のび太「ドラえもんが消えて、もう10年か……」
Part6
272 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)07:27:33 ID:8noyZ5OrM
「……のび太さん?それ、ホントなの?」
「う、うん……実はーー」
「ーーホントです。嘘なんか言ってません」
あくまでも、咲子さんは毅然とした口調を続ける。
だが、しずかちゃんは、ここで顔をムッとさせた。
「……悪いけど、私は、のび太さんに聞いてるの」
「のび太くんに聞いても一緒ですよ。だってそうなんだし」
「……」
少しずつ、険悪な雰囲気が辺りを包み始めた。二人とも、凄く怖い。
「そもそも、私がここにいて、何がいけないんですか?」
「な、何がって……」
「あなたは、のび太くんの彼女でもないはずです。そんなあなたが、文句を言う資格なんてありません」
「ちょ、ちょっと咲子さん……!」
「ーーで、でも!私はのび太さんの幼馴染みで……!!」
「それがなんですか!?」
「ーー!」
「そんなの、ただの幼馴染みじゃないですか!」
「……あ、あなただって!ただの同僚じゃない!」
「……私は……私は、のび太くんが好きです!告白もしました!」
「えーー!?」
「好きな人と一緒にいてーー何が悪いんですか!?」
「……!」
「……」
「……」
……これ、どうすりゃいいの……
273 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)08:01:27 ID:CULZTwTDu
今ののび太には咲子の方が良さそう
275 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)08:16:38 ID:FLqI7U3HG
咲子正論
276 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)08:19:32 ID:nZSN9CGka
しずかの立場とか言ってることってけっこう古典的だけど普通におかしいよな
幼馴染だから何?w
277 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)08:50:48 ID:8noyZ5OrM
「……」
「……」
さっきの言い合いから一転、双方にらみ合いの膠着状態が続く。
2つの視線はぶつかり合い、火花を散らすかの如、たただ相手を威嚇し続けていた………!!
(……って、他人事みたいに言ってる場合じゃないよな)
「……し、しずかちゃん?」
「………!!」
「あっ!しずかちゃん!」
僕が一声かけた瞬間、彼女は走って帰って行った。
この場合、どうすれば良かったんだろうーー
自分の行動の選択肢すら思い浮かばなかった僕は、その場で立ち尽くす他なかった。
「……ごめん」
ふと、後ろからか細い咲子さんの声が聞こえた。見れば彼女は目を伏せ、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
……これも、僕のせいなのかもしれない。
彼女に、非があるわけがない。彼女はただ、僕の身を按じていただけなんだ。
「……会社、行こうか」
「え?」
「遅刻しちゃうよ?」
「のび太くん……」
……だから僕は、今自分に出来る精一杯の笑顔を彼女に見せた。
それから、僕らは仕事に行った。
ドラえもん、僕は、これからどうすればいいんだろう……
君がいれば、何か不思議な道具で何とかしてくれるんだけどね……
ーーふと、そんなことを考えた。
でも、彼はいない。いないんだ。
だからこれは、僕が何とかしなきゃいけないんだ。
そうだよね?ドラえもん……
278 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)08:55:07 ID:SuWVnPbJ6
これは本当に面白い!
