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【適当】小説書きスレ其の弐【万歳】
[8] -25 -50 

1: 名無しさん@読者の声:2014/6/12(木) 23:18:52 ID:YDoKF2wKiU
ここは主に小説を書くスレです!
自由に書いてよろし!

・他人に迷惑を書けるのは駄目です!
・喧嘩は喧嘩スレへGO
・必要なら次スレは>>980さんがお願いします。無理なら早急に代理を!

不備がありましたらすみません。楽しく書けることを祈ります。


56: 名無しさん@読者の声:2014/7/18(金) 18:34:31 ID:TGPqRdF0rc
こうかんにっき

部屋を整理していた時に一冊のノートを見つけた。表紙に『交換日記』と書かれていた。ページをいくつか捲る。僕が書いたページと、滅茶苦茶な文字のページを見つけた。
「若かったなぁ」
笑いながら当時を思い出す。昔、僕は好きな人が出来たら交換日記から始めたいと思っていた。それから好きな人が出来て、交換日記から始めるという願いも叶った。
願いは叶った…んだけど
「櫻井さん!書いてから渡してよ!」
「書いてますよ」
「紙がヨレヨレなだけだよコレ!返事楽しみにしてたのに」
「これ炙り出しです」
好きになった相手が悪かった。確かに炙り出しだった。でかでかと『宜しく』の文字。次はイカ墨で書いてきた。達筆過ぎて読めなかった。次は全体を鉛筆で塗りつぶして文字を読んだ。毎回毎回、読むのが大変だったけど楽しかった。彼女の事が更に好きになった。
今でも好きなことに変わりはないと言えば嘘になる。
「うげ。またそんな物出して…さっさと捨てて下さい」
好きは好きでも、以前よりも今の方が好きだ。僕は妻に笑顔で言ってやった。
「捨てないよ。これからも『宜しく』」
妻は苦笑いして
『宜しく』と言った。
57: とまとじゅーす ◆0gP2sG3Be6:2014/7/24(木) 09:33:35 ID:k5bC4zJ8jM
『君の名は』
 
チャイムが鳴る。
不毛な恋が、始まる。

がらがらと教室の扉が開いて、あたしのクラスを担任する、まだ若い化学教師が入ってくる。
シバさんとかシバくんなんて気軽に呼ばれる彼は、生徒からの人気が高い。

「今日はみんなのお待ちかね、テストを返しまーす」
えーっ。昨日テスト終わったばっかじゃん。待ってないし。早いよシバくん。
みんなが口々に言う。

「男に早いとかゆーな。いつもどおり赤点の人は放課後補習するから覚悟するよーに。」

返されたあたしのテストは、案の定、赤点だった。
あたしはちらりと彼を見る。
不毛な恋。だからせめて、一緒にいられる時間を。
58: とまとじゅーす ◆0gP2sG3Be6:2014/7/24(木) 09:34:23 ID:k5bC4zJ8jM
テスト用紙を持ってあたしの隣に戻ってきた藤井に、尋ねる。
「ね、藤井、また赤でしょ」
「・・・自分だって赤のくせに」
せーのでお互いテストを見せる。あたし、38点。藤井、39点。ギリギリアウトの赤点。

「よっしゃ、俺の勝ち。」
小さくガッツポーズをする藤井に、あたしはわざとらしくため息をついてみせる。
「毎回毎回、ご苦労だよね。ホントはちゃんと点取れるくせに」
「おまえだってほんとは、」
「ハイ静かにー。解説するからちゃんと聞いてー」
苦笑いを見せていた藤井が、シバさんの声で、ぱっとまじめな顔して前を向く。

あたしは知ってる。
藤井はほんとは理系の人間で、解説なんか聞かなくてもすごくよくできる。
それなのにまっすぐシバさんを見つめていた。

シバさんはまだ若くて、ほかのじいさん教師と違って融通が利くし、楽しいし、生徒からの人気は高い。憧れ以上の気持ちを抱く子もいると聞く。

そしてそれは、ここにもひとり。
不毛な恋をする藤井の真剣な横顔を、あたしは授業が終わるまで、こっそり見つめていた。
59: とまとじゅーす ◆0gP2sG3Be6:2014/7/24(木) 09:35:47 ID:k5bC4zJ8jM
視聴覚室での補習の時間にも、藤井はずっとシバさんを見つめていた。
補習が終わり、教室を出ようとするシバさんを、何人かの女子がきゃぴきゃぴと追いかける。

