のび太「ドラえもんが消えて、もう10年か……」
Part10
542 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)21:10:29 ID:H3kqmpeHo
家に帰った後、僕は父さんと酒を交わす。
父さんは、上機嫌だった。顔を赤くして、ニコニコ笑っていた。
「ーーまさか、のび太と酒が飲める日が来るとはな!月日が経つのは早いものだ!」
父さんは僕のコップに、次々とビールを注ぐ。
「……僕、そんなにお酒強くないんだけど……」
「細かいことは気にするな!さあ!どんどん飲め!」
父さんはすっかり酔ってしまっているようだ。ノリが、会社の上司によく似ている。
苦笑いする僕に、追加にビールを持って来ていた母さんが後ろから笑いながら話しかけて来た。
「お父さんね、楽しみにしてたのよ?のび太とお酒を飲むことを」
「父さんが?」
「そうよ。いつも家で晩酌をする時に言ってたの。ここに、のび太がいてくれたらなぁって……」
「………」
「口では言わないけど、お父さん、寂しかったのよ。……もちろん、私もね……」
「……うん」
両親を安心させようと思って一人暮らしをした僕だったが、父さんと母さんは、別のことを思っていたようだ。
いくつになっても、子供は子供……誰かが言った言葉だ。
その意味が、少しだけ分かったような気がする。
父さんは相変わらず笑顔でお酒を飲む。母さんはお酒を飲まないのに、そんな僕達を座って見ている。
ずっと一緒に暮らしていた父さんと母さん。でも、一緒にいた時には薄れていたモノが、僕の中にはっきりと浮かび上がっていた。
ーー父さんと母さんの想いが、僕の中に注がれていたようだった。
「……父さん、お酒、注ぐよ」
「お!ありがとうな!」
その日は、夜遅くまで父さんと酒を交わす。心の中のしこりのようなものが、少しずつ溶けだしている気分だった。
544 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)21:27:06 ID:H3kqmpeHo
ーーふと、僕は目を覚ました。
「……うぅん……寝ちゃったのか……」
時計を見れば、時刻は真夜中。頭が痛い……
その時、僕は気が付いた。
今の掃出し窓が開き、そこに、父さんが座っていた。母さんの姿はない。どうやら、先に眠ってしまったようだ。
父さんは僕が起きたことに気が付き、微笑みながら顔を振り向かせた。
「……すまん、起こしてしまったか……」
「ううん。大丈夫。……こんな夜中に、何をしてるの?」
「ああ。……月を、見ていたんだ……」
「月を?」
「そうだ。……なあのび太、こっちに来て、一緒に見ないか?」
「……うん」
僕は、促されるまま父さんの隣に座る。
「……綺麗だね」
「そうだろ?月が見えて、のび太がいて、のび太と酒を飲んで……最高の夜だ……」
僕らは月を見上げる。
幸い、今日は雲がなかった。窓からは丸い満月が空に座し、夜の街を仄かに照らす。
星々の光は月光に遮られ、あまりはっきりとは見えない。でも、まるで星達の分まで輝くように、月は、優しく光を降り注がせていた。
少しの間、僕と父さんは、月の光が織りなす神秘的な劇場を、静かに眺めていた。
545 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)21:28:11 ID:OqSjZTS5g
月が綺麗…
あっ(察し)
546 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)21:29:49 ID:4zp9G58pb
おいついたー
547 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)21:38:52 ID:H3kqmpeHo
「ーーところでのび太」
突然、父さんが切り出した。
「うん?何?」
「誰か、いい人は見つかったか?」
「いい人?」
「結婚相手のことだよ」
「け、結婚!?」
「何を驚いてるんだ。のび太ももういい年だ。そろそろ結婚を考えてもおかしくはないぞ?」
「そ、そうなんだろうけど……いきなり結婚なんて……」
戸惑う僕に、父さんは声を出して笑う。
「いやいやすまん。ちょっと話を飛躍させ過ぎたな。……まあ、結婚まではいかなくても、付き合ってる人はいないのか?」
