1スレ
少年「ボクが世界を変えてみせる」
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/l10
2スレ
カロル「ボクが世界を変えてみせる」
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbss/test/mread.cgi/ryu/1385288769/l10
―――あらすじ―――
それは遠い昔のお話
人と人は長い長い争いに身を投じ、互いを許せないまま30年もの月日を互いの血を流すことに費やしました
しかし長い争いはいつまでもいつまでも終わる気配もなく
人を傷付け、愛を蝕み、心は枯れて、命は絶えて、いつしか疲れ果てて……やがては目的さえ見失ってしまいました
そんな終わらない争いの果てに一つのきっかけが巡るのです
それは人と人との争いに無関心だったホビット族に原因があると唱える迷信でした
その迷信はあまりにも唐突で、あまりにも不自然な内容でしたが痩せ細って震える人々、争いに疲れきった国々はホビットに全てを擦り付けて争いを終わらせようと決めたのです
戦争が鎮まった後、各国に迷信を掲げた王国は大規模な宗教団体を立ち上げました
その団体は教団と呼ばれ、戦争を納めた功労者であるノワール・バントン司祭を筆頭に教徒達による布教活動が開始されました
布教の内容はホビット族が人間から゙癒しの力゙と呼ばれる特別な能力を奪ったというもので……
これを軸に様々な悪評を並べ立てて人々の心にホビット族への憎しみを焼き付けます
ありもしない神の作り話にいざなわれ、人々は信者へと洗脳されていきました
それから約40年の間、教団による布教活動は続き、思惑通り人々は順調にホビット族を差別していました
人間はことごとくホビット族の住み処を侵略し、奴隷にしてみたり、愛玩用に飼い慣らしてみたり、時には残酷な拷問を加えて見世物にしたり、罪深き種族と罵って横暴の限りを尽くします
473: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:07:02 ID:w.7DrG1zg2
〜〜〜夜〜〜〜
―――谷間の墓地―――
ボッ ボッ ボッ ボッ
シヴァ「灯りが少ないな。もっと火を焚いてくれ」
谷のホビット1「は、はい!みんな!その辺にある枝の先に種油を染み込ませろ!松明の火に当てて明かりを灯すんだ!」バッ
ザザザッ バッバッ ボォォォウ
イフィート「へへ…へへへ……」ヘラヘラ
谷のホビット10「い、イフィートさん!しっかりしてくださいよ!」アセアセ
イフィート「はっはは…良かったなぁ、バカヤローが…式なんかより、よっぽど賑わってんじゃねぇか?」ブツブツ
谷のホビット10「イフィートさん!気持ちは分かるが、うちの族長がそんなんじゃメンツが立たないよ!」アセアセ
イフィート「本当はよ…。みーんな興味ねぇんだよ。
どんなやり方だろうが、どこでやろうが…どっちだっていいんだ…」ブツブツ
谷のホビット10「大丈夫かよ…。全然聞いてくんないぞ?」アセアセ
谷のホビット11「…そりゃそうだろうさ。だって…こんな時に死ぬこたぁねぇだろ」
谷のホビット12「族長の息子さん…まだ若いのに頼りがいがあって狩りもうまかったもんな」
谷のホビット13「う、うぐぅ…お、俺も辛いよ!?
