2chまとめサイトモバイル

2chまとめサイトモバイル 掲示板
師匠シリーズ《続》
[8] -25 -50 

1:🎏 1 ◆LaKVRye0d.:2017/1/24(火) 20:30:02 ID:1lmoPahM2s

ここでは、まとめの怖い系に掲載されている『師匠シリーズ』の続きの連載や、古い作品でも、抜けやpixivにしか掲載されていない等の理由でまとめられていない話を掲載して行きます

ウニさん・龍さん両氏の許可は得ています

★お願い★

(1)話の途中で感想等が挟まると非常に読み難くなるので、1話1話が終わる迄、書き込みはご遠慮下さい
(代わりに各話が終わる毎に【了】の表示をし、次の話を投下する迄、しばらく間を空けます)

(2)本文はageで書きますが、感想等の書き込みはsageでお願いします

それでは皆さん、ぞわぞわしつつ、深淵を覗いて深淵からも覗かれましょう!!





332:🎏 赤 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:09:27 ID:uojtOBMxmY

しかし……と、その師匠の横顔を見ながら思う。
これほどオカルトにどっぷりと浸かり、昼と夜となく徘徊しては退廃的な快楽に溺れていて、バイトなどほとんどしていなかったはずなのに、師匠が金に困っている様子を見ることがほとんどなかった。
それどころか、どこから入手しているのかも分からない怪しげなオカルト関係のアイテムを家に溜め込み、ことあるごとに新作を俺に見せびらかしてくる。
どこにそんなものを買う金があるのだろう。
住んでいるアパートはたしかにボロ屋だが、それを差っ引いてもまだ帳尻が合わない。俺など日々の暮らしにキュウキュウで、駅で甘栗を焼いたり売ったりするバイトをしていた。さらにバイトを増やそうかと考えているくらいだ。
当の本人は口笛など吹きながら、ある場所に差しかかったところで、自転車の速度を緩めた。
「ここだ」
顔を上げると、板壁が左右に伸びていて、その向こうに日本家屋の一部が見えた。敷地内には木が生い茂っている。
大きなお屋敷だ。そう思いながら自転車をゆっくりと走らせていると、板壁は続く続く……どこまでも続いていた。だんだんと、唖然としてくる。
どんな豪邸だ!
想像できないほどの広大な敷地を持った屋敷なのだ。ただ土地が広いだけではない。敷地をぐるりと囲む木々のその向こうに、家屋の一部が常にちらちらと見えている。
このおっさん、まさか……。
なぜ金に困っていないのか、ということについて考えを巡らせていたばかりだったので、思わず勘繰ってしまった。


333:🎏 赤 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:11:44 ID:/vcnLMBLkI

ようやく玄関らしき門にたどり着き、そこで師匠はインターホンを押した。その通話口で、ただいま、とは言わなかった。またちょっとホッとする。
大きな木製の門が開き、その向こうに長い石畳が見えた。その正面には、明らかにこの家の家族ではなさそうな老人が正装をして頭を下げている。
執事、という単語どころか、家令という言葉が似合いそうな人物だった。
お帰りなさいませ、おぼっちゃま、とは言わなかった。ちょっとホッとする。
玄関のそばに自転車を停め、わけもわからないままに敷地のなかを案内された。一度日本家屋のなかに靴を脱いで入ったはずだが、また外に出る。用意されていた外履きを履いてだ。
広大な敷地の庭のなかに屋敷があり、その屋敷のなかにさらに庭があった。
静かな空間だった。築山があり、大小さまざまな庭石があり、苔むした草木があり、水鳥が毛繕いをしている大きな池があった。きめの細かい玉砂利のなかの石畳を進み、ここは本当に市内かと目を疑う。
奈良か京都の寺社の敷地内ではないのか。見上げると、すがすがしい秋の空に小さな雲がいくつか浮かんでいる。電線の1つも見えない。
途中の木々や何重もの家屋の壁に吸収されるのか、車などの文明の音はなに1つ聞こえてこない。
静謐な箱庭のような場所だった。


334:🎏 赤 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:13:58 ID:/vcnLMBLkI