「ねーねー先生、今度個人授業してよー」
「何のだよ」
「なんのって化学に決まってんじゃん、シバくん意外にムッツリ?」

きゃははは。
笑い声が痛い。

藤井はふらりと窓辺に歩いていって、乗り出すようにして夕焼けを眺めていた。
帰り支度を済ませると、あたしも歩いてって藤井の隣に立つ。

「・・・俺、女の子だったらよかったな」
ぽつりと言う。
「あたしの制服貸そうか」
「きもちわるいことを言うな。そーじゃなくて、女子ならさ、さっきの子達みたく、冗談でも先生に迫れる」
それこそ冗談でも言ってるような顔で、だけど夕焼けに照らされた藤井の横顔は悲しそうにも見えた。

「迫ればいいじゃない」
「ばかだろお前、先生と生徒ってだけでもアウトなのに、俺、男よ?アウトオブ眼中もいいとこよ?」
アウトオブ眼中。それはあたしだって同じ。

「あーあ、俺、お前だったら良かったのにな。何か昔の映画みたく、俺とお前入れ替わったらいいのに」
「・・・勝手なこと言わないでよ」
あんたがあたしだったら、追いかけるのは先生じゃない。

どうして気づかないんだろう。あたしは女なのに、こんなにも気づいてもらえない。
60: とまとじゅーす ◆0gP2sG3Be6:2014/7/24(木) 09:45:39 ID:k5bC4zJ8jM
その日午後一番の化学の時間、いつもは予鈴より早く席に座っている藤井の姿が見えなかった。
チャイムが鳴って、シバさんが教室に現れても、藤井は戻ってこない。

シバさんが出席を取り始める。
「あれ、そこの席、休み?誰だっけ?坂井の隣」
「ふじーくんでーす」
お気楽な男子の声が飛ぶ。
ああ、そう、とシバさんは気のない返事をして、名簿の藤井の所にバツをつける。

『誰だっけ』?
あんなにいつも、藤井はシバさんの事を見てたのに?
きっとこのクラスの誰より、あんたの授業に熱心だったのに?
ほんとはできるのに、毎回赤点とって補習に出てまで、あんたを見てたのに。

藤井が、シバさんの中に何の印象も残していないらしいことが、悔しかった。
悔しくて、涙がこぼれそうになって、吐き気がして、あたしは思わず頭を抱えて突っ伏した。

「あれ、どうした?」
シバさんが近づいてくるのが足音でわかった。
「坂井?どうした?具合悪い?」
あたしの名前は、名簿なんか見なくてもわかるのに。
そんなことより、藤井の事を見てあげて。

肩にシバさんの手が触れた。
ガターン!
あたしはその手を払いのけて、立ち上がっていた。

あたしになんか触らないで。それを望んでいるのは、あたしじゃない。

「・・・気分、悪いんで」
それだけ言うと、あたしは教室を飛び出した。
61: とまとじゅーす ◆0gP2sG3Be6:2014/7/24(木) 09:50:14 ID:wOb5fsEmtU
藤井は視聴覚室にいた。
いつかのように窓際の机に腰掛けていたけれど、今日は外ではなくて足元を見つめていた。

扉が開いたのに気づいて、びくりと振り返って、笑った。
「なんだ、おまえかよ。びっくりさせんな。つーか授業は?」
「・・・こっちが聞きたいわよ。シバさんの授業、あんたがサボるなんて」
「うん・・・ちょっと」

そう言ったきり、藤井はどこか遠くを見つめて黙ってしまった。


長い沈黙の後、藤井が口を開いた。
「・・・シバさんさ」
「うん」
「7組の、桜木さんと、一緒にいたんだ」
「え?」
桜木。確かその子は、サッカー部のアイドルマネージャーだ。
「それが、何・・・?シバさんて確か、サッカー部の顧問でしょう?」
別に何も、不思議なところはない気がするけれど。

「進路相談室から、出てきたんだ。鍵、かけてて」

がちゃり、と鍵の開く音がして、普段人気のないその廊下を、藤井はふと覗き込んだ。
シバさんが、女生徒の肩を抱くようにして出てきたらしい。
それは、部活の顧問とマネージャーという関係以上に見えた。そもそもシバさんは進路相談なんて受けない。
驚いて動けずにいると、シバさんが藤井に気づいて苦笑した。