「……まあ、一応……」
「そうか……それはよかった……」
付き合ってるのは付き合ってる。……だけど、この前の舞さんに言われたことを思い出した。
……結局僕は、中途半端なんだ。
「……のび太、お前は、少し抜けてるところがあるからな。お前に合うのは、きっと、しっかりした人だろうな」
「う、うん……」
「まあいずれにしても、自分の目で見て、頭で考えて、相手を決めろ。そしてな、一度決めた相手は、一生大事にしろ。
家族を蔑ろにする奴は、幸せなんて手に入れることは出来ないんだ。
どれだけ仕事がうまくいっても、どれだけお金があっても、幸せってのは、それとは関係ないところから生まれるものなんだよ」
「……」
「……大丈夫だ、のび太。お前なら、必ず幸せな家庭を作れるはずだ。ーー何せ、お前は僕の、自慢の息子だからな」
「……0点ばっかり取ってたけどね」
「勉強なんて、最低限のことさえしていればいいさ。実際に、お前は高校まで卒業出来たんだ。十分だ」
「そっかな……」
「そうだ。お前は、自分の人生に自信を持っていい。ーーお前は、幸せを生み出すことが出来る」
「……ありがとう、父さん」
548 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)21:50:14 ID:H3kqmpeHo
「……さて、そろそろ寝るとするか」
「うん……」
そして僕らは、それぞれの寝室に戻る。
僕は二階に上がり、布団に横になった。
久しぶりの自分の布団。眠る前に、一度押入に目をやる。
そこにいた彼は、今何をしているのだろうか………そんなことを考えていた。
……いや、それももう止めにしよう。
父さんも、先生も、舞さんも、そして、彼も……みんな、僕に自信を持っていいと言っていた。
僕は、いつも彼に頼ってばかりだった。
全ての願いを、叶えてくれる彼。困った時は、いつでも助けてくれた彼。
……でも僕は、もう大人になった。
子供のころにはなかった責任だとか柵(しがらみ)だとかが、今の僕の周りにはある。
その中で僕は、自分で考えて、行動して、いくつもの選択肢を選んでいかなければならない。
それは、とてもキツイことだと思う。時には落ち込むこともあるだろう。どちらを選んでも、不運しかない状況も出てくるはずだ。
でもそれは、誰でも経験することなんだ。誰でも悩んで、それでも選択を繰り返しているんだ。
僕ばかりじゃないんだ。それなのに、ずっと彼のことを頼り続けているわけには行かない。今僕は、自分の足で歩き出すべきなんだろう。
ーードラえもんは、きっとそれを僕に伝えたくて、手紙をくれていたんだ。
姿を見せず、僕が自分の足で歩くように促していたんだ。
だったら、彼のためにも、僕は足を踏み出す。ゆっくりでも、自分の足でこれからを歩いて行く。
(じゃないと、キミに笑われるしね……)
最期にもう一度だけ押入に視線を送った僕は、一人静かに、微睡の中に意識を沈めていった。
549 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)21:54:07 ID:scqS6J1El
咲子さんエンドか?!!
550 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)22:01:21 ID:H3kqmpeHo
それから僕は、実家を後にした。
街並みを見渡しながら駅まで歩き、電車に乗る。窓から見える景色を横目に、電車に揺らされていく。
そのまま家に帰り、荷物を片付けた後、とある人物に連絡を取った。
思いのほかあっさりと連絡が取れたのが幸いだった。
「……うん……そうだよ……じゃあ、待ってる……」
電話を切り、服を着替える。
これから、僕は歩き出す。
最期に家を出る前に、これまでドラえもんがくれた手紙を読み返した。
彼の言葉をもう一度心に注ぎ、家を出る。
踏み出す足は、少しだけ躊躇を覚えていた。
それでも、力強く足を踏み出した。
551 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:02:50 ID:l5XlNl66D
おっ
552 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:04:26 ID:MMdXuYSNE
どうなる!?
