魔女「果ても無き世界の果てならば」
Part4
139 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/27(月) 23:51:08 ID:j/y/1npE
勇者「あぶねー!!」
勇者に突き飛ばされる。
危なかった。 僕の居た場所に閃光が走る。
魔法使い「助かったよ」
勇者「任せろって言ったろ? まぁちょっと待ってろよ。 片付けてくるから」
虚勢? いや、この目は本気だ。
ひたすら真っ直ぐな輝きを湛えたその瞳の前では、諦めや絶望さえ逃げ出してしまいそうだとさえ思ってしまう。
魔法使い「仕方ない、手を貸してあげよう」
少しだけ、彼に興味がでた。
140 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/27(月) 23:51:41 ID:j/y/1npE
今回の更新は以上となります。
141 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 00:22:42 ID:QbuKFfBc
ゴーレムが本気だしたか...
魔女の策に期待を寄せよう
④
142 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 01:50:50 ID:5.BQABQ6
ちょっと更新。
143 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:12:14 ID:5.BQABQ6
魔法使い「さて、堅牢な表面に加えて高い魔法耐性、正攻法じゃまず無理だよ。 だから君の魔法を使う」
勇者「火力が足りないぞ?」
魔法使い「僕が魔力と術式を担当するよ、君はただ雷の精霊を使役してくれればそれでいい」
ゴーレムの閃光を避けながら説明する。
勇者「やっぱり魔法使いは頼りになるな~」
感心したように僕を見つめる勇者。
あんまりみないで欲しい。
144 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:12:40 ID:5.BQABQ6
勇者「時間もないし、サクッとやっちまおう」
ゴーレムの閃光の間隔の間を縫って魔力を練る。
勇者「~~」
勇者の手を握る。
パパ以外の男性の手を握るのは初めてだと気付き、一瞬戸惑う。
勇者「~~」
まぁいいか。
誰か手を握ったのは久しぶりだ。
思ったよりも大きくて、ゴツゴツと逞しい手だった。
145 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:13:17 ID:5.BQABQ6
魔法使い「~~~~」
勇者の魔力の流れを調整しつつ、僕の魔力を上乗せして火力を底上げする。
更に上位の精霊を使役する為の呪文を駆使、魔法自体を高位の物に書き換える。
勇者「おぉ?」
魔法使い「集中して! 格上の精霊、しかも雷の精霊相手にしてるんだ、油断すると精神ごと灼かれるよ」
ゴーレム「グゴァアァァァ」
感づいたゴーレム達が一斉に僕たちに紅い単眼を向ける。
勇者・魔法使い「「~~~~!!」」
空気中の至る所で放電が起こる。
雷雲がゴーレム達の頭上に出現。
数瞬の後、それは空気を震わせる轟音を響かせてゴーレムを呑み込んだ。
146 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:13:45 ID:5.BQABQ6
見る者の魂を灼き尽くす気高き雷。
勇者のみに与する自然界で最も鋭き刃を持つ精霊の一撃。
それがゴーレムの堅牢な外皮を貫き内部を焼き尽くす。
勇者「すげぇ……」
魔法使い「これが本来の威力なんだ。 それより」
ゴーレムの残骸が転がる祠の奥、台座の向こうの扉がひとりでに開いた。
勇者「ん?」
魔法使い「いつまで手を握っているのかな?」
勇者「お、悪い悪い」
離された手を見つめる。
悪い気は、しなかった。
147 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:14:59 ID:5.BQABQ6
祠の奥にあったのは妖精の村に伝わる宝剣だった。
淡い光を放つ神秘的な剣を自慢げに背に負って歩く勇者をぼんやりと眺めながら歩く。
勇者「あぁ、そういやごめんな」
魔法使い「?」
勇者「任せろって大口叩いた割に俺一人じゃ何も出来なかった」
魔法使い「あぁ、別に気にしなくて良いよ。 だって」
勇者「?」
魔法使い「仲間なんでしょ?」
うん。 まぁ。
148 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:15:22 ID:5.BQABQ6
勇者「魔法使い!」
魔法使い「!!」
え、あ、ちょ?
勇者に抱きしめられた?
魔法使い「~!!」
勇者「熱っ!?」
やっぱり嫌いだ!!