あいつとは小さい頃から野山を駆けずり回って…岸辺で釣りしたり、どっちが獲物を多く取れるか競ったり…楽しい思い出がたくさんあったんだ…!」グスッ
谷のホビット14「くぅっ…!俺もだ!あいつ…もうすぐ自慢の嫁が出来るなんてはしゃいでたのによぉ…!」グシグシ
谷のホビット16「俺達がこんだけ辛いんだ…。あっちの集落もそうだろ。
あの彼女さんと色んな思い出があって…みんな声を殺して偲んでる」
谷のホビット15「この谷で死者が出たのは久しぶりだな…。俺達の寿命じゃそうそう不運でもなけりゃ…」
イフィート「へ、へへ…へへへ…指輪だのぶっチューだのくだらねぇ…どうだっていいや…」ブツブツ
谷のホビット10「うぅ…しっかりしてくれよ!」アセアセ
イフィート「おめぇらが満足なら…それで幸せになれるってんなら、俺ぁなんだって良かったんだ…。この親不孝モンが……」ブツブツ
谷のホビット10「い、イフィートさん……」
474: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:10:21 ID:l5W1Sce4Lg
シヴァ「よし…灯りは十分だな。では追悼の儀に移……」
族長の妻「あなたっ!!」タタタッ
谷のホビット1「あ、奥様!」
族長の妻「連れてきたわよ!!」グイッ
カロル「……?」オロオロ
母「な、なんなんですか?急に…?」
シヴァ「まだ来ていなかったのか…。しかし二人を呼んだ覚えはないぞ?」
族長の妻「だって娘達が死んだんでしょ?治してもらわなきゃ?」
ザワッ
シヴァ「何を言ってるんだ?そんな事より集落の問題に二人を巻き込むのはよさぬか?」
族長の妻「あなたこそ何を言ってるの?治さなきゃダメじゃないの?」
ザワザワ ザワザワ
谷のホビット2「な、治すって…死んじゃったのにどうやって治すんだ?」コショコショ
谷のホビット3「奥さんまでイフィート族長みたいにおかしくなっちゃったのかな?」コショコショ
シヴァ「おかしな妄言はよせ。現実を受け止めろ」
族長の妻「なんで?娘がいないと式も挙げられないじゃない?あんなに楽しみにしてたのよ?」
シヴァ「…落ち着け!娘達は死んだのだ!?」
族長の妻「癒しの力があるじゃない!?死んでも治せばいいじゃない!?」
シヴァ「死者は生き返ったりしない!分かるだろう!?」
谷のホビット1「癒しの力…?」
谷のホビット4「あ、あんな言い伝えを信じてるのか?」
谷のホビット5「大体、もしあったって誰が使えるんだ、そんなの?」
谷のホビット6「やっぱり相当参ってるんだな…。かわいそうに?」
475: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:13:51 ID:w.7DrG1zg2
族長の妻「ねぇカロルちゃん!そうでしょう!?」クルッ
カロル「」ビクッ
母「……お、奥さん?」オロオロ
族長の妻「生き返らせてくださいな!?なんでもするから!ね?いいでしょう!?」ガッ
カロル「っ…!」キュッ
母「や、やめてください!ムチャ言わないで!?」アセアセ
族長の妻「娘を見殺しにする気!?」グワッ
母「ひっ…!」ゾクッ
ザワザワ ザワザワ
シヴァ「すまないな、皆の者。見て分かるように妻は錯乱している。誰か儂の家まで送ってやってくれ?」
谷のホビット1「は、はぁ…分かりました。奥様、一旦集落に戻りましょうか」スッ
族長の妻「触らないで!あたしはおかしくない!?」バシッ
谷のホビット1「お、奥様…?」オロオロ
シヴァ「…もういい。儂が付き添って帰そう。構わず追悼の儀を始めてくれ」スタスタ
谷のホビット1「あ、はい…」オロオロ
族長の妻「…あなたまであたしをおかしいと思ってるの?」ジロッ
シヴァ「…冷静になれ。今のお前は正常ではない」ガシッ
族長の妻「離し…なさいよっ!?」バッ
シヴァ「……!」タジッ
族長の妻「自分の娘が死んだって聞かされて冷静でいられる…?そんな簡単に諦められるの…?」
シヴァ「…その問答はイフィートともした。だが…どうにもなるまい?」
族長の妻「どうにかしてよ。あなた父親でしょう?」
シヴァ「……」
族長の妻「癒しの力が知られたっていいじゃない。それで娘が帰ってくるなら……」
シヴァ「我らの都合にあまり彼らを付き合わせるな…」
族長の妻「病気なら良くて死んだらダメなの?どうしてよ!?」カッ
476: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:17:22 ID:w.7DrG1zg2
族長の妻「ねぇ!?出来るわよねぇ!?癒しの力にかかればお茶の子さいさいでしょうよ!?」グワッ
カロル「」フルフル
族長の妻「え…?」ピシィッ
カロル「助けられるなら、そうしてあげたい…。でも……できないんだ?」シュン
族長の妻「なん…で…?」グワングワン
カロル「ボクにもわかんない…。この力がなんなのかも、よく知らないから…」
族長の妻「そんな……」ヨロッ
シヴァ「……!」グッ
カロル「…ごめんなさい」
シヴァ「いいんだ…。最初から分かってた。だから何も言わず弔おうとしたんだ…!」
族長の妻「娘は…帰ってこないの?式……楽しみにしてるのよ…?」ヘタァ
カロル「」ズキンッ
母「っ……」プイッ
族長の妻「あ、ふ…あうぅぅ……」ズシャッ
族長の妻「あぁああああ!!!」ポロポロ
シヴァ「……」
谷のホビット1「あ、あの…族長?癒しの力って本当に…?」
シヴァ「妻の妄言だ」
谷のホビット2「でも…その少年が…?」
谷のホビット3「い、癒しの力があるの?」マジマジ
シヴァ「落ち着かせる為に話を合わせただけだ」
族長の妻「嘘よ!そんな…嘘だって言ってよ!本当は治せるんでしょう!?