「こちらです」
箱庭のなかに平屋の建物があった。玄関を抜けると、木の香りのする廊下を通り、和室に通された。天然の明かりのよく入る部屋だった。
部屋の奥に、老人が座っていた。和服を着ている。黒く重そうな木の机で、なにかを書いていた手をピタリと止めた。
「よく来た」
その声で、ここまで案内してくれた執事だか家令だかが無言で頭を下げ、部屋から出ていく。
「どうも」
師匠がぞんざいな口調で返事をする。そして俺を指し示して「こいつは弟子みたいなやつです」と言った。
老人は俺に一瞥をくれると、それきり興味をなくした様子で師匠を見つめた。
「かわりはないか」
「ないです」
老人と正対した位置の座布団に師匠と並んで座っているが、なんだか落ち着かない。師匠はさっきまで口笛など吹き機嫌が良さそうだったのが嘘のように、仏頂面をして胡坐をかいている。
「あれがどこぞに出てくる気配は」
「ないですよ」
「……」
老人は失望も落胆もした様子もなくただ頷くと、和服の裾から懐紙を取り出し、咳き込んで痰を取った。
「心臓に管を通してな」
枯れ木のような手が胸元を指さした。なにかの器具が取りつけられているのか、服が少し盛り上がっている。ペースメーカーというやつだろうか。
師匠は老人から目をそらし、強張った顔で俯いたままひとことなにか呟いた。
僕の裏切られた心臓よ
そう聞こえた気がした。
「あれが現れたら、知らせよ」
会見はなにも起こらないままに、もう終わりのようだ。師匠にならって僕も頭を下げ、その老人が1人でいるには広すぎる部屋を出る。
帰り道、来たときと同じように正装の老執事が先導するあとをついていく。玄関の門へ続く長い石畳まで来たとき、老執事が封筒を師匠に差し出した。なにも言わず、師匠はそれを受け取る。金だ。俺は直感した。


335:🎏 赤 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:15:55 ID:/vcnLMBLkI

頭を下げる老執事に背を向けて門のほうへ向かおうとすると、門のそばに停めていた自転車のところに、女性がしゃがみ込んでいた。
近づくと顔を上げる。知った顔だったので驚いた。
「やっぱり」
彼女はそう言って笑った。角南さんという大学の同級生だ。髪を染めている大学生ばかりのなかで、今どき珍しいくらい艶のあるショートの黒髪がトレードマークだった。
今日は動きやすそうなパンツに、秋物のセーターを着ている。
「見たチャリだと思ったんだよな」
そんなことより、俺はどうして彼女がここにいるのか、ということが不思議でならなかった。それをぶつけると、あっさりと言うのだ。
「ここ、わたしんち」
なんてこった。あの、学業もそこそこにバイトに明け暮れている彼女がこんな家のお嬢さんなのか。
罰ゲームで、周りに好奇の目で見られながらゲーセンの脱衣麻雀を、ギャラリーなしでクリアさせられていた彼女が。最初の全体コンパで炸裂した奇矯な言動が伝説となり、学部で知らない人はいないといわれる彼女が!
今日一番の衝撃に頭を殴られて、かなり混乱していた俺は、「そう。よかったね」などという間の抜けた感想を吐くと、そんなやりとりなど無視して先に門をくぐろうとしている師匠を慌てて追いかけた。
「今度遊びに来いよぉ」という声を背中に聞きながら。


336:🎏 赤 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:18:36 ID:/vcnLMBLkI

その夜だ。
俺は師匠と『赤い館』と呼ばれる郊外の廃屋に来ていた。元々ラブホテルだったというその建物は、ケバケバしかったであろう外観の面影は残しつつ、今は汚れきって灰色に染まっていた。
赤い館という名前の由来は、オーナーの1人娘が赤い服や赤い装飾品を好んだことによるらしい。ホテルの外装も一面真っ赤だったそうだ。
そのホテルが経営難で廃業するときに、一家全員である一室に篭り、火を放って心中したという噂がある。
そのとき焼け死んだ娘の霊が今もこの敷地に漂い、興味本位で廃屋に乗り込んでくる輩を襲ってくるのだそうだ。
「それも、赤いものを身につけている人間を襲ってくる」
師匠が声を潜めて、敷地に足を踏み入れていく。秋だというのに、上はTシャツ1枚という格好だ。僕もそれに合わさせられている。長袖なのが救いか。
ただ、白のシンプルなTシャツなのだが、ワンポイントとして胸元にだけ別の色があしらわれている。もちろん赤だった。この心霊スポットに挑むにあたっての師匠からの支給品だ。
このおっさんは……。
かすかな月光の下で、荒れた敷地と、その向こうの廃屋が一面の灰色に沈み込んでいる。そこへ静かに歩を進めながら、あきれて喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
かわりに出た言葉は、「あの金、なんなんですか」だった。今さら答えてくれるとも思わない。
「老い先短いジジイの妄想に、つき合ってやってるだけだ」とだけ返ってくる。
「出た!」
師匠が短い言葉を発した。その視線の先を追うと、なにか黒い塊が、半分傾いた玄関ドアの隙間からどろどろと漏れ出てくるところだった。
ゾクッとする。
黒い塊は、宙を飛んで一直線にこちらに向かってきた。早い。瞬間に足が硬直し、動けない。
「やばい」
師匠が玄関のほうを向いたまま、身構える。俺はその隣で目を閉じそうになる。
異様な気配をまき散らしながら、黒い塊は俺たちの頭上に迫った。
見上げた先に、髪の毛。振り乱した髪の毛が塊のなかに見えた気がした。
覆いかぶさってくるかと思った次の瞬間、漏れ出るような悪意が硬直した。黒い塊が戸惑うように輪郭がぼやけた。その隙をついて、師匠が俺の肩を叩きながら振り向いて走り出す。
逃げた。逃げた。なにかが再び迫ってくる気配を背中に感じながら。2人で走って逃げた。