『あー・・・見ちゃったか。何組の、誰だ?俺の持ってるクラスの人だっけ?』
かすれた声で藤井は答える。
『2年・・・3組の、藤井です』
『ほんとに?俺のクラスだ。じゃあさ、口止め料として、今度の成績ちょっと上乗せしてやるから、黙っといて』

言い訳ぐらいすればいいのに、残酷にも『口止めしなきゃいけない現場』だったことを認めて、シバさんは笑ったという。
62: とまとじゅーす ◆0gP2sG3Be6:2014/7/24(木) 09:53:25 ID:k5bC4zJ8jM
「正直助かるよ、俺、赤点ばっかだったから。でもさすがに、授業で顔見るの気まずいっつーか、・・・見れなくて。サボっちゃった」
そう言って、あたしの目の前で、藤井は弱々しく笑って見せた。
だけどあたしは矛盾に気づく。

「そんなの、テキトーなこと言ってるだけだよ」
声が震えた。
「さっき、出席のとき、シバさん、あんたがいないの気づかなかったもん。動揺してもいなかったし、ぜんぜん、あんたのことなんか、名前も覚えてなくて、」
悔しくて、ぐちゃぐちゃになって、涙が出た。見られたくなくて、俯く。
「あんたのこと傷つけたのも、あんたがいないのもわかんなくて、成績だってぜんぜん、ほんとはそんな気なくて、」
視界の端っこで、藤井がおろおろしているのがわかる。

ああ、もう、どうしてこのひとはこんな不毛な恋をして。
名前も覚えてもらってなかった藤井みたいに、藤井の中にあたしはいなくて。
悔しくて、視界のぼやけた目で藤井を睨みつけて、言う。

「もうっ、何ボケッとしてんの?男なら泣いてる女の子慰めるぐらいの甲斐性もちなさいよ!」
「え、ええぇぇ?この状況は、俺が慰めるの?俺のこと慰めてくれるんじゃなくて?」
半分あきれて、半分うろたえて、だけど藤井はあたしのそばまで来て、小さな迷子にするみたいに、きゅっと手を握って、頭を撫でてくれた。

涙が、こぼれる。
きっと今泣きたいのは、あたしじゃなくてこの人なのに、だけど止まらない。

「よーしよしよし。なんでお前がそんな泣いてんのかわかんないけど」
あたしはもう自分でもわけがわからなくなりながら、思い切りしゃくりあげた。
「なんでこんな、不毛な恋を、するの?」
ははっ、と藤井が小さく笑う。
「うん・・・なんでだろうねぇ・・・俺も、わかんないや」
最後は藤井の声も震えていた。

どさくさにまぎれて藤井の肩で泣きながら、あたしはいつかの藤井の言葉を思い出した。

そうだね、あたしが男で、あんたが女だったら良かったね。

そしたらきっとあんたは素直に泣くことができたのに。
そしたらあたしが抱きしめて、慰めてあげるのに。

そしたら力ずくでも、泣いてるあんたを自分のものにしたかもしれないのに。

でもあたしは女で、あんたは男で、この恋は絶対にかなわなくて、だから。

だからせめて、あんたの肩で、あんたのかわりに泣いてあげる。


『君の名は』 終
63: 名無しさん@読者の声:2014/7/27(日) 00:19:29 ID:J7nAEDSW5M
勇者「パーティーを幼女で固めた結果wwwww」

勇者「城の地下牢に幽閉されたンゴ……」

看守「静かにしてろロリコン野郎」

勇者「異議あり!人類皆ロリコンです!幼女は正義なんです!」

看守「完全に犯罪者の言い分です」

勇者「グギギ」

看守「観念して煩悩を消し去ることに専念するんだな」

勇者「おかしい……私は勇者であるぞ……世界の平和と全ての幼女の笑顔を守るべく魔王を討ち倒す存在……これじゃバコタじゃないか……」ブツブツ

看守(狂ってやがる)

