「タクミ、いいか。男には、女が欲しがっているものを常に提供できる能力が必要とされる」
「なぜ?」
タクミはどうでもよさそうに訊ねた。
「モテるためだ」
「俺、モテなくてもいいよ」
「強がるな!」
俺は渾身の力を込めて叫んだ。
周囲の温度が少しだけあがった。
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 10:47:43.15 ID:cE6zqUV5o
「男として生まれたからには女にモテたいものなんだよ! 自然の摂理! 本能なの!」
るーが面白そうにこちらを眺めていた。サーカスの観客みたいな顔。俺は珍獣か。
タクミは気圧されたように頷いた。
「わ、分かった」
「では、女にモテるために求められる男としての能力とはなんだろう? タクミ少年」
「え、えっと……」
「そう。その通り。UFOキャッチャーのプライズを手に入れる技術だ」
「まだ何も答えてないんだけど」
「こればっかりは練習してコツを掴むしかない。栄えある未来を手に入れるために立ちふさがる試練だと思え」
「絶対に必要なタイミング来ないよ、その技術」
不服そうにするタクミに、一度実演してみせることにする。
るーが欲しがっていたプライズの入っている筐体を選ぶ。小銭を投入。
挑戦する。
失敗する。
「……とまぁ、こういうこともある」
「先生、頼りないです」
るーが楽しそうにくすくすと笑った。
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 10:48:22.73 ID:cE6zqUV5o
もう一度小銭を投入する。
失敗する。
「……まぁ、その、なんだ。こういうときもある」
「先生、とれないんですか?」
「とれないんじゃありません。ほら、タクミ、やってみろ」
小銭をみたび投入して、タクミに操作させる。
あっさり取った。
「取れたけど」
「ええー……」
なんだこの状況。神が俺をいじめているとしか思えない。
「ほら」
タクミは取り出し口に落ちてきたぬいぐるみをるーに手渡した。
こいつ、取った後の微妙な駆け引きまでできてやがる。
具体的にいうと、あまり露骨な感じにならず、あくまでそっけなくぶっきらぼうに振舞うが理想的なのだが、そこまで忠実にできている。
負けた。小学生に。完璧に。
これが主人公属性か。生まれて初めて目の当たりにした。末恐ろしい。
「ありがとう」
るーはタクミに笑顔でお礼を言った。
まぁいいか。見てて微笑ましいし。
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 10:49:20.31 ID:cE6zqUV5o
昼時に一度集合してフードコートへ向かう。ただでさえ混雑していた中で空いている席を見つけるのは困難だった。
モール内のレストランの受付で記名して席が空くのを待つ。
しばらく待ってから席に案内される。昼時とはいえ、時間が流れれば席も空く。
七名。
ぶっちゃけ狭い。
テーブル席に案内されたものの、明らかに人数オーバーだった。食器も置ける気がしない。
仕方ないので、俺と妹だけ他の店で軽く済ませることにした。
「買い物、終わったのか?」
話の種にと訊ねると、妹は小さく頷いた。
「私のはね。お姉ちゃんがまだだけど」
幼馴染は買い物は長い。
対して妹の買い物が短いのは、いつも誰かと一緒に行くせいで、気を遣って早めに済ませるのが癖になっているからだろう。
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 10:49:48.09 ID:cE6zqUV5o
「そっちはどうだったの?」
「なにが?」
「タクミくんとるーちゃん」
どうしたもこうしたもない。
「二人とも俺よりよっぽど大人です」
「まぁ、だろうけど」
冗談のつもりが、本気で肯定されて落ち込む。
「いや、冗談だよ?」
妹は後になってフォローした。落として上げるのは心臓に悪いのでやめていただきたい。
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 10:51:01.41 ID:cE6zqUV5o
買い物は結局、夕方まで続いた。
帰る頃には東の雲が紫に染まっていた。肩を並べて歩く。
通行人の邪魔をしないようにと歩道を歩くと、どうしても縦に長い列になる。