337:🎏 赤 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:21:07 ID:uojtOBMxmY

「見たか、見たか」
走りながら師匠が興奮してわめく。Tシャツの胸元を何度も指さしている。
俺もつられて、走りながらTシャツを見下ろす。月の明かりにその胸元が見えた。白地に、赤いワンポイント。文字だ。そこだけ赤い生地で文字が書かれている。
『黄色』
師匠のは『青』という文字だ。
「幽霊にもストループ効果が通用したぞ!」
バカだこの人。
必死で走りながら、あらためて思った。
バカすぎる!
謎めいて、わからないことだらけで、過去のことを語るのをためらう人だった。しかし、今は、今のところは、仕方ないので、百歩譲って、とりあえず、それだけで、いいかな、と思った。


338:🎏 館 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:22:54 ID:/vcnLMBLkI

『館』 上

潮騒を聞いている。
暗い海がその向こうにある。
空には一面の星。水面にはその欠片が揺れている。
春はようやくやってきたが、夜はまだまだ肌寒い。
「最後の1本だ」
何度目かになる言葉のあと、マッチの明かりが一瞬、海辺の闇を深くする。
煙草の匂いを嗅ぐことで、脳裏にはその匂いと結びついた記憶が滔々と湧いてくる。
いろいろな話をした。
いろいろなところへ行った。
別の世界へと通じているかも知れない扉を開けて。彼女との冒険も今日で終わり。終わり。終わり。
俺は彼女の横顔を見る。
彼女は夜空を見ている。
さっきのホテルでのことが蘇りかけて、頭を振る。
岸壁に2人腰掛けて、とりとめもない話をする。
こんな時間もいつか終わる。
「なあ、知ってる星座はあるか」
煙草を持った手が空を指す。
空に散りばめられた光に目を凝らしたけれど、星と星とを繋ぐ線は見えなかった。
「ありません」
オリオン座ならわかるんだが。あれは冬の星座だ。
「こんなとき、星座の話のひとつやふたつでもサラッとできれば、ロマンティックなのにな」
「すみません」
今度覚えよう。
そうして沈黙がやってくる。岸壁を撫でる波の音が大きくなる。煙草の吸殻を靴で踏むときの、赤く小さな火花が転がるのが見えた。
「あいつも、どんな気持ちで夜空を見ていたんだろう」
遠くを見るような声でそう言った。
「知らない星を」





339:🎏 館 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:24:36 ID:uojtOBMxmY


京介さんから聞いた話だ。

「なんでそうなるんだ。第7室には太陽しかいないのに」
「よく見なさい。第1室に火星が入っているでしょう。オポジションで凶相よ。この場合は配偶者に、あなたとは別の男女関係が生まれやすいことを示しているの」
「これが180度か? ちょっとずれてるじゃないか」
「何度説明したらわかるの。メジャーアスペクトのオーブは広いの! これは5度だから範囲内よ」
おばさんが机を叩く。
私は机の上の紙を睨みつけている。12個に切り分けられたケーキのような形が描かれている。
ホロスコープというやつだ。西洋占星術で使う、自分の生まれた瞬間の星の配置を表したもの。
その星の配置がその人の人生を支配するというのだ。
「あー、だめだ。頭が煮えそう」
私は鉛筆を放り出して頭を抱えた。
目の前の紙の上に、私の人生のすべてがある、なんて言われても、どうやってそれを読み解いていくのかのハードルが高すぎる。
タロット占いなら、引いたカードの配置でその人の、そのときどきの、かつ特定の分野のことを自在に占うことができるのに、西洋占星術は基本的に、定められたその人の人生をただ解き明かしていく作業だ。
考えてみれば恐ろしい。これは恐ろしいことだ。知れば知るほど、そのことがわかってくる。
「休憩しましょうか。紅茶淹れてあげる」
おばさんが小太りの体を揺すって立ち上がる。その後ろ姿を見ながら私はため息をついた。
アンダ朝岡という名前のこの占い師と出会ったのは、今年の夏のことだった。街中を襲った不気味な怪奇現象を追っていた私は、その先で4人の人物と出会った。全員が、私と同じようにその怪奇現象の根源を追っていた。
この街のなかでたった1人、私だけが気づいていて、だからこそ私がなんとかしないといけない。そう思っていた。
しかし、この街で昼ひなかにお互いにすれ違っても気づかないけれど、その日常の仮面の下に、非日常の世界を見通す目を秘めている人々がいたのだ。私のほかにも。
そのことが、なぜか嬉しかった。
『今度会ったら、タダで占ってあげるわよ』
偶然街ですれ違ったとき、その夜に交わした約束を彼女は覚えていた。


340:🎏 館 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:26:33 ID:uojtOBMxmY