 幼女A が あらわれた!▼

看守「ん?おやおやお嬢ちゃん、ここは勝手に入っちゃだめな場所なんだよ。危ないから早く親御さんのところに戻ろうね」

幼女A「…………ふぇっ」

 幼女A は なかまをよんだ!▼

 幼女B が あらわれた!
 幼女C が あらわれた!▼

64: 名無しさん@読者の声:2014/7/27(日) 00:20:29 ID:J7nAEDSW5M
幼女B「どうしたの?みつかった?」

幼女C「む。なんだか強そうなおじさん」

看守「おじっ……、君たち、彼女のお友だちかな?さあさあ、みんなで上にお戻り」

幼女A「……あっ!おねーちゃんっ!」

勇者「おおっ!僧侶たん!」

看守「はっ?お、おね……?」

勇者「(ゝω・)vキャピ」

看守「( ゚д゚)マジッスカ」

幼女B「こちら、王さまからの詫び状です。この方は一応ながら勇者であり、わたしたちは自身の意思で同行してることがおわかりいただけましたか」

勇者「魔法使いちゃん相変わらず一言多い!」

看守「た、確かに……」

幼女C「はやくいこーぜ!」

勇者「一日ぶりの戦士たそhshs〜」

戦士「あっ、こら!くすぐったい!」

僧侶「おねーちゃんっ、わたしも!」

勇者「うはっ、ハーレムじゃあ〜」

魔法使い「それでは失礼します」

看守「………」

看守「もう世界がどうなるかわからんな」

 この後に勇者達は魔王を見事倒し、世界に平和を取り戻した。
 なお、ほとんどの戦闘を勇者一人でこなしたことは後世まで語り継がれ【露利魂伝説】として名を残している――
65: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/7/27(日) 02:09:34 ID:jkSkBAMZfs
ここに一本の腕がある。

ほとんど日焼けしていない白い右腕が、絵画さながらのシュールさで転がっている。
鈍い刃物で無理矢理斬ったような切口は皮や肉がぐちゃぐちゃに潰れていて、そこから溢れた赤黒い血がねっとりと溜まりを作っていた。
脂肪がついた指は太く、形の悪い爪は丸く、毛深いことから男の腕であることが窺える。
それも、青年ではなく中年の男の腕だ。
メタボリックシンドロームの傾向が見られるような、汗臭そうな醜い腕が、一本。
僕は、それが何か知っていた。

僕の家庭は、貧乏だった。
生活はとても苦しく、いつも築何十年の古い屋根の下でおかずのない拙い食事をしていた。
いつも我が家の家計はギリギリ間に合うか間に合わないかの瀬戸際で、きっと足りなかった月もあったのだと思う。
時折母さんが地べたに頭を擦り付けるようにして、親戚のおばさんにお金を貸して欲しいと頼み込んでいたのを僕は知っている。
そんな母さんに対しておばさんはいつも冷ややかで、軽蔑を込めた視線で母さんを見下ろしていた。
迷惑だ、そう言っていた。
そんな日には、夜中遅くに電気のつけられていない居間から、母さんの泣き叫ぶような声が響いたのをよく覚えている。
うるさくて眠れなくても、僕には気付かないふりしかできなかった。
66: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/7/27(日) 02:11:20 ID:jkSkBAMZfs
学校では、よく余った給食のパンをもらって帰っていたが、そのことでよくいじめられた。

おまえんち、びんぼうなんだろう?
食べもんないんだろう?

そう言って馬鹿にされて蹴られて、持って帰ろうとしたパンをその場で踏み潰されたりした。
みんなにとってはあり余っている食べ物で、でも僕にとっては貴重な食べ物を、目の前で取り上げられて上靴で踏みにじられた。
靴裏の模様が綺麗に刻まれたパンは、ぺっしゃんこで流石にこれは食べられないなと思って捨てた。
そして自分のぼろぼろの穴の空いた上靴を見つめてから、僕のパンを潰した綺麗なロゴの入った上靴を、羨ましいなと思った。

僕にはおばあちゃんとおじいちゃんはいない。
友達も、ひとりもいない。
母さんも今はいない。
つい先週、母さんはとうとうこの刻苦に耐えかねたらしく、僕を捨てて家を出て行ってしまったのだ。
僕を連れて行くほどの精神的余裕も金銭的余裕も、もう母さんにはなかったのだろう。
僕にあるのは、父さんだけになった。
67: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/7/27(日) 02:11:40 ID:jkSkBAMZfs
父さんは、たまにしか家に帰って来なかった。
帰ってくると、お願いだから働いてよ、そう懇願する母さんを、酔った真っ赤な顔でうるせえと一蹴して、母さんがパートで稼いだなけなしの生活費を掴んでまた家を出て行った。
母さんはそんな日も泣いていた。