すると自然と、会話に混ざれる人間と混ざれない人間が出てきて、俺はどちらかというと後者になりやすい人間だった。
なんだかなぁ、という気持ち。
置いてけぼりの気持ち。
幼馴染、妹、後輩が並んで話をしている。
その少しうしろを、るーとタクミが並んで歩いている。
屋上さんが、そのうしろ。
俺がさらにうしろ。
「屋上さん」
「なに?」
一瞬、何かが頭の隅を過ぎった。
すぐに思い出す。休みに入る前、屋上で彼女に声をかけたときと、反応が似ていた。
でも、似ているだけで、ちょっと違う。髪形とかいろいろ。
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 10:51:34.29 ID:cE6zqUV5o
「なんでもない」
何かを言おうとしたのだけれど、何を言おうとしたかは思い出せなくて、結局そう言うしかなかった。
屋上さんは特に不審にも思わない様子で、また前を向き直る。
会話はないけど、悪くない。
でも、なんだかなぁ、という気持ち。
もうちょっと。
というのは贅沢か。
まぁ、今はいいか。
帰る途中で幼馴染たちとは別れた。妹と俺も、三姉妹を見送って家に入る。
るーが抱えたぬいぐるみが目に入った。
なんだか、似たような光景を見たことがあった。
思い出そうとしてもなかなかうまくいかないので、仕方なく諦める。
重要なことなら、そのうち思い出す。そうでないなら、忘れていてもかまわない。
その夜は涼しかったが、翌朝は虫刺されがひどかった。
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 10:51:59.06 ID:cE6zqUV5o
つづく
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/08/04(木) 10:52:54.62 ID:zwJS5jIgo
乙
やっぱ妹と屋上さん最高
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/08/04(木) 11:09:49.69 ID:bL2GLXAno
よし!
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 11:15:06.18 ID:s89F7OXUo
乙
相変わらず引き込まれるな
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/08/04(木) 11:16:52.74 ID:uLofCsJ50
屋上さんマジ最高
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/08/04(木) 11:16:53.86 ID:tXFC9t9s0
乙!
朝から読んでいたが、屋上さんは実在してたのか...
なおとと同じで妄想キャラかと思っていた
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) :2011/08/05(金) 10:51:58.03 ID:bB/E4vso0
チェリーと後輩は幼馴染を通して知り合ったから、幼馴染と屋上さんが顔見知りなのは当然。
でもそれだと、屋上さんもチェリーと同じ中学校だったことになるから、チェリーと屋上さんの面識が
なかったのがちょっと不思議になる。そもそも幼馴染は後輩はチェリーに紹介したけど、その姉である
屋上さんは紹介しなかったことになる。
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:33:26.73 ID:i4vZ5Kzfo
>>534
幼馴染と屋上さんが初めて話をしたのは高校に入ってからで、
描写してませんでしたが、幼馴染が後輩と屋上さんが姉妹だと知ったのは主人公に引き合わされたとき(>>464)です
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:34:08.17 ID:i4vZ5Kzfo
やたらと集まる回数は増えたものの、まったく誰とも会わない日だってないわけじゃない。
幼馴染と屋上さんが両方とも部活でいないときは、家には誰も来なかった。
昼過ぎにマエストロからメールが来る。久しぶりに会わないかという内容。
せっかくなのでサラマンダーとキンピラくんも呼んで、ファミレスで会うことにした。ファミレス超便利。