「あら、あなた」
50年配の女性にいきなり声を掛けられて、とまどったが、すぐに思い出した。
けれどそれは相手の顔を思い出しただけだった。なにしろお互いに名前も知らなかったのだから。
2人で苦笑して、あらためて自己紹介をした。
彼女は《アンダ朝岡》と名乗った。聞いたことのある名前だった。地元の情報誌で星占いのコーナーを持っている人だ。その星占いは、街に迫りつつあったその怪奇現象に、私が気づくきっかけにもなっていた。
いま時間あるでしょ、とアンダ朝岡は言って、無理やり私を自分の店に連れていった。
『アンダのキッチン』
そんな名前の、駅に近いビルの1階のテナントに入っている、小洒落た店だった。まるで喫茶店のような店構えだったが、実際に軽食を注文して、それを食べてリラックスしながら占いの相談をする、という珍しいスタイルだった。
料理が上手いのか、占いが上手いのか、あるいはその両方なのかわからないが、とにかく結構流行っている店らしかった。
アンダはタロットなどの占いもするけれど、西洋占星術がメインだった。しかしそのタロットにしても、私がかじっている知識よりはるかに詳しい。さすがにこの道で食べているプロだな、と思う。
再会したその日は、私のことを占う、というより、占いに興味を持っていると言った私に、あれこれとアドバイスをしてくれた。
ただの客としての対応とは明らかに違っていた。私を見つめるその優しげな瞳には、秘密を共有する仲間としての親しみが込められているような気がした。
「また遊びにいらっしゃい」
帰るとき、そう言われた。紅茶の風味が口のなかに甘く残っていて、また来てもいいな、と思った。


341:🎏 館 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:28:43 ID:uojtOBMxmY

それから、2度、3度と店に顔を出していると、いつの間にか私は彼女の教え子になっていた。
後継者などというつもりは毛頭なかった。ただ自分の知らない西洋占星術という占いに興味を持ったのだ。
トランプやタロットを使った神秘主義的なものとは違う、ホロスコープという生涯変わることのない出生時の星の配置……つまり運命の地図が、まず面前に示されるという、その潔さに、逆に途方もない奥深さを感じていた。
私は学校帰りに時間をつぶしたあと、『アンダのキッチン』が閉まる午後7時過ぎに顔を出し、客のいなくなった店内でいろいろなことを教えてもらう、という日々が続いていた。
「なあ、アンダ。これって、どういうことなんだ」
ある日、ローカル情報誌を広げてアンダを問い詰めた。
アンダが担当している星占いのコーナーだ。店と同じ、『アンダのキッチン』というコーナー名だった。
よく見るものと同じく、おひつじ座から始まる12星座ごとに、その月の運勢を占ったものだ。
以前の私は、素直に自分の誕生星座のところを読んでいた。あるいは、気になっている相手のところを。
しかし、西洋占星術をちゃんと習っていくと、こういう星占いとはまったく別物だということに気づいてきた。
まず第1に、西洋占星術ではホロスコープの起点となる第1室の支配星座は、その人が生まれた瞬間に東の地平線にあった星座なのだ。これを上昇宮(アセンダント)と言って、その人の本質を読み解くキーとなっているものだ。
私はみずがめ座のはずだったが、アセンダントを調べると、ふたご座だった。
今まで星座別の性格占いで、みずがめ座の欄に『常識やモラルに捉われない。推理力、洞察力に優れ、クールで気ままな性格』などと書いてあるのを見ては、当たっている! と思っていたのに。
しかし私が習う西洋占星術では、生まれた瞬間の太陽の位置を第1室に置くやり方はしなかった。
サン・サイン占星術といって、太陽の位置を起点にするやり方もあるらしいし、誕生日はわかっても、生まれた時刻がわからない場合に太陽を第1室に置くやり方もあるのは習ったが、アンダの西洋占星術では、明らかに太陽星座を重視していなかった。
まして、ホロスコープは、言わばその人の人生の地図のすべてであって、今月の運勢やら今週の運勢やらといった、狭い範囲を言い当てるものではない。
そういうことがだんだんとわかり始めて、あらためてあの星占いコーナーとの矛盾に気づいたのだ。


342:🎏 館 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:31:43 ID:uojtOBMxmY