―――――――――――――
―――――――――
149 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:17:02 ID:5.BQABQ6
―――――――――――
――――――――
魔女「とまぁこんな感じかな。 少年?」
断言します。
僕は勇者って人が嫌いです。
少年「へぇ~」
はい。 嫉妬です。 それがなにか?
魔女が嬉しそうな顔で勇者の話をするのはどうにも胸が疼きます。
少年「魔女は勇者って人の事好きだったの?」
魔女「ん~どうだろうね?」
魔女が唇を少しだけ歪める笑い方をして言いました。
多分僕の感情を理解した上で、意地悪をしているんでしょうね。
150 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:17:14 ID:5.BQABQ6
魔女「僕より僧侶が勇者に対してはご執心だったみたいだよ? 二人の出会いは聞いてないからわからないけど、それなりに特別な物だったらしい」
少年「勇者は僧侶と結ばれたの? あ、でも建国話では異国の姫と国を作ったって」
魔女「うん、残念ながら実らなかったんだ。 色々あったのさ」
余計に勇者が憎らしくなりました。
――――――――――――
――――――――――――――
151 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:18:07 ID:5.BQABQ6
今回の更新は以上となります。
152 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 03:54:29 ID:QbuKFfBc
魔法使いの、パパ発言にちょっと笑ったw
153 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 04:44:20 ID:5.JbmTkc
更新乙です
154 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 06:04:19 ID:1pEwaEBg
少年の反応がいちいち可愛いな
つ④
158 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:03:36 ID:qIoBpwfI
――――――――――――
――――――――――――――
僕たちの力が足りないばかりに。
僕の魔法は一つとして通用しなかった。
僧侶は意識を手放すその時まで、回復を施し続けていた。
戦士の戦斧が音を立てて砕ける。
最後には、ただ独りで魔王の前に立ちはだかり、剣を振るう勇者。
魔王は戯れとでも言うように、それをあしらい、致命の傷を与えないように弄んだ。
魔女「悔しいよぉ……」
159 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:04:06 ID:qIoBpwfI
なにも出来ない無力な自分が憎らしい。
魔王城の玉座の間で悔し涙を零す。
なぜ僕には力がない?
なぜ僕には何も守れない?
僧侶のような癒やしの力も。
戦士のように身を挺して仲間を庇うことも。
なぜ。
僕には何もできないの?
漆黒の雷が、玉座を包む。
断末魔の叫びをあげることもなく、僕は意識を手放した。
160 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:05:18 ID:qIoBpwfI
勇者「魔法使い、無事か?」
どうやら生きているらしい。
魔法使い「ここは?」
見渡すと自分が簡素な小屋に寝かされている事がわかった。
隣には僧侶が小さな寝息を立てている。
魔法使い「みんな無事らし……戦士の姿が無いけど?」
勇者「アイツは外で見張りしてる。 一番重傷の筈なのにな」
まぁ、彼に何かあるというのは想像出来ないけど。
161 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:05:55 ID:qIoBpwfI
魔法使い「それよりここは?」
勇者「わからん、移動魔法を使って逃げようとしたんだけど」
魔法使い「失敗したと」
勇者「面目ない」
あの状況でなんとかなるだけでも奇跡だ。 褒められてこそ、責められる謂われはない。
魔法使い「普段の努力不足だね。 魔法を蔑ろにするから、こうなるんじゃないか?」
だと言うのに口から零れるのは悪態だ。 つくづく自分の性格に問題があると思い知る。
勇者「それだけ言えるなら元気って事だな」
なんで、こんな事を言われても真っ直ぐ笑えるんだろう。
馬鹿だよ……。
162 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:06:24 ID:qIoBpwfI
勇者「なぁ」
不意に勇者が真剣な顔になる。
僕よりちょっと長く生きているだけだというのに、こういう顔をすると驚くほど大人びて見える。
勇者「俺……みんなを守れなかった」
返す言葉がなかった。
今までどんな状況でも屈託なく笑う男だったとは思えない顔だ。
泣き出していないのが不思議だと思う。
163 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:10:01 ID:qIoBpwfI
勇者「魔王が近くにいると思ったら、俺……我慢できなかった」
俯いて、ポツリと呟く。
勇者「俺が弱いから……」
魔法使い「弱いのは君だけじゃないだろ……。 僕だって」
勇者「俺は勇者だ!! お前たちみたいに、あ……」
勇者の言葉を聞いて、うまく言葉が出なかった。
一緒に旅をしてきたのに。
短い間だけど苦楽をともにしてきたじゃないか。
素直にはなれなかったけど、僕は、僕たちは仲間じゃなかったの?