553 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:06:16 ID:2q8OGhaob
のび太から迷いが消えたか
554 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)22:11:58 ID:H3kqmpeHo
待ち合わせの場所は、町中にある公園だった。
そこのブランコに身を揺られながら、僕はその人を待つ。
少しだけ心臓が高鳴っている。だけど、どこか心地がいい。
僕は待ちながら、初めてその人のことを、思い出していた。
いつも可愛く、世話好きで、僕と一緒にいた。おしとやかだけど、おてんばなところもある。
しっかりしているかと思えば泣きべそだったり、表情豊かな人……
「……のび太さん?」
その人は……
「……しずかちゃん……」
駆け寄る彼女に、僕は立って迎えた。
555 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:13:44 ID:l5XlNl66D
しずかちゃんキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
556 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:21:50 ID:4zp9G58pb
ラストで夢オチとかありそうな気がする
557 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)22:22:02 ID:H3kqmpeHo
「……ゴメンね、急に呼び出したりして……」
「ううん。ちょうど仕事が終わったからいいの」
僕達は、ブランコに座っていた。
風は肌寒いけど、それでも気にならない。
「……それで、どうしたの?」
しずかちゃんは、俯きながら僕に訊ねて来た。
「……うん、この前のことなんだけど……」
「この前……雪山のこと?」
「そう、それ。……実はね、あれ、僕じゃないんだよ」
「……え?」
突拍子もないことを言ったからか、しずかちゃんは僕の顔を注視する。
そんな彼女に、僕は続けた。
「……あれはね、僕だけど僕じゃないんだ。あれは、子供のころの僕なんだよ」
「……どういうこと?」
「子供のころ……まだ彼がいたころ、僕はキミが将来遭難することを知ったんだ。それを見た僕は、彼にお願いして、キミを助けに行ったんだ。
雪山なのにコートを着ていたのは、雪山のことをよく知らなかったから。突然姿を消したのは、タイムマシンで帰ったから。
だからあれは、今の僕じゃないんだよ」
「……う、うそ……」
しずかちゃんは、表情を硬くした。その顔を見たら、心が締め付けられた。
それでも、僕は続けた。
「……でも、子供の僕がキミに言ったことは、嘘じゃないんだよ」
「……え?」
ーーそして僕は、意を決した。
「……僕は、ずっとキミに憧れていたんだ。その気持ちは、今でも持ち続けている。キミは、僕にとって大切な人だよ」
「……のび太さん……」
二人を包む空は、更に夜の色を濃くしていく。
558 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:22:57 ID:Am4rIp7Hi
おい!
559 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:27:31 ID:Ud9q71g72
まだだ… 憧れと恋は…
560 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)22:29:22 ID:H3kqmpeHo
「ーーでも、僕には今、付き合ってる人がいるんだ」
「……どういうこと?」
「その人は、とても明るくて、とても元気なんだけど、時々おっちょこちょいなんだ。まるで子供の僕みたいだろ?
最近だと、物凄く寂しがり屋で、心配性なんだ」
「………」
「その人ね、見ていると、どこかほっとけないんだよ。ーー僕が、守ってあげたいって思うんだ……」
「……それって……」
「……うん。僕は、その人を守ってあげたい。その人と、一緒に過ごしていきたいんだ。
キミを大切に思うことに嘘はないよ。キミは、大切な友達だからね。……でも僕が、一緒に過ごしていきたい人は、その人なんだ。
ーーだから、キミの気持ちには応えられない。応えられないんだ……。ごめんーーー」
「……ひぐ……ひぐ……」
しずかちゃんは、声を押し殺すように、涙を流していた。それが酷く心を痛めさせる。
それでも僕は、彼女の想いに応えることは出来ない。
その時、僕は公園の入り口にいる彼の姿を見つけた。
その姿を見た僕は、涙を流す彼女に声をかける。
「しずかちゃん。僕には、キミを幸せにすることは出来ないんだ。
ーーでもね、キミの幸せを心から願っている人がいるんだ。あそこにーーー」
「……え?」
しずかちゃんは、僕が指さした方向に目をやる。そして、声を漏らした。
「……出木杉さん?」
「……しずか……」
561 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:30:47 ID:wHu2TLLBb
漢のび太
562 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:38:46 ID:SqYO9kxyu
ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお
563 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:41:22 ID:scqS6J1El
これは、のび太カッコいい
564 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)22:48:13 ID:H3kqmpeHo
〜2時間前〜
「ーーそっか……しずかちゃんと……」
「ああ。付き合ってたよ。最後には、こっぴどくフラれたけどね……」
そこは、街の角にあるバー。そこのカウンター席に、僕と出木杉は座っていた。
「しずかは、キミが好きなんだってよ。まったく、面白くもない話だけどね……」
ぼやくように呟くと、彼は目の前のウイスキーを飲みほした。
「……ごめん」
「なぜキミが謝るんだい?キミは、何も悪くないだろう。これはしずかの想いであって、僕が思ってるのは、単なる醜い嫉妬だけだよ」
出木杉は表情を落としたまま、そう呟く。
「……野比くん。しずかを幸せにしてやってほしい。それが、僕からの最初で最後のキミへの願いだ……」
「………」
「まったく、頭に来る話だよ。こっちは昔からの想いを、ようやく叶えたと思ったのにな……キミに、それを引き継ぐなんて……」
「出木杉……」
出木杉は、絞り出すようにそう話した。彼がそんなことを言ったのは、初めてのことだった。
彼は、心の底からしずかちゃんの幸せを願っていた。
恥を捨て、恋敵の僕に願ってまで、彼女の幸せを叶えようとした。
ーーそれでも、僕はその願いを叶えることは出来ない。
565 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)22:49:43 ID:H3kqmpeHo
「……出木杉、それは、無理なんだよ……」
「……何だって?」
「僕には今、付き合っている人がいる。……その人が、僕にとって、大切な人なんだ」
「ーーーーーッ!!」
出木杉は激高し、とっさに僕の胸ぐらを掴み上げた。
「……キミは!!何を言ってるんだ!!ずっと憧れてたんだろ!?ずっと好きだったんだろ!?
しずかも、ずっとキミを待ってたんだ!!キミが、想いを口にするのを……ずっと……!!」
出木杉の言葉は、心からの絶叫のように思えた。涙を目いっぱいに溜め、想いの全てを僕にぶつけていた。
そんな彼の瞳を、僕はを見続けた。
「……出木杉……でも、僕には出来ないんだよ。ーー出来ないんだ」
「………!!」
「………」
「……チッ!」
出木杉は、僕の目を睨み付けた後、投げ捨てるように手を離した。そして、荒々しくウイスキーをコップに注ぎ、飲み干す。
「……出木杉……」
「……不愉快だ……キミは本当に、不愉快だよ……!!」
「……出木杉、今から2時間後、街中の公園に来てほしい」
「……どうして僕が……」
「そこに行けば、全てが分かるさ。とにかく、来てほしい……」
「……分かったよ。行けば、いいんだろーーー」
566 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)22:58:44 ID:H3kqmpeHo
「ーーーしずかちゃん。僕は、キミを幸せにすることは出来ないんだよ」
「………」
「でもね、そこに立っている彼は違う。自分の想いを断ち切ってまで……歯を食い縛ってまで、ただひたすらにキミの幸せを願ってるんだ。
ーー彼ならきっと、キミを幸せにしてくれると思う。……それは、僕が保証するさ」
「……のび太さん……」
一度彼女に微笑みを見せた後、僕は公園の出入り口に向かった。
そして、彼の横を通り過ぎる直前、脚を止める。
「……ということだ、出木杉……」
「………」
「これから、キミが手を差し出す番だ。僕に出来ないことを、キミがするんだ」
「……相変わらず、不愉快だね、キミは……」
「すまないな。ーーしずかちゃんを、幸せにしてやってほしい。それが僕からの、最初で最後のキミへの願いだ……」
「……そんなもの、言われるまでもないさ……」
「……ああ。頼んだよ……」
そして僕は、公園を立ち去る。少しだけ離れた後、一度公園を振り返ってみた。
そこには、仄かに周囲を照らす街灯の下、ブランコに座る彼女と、彼女を抱き締める彼の姿があった。
……これから、二人の物語が始まる。
そこに、僕の席はない。
二人の幸せを願って、僕は公園から離れていった。
567 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:59:46 ID:iRglAosWf
全俺が泣いた
568 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)23:02:19 ID:IO4qlA7DN
しずかちゃんにこだわり続けていたのは
569 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)23:02:44 ID:TfxyPIKVQ
のび太マジ漢
570 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)23:04:49 ID:vmjt3Zy4T
泣いた
571 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)23:06:14 ID:Am4rIp7Hi
素晴らしい!