いじわる言わないで治してよ!なんだってするから…お願いよ!?」ガバッ
カロル「」オロオロ
族長の妻「ひっ……あぁあああ!!」ダンッダンッ
カロル&母「……」シュン
477: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:19:50 ID:l5W1Sce4Lg
族長の妻「うぅっ…ひっ…ひっく……ひぃん………」メソメソ
シヴァ「…諦めよう。これ以上、騒ぎ立てれば娘たちも安らかに眠れまい?」サスッ
番頭「お、お待ちを…!」ザッ
シヴァ「…む?お前も来ていたのか?」
番頭「あるんです!この子には癒しの力が!」
シヴァ「お前まで何を言い出すんだ?」ジロッ
番頭「さっき全身に布を纏って変なお面をした怪しい人間が宿を襲ったんです!
その時に毒みたいな物を使われて倒れたんですが…この坊っちゃんが治してくれました!」
シヴァ「なに…!?」
番頭「本当なんです!信じてください!」
シヴァ「そ、そうなのか…?」
カロル「う、うん…話したよね。ボクを狙ってる人間たちがいるって?」
シヴァ「お、王国の人間か!?」
カロル「分かんない…。前に襲ってきた人間じゃなかったよ?」
シヴァ「なんということだ…。ここが邪悪な人間の目に触れてしまうとは…!」
カロル「…ボクたちは出てくね?族長さまたちには迷惑かけないから…」
母「身支度も整えましたし道筋だけ教えてもらえればイカダじゃなくても…?」
シヴァ「う、うむ…。世話になっておいて申し訳ないが…そうしてもらえると助かる。
後でイカダを用意するので追悼の儀が終わるまで待っていてくれないか?」
母「い、いえ…あの…イカダじゃなくても……」アセアセ
カロル「わかりました」コクンッ
シヴァ「すまんな…」
母「(や、やっぱりそうなっちゃうのね…)」ガーン
478: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:24:38 ID:w.7DrG1zg2
ヒソヒソ ヒソヒソ
谷のホビット1「や、やっぱりあるのか…?」ヒソヒソ
谷のホビット2「どうなってんだ…?本当は族長も知ってたのか?」ヒソヒソ
谷のホビット3「ていうか…王国ってなに?人間に狙われてるってどういうこと?」ヒソヒソ
谷のホビット4「バカ!王国ってのは人間の集落をまとめてふんぞり返ってるでっけぇ都だよ!
狙われてるってのはつまり…人間があのボウズを追い回してんじゃねぇの?」
谷のホビット5「た、大変だ!じゃあボウズを狙ってる人間達がここに攻め込んでくるかもしれないじゃん?」アセアセ
シヴァ「狼狽えるな!?まずは娘達の魂を安らかに……」
番頭「なにを言ってんですか!族長!」
シヴァ「まだ何かあるのか!?」
番頭「もしかしたら橋を崩したのはうちを襲ったあいつかもしれないんですよ!?」
シヴァ「……!?」
番頭「だっておかしいじゃないですか!たまたま娘さん達が渡ってた橋が崩れるなんて!
