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師匠シリーズ《続》
[8] -25 -50 

1: 1 ◆LaKVRye0d.:2017/1/24(火) 20:30:02 ID:1lmoPahM2s

ここでは、まとめの怖い系に掲載されている『師匠シリーズ』の続きの連載や、古い作品でも、抜けやpixivにしか掲載されていない等の理由でまとめられていない話を掲載して行きます

ウニさん・龍さん両氏の許可は得ています

★お願い★

(1)話の途中で感想等が挟まると非常に読み難くなるので、1話1話が終わる迄、書き込みはご遠慮下さい
(代わりに各話が終わる毎に【了】の表示をし、次の話を投下する迄、しばらく間を空けます)

(2)本文はageで書きますが、感想等の書き込みはsageでお願いします

それでは皆さん、ぞわぞわしつつ、深淵を覗いて深淵からも覗かれましょう!!





2: 風の谷の名無しか:2017/1/24(火) 20:32:57 ID:0vOrDYdCSs

田舎の中編(1注:このサイトのまとめでは後編)はあれで終わりではありませんでした。
後編どころか、中編の途中で力尽きて投げ出したのです。

せっかく書いていたので、その中編の投げ出したところまでを載せようと思います。

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俺はなにか予感のようなものに襲われて、自分の前に置かれた湯飲みを掴んだ。
冷たかった。
思わず手を離す。
出された時は確かに湯気が出ていた。間違いない。
あれからほんのわずかしか時間は経っていないというのに。一瞬のうちに熱を奪われたかのように、湯飲みの中のお茶は冷えきっていた。
まるで汲み上げたばかりの井戸水のように。


ここまでが、投下済みのもの。
----------------------------
ここからが、未投下分です。

(2行ほどあけて)

「あれは地震じゃないな。家が揺れたんだよ」
先生の家を半ば追い出されて、庭先にとめていた車に乗り込む。
「犬神という言葉に明らかに反応していた」
こいつは、なんとしても探し出さないとな。
師匠はエンジンをかけながらそう言う。
しかし京介さんのきっぱりした声が、それを遮った。
「待った。探し出してどうするつもりだ」
一連の出来事は普通じゃない。ありえないようなことが立て続けに起きている。へたに首を突っ込みすぎると、危険だ。
師匠は目の前に並べられるそんな言葉に薄ら笑いを浮かべて、「怖いんだ」と煽るようなことを言う。
京介さんは刺すような視線を向けると、「そうだよ」と言った。
コンコン。
車の窓をバイクにまたがったままユキオが叩き、ウインドをおろすと「さっきはすまざった。先生、今日は機嫌が悪かったみたいじゃき。でもこのあとどうする? ゆかりの史跡とかやったら案内するけんど」と首を突き出した。
少し考えてから、京介さんは「それと、他にいざなぎ流に詳しい人がいたら紹介してほしい」と言った。
「ああ、ヨシさんやったらたぶん家におるき、いってみようか」
俺は思わず師匠を見たが、思案気な顔をしたあと「一人で戻ってるよ」と言う。

3: 風の谷の名無しか:2017/1/24(火) 20:33:17 ID:0vOrDYdCSs
バイク貸してくれる?
とユキオに声をかけながら運転席から降りた。
なにも言わず、京介さんが入れ替わりに運転席に座る。助手席に乗り込みながら、ユキオが「あの家にとめといてくれたらいいスから」となぜか申し訳なさそうに言った。
「僕がいないほうが、話を聞けそうだしな」
じゃ、部屋で寝てるから。
師匠はそう言って手を振った。
その時、ズシンという軽い振動がお尻のあたりに響いた。
思わず周囲を見回す。
師匠が音のしたらしい山の上のあたりを睨むように見上げている。ユキオは今思い出したという表情でぼそりと言った。
「そういえば、先週から発破やってるなぁ」
それを聞いて京介さんが、ニヤっと笑いながら言う。
「たしかに地震じゃないな」
師匠は口を歪めて、なにも言わずにバイクにまたがった。

それから俺たちは太夫をしているヨシさんというおじいさんの家にお邪魔して、いざなぎ流のあれこれを聞いた。
ヨシさんは愛想のよい人で、ユキオの先生とはえらい違いだったが肝心な部分の説明ではするりと焦点をぼかすようにかわし、結局その好々爺然とした姿勢を崩さないままに、俺たちの知識になに一つ価値のあるものを加えてはくれないのだった。
「……それで、神職の太夫さんと吾が流の太夫を区別するときゃあ、ハカショ(博士)というがよ」
そこまで語ったところで家の電話が鳴り、ヨシさんは中座をするとしばらくしてから戻って来て、これから出掛ける旨を俺たちに伝えた。
「ありがとうございました」
とりあえずそう言って辞去したものの、不快というほどでもないがいずれ肌触りの悪い場の空気に、自分たちは余所者なのだということをまた思い知らされただけだった。
それを感じているユキオもまた、ますます申し訳なさそうな表情になり、そのあと案内してもらったいざなぎ流ゆかりの地所でもたいして得られるものはなかった。
なんだかどっと疲れが出て、俺たちはとりあえず家に帰ることにした。
くねくねと山道をのぼり、ようやくたどり着いて車から降りるとユキオは庭先にとまっていた自分のバイクにまたがり、「仕事、少し残っちゅうき」とやはり申し訳なさそうに去っていた。
家に入ると「おそうめん食べんかね」と叔母にすすめられ、「氷乗っけて」という俺の注文の通りキンキンに冷えたそうめんがすぐにちゃぶ台に並べられた。
師匠を呼ぼうとして部屋を覗いたが、扇風機の首を振らないようにした状態でまともに風を浴びながらそれでも寝苦しそうに掛け布団を抱きしめて眠っていた。


