のび太「ドラえもんが消えて、もう10年か……」
Part9
463 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)00:03:47 ID:YYmdLSwtV
「………」
目の前にいる彼女は、瞳を閉じたまま何かを待つ。
僕の心臓は激しく脈動する。見れば彼女もまた、僅かに震えていた。
(据え膳食わぬは男の恥というが……これはなかなか、勇気が……)
そうは言っても、目の前の彼女はここまでの勇気を見せてくれている。これに応えなければ、むしろ失礼だろう。
彼女の気持ちに、恥を塗らせてはいけないのだ。
(……よ、よし……)
一度唾を飲み込み、顔を近づける。段々と彼女との距離は詰まり、すぐ目の前には桃色に染まった唇があった。
そして僕は、目を閉じーーーーー
「ーーーただいまー!」
「ーーーッ!?」
「ーーーッ!?」
突然、玄関が開く音が聞こえ、女性の声が部屋に響き渡った。二人揃って体をビクリとさせ、その方向に目をやる。
「か、帰って来ちゃった……!!」
「え、ええ!?」
464 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)00:04:01 ID:YYmdLSwtV
(咲子さんが言ってた、同居人!?こ、このタイミングで!?)
口惜しや……実に口惜しい……!!神様がいるのなら、それはきっと、かなりの天邪鬼だろう。もう少し、時間を置いてほしかった。
「咲子ー?いないのー!」
「ーーは、はーい!今行くー!」
名前を呼ばれた彼女は、一度残念そうに僕の方を見た後に、玄関へと向かっていった。
……僕はそのまま、脱力するように天を仰いだ。
「ーーーえ!?彼氏!?ホントに!?」
玄関からは、同居人さんの驚く声が響く。当たり前だが、女性のようだ。そしてその人は、ツカツカと廊下を歩く音を響かせた。
……至福の瞬間を邪魔した人物の顔……しっかりと拝んでやろうではないか。
そして、ドアが開かれる。
「ーーー初めまして!私、咲子の姉のーーーーーーえ?」
「ーーーえ?」
互いの顔を見るなり、二人揃ってフリーズする。
目の前の人物が信じられず、一度目を擦って見直してみた。だが、間違いなかった。
そして時は動き出し、同時にお互いの顔を指さす。
「「えええええええええええ!!??」」
「のび太!!なんでアンタがここに!!??」
「ま、舞さんこそ!!なんでこの家に!!??」
声を上げる二人。それに続き、咲子さんがリビングへと戻って来た。
「……お姉ちゃん?どうかした?」
「お……お、お……お姉ちゃん!!??」
「……さ、咲子……彼氏って……まさか……!!??」
「………?」
「………」
「………」
そのまま、僕と舞さんはしばらく思考が停止した。
ただ一人状況が呑み込めない咲子さんは、不思議そうな顔で首を捻るのだった。
465 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)00:05:47 ID:1adeH8KkS
予想外の展開
466 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)00:05:50 ID:NlFGkhjWE
支援
467 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)00:05:59 ID:mOgSTO3eY
舞さんが同居人かよwwwww
468 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)00:07:23 ID:YYmdLSwtV
ちょっと休憩
想像以上にロングランとなっております
469 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)00:07:33 ID:jBocuYPSL
咲子さんと舞さん姉妹かいw
470 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)00:09:55 ID:eSm8hZMlZ
そう来たか
そう来たか!!