しかもみんなが様子見に行って集落から、ほとんどの住民がいなくなってる間に現れたんですよ!そんな偶然がありますか!?」
シヴァ「ま、まさか…そいつは我らの注意を引き付ける為に…敢えて娘達を!?」ゾワッ
479: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:26:18 ID:l5W1Sce4Lg
族長の妻「」ハッ
シヴァ「…なにか知っているのか!」
族長の妻「そ、そういえば…みんなが橋に向かってた時、家で料理してたら外から声がしたの!」
シヴァ「なんだと!?誰なんだ!?」
族長の妻「直接は見てないから分からないけど…しゃがれてて…少し高めの独特な声で…『カロルはいるか?』って聞かれた…!」ワナワナ
シヴァ「……!?」
母「な、なんで坊やの名前を…?だって坊やは人間の間では救い主で通ってる筈よ?」アセアセ
ザッ
母「え…?」クルッ
イフィート「へへ…ふへへへ……なんだよ、そういうことだったのか」ヘラヘラ
母「あ、あなたは…娘さん達の家にいた…?」
イフィート「はっ…ハァーッハッハッ!!」ゲラゲラ
母「」ビクッ
イフィート「要は人間が俺達の子を殺したんだろ!?
あいつらならやるだろうさ!なにも不思議じゃねぇぜ!?ガハハハハ!!」ゲラゲラ
谷のホビット10「ゆ、許せない…!よくも俺達の仲間を…!」ググッ
谷のホビット11「人間め…!」
番頭「あいつを…いや、人間を野放しにしていいんですか!族長!」
シヴァ「むぅぅ…!」ググッ
カロル「……!?」ハラハラ
480: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:29:28 ID:l5W1Sce4Lg
イフィート「ナメた真似しやがってぇ!報復だぁ!?
手始めに谷周辺に包囲網を敷くぞぉ!?犯人を見つけ出してなぶり殺すんだぁ!?」
オォォォォオオオ!!!
イフィート「へへっ…こうなりゃもうどうにでもなれだ!
人間共に思い知らせてやるぜ…!俺達ホビットの恨みをなぁ!?」
カロル「ま、待ってよ!なにする気なの!?」アセアセ
イフィート「なにをだぁ?決まってんだろ!
散々調子付いてきた人間をぶっ殺してやんだよぉ!?」
カロル「なっ…だ、ダメだよ、そんなことしたら!」
イフィート「うるせぇ余所者が!?」ガッ
カロル「あぐっ…!」グイッ
イフィート「てめぇはなんなんだよ…!?俺達の気も知らねぇで…!?」ギロォッ
カロル「うっ…み、みんなと…約束したもの…」ブルブル
イフィート「あぁ!?」
カロル「も、もう…差別しない……人間もホビットも…仲良くするって…」ブルブル
イフィート「知るかぁ!?」ブンッ
カロル「きゃっ!?」ズサァッ
イフィート「なぁにが仲良くだ!?甘ったれやがってぇ!?」
イフィート「病気のお嬢さんを担いで川を下った息子は助けを求めた町で人間共に迫害されたとよぉ!?」
カロル「うっ…」ヨロッ
481: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:39:10 ID:w.7DrG1zg2
イフィート「そもそもあいつらがのさばりやがるから俺達ばっか窮屈な暮らしを迫られてんだ!?
それなのによぉ…!わざわざこんな谷間くんだりまで来て、まだ苦しめ足りねぇってか!?」
イフィート「上等だぁ!?そんなら殺られる前に殺ってやらぁ!?
いつまでも俺達がおとなしくしてやると思うなよぉ!?」
カロル「や、やめようよ…!そんなの…間違ってる!」ムクッ
イフィート「おう、みんな!?俺は間違ってるか!?」
谷のホビット10「間違ってるもんか!俺だってうんざりしてたんだ!」
谷のホビット11「仲間を殺されて我慢するなんて、もっと間違ってるぜ!」
カロル「ダメだよ…!せっかく仲直りしたのに…!」アセアセ
母「無理よ、坊や…止められないわ?」フルフル
カロル「で、でも止めなきゃ…また…!」
母「あたしがもし…同じ状況に陥ったら、とても自分を抑えきれないわ?