言葉がでない代わりに、そんな感情の塊が瞳から溢れ出た。
勇者「……ごめん」
勇者はそんな僕の顔を見ると「頭を冷やしてくる」とだけ言って、小屋から出て行った。
164 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:11:02 ID:qIoBpwfI
まさか、勇者がそのまま姿を消すなんて、思わなかった。
僧侶「魔法使いちゃん?」
数時間後、僧侶が起きた。
魔法使い「ちゃんはやめてよ」
振り向きたくない。
今僕は情けない顔をしてる。
僧侶「止めません。 今の貴女は、傷ついてしまった年下の女の子ですから」
魔法使い「何を言ってるの?」
なるべく普段通りの声を心がけたつもりだったけど、声は震えていた。
165 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:11:51 ID:qIoBpwfI
僧侶「泣き顔を私に見られたくないなら、そのままでも良いですよ」
そう言って、僧侶は僕を後ろから抱きしめた。
甘く優しい香りがした。
暖かくて、柔らかかった。
166 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:12:07 ID:qIoBpwfI
僧侶「大丈夫、皆さん貴女の仲間です。 勿論、勇者様も」
魔法使い「僕……が、もっと…つよ、強かったら、勇者にあんな顔させなくてよかったのに」
僧侶「うん、それから?」
魔法使い「僕が……強かったら…勇者は仲間だって……思ってくれたのかな?」
僧侶「貴女は貴女のままで良いのですよ? 勇者様は責任を感じておられるのです。 貴女と同じように自分の無力を嘆いているのです」
魔法使い「でも……」
僧侶「はい、心とは時には自分の言う事を聞いてくれないものです」
魔法使い「でも…」
僧侶「気が済むまでお泣き下さい。 そして、勇者様の頬でもひっぱたきに行きましょう。 もっと、仲間を頼れって」
こんな時に優しくするとか卑怯だよ……。
167 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:12:48 ID:qIoBpwfI
今回の更新は以上となりはす。
168 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:17:40 ID:4sj4Ss56
更新乙乙!
169 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:43:58 ID:PMugLWCc
更新乙ぅ
170 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 23:10:51 ID:qIoBpwfI
すいません、ひとつ貼り忘れてました。
171 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 23:11:49 ID:qIoBpwfI
――――――――――――――
――――――――――
少年「へぇ」
魔女を泣かせた? え? なに?
魔女「少年、顔が怖いよ?」
えぇ、怒ってますもん。
今なら魔女に教わった魔法をすべて使いこなせる気がします。
172 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 23:12:07 ID:qIoBpwfI
魔女「まだまだ、未熟だね。 感情の高ぶりで魔力を不安定にするなんて」
少年「え? 何のこと?」
魔女「この僕の一番弟子たる少年がこれでは僕の品格まで疑われてしまうよ」
安楽椅子から降りて、僕を見上げる魔女。 いつの間にか魔女の方が身長が低くなってます。
そうですよね。 ここで魔法使いの修行を始めて二年は経ちましたし。
魔女「まったく、図体ばかり大きくなってもやっぱりまだまだ君は子供だな」
少年「まぁ魔女から見ればね」
魔女「はいはい、さて、続きを話すよ、ん」
魔女は空になったティーカップを僕に渡します。
さて、魔女の好きな茶葉はお話が終わるまで持つのでしょうか?
―――――――――――――
――――――――
176 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/31(金) 23:11:48 ID:kBQ8wIVk
面白いなぁ・・・
ホント面白いなぁ・・・
177 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/01(土) 17:24:52 ID:YbddmQj.
>>176
同士よ(・ω・)っ
178 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/01(土) 22:48:36 ID:CEMq4VL.
少し更新します。
179 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/01(土) 22:50:32 ID:CEMq4VL.
―――――――――――――
――――――――
小屋を出ると、青空が見えた。
戦士「驚くとは思った」
魔王がこの世界に現れてから、空には鈍色の分厚い雲に覆われていたから。
まるで、世界の果てにでも来たような気持ちになる。
僧侶「美しいですね」
魔女「あぁ、綺麗だ」
いったいここは、どこなんだろうか。
戦士「聞いたことがある、魔王の力が及ばぬ国があると」
180 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/01(土) 22:51:12 ID:CEMq4VL.
