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百物語2012

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Part21
66 :代理投稿 ◆ztxSLaq9Ok :2012/08/18(土) 22:23:51.85 ID:YriqamUu0
コッソリ ◆.PiLQRq.0A  『山の塚』
(1/3)
中学校時代の友人にAという気弱な男がいる。
身長は180cmを超え、ラグビー部で鍛えた筋骨粒々な体格の癖に怖い話や怪談にめっぽう弱い。
4年前のお盆、中学校時代の同窓会で久々に再会した時はヒゲを生やし、まるでバカボンドに出てくる剣豪のような顔をしていた。
その同窓会の二次会が終わり、仲のいい連中が三々五々に散っていく。
俺は中学校時代によく遊んでいた連中と遊びに行くことにした。その中にはAもいた。
Aと俺、大学で再会して付き合いだしたカップルともう一人の女性、計5人。
体質的に酒の飲めない自分が車を運転して他の四人を連れて行く。
目的地はカップルの男の方の実家。そいつの家は山の麓にあって、親が趣味で陶芸をやっている。
陶芸の工房になっている離れがあり、そこではいくらでも騒げるので中学時代から溜まり場だった。
その場所で飲み明かそうと言う算段だった。
24時間営業のスーパーで酒や肴を買い込み、そいつの家に着いたのが深夜0時を回った頃。
着いてしばらくはバカ話や思い出話に花を咲かせていたが、やがてAが酒に飲まれて眠った。
目の前には女子二人。怖い話が苦手な野郎は寝た。そうなるとどうしても必然的に怖い話が始まる。
工房と言ってもガレージを改造したようなものなので、明かりは白熱球と蛍光灯がいくつかあるのみ。
周囲は山で静まり返っていて、打ちっぱなしのコンクリートに悲鳴が響く。実にいい雰囲気だった。
いくつか話が終わった後、ごそっ、という音がした。振り返るとAが起き上がり、こちらをじっと見ている。
「あー、悪い、起こした?」と声をかけたが、Aは質問には答えず「山の塚に行こう」と答えた。
Aが言う山の塚とは、今いる工房の裏手の山にある地元では知られた心霊スポットである。
山の中腹の開けた空間に、こんもりと盛り土がしてあり、その上に碑が置かれている。
何の塚かは分からないが、とにかくやばい、と中学時代から有名だった。
「え? お前怖いのとかだめじゃ…」「いいから、行こう」
強がっているのかと思ったがそうでもない。Aは頑なに山の塚へ行きたがっていた。
なんとなく薄気味悪いものを感じたが、さっきまで怪談をしていたこともあり、「じゃあ肝試しにでも」という話になった。

67 :代理投稿 ◆ztxSLaq9Ok :2012/08/18(土) 22:24:48.31 ID:YriqamUu0
(2/3)
全員が車に乗り込む。Aは助手席に座った。車を走らせる。
「そこ、左」,「次、右」
Aが指で示し方向へ進む。やがて集落を抜けて山の中へ入っていった。
細い霧のような雨が降り始める。一本道になってからAはむっつりと黙り込んで前方を見ていた。
なんとなくみんな押し黙る。誰かがボソボソっと二、三言喋り、それに誰かがまた二、三言返す。
そんな事を繰り返していると、「そこ、右……通り過ぎた」Aが言った。
バックさせると何とか一台通れそうな細い脇道が伸びている。
その脇道に入って少し進むと開けた場所に出た。「着いた?」と後ろから声がする。
「もう少し上に行くと、ある」
そう答えながら、Aが車を降りた。
そしてそのまま、用意していた懐中電灯も持たず、皆が止めるのも聴かずにさっさと山の塚のある方へ歩いていった。
周囲は霧雨。ヘッドライトの明りから外れるともうどこへ行ったか分からない。
慌てて車を降りて周囲を探したが、Aの姿はどこにもなかった。
呼びかけても返事はない。携帯を鳴らしても出ない。
残った4人で相談をして、俺とカップルの男の二人が探しに行くことになった。
女性二人は車で待機。もしAが戻ってきたら連絡をくれるよう言って、男二人で懐中電灯を持ってA行った方向へ歩いていった。
その先にかなり昔に作られた、木を横にした階段のような物が伸びていた。
黙々とそれを上っていく。霧雨が服に染み込んで冷たいくせに、周りの空気は妙にぬるくてやたら気持ち悪かった。
十分ほど上ると、一緒にいた男の携帯が鳴った。
「彼女だわ」と男が電話に出た。通話ボタンを押した瞬間、携帯から金切り声が聞こえてきた。
弾かれたように男が踵を返して走り出した。慌てて自分も後ろを付いて行く。

68 :代理投稿 ◆ztxSLaq9Ok :2012/08/18(土) 22:26:43.94 ID:YriqamUu0
(3/3)
付けっ放しにしていた車の明りが見える。「おーい!」と声をかけながら近づいて全身が総毛立った。
車の後ろ、トランクの上に誰かが佇んでいる。
車内灯の明りから外れていて誰とは分からないが、見た瞬間に「Aだ!」と思った。
後部座席で蹲って泣いている女性を一緒にいた男に任せて、Aに近寄り声をかけた。
Aは呆然と突っ立っている。何度か声をかけて、足を思いっきり叩くと
「え? あ? 何? うぇ?」
と素っ頓狂な声をあげていた。
Aをトランクから引き摺り下ろし、車に押し込んで、その場から逃げ出した。
後部座席では女達が泣いていて、助手席ではAが混乱している。
来た道を戻り、工房に到着する頃にはAを除く全員がクタクタだった。
Aに事情を聞いたが、酔い潰れて眠ったところから一切の記憶が無いという。
隠れて脅かそうとしてたんだろ、と問い詰めたが、
「違うよ……二人が行ってから、すごい大勢の人が車の周りを回ってた」
「ヘッドライドの前を誰かが通って、光が遮られるんだけど、姿が見えなかった」
という女性陣の意見に掻き消された。
それに、山道を上っていた男二人は霧雨のせいでぐっしょりと濡れていたのにもかかわらず、
Aは少しも濡れていなかった。
【了】

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