「なあ。なんでこんな適当なことばっかり書いてんの」
私が情報誌を突きつけると、アンダはしばらく黙ったあと、にっこりと笑って言った。
「お坊さんがね。檀家さんに『昨日の夜、死んだ父が枕元に立ってこんなことを言うのです』って相談されたら、『それはあなたを守るために、心配しておっしゃっているのですよ』って言うでしょう。でもお釈迦様の教えでは、人間が死んだ後には霊なんかになってこの世にさまようなんてことは、言ってないの。でもその理屈を説いて、あなたが見たのは幻だ、錯覚だ、なんて言ってもその人は納得するかしら。そういうことの専門家だと思い込んで相談しにきているのに。そんなときに、相手に合わせてあげて、返事をすることを、なんて呼ぶか知ってる?」
「知らない。なんだ?」
「方便よ」
なんだそりゃ。
うそも方便ってやつか。
「ようするに金儲けのために、でたらめをでっちあげてるんだろう」
「でたらめじゃなくて、ほ・う・べ・ん」
アンダは指を立ててゆっくりと訂正した。
「これでも、ちゃんと私なりに研究してやってるのよ。方法は企業秘密だから、教えてあげないけど」
納得はいなかなかったが、それでも店では一貫してストイックな占いの手法を守っているようだった。
アンダはよく、自分のホロスコープを例にして私に説明してくれた。
「私のアセンダントはおひつじ座にあるけど、ルーラー(支配星)はなにかしら?」
「火星」
「そう。その火星が第8室にあるでしょ。セックスや死を司るハウスに、マレフィック(凶星)の火星があり、損なわれているということ。そしてこの火星が、さらに別のマレフィックの土星とスクウェアで、凶相を成しているわ。これは短命の相よ。さらに第8室のルーラーの冥王星が、マレフィックの天王星とオポジション。海王星とセミスクウェアよ。これがどういうことかわかる?」
ひどいな。
顔をしかめたら、アンダは「そうね」と言って続けた。
「天寿をまっとうする自然死ではないわね。間違いなく。せめてもの救いは、第8室がカーディナル・サイン(活動宮)じゃなくて、フィックスド・サイン(不動宮)だってことね」
「ええと、その場合は病院で死ぬとか、そういうこと?」
「少なくとも即死ではないと思うわ。だれかに看取ってもらえるなら、まだましね」


343:🎏 館 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:33:51 ID:uojtOBMxmY

自分の死について、あっけらかんと語るアンダを見ていると、なんだか不思議な気持ちになる。
自分で自分の西洋占星術を信じていない、というわけではないだろう。ただ、人の運命を、星の配置のなかに読み解くことを生業にしていると、そういう達観めいた心境に至ってしまうのだろうか。
数年前に起きた夫との死別という悲しいできごとまで、自分のホロスコープのなかに読み解いて説明をしてくれる彼女の横顔を見て、なんだか辛い気持ちになった。

学校の廊下で、間崎京子とすれ違った。
この高慢な秘密主義者は、あいかわらず私のかんに触るやつだったが、風のなかにだれとも知れない人間の髪の毛が混ざっているという、気持ちの悪いできごとのときに、図らずも一緒に組んでその謎を追ったりしていたせいで、このところ休戦状態にあった。
「よう」
そう言って通り過ぎようとしたら、向こうからそっと寄ってきて、打ち明け話をするように私の耳元に口を近づけた。
「最近、占いに凝ってるんですって?」
それを聞いてビクリとする。こいつはなぜそんなことを知っているんだ。
「どんな先生かしら。今度紹介してくださらない?」
「いやだ」
その言葉のあと、なにか理由をつけようとしたが、うまく出てこなかった。それが妙に気恥ずかしくて、とっさに出た言葉が「おまえ、何座だ?」という問いかけだった。
「あら、そういう占いなの」
間崎京子は興味を失ったような顔をした。


344:🎏 館 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:36:10 ID:/vcnLMBLkI


違う。そういう星座占いみたいな程度の低い占いじゃないんだ。
思わずそう言い訳をしようとしたが、(こいつに侮られることが、そんなに嫌なのか)ということに思い当たり、(だれが! 勝手に思ってろ!)と、我ながら天邪鬼なことを考えて、結果的に黙っていた。
すると間崎京子は、「私、星占いとか、占星術とか、好きじゃないのよね」と言いながら、両手を後ろに回して、すねたように足を蹴り上げる仕草をした。
「いいから、何座だ」
重ねて訊くと、くすり、と笑って言った。
「……くじら座」
なんだそれは。
何座かと訊かれて、「ヤクザ」と答えるのが、子どものころの定番ジョークだったが、これは、なんて中途半端な……。
「そうそう。今度、私の誕生日会をするの。あなたもご招待するから、きてね」
間崎京子はそう言って去っていった。
誕生日会?
あいつの?
そんなな女の子じみた行事に呼ばれるなんてことは、ここ数年なかった。しかも、あいつの?
その場に残された私は、痒くもない頭を掻きながら、立ち尽くしていた。
 
その日の放課後、アンダの店に寄ってから午後9時過ぎに家に帰ると、玄関に張り紙があった。
『ちーちゃんとまーちゃんへ。パパとママは、レストランでお食事をしてきます』
ずる賢そうな顔をした2人の似顔絵つきだ。母親が描いた絵だった。
妹のまひろはまだ帰ってきてないらしい。郵便受けにあった新聞とチラシを取り出してから鍵を開けて家のなかに入り、テーブルの上にそれらを投げ出す。
ふと、そのなかのチラシの文字に目が留まった。
『劇団くじら座』
地元の劇団の公演の案内チラシだった。そういえばたまに見る名前だ。
そう思った瞬間、昼間に間崎京子が言った変な言葉を思い出した。
『おまえ、何座だ?』
『……くじら座』
そうか。そういうことか。あいつも、そういう冗談を言うんだ。
なんだかおかしくて、声に出して笑ってしまった。
だれもいないリビングに自分の声だけが響く。
ひとしきり笑ったあとで、あのとき笑ってやらなくて悪かったな、と思った。