479 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)01:10:38 ID:YYmdLSwtV
「いやあ!まさか、咲子の彼氏がのび太だったとはな!」
咲子さんの部屋で、舞さんはビールを片手に豪快に笑う。
「ホント不思議だね……まさか、お姉ちゃんの知り合いなんてね……」
咲子さんはおつまみを出しながら、感慨深そうに呟く。
「………」
一方、話題の中心にいる僕は、気が気ではなかった。
舞さんは僕が咲子さんの彼氏だと気付くなり、しばらく顔を見た後、まるで何事もなかったかのように接し始めた。
いったい、何を考えてるのだろうか……
「ーーあれ?ビールなくなっちまった……。咲子!ちょっとビール買ってきて!」
「もうお姉ちゃん!今日はちょっと飲み過ぎだよ!」
「固いこと言わないって。せっかくのび太もいるんだし。な?のび太?」
「は、はい……」
「ーーってことだ。すぐそこのコンビニにあるだろ?ちょっと頼むよ」
「……もう。仕方がないなぁ……」
ぶつぶつ文句を言いながら、咲子さんは部屋を出ていった。
残されたのは、僕と舞さん。玄関が閉まる音が響くなり、舞さんは先ほどまでの緩い顔を一変させ、真剣な表情を見せた。
「ーーで?これはどういうことだ?説明してもらおうか……」
その目には、凄まじい威圧感があった。
そんな視線を受けた僕に抵抗など出来るはずもなく、ことの経緯を洗いざらい説明した。
486 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)01:33:34 ID:YYmdLSwtV
「ーーそうか……咲子が……」
「もちろん、僕からも交際を申し込みました。それが、今の関係です……」
「そうか……」
難しそうな顔をしながら話を聞いていた舞さんは、話を聞き終えると目の前にあるビールを一気に飲み干した。
(まだ入ってたんだ……ってことは、さっきのは僕と二人になる口実だったわけか)
「……まさか、しずかの最大のライバルが、我が妹とはな……。世間ってのは、つくづく狭いもんだ……」
「……僕も、まさか舞さんが咲子さんのお姉さんとは思いませんでした……」
「まあ、いくら信じられなくても、純然たる真実としてあるわけだから、そこは何を言っても無駄だろう。
ーーそれより、問題はアンタのことだ……」
「ぼ、僕ですか?」
「ああそうだ。ーーのび太、お前、正直な話、どっちなんだ?」
「どっちなんだと言われましても……」
「簡単な話だ。しずかと咲子……この日本においては、一夫多妻制は認められていない。どちらかを選ばなくてはならない。……お前は、どっちを選ぶんだ?」
「そ、それは……」
「即答ーー出来ないんだな」
「………」
舞さんの威圧感は、僕の心臓を鷲掴みにするかのようだった。
それは、即答できなかった僕に対する、舞さんなりの怒りなのだろう。僕は、黙り込んでしまった。
487 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)01:35:58 ID:YYmdLSwtV
「……すまない。少し意地悪が過ぎたな」
「……いえ」
「だがのび太。一つ、理解しておけ。お前は確かに優しい。相手のことを想い、気遣いが出来る男だ」
「………」
「……でもな、その優しさが、返って誰かを傷付けることもある。
今お前は、二つの岐路に立っている。しずかか、咲子か……どちらの気持ちもお前に向いている以上、そのどちらかを選ばなくちゃならない。
そしてそれが意味することは、必ず、誰かが傷付くということだ」
「………」
「咲子か、しずかか……それともその両方か……それは、お前にしか決められない。そしてな、その傷は、決断が遅ければ遅いほど、深く突き刺さるんだよ」
「……はい」
「正直、私はどちら側に付くことも出来ない。咲子は、私の大切な妹だ。しずかは、私の可愛い部下だ。二人とも私の宝で、幸せになって欲しい」
「それは……当然だと思います」
「とにかく、よく考えておけ。そして、早く決断しろ。じゃないと、いずれアンタを含めた全員が傷付くことになる。深く、惨たらしく。
ーーそうなったら、私はアンタを一生許さない。たぶんな」
「………」
「……私は、のび太、お前のことも好きなんだよ。だから、私にそう思わせないでくれ」
「……はい」
「頼んだぞ……」
「………」
それ以降、舞さんは何も言わなかった。
499 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)10:39:22 ID:Bp8HBABCR
それから、僕は咲子さんが帰って来るのを待って、自宅に帰った。
咲子さんは名残惜しそうにしていたが、さすがに時間も遅かったので引き留めることはなかった。
舞さんはヘラヘラ笑いながら手をひらひら振っていたが、帰り際、静かに耳打ちをしてきた。
『のび太……しっかりな……』
とても、穏やかな口調だった。ーーでも、とても重い言葉だった。
夜道を歩きながら、トボトボと帰っていく。
夜風は冷たく、心まで冷やすかのように僕の体を通り抜ける。
今日は星が見えない。月のない夜だからよくわからないが、薄く雲が張っているのかもしれない。
暗闇の空を見上げて、一度足を止めた。
そして空の彼方に向けて、呟く。
「……ドラえもん、キミなら、今の僕に、なんて言うんだい?」