実際に会ってみると、話すべきことがないことに気付いて唖然とする。
「今日まで何してた?」
「寝てた」
「息してた」
「うぜえ死ね」
こんな感じ。暴言を吐きつつも集合してくれるキンピラくんはどう考えてもツンデレです。
男四人で向かい合って沈黙する。
暇を持て余していた。
普段だって何かを話しているわけではないのだが、久しぶりに会ったせいか、何かを言わなくてはならないような気になってしまう。
とはいえ、話すことは何もないので、
「暇だな」
「うん」
こんなやりとりを繰り返すばかりだ。
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:34:42.67 ID:i4vZ5Kzfo
ふと、ユリコさんに誘われたバーベキューの話をするのがまだだったことを思い出す。
彼らは三者三様の反応を見せた。
「肉あるか?」
「あるんじゃない? バーベキューだし」
「ならいく」
サラマンダーは三大欲求に正直だ。
「女いる?」
「いるけど、おまえその発言はどうなんだよ」
マエストロも三大欲求に正直だ。
「俺、休み中は起きれるかわかんねえから」
キンピラくんも三大欲求に正直だった。
欲の権化。
ある意味男らしい。
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:35:15.92 ID:i4vZ5Kzfo
「行けたらいくわ」
三人は魔法の言葉で話を終わらせた。
しばらく沈黙が落ちる。
みんな、会話なんてなくてもいいと思ってるのかもしれない。面倒になって考えるのをやめた。
友達ってそういうもんだろうか。話すことが何もなくて、会話が途切れても、不安に思わない関係。
だとすると、沈黙を不安がってしまう俺は、いったい彼らをどう思っているんだろう。
ひょっとしたら気を遣いすぎているのかもしれない。もうちょっと図々しくなってみようかな。
そのあとは、考え事をしながらマエストロの独り言に耳を傾けて時間を潰した。
「分かるか? 俺は彼女が欲しいんじゃない。ただ女の子にちやほやされたいんだ」
マエストロはいつだって欲求に素直だ。
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:35:55.12 ID:i4vZ5Kzfo
家に帰ると、妹はいなかった。友達とどこかに遊びに行っているのかもしれないし、一人で買い物にいったのかもしれない。
やることがないので、部屋に戻って課題を進める。少しずつではあるが、終わりが見えてきた。
それでも、暑さのせいでなかなか集中できず、結局ベッドに寝転がってだらだらと時間を潰すことにした。
ごろごろと転がる。
最近、周囲がずっと騒がしかったからか、ひとりでいるとなんとなく手持ち無沙汰な感じがする。
暇。
「ひーまー」
口に出してみる。
退屈が増した気がした。
「うあー!」
暑いので無意味に叫ぶ。
よけい暑くなる。
何をやっても逆効果、という日もある。
妹は日没前には帰ってきたが、俺の落ち着かない気分はちっともなくならなかった。
なんだか落ち着かない日。
こういうこともある。
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:36:32.68 ID:i4vZ5Kzfo
夕食を済ませた後、妹とリビングでだらける。
「なんかないの?」
妹も妹で暇を持て余している様子だった。「なんか」といわれても困る。
映画でもかけようかと思ったが、大抵のものはもう観てしまっていた。
仕方なく『2001年宇宙の旅』をかける。妹は開始三十分で眠ってしまった。
途中で最後まで見るのを諦める。時間を浪費している気がした。
ひどく蒸し暑い。寝るかという時間になっても、なかなか睡魔がやってこなかった。
夜中にベッドから起きて台所に下りる。冷蔵庫を開けて、麦茶をコップに注ぎ、いつものように飲み干した。
落ち着かない気持ちのまま、ふたたびベッドに潜り込む。
実際に眠れたのは、結構な時間が過ぎてからだった。
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:37:31.75 ID:i4vZ5Kzfo
ある朝、妹に体を揺すられて目を覚ますと、部屋には幼馴染とタクミがいた。
「プールに行こう」
幼馴染が楽しそうに言う。
仕方なく起き上がり、全員を追い出して着替える。プール。そういえば水着はどこにやったんだったか。