戦士曰わく、その国では強力な魔力を持つ王族が民と国を守護している為に、魔王の力が及ばないらしい。
魔法使い「へぇ、眉唾ものの話だけど」
僧侶「この澄んだ空をみると信じざるを得ないですね」
ところで、勇者はどこに行ったんだろう?
魔法使い「戦士、勇者は?」
外で見張りをしていたなら、きっと見ている筈だ。
戦士「ん? アイツは山の方へ向かったぞ」
僧侶「いつ戻ってくるとか言ってましたか?」
戦士「いや、アイツは戻らんつもりだろう」
何言ってんだこの脳筋は。
181 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/01(土) 22:51:47 ID:CEMq4VL.
戦士「自分を見失うのも仕方ないさ。 勇者だのなんだの言われてはいるが、実際のアイツはまだガキに毛が生えたようなもんだからな」
僧侶「追いましょう!」
魔法使い「賛成だ」
戦士「アイツが答えを見つける時間は与えてやるべきだ。 追うのは良いが、ゆっくり行くぞ」
余裕で達観したような態度の戦士に少し腹が立つ。
なんでも知ってるような顔しちゃってさ……。
182 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/01(土) 22:52:03 ID:CEMq4VL.
澄み渡る空が木々の間から覗く。
耳には小動物の鳴き声、川のせせらぎ。
こんな時でなければ、ゆっくりと散策したいものだ。
僧侶「なんとも、心地良いですね」
魔法使い「うん、そうだね」
戦士「かつては世界中がこうだった」
勇者、君はこの世界を見てどんな事を思う?
183 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/01(土) 22:53:40 ID:CEMq4VL.
更新は以上となります。
別行動の勇者は、次回作の勇者のSSでどんな事があったか書くつもりです。
184 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/02(日) 04:24:24 ID:sJNVtYuI
(・ω・)っ④
勇者「あぶねー!!」
勇者に突き飛ばされる。
危なかった。 僕の居た場所に閃光が走る。
魔法使い「助かったよ」
勇者「任せろって言ったろ? まぁちょっと待ってろよ。 片付けてくるから」
虚勢? いや、この目は本気だ。
ひたすら真っ直ぐな輝きを湛えたその瞳の前では、諦めや絶望さえ逃げ出してしまいそうだとさえ思ってしまう。
魔法使い「仕方ない、手を貸してあげよう」
少しだけ、彼に興味がでた。
140 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/27(月) 23:51:41 ID:j/y/1npE
今回の更新は以上となります。
141 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 00:22:42 ID:QbuKFfBc
ゴーレムが本気だしたか...
魔女の策に期待を寄せよう
④
142 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 01:50:50 ID:5.BQABQ6
ちょっと更新。
143 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:12:14 ID:5.BQABQ6
魔法使い「さて、堅牢な表面に加えて高い魔法耐性、正攻法じゃまず無理だよ。 だから君の魔法を使う」
勇者「火力が足りないぞ?」
魔法使い「僕が魔力と術式を担当するよ、君はただ雷の精霊を使役してくれればそれでいい」
ゴーレムの閃光を避けながら説明する。
勇者「やっぱり魔法使いは頼りになるな~」
感心したように僕を見つめる勇者。
あんまりみないで欲しい。
勇者「時間もないし、サクッとやっちまおう」
ゴーレムの閃光の間隔の間を縫って魔力を練る。
勇者「~~」
勇者の手を握る。
パパ以外の男性の手を握るのは初めてだと気付き、一瞬戸惑う。
勇者「~~」
まぁいいか。
誰か手を握ったのは久しぶりだ。
思ったよりも大きくて、ゴツゴツと逞しい手だった。
145 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:13:17 ID:5.BQABQ6
魔法使い「~~~~」
勇者の魔力の流れを調整しつつ、僕の魔力を上乗せして火力を底上げする。
更に上位の精霊を使役する為の呪文を駆使、魔法自体を高位の物に書き換える。
勇者「おぉ?」
魔法使い「集中して! 格上の精霊、しかも雷の精霊相手にしてるんだ、油断すると精神ごと灼かれるよ」
ゴーレム「グゴァアァァァ」
感づいたゴーレム達が一斉に僕たちに紅い単眼を向ける。
勇者・魔法使い「「~~~~!!」」
空気中の至る所で放電が起こる。