279 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)09:23:37 ID:MtAoHflBJ
おもしーっす
286 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)11:40:50 ID:HP3JlSZpP
それから、季節は流れていった。
気が付けば、あれだけ猛威を振るっていた夏は終わりを迎え、秋が訪れた。
食欲の秋。芸術の秋。僕の場合、昼寝の秋。
会社では、夏の終盤にかけて怒涛の激務ラッシュが押し寄せ、目の回るような忙しさとなった。
おかげでジャイアンとスネ夫に連絡もろくに取れないし、それどころかおちおち昼寝も出来なかった。
……しずかちゃんとは、あれっきりだった。
何度か電話をしてみたが、いつもコール音だけが僕を待っていた。
たぶん、嫌われてしまったのかもしれない。それも無理もない話だと思うが。
あの一件は、ジャイアンに相談してみたりもした。
ジャイアンからは怒られたが、それでも、僕に悪気がなかったことは分かってくれていた。
『一度謝り入れとけよーーー』
そう言われたが、電話にも出ない状態だと、いきなり家に行くのもマズイだろうから、結局謝ることは出来ていなかった。
今頃しずかちゃんは、何をしてるのだろうか……
出木杉と、仲良くしてるのだろうか……
不安に感じる夜が多くなった。
ーーそんな僕の支えは、ドラえもんからの手紙だった。
287 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)11:59:33 ID:HP3JlSZpP
ドラえもんの手紙は、それからも定期的に届いていた。
相変わらず真新しい手紙が家に届いて来る。
夜中届いたり、家に帰ると届いてたり。
届く時間はまちまちだった。
そして不思議なことに、誰もドラえもんの姿を見ていないようだ。
あれだけ目立つ青いタヌ……もとい、青いロボットなら、誰かが見ててもいいと思うんだが……
いい加減出てきてもいい頃だと思うが、このまま手紙をくれるなら、いつかは会えるかもしれないと思っている。
こうして手紙が届くと言うことは、彼はどこかにいるということ。
焦ることはないだろう。
ーーそう言えば、あれから、少しだけ変わったことがある。
288 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)12:15:06 ID:1kIq1o4Oi
wktk
289 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)12:26:26 ID:Oas0vyFmR
しずかちゃん…………
293 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)14:11:48 ID:HP3JlSZpP
「ーーのび太くん!お待たせ!」
「ああ、咲子さん……」
咲子さんは笑顔で駆け寄って来る。とてもおめかししてる。今日は、彼女と食事に行くことになっていた。
変わったことというのが、僕と咲子さんが出かける回数が増えたことだ。
仕事帰りにご飯を食べたり、休みの日に買い物に行ったり……
ちなみに、あの日の答えはまだ出せていない。
でも、咲子さんは一度も催促をしてこない。ただ、僕を待っている。
僕は、そんな彼女に甘えているのかもしれない。
頭ではそんなことはダメだというのは分かっている。早く決めないといけないってのは分かってる。
……だけど……
「ーーのび太くん?のび太くん?」
「……え?」
「はぁ……またボーっとしてたのね……」
「ええと……えへへへ……」
「笑って誤魔化さない!……まったくもう……」
口では怒っていても、咲子さんはどこか楽しそうだ。
ーー今の関係が続けばいい
僕は、そんなことを考えている。とても卑怯な考えだろうな。……最低だな、僕は……
294 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)14:26:34 ID:HP3JlSZpP
その日の商店街は、人の波がうねっていた。いつもよりも人が多い。
こうして見れば、もう大多数の人が秋物の服に衣替えしていた。確か、地方の山では天然スキー場もオープンしている。
これからどんどんと冬に変わっていくのだろう。
季節は巡る。ぐるぐると。ダラダラ昼寝してても、目まぐるしく忙しい毎日でも、時だけは一刻一刻と移り行くのだろう。そう考えたら、少しだけ、時間というモノもどこか神秘的に思えてくる。
「ずいぶん人が多いね」
「うん、そうだね」
「これだけ多いと、迷子になるかも」
「へ〜……咲子さんでも迷子になる時があるんだね」
「私じゃなくて、のび太くんが」
「ぼ、僕が?」
「だってのび太くん、けっこうドジだからね」
「ひ、酷いよ〜」
「ハハハ!ごめんごめん!」
彼女は笑いながら、くるくると僕の前で回る。
天真爛漫で、笑顔が絶えない彼女。少しだけ寒がりな彼女は、マフラーを首に巻く。彼女が動けば、赤いマフラーが風に流れていた。
本当に、彼女は可愛いと思う。本当に……
295 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)14:37:50 ID:HP3JlSZpP
「あ、ちょっとこの店入っていい?」
「ここは……?」
街の片隅にある、アンティークな小物屋。中には色々なものがあった。
人形、絵画、置物……こういうものに、興味があるのだろうか……
「すぐ戻るからね。ちょっと店の前で待ってて!」
「うん。行っておいでよ」
「うん!」
そして、彼女は小走りで駆けて行った。そして、小さなベルの音を響かせ、店に入る。
彼女がいなくなった後、僕は目の前を通る人たちを眺めていた。
こうして見える人たちには、それぞれにそれぞれの人生がある。喜びがある。悲しみがある。悩みがある。
今、僕がこうして考えていることも、もしかしたら誰かが同じように考えているのかもしれない。
何が言いたいかというと……まあ、特に意味もない。
ただ、それだけ多くの人が、色々な形の道を歩いているということだ。そしてそれは、それぞれが自ら選んで来たものであるということだ。
……僕もそろそろ、自分の足で歩くべきだろうな。
いつまでも立ち止まることなく、一歩を踏み出すべきなんだろうな。
流れる人たちの群小を見つめて、そう思った。
298 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)14:46:53 ID:HP3JlSZpP
ーーその時、気が付いた。
流れる人の中に、とても見慣れた二人組がいたことを……
(あれは……!!)
