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少年「あなたが塔の魔女?」

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Part5
163 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/19(火) 20:08:47 ID:L4k5Ki9U
 寝室のクローゼットから愛用の杖を取り出し、外套を羽織る。
 次に、この日の為に日々作り続けていた霊薬を数種、胃に流し込む。
 魔力の限界値を増やす為だが、酷い味だ。
魔女「やはり僕には料理の才は皆無らしい」
 塔を後にする。
 眼前に広がる森に、蠢く影。
 今でこそお伽話の中の存在だが、二百年前までは彼等も又、紛れもなくこの世界の住人だった。
 彼等は、幼子の寝物語に語られる勇者達に滅ぼされた筈の、魔王の従僕。
 魔物と呼ばれ、忌み嫌われる者達がそこには居た。

164 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/19(火) 20:13:55 ID:L4k5Ki9U
獣鬼の群れ「グルルル」
 まずは、牛のような頭部に、筋骨隆々の毛深い人間のような胴体の、昔馴染みに挨拶をするとしよう。
魔女「~~」
 呪文を唱え、獣鬼の群れに魔法を放つ。
 放ったのは、家が一つ吹き飛ぶ程度の爆発を起こす火球を飛ばす魔法だ。
獣鬼の群れ「グギャアァァア」
 閃光と爆炎に包まれた獣鬼の群れの断末魔を聞くと、昔の事を思い出すようで、あまり好きではない。
 だから。
魔女「~~~」
 それを振り払うように今度は、骸骨の騎士達に、周囲を焼き払う規模の火焔の魔法を放った。
 月はやっと頭上まで昇るかどうかといったところだというのに。
魔女「まったく、長い夜になりそうだ」
 ―――。

167 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/21(木) 21:45:59 ID:3vXy7r4U
少年「もう、朝になっちゃったんだ」
 立ち尽くしている内に、朝になってしまったみたいです。
 村は静かです。 人の気配すら感じません。
 魔女に会いたいです。
 会って、ひとりぼっちじゃないって安心したいです。
村人「うあ゛あ゛あ゛」
少年「!?」
 村の人がいきなり襲いかかってきました。

173 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/25(月) 23:45:09 ID:wTx6pZr.
 村人のおばさんは、どうにも正気ではないみたいです。
 言葉らしい言葉を話す訳でもありませんし、目つきも虚ろな感じがします。
 おばさんの手に持っている鉈が真っ赤な血で汚れている所を見ると、きっと使用済みでしょうね。
 いったい何に使ったんでしょうか?

174 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/25(月) 23:45:36 ID:wTx6pZr.
 何に使ったにせよ、僕に鉈を使う理由が分からないので、やめてほしいです。
村人2「あああああっ」
村人3「おおおぉぉぉっ」
 たくさん集まってきました。
 みんな正気とは思えません。
 このままだと殺されちゃいそうなので、逃げます。 もう一度魔女に会いたいから死にたくないですもん。


175 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/25(月) 23:45:52 ID:wTx6pZr.
 村の出口まで走ります。
 途中、なにやら赤黒い塊が何個も転がってました。
 人は生きているから人なんです。
 死んでしまったらそれはもうその大きさの肉の塊だと僕は思います。
 だって、そうでなければ悲しすぎませんか?
 大切な人がだんだんと腐っていくなんて。
 だから、身体から魂は離れ、別の場所に行くんです。
 そう、思いたいんです。
少年「なんでこんな風になっちゃったんだろう? 魔女なら分かるかな」
 村を抜け、魔女の元まで走ります。
 森はまるで戦争でもしたみたいに焼けたり弾けたり抉れたりしていました。