準備を終えてリビングに下りる。妹が朝食を作っていた。
なぜだか幼馴染たちの分まである。食べて来い。いや、別にいいのだけれど。
どうやら屋上さんたちには既に連絡してあったらしい(というより俺以外の人間にはあらかじめ知らされていたようだ)。
集合時間に合わせて移動する。主導したのは幼馴染だった。
彼女は妙にはしゃいでいる。もともと暑いのが苦手で、泳ぐのが好きというタイプだからか。
市民プールにつくと、駐輪場の屋根の下に三姉妹がいた。
このあたりにはあまりプールがないので仕方ないのだが、このプールはあまりよろしくない。
男子更衣室の窓が割れてたりする(ダンボールで補修されている)。
けっこう狭い(というか狭い)。
人気があまりない。人があまりいない。
言っても仕方ないことだし、とりあえずプールには違いないのだが。言い方を変えれば穴場でもある。
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:38:30.13 ID:i4vZ5Kzfo
学生の身分では入場料は高くつく。妹の分と自分の分を払う。タクミの分は幼馴染が払った。
俺が出すかとも考えたが、それは少し違うだろう、と自分で否定する。
更衣室はとうぜん男女で分かれているので、タクミは俺が引き受けることになった。
よく考えると男女比が2:5。
倍以上。恐ろしい。
やっぱり更衣室の窓は割れていた。まさか女子更衣室の窓まで割れているとは思わないが、これはちょっとした怠慢ではないだろうか。
着替えを終えてプールに出る。
タクミと一緒に軽めの準備運動をする。女勢はまだ時間がかかりそうだった。少しの間待機する。待つ時間は苦にはならなかった。
更衣室から最初に出てきたのは後輩とるーだった。
次いで妹。少し間をおいて幼馴染。一番遅かったのは屋上さん。
立ち並ぶ女性陣からとっさに目を逸らすと、幼馴染が不思議そうに首をかしげた。
「なんでそっぽ向いてるの?」
「眩しいから」
童貞には強すぎる光なのです。
「まずは修行だ。るー、何か欲しいプライズはあるか?」
「プライズってなんですか?」
「景品って意味だ。用例を挙げると『彼女はUFOキャッチャーのプライズを物欲しそうな顔で見つめていた』となる」
「ひとつ賢くなりました」
「で、あるか? 欲しいプライズ」
「じゃああのぬいぐるみで」
るーはUFOキャッチャーのプライズを物欲しそうな顔で見つめていた。キャラモノのぬいぐるみ。
「タクミ、いいか。男には、女が欲しがっているものを常に提供できる能力が必要とされる」
「なぜ?」
タクミはどうでもよさそうに訊ねた。
「モテるためだ」
「俺、モテなくてもいいよ」
「強がるな!」
俺は渾身の力を込めて叫んだ。
周囲の温度が少しだけあがった。
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 10:47:43.15 ID:cE6zqUV5o
「男として生まれたからには女にモテたいものなんだよ! 自然の摂理! 本能なの!」
るーが面白そうにこちらを眺めていた。サーカスの観客みたいな顔。俺は珍獣か。
タクミは気圧されたように頷いた。
「わ、分かった」
「では、女にモテるために求められる男としての能力とはなんだろう? タクミ少年」
「え、えっと……」
「そう。その通り。UFOキャッチャーのプライズを手に入れる技術だ」
「まだ何も答えてないんだけど」
「こればっかりは練習してコツを掴むしかない。栄えある未来を手に入れるために立ちふさがる試練だと思え」
「絶対に必要なタイミング来ないよ、その技術」
不服そうにするタクミに、一度実演してみせることにする。
るーが欲しがっていたプライズの入っている筐体を選ぶ。小銭を投入。
挑戦する。
失敗する。
「……とまぁ、こういうこともある」
「先生、頼りないです」
るーが楽しそうにくすくすと笑った。
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 10:48:22.73 ID:cE6zqUV5o
もう一度小銭を投入する。
失敗する。
「……まぁ、その、なんだ。こういうときもある」
「先生、とれないんですか?」
「とれないんじゃありません。ほら、タクミ、やってみろ」
小銭をみたび投入して、タクミに操作させる。
あっさり取った。
「取れたけど」