目を大きく見開く。人の波の中に紛れた彼と彼女。僕には気付いていないようだ。そして、僕の前を通る時、波が一瞬途切れる。
ーーー二人は、腕を組んでいた。その二人の表情は、とても幸せそうに笑っていた………
「ーーーしずーーー」
ーー声が、出なかった。体が、心が、声を出すことを拒絶した。
そして二人は、再び人の波の中に消えていった。
時間にして、ほんのわずかな時間。ほんのわずかな時間、彼と彼女は僕に見せつけるようにその姿を見せた。
……これが、僕の行動の結果なのだろうか……
思わず、天を仰いだ。
「……ドラえもん、ごめん……」
そしてなぜか僕は、彼に謝る。
秋風が、体を通り抜ける。その風は、とても冷たかった。
323 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)15:09:37 ID:HP3JlSZpP
なんかコンビニから帰ったらめっちゃ荒らされてるぅぅぅ
夏休みだから子供だろうね
まあいいけど
続き続き
332 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)15:18:36 ID:HP3JlSZpP
「ーーお待たせのび太くん!」
「ああ……うん……」
「……ん?……んん??」
笑顔で店を出て来た彼女だったが、僕の顔を見た瞬間、僕の顔を下から覗き込み始めた。
「………」
「……な、なに?」
「……のび太くん……何かあった?」
「えーー!?な、なんで!?」
「だって、のび太くん、落ち込んでる顔してるし」
「そ、そんなことないけど……」
「ふ〜ん……」
咲子さんは、どこか腑に落ちない表情を浮かべる。もしかして、僕って顔にすぐ出るんだろうか……
「……まあいいや。ねえ、行こ!」
「え?あ、ちょっとーー」
彼女は急に僕の手を掴み、商店街を走り始めた。たくさんの人の中を抜けていく。
商店街の中で、走っているのは僕達だけだった。すれ違う人は僕らに視線を送る。
それすらも掻い潜るように、僕らは走った。
僕らが走る方向は、あの二人が消えていった方向とは逆の方向……
腕を引っ張られながら、一度だけ、後ろを振り返る。
ーー当然だが、二人の姿は、どこにもなかった。
333 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)15:22:58 ID:g7gqMJDP1
咲子さん…
334 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)15:26:18 ID:pVjGq1XpE
咲子さんは俺の嫁です
335 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)15:27:26 ID:Oas0vyFmR
>>334
じゃあ舞さんは俺がもらうわ
336 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)15:33:28 ID:HP3JlSZpP
しばらく走った後、僕らは高台の、見晴らしのいい公園に辿り着いた。
「はあ……はあ……つ、疲れたね……」
「はあ……はあ……さ、咲子さんが……走るからだよ……」
二人揃って、肩で息をする。辺りは少し肌寒くなっていた。
それでも、体は熱を帯びる。彼女の額にも、ほんのりと汗が滲んでいた。
「……あ〜、空気が気持ちいい……!!」
一足先に呼吸を整えた彼女は、空に向かって大きく体を伸ばす。
続いて、僕もようやく息を整えた。
そして二人並んで、公園から見える景色を見下ろした。
「……きれいだね……」
「……うん。きれいだ……」
時刻は昼と夜が交差する時間。