許すか許さないかじゃなくて…どうすればその気持ちが埋まるのかに集中すると思うの」
母「そこにある選択肢は争うか…滅ぶか……族長さんを見てごらんなさい?」
カロル「」ハッ
シヴァ「フゥーッ…フゥーッ…!」プルプル
母「犯人が明確じゃなかったのが唯一の拠り所だったのよ…。
ぶつけ所がない、不毛だって自分に言い聞かせてたのに…分かってしまったから」
シヴァ「フゥーッ!フゥーッ!フゥーッ!」ワナワナ
母「怒りをこらえる為の理由が無いのよ…。自分を騙せなくなったら…自分に正直になるしかないもの」
カロル「…知ってるよ。ボクも…他にどうしたらいいか分かんなかったから」
母「…巡礼の時はあたしがあなたに託してしまったからでしょう?」
カロル「ううん…ボクもどこかで思ってたよ。許せないって」
カロル「でも…あの争いでたくさんの血が流れて…知ってる人も知らない人も命を奪い合ってて…途中でイヤになったんだ」
カロル「『こんなことがしたかったんじゃないのに』って…何度も思ったの…」
母「(そうよね…。あたしが荷車にいた間、ずっと争いの渦中にいたんだもの…。あぁ、なんてひどい事をしてしまったのかしら…)」ズキンッ
カロル「もう一回話してみる!たぶん族長さまも分かってくれるよ?」
母「そ…そうね。本当の争いを知ってる坊やから言えば、きっと伝わるわ?」ニコッ
482: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:43:07 ID:l5W1Sce4Lg
イフィート「一匹残らず刈り取るぞぉ!!腐りきった人間共をなぁ!!」
族長の妻「う、ふ…ふ。そうよ!娘を取り返して式しなきゃ?ふふふふふん!」
番頭「集落を守る為に戦おう!!」
オォォォォオオオ!!
カロル「族長さま!」タタタッ
シヴァ「……」
カロル「おねがい!みんなを止めて!このままじゃ取り返しが……」
シヴァ「…少年よ」ジッ
カロル「へ?」
シヴァ「君の力を貸してくれないか?」
カロル「っ……そんなのダメ!目を覚ましてよ!族長さまは集落を守るんでしょ!?」
シヴァ「少年の言葉は矛盾しているな?我が子を大事にしてやるのが親の責任ではないのか?」
カロル「だ、だって…みんなは関係ない人間も巻き込もうとしてるんだよ?」オロオロ
シヴァ「関係?」
カロル「それに…ボクを狙ってた人間が殺したのかだって分かんないじゃない!」アセアセ
シヴァ「…おかしな事を言うものだ。人間に差別され、住み処を追われてきた我らにとって…無関係な人間など一人としておらぬだろう?」
カロル「……!」プイッ
シヴァ「誰がどうこうではない。娘を死に追いやったのは…人間だ」
シヴァ「人間に奪われた実りを…尊厳を…欠落したまま生きる、この日々を……娘を含めた若い者らは嘆いていた」
シヴァ「…この障壁を破らねば、いつの日もホビット族は満たされぬ物を求め、さまよい続けるだろう」
シヴァ「人間を滅ぼさねば我らに安らぎはない」
カロル「……」
483: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:52:41 ID:l5W1Sce4Lg
カロル「そんなのおかしいよ…。滅ぼすとか…なんで話を大きくするの?」
シヴァ「なぜだと?人間が娘を奪ったからだ…!」ギリッ
カロル「…一人が悪いことしたら、全員が悪いの?」
シヴァ「む…」ピクッ
カロル「人間はホビットが癒しの力を盗んだから…ホビットはみんな悪いって決め付けてた。
だからボクたちはたくさん奪われて…いろんな物を諦めなきゃいけなかったんじゃない!」
シヴァ「だからなんだ?」ギロッ
カロル「これからみんながしようとしてるのって…人間がしてきたのと同じじゃないの!?」
シヴァ「あぁ、そうだな。理由などいくらでも付けられる…。考えるだけ無意味だ」
カロル「……!」ホッ
シヴァ「ふっ…ククク!なんでもいい。理由などいらないんだ」ビキッビキィッ
カロル「えっ」
シヴァ「儂は怒りのままに積もり積もった自分自身の憎悪を晴らそうとしているのだろうな」フッ
シヴァ「それでも構わない…。この感情はどうしても埋まりようがないが…復讐に身を置く事で忘れられるのなら…フフ!ハハハハ……」クックッ
シヴァ「煩わしい…さんざん悩んだ挙げ句、出した答えがこれか。
儂もアピシナ様を利用した、かつての同胞達と変わらない」
カロル「分かってるのに…やめないの…?」
シヴァ「……」
カロル「アピシナさまのお話、とっても悲しくてやりきれなかったよ…?」ウルッ
シヴァ「そんな表情をしてくれるな?儂も悲しい?そうなってはならないと戒めてきた者に心動かされている?
