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魔女「果ても無き世界の果てならば」

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Part13
729 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 00:07:11 ID:qyn3LwrI
―――――――――――――――――――――――――――
 ついに二人になったか。
 戦士は、きっと無事だ。
 僧侶は、泣いてなきゃ良いな。
 魔法使いは、無茶してなきゃ良いけど。
少女「なぁ……勇者」
 後ろを歩く少女に呼び止められる。
勇者「ん?」
 振り向くと、少女は怒ってるような、心配してるような、なんだかよく分からん顔でこっちを見つめていた。

730 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 00:10:02 ID:qyn3LwrI
少女「身体は……大丈夫なのか? お前、あの時使っちゃっただろう?」
 普段とは随分違う態度に戸惑う。 むしろこれが素なのか?
勇者「あー、特に心配すんな。 あれくらい何の問題もないぜ」
 みんな頑張ってるのに俺だけへばってなんかいられないしな。
少女「‘あの技’は、今の身体じゃ使えて一発なんだ。 例え魔王でも使ったらいけないからな」
 僧侶助ける時に使っちゃったもんなー。
 んー、でもまぁ。
勇者「きっと大丈夫だ」

731 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 01:48:05 ID:qyn3LwrI
 強くあろう。 と思う。
 勇者だから。 じゃあない。
 みんなの笑顔を曇らせたくないから。 
 勇者なんて柄じゃあないな。 世界を救う、なんてつもりじゃなかったんだ。
 誰にも握り返されない手に、手を差し出してただけだったんだ。
 必死に伸ばした手が、誰かに手を差し伸べて欲しくて伸ばした手が。
 誰にも握り返されないのは辛いから。 
勇者「もちろん、お前の手も離さないぞ?」
少女「いきなり何?」
勇者「気にすんな」
 そろそろ本命も来たようだしな。

732 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 01:48:48 ID:qyn3LwrI
 木々がざわめく。
 命ある者全てを否定するような凍てつく波動が辺りを包む。
勇者「よぉ、久しぶりだな」
 背にある剣に手をかけ、滾る気を抑えながら目の前の男を見据えた。
魔王「まだ生きていたのか。 しぶとい奴だな」
 魔王は精巧な彫刻のように表情一つ変えない。
少女「兄……様」
 存在とは真逆。 髪の一本一本からつま先に致るまで、一切の汚れのないような純白のその身をゆっくりと揺らしながら近づいてくる。

733 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 01:49:29 ID:qyn3LwrI
 魔王が一歩近づく度に、その分だけ死が近付いてくる気がしているのは錯覚だと信じたい。
魔王「まぁいい、死ね」
 魔王の手から宵闇を束ねた出来たかの如き漆黒の剣が現れた。
勇者「は、上等だぁぁッッ!!」
 一気に剣を抜き放ち魔王に切りかかる。
魔王「ふん」
 簡単にいなされる。
 こっちは両手、そっちは片手だって言うのにな。
魔王「片手の方が、やりやすいのでな。 ~~」
 魔王の手の平から氷杭が数本飛んでくる。
勇者「うぉっ!?」
 髪の毛が切れて舞った。 ぎりぎり避けれたが、禿げたらどーすんだ畜生。


734 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 01:50:58 ID:qyn3LwrI
勇者「今度はこっちの番だぜ?」
 腕に力を込める。 剣に込めるのは隼の如き、鋭く速き二撃。
魔王「くぅっ!!」
 ち、防ぎやがったか。
 ならごり押しだ。
勇者「オォォォッラァッ!!」
 戦士直伝の乱舞技。 剣の勢いを殺さずに二の太刀三の太刀へと繋ぎ続ける。
 隼程の速さは無いが体力の続く限りは切り続けることが出来る。
魔王「剣の勝負ならば多少分が悪い。~~~」
 呪文なんか唱えさせるかよ。
 このまま押し切って……。
魔王「一度しか言わないぞ?」
 魔王が一瞬、悲しげな笑みを浮かべた気がした。
魔王「少女、巻き込みたくはないから離れていてくれ」
 今なんて言った?

735 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 01:53:59 ID:qyn3LwrI
少女「え?」
魔王「~~~~。 消えろ」
 しまっ――
 大地を砕き稲妻が天へ伸びていく。
勇者「やるなぁ、おい」
 死ぬかと思ったぜ。
 まぁ、死んでなんかやらんけどな。
――――――――――――――――――――――――

741 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/08(土) 13:55:00 ID:/RKnPo/Y
 近い。
 逃げ出してしまいたくなる程の禍々しい気配。
 絶望と諦観の象徴。
 見下ろした先にソレは居た。
魔法使い「ガゥアアアアアアアアアッッ!!」
 恐怖を振り払え。
 僕は強い。 僕は戦える。 僕は負けない。
 翼に力を込める。
 天高く飛翔した後、魔王に向け急降下。
 その身を降り注ぐ流星と化し、突撃した。