空を見れば、東の空は藍色に、西の空は茜色に染まっていた。そして二つの空の真ん中は、優柔不断な様子で、藍と茜が入り混じる。
星の光はまだ目立たない。それでも、空の片隅では、既に星々が煌めき始めていた。
街並みを見てみれば、ポツリ、ポツリと、徐々に明かりが灯りはじめていた。
遠くに見えるローカル線では、光の列車が線路を走る。街中では車のライトが列を作り、それぞれの帰るべきところへ向けて、光の筋を残していく。
……とても、幻想的な光景だった。
僕らはしばらく、その情景に目を奪われていた。
そして言葉すらも奪われ、街が夜に染まる様子を、ただ眺めていた。
338 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)15:46:55 ID:HP3JlSZpP
「ーーあ、そうだ!」
突然、咲子さんは声を出し、ごそごそとバッグをあさり始める。
どうしたのかと見守る僕の目の前に、バッグから小さな小袋を取り出した。
「えっと……これは?」
「いいから!開けてみて?」
「……うん」
彼女に促されるまま中を開けてみる。その中には、小さな犬の置物があった。青い、ネクタイを付けた犬だった。
「これは?」
「フフフ……私のは、これ」
そう言って彼女が見せてきたのは、同じく犬の置物。こちらは赤い可愛いリボンが付いていた。
「それが、のび太くん。これが、私」
「ああ、そういうこと……」
「そうそう。ーーねえ、取り替えっこしよ?」
「え?」
「いいからいいから!はい、私の」
「う、うん……」
「じゃあ、今度はのび太くんのをくれないかな?」
「うん。……はい」
「うん!ありがとう!」
そして僕らは、犬の置物を交換し合った。
339 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)16:00:31 ID:HP3JlSZpP
「ええと……どうして取り替えたの?」
「……だって、こうすれば、いつもお互いを応援出来るでしょ?」
「応援?」
「そうそう。例えばのび太くんが落ち込んで家に帰ると、その置物が励ますの。頑張れー、頑張れーって。
逆に私が落ち込んでいるときは、のび太くんの置物が私を励ましてくれるの。
のび太くんはどうかは分からないけど、私はそれだけで元気になれるよ。いつも、のび太くんが見守ってくれてるって思えるし。
ーーだから、のび太くんも辛いときは思い出して欲しいな。いつも私が、応援してるってことを……」
「ーーー」
……その言葉は、彼の手紙と重なった。
ーーー僕はいつでも、キミを応援してるよーーー
そう思った瞬間、僕の目からは涙が溢れ出してきた。
「……ひぐ……ひぐ……」
「えーーッ!?ど、どうしたののび太くん!?」
彼女は慌てて、僕の体に触れる。
それでも僕の目からは、止めどなく涙が溢れ出ていた。
苦しいとき、辛いとき、僕はいつも彼の手紙の言葉を思い出していた。そして目の前の彼女は、今まさに、彼と同じ言葉を口にした。
それが本当に嬉しくて、暖かくて……心の奥からつま先まで、優しく包まれるような……そんな感覚だった。
「……」
彼女はただ、僕が泣き止むのを待っていた。僕はひとしきり泣いた後、ようやく落ち着きを取り戻した。
「……ご、ごめん……ありがとう……」
「う、うん……」
彼女は、未だ混乱していたようだ。
彼女が、とても愛おしく思えた。大切にしたいと思った。そして僕の口は、自然と動いていた。
「ねえ……咲子さん……」
「え?どうしたの?」
「ーー僕と、付き合ってほしい……」
346 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)16:30:00 ID:SuWVnPbJ6
やばい 面白過ぎ!