だが分かっていても……この怒りを解き放てぬまま平凡には暮らせない?」ヒクヒク
シヴァ「…力を貸してくれ?我らに戦う力を…?」
カロル「やだ…!」ポロッ ツツー
シヴァ「あぁ…少年はそう言うと思っていた。ならば無理にでも…君の力を使わせてもらおう」
カロル「使わない…!使ったら…また争うもん…!」ポロポロ
シヴァ「ならば儂にも考えがある…」
484: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 22:57:57 ID:w.7DrG1zg2
シヴァ「イフィート!」
イフィート「あぁ?なんだよ?」ザッ
シヴァ「この少年は我らの戦いに必要不可欠な武器となるぞ!」
イフィート「はぁ!?んな女々しいガキに何が出来んだよ?泣きべそかいてんじゃねぇか?」ジロジロ
カロル「うっ…ひっ…ふえぇぇん……」グシグシ
母「坊やを巻き込まないでもらえますか?」スタスタ
シヴァ「……」ジッ
母「どうしてもとおっしゃるなら勝手にどうぞ?あたし達は出ていきますから?」
シヴァ「そうはいかんな」
母「…坊やがどうして泣いてるか分かる?」
シヴァ「?」
母「争いがどういうものか…実際に体験してるからよ。
奪われてきた物を奪い返すのが…どれだけ辛くて、心を痛めるか知っているからよ!」
イフィート「はっ?せっかく奪い返せたのに心を痛めたってか?アホだな?」
母「奪い返せる物より、遥かに多く失うのが争いよ」
族長の妻「アハ…ハハ!それならもーっと奪い返したらいいじゃなーい!娘の命も奪い返して式しましょうよ!ラララー!」ルンルン
シヴァ「…何も残らなくていい。失う物などタカが知れている」
カロル「えぐっ…やめてよ。もう…いやだ」グスッ
母「大丈夫よ、坊や…あなたにそんなことはさせないわ?」ナデリ
485: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 23:04:06 ID:l5W1Sce4Lg
カロル「大事な相手が…みんな…みんな死んじゃうんだよ?なんで…分からないのっ!?」ポロポロ
イフィート「黙れ!もう大事な奴が死んでんだよ!」カッ
カロル「うっ…ぅん…?あらそったら…もっと…たくさんの仲間が死ぬよ…!
