百物語2012
Part100
341 :りほ ◆aZ4fR7hJwM :2012/08/19(日) 07:09:02.23 ID:anZJD0SA0
「山の老人」1/4
学生の頃、良く休暇を利用しては長野の祖父母宅に入り浸っていた。
その時に、一度予言のようなものを言われたことがある。
あれは2009年11月の事であった。禁漁期間で釣りはできないものの、普段の釣り場とは
また違うポイントを見つけようと山中を徘徊していた時のことである。
ふと林の中でよたよたとさまよう人影を見つけた。
近づいてくるその人影は杖(といっても、どうみても落っこちてた木の枝なのだが…)をついた老人であった。
爺「なにかいたかい?」
そう言いながらその老人は近づいてきた。おそらく沢を覗き込んだり写真を撮ったりしていたからだろう。
「いや、春の釣りに向けて新しい場所を開拓しようと思いましてね。そちらは何をしているところで?」
爺「いやぁ、散歩だよ。ただ今日は道(林道)に車が止まっていてね。今日はもう帰ろうと思っていたところだよ。」
342 :りほ ◆aZ4fR7hJwM :2012/08/19(日) 07:10:02.44 ID:anZJD0SA0
「山の老人」2/4
どうやらこの爺さん、気さくに話しかけてきた割には、車等の他の人間がいるという感じが嫌いなようだ。人好きなのか人嫌いなのか…。
ただ、杖で指し示した方向にあるのはおそらく俺の車だ。静かな山林なのでそれ以外に車が来たとすればすぐわかるはずである。
「あー、その車は俺のですよ。ちょっと邪魔でしたかね?」
爺「あー、あんたのか。ならばよいよい。ここいらは昔…」
いったいどんな理由かはわからないが、どうやらこの老人に気に入られてしまったようではある。
そこからは、自分自身も山や沢歩きが好きなので、このまえはどこどこの滝にいって…と言えば、あーそこは前はどうで…、○○池は行った事があるかい?といった感じに結構会話が盛り上がっていた。
ただその会話の中、あそこの沢の水は絶対生で飲んではいかん、○○の森は静かで綺麗だが夜にいっては行けないと、所々に注意をされた記憶がある。
会話だけで見れば、地域に詳しい物知り爺さんというような感じであるのだが、対面している最中、ふと疑問に思ったことがある。
343 :りほ ◆aZ4fR7hJwM :2012/08/19(日) 07:13:42.11 ID:anZJD0SA0
「山の老人」3/4
まず、この老人の目…。名称で言えば虹彩の部分であるのだが、日本人に多い黒とも言える濃いブラウンではなく、まるでカラコンでもいれているかのような鮮やかで透き通った白色なのである。
また、車がどうのと言っていたが、今いる場所から車まではかなり距離がある。
というか、ここまでの道程も杖をついた老人が気楽に来れるほど簡単なものではない。
さらに言えば、俺が車を停めた後からやってきているわけであるが、こんなヨタヨタ歩いてる爺さんが追いついてこれるのか?