父さんは働かずにギャンブルに興じているのだと、母さんから一度だけ聞いたことがあった。
母さんが死にそうな思いをして働いているのに、父さんはそのお金を奪って毎日遊んでいるのだという。
父さんを憎いと思った。
父さんの右腕が嫌いだった。
悲鳴をあげる母さんを殴る、その右腕が嫌いだった。
母さんの頑張って稼いだお金を奪っていく、その右腕が嫌いだった。
いつもギャンブルにいそしんでいる、その右腕が嫌いだった。
嫌い、だった。
大嫌いだったんだ。



ここに一本の腕がある。

ほとんど日焼けしていない白い右腕が、絵画さながらのシュールさで転がっている。
これは、父さんの右腕だ。
僕の嫌いだった、大嫌いだった、父さんの右腕だ。
68: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/7/27(日) 02:12:47 ID:1FQQHmq18Q
僕のずっと握り締めていた五本の指が力尽きたように延びて、開いた掌から柄がするりと滑り落ちた。
床に落ちて盛大な音を立てたそれは、切味の良くないノコギリ。
父さんの汚い血に汚れた、錆さえついたノコギリだった。
僕はこの柄で酔って帰ってきた思いきり父さんの頭を殴りつけ、昏倒したところで今度は脇腹にその刃を滑らせた。
案外と、簡単に殺せた。
死んだ後で、その右腕を切り落とした。

ねえ、母さん。
父さんは、もういないよ。
もう、全部僕が壊したから、母さんを殴るものも泣かせるものも何もないから。
ねえ、母さん、帰ってきてよ、母さん。
僕はこれからどうしたらいいの。
母さん。
母さん。

…母さん。

ここに一本の腕があるよ。



end
69: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/8/6(水) 15:06:05 ID:KGivw7UGio
1/2

荒れ果てていた。
ここには何もない。
あるのは死体と、兵器の残骸と、燃え落ちた灰だけだ。
戦争の爪痕。
虚無と絶望を体現したかのような有り様が、地平線の果てまで広がっていた。
動くものなど何もない、停止した景色。
そのなかで、ぼくとアサヒはぽつんと取り残されていた。

「…変な匂いがする」

「ゴミだよ。ただの、ゴミの匂い」

アサヒの言葉に、ぼくが答える。
空を仰いだ。
夜の冷たさのなかで、うすぼんやりとした月が浮かんでいた。
星は見えなくて、光源はそれだけ。
今にも闇に溶けて消えてしまいそうな明かり。
これが消えるころに世界は終わりを迎えるのだろうなと、そう思った。

「そう、ゴミ。どうせここにはゴミしかない」

死体という名のゴミ、兵器という名のゴミ。
アサヒが呟く。
確かにそうだ。
ここにはゴミしかない。
どうせもうすぐぼくらもゴミになる。
世界が終わる。
そうなるのを、もうずうっと待っている。

「ねえ、昔、戦争が始まる前、よく“明日世界が終わるとしたらどうする?”って質問したの、覚えてる?」

「うん、覚えてる」

「もう、あの質問も出来ないね。少し、寂しい」

ぼくが言う。
アサヒが振り向いた。

「寂しい?」

「うん。少しだけ」

そう、少しだけ。
延々と続くゴミの景色のなかで、お互い以外に何も抱きしめるもののない空っぽの腕で、ぼくらにとって最早寂しいとか懐かしいとかいう感情は無意味だ。
ただ残響のように消えていく、それだけのものだ。
アサヒは、ふうん、と小さく相づちを打った。
70: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/8/6(水) 15:07:57 ID:HZbg6VSMA.
2/2

「そう。…それなら、寂しいなら、ぼくがユウに聞いてあげる。
“明日世界が終わるとしたらどうする?”」

冷めた声音。
アサヒは、別にぼくの答えには興味がなさそうだった。
それも、分かる。
だってぼくらには選べる答えがひとつしかない。
分かる。
だってぼくらには選べる答えがひとつしかない。
…昔は、いろいろなことを言えた。
世界が終わる前にやりたいことはたくさんあった。
でも、今、ほんとうに世界が終わろうとしている今、ぼくらに出来るのはゴミに埋もれた地平線を見つめながら虚しく言葉を交わすことだけだ。

