幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.
Part13
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:20:44.21 ID:7TY25Q1bo
「私、自分のことしか考えられないというか、周りの様子が見えなくなるというか、感情的に行動してしまうというか、
ダメなのは分かってて直そうとしてるんだけど、どうしてもこう……」
メデューサはその大きな瞳を伏せた。
「ごめんなさい」
メデューサは謝った。俺はなんと返せばいいのか分からなくなった。
例の罵詈雑言はすさまじく恐ろしかったが、別段傷ついたりはしなかったし、実害はこうむっていない。
腹は立ったが、それは俺がそう思うからであって、メデューサからすれば自然な行動だったのだろう。
「別に怒ってませんよ」
自分のことしか考えられない、周りの様子が見えない、感情的に行動する、というのは別段悪いことではない。
周囲のことばかり気遣って、いつも周りとの距離を測っている、理性的な人間。
そういう人間よりは好感が持てる。
とはいえ、さんざん好き勝手言われたのは事実。何も悪いことしてないのに責められて、少し落ち込んだ。
だから、いいところと悪いところを相殺するということにした。
プラスマイナスゼロ。
「先輩に怒られました?」
「……君を呼び出したことには、うん」
「ならいいです」
メデューサは不思議そうな顔をしていた。
そのとき、チャイムが鳴った。メデューサは俺の方を気にしながらも、慌てて去っていった。
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:21:07.79 ID:7TY25Q1bo
放課後、帰る前に携帯を開くとメールが来ていた。妹。
買い物に行くから手伝って欲しいという旨。
了解の返信して、教室を出た。
家について荷物を部屋に置く。間を置かずに妹が帰ってきた。肩を並べて玄関を出る。
ファミレスやコンビニを通過してさらに五分歩く。いつも行く古いスーパー。
店内に入る。ひんやりとした冷房の空気。
生鮮食品が並ぶ。魚、肉、野菜、果物。
「今年、スイカちっちゃいよね」
「メロンくらい小さいな」
昔はもっと大きかった気がする。あるいは俺たちが知らず知らず歳を取ったのか。
そうかもしれない。毎年こんな会話をしている気がする。
「なにが食べたい?」
「ハンバーグ」
素直に答えたら変な顔をされた。
「……今、子持ちの主婦の気持ちが分かった気がする」
俺が子供ですか。
「どんな感じ?」
「しょうがないな、って気持ち」
完全に子供扱いだった。
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:21:47.85 ID:7TY25Q1bo
妹は商品を次々とカゴに突っ込んでいく。
麺系の食品が多かった。ハンバーグに関係がありそうだったのは、合挽き肉とハンバーグヘルパーのみ。
楽だしね、ハンバーグヘルパー。
俺はカゴを持ちながら妹が買い物をする様子を見ていた。
不意に思うところがあって、その横顔に話しかける。
「なんか欲しいものとかある?」
「……そういうあからさまな質問、される側としてはすっごく困るんだけど」
察された。
もうすぐ妹の誕生日なのです。ちょうどテスト明けの日曜。
「今のところ、何か思いついてるの?」
「そうあからさまに訊かれると、考えてる側としてはすごく困るわけですが」
まぁ、別段サプライズを狙ったわけでもなし。
「夏だし、浴衣がいいかなと思ったんだけど」
「浴衣て」
妹はあきれ果てたような表情になった。
「いくらするか知ってる?」
「安いのなら一万は超えないでしょう」
贈る側の言葉としては最悪だった。
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:22:26.21 ID:7TY25Q1bo
「そりゃそうだけど、いくら安くてもプレゼントにさらっと出す金額じゃないでしょ」
「うん、まぁ」
「第一、どうせ夏祭りのときくらいしか着ないし」
「うん」
「着付けできないし」
「うん」
サイズが分からないし、柄のこともあるので、結局は没になった案なのだが。
そもそも自分で選んだ方がいいだろうし、夏祭りの前にはどうせ買うことになるだろうから。
どちらにせよ、なにを選ぶにせよ、結局、俺の金というよりは、親の金で買うのだから格好がつかない。