742 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/08(土) 13:56:58 ID:/RKnPo/Y
勇者「新手かっ!?」
少女「違う、この魔力は……」
 説明は後だ。 今はコイツを倒す事が先決。
魔王「~~~~」
 障壁? 
 無駄だっ!!
魔法使い「ウゥアアアアアアアアアッッ!!」
 魔王を捉えた。
 鼻先の角に軽い衝撃。
魔王「むぅっ!?」
 突進が直撃した魔王は広場を超え、森の奥まで吹き飛んでいった。

743 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/08(土) 13:57:43 ID:/RKnPo/Y
勇者「魔法……使い?」
少女「使ったんだね、その魔法」
 二人が僕を見つめる。
魔法使い「ガル……」
 勇者は傷だらけだ。 少女には傷らしきものは見当たらない。
 勇者は彼女を守りながら戦っていたのだろうか?
 まったく、こんな時まで随分と余裕がある事で。

744 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/08(土) 13:58:38 ID:/RKnPo/Y
魔法使い「ガゥア」
 それにしても言葉が通じないのは困ったな。
 一瞬、森の奥が光った気がした。
勇者「あぶねぇっ!!」
 え……身体に穴が空いている?
魔法使い「ガフッ……」
 身体の数カ所が、森の奥から伸びた深紫の光束に貫かれていた。
 身体から力が抜けていく。
勇者「あの野郎、遠くからなぶるつもりか」
 勇者が森の方へ駆け出していく。
魔法使い「……まって」
 このままじゃ意識が……。

745 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/08(土) 13:59:23 ID:/RKnPo/Y
少女「まったく、大事な所で決まらないね君って奴は」
魔法使い「自覚はあるよ……、て喋れてる?」
 手もあるし、足もある。
少女「竜を維持するだけの魔力が無くなったんだろう」
魔法使い「……せっかく強くなれたのに」
 竜の方が勇者の助けになれたのに。
少女「あれ以上行くと人に戻れなくなるんだ。 この機会に戻れたのは運が良いよ」
 人に戻れなくたって良かったのに……。
少女「そう不満そうな顔しないでくれ。 人を止めるなんてそう簡単にするもんじゃない」
 まぁ良い、人だろうと竜だろうとやる事は変わらない。
少女「申し訳ないけど、私も連れていってくれないか? 私はどうやら見届けなくてはならないらしい」
魔法使い「仕方ないね」

748 :sage:2013/06/09(日) 14:52:26 ID:6gA29UYE

もう少しで一年経っちまうな・・・
終わりなんて寂しいな

749 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/09(日) 18:27:28 ID:JeU8AYK.
寂しいね(´・ω・`)

750 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/12(水) 08:44:03 ID:GFwCl8Ec
いや、コイツ(作者)のことだから完結まで暫くかかる
一年とかかかるんじゃね?

751 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/12(水) 14:30:30 ID:wbolq/NY
一年かからないように気を付けるわ
更新します。

752 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/12(水) 14:31:53 ID:wbolq/NY
魔法使い「勇者!」
 勇者はすぐに見つかった。
魔王「どうした、威勢ばかりで実力の伴わぬは虚しいだけだぞ」
勇者「黙れっ」
 二つの影が付いては離れを繰り返す。
 実力は互角。
 森の深くで、世界の片隅で、世界の命運をかけた戦いは行われていた。

753 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/12(水) 14:33:16 ID:wbolq/NY
少女「……」
 少女は何も言わずそれを見続けている。
魔法使い「今加勢すればたぶん倒せる。 加勢しに行っても良いかい?」
少女「何故私にそれを聞くのかな?」
 少女は二人から目を逸らさずに言った。
魔法使い「聞かずに魔王を倒したら君が泣いてしまいそうだからね」
少女「腐っても兄貴だからね。 この感情をどう表して良いか分からないよ」
魔法使い「まぁ、君がどんな返事でも僕は魔王を倒すけど。 恨むなら僕一人にしてよね」
 少女の兄と聞いてから心に決めていたんだ。  魔王の首を跳ねるのは、僕か戦士の仕事だって。
 勇者や僧侶は、やるには優しすぎるからね。

754 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/12(水) 14:36:38 ID:wbolq/NY
少女「恨みはしないさ……たぶん泣くだろうがな」
 少女はまだ目を離さない。
 兄の姿を目に焼き付けているのだと思う。
少女「無事魔王を倒せた暁には、私は肉親は愚か同じ民すら居ない独りぼっちになるからな」
 少女は力なく笑う。
魔法使い「そっか……」
少女「さて、そろそろお願いしようかな」
魔法使い「もう良いの?」
少女「……あぁ」
 目を瞑り大きく息を吸い込む少女。
 その肩は僅かに震えていた。

755 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/12(水) 14:37:49 ID:wbolq/NY
少女「今は無き我が国の姫としてお願い申しあげます。 旅の魔法使い様、どうか我が祖国を討ち滅ぼした悪虐非道の魔王を退治して下さいませ」
 風になびく艶やかな黒髪の合間から、力強い深紫の瞳が見つめていた。
魔法使い「任せて」
魔法使い「~~~~~~~~~~~~」
 魔力を杖に込める。
 一撃に全魔力を込める。
魔法使い「勇者、ちゃんと避けてね?」