それでどうなる?
家に帰った後、僕は父さんと酒を交わす。
父さんは、上機嫌だった。顔を赤くして、ニコニコ笑っていた。
「ーーまさか、のび太と酒が飲める日が来るとはな!月日が経つのは早いものだ!」
父さんは僕のコップに、次々とビールを注ぐ。
「……僕、そんなにお酒強くないんだけど……」
「細かいことは気にするな!さあ!どんどん飲め!」
父さんはすっかり酔ってしまっているようだ。ノリが、会社の上司によく似ている。
苦笑いする僕に、追加にビールを持って来ていた母さんが後ろから笑いながら話しかけて来た。
「お父さんね、楽しみにしてたのよ?のび太とお酒を飲むことを」
「父さんが?」
「そうよ。いつも家で晩酌をする時に言ってたの。ここに、のび太がいてくれたらなぁって……」
「………」
「口では言わないけど、お父さん、寂しかったのよ。……もちろん、私もね……」
「……うん」
両親を安心させようと思って一人暮らしをした僕だったが、父さんと母さんは、別のことを思っていたようだ。
いくつになっても、子供は子供……誰かが言った言葉だ。
その意味が、少しだけ分かったような気がする。
父さんは相変わらず笑顔でお酒を飲む。母さんはお酒を飲まないのに、そんな僕達を座って見ている。
ずっと一緒に暮らしていた父さんと母さん。でも、一緒にいた時には薄れていたモノが、僕の中にはっきりと浮かび上がっていた。
ーー父さんと母さんの想いが、僕の中に注がれていたようだった。
「……父さん、お酒、注ぐよ」
「お!ありがとうな!」
その日は、夜遅くまで父さんと酒を交わす。心の中のしこりのようなものが、少しずつ溶けだしている気分だった。
544 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)21:27:06 ID:H3kqmpeHo
ーーふと、僕は目を覚ました。
「……うぅん……寝ちゃったのか……」
時計を見れば、時刻は真夜中。頭が痛い……
その時、僕は気が付いた。
今の掃出し窓が開き、そこに、父さんが座っていた。母さんの姿はない。どうやら、先に眠ってしまったようだ。
父さんは僕が起きたことに気が付き、微笑みながら顔を振り向かせた。
「……すまん、起こしてしまったか……」
「ううん。大丈夫。……こんな夜中に、何をしてるの?」
「ああ。……月を、見ていたんだ……」
「月を?」
「そうだ。……なあのび太、こっちに来て、一緒に見ないか?」
「……うん」
僕は、促されるまま父さんの隣に座る。
「……綺麗だね」
「そうだろ?月が見えて、のび太がいて、のび太と酒を飲んで……最高の夜だ……」
僕らは月を見上げる。
幸い、今日は雲がなかった。窓からは丸い満月が空に座し、夜の街を仄かに照らす。
星々の光は月光に遮られ、あまりはっきりとは見えない。でも、まるで星達の分まで輝くように、月は、優しく光を降り注がせていた。
少しの間、僕と父さんは、月の光が織りなす神秘的な劇場を、静かに眺めていた。
545 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)21:28:11 ID:OqSjZTS5g
月が綺麗…
あっ(察し)
546 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)21:29:49 ID:4zp9G58pb
おいついたー
547 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)21:38:52 ID:H3kqmpeHo
「ーーところでのび太」
突然、父さんが切り出した。
「うん?何?」
「誰か、いい人は見つかったか?」
「いい人?」
「結婚相手のことだよ」
「け、結婚!?」
「何を驚いてるんだ。のび太ももういい年だ。そろそろ結婚を考えてもおかしくはないぞ?」
「そ、そうなんだろうけど……いきなり結婚なんて……」
戸惑う僕に、父さんは声を出して笑う。
「いやいやすまん。ちょっと話を飛躍させ過ぎたな。……まあ、結婚まではいかなくても、付き合ってる人はいないのか?」
「……まあ、一応……」
