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魔女「果ても無き世界の果てならば」

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Part12
676 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/25(土) 01:59:00 ID:qzrvlmkk
 雪以外に何もなく、ひたすらに厳しく、それ故に美しい北の果ての小さな村。
 畑を耕す事も出来なければ、狩る動物も少ない。
 村の特産は北の国特有の恵まれた体躯を生かした傭兵業くらいの寂れた村。
竜種「どうした? 先程までの獣の如き闘志が嘘のようだぞ?」
戦士「感傷に浸るくらいの時間はくれても良いだろう? お前さんみたいに長くは生きちゃ居ないが、それでも生きてりゃ色々あんだよ」
 今は亡き妻と仲間の名前を小さく呟いた。

677 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/25(土) 02:00:05 ID:qzrvlmkk
 コイツを倒したら、褒めてくれるか? 良くやったと言ってくれるか?
竜種「まるであの小僧みたいな事を言うのだな。 魔王だと大袈裟な名を名乗っていた泣き虫の小僧と」
 魔王か……。
 残酷な世界だ。 世界を拒絶したくなるのも分からんこともない。
 ただ、残酷なだけでは無く、途方もなく美しいのもこの世界だと俺は思う。
戦士「竜種よ、名を聞いておこう。 この戦いの末、討った、もしくは討たれた相手の名を知らねば後悔する」
竜種「~~~~。 古の言葉で、最も紅き炎という意味だ」
 名は体を著す、か。
戦士「良き名だな」
 もう一度小さく妻の名を呟く。
戦士「まだ往けんよな、あいつ等を見届けるまでは」

678 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/25(土) 02:00:54 ID:qzrvlmkk
 全身に力を込める。
 出来てあと一発が限度だな。
竜種「そろそろ、終わるか。 強き者よ」
戦士「あぁ、ありがとう。 良い時間だった」
 竜種は身構えた。
 突進だろう。
 誇り高き竜族の最後の一撃だ。
 こちらも全身全霊を込めた一撃で迎え討とうか。

679 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/25(土) 02:06:16 ID:qzrvlmkk
 最上段に構えた戦斧。
 後は振り下ろすだけだ。
 迫る竜種。
 迎え撃つは魔人の如きと冠された刃。
 それでも足りず人で討てぬならば、それすら超えよう。
 魔人を超え、魔神を超えた、すべてを斬滅する大いなる魔神と化して戦斧を振るおう。
 極限まで研ぎ澄ませ。
 見据えた先、武の到達点。
 振り下ろした刃。
 神の宿る手と賞されれる戦士職の極みへ、今――。

687 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/28(火) 17:13:32 ID:I5ts2Qy6
――――――――――――――――――――――――
僧侶「さて、どうしたものでしょうか?」
 目の前のリッチは生半可な魔法では落とせませんし。
リッチ「キャギャギャギャ」
 迫り来る触手。
僧侶「~~~~」
 結界を張りそれを無効化します。
 互いの攻撃は届かないので持久戦でしょうか?


688 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/28(火) 17:14:12 ID:I5ts2Qy6
 リッチは仄暗い眼孔で私を見下ろしています。
 希望を呑み込む深遠の闇。 底知れぬ絶望を体現したかのような深い色。
僧侶「きゃっ!?」
 急に現れたリッチの触手を避けきれずに頬を掠って行きます。
僧侶「これは……」
 リッチの触手に触れた瞬間、彼の心象風景のようなものが頭の中に流れ込んできました。
 何もない丘の上で一人佇み、血の涙を流す男性。
僧侶「不浄の王よ、貴方の身に何があったのでしょう。 喜びも悲しみもない死者の丘の頂で、その眼孔で何を眺めているのですか?」

689 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/28(火) 17:14:52 ID:I5ts2Qy6
 昔、神学校の講義で聞いたことがあります。
 遥か昔、誰よりも人の世を愛した優しき王が、世界から悲しみや憎しみを無くそうとしたその果てに。
 悲しみ、憎しみに呑まれ絶望し、その身に受けた絶望を振り撒く化け物と化してしまった。
 それがリッチだと。
 故にその魂に喜びは無く。
 故にその魂に悲しみも無く。
 故に、自我さえもない。
 世界を蝕もうとする呪いその物と成り果てた悲しき災禍。