「じゃあ、いらない?」
妹は少し黙ってから、
「……そうじゃないけど」
呟いた。
照れていたらしい。
着付けはユリコさんに頼もう、と密かに誓った。
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:22:55.54 ID:7TY25Q1bo
「でも、浴衣は、ちょっと、だめ」
「なんで?」
「もったいないもん」
よく分からないことを言う。
「年に一回だけでしょ、着るの。どうせならいつも使うものがいい」
難しい注文をされた。
「つまり、俺をいつも感じていたいと」
「そうじゃなくて」
渾身の冗談だったが、あっさりとかわされた。
「せっかくだからね」
とりあえず、何か考えておこう
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:23:36.05 ID:7TY25Q1bo
荷物を二人で分けて運ぶ。全部を持とうとしたけれど難しかったし、意地を張るほどのことでもなかった。
帰り道では、どちらも言葉を発しなかった。やがて家に着くというところで、突然強い雨が降り出した。
慌てて家に入る。さいわい少し濡れただけで済んだ。
開けっ放しにしていた窓を閉める。家中の窓を確認してから料理を手伝おうとキッチンに向かったところで、妹の大声が響いた。
「わあっ! うわあっ! いやあ!」
ほとんど悲鳴だった。
慌ててキッチンに入ると、緑色の何かが飛び跳ねていた。
「かえる! かえるー! かえるがいる!」
めちゃくちゃ怯えていた。
かくいう俺も、
「うわあ! なんだこいつどっから入った! こっちくんな! あ、そっちにもいくなっ!」
半狂乱だった。
最終的にはなんとか蛙を屋外追放できたが、他にも隠れているんじゃないかとしばらくのあいだ落ち着かなかった。
いつから蛙を怖がるようになったんだろう。大人になったのかもしれないなあ、と少し切ない気持ちになった。
料理の手伝いを申し出ると、ひたすら合挽き肉とハンバーグヘルパーを混ぜ合わせたものをこねさせられた。
言うまでもなく夕食はハンバーグだった。いつのまに用意したのかデミグラス的なソースまであった。
その夜はずっとプレゼントのことを考えていたが、いいと思える案はなかなか浮かんでこなかった。
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:24:02.84 ID:7TY25Q1bo
つづく
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:46:01.73 ID:nP4HO/nDO
乙。
かえる可愛い
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:47:21.55 ID:nP4HO/nDO
なんでかえる可愛いんだwwwwww
かえるを怖がる妹、でした
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:18:06.08 ID:JI5KpnyFo
テストが着実に近付いていた。
ろくに勉強もしないまま、テスト前期間はあっという間に過ぎていく。
サラマンダーやマエストロはなんだかんだで真面目な人種で、残された時間を使って器用に勝率を上げ続けているだろう。
幼馴染も一見普段どおりだったが、彼女はそもそも普段から少しずつ勉強しているタイプだった。
屋上さんは部活がないとストレスがたまるらしく、微妙に声をかけづらい雰囲気だったが、相変わらずツナサンドをかじっていた。
一応、俺もテスト勉強はしていたものの、どこまで効果があるかは怪しいものだった。しないよりはマシだと信じるしかない。
一問でも解ける問題が増えれば、点を取れる確率はあがっていくわけだし。
テスト開始前日、幼馴染と妹の誕生日について話をした。
「プレゼント、決まってるの?」
「いや、それが……」
まだ決まっていない。
CDや本なんて買っても喜ぶタイプじゃないし、化粧品だとまだ早いような気がする。
かといって服なんかは自分で選びたいだろうし、アクセサリーは買っても学校につけていけない。
ぬいぐるみなんかを喜ぶタイプでもない。難しい。
「去年はなんだったっけ?」
「エプロン」
それまで使っていたのが家に置いてあった母のお下がり(ろくに使ってない)だったので、新しいのを買ったのだ。