この街のどこかにいるなら、同じように、この空が見えているだろう。会えない彼に、空を経由して言葉を送ってみた。
ーー当然、空は何も答えることはない。
「……なんて、ね……」
見上げることを止め、再び歩き始める。
(いつまでも、彼に頼るわけにはいかないよね。彼は、僕ならいい方向に決めれるって言ったんだ。……それで、十分じゃないか……)
まずは、自分で出来ることをしよう。そう、思った。
僕は、誰もいない夜道を歩いて、家に帰った。
500 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)10:48:37 ID:Bp8HBABCR
ーーそれから数日後、僕はとある場所を目指していた。
電車を乗り継ぎ、その場所を目指す。
駅を降りたあとは、一度大きく息を吸い込んだ。
「……ずいぶん、久しぶりだなぁ」
固いアスファルトで舗装された道路を踏みしめながら歩く。いつもよりもペースは遅い。その場所の景色を、眺めながら歩いていた。
あまり様子は変わってはいない。ただ、空き地はなくなっていて、小さなアパートが立っていた。
やがて、その場所に辿り着いた。
少し見上げたその家は、古ぼけていた。
「こんなに、小さかったっけ……」
懐かしさを胸に、僕は呼び鈴を押す。
「ーーはぁーい」
中から、よく聞き慣れた声が響き渡った。そして、玄関は開く。
「どちら様ーーーあら?のび太?」
白髪交じりの髪をしたその人は、僕の顔を見て少し驚いていた。
「や、やあ……」
でも、すぐに優しい表情に戻した。
「……いらっしゃい。よく来たわね。ーーあなたー!のび太が来たわよー!」
その声に、家の中からもう一人が姿を現す。
「ーーのび太。よく来たな」
二人は、並んで僕を出迎えた。二人とも、とても穏やか表情で。
少しだけ照れてしまったけど、僕は少し声を大きくして、二人に言う。
「ーーただいま、父さん、母さん……」
501 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)10:51:48 ID:QmYFqxnoS
このタイミングで帰省か
リアルな方もじきぴったり
505 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)11:08:32 ID:Bp8HBABCR
「ーー会社は、うまくいってるか?」
「うん。順調」
「そうか。それは何よりだ……」
台所で昼食を食べながら、父さんと話す。
「やぁねぇ、仕事の話は止しましょうよ。せっかくのび太が休みで来てるんだから」
母さんは苦笑いをしながら、お茶を用意する。
久しぶりの母さんの料理だった。美味しいこともあるが、それ以上にどこか懐かしい。おふくろの味って言うんだろうな。僕は、この味が好きだ……
「それにしても急ね。連絡すればもっと色々準備していたのに……」
「うん、ちょっと思い立ってね。ごめんごめん」
「なあに、別に構わんさ。こうして元気な顔を見せてくれるだけで嬉しいよ」
「うん……ありがとう」
父さんと母さんは、優しくそう話す。
小学校の時は、毎日のように怒られていたけど……その時も、後から決まって穏やかな表情で僕を見ていた。
怒られた記憶も、優しく慰められた記憶も、全てがこの家には詰まっている。
そして父さんと母さんは、変わらない笑みで僕を見ている。
少しだけ、重荷を置いて行こう……そう思った。
508 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)11:16:41 ID:Bp8HBABCR
昼食の後、僕は2階の自分の部屋に行った。
綺麗に片付けられていて、埃も溜まっていない。母さんが掃除をしているようだ。
本棚のマンガは、年期は入っていたが、昔のままだ。
「……これ、懐かしいな……」
その一冊を手に取り、パラパラと捲る。昔、大笑いをしていたマンガだ。
内容自体は、当然だが子供向け。画風は今のものに比べてかなり古い。それでも、何だか懐かしくて、思わず笑みが零れた。
次に僕は、押入を開ける。そこには、布団が2セット収納されていた。
『ドラちゃんが帰ってくるかもしれないから……』
母さんはそう言って、ドラえもんの布団を残し続けている。そして今は、僕の分も。
二人分の布団は綺麗に折りたたまれ、いずれ使われる時を待っていた。
最期に、机を眺めた。
久しぶりに見る机は、とても小さかった。一度指で、机上をなぞる。昔ながらのアルミ製の机だった。
キャラクターの絵も、動く袖机もない。それでも、とても懐かしくて、僕にとって掛け替えのない宝物だ。
だって彼は、この机の引き出しから出てきたんだから……
僕は何かを期待するように、引き出しを開けてみた。鈍い音を鳴らした机は、その場所を解放する。
ーーそこは、ただの引き出しでしかなかった。
「……ま、そうだろうね……」
そこまで期待をしていたわけではない。それでも、何だか少しだけ、寂しく思った。
509 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)11:20:52 ID:eSm8hZMlZ
ちょっと実家に帰るわノシ
510 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)11:29:38 ID:l9vtq7uYY
追いついた