「そうか……それはよかった……」
付き合ってるのは付き合ってる。……だけど、この前の舞さんに言われたことを思い出した。
……結局僕は、中途半端なんだ。
「……のび太、お前は、少し抜けてるところがあるからな。お前に合うのは、きっと、しっかりした人だろうな」
「う、うん……」
「まあいずれにしても、自分の目で見て、頭で考えて、相手を決めろ。そしてな、一度決めた相手は、一生大事にしろ。
家族を蔑ろにする奴は、幸せなんて手に入れることは出来ないんだ。
どれだけ仕事がうまくいっても、どれだけお金があっても、幸せってのは、それとは関係ないところから生まれるものなんだよ」
「……」
「……大丈夫だ、のび太。お前なら、必ず幸せな家庭を作れるはずだ。ーー何せ、お前は僕の、自慢の息子だからな」
「……0点ばっかり取ってたけどね」
「勉強なんて、最低限のことさえしていればいいさ。実際に、お前は高校まで卒業出来たんだ。十分だ」
「そっかな……」
「そうだ。お前は、自分の人生に自信を持っていい。ーーお前は、幸せを生み出すことが出来る」
「……ありがとう、父さん」
「……さて、そろそろ寝るとするか」
「うん……」
そして僕らは、それぞれの寝室に戻る。
僕は二階に上がり、布団に横になった。
久しぶりの自分の布団。眠る前に、一度押入に目をやる。
そこにいた彼は、今何をしているのだろうか………そんなことを考えていた。
……いや、それももう止めにしよう。
父さんも、先生も、舞さんも、そして、彼も……みんな、僕に自信を持っていいと言っていた。
僕は、いつも彼に頼ってばかりだった。
全ての願いを、叶えてくれる彼。困った時は、いつでも助けてくれた彼。
……でも僕は、もう大人になった。
子供のころにはなかった責任だとか柵(しがらみ)だとかが、今の僕の周りにはある。
その中で僕は、自分で考えて、行動して、いくつもの選択肢を選んでいかなければならない。
それは、とてもキツイことだと思う。時には落ち込むこともあるだろう。どちらを選んでも、不運しかない状況も出てくるはずだ。
でもそれは、誰でも経験することなんだ。誰でも悩んで、それでも選択を繰り返しているんだ。
僕ばかりじゃないんだ。それなのに、ずっと彼のことを頼り続けているわけには行かない。今僕は、自分の足で歩き出すべきなんだろう。
ーードラえもんは、きっとそれを僕に伝えたくて、手紙をくれていたんだ。
姿を見せず、僕が自分の足で歩くように促していたんだ。
だったら、彼のためにも、僕は足を踏み出す。ゆっくりでも、自分の足でこれからを歩いて行く。
(じゃないと、キミに笑われるしね……)
最期にもう一度だけ押入に視線を送った僕は、一人静かに、微睡の中に意識を沈めていった。
549 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)21:54:07 ID:scqS6J1El
咲子さんエンドか?!!
550 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)22:01:21 ID:H3kqmpeHo
それから僕は、実家を後にした。
街並みを見渡しながら駅まで歩き、電車に乗る。窓から見える景色を横目に、電車に揺らされていく。
そのまま家に帰り、荷物を片付けた後、とある人物に連絡を取った。
思いのほかあっさりと連絡が取れたのが幸いだった。
「……うん……そうだよ……じゃあ、待ってる……」
電話を切り、服を着替える。
これから、僕は歩き出す。
最期に家を出る前に、これまでドラえもんがくれた手紙を読み返した。
彼の言葉をもう一度心に注ぎ、家を出る。
踏み出す足は、少しだけ躊躇を覚えていた。
それでも、力強く足を踏み出した。
551 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:02:50 ID:l5XlNl66D
おっ
552 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:04:26 ID:MMdXuYSNE
どうなる!?
