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魔女「果ても無き世界の果てならば」

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Part7
350 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 00:25:45 ID:cL90GAto
 視界が白む。
 何も見えない。
「ママは死んじゃうの?」
「必ずパパが助けてみせる。 愛した人一人救えるなら、喜んでこの命すら捧げよう」
「パパもげんきじゃなきゃ、めー!」
「くそ、くそ、なにが魔法使いだ、結局僕は愛した人一人救えない」
「パパ……」
「パパは、駄目な奴だな」
「そうだ、死んだなら蘇らせればいい。 簡単な事だ、なぜ気づかなかったんだ、あは、あははは」
「パパ、おかおがこわいよ」

351 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 00:26:48 ID:cL90GAto
「なぁ娘、そこの魔導書には有効な術はあったか?」
「ないの、でもみて、あたしも魔法できるようになったよ!」
「そうか、その調子で色々な魔法を学べ。 ママを甦らせよう」
「パパ、言いづらいけど、その、死んだ人は蘇ったりは」
「~~!」
「きゃあ」
「いいか、良く聞け娘、それは貴様がまだまだ未熟だからそう思うだけだ」
「痛いよ、やめて、打たないでパパ!」
「従僕になれ。 敬虔なる魔術と知的探求心の従僕だ。 大気中の至る所に居る精霊たちの、夕闇に潜む禍々しき者達の、彼岸と此岸を行き来する亡霊達の、魔術という禁忌をそれを知り得る為に人である事を辞めろ、お前は古今東西総ての魔法を修めろ」
「そうしたら……」
「なんだ!」
(優しいパパに戻ってくれますか?)

352 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 00:32:29 ID:cL90GAto
「パパ、僕の担当していた魔導書は総て終わったよ」
「随分早いな」
「普通だよ」
「なんだ、その目は、お前は俺を馬鹿にしてるんだろう! ありもしない魔法を追い求めた愚かな男だと嘲笑っているんだろう!」
「違う、そんな事ないよ」
「うるさい! ~~!」
「やめて、~~~~」
「うぐぁっ」
「パパ、だいじょ」
「もう嫌だ、あはは、あははははは、娘ちゃん、パパはママを探しに行ってくるよあは、あははは」

353 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 00:32:58 ID:cL90GAto
「パパ、行かないでパパ!」
「僕、一人ぼっちになっちゃうよ……」
「一人ぼっちは、寂しいよパパ……」
「朝だ、あれ? パパ、どこに行ったの? あぁ、僕にお留守番を頼んで旅に出たんだった」
「帰ってきた時には立派な魔法使いになってなきゃ」
魔法使い「僕が忘れたかった記憶……これが、僕の記憶」
少女「お帰り」
 気がついたら開いた扉の中で僕は泣きながらうずくまっていた。

354 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 00:33:19 ID:cL90GAto
 こんなにも魔法に拘りがあったのはこんな過去があったからなんだ。
幼女「後悔、しているか? 我が主」
魔法使い「胸にぽっかりと穴が空いたみたいだ」
少女「……」
 あぁ、少し前ならきっと僕の心は砕けていたかもしれない。
魔法使い「少女、君のいいたい事は何となく理解したよ」
幼女「魂の扉は開かれた。 存分に魔力を振るわれよ」
魔法使い「さぁ、戻ろう、勇者達にも報告しなきゃ」
 今は大丈夫だ。 一人じゃないから。
 霧はもうなかった。


357 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 08:42:07 ID:RmFd5ncc
ダディェ…

358 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 09:50:35 ID:9veDEiXc
少年が亡くなった時
魔女もダディみたいになりそう

359 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 20:54:28 ID:cL90GAto
ダディじゃなくて、パパです。
ほんの少しの遠慮とたっぷりの愛情をこめて呼んで下さい。
更新します。

360 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 20:56:01 ID:cL90GAto
 重い。
 唇に何か柔らかい物が当たってる?
魔法使い「んぅ……ん!?」
少女「やぁ、おはよう」
 あーそう言えばそうだった。
魔法使い「~」
 怪我をさせないように注意しつつ爆発の呪文をつかう。
少女「うおっ!?」
 吹き飛ぶ少女、衝撃に震える地下室。
魔法使い「威力が上がった?」
少女「げほ、げほ。 やれやれ、乙女の唇は命よりも重いらしいね」
 無傷か、残念。