舞さんは俺の嫁
511 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)11:33:12 ID:xTGlQEUy6
>あき地はなくなっていて、小さなアパートが 立っていた。
あるある
512 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)11:35:31 ID:Bp8HBABCR
その後、外に出た。もう一度、街を歩いて回る。
街角のタバコ屋、雷爺さんの家、みんなの実家……。過ぎ去る景色は、僕の心を、まるで昔にタイムスリップさせるかのようだった。
河原の野球場では、子供たちが草野球をしていた。
施設が、ずいぶん新しい。
この野球場、実は最近整備されていた。それまでの野球場は、この十年でかなり老朽化していた。雑草が生い茂り、フェンスもボロボロになっていた。
それを、ジャイアンが修復した。もちろん当時野球をしていた僕らも、資金を出し合った。
『ここは、俺達ジャイアンズのホームグラウンドだ。またここで、絶対野球するんだ』
これが、ジャイアンの修復発案時の言葉。それに全員が賛同し、修復した。
しばらく河原に座り込み、野球を見る。少年達はワイワイ騒ぎながら、試合を楽しむ。
「打ったら逆転だぞー!!絶対打てよー!!」
ふと、一人の少年がバッターボックスに立つ少年にそう叫んだ。
「……打たないと、ギッタギタだからな……か……」
脳裏に焼き付けらた、ジャイアンの言葉を思い出した。
「打てないくらいで殴られるって……今考えても理不尽だよな……」
懐かしきジャイアン理論に、思わず苦笑いが浮かぶ。
「ーー野比?野比か?」
野球を見ていると、後ろから声をかけられた。白髪の、スーツを来たメガネのオジサン。
「……あなたは……先生……」
先生は、ニコッと笑みを浮かべた。
「……久しぶりだな、野比ーーー」
513 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)11:42:58 ID:M7kzl2W2Z
いい。凄くいい。
このSS、もう何文字くらい書いてるんだろ。
けっこう長いよな。
514 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)12:02:33 ID:Bp8HBABCR
ちょっと中断
続きは後ほど
515 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)12:03:28 ID:maz6rlvTm
待ってるぜ
516 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)12:25:16 ID:4kgaZPwbW
待ってるぞ
540 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)19:57:02 ID:H3kqmpeHo
「……そうか。帰省してたのか……」
先生は僕の隣に座った。野球場からの少年達の声を聞きながら、雑談を繰り返す。
「先生は、まだあの小学校に?」
「まあな。ただ、私ももうすぐ定年だ」
「先生が……定年……」
時間の流れを感じた。あれだけ怖かった先生も、すっかり穏やかな表情となっていた。
髪も白くなり、体格も丸い。
「……しかし、野比も社会人か。あれほど0点を取った生徒は、野比、お前だけだったぞ?」
「ハハハ……面目ないです」
「いやいや、もう昔のことだ。それに、キミは今ちゃんと社会人として働いているではないか。
ーーあの頃は、私はキミたちに勉強をしてもらいたいがために厳しく言っていたが、キミの良さは分かっていたつもりだよ」
「僕の、良さ……」
「仲間思いで優しい男の子……勉強は出来なくても、それ以上に素晴らしいものを持ったのが、キミだ」
「……恐縮です」
「まあ、もう少し勉強が出来ていれば文句はなかったんだけどな!ハハハハ……!」
声を出して笑った後、その場を立ち上がる。
それに続き、僕も立ち上がった。
「……さて、私はそろそろ行かせてもらおうか」
「はい……先生、お元気で……」
「ああ。野比もな」
そして先生は、そのまま去って行った。
遠退く先生の背中は、どこか小さく見えた。
「………」
目の前にいる彼女は、瞳を閉じたまま何かを待つ。
僕の心臓は激しく脈動する。見れば彼女もまた、僅かに震えていた。
(据え膳食わぬは男の恥というが……これはなかなか、勇気が……)
そうは言っても、目の前の彼女はここまでの勇気を見せてくれている。これに応えなければ、むしろ失礼だろう。
彼女の気持ちに、恥を塗らせてはいけないのだ。
(……よ、よし……)
一度唾を飲み込み、顔を近づける。段々と彼女との距離は詰まり、すぐ目の前には桃色に染まった唇があった。
そして僕は、目を閉じーーーーー
「ーーーただいまー!」
「ーーーッ!?」
「ーーーッ!?」
突然、玄関が開く音が聞こえ、女性の声が部屋に響き渡った。二人揃って体をビクリとさせ、その方向に目をやる。
「か、帰って来ちゃった……!!」
「え、ええ!?」
464 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)00:04:01 ID:YYmdLSwtV
(咲子さんが言ってた、同居人!?こ、このタイミングで!?)