690 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/28(火) 17:16:23 ID:I5ts2Qy6
僧侶「伝承が事実ならば私は貴方を尊敬します。 ですが」
 不規則に揺れるリッチに大杖を向けます。
僧侶「それと同時に軽蔑します」
 私の信念の先にあるものが絶望と後悔で終わる物であってたまるものですか。
僧侶「悲しみに呑まれても尚も光を信じ続けるのが……」
 私の大好きな人が。
僧侶「明日を信じ希望を抱こうと笑うことが出来るのが人間です」
 命を懸けて守ろうとしている世界が。
僧侶「何よりも人を愛したのであれば、なぜ人が持つ心を信じる事を諦めたのですかっ」
 絶望で終わるはずがない!!

691 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/28(火) 17:17:11 ID:I5ts2Qy6
 人は弱く倒れやすいのは知っています。 でも。
僧侶「人は諦めぬ限り立ち上がる事が出来ます。 立ち上がる事を諦めた貴方が世を呪うのは間違っています」
 そして、諦めてしまった者を救うのが私達神に仕える者の使命です。
僧侶「不浄の王よ。 貴方の事も救いましょう」
 もう一度、大杖を持つ手に力を込める。
 私のやるべき事は決まった。

692 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/28(火) 17:17:43 ID:I5ts2Qy6
 勇者様が行く道の末、可能性の一つであるかもしれないこの不浄の王をこのまま終わらせてしまう事なんて出来ません。
リッチ「ガガギグガグゲゲ」
僧侶「~~~~」
 結界を張ります。
僧侶「~~~~~~~~」
 詠唱を始めます。
 呪文ではなく、省略されていない元来の形での詠唱。
 それは世界へ対する愛の謳。
 生けとし生ける者全てを愛する、生命の賛歌。

693 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/28(火) 17:18:25 ID:I5ts2Qy6
リッチ「キィアアァァアアアアアア」
 私の張った結界がリッチの魔法によって浸食されていきます。
 詠唱が終わるまでは持たないかもしれませんね。
 でも、詠唱を止める訳には行きません。
僧侶「~~~~~~~~~~~~」
 結界は今にも破れてしまいそうです。
僧侶「~~~~~~~~~~~~」
 音を立て、結界は崩れました。
僧侶「~~~~~~~~~~~~」
リッチ「アアアアアアアア」
 迫り来る触手。
僧侶「~~~~~~~~!!」
 詠唱が、終わりました。

694 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/05/28(火) 17:25:24 ID:I5ts2Qy6
 触手の回避は間に合いませんね。
 あーあ、魔法使いちゃんのちゅーはお預けかな。
 
 リッチに暖かな光が降り注ぐのを見届けて瞼を閉じます。
僧侶「ありがとう……みんな、大好きですよ」
 この果ても無き世界の果てで、このような満ち足りた気持ちで。
 終わるのであれば、それも悪くはないですね
――――――――――――――――――――――

703 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/01(土) 00:25:48 ID:qPedC0Ic
――――――――――――――――――――――
魔人「もう終わりなの?」
魔法使い「っはぁ、はぁ」
 痛い。 苦しい。
 致命傷には至らないが傷を多く負ってしまった。
魔法使い「まだまだこれからだよ」
 あまり長引かせたくはない。
 僧侶も戦士も勇者も一人で戦うには相手が悪すぎる。
 僕が助けるんだ。

704 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/01(土) 00:26:21 ID:qPedC0Ic
魔人「威勢が良いのねぇ。 でももう飽きちゃったわ。 終わりにしても良いかしら?」
 魔法は効かないし、肉弾戦で何とかなる程甘くはない。
 どうする?
 どうすれば――。
魔人「じゃ、バイバイ。 私の仕事は貴方をここに隔離する事だから」
魔法使い「え?」
 こいつは何を言っている?