179 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/06/28(木) 00:15:53 ID:jMRwpJXA
 それは塔に近づくほど激しくなり、塔の入り口は焼け野原みたいです。
 魔女が、心配です。
 階段を駆け上ります。 心臓はいつもよりも早く動き、肺は苦しくて潰れそうです。
 これは、激しい運動をしているからでしょうか?
 それとも、不安だからでしょうか?
 階段を登りきり、魔女の部屋の入り口までたどり着く頃には、息が上手くできなくなっていました。
 口から胃が出てきちゃいそうです。

182 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/01(日) 21:24:14 ID:kuW5v2Uc
少年「魔女!」
 扉を開けます。 
魔女「騒々しいね、どうしたんだい?」
 魔女は、いつものように安楽椅子に身体を預け、本を読んでいました。
少年「魔女に会いたくて」
魔女「随分と使い古された口説き文句だね」
 魔女はいつものように、全部お見通しの深紫の瞳を僕に向けました。
 でも、なんだか顔色が良くないように見えます。

183 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/01(日) 21:24:58 ID:kuW5v2Uc
少年「魔女、なんだか体調が悪そうだね」
魔女「けして良くはないね」
 魔女は笑いました。
 僕は悲しくなりました。
少年「魔女は何を隠そうとして、そんな顔で笑ったの?」
 魔女の笑顔は、何かを誤魔化そうとして浮かべている笑いだってすぐに分かってしまったからです。

184 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/01(日) 21:25:36 ID:kuW5v2Uc
 魔女にはそんな不細工な笑い顔は似合いません。
魔女「変に鋭いよね、君って奴は」
少年「普段の魔女の笑顔の方が僕は好きだよ。 何かあったんだよね?」
 もしかしたら、村の異変と関係があるのかもしれないです。
 魔女にまで迷惑をかける人達だったなんて、余計に村の人たちが嫌いになりそうです。
魔女「君には嘘は通用しそうにないね……。 でも、話した所で意味もない。 さて、どうしたものか」
 なんだか、大変な話みたいです。

185 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/01(日) 21:26:09 ID:kuW5v2Uc
少年「僕なんかに話しても何にもならないけど。 それでも、魔女が辛い思いをしているなら知りたいな」
 これは、僕の我が儘なんでしょうね。
 それでも、魔女の事を少しでも理解したいんです。
 魔女も、きっと一人ぼっちだと思うから。
 一人ぼっちって、すっごく辛いから。

186 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/01(日) 21:26:23 ID:kuW5v2Uc
魔女「うん、君ならそう言うと思ったよ」
少年「話してくれるの?」
魔女「あぁ、なにから話そうかな」
 魔女が微笑みました。
 今度の笑みは素敵です。
 ただ、やっぱり魔女の笑みは悲しそうな笑みでした。
少年「魔女の話しやすいことからでいいよ」
魔女「そうか、じゃあ」
少年「うわっ!?」
魔女「ッ!?」
 魔女が口を開こうとした瞬間、塔が激しく揺れました。

190 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/05(木) 21:08:59 ID:ye9dqiig
 まるで大きな岩が塔にぶつかったような衝撃でした。
少年「今のはなに?」
魔女「……」
 魔女が険しい顔になったような気がします。
 普段から無表情ではあるんですがね。
魔女「少年、君にお願いしたいことがある」
少年「なに?」
 魔女はそういうと小さな手で僕の頬を挟みました。
 すぐ近くに魔女の顔があります。
 やっぱりすごくきれいです。

191 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/05(木) 21:09:14 ID:ye9dqiig
魔女「君に留守番を頼みたいんだ。 この塔から出ないで、僕の帰りを待っていてくれないか?」
少年「別に良いけど……。 魔女はどこかに出かけるつもりなの?」
魔女「さて、ね。 もちろんお駄賃はあげるよ?」
魔女「しかも先払いで、ん……」
 唇に違和感が起こりました。
 柔らかい感触が押し当てられているようです。
 魔女の顔は凄く近いです。
少年「!!??」
 魔女が僕に何をしているのか理解した瞬間、思わず叫びそうになっちゃいました。