口惜しや……実に口惜しい……!!神様がいるのなら、それはきっと、かなりの天邪鬼だろう。もう少し、時間を置いてほしかった。
「咲子ー?いないのー!」
「ーーは、はーい!今行くー!」
名前を呼ばれた彼女は、一度残念そうに僕の方を見た後に、玄関へと向かっていった。
……僕はそのまま、脱力するように天を仰いだ。
「ーーーえ!?彼氏!?ホントに!?」
玄関からは、同居人さんの驚く声が響く。当たり前だが、女性のようだ。そしてその人は、ツカツカと廊下を歩く音を響かせた。
……至福の瞬間を邪魔した人物の顔……しっかりと拝んでやろうではないか。
そして、ドアが開かれる。
「ーーー初めまして!私、咲子の姉のーーーーーーえ?」
「ーーーえ?」
互いの顔を見るなり、二人揃ってフリーズする。
目の前の人物が信じられず、一度目を擦って見直してみた。だが、間違いなかった。
そして時は動き出し、同時にお互いの顔を指さす。
「「えええええええええええ!!??」」
「のび太!!なんでアンタがここに!!??」
「ま、舞さんこそ!!なんでこの家に!!??」
声を上げる二人。それに続き、咲子さんがリビングへと戻って来た。
「……お姉ちゃん?どうかした?」
「お……お、お……お姉ちゃん!!??」
「……さ、咲子……彼氏って……まさか……!!??」
「………?」
「………」
「………」
そのまま、僕と舞さんはしばらく思考が停止した。
ただ一人状況が呑み込めない咲子さんは、不思議そうな顔で首を捻るのだった。
465 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)00:05:47 ID:1adeH8KkS
予想外の展開
466 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)00:05:50 ID:NlFGkhjWE
支援
467 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)00:05:59 ID:mOgSTO3eY
舞さんが同居人かよwwwww
ちょっと休憩
想像以上にロングランとなっております
469 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)00:07:33 ID:jBocuYPSL
咲子さんと舞さん姉妹かいw
470 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)00:09:55 ID:eSm8hZMlZ
そう来たか
そう来たか!!