気になる点は幾つかあったが、目は病気かもしれないし、ここらの土地に詳しくよく散歩にくるくらいだ。なにか近道や歩きやすい道を通って来たのかもしれない。
あまり深く考えずに談笑していたが、ある会話が強く印象に残った。
「この前、祖父に案内してもらってね。竜王の奥にある、白沢の滝を見に行ってきましたよ。」
爺「ほぉ、どうだったい?」
「いやいや、がたがた道を車で1時間以上かけて登って、滝には着いたんだが、その頃には真っ暗になってね。滝へ降りる場所だけ確認して見ないで帰ってきちまった。」
爺「あぁ、そうかい。あそこはいい場所だ。一度見に行くといい。ただ、いくなら早いうちにいくことだ。」
「ん?なぜ」
爺「あそこはじきに通れなくなるからな。早いほうがええ。ちゃんと見ておけ。」
「まぁ、これから冬だしなぁ。来年の夏にでも見にいきますよ。」
なにかやたらと早く行け早く行けと言われた覚えがある。その後、爺さんと別れ、帰宅し、晩飯時に祖父に今日会った老人の話をしたところ
344 :りほ ◆aZ4fR7hJwM :2012/08/19(日) 07:14:54.77 ID:anZJD0SA0
「山の老人」3/4
祖父「ずいぶんと懐かしい話だ。俺が子供の頃の話しだなぁ。」
「子供の頃っていつさ?」
祖父「もう70年近く前の頃だな。」(祖父当時83歳)
祖父から話を聞いていくうちに段々と混乱してきた。なぜならあの老人は見た感じ、70前半といったところであったが、会話の内容が老人が成人を超えてからといった感じであった為、もしそうならば84の祖父よりはるかに高齢なわけである。
そんな老人があんな山林を散歩できるものなのだろうか?だが、所詮老人同士の思い出話である。どこか記憶に誤りがあるもんだろうと解釈し、特に気に留めることも無かった。
その後祖父が体調を崩し、長期の入院生活をすることとなり、結局滝を見に向かったのは11年の夏になってしまった。
345 :りほ ◆aZ4fR7hJwM :2012/08/19(日) 07:15:54.93 ID:anZJD0SA0
「山の老人」4/4
祖父の入院の見舞いにと、山や沢の風景を写真に撮り、ちょくちょく見せにいっていたのだが、残念ながらも、3月の地震の影響か、滝へ向かう道が地すべりによって通行不可となってしまった。
思い返せば、あの時話題に上がった場所はどこも古いとこなのでそのうち道等が風化し、車で向かうのが困難になるだけだろう位しか考えてなかった。
しかし、あの老人は他の場所には一切触れず、その滝だけを早く行くようにと言っていた。
まるでこうなる事を予期していたかのように。
祖父は今年の6月8日に亡くなった。深山幽谷の名所や沢等を色々教えてくれた山の師とも呼べる祖父がいなくなった今、なぜだか無性にあの老人に会いたくなる。
そして、結局見に行くことのできなかった滝ではあるが、道は崩れてもおそらく滝はまだあの場所にある。
徒歩で向かうには険しい道となりそうだが…必ず見に行くと決めている「完」
「山の老人」1/4
学生の頃、良く休暇を利用しては長野の祖父母宅に入り浸っていた。
その時に、一度予言のようなものを言われたことがある。
あれは2009年11月の事であった。禁漁期間で釣りはできないものの、普段の釣り場とは
また違うポイントを見つけようと山中を徘徊していた時のことである。
ふと林の中でよたよたとさまよう人影を見つけた。
近づいてくるその人影は杖(といっても、どうみても落っこちてた木の枝なのだが…)をついた老人であった。
爺「なにかいたかい?」
そう言いながらその老人は近づいてきた。おそらく沢を覗き込んだり写真を撮ったりしていたからだろう。
「いや、春の釣りに向けて新しい場所を開拓しようと思いましてね。そちらは何をしているところで?」
爺「いやぁ、散歩だよ。ただ今日は道(林道)に車が止まっていてね。今日はもう帰ろうと思っていたところだよ。」
342 :りほ ◆aZ4fR7hJwM :2012/08/19(日) 07:10:02.44 ID:anZJD0SA0
「山の老人」2/4
どうやらこの爺さん、気さくに話しかけてきた割には、車等の他の人間がいるという感じが嫌いなようだ。人好きなのか人嫌いなのか…。
ただ、杖で指し示した方向にあるのはおそらく俺の車だ。静かな山林なのでそれ以外に車が来たとすればすぐわかるはずである。
「あー、その車は俺のですよ。ちょっと邪魔でしたかね?」
爺「あー、あんたのか。ならばよいよい。ここいらは昔…」
いったいどんな理由かはわからないが、どうやらこの老人に気に入られてしまったようではある。
そこからは、自分自身も山や沢歩きが好きなので、このまえはどこどこの滝にいって…と言えば、あーそこは前はどうで…、○○池は行った事があるかい?といった感じに結構会話が盛り上がっていた。
ただその会話の中、あそこの沢の水は絶対生で飲んではいかん、○○の森は静かで綺麗だが夜にいっては行けないと、所々に注意をされた記憶がある。
会話だけで見れば、地域に詳しい物知り爺さんというような感じであるのだが、対面している最中、ふと疑問に思ったことがある。
343 :りほ ◆aZ4fR7hJwM :2012/08/19(日) 07:13:42.11 ID:anZJD0SA0
「山の老人」3/4
まず、この老人の目…。名称で言えば虹彩の部分であるのだが、日本人に多い黒とも言える濃いブラウンではなく、まるでカラコンでもいれているかのような鮮やかで透き通った白色なのである。
また、車がどうのと言っていたが、今いる場所から車まではかなり距離がある。
というか、ここまでの道程も杖をついた老人が気楽に来れるほど簡単なものではない。
さらに言えば、俺が車を停めた後からやってきているわけであるが、こんなヨタヨタ歩いてる爺さんが追いついてこれるのか?