705 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/01(土) 00:26:53 ID:qPedC0Ic
魔人「直接命を奪うなんて下品だし、そこまでする程の報酬もないしね。 この結界、貴方じゃ絶対に破れないけど、三日もすれば消えるから」
魔法使い「ちょっ、待っ……」
魔人「それじゃ、もしかしたらまた会いましょ?」
 そういうと、魔人の姿は跡形もなく消えていた。
 助かった?
 違う。 現状は好転している訳じゃない。
 早くここから出なくては。

706 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/01(土) 00:27:39 ID:qPedC0Ic
魔法使い「~~~~」
 ありったけの魔力を込めて結界に干渉する。
 少女に結界の理論だけでも聞いていたのがこんな所で役に立った。
 結界は対魔術特化の物だ。
 強力な物理攻撃なら破る事も可能だろう。
魔法使い「ふんっ!!」
 杖で思い切り結界を叩いてみたが、手応えはない。
魔法使い「肝心な所で無力だな、僕は」
 自分が情けなくて泣き出したい気分だ。

707 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/01(土) 00:29:52 ID:qPedC0Ic
 それでも杖で結界を叩き続ける。
魔法使い「壊れてよっ!!」
 手のひらから血が滲んで杖を伝い地面に痕を付ける。
 こんな時、戦士か勇者が居てくれたら。
魔法使い「こんな時まで他力本願か。 僕は仲間なのに……何か役に立つ事も出来ずに」
 戦士も僧侶も命を懸けているのに。
 一際大きい力の波長が結界越しだと言うのに分かった。
 これは、戦士だ。
 相対したもう一つは何だろう? 竜種に似ているが馬鹿げた力だ。
 2つの力が徐々に消えていく。
 嘘だ、戦士が負ける筈ない。

708 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/01(土) 00:30:47 ID:qPedC0Ic
 もう一度強く揺らぐと、戦士の気配が消えた。
 感じ取れない程弱ってしまったのか、もしくは――。
魔法使い「大丈夫、きっと戦士は生きている。 竜種を倒して疲れきって気を失っただけ。 早く回復してあげなきゃ」
 杖を持つ手は既に感覚が無い。
魔法使い「あぁ……」
 嫌な予感がして僧侶の気配を探してみた。
 酷く弱々しいが確かにある。
 どうやらリッチを倒せたみたいだ。
魔法使い「はは、早く出てチューしてあげなきゃね」
 だから、だからっ!!
魔法使い「まだ逝くな、逝かないでよ」
 僧侶の気配が途切れた。

709 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/01(土) 00:31:28 ID:qPedC0Ic
 最悪の事態が頭に張り付いている。
 大丈夫。 でも、もしかしたら。
 頭の中でぐるぐると同じ事を考え続けている。
魔法使い「早く早く早く早くっ!!」
 壊れろ! こんな所でゆっくりしてる暇なんて……。
 勇者の気配の近くに酷く禍々しい魂の波長が一つ。
 こんな気配は、僕は一つしか知らない。
魔法使い「……魔王」

710 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/01(土) 00:32:16 ID:qPedC0Ic
 駄目だ、こんな事している場合じゃない。
 三人が危機に瀕してる。
 僕が出来ることは――。
 身体中に残った魔力をかき集める。
 発動させるべき魔法は、三つの禁術の内の最後の一つ。
 混沌の名を冠した魔法だ。


711 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/01(土) 00:35:20 ID:qPedC0Ic
魔法使い「~~~~~~」
 通常は予測不能のこの魔法を、魔力によって無理矢理望む効果を呼び込む。
 呪文がむなしく鳴り響いた。
 失敗だ。
魔法使い「~~~~~」
 諦めてたまるか。 
 もしかしたら死ぬかもしれない。
 成功しても、人の理から外れるてしまうだろう。
魔法使い「~~~~~」
 だからどうした。
 今何も出来ないなら。
 仲間を助ける事が出来るのならば。
魔法使い「こんな命くれてやる!!」