361 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 20:57:13 ID:cL90GAto
勇者「終わったのか?」
 広間に戻ると日が暮れていた。
魔法使い「どれくらいの時間がたったの?」
戦士「日が暮れる程度だ」
 思ったより時間はかかっていないらしい。
勇者「成果は?」
 勇者が笑いかけてくれる。
 おかしい、なんだか恥ずかしい。
魔法使い「ぼ、僕が失敗するとでも?」
 勇者だけじゃない、戦士の顔さえまともに見れない。
 山高帽を深く被り直して深呼吸、おーけい、落ち着こう。

362 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 20:58:05 ID:cL90GAto
魔法使い「所で僧侶は?」
勇者「あぁ、あいつなら――」
 広間の扉が勢いよく開く。
僧侶「魔法使いちゃん!」
 間の抜けた声に振り向くと見慣れた肉の塊が二つ、眼前に迫ってきた。
魔法使い「そおいっ!」
 抱きしめられたら確実に窒息する。 やられる前にやってやる。
僧侶「ひゃあ」
 双丘を横から全力で叩く。
 相変わらず手首にかかる負担は凄いが、コツを掴んだ僕の手首を壊す程ではない。
魔法使い「その脂肪の塊は不愉快なんだ、僕に押し付けないでくれ」
僧侶「んもう、再会のハグですよ? お帰りなさい、魔法使いちゃん」
魔法使い「うん、ただいま」

363 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 20:59:19 ID:cL90GAto
 全員揃った事を祝して、その夜は宴だった。
少女「大した物は出せないがそれでも当方の出来る最大の物を用意した」
魔法使い「まるで君が料理したみたいじゃないか」
 テーブルの上には所狭しと料理が並んでいる。
僧侶「少女さんも頑張っていましたし、私も頑張りましたよ?」
 僧侶が殆ど作ってた気がするんだけどなぁ。
少女「そういう君こそ、一体なにを作ったんだい?」
魔法使い「僕はそれよりも大切な事を任せられていたんでね」
 そう、どうにかして料理に参加したがる戦士の気を逸らすという大仕事だ。 けして僕が料理できないという証拠にはならない。
 まぁ、料理なんて作ったことはないけど。

364 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 21:00:35 ID:cL90GAto
 食事はまぁ、美味しかった。
 いつの間にか追加された料理の内に戦士特製のパイが混じっていたけど。
 それを食べた勇者が噴水みたいになってたけど。
 まぁ、楽しかった。
魔法使い「頬が熱いや、お酒なんて飲むもんじゃないね」
 広間から繋がるテラスで一人空を見上げる。
 満天の星は今にも降ってきそうだ。

365 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 21:01:03 ID:cL90GAto
僧侶「お邪魔ですか?」
魔法使い「僧侶、いや、そろそろ寂しくなってきたとこだよ」
 あれ? 僧侶が目を丸くしている。 変な事言ったかな?
僧侶「反則ですね、可愛すぎますよ、それ?」
 色白の彼女の頬にもほんのりと朱がさしている。
 少し肌寒いテラスで手すりに寄りかかると僧侶は困ったように視線を泳がせた。
魔法使い「話し辛いことでもあるのかい?」
僧侶「えーうー、あー……はい」
 僧侶は俯くと小さな声で呟いた。
僧侶「あの……その……好き、なんです」
魔法使い「へ?」

367 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/13(水) 21:05:41 ID:iO7dHaGo
おつおつ
魔法使い復活ッ!魔法使い復活ッ!魔法使い復活ッ!