479 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)01:10:38 ID:YYmdLSwtV
「いやあ!まさか、咲子の彼氏がのび太だったとはな!」
咲子さんの部屋で、舞さんはビールを片手に豪快に笑う。
「ホント不思議だね……まさか、お姉ちゃんの知り合いなんてね……」
咲子さんはおつまみを出しながら、感慨深そうに呟く。
「………」
一方、話題の中心にいる僕は、気が気ではなかった。
舞さんは僕が咲子さんの彼氏だと気付くなり、しばらく顔を見た後、まるで何事もなかったかのように接し始めた。
いったい、何を考えてるのだろうか……
「ーーあれ?ビールなくなっちまった……。咲子!ちょっとビール買ってきて!」
「もうお姉ちゃん!今日はちょっと飲み過ぎだよ!」
「固いこと言わないって。せっかくのび太もいるんだし。な?のび太?」
「は、はい……」
「ーーってことだ。すぐそこのコンビニにあるだろ?ちょっと頼むよ」
「……もう。仕方がないなぁ……」
ぶつぶつ文句を言いながら、咲子さんは部屋を出ていった。
残されたのは、僕と舞さん。玄関が閉まる音が響くなり、舞さんは先ほどまでの緩い顔を一変させ、真剣な表情を見せた。
「ーーで?これはどういうことだ?説明してもらおうか……」
その目には、凄まじい威圧感があった。
そんな視線を受けた僕に抵抗など出来るはずもなく、ことの経緯を洗いざらい説明した。
486 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)01:33:34 ID:YYmdLSwtV
「ーーそうか……咲子が……」
「もちろん、僕からも交際を申し込みました。それが、今の関係です……」
「そうか……」
難しそうな顔をしながら話を聞いていた舞さんは、話を聞き終えると目の前にあるビールを一気に飲み干した。
(まだ入ってたんだ……ってことは、さっきのは僕と二人になる口実だったわけか)
「……まさか、しずかの最大のライバルが、我が妹とはな……。世間ってのは、つくづく狭いもんだ……」
「……僕も、まさか舞さんが咲子さんのお姉さんとは思いませんでした……」
「まあ、いくら信じられなくても、純然たる真実としてあるわけだから、そこは何を言っても無駄だろう。
ーーそれより、問題はアンタのことだ……」
「ぼ、僕ですか?」
「ああそうだ。ーーのび太、お前、正直な話、どっちなんだ?」
「どっちなんだと言われましても……」
「簡単な話だ。しずかと咲子……この日本においては、一夫多妻制は認められていない。どちらかを選ばなくてはならない。……お前は、どっちを選ぶんだ?」
「そ、それは……」
「即答ーー出来ないんだな」
「………」
舞さんの威圧感は、僕の心臓を鷲掴みにするかのようだった。
それは、即答できなかった僕に対する、舞さんなりの怒りなのだろう。僕は、黙り込んでしまった。
487 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)01:35:58 ID:YYmdLSwtV
「……すまない。少し意地悪が過ぎたな」
「……いえ」
「だがのび太。一つ、理解しておけ。お前は確かに優しい。相手のことを想い、気遣いが出来る男だ」
「………」
「……でもな、その優しさが、返って誰かを傷付けることもある。
今お前は、二つの岐路に立っている。しずかか、咲子か……どちらの気持ちもお前に向いている以上、そのどちらかを選ばなくちゃならない。
そしてそれが意味することは、必ず、誰かが傷付くということだ」
「………」
「咲子か、しずかか……それともその両方か……それは、お前にしか決められない。そしてな、その傷は、決断が遅ければ遅いほど、深く突き刺さるんだよ」
「……はい」
「正直、私はどちら側に付くことも出来ない。咲子は、私の大切な妹だ。しずかは、私の可愛い部下だ。二人とも私の宝で、幸せになって欲しい」
「それは……当然だと思います」
「とにかく、よく考えておけ。そして、早く決断しろ。じゃないと、いずれアンタを含めた全員が傷付くことになる。深く、惨たらしく。
ーーそうなったら、私はアンタを一生許さない。たぶんな」
「………」
「……私は、のび太、お前のことも好きなんだよ。だから、私にそう思わせないでくれ」
「……はい」
「頼んだぞ……」
「………」
それ以降、舞さんは何も言わなかった。
499 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)10:39:22 ID:Bp8HBABCR
それから、僕は咲子さんが帰って来るのを待って、自宅に帰った。
咲子さんは名残惜しそうにしていたが、さすがに時間も遅かったので引き留めることはなかった。
舞さんはヘラヘラ笑いながら手をひらひら振っていたが、帰り際、静かに耳打ちをしてきた。
『のび太……しっかりな……』
とても、穏やかな口調だった。ーーでも、とても重い言葉だった。
