少しずつ小説を書いていこうと思います。
・ssというよりは小説に近い文体
・死を連想させる話があります
それでもよければ。
22: cuckoo:2019/5/3(金) 20:25:24 ID:fOPnKBm3e2
「なぁ、修學旅行って知ってるか?」
家に帰ると、貓が玄関の前で待ち伏せていた。
メイの名を持つ黒貓のメス。未だ両親の説得は出來ずに室外で飼っている。しかし心配する必要はさほどなかった。彼女は玄関が縄張りのようで、そこから鵜あまり動かない。
家の中は図らずも親の目があったから、プライベートなことは、家の裏で貓にだけ話す。
「學校の奴らと一緒に旅行に行くんだけどよ、正直俺は生きたくない。行きたくなさ過ぎて存在すら忘れてた」
とっくに金は支払われている。だから行くしかないのだが、乗り気になれない。
「しかも北海道。この季節に何しに行くんだってな。スキーするわけでもないだろうし。遊び場もなさそうだし」
道民が聞いたら多分怒る。
「お前が一緒に行ってくれるなら俺も行く気になれるけど、貓だしなぁ……」
もしくは、夢の中のあの少女と。
「……俺はロリコンか」
彼女に恋愛感情を持つわけでも、そもそも夢の中の存在に感情を覚えるなんて不毛なことをするつもりもない。ただ、彼女と一緒に過ごす夢の中は心地がいい。
今までの暗闇を忘れてしまったみたいに。
その代償に、今まで何気なく過ごしていた現実の日々がいかに空虚であるかを思い知ってしまった。
友達はろくにいない。彼女もいない。両親は健在だが共働きで基本家にいない。
孤独のスペシャリストたる圭の心を本当の孤独で満たしてくれるのは、孤独を認められるのは、良くも悪くもあの夢だけだった。心地よい孤独を提供するのが、あの夢だった。
現実では圭はただの「地味で可哀想な人間」なのである。無駄に人が多い故、圭の孤独が浮き彫りになる。世間は孤独を許さない。
昔から知っている。
「彼女いないの、か……」
いたとして果たして、「ああも」献身的になれるとは思えない。
圭の中で優先順位が高いのは恐らく、両親と猫、はたまた少女、百歩譲って陽向なのだ。
「本格的にヤバい奴だな、俺……」
彼女や友達が欲しいとは未だ思わない。しかし、異常な方向へ進まないためにもある程度の往来は大切かもしれない。
自ら進んで「何か色々ヤバい奴」になる気はさらさらない。
「行くか。修学旅行」
メイが、ニャアとか細く鳴いた。
23: cuckoo:2019/5/3(金) 20:26:07 ID:fOPnKBm3e2
「お兄ちゃん」
「何?」
いつもの自室で、少女と二人きりでいる。
少女は圭の隣で寝転び、圭を見つめた。
「もうすぐ遠足の季節なの」
「そうか、楽しみだな」
「うん、でもね、私行けないかも」
「どうして?」
「遠足の前の日、風邪引いちゃったりするから」
子供は遠足など楽しみなイベントがあると、眠れなくなったり風邪を引いたりする。
逆に大人の場合、嫌なことがありすぎて眠れなくなったり体調を崩したりするのだけど……要するに程々が一番だ。
圭は少女の頭を撫でた。
「きっと行けるよ、今度は。行く時は一緒にお菓子買いに行ってやる」
少女はやったあ、と眠たげに言うと重たい瞼を下ろした。
穏やかな寝顔につられて、圭も眠りにつく。そして目覚める。
24: cuckoo:2019/5/3(金) 20:26:56 ID:fOPnKBm3e2
修学旅行に結局参加することになり、予想外に苦労したのは飛行機だった。
飛行機に乗るのは初めてだ。沢山の人々が行き交う空港内で緊張したのはもちろん、機内でも。
「あ、めっちゃ耳痛そう(笑)」
と陽向馬鹿にされたので、痛くないふりを装うのが大変だった。
というかお前は彼女と席が隣じゃなかったのか。
そう聞くと
「一緒になろうと思ったけどさあ、先に別の友達と席取っててさあ、しかもそいつ男なんだよ、何考えてんだろう、あいつ」
「……」
誰かを心配できる立場ではないが、大丈夫なのだろうか、こいつらは。
25: cuckoo:2019/5/3(金) 20:27:20 ID:fOPnKBm3e2
落ちます。
26: 名無しさん@読者の声:2019/6/19(水) 00:26:20 ID:7A2gP0vTKY
こういうの大好きです!
つCCC
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