347 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)17:03:38 ID:K2Cc52R0c
すげーおもれー
引き込まれるわ
「……のび太さん?それ、ホントなの?」
「う、うん……実はーー」
「ーーホントです。嘘なんか言ってません」
あくまでも、咲子さんは毅然とした口調を続ける。
だが、しずかちゃんは、ここで顔をムッとさせた。
「……悪いけど、私は、のび太さんに聞いてるの」
「のび太くんに聞いても一緒ですよ。だってそうなんだし」
「……」
少しずつ、険悪な雰囲気が辺りを包み始めた。二人とも、凄く怖い。
「そもそも、私がここにいて、何がいけないんですか?」
「な、何がって……」
「あなたは、のび太くんの彼女でもないはずです。そんなあなたが、文句を言う資格なんてありません」
「ちょ、ちょっと咲子さん……!」
「ーーで、でも!私はのび太さんの幼馴染みで……!!」
「それがなんですか!?」
「ーー!」
「そんなの、ただの幼馴染みじゃないですか!」
「……あ、あなただって!ただの同僚じゃない!」
「……私は……私は、のび太くんが好きです!告白もしました!」
「えーー!?」
「好きな人と一緒にいてーー何が悪いんですか!?」
「……!」
「……」
「……」
……これ、どうすりゃいいの……
273 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)08:01:27 ID:CULZTwTDu
今ののび太には咲子の方が良さそう
275 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)08:16:38 ID:FLqI7U3HG
咲子正論
276 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)08:19:32 ID:nZSN9CGka
しずかの立場とか言ってることってけっこう古典的だけど普通におかしいよな
幼馴染だから何?w
277 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)08:50:48 ID:8noyZ5OrM
「……」
「……」
さっきの言い合いから一転、双方にらみ合いの膠着状態が続く。
2つの視線はぶつかり合い、火花を散らすかの如、たただ相手を威嚇し続けていた………!!
(……って、他人事みたいに言ってる場合じゃないよな)
「……し、しずかちゃん?」
「………!!」
「あっ!しずかちゃん!」
僕が一声かけた瞬間、彼女は走って帰って行った。
この場合、どうすれば良かったんだろうーー
自分の行動の選択肢すら思い浮かばなかった僕は、その場で立ち尽くす他なかった。
「……ごめん」
ふと、後ろからか細い咲子さんの声が聞こえた。見れば彼女は目を伏せ、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
……これも、僕のせいなのかもしれない。
彼女に、非があるわけがない。彼女はただ、僕の身を按じていただけなんだ。
「……会社、行こうか」
「え?」
「遅刻しちゃうよ?」
「のび太くん……」
……だから僕は、今自分に出来る精一杯の笑顔を彼女に見せた。
それから、僕らは仕事に行った。
ドラえもん、僕は、これからどうすればいいんだろう……
君がいれば、何か不思議な道具で何とかしてくれるんだけどね……
ーーふと、そんなことを考えた。
でも、彼はいない。いないんだ。
だからこれは、僕が何とかしなきゃいけないんだ。
そうだよね?ドラえもん……
これは本当に面白い!