----------------------------
ここで筆をへし折っています。2007年の夏のことです。
師匠が布団を抱きしめて眠り続けて、はや四年・・・
まだしばらく寝続けることになるかも知れません。

【了】
4: 風の谷の名無しか:2017/1/25(水) 16:56:42 ID:M9xMoCsD1.
スレ立て乙。

ここまで書いたのが10年前かぁ。
早く完結して欲しいけど、書きたい時に書きたい話が書けるとは限らないもんね。

支部でも、ずっと待ってます!!とか沢山言われてるみたいだったけど。
5: 風の谷の名無しか:2017/1/25(水) 19:40:56 ID:KZyCpdPW/s
結構沢山新しい話出てますよね、楽しみにしています!
6: 1 ◆LaKVRye0d.:2017/1/25(水) 21:53:37 ID:BPamNT3ng2
>>4-5
有難うございます!
最初の投稿はオマケみたいなモンで、
感想もそう出ないでしょうから、明日か明後日には次の話を載せますね
順番は完全に書かれた順番とは限らず、多少狂う可能性もありますが御了承下さい
次に掲載予定の『絵』T〜Vも、Tだけかなり古くに書かれていますが、T〜V合わせてひとつのお話になっているので纏めて投稿し、
【了】の表示はTとUには付けず、Vの最後にのみ表示します
7: 『絵』《T》 ◆LaKVRye0d.:2017/1/26(木) 01:21:37 ID:/.Q2kT1tPE

『絵』《T》

大学の研究室のメンバーが行きつけにしているバーがあるのだが、そこで知り合った研究室のOBからちょっと不思議な話を聞いた。


大学時代半年ほど付き合った彼女がいた。
一コ上で美術コースにいた人だった。
バイト先が同じだったので、お互いなんとなく、という感じで付き合い始めたのだった。
彼女が描いている絵を何度か見せてもらったことがあるが、前衛的というのか、絵は詳しくないのでよくわからないけれど、どれも「身体の一部が大きい人間の絵」だった。
グループ展用の完成作品も、スケッチブックのラフ画も、ほとんどすべてがそうだった。もちろんちゃんとした絵も描けるのだが、そのころ彼女はそういう絵ばかりを好んで描いていたようだった。
たとえば半裸の白人が正面を向いている絵があるが、左目だけが顔の半分くらいの大きさで、輪郭の外にまではみ出ていた。
他にも右足の先だけが巨大化した絵だとか、左手、鼻、口、右耳…… どれも身体の中でその部分だけが巨大化していた。
写実的ではない、抽象画のような作風だったが、なんとも言えない気持ち悪さがあり、吐き気を覚えて口元を押さえてしまったことがある。
そんな時彼女は困ったような顔をしていた。


8: 『絵』《T》 ◆LaKVRye0d.:2017/1/26(木) 01:24:44 ID:jsJ4QOAmCk

彼女と付き合い始めてふとあることに気がついた。
子供のころからずっと何度も何度も繰り返し見ていた夢を見なくなっていたのだ。
その夢は、悪夢と言うべきなのか、よくあるお化けに追いかけられたりするような脅迫的なものではなく、静かな、静かな夢だった。
眠りにつくと、それは唐突にやって来る。
袋が見えるのだ。
巾着袋のような艶かしい模様をした大きな袋。子どもくらいなら隠れられそうな。
それまで見ていたのがどんな夢だったのかは関係が無い。とにかく気がつくと場面は昔、小学生のころに住んでいたアパートの一室になり、夕日が窓から射し込む中で袋がぽつんと畳の上に置かれている。
ただそれだけの夢だ。
この夢が自分にはとてもとても恐ろしかった。
夢なんてものは奔放に目まぐるしく変わるものなのに、この部屋に入り込むとそれが凍りついたように止る。
何故か部屋には出入りする扉はどこにもなく、ただ僕は畳の上の袋と向かい合う。目を逸らしたいのに、魅入られたように動けない。
やがてわずかに開いている袋の口に出来た影を、負の期待感とでも言うものでじっと見つめてしまうのだ。
ああ、はやく。はやく夢から覚めないと。
その部屋はいつも夕日が照っている。
それが翳り始めると、袋の口が開いていくような気がして……
そんな夢だ。
目が覚めて、深く息をつき、そしてもうあの部屋には行きたくないと思う。しかしどんなに楽しい夢を見ていても、ドアを開けるとあの部屋に繋がってしまうことがある。
そして降り返るとドアはないのだ。
その夢が、大学に入るまで、そして頻度は減っていったが、入ってからも続いた。
自分でも夢の意味についてよく考えることがあるが、あの袋に見覚えはない。
畳敷きのあの部屋も、今はアパートごと取り壊されているはずだ。 脈絡がなく、意味がわからない。
だからこそ怖く、両親にも友人にも、誰にもこのことを話したことはなかった。
それが彼女と付き合い始めてから何故か一度も見なくなった。
ホッとする反面、長く続いたしゃっくりが急に止った時のような気持ち悪さもあった。