あまりわざとらしいのは個人的に嫌だったので、水色のシンプルなものにした。気に入ってるらしい。
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:18:46.45 ID:JI5KpnyFo
「とりあえず、考えてもちっとも思いつかないので、土曜につれまわして自分で選ばせることにした」
幼馴染は微妙な顔をしていたが、比較的マシな案だと思えた。
そこで俺が選んだものと妹が欲しがったものを渡せば一石二鳥。我ながら良い案。
「おじさんたちは?」
幼馴染が尋ねる。少し戸惑った。
「いつも通りだな」
彼女は納得したように頷く。
「まぁ、当たり前っていったら当たり前だけど」
「そうでもないだろ」
「そう?」
彼女は不思議そうに首をかしげる。俺が間違っているような気分になってきた。
俺たちは当たり前だと思ってはいけないのです。
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:19:32.18 ID:JI5KpnyFo
昼休み、屋上にいくと、彼女はやはりそこにいた。
屋上さんはサンドウィッチを食べながら単語帳をめくっている。
「……お勉強ですか」
もぐもぐとサンドウィッチを咀嚼しながら彼女は頷いた。
「ねえ、屋上さん、自分が誕生日プレゼントをもらうならなにがいい?」
参考までに訊いてみることにした。
「なんでもいいかな」
気のない返事。
「なんだってうれしいもんでしょ。プレゼントって。あることが重要なのであって」
適当かと思えば、案外まじめな意見。
とはいえ何の参考にもならなかった。
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:20:07.11 ID:JI5KpnyFo
「じゃあ、兄弟っている?」
「妹が二人」
「誕生日にプレゼントってあげてる?」
「まぁ、一応ね」
頷いてから、彼女は俺に疑問を返した。
「誰かの誕生日?」
「妹」
「いるんだ」
彼女は少し意外そうにしていた。
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:20:59.17 ID:JI5KpnyFo
話題がなくなる。俺は必死になって頭の中をあさり話の種を探した。
できれば夏休みになるまえまでに距離を詰めておきたいという下心。
四十連休の間、ずっと会わなかったら忘れられてしまいそうだ。
とはいえ、本当に距離が縮まったら、それはそれで戸惑ってしまうだろう。
このくらいの距離感がちょうどいい、という見方もできる。
ずるいかもしれない。
「ところで屋上さん、ちょっと気になったんだけどさ」
「なに?」
「たとえばここで、女子が着替えてるとするじゃん?」
「何言ってるの?」
頭大丈夫? 的な目で見られる。
「でさ、じっと見てるとするよね、俺が」
心配そうに見つめられる。
照れる。
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:21:51.38 ID:JI5KpnyFo
「でも、下着とか一切見えないんだよ、不思議と」
「さっきから何が言いたいのかまったく分からないんだけど」
「たとえば屋上さんが制服からジャージに着替えるとするでしょう」
「ええ」
「そのとき、屋上さんはスカートのまま下にジャージを履いて、そのあとスカートを脱ぐよね?」
少し考え込んだ様子の屋上さんは、やがて「ああ」と納得するような声を漏らした。
「それが?」
「女の子っていつのまにああいう技術を習得するの?」
彼女は少し呆れてながら、ちょっとだけ考えて、俺の疑問に答えてくれた。
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:22:28.82 ID:JI5KpnyFo
「たぶん、男子の着替えって、周りに人がいても気にしないんだよね?」
「ああ、まぁ」
男子同士でも気にならないし、女子がいても、別になんとも思わない。
騒がれたらまずいので目の前では着替えないだけで。
「でも女子って、男子だろうと女子だろうと、見られるのが嫌なわけね」
「……女子だろうと?」
「女子だろうと。ていうか、男子なら恥ずかしいだけだけど、女子だと本当に見られたくない」
なんとなく理由は想像がつくものの、今まで気付きもしなかった感覚だった。
「それで、毎回毎回隠しながら着替えているから、もはや習性」