345:🎏 館 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:38:27 ID:uojtOBMxmY

数日後、間崎京子は本当に私に招待状を持ってきた。誕生日会のだ。
11月20日。太陽星座なら、さそり座ということになる。私は一般的なさそり座の性格占いの内容を思い出す。
『排他的で秘密主義。嫉妬深く、執念深い。プライドが高く、洞察力、霊感に優れる……』
当たっているなあ。むしろこれしかない、という気もしてくる。やっぱり太陽星座でも十分当たるじゃないか。
そう思うと、こいつのアセンダント星座も知りたくなった。
「来てくださるかしら」
会場は本人の家となっている。
子どものころの記憶では、お誕生日会などと言って家に友だちを招待する子は、いいところの子どもだけだ。
間崎京子の家も一度見てみたかった。どういう環境でこいつみたいな子どもが育ったのかを。
「ほかにはだれが来るんだ」
「あとは私のクラスのお友だちが2人。あなたもお友だちを誘ってくれていいわ」
こいつの友だちということは、取り巻きの連中だろう。そんな完全アウェーに1人で乗り込んでいくのも、確かに気が引けた。
「考えとく」
そう答えると、間崎京子は嬉しそうに、「きっと来てね」と言った。
「なあ、おまえ自分が何時に生まれたか、知ってるか」
私は知らなかった。アンダの西洋占星術のホロスコープを作るうえでは、誕生時刻というのは必須の情報だった。
地球はぐるぐる自転している。誕生の瞬間の星の配置は、時刻によってまったく違ってしまうのだ。私はわざわざ母親に訊いて調べた。
私の問い掛けに、間崎京子はその場で生まれた日と時間をそらんじた。
朝6時か。これでこいつのホロスコープを作れるな。調べてやろ。
そう悪巧みをしていると、さっきの暗唱のなかに、おかしな部分があったことに気がついた。
生まれた西暦が、早生まれの私より2年古い。えっ、と思った。つまり1学年上なのだ。
「私、中学生のときに病気で1年休んだから」
「じゃあ、次で17歳の誕生日なのか」
なんだ。本当はイッコ上なのか。
やけに大人びていると思ったが、本当に年上だったとは。
驚いている私に、間崎京子は「じゃあ、きっとね」と言って去っていった。
私は思わず「ああ」と答えていた。





346:🎏 館 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:40:45 ID:/vcnLMBLkI

11月20日はあっという間にやってきた。
なかばなりゆきで、行かざるを得なくなった感もあるが、とにかく私は京子の誕生日会に行くことにした。
悩んだ末に、一応友だちを誘ってみた。クラスでも浮き気味の私にとって、友だちと言えるのは高野志保という名前のクラスメートだけだった。
志保は物静かで目立たない子で、私の乱暴な態度や言葉づかいに怯えながらも、いろいろと心配してくれるやつだった。
特に間崎京子に関しては、今年の夏の初めにあった、ある事件のせいで、かなり過敏になっていて、その魔女のような女に深く関わろうとする私を、そっとたしなめる役目を果たしてくれていた。
なるべく気軽な感じを装って誘ってみたが、案の定、高野志保は「行かないほうがいい」と反対した。
「危ないよ」
真剣な表情でそう言うのだ。
危ないって……。
「おいおい。ただのお誕生日会だぞ」
そう言って気軽さを強調しようとしたが、志保の耳には入っていないのか、しばらく俯いていたかと思うとキッ、と顔を上げて、
「わかった。ついてく」
と決死の覚悟を決めたような表情で言うのだった。
なんだか私まで怖くなってくる。
20日は金曜日だったので、放課後、寄り道せずに家に帰ると、すぐに着替えて京子の家に向かった。途中待ち合わせたスーパーで高野志保と合流する。
志保はバレー部だったが、今日はさぼったらしい。バレー部の顧問のジジイが結構厳しいらしいから、大丈夫なのかと心配になる。
間崎京子の家は、市内の北の端にあった。志保の母方の祖母の家がこの辺りにあるらしく、土地勘があったので私は地図も見ずに、彼女についていくだけでよかった。
それどころか、志保は間崎京子の家を知っているという。
「間崎さんの家は有名なお屋敷なの」
明治維新のあと、子爵の称号を賜わった間崎家の先祖は、そのあと生糸の生産業に投資をして成功し、財を成したのだという。京子の曽祖父の代で、市内の中心地から引越しをして、郊外に西洋風の屋敷を建てたのだそうだ。


347:🎏 館 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:43:25 ID:uojtOBMxmY