気になる点は幾つかあったが、目は病気かもしれないし、ここらの土地に詳しくよく散歩にくるくらいだ。なにか近道や歩きやすい道を通って来たのかもしれない。
あまり深く考えずに談笑していたが、ある会話が強く印象に残った。
「この前、祖父に案内してもらってね。竜王の奥にある、白沢の滝を見に行ってきましたよ。」
爺「ほぉ、どうだったい?」
「いやいや、がたがた道を車で1時間以上かけて登って、滝には着いたんだが、その頃には真っ暗になってね。滝へ降りる場所だけ確認して見ないで帰ってきちまった。」
爺「あぁ、そうかい。あそこはいい場所だ。一度見に行くといい。ただ、いくなら早いうちにいくことだ。」
「ん?なぜ」
爺「あそこはじきに通れなくなるからな。早いほうがええ。ちゃんと見ておけ。」
「まぁ、これから冬だしなぁ。来年の夏にでも見にいきますよ。」
なにかやたらと早く行け早く行けと言われた覚えがある。その後、爺さんと別れ、帰宅し、晩飯時に祖父に今日会った老人の話をしたところ
344 :りほ ◆aZ4fR7hJwM :2012/08/19(日) 07:14:54.77 ID:anZJD0SA0
「山の老人」3/4
祖父「ずいぶんと懐かしい話だ。俺が子供の頃の話しだなぁ。」
「子供の頃っていつさ?」
祖父「もう70年近く前の頃だな。」(祖父当時83歳)
祖父から話を聞いていくうちに段々と混乱してきた。なぜならあの老人は見た感じ、70前半といったところであったが、会話の内容が老人が成人を超えてからといった感じであった為、もしそうならば84の祖父よりはるかに高齢なわけである。
そんな老人があんな山林を散歩できるものなのだろうか?だが、所詮老人同士の思い出話である。どこか記憶に誤りがあるもんだろうと解釈し、特に気に留めることも無かった。
その後祖父が体調を崩し、長期の入院生活をすることとなり、結局滝を見に向かったのは11年の夏になってしまった。
345 :りほ ◆aZ4fR7hJwM :2012/08/19(日) 07:15:54.93 ID:anZJD0SA0
「山の老人」4/4
祖父の入院の見舞いにと、山や沢の風景を写真に撮り、ちょくちょく見せにいっていたのだが、残念ながらも、3月の地震の影響か、滝へ向かう道が地すべりによって通行不可となってしまった。
思い返せば、あの時話題に上がった場所はどこも古いとこなのでそのうち道等が風化し、車で向かうのが困難になるだけだろう位しか考えてなかった。
しかし、あの老人は他の場所には一切触れず、その滝だけを早く行くようにと言っていた。
まるでこうなる事を予期していたかのように。
祖父は今年の6月8日に亡くなった。深山幽谷の名所や沢等を色々教えてくれた山の師とも呼べる祖父がいなくなった今、なぜだか無性にあの老人に会いたくなる。
そして、結局見に行くことのできなかった滝ではあるが、道は崩れてもおそらく滝はまだあの場所にある。
徒歩で向かうには険しい道となりそうだが…必ず見に行くと決めている「完」
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