習性。面白い言葉が出た。習性だったのか。
和やかな会話をしながら、屋上さんと昼食をとった。
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:22:56.97 ID:JI5KpnyFo
テスト前日の夜は必死に勉強をした。
一夜漬け。とはいっても付け焼刃にしかならないと分かっていても、必死になってノートにかじりつく。
早めに眠って、翌日に備える。万全の準備をした。
が、それだけ前準備をしていたにもかかわらず、終わってみればテストの手ごたえはほとんどなかった。
「だいたいさ、おかしいだろ」
俺の呟きに、幼馴染は心底同情するような視線を向けた。
「だって、テストに出ることってだいたい教科書に載ってるじゃん。だったら、分からないことがあったら教科書を見ればいいわけで」
俺は大真面目に言ったつもりだったのだが、彼女は苦笑するだけで同意はしてくれなかった。
元素周期表なんてものは必要としている奴が壁にでも貼っておけばいい。本当に必要としているならそのうち覚えてる。
家に帰ってからもしばらく憂鬱な気分は続いたが、終わったことをずっと考えていても仕方ないので、俺は土曜日のことを考えた。
一応、妹に行き先と目的を告げて出かけることは言ってある。
財布をいつもより厚くしておく。
妹だけに決めさせるのも申し訳ないので、俺もいくつか案を考えておいたが、実際に見て気に入ったものがあればそれにすればいいだろう。
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:23:38.54 ID:JI5KpnyFo
ベッドに倒れこんで一日の反省をした。
勉強、せねばなるまい。
蝉の声に耳を傾けてしばらくぼーっとしていると、あるときを境にその音が耳が痛くなるほど大きくなった。
窓に目を向けると、蝉が網戸に止まっていた。
「おお! すげえ! 近い!」
思わず携帯で写メる。
蝉の腹の画像がデータフォルダに保存された。
夏だなぁ。
網戸を一度開けて、がんっ! と閉めなおした。蝉は羽を広げてどこかに飛んでいく。
もう一度がらりと開ける。青い空が広がっていた。
「夏ーーーーッ!」
思わず叫ぶ。
近所の犬が呼応するように吼えた。
子供たちの笑い声が聞こえる。
テストは終わった。
もう夏休みは目前だ。
「私、自分のことしか考えられないというか、周りの様子が見えなくなるというか、感情的に行動してしまうというか、
ダメなのは分かってて直そうとしてるんだけど、どうしてもこう……」
メデューサはその大きな瞳を伏せた。
「ごめんなさい」
メデューサは謝った。俺はなんと返せばいいのか分からなくなった。
例の罵詈雑言はすさまじく恐ろしかったが、別段傷ついたりはしなかったし、実害はこうむっていない。
腹は立ったが、それは俺がそう思うからであって、メデューサからすれば自然な行動だったのだろう。
「別に怒ってませんよ」
自分のことしか考えられない、周りの様子が見えない、感情的に行動する、というのは別段悪いことではない。
周囲のことばかり気遣って、いつも周りとの距離を測っている、理性的な人間。
そういう人間よりは好感が持てる。
とはいえ、さんざん好き勝手言われたのは事実。何も悪いことしてないのに責められて、少し落ち込んだ。
だから、いいところと悪いところを相殺するということにした。
プラスマイナスゼロ。
「先輩に怒られました?」
「……君を呼び出したことには、うん」
「ならいいです」
メデューサは不思議そうな顔をしていた。
そのとき、チャイムが鳴った。メデューサは俺の方を気にしながらも、慌てて去っていった。
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:21:07.79 ID:7TY25Q1bo
放課後、帰る前に携帯を開くとメールが来ていた。妹。
買い物に行くから手伝って欲しいという旨。
了解の返信して、教室を出た。
家について荷物を部屋に置く。間を置かずに妹が帰ってきた。肩を並べて玄関を出る。
ファミレスやコンビニを通過してさらに五分歩く。いつも行く古いスーパー。
店内に入る。ひんやりとした冷房の空気。
生鮮食品が並ぶ。魚、肉、野菜、果物。
「今年、スイカちっちゃいよね」
「メロンくらい小さいな」
昔はもっと大きかった気がする。あるいは俺たちが知らず知らず歳を取ったのか。
そうかもしれない。毎年こんな会話をしている気がする。