279 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)09:23:37 ID:MtAoHflBJ
おもしーっす
286 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)11:40:50 ID:HP3JlSZpP
それから、季節は流れていった。
気が付けば、あれだけ猛威を振るっていた夏は終わりを迎え、秋が訪れた。
食欲の秋。芸術の秋。僕の場合、昼寝の秋。
会社では、夏の終盤にかけて怒涛の激務ラッシュが押し寄せ、目の回るような忙しさとなった。
おかげでジャイアンとスネ夫に連絡もろくに取れないし、それどころかおちおち昼寝も出来なかった。
……しずかちゃんとは、あれっきりだった。
何度か電話をしてみたが、いつもコール音だけが僕を待っていた。
たぶん、嫌われてしまったのかもしれない。それも無理もない話だと思うが。
あの一件は、ジャイアンに相談してみたりもした。
ジャイアンからは怒られたが、それでも、僕に悪気がなかったことは分かってくれていた。
『一度謝り入れとけよーーー』
そう言われたが、電話にも出ない状態だと、いきなり家に行くのもマズイだろうから、結局謝ることは出来ていなかった。
今頃しずかちゃんは、何をしてるのだろうか……
出木杉と、仲良くしてるのだろうか……
不安に感じる夜が多くなった。
ーーそんな僕の支えは、ドラえもんからの手紙だった。
287 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)11:59:33 ID:HP3JlSZpP
ドラえもんの手紙は、それからも定期的に届いていた。
相変わらず真新しい手紙が家に届いて来る。
夜中届いたり、家に帰ると届いてたり。
届く時間はまちまちだった。
そして不思議なことに、誰もドラえもんの姿を見ていないようだ。
あれだけ目立つ青いタヌ……もとい、青いロボットなら、誰かが見ててもいいと思うんだが……
いい加減出てきてもいい頃だと思うが、このまま手紙をくれるなら、いつかは会えるかもしれないと思っている。
こうして手紙が届くと言うことは、彼はどこかにいるということ。
焦ることはないだろう。
ーーそう言えば、あれから、少しだけ変わったことがある。
288 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)12:15:06 ID:1kIq1o4Oi
wktk
289 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)12:26:26 ID:Oas0vyFmR
しずかちゃん…………
293 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)14:11:48 ID:HP3JlSZpP
「ーーのび太くん!お待たせ!」
「ああ、咲子さん……」
咲子さんは笑顔で駆け寄って来る。とてもおめかししてる。今日は、彼女と食事に行くことになっていた。
変わったことというのが、僕と咲子さんが出かける回数が増えたことだ。
仕事帰りにご飯を食べたり、休みの日に買い物に行ったり……
ちなみに、あの日の答えはまだ出せていない。
でも、咲子さんは一度も催促をしてこない。ただ、僕を待っている。
僕は、そんな彼女に甘えているのかもしれない。
頭ではそんなことはダメだというのは分かっている。早く決めないといけないってのは分かってる。
……だけど……
「ーーのび太くん?のび太くん?」
「……え?」
「はぁ……またボーっとしてたのね……」
「ええと……えへへへ……」
「笑って誤魔化さない!……まったくもう……」
口では怒っていても、咲子さんはどこか楽しそうだ。
ーー今の関係が続けばいい
僕は、そんなことを考えている。とても卑怯な考えだろうな。……最低だな、僕は……
294 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)14:26:34 ID:HP3JlSZpP
その日の商店街は、人の波がうねっていた。いつもよりも人が多い。
こうして見れば、もう大多数の人が秋物の服に衣替えしていた。確か、地方の山では天然スキー場もオープンしている。
これからどんどんと冬に変わっていくのだろう。
季節は巡る。ぐるぐると。ダラダラ昼寝してても、目まぐるしく忙しい毎日でも、時だけは一刻一刻と移り行くのだろう。そう考えたら、少しだけ、時間というモノもどこか神秘的に思えてくる。
「ずいぶん人が多いね」
「うん、そうだね」
「これだけ多いと、迷子になるかも」
「へ〜……咲子さんでも迷子になる時があるんだね」
「私じゃなくて、のび太くんが」
「ぼ、僕が?」
「だってのび太くん、けっこうドジだからね」
「ひ、酷いよ〜」
「ハハハ!ごめんごめん!」
彼女は笑いながら、くるくると僕の前で回る。
天真爛漫で、笑顔が絶えない彼女。少しだけ寒がりな彼女は、マフラーを首に巻く。彼女が動けば、赤いマフラーが風に流れていた。
本当に、彼女は可愛いと思う。本当に……
295 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)14:37:50 ID:HP3JlSZpP
「あ、ちょっとこの店入っていい?」
「ここは……?」
街の片隅にある、アンティークな小物屋。中には色々なものがあった。
人形、絵画、置物……こういうものに、興味があるのだろうか……
「すぐ戻るからね。ちょっと店の前で待ってて!」
「うん。行っておいでよ」
「うん!」
そして、彼女は小走りで駆けて行った。そして、小さなベルの音を響かせ、店に入る。
彼女がいなくなった後、僕は目の前を通る人たちを眺めていた。
こうして見える人たちには、それぞれにそれぞれの人生がある。喜びがある。悲しみがある。悩みがある。
今、僕がこうして考えていることも、もしかしたら誰かが同じように考えているのかもしれない。
何が言いたいかというと……まあ、特に意味もない。
ただ、それだけ多くの人が、色々な形の道を歩いているということだ。そしてそれは、それぞれが自ら選んで来たものであるということだ。
……僕もそろそろ、自分の足で歩くべきだろうな。
いつまでも立ち止まることなく、一歩を踏み出すべきなんだろうな。
流れる人たちの群小を見つめて、そう思った。
298 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)14:46:53 ID:HP3JlSZpP
ーーその時、気が付いた。
流れる人の中に、とても見慣れた二人組がいたことを……
(あれは……!!)