「ええー……」
なんだこの状況。神が俺をいじめているとしか思えない。
「ほら」
タクミは取り出し口に落ちてきたぬいぐるみをるーに手渡した。
こいつ、取った後の微妙な駆け引きまでできてやがる。
具体的にいうと、あまり露骨な感じにならず、あくまでそっけなくぶっきらぼうに振舞うが理想的なのだが、そこまで忠実にできている。
負けた。小学生に。完璧に。
これが主人公属性か。生まれて初めて目の当たりにした。末恐ろしい。
「ありがとう」
るーはタクミに笑顔でお礼を言った。
まぁいいか。見てて微笑ましいし。
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 10:49:20.31 ID:cE6zqUV5o
昼時に一度集合してフードコートへ向かう。ただでさえ混雑していた中で空いている席を見つけるのは困難だった。
モール内のレストランの受付で記名して席が空くのを待つ。
しばらく待ってから席に案内される。昼時とはいえ、時間が流れれば席も空く。
七名。
ぶっちゃけ狭い。
テーブル席に案内されたものの、明らかに人数オーバーだった。食器も置ける気がしない。
仕方ないので、俺と妹だけ他の店で軽く済ませることにした。
「買い物、終わったのか?」
話の種にと訊ねると、妹は小さく頷いた。
「私のはね。お姉ちゃんがまだだけど」
幼馴染は買い物は長い。
対して妹の買い物が短いのは、いつも誰かと一緒に行くせいで、気を遣って早めに済ませるのが癖になっているからだろう。
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 10:49:48.09 ID:cE6zqUV5o
「そっちはどうだったの?」
「なにが?」
「タクミくんとるーちゃん」
どうしたもこうしたもない。
「二人とも俺よりよっぽど大人です」
「まぁ、だろうけど」
冗談のつもりが、本気で肯定されて落ち込む。
「いや、冗談だよ?」
妹は後になってフォローした。落として上げるのは心臓に悪いのでやめていただきたい。
買い物は結局、夕方まで続いた。
帰る頃には東の雲が紫に染まっていた。肩を並べて歩く。
通行人の邪魔をしないようにと歩道を歩くと、どうしても縦に長い列になる。
すると自然と、会話に混ざれる人間と混ざれない人間が出てきて、俺はどちらかというと後者になりやすい人間だった。
なんだかなぁ、という気持ち。
置いてけぼりの気持ち。
幼馴染、妹、後輩が並んで話をしている。
その少しうしろを、るーとタクミが並んで歩いている。
屋上さんが、そのうしろ。
俺がさらにうしろ。
「屋上さん」
「なに?」
一瞬、何かが頭の隅を過ぎった。
すぐに思い出す。休みに入る前、屋上で彼女に声をかけたときと、反応が似ていた。
でも、似ているだけで、ちょっと違う。髪形とかいろいろ。
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 10:51:34.29 ID:cE6zqUV5o
「なんでもない」
何かを言おうとしたのだけれど、何を言おうとしたかは思い出せなくて、結局そう言うしかなかった。
屋上さんは特に不審にも思わない様子で、また前を向き直る。
会話はないけど、悪くない。
でも、なんだかなぁ、という気持ち。
もうちょっと。
というのは贅沢か。
まぁ、今はいいか。
帰る途中で幼馴染たちとは別れた。妹と俺も、三姉妹を見送って家に入る。
るーが抱えたぬいぐるみが目に入った。
なんだか、似たような光景を見たことがあった。
思い出そうとしてもなかなかうまくいかないので、仕方なく諦める。
重要なことなら、そのうち思い出す。そうでないなら、忘れていてもかまわない。
その夜は涼しかったが、翌朝は虫刺されがひどかった。
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 10:51:59.06 ID:cE6zqUV5o
つづく
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/08/04(木) 10:52:54.62 ID:zwJS5jIgo
乙
やっぱ妹と屋上さん最高
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/08/04(木) 11:09:49.69 ID:bL2GLXAno
よし!