「なにが食べたい?」
「ハンバーグ」
素直に答えたら変な顔をされた。
「……今、子持ちの主婦の気持ちが分かった気がする」
俺が子供ですか。
「どんな感じ?」
「しょうがないな、って気持ち」
完全に子供扱いだった。
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:21:47.85 ID:7TY25Q1bo
妹は商品を次々とカゴに突っ込んでいく。
麺系の食品が多かった。ハンバーグに関係がありそうだったのは、合挽き肉とハンバーグヘルパーのみ。
楽だしね、ハンバーグヘルパー。
俺はカゴを持ちながら妹が買い物をする様子を見ていた。
不意に思うところがあって、その横顔に話しかける。
「なんか欲しいものとかある?」
「……そういうあからさまな質問、される側としてはすっごく困るんだけど」
察された。
もうすぐ妹の誕生日なのです。ちょうどテスト明けの日曜。
「今のところ、何か思いついてるの?」
「そうあからさまに訊かれると、考えてる側としてはすごく困るわけですが」
まぁ、別段サプライズを狙ったわけでもなし。
「夏だし、浴衣がいいかなと思ったんだけど」
「浴衣て」
妹はあきれ果てたような表情になった。
「いくらするか知ってる?」
「安いのなら一万は超えないでしょう」
贈る側の言葉としては最悪だった。
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:22:26.21 ID:7TY25Q1bo
「そりゃそうだけど、いくら安くてもプレゼントにさらっと出す金額じゃないでしょ」
「うん、まぁ」
「第一、どうせ夏祭りのときくらいしか着ないし」
「うん」
「着付けできないし」
「うん」
サイズが分からないし、柄のこともあるので、結局は没になった案なのだが。
そもそも自分で選んだ方がいいだろうし、夏祭りの前にはどうせ買うことになるだろうから。
どちらにせよ、なにを選ぶにせよ、結局、俺の金というよりは、親の金で買うのだから格好がつかない。
「じゃあ、いらない?」
妹は少し黙ってから、
「……そうじゃないけど」
呟いた。
照れていたらしい。
着付けはユリコさんに頼もう、と密かに誓った。
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:22:55.54 ID:7TY25Q1bo
「でも、浴衣は、ちょっと、だめ」
「なんで?」
「もったいないもん」
よく分からないことを言う。
「年に一回だけでしょ、着るの。どうせならいつも使うものがいい」
難しい注文をされた。
「つまり、俺をいつも感じていたいと」
「そうじゃなくて」
渾身の冗談だったが、あっさりとかわされた。
「せっかくだからね」
とりあえず、何か考えておこう
荷物を二人で分けて運ぶ。全部を持とうとしたけれど難しかったし、意地を張るほどのことでもなかった。
帰り道では、どちらも言葉を発しなかった。やがて家に着くというところで、突然強い雨が降り出した。
慌てて家に入る。さいわい少し濡れただけで済んだ。
開けっ放しにしていた窓を閉める。家中の窓を確認してから料理を手伝おうとキッチンに向かったところで、妹の大声が響いた。
「わあっ! うわあっ! いやあ!」
ほとんど悲鳴だった。
慌ててキッチンに入ると、緑色の何かが飛び跳ねていた。
「かえる! かえるー! かえるがいる!」
めちゃくちゃ怯えていた。
かくいう俺も、
「うわあ! なんだこいつどっから入った! こっちくんな! あ、そっちにもいくなっ!」
半狂乱だった。
最終的にはなんとか蛙を屋外追放できたが、他にも隠れているんじゃないかとしばらくのあいだ落ち着かなかった。
いつから蛙を怖がるようになったんだろう。大人になったのかもしれないなあ、と少し切ない気持ちになった。
料理の手伝いを申し出ると、ひたすら合挽き肉とハンバーグヘルパーを混ぜ合わせたものをこねさせられた。
言うまでもなく夕食はハンバーグだった。いつのまに用意したのかデミグラス的なソースまであった。
その夜はずっとプレゼントのことを考えていたが、いいと思える案はなかなか浮かんでこなかった。
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:24:02.84 ID:7TY25Q1bo
つづく
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:46:01.73 ID:nP4HO/nDO