9: 『絵』《T》 ◆LaKVRye0d.:2017/1/26(木) 01:28:37 ID:jsJ4QOAmCk

彼女にこのことを話してみようかと思っていたころ、彼女に「夜、美術棟に忍び込んでみない?」と誘われた。
美術棟は夜は戸締りされ、入れなくなるのだが学生たちは独自に侵入路を持っていて、仲間で忍び込んではこっそり夜の会合を開いたりしているらしい。
面白そうなのでさっそくついて行った。
深夜、明かり一つない美術棟の前に立つと彼女は、スルスルと慣れた様子で足場を辿って壁をよじ登り、窓のひとつに消えて行った。
やがてガチャリと音がして裏口が開いた。
美術棟自体初めて入ったのだが、中は想像以上に色々なものが煩雑に転がっていて、思わず「きったねえなあ」と言ってしまった。それには彼女も同意したように頷いた。
持参した懐中電灯で足元を照らしながら、描きかけの絵やら木工品といった学生たちの創作物の中をかき分ける様に廊下を進み、三階の一つの部屋に入った。
「ここ、私の作品を置かせてもらってる物置」
たしかにその部屋の一角には、見覚えのある作風の絵が所狭しと並んでいる。
夜、こんな風にわずかな明かりの中で改めて見ると、言い様のない不気味な雰囲気だった。
「前から気になってたんだけど、どうしてこういう一部だけがデカイ人を描くの?」
今までなんとなく訊けなかったことを勢いで訊いてしまった。

10: 『絵』《T》 ◆LaKVRye0d.:2017/1/26(木) 01:34:58 ID:/.Q2kT1tPE
彼女は右目だけが異様に大きい人物画を懐中電灯で照らしながら答えた。
「私ね。子どものころ、家族で南の島に行ったの。ポリネシアのほう。そこでこんな民話を聞いたの。むかし人間が今よりもっと大きくて尊大だった時、その行ないに怒った精霊が呪いをかけて人間たちの体を小さくしてしまった。人間たちは嘆き悲しみ、この世のすべてを司る偉大な精霊に心から謝ったわ。精霊は情けをかけて、人間の身体の一部だけは元のまま残してくれた。大きい手。大きい鼻。大きい目。大きい耳。大きい足…… でも人間たちは大きい目や手、鼻や耳をやがてうとましく思うようになった。そして精霊にお願いしたのよ。どうか残りの身体も小さくして下さいって」
思わずまじまじと絵を見つめた。
「つまりね、これは小さくなってしまった巨人なのよ。彼はこの大きな右目だけで真実の世界を見ている。でもそれは今の世界を生きるにはむしろ邪魔だったのね。人間はそうして愚かで矮小な生き物になることを自ら選んだと、そういうお話だった。すごく面白いモチーフだと思ったから……」
そういう彼女の顔にはかすかな翳りがあった。
「私ね。信じられないかもしれないけど、本当に見たのよ。その島の至るところで、この絵みたいな人。見えていたのは私だけだった。それから日本に帰ってからも見た。周りにいるの。見えなくなっちゃえって思った。でもそうはならなかった。ゲゲゲの鬼太郎だったかな。漫画に出てくるの。目に見えないお化けを退治する方法。とり憑かれた人に質問をしながら、石に描いた点線を結ぶとお化けの正体が現れてその石に閉じ込めることができるっていうお話。小学生の時、それを読んで、描いたの。こんな絵を」
彼女はゆっくりと絵の表面をなぞるように指を動かす。
僕はその動きをじっと見ていた。
「そしたら見えなくなったのよ。身体の一部が大きい人。でもそれから不思議なものをたくさん見るようになったわ。え? 言っても信じないよ。とにかく私はそんなもの見たくなかった。ね、あの民話みたいでしょう。普通の生活がしたいから、真実かもしれないものを捨てるの。そうして見たものをもう絵には描かなくなった。ただ見ないふりをするだけ。まだこんな絵を描きつづけているのは単純に、本当に面白いモチーフだと思ったから」
バカバカしい話だと思う?
彼女はいつもの困ったような顔をしていた。
信じられない話だ。荒唐無稽とも言える。
しかし僕は息を飲んで、震える膝を必死で押さえつけていた。
彼女の話の途中から、見てしまっていたのだ。その背中の後ろに並ぶ棚の、一番奥まったところにある絵を。
それは夢に出てくるあの袋の絵だった。



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