553 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:06:16 ID:2q8OGhaob
のび太から迷いが消えたか
554 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)22:11:58 ID:H3kqmpeHo
待ち合わせの場所は、町中にある公園だった。
そこのブランコに身を揺られながら、僕はその人を待つ。
少しだけ心臓が高鳴っている。だけど、どこか心地がいい。
僕は待ちながら、初めてその人のことを、思い出していた。
いつも可愛く、世話好きで、僕と一緒にいた。おしとやかだけど、おてんばなところもある。
しっかりしているかと思えば泣きべそだったり、表情豊かな人……
「……のび太さん?」
その人は……
「……しずかちゃん……」
駆け寄る彼女に、僕は立って迎えた。
555 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:13:44 ID:l5XlNl66D
しずかちゃんキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
556 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:21:50 ID:4zp9G58pb
ラストで夢オチとかありそうな気がする
557 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)22:22:02 ID:H3kqmpeHo
「……ゴメンね、急に呼び出したりして……」
「ううん。ちょうど仕事が終わったからいいの」
僕達は、ブランコに座っていた。
風は肌寒いけど、それでも気にならない。
「……それで、どうしたの?」
しずかちゃんは、俯きながら僕に訊ねて来た。
「……うん、この前のことなんだけど……」
「この前……雪山のこと?」
「そう、それ。……実はね、あれ、僕じゃないんだよ」
「……え?」
突拍子もないことを言ったからか、しずかちゃんは僕の顔を注視する。
そんな彼女に、僕は続けた。
「……あれはね、僕だけど僕じゃないんだ。あれは、子供のころの僕なんだよ」
「……どういうこと?」
「子供のころ……まだ彼がいたころ、僕はキミが将来遭難することを知ったんだ。それを見た僕は、彼にお願いして、キミを助けに行ったんだ。
雪山なのにコートを着ていたのは、雪山のことをよく知らなかったから。突然姿を消したのは、タイムマシンで帰ったから。
だからあれは、今の僕じゃないんだよ」
「……う、うそ……」
しずかちゃんは、表情を硬くした。その顔を見たら、心が締め付けられた。
それでも、僕は続けた。
「……でも、子供の僕がキミに言ったことは、嘘じゃないんだよ」
「……え?」
ーーそして僕は、意を決した。
「……僕は、ずっとキミに憧れていたんだ。その気持ちは、今でも持ち続けている。キミは、僕にとって大切な人だよ」
「……のび太さん……」
二人を包む空は、更に夜の色を濃くしていく。
558 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:22:57 ID:Am4rIp7Hi
おい!
559 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:27:31 ID:Ud9q71g72
まだだ… 憧れと恋は…
560 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)22:29:22 ID:H3kqmpeHo
「ーーでも、僕には今、付き合ってる人がいるんだ」
「……どういうこと?」
「その人は、とても明るくて、とても元気なんだけど、時々おっちょこちょいなんだ。まるで子供の僕みたいだろ?
最近だと、物凄く寂しがり屋で、心配性なんだ」
「………」
「その人ね、見ていると、どこかほっとけないんだよ。ーー僕が、守ってあげたいって思うんだ……」
「……それって……」
「……うん。僕は、その人を守ってあげたい。その人と、一緒に過ごしていきたいんだ。
キミを大切に思うことに嘘はないよ。キミは、大切な友達だからね。……でも僕が、一緒に過ごしていきたい人は、その人なんだ。
ーーだから、キミの気持ちには応えられない。応えられないんだ……。ごめんーーー」
「……ひぐ……ひぐ……」
しずかちゃんは、声を押し殺すように、涙を流していた。それが酷く心を痛めさせる。
それでも僕は、彼女の想いに応えることは出来ない。
その時、僕は公園の入り口にいる彼の姿を見つけた。
その姿を見た僕は、涙を流す彼女に声をかける。
「しずかちゃん。僕には、キミを幸せにすることは出来ないんだ。
ーーでもね、キミの幸せを心から願っている人がいるんだ。あそこにーーー」
「……え?」
しずかちゃんは、僕が指さした方向に目をやる。そして、声を漏らした。
「……出木杉さん?」
「……しずか……」
561 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:30:47 ID:wHu2TLLBb
漢のび太
562 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:38:46 ID:SqYO9kxyu
ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお
これは、のび太カッコいい
564 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)22:48:13 ID:H3kqmpeHo
〜2時間前〜
「ーーそっか……しずかちゃんと……」
「ああ。付き合ってたよ。最後には、こっぴどくフラれたけどね……」
そこは、街の角にあるバー。そこのカウンター席に、僕と出木杉は座っていた。
「しずかは、キミが好きなんだってよ。まったく、面白くもない話だけどね……」
ぼやくように呟くと、彼は目の前のウイスキーを飲みほした。
「……ごめん」
「なぜキミが謝るんだい?キミは、何も悪くないだろう。これはしずかの想いであって、僕が思ってるのは、単なる醜い嫉妬だけだよ」
出木杉は表情を落としたまま、そう呟く。
「……野比くん。しずかを幸せにしてやってほしい。それが、僕からの最初で最後のキミへの願いだ……」
「………」
「まったく、頭に来る話だよ。こっちは昔からの想いを、ようやく叶えたと思ったのにな……キミに、それを引き継ぐなんて……」
「出木杉……」
出木杉は、絞り出すようにそう話した。彼がそんなことを言ったのは、初めてのことだった。
彼は、心の底からしずかちゃんの幸せを願っていた。
恥を捨て、恋敵の僕に願ってまで、彼女の幸せを叶えようとした。
ーーそれでも、僕はその願いを叶えることは出来ない。
565 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)22:49:43 ID:H3kqmpeHo
「……出木杉、それは、無理なんだよ……」
「……何だって?」
「僕には今、付き合っている人がいる。……その人が、僕にとって、大切な人なんだ」
「ーーーーーッ!!」
出木杉は激高し、とっさに僕の胸ぐらを掴み上げた。
「……キミは!!何を言ってるんだ!!ずっと憧れてたんだろ!?ずっと好きだったんだろ!?
しずかも、ずっとキミを待ってたんだ!!キミが、想いを口にするのを……ずっと……!!」
出木杉の言葉は、心からの絶叫のように思えた。涙を目いっぱいに溜め、想いの全てを僕にぶつけていた。
そんな彼の瞳を、僕はを見続けた。
「……出木杉……でも、僕には出来ないんだよ。ーー出来ないんだ」
「………!!」
「………」
「……チッ!」
出木杉は、僕の目を睨み付けた後、投げ捨てるように手を離した。そして、荒々しくウイスキーをコップに注ぎ、飲み干す。
「……出木杉……」
「……不愉快だ……キミは本当に、不愉快だよ……!!」
「……出木杉、今から2時間後、街中の公園に来てほしい」
「……どうして僕が……」
「そこに行けば、全てが分かるさ。とにかく、来てほしい……」
「……分かったよ。行けば、いいんだろーーー」
566 :◆9XBVsEfN6xFl :2014/08/13(水)22:58:44 ID:H3kqmpeHo
「ーーーしずかちゃん。僕は、キミを幸せにすることは出来ないんだよ」
「………」
「でもね、そこに立っている彼は違う。自分の想いを断ち切ってまで……歯を食い縛ってまで、ただひたすらにキミの幸せを願ってるんだ。
ーー彼ならきっと、キミを幸せにしてくれると思う。……それは、僕が保証するさ」
「……のび太さん……」
一度彼女に微笑みを見せた後、僕は公園の出入り口に向かった。
そして、彼の横を通り過ぎる直前、脚を止める。
「……ということだ、出木杉……」
「………」
「これから、キミが手を差し出す番だ。僕に出来ないことを、キミがするんだ」
「……相変わらず、不愉快だね、キミは……」
「すまないな。ーーしずかちゃんを、幸せにしてやってほしい。それが僕からの、最初で最後のキミへの願いだ……」
「……そんなもの、言われるまでもないさ……」
「……ああ。頼んだよ……」
そして僕は、公園を立ち去る。少しだけ離れた後、一度公園を振り返ってみた。
そこには、仄かに周囲を照らす街灯の下、ブランコに座る彼女と、彼女を抱き締める彼の姿があった。
……これから、二人の物語が始まる。
そこに、僕の席はない。
二人の幸せを願って、僕は公園から離れていった。
567 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)22:59:46 ID:iRglAosWf
全俺が泣いた
568 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)23:02:19 ID:IO4qlA7DN
しずかちゃんにこだわり続けていたのは
569 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)23:02:44 ID:TfxyPIKVQ
のび太マジ漢
570 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)23:04:49 ID:vmjt3Zy4T
泣いた
571 :名無しさん@おーぷん :2014/08/13(水)23:06:14 ID:Am4rIp7Hi
素晴らしい!
それでどうなる?
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