目を大きく見開く。人の波の中に紛れた彼と彼女。僕には気付いていないようだ。そして、僕の前を通る時、波が一瞬途切れる。
ーーー二人は、腕を組んでいた。その二人の表情は、とても幸せそうに笑っていた………
「ーーーしずーーー」
ーー声が、出なかった。体が、心が、声を出すことを拒絶した。
そして二人は、再び人の波の中に消えていった。
時間にして、ほんのわずかな時間。ほんのわずかな時間、彼と彼女は僕に見せつけるようにその姿を見せた。
……これが、僕の行動の結果なのだろうか……
思わず、天を仰いだ。
「……ドラえもん、ごめん……」
そしてなぜか僕は、彼に謝る。
秋風が、体を通り抜ける。その風は、とても冷たかった。
323 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)15:09:37 ID:HP3JlSZpP
なんかコンビニから帰ったらめっちゃ荒らされてるぅぅぅ
夏休みだから子供だろうね
まあいいけど
続き続き
332 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)15:18:36 ID:HP3JlSZpP
「ーーお待たせのび太くん!」
「ああ……うん……」
「……ん?……んん??」
笑顔で店を出て来た彼女だったが、僕の顔を見た瞬間、僕の顔を下から覗き込み始めた。
「………」
「……な、なに?」
「……のび太くん……何かあった?」
「えーー!?な、なんで!?」
「だって、のび太くん、落ち込んでる顔してるし」
「そ、そんなことないけど……」
「ふ〜ん……」
咲子さんは、どこか腑に落ちない表情を浮かべる。もしかして、僕って顔にすぐ出るんだろうか……
「……まあいいや。ねえ、行こ!」
「え?あ、ちょっとーー」
彼女は急に僕の手を掴み、商店街を走り始めた。たくさんの人の中を抜けていく。
商店街の中で、走っているのは僕達だけだった。すれ違う人は僕らに視線を送る。
それすらも掻い潜るように、僕らは走った。
僕らが走る方向は、あの二人が消えていった方向とは逆の方向……
腕を引っ張られながら、一度だけ、後ろを振り返る。
ーー当然だが、二人の姿は、どこにもなかった。
333 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)15:22:58 ID:g7gqMJDP1
咲子さん…
334 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)15:26:18 ID:pVjGq1XpE
咲子さんは俺の嫁です
335 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)15:27:26 ID:Oas0vyFmR
>>334
じゃあ舞さんは俺がもらうわ
しばらく走った後、僕らは高台の、見晴らしのいい公園に辿り着いた。
「はあ……はあ……つ、疲れたね……」
「はあ……はあ……さ、咲子さんが……走るからだよ……」
二人揃って、肩で息をする。辺りは少し肌寒くなっていた。
それでも、体は熱を帯びる。彼女の額にも、ほんのりと汗が滲んでいた。
「……あ〜、空気が気持ちいい……!!」
一足先に呼吸を整えた彼女は、空に向かって大きく体を伸ばす。
続いて、僕もようやく息を整えた。
そして二人並んで、公園から見える景色を見下ろした。
「……きれいだね……」
「……うん。きれいだ……」
時刻は昼と夜が交差する時間。
空を見れば、東の空は藍色に、西の空は茜色に染まっていた。そして二つの空の真ん中は、優柔不断な様子で、藍と茜が入り混じる。
星の光はまだ目立たない。それでも、空の片隅では、既に星々が煌めき始めていた。
街並みを見てみれば、ポツリ、ポツリと、徐々に明かりが灯りはじめていた。