756 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/12(水) 14:39:14 ID:wbolq/NY
 杖の周囲から漏れ出した魔力が極光となり揺らめく。
 発動に必要な魔力が溜まった。
少女「はは、中々に凄いじゃないか……」
 杖から魔力が溢れ出る。
 溢れ出した魔力は、光の洪水と化して魔王を飲み込んでいった。

765 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 00:57:33 ID:KGujct7k
魔法使い「あー……キツい、動けない」
 全身の倦怠感が酷い。
 全神経を集中させなきゃ指先すら動かせない程だ。
少女「案外簡単に終わってしまったな……」
 少女は目を細めて遠くを見ている。
 彼女の表情から感情を推し量る事は出来ない。

766 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 00:58:33 ID:KGujct7k
勇者「やっぱり魔法使いは凄いな……」
 薙払われた木々の合間から勇者が出てきた。
少女「……兄さ、いや、魔王は?」
勇者「んーそこで伸びている。 多分不相応な魔力で全身ガタ来てるから長くはない……話すなら今だ」
 止めを刺さない甘さに呆れつつもほっとした。 勇者にはそうあって欲しいと思っていたから。
少女「……行ってくるよ」
 少女が、倒れた魔王に歩み寄る。
 無粋かもしれないが、少し離れた場所で見守る事にした。
――――――――――――――――――――――

767 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 00:59:45 ID:KGujct7k
――――――――――――――――――――
少女「兄……さん」
 目の前に居るのはあの時と変わらない姿の兄さんだった。
魔王「少女か……。 また、泣かせてしまったな」
 表情は変わらない。
少女「なんで……こんな事」
 物静かだった兄が、国を滅ぼし、世界を終わらせる程の凶行に走った理由が私にはどれだけ考えでも浮かばなかった。
 禁忌に触れた事で暴走してしまったのだとしても……。
 何故兄が禁忌を求めたのかが分からないのだ。
魔王「泣かせないように、こうした筈だったのにな……つくづく駄目な兄だ」

768 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:00:44 ID:KGujct7k
少女「答えてよっ!!」
 仰向けに倒れた兄が手を伸ばす。
魔王「これからは、笑って生きてくれ」
 頬に指先が触れた。
少女「兄さ――」
 崩れ落ちていく指先。
 徐々に兄は紫に光る粒子になって崩れていく。
少女「貴方は……馬鹿だよ……」
 目の前に居るのは国を滅ぼし、世界を闇へ落とそうとした魔王だ。
 だというのに涙が止まらない。
魔王「……何を泣いている?」
 粒子化が止まり、兄が訪ねた。

769 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:01:44 ID:KGujct7k
 なんという奇跡だろうか。
少女「兄さん……よか」
魔法使い「離れろ少女っ!!」
 兄さんが離れていく?
 違う、突き飛ばされたんだ。
 誰に?
 魔法使いに。
 何故?

770 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:02:45 ID:KGujct7k
魔法使い「ぅああぁぁぁッッ!!」
 魔法使いの悲鳴。
 粒子化して欠損した兄の手から噴出するどす黒い‘何’か。
 どうやら、この世界の何処かにおわす運命を司る神様はどうにも悲劇が好きらしい。
少女「こんなのって……こんなのって酷すぎるよぉ……」
 誰でも良い……。
 もう、終わらせてくれ。
勇者「少女、二つ程先に謝る、すまん」

771 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:03:56 ID:KGujct7k
 兄だったモノと私の間に立つ勇者。
少女「え?」
勇者「俺はお前の兄さんを殺す。 恨んでくれて構わない。 もう一つはあの技、使うぜ」
 勇者が剣を掲げる。
 彼の技は勇者としての力を使う。
 あの技は元来は勇者という比い希なる生命力があってなせる技であり、魔王の呪いを受けた彼には一発が限度の技だ。
そして彼は僧侶を助ける際に一度使っている。
 最悪、その場で絶命してしまうかもしれない。
 もし死ななかったとしても、大きく寿命を削られてしまうだろう。
勇者「心配すんな、家族が居なくなるお前を一人にはしねぇから」
 そんな根拠は無い癖に……。
 そんな真っ直ぐな笑顔を向けられたら信じてしまうじゃないか……。
少女「すべて終わったら……私の家族になってくれ。 ならば許す」
勇者「……分かった。 んじゃ未来の旦那さんの為に笑顔で待っといてくれ」
 うん、お前なら。
 きっと。

772 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:04:53 ID:KGujct7k
――――――――――――――――――――
 少女は無事だろうか?
 無我夢中で助けたけれど、僕は生きているのかな?
 『憎い』
『悔しい』
『妬ましい』
魔法使い「うぐぁッッ!!」
 頭が割れる。 僕の中に、何か違う意志が流れ込んでくる
 『消えろ』
 『滅びてしまえ』
魔法使い「こっれは……いった……い?」

773 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/19(水) 01:05:58 ID:KGujct7k
 『何故彼女が……』
 『……妻がなんで死ななくてはならなかったんだ』
 『娘を返せッッ!!』
 上下左右も分からない。 どこまでが自分かも分からない深闇。
 痛い、苦しい、悲しい、寂しい。

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