夜道を歩きながら、トボトボと帰っていく。
夜風は冷たく、心まで冷やすかのように僕の体を通り抜ける。
今日は星が見えない。月のない夜だからよくわからないが、薄く雲が張っているのかもしれない。
暗闇の空を見上げて、一度足を止めた。
そして空の彼方に向けて、呟く。
「……ドラえもん、キミなら、今の僕に、なんて言うんだい?」
この街のどこかにいるなら、同じように、この空が見えているだろう。会えない彼に、空を経由して言葉を送ってみた。
ーー当然、空は何も答えることはない。
「……なんて、ね……」
見上げることを止め、再び歩き始める。
(いつまでも、彼に頼るわけにはいかないよね。彼は、僕ならいい方向に決めれるって言ったんだ。……それで、十分じゃないか……)
まずは、自分で出来ることをしよう。そう、思った。
僕は、誰もいない夜道を歩いて、家に帰った。
500 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)10:48:37 ID:Bp8HBABCR
ーーそれから数日後、僕はとある場所を目指していた。
電車を乗り継ぎ、その場所を目指す。
駅を降りたあとは、一度大きく息を吸い込んだ。
「……ずいぶん、久しぶりだなぁ」
固いアスファルトで舗装された道路を踏みしめながら歩く。いつもよりもペースは遅い。その場所の景色を、眺めながら歩いていた。
あまり様子は変わってはいない。ただ、空き地はなくなっていて、小さなアパートが立っていた。
やがて、その場所に辿り着いた。
少し見上げたその家は、古ぼけていた。
「こんなに、小さかったっけ……」
懐かしさを胸に、僕は呼び鈴を押す。
「ーーはぁーい」
中から、よく聞き慣れた声が響き渡った。そして、玄関は開く。
「どちら様ーーーあら?のび太?」
白髪交じりの髪をしたその人は、僕の顔を見て少し驚いていた。
「や、やあ……」
でも、すぐに優しい表情に戻した。
「……いらっしゃい。よく来たわね。ーーあなたー!のび太が来たわよー!」
その声に、家の中からもう一人が姿を現す。
「ーーのび太。よく来たな」
二人は、並んで僕を出迎えた。二人とも、とても穏やか表情で。
少しだけ照れてしまったけど、僕は少し声を大きくして、二人に言う。
「ーーただいま、父さん、母さん……」
501 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)10:51:48 ID:QmYFqxnoS
このタイミングで帰省か
リアルな方もじきぴったり
505 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)11:08:32 ID:Bp8HBABCR
「ーー会社は、うまくいってるか?」
「うん。順調」
「そうか。それは何よりだ……」
台所で昼食を食べながら、父さんと話す。
「やぁねぇ、仕事の話は止しましょうよ。せっかくのび太が休みで来てるんだから」
母さんは苦笑いをしながら、お茶を用意する。
久しぶりの母さんの料理だった。美味しいこともあるが、それ以上にどこか懐かしい。おふくろの味って言うんだろうな。僕は、この味が好きだ……
「それにしても急ね。連絡すればもっと色々準備していたのに……」
「うん、ちょっと思い立ってね。ごめんごめん」
「なあに、別に構わんさ。こうして元気な顔を見せてくれるだけで嬉しいよ」
「うん……ありがとう」
父さんと母さんは、優しくそう話す。
小学校の時は、毎日のように怒られていたけど……その時も、後から決まって穏やかな表情で僕を見ていた。
怒られた記憶も、優しく慰められた記憶も、全てがこの家には詰まっている。
そして父さんと母さんは、変わらない笑みで僕を見ている。
少しだけ、重荷を置いて行こう……そう思った。
508 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)11:16:41 ID:Bp8HBABCR
昼食の後、僕は2階の自分の部屋に行った。
綺麗に片付けられていて、埃も溜まっていない。母さんが掃除をしているようだ。
本棚のマンガは、年期は入っていたが、昔のままだ。
「……これ、懐かしいな……」
その一冊を手に取り、パラパラと捲る。昔、大笑いをしていたマンガだ。
内容自体は、当然だが子供向け。画風は今のものに比べてかなり古い。それでも、何だか懐かしくて、思わず笑みが零れた。
次に僕は、押入を開ける。そこには、布団が2セット収納されていた。
『ドラちゃんが帰ってくるかもしれないから……』
母さんはそう言って、ドラえもんの布団を残し続けている。そして今は、僕の分も。
二人分の布団は綺麗に折りたたまれ、いずれ使われる時を待っていた。
最期に、机を眺めた。
久しぶりに見る机は、とても小さかった。一度指で、机上をなぞる。昔ながらのアルミ製の机だった。
キャラクターの絵も、動く袖机もない。それでも、とても懐かしくて、僕にとって掛け替えのない宝物だ。
だって彼は、この机の引き出しから出てきたんだから……