369 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/14(木) 05:34:06 ID:nSBSQ1/.
これは少年が教会に乗り込むフラグだな

370 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/14(木) 12:24:34 ID:19wPY0u2
冷静に考えると勇者…ゲフンゲフン

371 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/15(金) 00:27:06 ID:LQ3j1/z2
 本日二度目だ、おーけい、落ち着こう。 僕はクールな魔法使い。 魔法使いは動じない。
魔法使い「えーとそれは、愛の告白なのかい?」
僧侶「……そんな、愛だなんて、その、えーと」
僧侶「はい」
 ど、ど、どうしよう。
 私、いや、僕告白なんて初めてされたんだけど、でも同性だし、でもあーと。
僧侶「勇者様を、お慕いしています」
魔法使い「え、あ、そーだよね」
 びっくりさせないでよこの乳袋。

372 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/15(金) 00:27:55 ID:LQ3j1/z2
魔法使い「そっか」
僧侶「伝えなくばこの想いに胸が張り裂けてしまいそうで」
 僧侶が弱々しく笑う。
 なんて声をかけて良いか分からない。
僧侶「でも、知ってるんです」
魔法使い「え?」
僧侶「少女さんとの契約、それに気付いているんです、私では彼の後ろをついていく事はできても、隣に並んで歩く事は出来ないと」
 返す言葉がない。

373 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/15(金) 00:28:08 ID:LQ3j1/z2
僧侶「だからこの話はここでお仕舞いです」
僧侶「ただ――」
 顔を上げた僧侶は泣いていた。
僧侶「初めての気持ちですし、誰にも知られぬまま朽ちて行くには惜しくて」
 懸命に笑みを繕うように口角を上げている。
魔法使い「よし」
 手に持ってきた果実酒の瓶を飲み干す。
魔法使い「いこうか僧侶」
 腹割って話そうか。 あの鈍感勇者と。


381 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/19(火) 03:03:21 ID:LC4zfXdc
僧侶「待って下さい、魔法使いちゃん!!」
 身体強化の魔法を使い無理矢理僧侶を引きずって行く。
 どんな理由があれ、僧侶だけ諦めるのは納得いかない。
少女「どこに行くつもりなんだい?」
 勇者の部屋の近くまで行くと少女に呼び止められた。
魔法使い「勇者のところだ!!」
少女「ふむふむ、それは興味深い」
 少女の瞳の紫が一段濃くなったように感じた。

382 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/02/19(火) 03:03:32 ID:LC4zfXdc
僧侶「だから待って下さいと言ってるじゃないですか」
魔法使い「あーもう、僕が納得行かないんだ」
少女「無理強いは良くないよ? どうしても行くというなら――」
 少女の指が淡く光り、空中に文字を描く。 描かれた文字は。
【戦争】
少女「戦もやむなし。 だ」
魔法使い「は、上等」

420 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 13:47:06 ID:owv6FRcA
 月明かりの中庭で少女と向かい合う。
魔法使い「まさか君とこういう形で向き合うことになるなんてね」
 逆光で少女の顔は見えない。
僧侶「どうか落ち着いて下さい」
少女「ふぅー」
 少女が深い溜め息を吐く。
少女「キスした仲じゃないか、お手柔らかに頼むよ?」
 確実に笑っている。 顔は見えないし、声の調子も静かだけれども不思議とわかった。

421 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 13:47:45 ID:owv6FRcA
魔法使い「いつまでその余裕が持つかな?」
 身体を巡る魔力が細部まではっきりと感じ取れる。
 今までに無いほど鋭敏な感覚だ。 これがあの時の成果ならば、過去に向き合うだけの価値はあったのだろう。
少女「どうしたの? こないのかい?」
魔法使い「泣きっ面を拝むまで、僕はやめないからね? ~~~」
 指先に魔力を込めて少女を見据える。
 怪我をさせたい訳じゃない。 行動不能にできればいい。
 使うのは炎。 想像し創造するのは炎の牢獄、少女に触れない程度の距離を全方周囲取り囲む。
 荒ぶる炎の精霊を完全に意のままの形にする事なんて今まではできなかった。
 今ならばその気になれば炎で文章を宙に書く事さえ容易だ。