「…ぼくは、こうしてアサヒと話をしてるだけでいい。それでいい」

「…うん」

「アサヒは?」

「…ぼくも、ユウと同じ。それでいい」

アサヒが言った。
小さく唇を噛みながら。
ほんとうは、それでぜんぜんよくないことをぼくもアサヒも分かっていた。
でも、口に出せば哀しくなるから。
ぼくらは昔を思い出しながら、何も言わない。
君が隣にいるだけでいい。
こうして話をするだけでいい。
ぜんぜん良くないけど、それでいい。
それすらも叶わなくなって、やがて世界に終わりがくるのを知っているから。
だから、ぼくらは何も言わない。

「…アサヒ」

「なに、ユウ」

「…ううん、なんでもない」

「そう。…そっか」
71: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/8/6(水) 15:08:24 ID:HZbg6VSMA.
3/2(収まりませんでした)

ぼくらは待っている。
世界が終わるのを待っている。
もう、どれだけの間こうしているだろう。
ぼくらと、死体と、兵器の残骸と、燃え落ちた灰を、そのぜんぶを、月が泣きそうな顔をして見下ろしていた。
あそこからじゃあ、ぼくらとゴミの区別もつかないだろう。
別にそのことを哀しいとも思わない。
泣きたいとも思わない。
ぼくは全てを受け入れる準備ができている。

荒れ果てた地平線の果ては、白んでいた。
朝がくるのではない。
終わりがくるのだ。
やがて月が呑み込まれて何もかも一緒くたになる。
みんなゴミになる。
そうして終わる世界のなかで、アサヒとぼくが静かに眠りにつけたらいい。
それだけを、祈っている。



―――World Ending
72: 久しぶりの暇つぶし:2014/8/23(土) 22:45:08 ID:hw3MFdA1G6

 リンゼには学がない。しかし彼は自分が凡庸だと言うことを自覚している。その分だけまわりのちょっとバカげた人間よりも、賢いのだと自負している。そう言うところが彼の愚かさだった。

 夕刻である。住宅街に五時の鐘が夕焼け小焼けを鳴り響かせ、小学生たちが疎らに家に向かって駆けだしていた。コンビニの袋を下げた青年を、通り過ぎる彼らは異様な人間だと認識していく。

 事実、この季節にも拘わらず、長そでの灰色のパーカーを着てブルーのジーンズで足首まですっぽりと覆った男は、その風景から浮いていた。加えてパーカーのフードを被り、ちらりとのぞく髪の毛がびっくりするほど派手な色であれば、子どもは彼を妖怪か何かだと思うに違いない。妖怪でなくても、まともではないと正しく認知するのだろう。

 その感覚は全く自分に似合いの物である。これまたリンゼはよく分かっていた。誰もが相応の生き方をしている。だからコンビニでたむろするごろつきの上位互換に当たるような彼が、何でも屋と称して犯罪紛いのことに手を染めているのも不思議な話ではなかった。むしろごろつきの方がまだ迷惑の掛け方がかわいらしく、そのことを考えると彼らよりリンゼの方の性質は悪かった。

 今日は子供を誘拐してきた。コンビニの袋の中で、ご機嫌取りのための菓子とジュース、それからペアを組まされている雪中花の好きなチョコレートが揺れていた。子どもを誘拐させるなんてどうにかしている。リンゼたちに依頼してきた人間のことを、彼はそう評価するがそれを実行するリンゼたちもどうかしている。

 類は友を呼ぶと言うのは全く正しい言葉だ。ろくでなしにはろくでなしが愚かな作戦を囁いてくる。その法則でいくと、リンゼは一生ろくでなしとしか付き合えない。

 雪中花と子どもが待つアパートの階段を上った。古いアパートの外階段はガタガタと揺れて忙しない。二階の廊下についてスッと正面を見据えたとき、リンゼは奇妙な感覚に襲われた。黙りこくった家々の扉を見つめて、何とも言えない違和感に唇を舐める。

 何が違う。具体的な理由は見つけられない。ただ漠然とした違和感が、彼の中で緊張を高めた。息を吐き、やや慎重に足を運んだ。ポケットから携帯電話を取りだして、雪中花に電話をかける。無事かどうか、変わりはないかどうか、それが訊きたかった。

 彼らが向かう先は203号室。5つあるうちの部屋の中で、ちょうど真ん中に位置する。雪中花が電話に出ぬまま、201号室を通りすぎ、202号室の扉の前にさしかかった。もう一度かけなおそう。不安がさらに膨らんだのを感じて、リンゼは携帯電話を下した。