乙。
かえる可愛い
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/30(土) 10:47:21.55 ID:nP4HO/nDO
なんでかえる可愛いんだwwwwww
かえるを怖がる妹、でした
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:18:06.08 ID:JI5KpnyFo
テストが着実に近付いていた。
ろくに勉強もしないまま、テスト前期間はあっという間に過ぎていく。
サラマンダーやマエストロはなんだかんだで真面目な人種で、残された時間を使って器用に勝率を上げ続けているだろう。
幼馴染も一見普段どおりだったが、彼女はそもそも普段から少しずつ勉強しているタイプだった。
屋上さんは部活がないとストレスがたまるらしく、微妙に声をかけづらい雰囲気だったが、相変わらずツナサンドをかじっていた。
一応、俺もテスト勉強はしていたものの、どこまで効果があるかは怪しいものだった。しないよりはマシだと信じるしかない。
一問でも解ける問題が増えれば、点を取れる確率はあがっていくわけだし。
テスト開始前日、幼馴染と妹の誕生日について話をした。
「プレゼント、決まってるの?」
「いや、それが……」
まだ決まっていない。
CDや本なんて買っても喜ぶタイプじゃないし、化粧品だとまだ早いような気がする。
かといって服なんかは自分で選びたいだろうし、アクセサリーは買っても学校につけていけない。
ぬいぐるみなんかを喜ぶタイプでもない。難しい。
「去年はなんだったっけ?」
「エプロン」
それまで使っていたのが家に置いてあった母のお下がり(ろくに使ってない)だったので、新しいのを買ったのだ。
あまりわざとらしいのは個人的に嫌だったので、水色のシンプルなものにした。気に入ってるらしい。
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:18:46.45 ID:JI5KpnyFo
「とりあえず、考えてもちっとも思いつかないので、土曜につれまわして自分で選ばせることにした」
幼馴染は微妙な顔をしていたが、比較的マシな案だと思えた。
そこで俺が選んだものと妹が欲しがったものを渡せば一石二鳥。我ながら良い案。
「おじさんたちは?」
幼馴染が尋ねる。少し戸惑った。
「いつも通りだな」
彼女は納得したように頷く。
「まぁ、当たり前っていったら当たり前だけど」
「そうでもないだろ」
「そう?」
彼女は不思議そうに首をかしげる。俺が間違っているような気分になってきた。
俺たちは当たり前だと思ってはいけないのです。
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:19:32.18 ID:JI5KpnyFo
昼休み、屋上にいくと、彼女はやはりそこにいた。
屋上さんはサンドウィッチを食べながら単語帳をめくっている。
「……お勉強ですか」
もぐもぐとサンドウィッチを咀嚼しながら彼女は頷いた。
「ねえ、屋上さん、自分が誕生日プレゼントをもらうならなにがいい?」
参考までに訊いてみることにした。
「なんでもいいかな」
気のない返事。
「なんだってうれしいもんでしょ。プレゼントって。あることが重要なのであって」
適当かと思えば、案外まじめな意見。
とはいえ何の参考にもならなかった。
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:20:07.11 ID:JI5KpnyFo
「じゃあ、兄弟っている?」
「妹が二人」
「誕生日にプレゼントってあげてる?」
「まぁ、一応ね」
頷いてから、彼女は俺に疑問を返した。
「誰かの誕生日?」
「妹」
「いるんだ」
彼女は少し意外そうにしていた。
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:20:59.17 ID:JI5KpnyFo
話題がなくなる。俺は必死になって頭の中をあさり話の種を探した。
できれば夏休みになるまえまでに距離を詰めておきたいという下心。
四十連休の間、ずっと会わなかったら忘れられてしまいそうだ。
とはいえ、本当に距離が縮まったら、それはそれで戸惑ってしまうだろう。
このくらいの距離感がちょうどいい、という見方もできる。