192 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/05(木) 22:02:08 ID:ye9dqiig
 それは、いわゆるキスというものでした。
 僕の唇に魔女の唇が触れています。
 驚きすぎて、頭がどうにかなりそうです。 
 でも、嫌じゃないです。
少年「痛ぅ!?」
 唇に鋭い痛みが走りました。
 血が滴ります。
 魔女の八重歯が僕の唇に傷を付けたんでしょう。
魔女「これが一番手っ取り早いからね」
 魔女は唇を拭いながら言いました。

193 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/05(木) 22:02:26 ID:ye9dqiig
 よく見ると魔女の唇にも傷が付いています。
魔女「君が聞きたかった事はこれでわかるよ。 おやすみ」
 魔女が微笑みます。
 やっぱり寂しそうなその笑みをみながら、僕は気を失っていきました。

196 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/06(金) 21:31:58 ID:P5vRVpb.
更新します。
魔女視点になります。

197 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/06(金) 21:38:43 ID:P5vRVpb.
 塔の外――。
魔女「やれやれ、本格的に復活するつもりなのかい? こんなに障気を振り撒くなんて」
 豊かな緑に包まれていた深い森は、見る影もなかった。
 草木は噴き出す障気に充てられて、枯れ果てている。
 運悪く障気に適合してしまった樹木は植物である事を辞めて、醜悪な巨躯を揺らしながら獲物を探して彷徨いていた。
 目の前の光景に落胆はしたが、予想通りでもありなんだか複雑な心境だ。
 局所的にではあるが、顕現されてしまったのであろう。
魔女「二百年ぶりだね、この光景は」

198 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/06(金) 21:39:33 ID:P5vRVpb.
 魔王と呼ばれ、世界を恐怖に陥れていた者が住まう魔の聖域。
魔女「魔界を一人で攻略なんてまったく無茶な話だよ」
 小さなポーチにありったけ詰めて来た魔術具の中から、毒々しい液体の詰まった小瓶を取り出す。
魔女「これを作った自分自身の美的センスを疑いたくなるね」
 この毒々しい液体の効果は、簡単に説明するならば魔力のドーピング。
 もちろん身体に良い訳ないけど気にする必要はない。
 むしろこの身体に何らかのダメージを残せるならば喜ばしいくらいだ。

199 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/06(金) 21:40:03 ID:P5vRVpb.
魔女「うぇ、やっぱり不味い。 戦士が作ったシチューの次に不味い」
 だが、魔力は満ちていく。
 全身を引き裂くような痛みは気にしない。
 どーせ死にはしないんだ。
魔女「景気付けに一発キツいのをお見舞いしちゃおうかな?」
 いつの間にか塔を取り囲んでいる多種の魔物の群れ。
 どいつもこいつも一度は見たことがある種族。
 奥に居るあの魔物なんて数体で小さな国は滅ぼすような凶悪な種の筈だ。
 空から僕を睨んでいるあの魔物は、龍の近種だった気がする。
 おとぎ話なら各山場に登場するような魔物ばかりだ。
 まったく……。
魔女「雑魚はお呼びじゃないんだ、退場願おうか」


200 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/06(金) 21:40:17 ID:P5vRVpb.
魔女「~~」
 使うのは、否応無しに対象を死の淵へと引きずり込む亡霊を使役する魔法。
 障気は亡者にとってはそれは心地いいのだろう。
 群れを一掃するには多すぎる程の亡者が呼び出しに応じ、魔物の魂を食い荒らしていく。
魔女「僧侶はこの魔法が嫌いだったんだよな」
 昔、肩を並べて闘った仲間の事を思い出して、苦笑いしてしまう。
魔女「僕が僧侶に怒られたら君たちの所為だからね?」
 なんとなく言い訳をすると、森だった場所の奥へと進む。
魔女「少年が起きる頃までにすべてを終わらせる事ができると良いんだけどな」