 と、その時である。

 202号室の扉が突然開く。物音に振り返ったリンゼが覚悟する隙も与えず、飛び出してきた男の拳がリンゼの腹を突いた。グッと身をかがめたリンゼの顔を、間髪入れずに殴りつけられる。避けようにもそんな暇をくれない速さだ。男はそして最後にリンゼのボディに回し蹴りを叩き込んだ。

73: ひまつぶし2 前もやった気がする:2014/8/23(土) 22:46:41 ID:hw3MFdA1G6

 アパートの床に倒れたリンゼを見下ろす男は存外小柄で、美しい顔立ちをしていた。精巧な作りの人形を見ているようだった。彼はリンゼを掴んで起き上がらせると、203号室の中に放り込む。中で待っていた仲間の一人が、リンゼを受け取ると、手慣れた様子で彼を拘束した。リンゼの落としたコンビニの袋を拾い上げて、戻ってきた男が扉を閉める。

 203号室は見慣れぬほどに静まり返っていた。痛みに呻き、リンゼは顔をあげる。リンゼが触れたこともないきっちりとしたスーツを着込んだ二人の男は、何かを小声で話しこんでいた。リンゼを殴った男の方が、コンビニの袋から菓子を取出し、嬉しそうに食べ始める。もう一人の、やけに体格のいい男が呆れた様子でそれを咎めた。

 雌猫だ。彼らの格好とこなれた戦闘から、リンゼは同業者の名前を思い出した。そして静かな部屋にハッと気が付く。雪中花の姿が見えない。

「もう一人いたはずだ。あの女をどうした?」

尋ねたリンゼに体格のいい男の方が振り返った。リンゼを見つめる瞳が灰色で、それが氷のように冷え冷えとしている。ぞっとした彼に、男は風呂場の方を顎でしゃくった。拘束し、あちらに閉じ込めていると彼は言う。

「うるさかったからな」

さもありなんと、こんな時であると言うのにリンゼは納得してしまった。確かに男の言う通り、あの女は少々うるさいところがある。彼の後ろでチョコレートをもぐもぐとやっていた男が、その綺麗な形の目を微笑ませ、生きていると言った。

「僕らは同業者殺しなんて趣味じゃない」

少年のように笑う男を見て、リンゼは口をつぐんだ。二つの推測が確定し、一つ不可解な事が浮かんだのだ。確定したことは、彼らがリンゼたちと同業者であり、予想通り雌猫であること。そして彼らもまたリンゼたちが何者であるかを把握していると言うことだった。

 不可解なことは感覚的な物である。この男の少年のような笑顔や振る舞いは、およそ彼の戦闘能力や職業に“相応しくない”。

 実際、男は楽しそうに雪中花お気に入りのチョコレートを食べていた。これ、美味しいよ、ともう一人の男に伝えて、彼を呆れさせている。相容れない何かを感じ取ったリンゼだったが、そんなことを考えている暇はない。頭を振って、余計なことを追い払い、改めて彼らを見直した。

「アンタたち、雌猫だろ」

リンゼの問いを受け、彼らはちらりと視線を交わした。結果、灰色の瞳の男が口を開く。

「あぁ、同業者内ではそう言われている。自分らで名乗りはしないがな。アンタたちはお嬢さんたちで間違いないか」

リンゼは無言で頷く。フロイライン、令嬢を意味するドイツ語の社名は、同業者内ではしばしばそう呼ばれることがあった。しかしお嬢さんと言うのはまだいい呼び方だ。一般的にリンゼたちは、組織自体がまだ若く弱小であるゆえに、小娘と呼ばれることが多い。

 一方で、彼ら雌猫の格は段違いだ。業界トップシェアを誇り、全国各地主要都市に隅々まで支社がある。スマートで俊敏、そして上品であること。それが彼らの信念なのかそれとも規範なのか、雌猫の実行犯たちは皆イタリア製の高いスーツを着こなしていた。

 しかし、その彼らが一体何の用で格下のリンゼたちの元を襲撃したのだろう。


74: 暇つぶし3 読んでくれた方がいたらありがとう:2014/8/23(土) 22:47:38 ID:hw3MFdA1G6
 美しい青年が、チョコレートを平らげ、口の端を親指で拭く。そのついでに、彼は腕時計をちらりと見やった。彼が手首を動かしたのに合わせて、時計のサファイヤガラスが滑らかに光を反射した。