422 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 13:48:16 ID:owv6FRcA
少女「くっふっふ、完全に一段高みに到達したようだね。 人の中では君を凌駕する魔法使いを捜すのはさぞ苦労しそうだ」
魔法使い「降参かい?」
 元を正せば売られた喧嘩を買っただけの下らない意地の張り合いだ。
 自分の成長も把握できたし頃合いだろう。
少女「才能という蕾が花開き、咲き誇る、美しい光景だ」
 一瞬、身体を巡る魔力に違和感を感じる。
少女「ただ――」
 少女が炎の格子に迷いなく歩み寄る。
 なんだ、なにが起こっている?
少女「私は魔女――。 だ」

423 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 13:49:29 ID:owv6FRcA
 少女が笑った。 空にぽっかりと浮かぶ月のよう口を歪めて。
  少女は炎の中に手を躊躇なく入れていく。
 まるで霧の中にでも手を突き入れるように簡単に。
 格子状だった炎はまるで彼女にじゃれつくかのように彼女の身体を這い回り最終的には小さな音を立てて消えてしまった。
魔法使い「ッ!?」
 全身を鷲掴みにされたような不快感。
 まるで自分の魔力すべてに茨の蔓を這わされているようだ。
少女「随分と素直な魔力だね、どう流れているか丸裸だよ? だからこんなに簡単に」
魔法使い「くぅ……」
少女「操作を奪われる」
 気合いを入れろ、魔法は気持ち一つなんだ。 したり顔の少女に一発入れてやる。

424 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 13:51:56 ID:owv6FRcA
少女「あーあ、無駄だよ、他の魔女なら何とかなったかもしれないけど、残念ながら私の徒名は空虚――。」
 僕の魔力が……消え、た?
少女「森羅万象総てを虚無と帰す【空虚の魔女】だ。 君の魔力は辺りに散ってしまったんじゃないか?」
 その夜空よりも濃い、艶のある黒髪をかきあげる少女はやはり魔女だ。
 人の身では到達し得ぬ純然たる魔の結晶。
少女「楽しい夜会は始まったばかりだ、さぁ年頃の娘達のように色恋話で大いに盛り上がろうじゃないか。 所謂、‘がぁるずとぉく’って奴を、ね?」
 こんなガールズトークがあってたまるか。

425 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 13:53:22 ID:owv6FRcA
 良いように馬鹿にされたばっかじゃ僕のプライドもなにもあったもんじゃない。
魔法使い「~~」
少女「このままなら無理だね、何回やっても君の魔力は丸見えなんだから」
 ならどうする?
 魔力の流れを知られないようにする?
 いや、それは無理だ。 やり方に検討すらつかない。
 じゃあ魔力を使わない?
 殴りかかるなんてスマートじゃない、却下だ。
少女「どうしたんだい? 難しい顔してるけど」
魔法使い「生憎なんだけど、ガールズトークをするような友達が今まで居なかったからね、~~ッ!」
 魔力の流れが見えも対応出来ないくらいの早さなら?
 放ったのは僕が扱う魔術の中でもっとも速さのある閃光の魔法だ。

426 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/03/12(火) 13:53:43 ID:owv6FRcA
少女「速さだけじゃどうにもならないよ」
 光球は少女に近づくにつれ、毛糸の塊が解けるように散らばっていく。
少女「さて、降参かい?」
 冗談はよしてよね。
魔法使い「まだガールズトークを始めたばかりじゃないか」
 僧侶の気持ちも、少女の真意も分からない。
少女「盛り上がるようなネタはまだあるんだろうね?」
魔法使い「興奮して眠れなくなるようなとっておきの話をしてあげるよ」
 やれるだけのことは、しておかなきゃね。

447 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:01:39 ID:TsjRKeIE
 さて、次の策を練ろうか。
 正攻法でも奇襲でも通じないなら絡め手で墜とすだけ、だ。
僧侶「争いは……て、聞こえてませんね。 発端は私なのに」
魔法使い「~~」
 先ずは閃光の魔法を撃つ。
少女「ふふ、諦めが悪いね」
 有効範囲から僅かに外れた所で発動。
魔法使い「~~」
少女「目眩ましかい?」
 ……その通りだよ。
 狙いは後方。
 熱線の魔法で噴水を狙う。
 蒸発する噴水の水、飛散する瓦礫。
魔法使い「さて、あと数手、気づかなければ詰みだよ?」
少女「何をしようと魔法じゃ私には勝てないぞ?」

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