僕は何かを期待するように、引き出しを開けてみた。鈍い音を鳴らした机は、その場所を解放する。
ーーそこは、ただの引き出しでしかなかった。
「……ま、そうだろうね……」
そこまで期待をしていたわけではない。それでも、何だか少しだけ、寂しく思った。
509 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)11:20:52 ID:eSm8hZMlZ
ちょっと実家に帰るわノシ
510 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)11:29:38 ID:l9vtq7uYY
追いついた
舞さんは俺の嫁
511 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)11:33:12 ID:xTGlQEUy6
>あき地はなくなっていて、小さなアパートが 立っていた。
あるある
512 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)11:35:31 ID:Bp8HBABCR
その後、外に出た。もう一度、街を歩いて回る。
街角のタバコ屋、雷爺さんの家、みんなの実家……。過ぎ去る景色は、僕の心を、まるで昔にタイムスリップさせるかのようだった。
河原の野球場では、子供たちが草野球をしていた。
施設が、ずいぶん新しい。
この野球場、実は最近整備されていた。それまでの野球場は、この十年でかなり老朽化していた。雑草が生い茂り、フェンスもボロボロになっていた。
それを、ジャイアンが修復した。もちろん当時野球をしていた僕らも、資金を出し合った。
『ここは、俺達ジャイアンズのホームグラウンドだ。またここで、絶対野球するんだ』
これが、ジャイアンの修復発案時の言葉。それに全員が賛同し、修復した。
しばらく河原に座り込み、野球を見る。少年達はワイワイ騒ぎながら、試合を楽しむ。
「打ったら逆転だぞー!!絶対打てよー!!」
ふと、一人の少年がバッターボックスに立つ少年にそう叫んだ。
「……打たないと、ギッタギタだからな……か……」
脳裏に焼き付けらた、ジャイアンの言葉を思い出した。
「打てないくらいで殴られるって……今考えても理不尽だよな……」
懐かしきジャイアン理論に、思わず苦笑いが浮かぶ。
「ーー野比?野比か?」
野球を見ていると、後ろから声をかけられた。白髪の、スーツを来たメガネのオジサン。
「……あなたは……先生……」
先生は、ニコッと笑みを浮かべた。
「……久しぶりだな、野比ーーー」
いい。凄くいい。
このSS、もう何文字くらい書いてるんだろ。
けっこう長いよな。
514 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)12:02:33 ID:Bp8HBABCR
ちょっと中断
続きは後ほど
515 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)12:03:28 ID:maz6rlvTm
待ってるぜ
516 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)12:25:16 ID:4kgaZPwbW
待ってるぞ
540 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)19:57:02 ID:H3kqmpeHo
「……そうか。帰省してたのか……」
先生は僕の隣に座った。野球場からの少年達の声を聞きながら、雑談を繰り返す。
「先生は、まだあの小学校に?」
「まあな。ただ、私ももうすぐ定年だ」
「先生が……定年……」
時間の流れを感じた。あれだけ怖かった先生も、すっかり穏やかな表情となっていた。
髪も白くなり、体格も丸い。
「……しかし、野比も社会人か。あれほど0点を取った生徒は、野比、お前だけだったぞ?」
「ハハハ……面目ないです」
「いやいや、もう昔のことだ。それに、キミは今ちゃんと社会人として働いているではないか。
ーーあの頃は、私はキミたちに勉強をしてもらいたいがために厳しく言っていたが、キミの良さは分かっていたつもりだよ」
「僕の、良さ……」
「仲間思いで優しい男の子……勉強は出来なくても、それ以上に素晴らしいものを持ったのが、キミだ」
「……恐縮です」
「まあ、もう少し勉強が出来ていれば文句はなかったんだけどな!ハハハハ……!」
声を出して笑った後、その場を立ち上がる。
それに続き、僕も立ち上がった。
「……さて、私はそろそろ行かせてもらおうか」
「はい……先生、お元気で……」
「ああ。野比もな」
そして先生は、そのまま去って行った。
遠退く先生の背中は、どこか小さく見えた。
のび太「ドラえもんが消えて、もう10年か……」
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