201 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/06(金) 21:41:34 ID:P5vRVpb.
更新は以上です。
魔女視点終了です。
次の更新からは少年視点になります。

205 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/09(月) 23:41:09 ID:PNGj/u3.
 夢を見ました。
 悲しい、悲しい夢でした。
 魔女は長い永い間、ひとりぼっちだったようです。
 彼女は――。
 魔王を倒した勇者の仲間でした。
 彼女は――。
 とても優しい‘人間’でした。
 彼女は――。
 ‘人間’である事を辞めてまで仲間の幸せを願いました。
 そうして、止まってしまった時の中で、魔王の墓標であるこの塔で独り墓守を続けてきたのです。

206 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/09(月) 23:41:24 ID:PNGj/u3.
少年「魔女……」
 外は完全な形の月が空に浮かんでいます。
 腐った血のように濁った赤です。
少年「痛っ」
 頭に鋭い痛みを感じて思わず目を瞑ります。
 瞼に浮かんだのは、魔女の姿でした。
 魔女は村に居て、村人たちが魔女に詰め寄っています。
 魔女は疲れきっていました。
少年「魔女を……助けなきゃ!」
 僕は塔を飛び出しました。

211 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/20(金) 21:46:20 ID:11VidndE
遅れてすいません。
更新します。
魔女視点となります。

212 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/20(金) 21:47:23 ID:11VidndE
 さて、どうしようか。
魔女「村も壊滅、か」
 村には人間はもう数えるほどしかいなかった。
村人「あぁああああっ」
魔女「~~」
 指先から爆発を起こす光球を飛ばす。
 村人の頭部が抉れて吹き飛ぶ。
魔女「まだうごくのか、面倒な魔物になったものだね」

213 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/20(金) 21:47:50 ID:11VidndE
 村の中に人間はもう数えるほどしか居ないだろう。
 その数人を犠牲にしてあたり一面を焦土に変えてしまえばどれ程楽だろうか?
魔女「~~」
 指先に魔力を込める。
 結局、僕の指から放たれるのは、先程と同じ小さな爆発を起こす簡素な魔法。
魔女「なんだかんだ甘いね僕も」
 脳裏に過ぎるのは遠い昔に交わした約束。
 力の使い道が分からなかった僕に、この力は護る為の力だと言ってくれた仲間。
魔女「さて、各個撃破といこうか」

214 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/20(金) 21:52:11 ID:11VidndE
 村を歩き回り、遭遇する魔物を一体ずつ倒す。
 魔力は無駄になるが、他にやりようがないので仕方ない。
魔女「やっとこれで十か……正直疲れたな」
 魔力にはまだ余力はある。
 問題なのは体力だ。
魔女「鍛錬しなきゃ駄目だ。 今度から階段でもはしろうかな」

215 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/20(金) 21:52:42 ID:11VidndE
 暗く迷路のような家々の間を歩きながらぼやく。
村人「うあぁああああ」
魔女「~~」
 向かってきた村人だった存在に爆発する光球を飛ばす。
 肉がはぜ、崩れ落ちる。
魔女「何体いるやら」
村人「いぃいぃああ」
魔女「ッッ!?」
 油断した。 
 目の前に気を取られすぎて、後ろの奴に気がつかなかった。
魔女「~んぅっ!?」
 村人の手が伸び、口を押さえつけられた。

216 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/07/20(金) 21:55:18 ID:11VidndE
 途方もなく不快なその感触。
 まずい。 呪文が使えなければなにもできない。
村人「あぁうっうっうぅえかかかかか」
 耳慣れない奇声。
 仲間を呼んでいる?
村人「えぅえぅぇ」
 長く延びた舌が頬をなぞる。
 空いているもう片方の手が無遠慮に僕の体を弄る。
 嫌だ。 気持ち悪い。 
 外套の中に手が入ってくる。
 直に脇腹、大腿部などを粘着質な粘液まみれの指が這う。

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