雷雲がゴーレム達の頭上に出現。
数瞬の後、それは空気を震わせる轟音を響かせてゴーレムを呑み込んだ。
146 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:13:45 ID:5.BQABQ6
見る者の魂を灼き尽くす気高き雷。
勇者のみに与する自然界で最も鋭き刃を持つ精霊の一撃。
それがゴーレムの堅牢な外皮を貫き内部を焼き尽くす。
勇者「すげぇ……」
魔法使い「これが本来の威力なんだ。 それより」
ゴーレムの残骸が転がる祠の奥、台座の向こうの扉がひとりでに開いた。
勇者「ん?」
魔法使い「いつまで手を握っているのかな?」
勇者「お、悪い悪い」
離された手を見つめる。
悪い気は、しなかった。
147 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:14:59 ID:5.BQABQ6
祠の奥にあったのは妖精の村に伝わる宝剣だった。
淡い光を放つ神秘的な剣を自慢げに背に負って歩く勇者をぼんやりと眺めながら歩く。
勇者「あぁ、そういやごめんな」
魔法使い「?」
勇者「任せろって大口叩いた割に俺一人じゃ何も出来なかった」
魔法使い「あぁ、別に気にしなくて良いよ。 だって」
勇者「?」
魔法使い「仲間なんでしょ?」
うん。 まぁ。
148 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:15:22 ID:5.BQABQ6
勇者「魔法使い!」
魔法使い「!!」
え、あ、ちょ?
勇者に抱きしめられた?
魔法使い「~!!」
勇者「熱っ!?」
やっぱり嫌いだ!!
―――――――――――――
―――――――――
149 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:17:02 ID:5.BQABQ6
―――――――――――
――――――――
魔女「とまぁこんな感じかな。 少年?」
断言します。
僕は勇者って人が嫌いです。
少年「へぇ~」
はい。 嫉妬です。 それがなにか?
魔女が嬉しそうな顔で勇者の話をするのはどうにも胸が疼きます。
少年「魔女は勇者って人の事好きだったの?」
魔女「ん~どうだろうね?」
魔女が唇を少しだけ歪める笑い方をして言いました。
多分僕の感情を理解した上で、意地悪をしているんでしょうね。
150 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:17:14 ID:5.BQABQ6
魔女「僕より僧侶が勇者に対してはご執心だったみたいだよ? 二人の出会いは聞いてないからわからないけど、それなりに特別な物だったらしい」
少年「勇者は僧侶と結ばれたの? あ、でも建国話では異国の姫と国を作ったって」
魔女「うん、残念ながら実らなかったんだ。 色々あったのさ」
余計に勇者が憎らしくなりました。
――――――――――――
――――――――――――――
151 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 02:18:07 ID:5.BQABQ6
今回の更新は以上となります。
152 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 03:54:29 ID:QbuKFfBc
魔法使いの、パパ発言にちょっと笑ったw
153 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 04:44:20 ID:5.JbmTkc
更新乙です
154 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/28(火) 06:04:19 ID:1pEwaEBg
少年の反応がいちいち可愛いな
つ④
158 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:03:36 ID:qIoBpwfI
――――――――――――
――――――――――――――
僕たちの力が足りないばかりに。
僕の魔法は一つとして通用しなかった。
僧侶は意識を手放すその時まで、回復を施し続けていた。
戦士の戦斧が音を立てて砕ける。
最後には、ただ独りで魔王の前に立ちはだかり、剣を振るう勇者。
魔王は戯れとでも言うように、それをあしらい、致命の傷を与えないように弄んだ。
魔女「悔しいよぉ……」
159 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:04:06 ID:qIoBpwfI
なにも出来ない無力な自分が憎らしい。
魔王城の玉座の間で悔し涙を零す。
なぜ僕には力がない?
なぜ僕には何も守れない?
僧侶のような癒やしの力も。
戦士のように身を挺して仲間を庇うことも。
なぜ。
僕には何もできないの?