ここにいる…みんなも…あなたも…ひとりひとりが大事な仲間でしょ…!?」グシグシ
イフィート「……!そ、そんなもん分かってらぁ!?だからって引き下がれるかよ!?」
カロル「…おんなじだもん…。みんな…悲しくなって…怒って…またあらそって…ずっと、ずっと…終わらないよ!」キッ
イフィート「だから根絶やしにするってんだよ!?ホビット一色でいいんだよ!?」
カロル「変わんないよっ!許せないまんまじゃ…おんなじホビットで、また嫌い合うよ!」
イフィート「うるせぇ!?るせぇっせっせぇ!?屁理屈こきゃがって甘ったりぃんだよぉ!てめぇからぶっ殺してやる!?」ダッ
カロル「っ…!?」キュッ
シヴァ「やめろ!?」ガシッ
イフィート「なんだ、コノヤロウ!?邪魔すんな!?」ジタバタ
シヴァ「この少年は必要だ!」ググッ
イフィート「あんでだよぉ!?」
シヴァ「癒しの力だ!?この少年は癒しの力を持っている!!」
イフィート「あ!?う、嘘じゃ…?」ピタッ
シヴァ「本当だ!大樹へ行き、少年の力を使えば永遠の命が実る!その力があれば何も恐れるものはない!」
イフィート「……へっ!早く言えってんだ。離せ!」バッ
シヴァ「……」パッ
イフィート「よーし、ボウズ!お前の力を使わしてもらうぞ?」
カロル「……!」ブンブンッ
イフィート「あぁ…!?」イラッ
シヴァ「母親を人質に取ればいい」
イフィート「えっ」
谷のホビット's「えっ」
486: 名無しさん@読者の声:2015/2/13(金) 23:06:49 ID:ITN0fXgDIU
>>290いや、ぶっちゃけあのSS以上の鬱展開だろ……CCC
487: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 23:08:14 ID:l5W1Sce4Lg
イフィート「そ、そりゃ…ちょっとやりすぎじゃ…?」アセアセ
シヴァ「なにがだ?」
イフィート「いや、確かに俺もカッとなったけど…それはあんまりだろ?」
シヴァ「まともにやりあって人間に敵うと思うか?」
イフィート「で、でもよぉ…人質ってのはやっぱり…」
シヴァ「今さら怖じ気付くな!?」
イフィート「うっ…」タジッ
シヴァ「覚悟を決めろ!己に恥じる行いであろうと…他に勝ち目はないんだぞ!」
イフィート「そ、そうかも…な」
ダッ ダッ ダッ
谷のホビット1「あっ!?」
谷のホビット2「族長!親子と犬が!?」
シヴァ「何をしてる!?囲んで逃げ場を塞げ!」
アワアワ ワタワタ
シヴァ「なにをもたついてるんだ!?」
ダダダッ
番頭「は、林の中に入っていきました!」
イフィート「ば、バカヤロー!!追うんだよ!?」ダッ
ダダダダダダッ
シヴァ「くっ!逃がすな!絶対に見つけろ!?」
488: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/13(金) 23:16:55 ID:l5W1Sce4Lg
>>486
わぁお!リアルタイム支援!すごく嬉しいです!
実は>>290の方の支援で気になったので全部読んでみたんですが……もうとんでもない脱力感と腹痛と悔しさが同時に込み上げてリアルに体調悪くなりました。
あんなに救いのない話があるんですね…。未だに思い出すとお腹痛くなります。
ひのきのぼうの僧侶と比べるとカロルはかなり恵まれてるなぁと思いましたが意外とそうでもないんですかね?
とはいえ、まだまだ…というかもう1スレ分書く予定なので全然、先の話なんですが今度こそはスッキリするオチを付けますね!
ハッピーエンドかバッドエンドかはまだ内緒ですがw
支援ありがとうございました!
489: 486:2015/2/14(土) 07:32:17 ID:37Y/0eNIQ6
>>488
お返事嬉しい!ありがとうございます!
因みに>>486であのように書き込んだ理由は、ひのきのぼうの物語は、どんなに理不尽な内容でも“主人公的には”ハッピーエンドだからです(遺されたヒロインにとっては最悪のバッドエンドですが)。僧侶は『勇者が幸せでいること』に自分の幸せを見出だしていたので、自分自身がどんな目に遭っても、最期には「報われた」と言っていましたし……。いや、実は僧侶が気付いてないだけで、想い人に先立たれてしまった勇者は全然幸せじゃないんですけど。
一方、カロルは『皆が争わずに生きていける』ことを望んでいるので、皆が殺し合おうとしている今の状況はとても辛く感じていると思います……。凄く好きなキャラとSSなので、これからの展開が本当に待ち遠しいです。
長文失礼しました。支援しています!