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 11:15:06.18 ID:s89F7OXUo
乙
相変わらず引き込まれるな
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/08/04(木) 11:16:52.74 ID:uLofCsJ50
屋上さんマジ最高
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/08/04(木) 11:16:53.86 ID:tXFC9t9s0
乙!
朝から読んでいたが、屋上さんは実在してたのか...
なおとと同じで妄想キャラかと思っていた
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) :2011/08/05(金) 10:51:58.03 ID:bB/E4vso0
チェリーと後輩は幼馴染を通して知り合ったから、幼馴染と屋上さんが顔見知りなのは当然。
でもそれだと、屋上さんもチェリーと同じ中学校だったことになるから、チェリーと屋上さんの面識が
なかったのがちょっと不思議になる。そもそも幼馴染は後輩はチェリーに紹介したけど、その姉である
屋上さんは紹介しなかったことになる。
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:33:26.73 ID:i4vZ5Kzfo
>>534
幼馴染と屋上さんが初めて話をしたのは高校に入ってからで、
描写してませんでしたが、幼馴染が後輩と屋上さんが姉妹だと知ったのは主人公に引き合わされたとき(>>464)です
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:34:08.17 ID:i4vZ5Kzfo
やたらと集まる回数は増えたものの、まったく誰とも会わない日だってないわけじゃない。
幼馴染と屋上さんが両方とも部活でいないときは、家には誰も来なかった。
昼過ぎにマエストロからメールが来る。久しぶりに会わないかという内容。
せっかくなのでサラマンダーとキンピラくんも呼んで、ファミレスで会うことにした。ファミレス超便利。
実際に会ってみると、話すべきことがないことに気付いて唖然とする。
「今日まで何してた?」
「寝てた」
「息してた」
「うぜえ死ね」
こんな感じ。暴言を吐きつつも集合してくれるキンピラくんはどう考えてもツンデレです。
男四人で向かい合って沈黙する。
暇を持て余していた。
普段だって何かを話しているわけではないのだが、久しぶりに会ったせいか、何かを言わなくてはならないような気になってしまう。
とはいえ、話すことは何もないので、
「暇だな」
「うん」
こんなやりとりを繰り返すばかりだ。
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:34:42.67 ID:i4vZ5Kzfo
ふと、ユリコさんに誘われたバーベキューの話をするのがまだだったことを思い出す。
彼らは三者三様の反応を見せた。
「肉あるか?」
「あるんじゃない? バーベキューだし」
「ならいく」
サラマンダーは三大欲求に正直だ。
「女いる?」
「いるけど、おまえその発言はどうなんだよ」
マエストロも三大欲求に正直だ。
「俺、休み中は起きれるかわかんねえから」
キンピラくんも三大欲求に正直だった。
欲の権化。
ある意味男らしい。
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:35:15.92 ID:i4vZ5Kzfo
「行けたらいくわ」
三人は魔法の言葉で話を終わらせた。
しばらく沈黙が落ちる。
みんな、会話なんてなくてもいいと思ってるのかもしれない。面倒になって考えるのをやめた。
友達ってそういうもんだろうか。話すことが何もなくて、会話が途切れても、不安に思わない関係。
だとすると、沈黙を不安がってしまう俺は、いったい彼らをどう思っているんだろう。
ひょっとしたら気を遣いすぎているのかもしれない。もうちょっと図々しくなってみようかな。
そのあとは、考え事をしながらマエストロの独り言に耳を傾けて時間を潰した。
「分かるか? 俺は彼女が欲しいんじゃない。ただ女の子にちやほやされたいんだ」
マエストロはいつだって欲求に素直だ。