漆黒の雷が、玉座を包む。
断末魔の叫びをあげることもなく、僕は意識を手放した。
160 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:05:18 ID:qIoBpwfI
勇者「魔法使い、無事か?」
どうやら生きているらしい。
魔法使い「ここは?」
見渡すと自分が簡素な小屋に寝かされている事がわかった。
隣には僧侶が小さな寝息を立てている。
魔法使い「みんな無事らし……戦士の姿が無いけど?」
勇者「アイツは外で見張りしてる。 一番重傷の筈なのにな」
まぁ、彼に何かあるというのは想像出来ないけど。
161 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:05:55 ID:qIoBpwfI
魔法使い「それよりここは?」
勇者「わからん、移動魔法を使って逃げようとしたんだけど」
魔法使い「失敗したと」
勇者「面目ない」
あの状況でなんとかなるだけでも奇跡だ。 褒められてこそ、責められる謂われはない。
魔法使い「普段の努力不足だね。 魔法を蔑ろにするから、こうなるんじゃないか?」
だと言うのに口から零れるのは悪態だ。 つくづく自分の性格に問題があると思い知る。
勇者「それだけ言えるなら元気って事だな」
なんで、こんな事を言われても真っ直ぐ笑えるんだろう。
馬鹿だよ……。
勇者「なぁ」
不意に勇者が真剣な顔になる。
僕よりちょっと長く生きているだけだというのに、こういう顔をすると驚くほど大人びて見える。
勇者「俺……みんなを守れなかった」
返す言葉がなかった。
今までどんな状況でも屈託なく笑う男だったとは思えない顔だ。
泣き出していないのが不思議だと思う。
163 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:10:01 ID:qIoBpwfI
勇者「魔王が近くにいると思ったら、俺……我慢できなかった」
俯いて、ポツリと呟く。
勇者「俺が弱いから……」
魔法使い「弱いのは君だけじゃないだろ……。 僕だって」
勇者「俺は勇者だ!! お前たちみたいに、あ……」
勇者の言葉を聞いて、うまく言葉が出なかった。
一緒に旅をしてきたのに。
短い間だけど苦楽をともにしてきたじゃないか。
素直にはなれなかったけど、僕は、僕たちは仲間じゃなかったの?
言葉がでない代わりに、そんな感情の塊が瞳から溢れ出た。
勇者「……ごめん」
勇者はそんな僕の顔を見ると「頭を冷やしてくる」とだけ言って、小屋から出て行った。
164 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:11:02 ID:qIoBpwfI
まさか、勇者がそのまま姿を消すなんて、思わなかった。
僧侶「魔法使いちゃん?」
数時間後、僧侶が起きた。
魔法使い「ちゃんはやめてよ」
振り向きたくない。
今僕は情けない顔をしてる。
僧侶「止めません。 今の貴女は、傷ついてしまった年下の女の子ですから」
魔法使い「何を言ってるの?」
なるべく普段通りの声を心がけたつもりだったけど、声は震えていた。
165 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:11:51 ID:qIoBpwfI
僧侶「泣き顔を私に見られたくないなら、そのままでも良いですよ」
そう言って、僧侶は僕を後ろから抱きしめた。
甘く優しい香りがした。
暖かくて、柔らかかった。
166 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:12:07 ID:qIoBpwfI
僧侶「大丈夫、皆さん貴女の仲間です。 勿論、勇者様も」
魔法使い「僕……が、もっと…つよ、強かったら、勇者にあんな顔させなくてよかったのに」
僧侶「うん、それから?」
魔法使い「僕が……強かったら…勇者は仲間だって……思ってくれたのかな?」
僧侶「貴女は貴女のままで良いのですよ? 勇者様は責任を感じておられるのです。 貴女と同じように自分の無力を嘆いているのです」
魔法使い「でも……」
僧侶「はい、心とは時には自分の言う事を聞いてくれないものです」
魔法使い「でも…」
僧侶「気が済むまでお泣き下さい。 そして、勇者様の頬でもひっぱたきに行きましょう。 もっと、仲間を頼れって」
こんな時に優しくするとか卑怯だよ……。
167 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:12:48 ID:qIoBpwfI
今回の更新は以上となりはす。
168 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:17:40 ID:4sj4Ss56
更新乙乙!
169 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 22:43:58 ID:PMugLWCc
更新乙ぅ
170 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 23:10:51 ID:qIoBpwfI
すいません、ひとつ貼り忘れてました。
171 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 23:11:49 ID:qIoBpwfI
――――――――――――――
――――――――――
少年「へぇ」
魔女を泣かせた? え? なに?