「私のおばあちゃんも、若いころにお屋敷で女中をしてことがあるらしいの」
志保が今日のことを祖母に話すと、失礼があってはいけないと、まるで自分のことのように大慌てで、誕生日の贈り物を見繕ってくれたそうだ。
あやうく、お屋敷まで見送りについてくるところだった、と言って志保は笑った。
そんな栄華を誇った間崎家だが、第二次大戦のあとは斜陽の時代を迎えた。
手を出していた不動産業が失敗をして、借金を返済するためにいくつか持っていた会社をすべて手放し、零落の一途をたどったのだ。
さらに京子の祖父が死んだのを皮切りに、身内に若死にや事故死などの不幸が立て続いた。周辺の住民たちは間崎家の呪いなどと言って、陰で噂をしていたそうだ。
そういえば、京子は以前、母親は自分が生まれたときに死んだと言っていたな。
ほかにもそんな不幸がたくさんあったのか。
「間崎さんは、お父さんが船医で、いつも海外にいるから、ほとんど1人で、あの大きなおうちにいるみたい」
その父が、傾いた間崎家を立て直すために腐心するどころか、怪奇趣味というのか、変なものを買い集めることにばかり執着し、船医の仕事をしながら、世界各地でそういうものを探し回っているとの噂だった。
周囲の噂では、そのあやしげなものたちの呪いで間崎家はこうなってしまったのであって、かつての子爵家ももはや風前の灯、というのだ
「ほら、あれ」
志保が指さす場所はやや高台になっていて、その先に大きな建物の姿が見えてきた。
なるほど、大きい屋敷だ。
「私もあんまり近づいたことないけど、やっぱり変な感じがする」


348:🎏 館 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:46:44 ID:/vcnLMBLkI

噂では、間崎家の周辺は磁場が歪んでいて、へたに近づいて取り込まれてしまうと、帰れなくなる、というのだ。
酷い言われようだ、と思ったが、屋敷に近づくにつれてその気持ちが少しずつわかり始めた。確かに異様な感じがする。
説明しづらいが、リズムを変えずに歩き続けているのに、見えている屋敷が、なかなか近づいてこない気がするのだ。
まるで近づけさせまいとしているような……。
それでも歩き続けると、私たちは玄関らしきところにたどり着いた。
あらためて見ると、私たち庶民が住む普通の一軒屋の4倍か、5倍か、いやそれ以上ありそうな大きさの洋館だった。
2階建てのようだったが、見慣れた瓦屋根ではなく、尖塔のようなものがところどころに突き出ているのが見えて、3階建てくらいありそうな高さに思えた。たぶん、秘密の屋根裏部屋なんかもあるに違いない。
周囲をがっしりした石壁が覆い、その向こうに広い庭と洋館がある、という構造だった。
少し緊張しながら、石壁にはまったアーチ上の鉄製の門の前に立って、どうやって開けるのか観察していると、インターホンらしいものを見つけた。
ボタンを押してしばらくすると、『いらっしゃい』という声が聞こえた。
石壁の向こうで扉の開く音がして、やがて門のところまで足音がやってきた。そして、ガチャリ、という鍵の回る音がする。
「ようこそ。山中さん。来てくれてありがとう」
門を開けた京子は、黒い服を着ていた。ドレスと言ってもいいような、フォーマルな服だった。彼女のすらりとした長身によく似にあっていた。
ジーンズ姿のいつもの私服で来てしまった自分の体を思わず見下ろして、なんだか少し焦った気持ちになった。
「高野さんも。どうぞお入りになって」
促され、私たちは敷地内に足を踏み入れる。庭は広かったが、日本庭園のように築山や川などを模した緻密な趣向は見当たらなかった。
ただ、洋館を囲むように植えられている背の高い木々の群が、小さな森を作っているような気がした。
その森のなかへ、古い洋館が長い時間をかけてゆるやかに飲み込まれている……そんな気が。


349:🎏 館 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:49:37 ID:uojtOBMxmY

チャリ、という音に、ふと目をそちらへやると、京子の胸元には大きな鍵束が首から下げられていた。まるでネックレスのように。
玄関へ向かって歩きながら、京子は「これ? 家の鍵よ」と言って触り、チャリンチャリンという音を立てた。
いくつあるのだろう。大小織り交ぜて、10個以上はありそうだ。
昔よく、鍵っ子という言葉を聞いたが、ここまで露骨で大袈裟なものを見ると、逆になんだかファッションとして似合って見えるので、不思議だ。
「私のクラスメートはもう来てるわ。さあどうぞ」
両開きの玄関を開けて、私たちは洋館の中に招き入れられた。
もう日が暮れるころで、玄関ホールには明かりが灯っていたが、いやに薄暗い気がして私は目を擦った。
床は茶色の絨毯が敷き詰められていて、靴のまま上がっていいと言われたが、少し気が引けてしまった。
城のように豪華なシャンデリアが天井にあるのが見えたが、明かりは灯っていなかった。かわりに壁の両脇の上部に取り付けられたささやかな明かりが足元を照らしていた。
栄華のあとか。
私は絨毯の上を歩きながら、周囲の空間がボロボロと朽ちて崩れていくような錯覚を覚えていた。
古い映画で見るような、二階へと伸びる大きな階段の側を通り過ぎ、奥まったところにあった客室へ案内された。
部屋のなかでは京子のクラスメートが2人、所在なさげにソファに腰掛けていたが、私たちが現われたとたんに立ち上がり、頭を下げた。
私や志保に下げたのではない。この家の主に下げたのだ。緊張していることは痛いほど見て取れた。