ずるいかもしれない。
「ところで屋上さん、ちょっと気になったんだけどさ」
「なに?」
「たとえばここで、女子が着替えてるとするじゃん?」
「何言ってるの?」
頭大丈夫? 的な目で見られる。
「でさ、じっと見てるとするよね、俺が」
心配そうに見つめられる。
照れる。
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:21:51.38 ID:JI5KpnyFo
「でも、下着とか一切見えないんだよ、不思議と」
「さっきから何が言いたいのかまったく分からないんだけど」
「たとえば屋上さんが制服からジャージに着替えるとするでしょう」
「ええ」
「そのとき、屋上さんはスカートのまま下にジャージを履いて、そのあとスカートを脱ぐよね?」
少し考え込んだ様子の屋上さんは、やがて「ああ」と納得するような声を漏らした。
「それが?」
「女の子っていつのまにああいう技術を習得するの?」
彼女は少し呆れてながら、ちょっとだけ考えて、俺の疑問に答えてくれた。
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:22:28.82 ID:JI5KpnyFo
「たぶん、男子の着替えって、周りに人がいても気にしないんだよね?」
「ああ、まぁ」
男子同士でも気にならないし、女子がいても、別になんとも思わない。
騒がれたらまずいので目の前では着替えないだけで。
「でも女子って、男子だろうと女子だろうと、見られるのが嫌なわけね」
「……女子だろうと?」
「女子だろうと。ていうか、男子なら恥ずかしいだけだけど、女子だと本当に見られたくない」
なんとなく理由は想像がつくものの、今まで気付きもしなかった感覚だった。
「それで、毎回毎回隠しながら着替えているから、もはや習性」
習性。面白い言葉が出た。習性だったのか。
和やかな会話をしながら、屋上さんと昼食をとった。
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:22:56.97 ID:JI5KpnyFo
テスト前日の夜は必死に勉強をした。
一夜漬け。とはいっても付け焼刃にしかならないと分かっていても、必死になってノートにかじりつく。
早めに眠って、翌日に備える。万全の準備をした。
が、それだけ前準備をしていたにもかかわらず、終わってみればテストの手ごたえはほとんどなかった。
「だいたいさ、おかしいだろ」
俺の呟きに、幼馴染は心底同情するような視線を向けた。
「だって、テストに出ることってだいたい教科書に載ってるじゃん。だったら、分からないことがあったら教科書を見ればいいわけで」
俺は大真面目に言ったつもりだったのだが、彼女は苦笑するだけで同意はしてくれなかった。
元素周期表なんてものは必要としている奴が壁にでも貼っておけばいい。本当に必要としているならそのうち覚えてる。
家に帰ってからもしばらく憂鬱な気分は続いたが、終わったことをずっと考えていても仕方ないので、俺は土曜日のことを考えた。
一応、妹に行き先と目的を告げて出かけることは言ってある。
財布をいつもより厚くしておく。
妹だけに決めさせるのも申し訳ないので、俺もいくつか案を考えておいたが、実際に見て気に入ったものがあればそれにすればいいだろう。
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/31(日) 12:23:38.54 ID:JI5KpnyFo
ベッドに倒れこんで一日の反省をした。
勉強、せねばなるまい。
蝉の声に耳を傾けてしばらくぼーっとしていると、あるときを境にその音が耳が痛くなるほど大きくなった。
窓に目を向けると、蝉が網戸に止まっていた。
「おお! すげえ! 近い!」
思わず携帯で写メる。
蝉の腹の画像がデータフォルダに保存された。
夏だなぁ。
網戸を一度開けて、がんっ! と閉めなおした。蝉は羽を広げてどこかに飛んでいく。
もう一度がらりと開ける。青い空が広がっていた。
「夏ーーーーッ!」
思わず叫ぶ。
近所の犬が呼応するように吼えた。
子供たちの笑い声が聞こえる。
テストは終わった。
もう夏休みは目前だ。
幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.
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