魔女「少年、顔が怖いよ?」
えぇ、怒ってますもん。
今なら魔女に教わった魔法をすべて使いこなせる気がします。
172 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/29(水) 23:12:07 ID:qIoBpwfI
魔女「まだまだ、未熟だね。 感情の高ぶりで魔力を不安定にするなんて」
少年「え? 何のこと?」
魔女「この僕の一番弟子たる少年がこれでは僕の品格まで疑われてしまうよ」
安楽椅子から降りて、僕を見上げる魔女。 いつの間にか魔女の方が身長が低くなってます。
そうですよね。 ここで魔法使いの修行を始めて二年は経ちましたし。
魔女「まったく、図体ばかり大きくなってもやっぱりまだまだ君は子供だな」
少年「まぁ魔女から見ればね」
魔女「はいはい、さて、続きを話すよ、ん」
魔女は空になったティーカップを僕に渡します。
さて、魔女の好きな茶葉はお話が終わるまで持つのでしょうか?
―――――――――――――
――――――――
176 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/08/31(金) 23:11:48 ID:kBQ8wIVk
面白いなぁ・・・
ホント面白いなぁ・・・
177 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/01(土) 17:24:52 ID:YbddmQj.
>>176
同士よ(・ω・)っ
178 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/01(土) 22:48:36 ID:CEMq4VL.
少し更新します。
179 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/01(土) 22:50:32 ID:CEMq4VL.
―――――――――――――
――――――――
小屋を出ると、青空が見えた。
戦士「驚くとは思った」
魔王がこの世界に現れてから、空には鈍色の分厚い雲に覆われていたから。
まるで、世界の果てにでも来たような気持ちになる。
僧侶「美しいですね」
魔女「あぁ、綺麗だ」
いったいここは、どこなんだろうか。
戦士「聞いたことがある、魔王の力が及ばぬ国があると」
180 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/01(土) 22:51:12 ID:CEMq4VL.
戦士曰わく、その国では強力な魔力を持つ王族が民と国を守護している為に、魔王の力が及ばないらしい。
魔法使い「へぇ、眉唾ものの話だけど」
僧侶「この澄んだ空をみると信じざるを得ないですね」
ところで、勇者はどこに行ったんだろう?
魔法使い「戦士、勇者は?」
外で見張りをしていたなら、きっと見ている筈だ。
戦士「ん? アイツは山の方へ向かったぞ」
僧侶「いつ戻ってくるとか言ってましたか?」
戦士「いや、アイツは戻らんつもりだろう」
何言ってんだこの脳筋は。
181 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/01(土) 22:51:47 ID:CEMq4VL.
戦士「自分を見失うのも仕方ないさ。 勇者だのなんだの言われてはいるが、実際のアイツはまだガキに毛が生えたようなもんだからな」
僧侶「追いましょう!」
魔法使い「賛成だ」
戦士「アイツが答えを見つける時間は与えてやるべきだ。 追うのは良いが、ゆっくり行くぞ」
余裕で達観したような態度の戦士に少し腹が立つ。
なんでも知ってるような顔しちゃってさ……。
182 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/01(土) 22:52:03 ID:CEMq4VL.
澄み渡る空が木々の間から覗く。
耳には小動物の鳴き声、川のせせらぎ。
こんな時でなければ、ゆっくりと散策したいものだ。
僧侶「なんとも、心地良いですね」
魔法使い「うん、そうだね」
戦士「かつては世界中がこうだった」
勇者、君はこの世界を見てどんな事を思う?
183 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/01(土) 22:53:40 ID:CEMq4VL.
更新は以上となります。
別行動の勇者は、次回作の勇者のSSでどんな事があったか書くつもりです。
184 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/09/02(日) 04:24:24 ID:sJNVtYuI
(・ω・)っ④
関連記事
少年「あなたが塔の魔女?」
→記事を読む
ショートストーリーの人気記事
神様「神様だっ!」 神使「神力ゼロですが・・・」
神様の秘密とは?神様が叶えたかったこととは?笑いあり、涙ありの神ss。日常系アニメが好きな方におすすめ!
→記事を読む
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
→記事を読む
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」
→記事を読む
魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」
→記事を読む
男「少し不思議な話をしようか」女「いいよ」
→記事を読む
同僚女「おーい、おとこ。起きろ、起きろー」
→記事を読む
妹「マニュアルで恋します!」
→記事を読む
きのこの山「最後通牒だと……?」たけのこの里「……」
→記事を読む
月「で……であ…でぁー…TH…であのて……?」
→記事を読む
彡(゚)(゚)「お、居酒屋やんけ。入ったろ」
→記事を読む