350:🎏 館 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:52:17 ID:/vcnLMBLkI

取り巻きの連中のなかでもよりすぐられた2人なのだろうが、誕生日会に呼ばれたことが、彼女たちにとって本当に名誉なことだったのかは、知るよしもなかった。
京子は、「パパが海外にいて、今日は私1人しかいないから、十分なおもてなしができないかも知れないけれど、どうかゆっくりしていって」と言った。
普段は通いの家政婦がいるそうだが、今日は休みを取ってもらっているらしい。
「お料理は得意なの。今日は私が、腕によりをかけたものをご馳走するわ」
友だちを呼んだこんなときにこそ、家政婦に手伝ってもらえばいいのに、と一瞬思った。しかし、こいつは、自分の日常に触れられたくないのかも知れない、と思いなおした。
父親と遠く離れ、この大きな古い屋敷に家政婦とたった2人で暮している自分を、どこか恥じているような、そんな気がしたのだ。
「もう少し待っていてね。あと少しでできるから」
そう言って京子は部屋から出て行った。その仕草がいちいち優雅で、しゃくに障った。
「どうも」
などと、どこか気まずそうに会釈を交わしている、京子の友だちと志保たちから目をそらし、私はソファに足を組んで腰掛けて、ケッ、と口のなかで毒づいた。
料理が得意ねえ。
どうも信用ならなかった。
アンダと出会ったあの事件の夜、京子は私に言ったのだ。
『似顔絵を描きましょうか。私、絵は得意なのよ』
なにが絵は得意だ。結局描いてもらう前に事件がとんでもない結末を迎えてしまったので、うやむやになっていたが、あとで美術の時間に京子が描いた絵を見て、私はひっくり返りそうになった。
ギャグで言っていたのか。
そう思ったが、どうやら本人は上手に描けていると思っているらしかった。だから信用ならないのだ。
「あいつ、絵が下手なの知ってる?」
いじわるなことを言ってやりたくなって、友だち2人にそういいかけたときだ。
部屋の入り口にふいに京子が顔を覗かせた。驚いて立ち上がりそうになった。
「本を見て作ってるから、大丈夫よ」
そう言って、入り口にあった部屋の明かりを点けてから、また去っていった。もともと明かりは点いていたが、もう一段階明るいのがあったらしい。
最初はあえてそれを点けずに出て行ったような気がしてならない。自分が去ったあと、みんながどんな話をしているのか、確認するために。


351:🎏 館 ◆LaKVRye0d.:2017/3/18(土) 03:54:28 ID:uojtOBMxmY

友だち2人は、心なしか青ざめているようだった。
私がなにを言おうとしていたか、見透かされていた。まいったな。あいつは、やっぱり油断ならない。
よけいにしゃくに障り、私は不機嫌になった。
本を見て作っているだと!
その本がネクロノミコンだとか、ゾハルの書だとかいう名前でなければいいけど!
 
それから小一時間経って、ようやく京子が呼びにきたときには、私は腹が減ってかなりイライラしていた。
もはや誕生日を祝おうという本来の目的を忘れ、飯食わせろ、という原初的な欲求しか頭になかった
客間を出て、やたら広い食堂に通された。ドラマとかで見るような馬鹿でかいテーブルがあって、その片方の隅に固まって料理が並べられていた。
お誕生日おめでとう、と言ってそれぞれ持参したプレゼントを渡す。志保のは、高そうな箱に入った万年筆だった。
かつてのこの家の格式を知っているお祖母ちゃんが、奮発して買ってくれたのだろうか。
私はというと、近所の雑貨屋で買った、可愛い猫の模様の便箋と、それとお揃いの柄のノートだった。明らかに私のが1番安い。 
しかし、京子はなぜか私のプレゼントを受け取ったときに、1番嬉しそうにしていた。喜んでもらえて悪い気はしない。
そうして、いよいよ夕食会となったが、私の不安は杞憂だったようだ。すべて洋風だったが、どれもおいしかった。まるで高級レストランのコース料理のようだ。
本当にこいつが作ったのか?
鴨料理をほおばりながら疑いの目で見ていると、澄ました顔で微笑み返してくる。


634.40 KBytes

名前:
sage:


[1] 1- [2] [3]最10

[4]最25 [5]最50 [6]最75

[*]前20 [0]戻る [#]次20

うpろだ
スレ機能】【顔文字