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:35:55.12 ID:i4vZ5Kzfo
家に帰ると、妹はいなかった。友達とどこかに遊びに行っているのかもしれないし、一人で買い物にいったのかもしれない。
やることがないので、部屋に戻って課題を進める。少しずつではあるが、終わりが見えてきた。
それでも、暑さのせいでなかなか集中できず、結局ベッドに寝転がってだらだらと時間を潰すことにした。
ごろごろと転がる。
最近、周囲がずっと騒がしかったからか、ひとりでいるとなんとなく手持ち無沙汰な感じがする。
暇。
「ひーまー」
口に出してみる。
退屈が増した気がした。
「うあー!」
暑いので無意味に叫ぶ。
よけい暑くなる。
何をやっても逆効果、という日もある。
妹は日没前には帰ってきたが、俺の落ち着かない気分はちっともなくならなかった。
なんだか落ち着かない日。
こういうこともある。
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:36:32.68 ID:i4vZ5Kzfo
夕食を済ませた後、妹とリビングでだらける。
「なんかないの?」
妹も妹で暇を持て余している様子だった。「なんか」といわれても困る。
映画でもかけようかと思ったが、大抵のものはもう観てしまっていた。
仕方なく『2001年宇宙の旅』をかける。妹は開始三十分で眠ってしまった。
途中で最後まで見るのを諦める。時間を浪費している気がした。
ひどく蒸し暑い。寝るかという時間になっても、なかなか睡魔がやってこなかった。
夜中にベッドから起きて台所に下りる。冷蔵庫を開けて、麦茶をコップに注ぎ、いつものように飲み干した。
落ち着かない気持ちのまま、ふたたびベッドに潜り込む。
実際に眠れたのは、結構な時間が過ぎてからだった。
ある朝、妹に体を揺すられて目を覚ますと、部屋には幼馴染とタクミがいた。
「プールに行こう」
幼馴染が楽しそうに言う。
仕方なく起き上がり、全員を追い出して着替える。プール。そういえば水着はどこにやったんだったか。
準備を終えてリビングに下りる。妹が朝食を作っていた。
なぜだか幼馴染たちの分まである。食べて来い。いや、別にいいのだけれど。
どうやら屋上さんたちには既に連絡してあったらしい(というより俺以外の人間にはあらかじめ知らされていたようだ)。
集合時間に合わせて移動する。主導したのは幼馴染だった。
彼女は妙にはしゃいでいる。もともと暑いのが苦手で、泳ぐのが好きというタイプだからか。
市民プールにつくと、駐輪場の屋根の下に三姉妹がいた。
このあたりにはあまりプールがないので仕方ないのだが、このプールはあまりよろしくない。
男子更衣室の窓が割れてたりする(ダンボールで補修されている)。
けっこう狭い(というか狭い)。
人気があまりない。人があまりいない。
言っても仕方ないことだし、とりあえずプールには違いないのだが。言い方を変えれば穴場でもある。
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 11:38:30.13 ID:i4vZ5Kzfo
学生の身分では入場料は高くつく。妹の分と自分の分を払う。タクミの分は幼馴染が払った。
俺が出すかとも考えたが、それは少し違うだろう、と自分で否定する。
更衣室はとうぜん男女で分かれているので、タクミは俺が引き受けることになった。
よく考えると男女比が2:5。
倍以上。恐ろしい。
やっぱり更衣室の窓は割れていた。まさか女子更衣室の窓まで割れているとは思わないが、これはちょっとした怠慢ではないだろうか。
着替えを終えてプールに出る。
タクミと一緒に軽めの準備運動をする。女勢はまだ時間がかかりそうだった。少しの間待機する。待つ時間は苦にはならなかった。
更衣室から最初に出てきたのは後輩とるーだった。
次いで妹。少し間をおいて幼馴染。一番遅かったのは屋上さん。
立ち並ぶ女性陣からとっさに目を逸らすと、幼馴染が不思議そうに首をかしげた。
「なんでそっぽ向いてるの?」
「眩しいから」
童貞には強すぎる光なのです。
幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.
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