遠くに見えるローカル線では、光の列車が線路を走る。街中では車のライトが列を作り、それぞれの帰るべきところへ向けて、光の筋を残していく。
……とても、幻想的な光景だった。
僕らはしばらく、その情景に目を奪われていた。
そして言葉すらも奪われ、街が夜に染まる様子を、ただ眺めていた。
338 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)15:46:55 ID:HP3JlSZpP
「ーーあ、そうだ!」
突然、咲子さんは声を出し、ごそごそとバッグをあさり始める。
どうしたのかと見守る僕の目の前に、バッグから小さな小袋を取り出した。
「えっと……これは?」
「いいから!開けてみて?」
「……うん」
彼女に促されるまま中を開けてみる。その中には、小さな犬の置物があった。青い、ネクタイを付けた犬だった。
「これは?」
「フフフ……私のは、これ」
そう言って彼女が見せてきたのは、同じく犬の置物。こちらは赤い可愛いリボンが付いていた。
「それが、のび太くん。これが、私」
「ああ、そういうこと……」
「そうそう。ーーねえ、取り替えっこしよ?」
「え?」
「いいからいいから!はい、私の」
「う、うん……」
「じゃあ、今度はのび太くんのをくれないかな?」
「うん。……はい」
「うん!ありがとう!」
そして僕らは、犬の置物を交換し合った。
339 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/12(火)16:00:31 ID:HP3JlSZpP
「ええと……どうして取り替えたの?」
「……だって、こうすれば、いつもお互いを応援出来るでしょ?」
「応援?」
「そうそう。例えばのび太くんが落ち込んで家に帰ると、その置物が励ますの。頑張れー、頑張れーって。
逆に私が落ち込んでいるときは、のび太くんの置物が私を励ましてくれるの。
のび太くんはどうかは分からないけど、私はそれだけで元気になれるよ。いつも、のび太くんが見守ってくれてるって思えるし。
ーーだから、のび太くんも辛いときは思い出して欲しいな。いつも私が、応援してるってことを……」
「ーーー」
……その言葉は、彼の手紙と重なった。
ーーー僕はいつでも、キミを応援してるよーーー
そう思った瞬間、僕の目からは涙が溢れ出してきた。
「……ひぐ……ひぐ……」
「えーーッ!?ど、どうしたののび太くん!?」
彼女は慌てて、僕の体に触れる。
それでも僕の目からは、止めどなく涙が溢れ出ていた。
苦しいとき、辛いとき、僕はいつも彼の手紙の言葉を思い出していた。そして目の前の彼女は、今まさに、彼と同じ言葉を口にした。
それが本当に嬉しくて、暖かくて……心の奥からつま先まで、優しく包まれるような……そんな感覚だった。
「……」
彼女はただ、僕が泣き止むのを待っていた。僕はひとしきり泣いた後、ようやく落ち着きを取り戻した。
「……ご、ごめん……ありがとう……」
「う、うん……」
彼女は、未だ混乱していたようだ。
彼女が、とても愛おしく思えた。大切にしたいと思った。そして僕の口は、自然と動いていた。
「ねえ……咲子さん……」
「え?どうしたの?」
「ーー僕と、付き合ってほしい……」
346 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)16:30:00 ID:SuWVnPbJ6
やばい 面白過ぎ!
347 :名無しさん@おーぷん :2014/08/12(火)17:03:38 ID:K2Cc52R0c
すげーおもれー
引き込まれるわ
のび太「ドラえもんが消えて、もう10年か……」
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