712 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/01(土) 00:35:59 ID:qPedC0Ic
 頭上から光の束が降り注ぐ。
 細胞の一つ一つが灼かれているかのような激痛が駆け巡る。
 視界が白く染まる。
 ………………。
 …………。
 ……。
魔法使い「ガゥァァアアアァァァァッッ!!」

713 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/01(土) 00:36:50 ID:qPedC0Ic
 全身を這いずる激痛を堪えながら叫ぶ。
 身体が造り変わっていく。
 大地を踏みしめる巨躯。
 白き竜鱗は何者をも寄せ付けぬ鉄壁の盾。
 力が満ち溢れてくる。
 僕の身体は今、巨大な竜種と化した。
 命を賭して、白き龍神をその身に降ろす魔法。
 混沌の魔法の効果の中でも最も危険なものだ。
 人に戻れる保証もない。
 確実なのは。
 この結界を破る力を見に宿せるという事だけだ。

714 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/01(土) 00:37:24 ID:qPedC0Ic
魔法使い「ガゥアアアアアアアアアッッ!!」
 強く大地を踏みしめて、結界へ向けて突進する。
 少しの抵抗の後、砕け散る結界。
 空を見上げる。
 翼を広げ羽ばたく。
 みんな。 あと少しだけ待っていて。
 
――――――――――――――――――――――――――

724 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 00:03:04 ID:qyn3LwrI
――――――――――――――――――――――
 見えた。
 一面真っ白になった平原に横たわる巨竜の影に、戦士の姿。
魔法使い「ガゥ!!」
 しまった。 言葉が喋れない。
戦士「ちょっと見ないうちに随分デカくなったみたいだな」
 さすが戦士。 一目で僕だと分かるんだ。

725 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 00:04:24 ID:qyn3LwrI
戦士「役目は果たした。 少しゆっくりしてから合流させてくれ」
 戦士は生きているのが奇跡な程の重傷だ。
 
戦士「この目では大して役には立てんだろうしな」
 目?
戦士「失明はしてないが、ぼんやりとしか見えん。 まぁ、竜種の頂に居るような相手だったんだ。 視力くらいで何とかなるならおつりがくる」
 戦士は紅蓮の竜種の亡骸をぼんやりと見つめて呟いた。

726 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 00:04:55 ID:qyn3LwrI
戦士「僧侶もやばそうだが、死んじゃ居ないみたいだ。 俺が見に行く、さっきの借りも返さにゃならんしな」
 戦士は熱で形が変わってしまった戦斧を背負うと歩き出した。
戦士「俺や僧侶より今お前を必要としてる奴が居るだろう? 向かってやれ。 そして、全部終わらせてこい」
 うん。 ありがとう。
 翼をもう一度強く羽ばたかせ飛翔する。
 僕は僕の出来る事をしよう。

727 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 00:05:38 ID:qyn3LwrI
 ………………
 …………
 ……
 飛び去っていく白い竜を見送り、ゆっくりと息を吐く。
 長かったこの旅も、そろそろ終わりに近い。
 旅の切っ掛けは、おかしな二人組に声をかけられたんだったか。
『そこのおっさん、辛そうだな!! どうしたんだ』
『すみませんいきなり、でも何か辛い事を抱え込んでいるのではありませんか? 貴方の瞳はとても深い悲しみの色をしています』
 まさか、ここまで一緒に来る事になるなんてな。

728 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 00:06:09 ID:qyn3LwrI
『僕に何ができるかは分からないけど、それで良いなら』
 捻くれ者の小娘もその後仲間に加わったんだったな。
 最初はただの小娘かと思っていたが。
戦士「いつの間にかデカくなったな、どいつもこいつもこれからが楽しみだ」
 悲鳴をあげる身体と、ほとんど役に立たない目に鞭を入れ、僧侶の所へ向かう。
戦士「上手くやれよ」
 頬が緩む。
 そういえば、最後に笑ったのはいつだったかな?

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