「日が暮れるまでに全てを済まそう。僕は帰らなきゃいけなくなる」

「飼い猫は大変だな」

「不便でも、一度飼われると野良には戻れない」

皮肉っぽく、彼らは不思議な会話を繰り広げた。そうかと思うとリンゼの方に視線を向ける。チョコレートの彼がまたコンビニの袋を漁りつつ、これは不幸な事案だとラベルを張った。

「君たちは僕らの勝手なゲームの答え合わせに巻き込まれている」

「勝手だと分かっているならやらなきゃいいのにな。自覚している分、余計に性質が悪い」

一瞬リンゼは、自分に学がないから彼らの話が分からないのかと勘違いした。しかしすぐに、この者たちが分からないように話しているのだと気が付く。訳が知りたい。強く迫ったリンゼに灰色の目の男が頷いた。

「簡潔に行こう」

と、新しい菓子を取りだした男が、袋を開けつつ宣言する。男はそれに頷いて、灰色の瞳を部屋の襖に向けた。

「俺たちはお前らが誘拐した少年に用がある。別に連れ帰るつもりはないから安心しろ。ただ訊きたいだけだ。この誘拐は、少年自身が画策し、お前たちに依頼して起こした狂言誘拐で間違いないか?」

リンゼは数度目を瞬いた。彼の言っていることがさっぱりわからない。彼らは端からリンゼに答えを期待してはいなかったらしい。二人の色違いの瞳は、黙って押入れを向いていた。押し入れに閉じ込められている少年が、それを肯定するように襖の向こうで身じろぎをする。

 一人だけ置いてけぼりにされたリンゼは、聊かそれが不服だった。さっぱりわからない。どうせ巻き込むのならば、そしてそれが不幸でありかつ不遇であると思うのならば、きちんと説明したらどうなのだろう。

 そんな彼の不満を察したように、クッキーを手に持った男がリンゼを振り返る。一瞬交わった視線は緩やかに笑っていた。男は相棒を見上げて、呼びかける。相棒を見下ろした灰色の瞳を見て、クッキーを食べつつ彼は笑顔になった。

「やっぱりさ、順をおって話そうよ。これは義務なんじゃないのかな」

「お前、時間は平気なのか」

クッキーの箱を下して、男は腕時計を見やった。リンゼは初めて、彼の顔が不快に歪むのを見る。しかし彼はすぐに笑顔に戻って、大丈夫、と軽く頷いて見せた。

「早口でしゃべるよ」

それを聞いた相棒は、灰色の目を呆れたように細めた。まぁ、いい。そういう決断が下されたのだろう。彼の視線はリンゼを向いた。そして隣の男もリンゼを見やった。彼はクッキーを齧りつつ、灰色の男をちらりと見上げる。お前が話せ。そう言う意味のようだ。

 早口でしゃべると言ったのだから、彼が話すのかと思っていたが違うらしい。それは相棒の方も同じだったようで、聊か不服な顔で彼から視線を逸らすと、深いため息を吐きだす。

「事の発端は押入れの中にいる坊やのママから、俺たちに依頼があったことだ」

そうして、彼らのくだらないゲームの内容が、大体二倍速に早口で語られ始めた。


75: ドロテア ◆yyFykaECOY:2014/9/18(木) 23:24:20 ID:tTo33X2Amg
こんなこと繰り返して、一体何になるのかなあ。

彼女はそう呟いて、小さく息を吐いた。
膝上三センチのスカートが、夕方の冷めた風に揺れる。
空気には少しだけ排ガスの匂い。
大通りをバス停に向かって歩く俺らの影は、一定の距離を置いたまま伸びていく。

「知るかよ。
そういうことは頭でっかちの先公どもに言え」

「やだよ、成績下げられんじゃん」

あたしこれでも大学推薦希望なんだから、と彼女は続ける。
俺もはあ、と小さくため息を吐いた。

俺らの毎日は、学校に行って、授業を受けて、家に帰って、課題をやる、ただそれだけ。
毎日授業と試験と再試験と、講習と課題ばっか繰り返している。
勉強ばっかで、いくら勉強しても足りなくて、それ以外に必要とされることなんかなくて。
楽しいと思えることが消えて、早一年。
高校二年生となった俺達の日常はただ多忙を更に極めただけで、また去年と同じかそれ以上に辛い一年が過ぎることだろうと俺は予感する。
そして、予感は何れ事実に変わるだろう。
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