490: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/14(土) 22:41:44 ID:l5W1Sce4Lg
>>489
こちらこそ丁寧にお返事してくださってありがとうございます!
確かにひのきのぼうは主人公がバカ正直で全くめげないですよね。
一寸のぶれなく我が道を行くんで、たとえどん底に落ちてもあまりキャラ自体に悲壮感はないですが…見ている方はただただ辛かったです。
最後の最後で勇者が気付く場面は秀逸でしたね。
読み手がそれまで感じてきた想いと全てを知った勇者の想いがリンクして作品と読者の境が無くなったように感じました。
分かってても何もしてあげられない読者と勇者だけがバッドエンドに陥る作り込まれた物語、ホント凄すぎます…。
あのショックを思い出して今もお腹痛いです…。
これただの感想になっちゃってますね。ごめんなさい。話を戻しますね!
分かりやすい説明ありがとうございます!
確かにカロルは僧侶のように巡り会う出来事が目標と一致してないので考えがブレブレで悲観的にばかりなっちゃってますね。
本人が何を幸せと感じるかで展開がまるっきり変わるんだなぁと改めて納得させられました。
カロルに関しては作中だけで何回泣いてんだよとか、そろそろ学習しろよと思っちゃいますし。
僧侶と違って巻き込まれるというより他人を巻き込む疫病神ですし、あんまりいいところが見当たらないキャラですね。
自分で書いといて悲しくなりますが…。
そもそも、こんなSSと素晴らしい名作を比較していいんでしょうか…。
波風立たず細々と書いてきたんで叩かれるのが怖いです…。
逆にものすごい長文になってしまって申し訳ございません!
すごく嬉しくて励みになりました!なるべく早めの更新を心掛けますので、どうかこれからもよろしくお願いいたします!
支援ありがとうございました!
491: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/17(火) 17:33:05 ID:v6l4HiRCsk
―――谷間の林―――
タタタッ
カロル「はぁっ…はぁっ…!お、お母さま…へいき?」タタタッ
母「だ、大丈夫よ…!ちゃんと付いていくから!走るのに集中なさい!」タタタッ
マルク「」タタタッ
マテー! ドコダー! オエー!
母「…坊や!一旦、茂みに隠れましょ!」ガサガサ
カロル「うん!」ガサガサ
マルク「」ガサガサ
ダダダッ
母「……」
カロル「……」ドキドキ
マルク「……」ハラハラ
シーン
母「…行きましょ?」ガササッ
カロル「……」キョロキョロ
マルク「あんっ…」ガササッ
谷のホビット6「あ、いたぞ!こっちだ!」ビッ
ダダダダダッ
母「に、逃げるわよ!」ダッ
カロル「うん!」ダッ
マルク「わんっ!」ダッ
谷のホビット6「に、逃がすか!」ダッ
谷のホビット7「そっち行ったぞー!?誰か回り込めぇ!?」ダッ
492: ◆WEmWDvOgzo:2015/2/17(火) 17:39:39 ID:v6l4HiRCsk
―――谷間の洞穴―――
母「はぁぁ…はっ…はぁ…やっと落ち着いたわね。もうダメ…動けない」クタァ
カロル「っ……っ…!」ウルッ
母「しばらくここでやり過ごして……あら?」
カロル「ふっ…ふえっ…ぇぇぇん…!」メソメソ
マルク「あぅーん…?」ペロペロ
母「もう…しょうがない子ね?」チョンチョン
カロル「っ…な、に…か…さま?」グシッ
母「はい?」パッ
カロル「……?」グスンッ
母「おいで?」ニコッ
カロル「ゔん…」ダキッ
母「いい子いい子?」ナデナデ
カロル「っ…」ギュッ
母「…大丈夫よ?」ナデナデ
カロル「ひっ…ひっく…!」ポロポロ
母「大丈夫……お母さんが付いてるから…ね?」ニコニコ
マルク「くぅーん……」ショボン
992.81 KBytes
[4]最25 [5]最50 [6]最75
[*]前20 [0]戻る [#]次20
【うpろだ】
【スレ機能】【顔文字】