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カロル「ボクが世界を変えてみせる」【完結編】
[8] -25 -50 

1: ゆったりペースになりますが! ◆WEmWDvOgzo:2014/11/16(日) 20:09:52 ID:N4jwCkModw
1スレ

少年「ボクが世界を変えてみせる」

http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/l10

2スレ

カロル「ボクが世界を変えてみせる」

http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbss/test/mread.cgi/ryu/1385288769/l10

―――あらすじ―――

それは遠い昔のお話
人と人は長い長い争いに身を投じ、互いを許せないまま30年もの月日を互いの血を流すことに費やしました

しかし長い争いはいつまでもいつまでも終わる気配もなく
人を傷付け、愛を蝕み、心は枯れて、命は絶えて、いつしか疲れ果てて……やがては目的さえ見失ってしまいました

そんな終わらない争いの果てに一つのきっかけが巡るのです
それは人と人との争いに無関心だったホビット族に原因があると唱える迷信でした
その迷信はあまりにも唐突で、あまりにも不自然な内容でしたが痩せ細って震える人々、争いに疲れきった国々はホビットに全てを擦り付けて争いを終わらせようと決めたのです

戦争が鎮まった後、各国に迷信を掲げた王国は大規模な宗教団体を立ち上げました
その団体は教団と呼ばれ、戦争を納めた功労者であるノワール・バントン司祭を筆頭に教徒達による布教活動が開始されました

布教の内容はホビット族が人間から゙癒しの力゙と呼ばれる特別な能力を奪ったというもので……
これを軸に様々な悪評を並べ立てて人々の心にホビット族への憎しみを焼き付けます
ありもしない神の作り話にいざなわれ、人々は信者へと洗脳されていきました

それから約40年の間、教団による布教活動は続き、思惑通り人々は順調にホビット族を差別していました
人間はことごとくホビット族の住み処を侵略し、奴隷にしてみたり、愛玩用に飼い慣らしてみたり、時には残酷な拷問を加えて見世物にしたり、罪深き種族と罵って横暴の限りを尽くします


256: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/22(月) 21:36:59 ID:gTRPXbGnWE
〜〜〜朝〜〜〜

―――教会―――

院長8「すべて司祭様達のおかげです!本当にありがとうございました!」ペコッ

宣教師「いえいえ…院長さんが一生懸命に子供たちを守ろうとなさった結果ですよ?」

院長8「いやぁ…!そんなぁ…!自分なんて仮装して大恥かいただけですもん?」テレテレ

神父2「いやいや、実に立派な行いでした?
普段は引っ込み思案で頼りなく見えましたが…」

院長8「う……」ズーン

宣教師「町中を駆けずり回って院を残そうと呼び掛けていた貴方は、まるで悪に立ち向かう勇敢な騎士のようでしたよ?」ニコッ

院長8「……!そ、そうですかぁ!?」パァァ

神父2「ハハハ…さながらおとぎ話の主人公ですね?」

院長8「あ、あはは…おとぎ話に例えてもらえるなんて嬉しいなぁ。実は自分、こう見えて昔は物書きをしてまして…?」

宣教師「おや、作家さんだったんですか!」

修道女「すごーい!」

院長8「そ、そんなぁ?作家だなんて…そんないいもんじゃないです?」テレテレ

教徒「どんな本を出版されたんですか!」

修道女「興味津々だね?」

教徒「いいだろ?本が好きなんだから?」
257: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/22(月) 21:38:11 ID:gTRPXbGnWE
院長8「か、カケフ地方の文学協会に送っていくつか出版しただけなんですけどね?」

神父2「カケフ地方なら丁度、ここ南の領土の主要都市部じゃないですか?」

宣教師「となると多くの人に読まれていたのでは?」

院長8「それが子供向けのおとぎ話ばかりなもんで読書好きの方々にウケなくて…すぐ廃版になっちゃいました」

神父2「それは残念ですね…」

教徒「へぇ…!見てみたいなぁ?」

院長8「あ、なんでしたら見ていきますか…?」オソルオソル

宣教師「あるんですか?」

院長8「は、はい…。当時の売れ残った在庫はほとんど各地の図書館に寄付したんですが…。
原本は院内の図書室に保管してありまして…こ、子供たちが自由に読めるように…してありまして?」モジモジ

教徒「読みたいです!」ガタッ

修道女「私も!?」ガタッ

院長8「そ、そう…ですか!で、ではご案内します!」パァァ

宣教師「…それでは孤児院に立ち寄ってから出発しましょうか?」ニコニコ

教徒&修道女「はいっ!!」
258: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/22(月) 21:44:06 ID:Rbp1gb8IvI
―――孤児院(図書室)―――

教徒「」パラパラ

修道女「へぇ…!」パラパラ

院長8「」ドキドキ

修道女「面白い!どこがとか具体的に言えないけど…とにかく面白かったです!」パタンッ

教徒「ほのぼのとした雰囲気で挿し絵も可愛らしいし、読みやすいよね?」

修道女「そうそう!」

教徒「旅立ちの場面はワクワクしましたし!」

修道女「そうだよ!」

教徒「最後の勇者が悪いドラゴンを説得して仲良くなっちゃうのも素敵でした!」

修道女「そうなんだよね!」

教徒「そうしか言ってなくない?」

修道女「だ、だって…うまく言えないんだもん?」ゴニョゴニョ

院長8「感無量です…!」フルフル

教徒「そ、そんな大げさですよ?僕らは専門家じゃありませんし?
あ、そうだ?司祭様はどうでした?」

宣教師「大人向けの話ではないですが私は好きですよ?」パタンッ

院長8「う…」ガクッ

宣教師「落ち込まなくても…?童話なのですから元より子供たちに向けて書かれた本なのでしょう?」

院長8「は、はい…。でも読者層が文学好きの大人ばかりで…」

宣教師「子供たちはこれらの本を読んでなんとおっしゃいますか?」

院長8「好きとか…面白いと…?」オズオズ

宣教師「そうでしょうね?」ニコッ

院長8「……?」

宣教師「この本は子供たちに読まれて初めて光り輝くのでしょう。
営利目的であれば望み薄かもしれませんが…孤児院に置かれる本としてはこの上なく最適です?」ニコニコ

院長8「あ、あ、ありがとうございます!」ペコッ
259: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/22(月) 21:55:58 ID:Rbp1gb8IvI
―――ホルウィの町(正門前)―――

修道女「院長さん、感激してましたよ!」スタスタ

教徒「今回を機にまた書いてくれるといいですね?」スタスタ

宣教師「誰しも趣味は必要ですからね。なにか楽しみがないとやる気も起こらないですし」スタスタ

修道女「子供たちもいい子ばっかりでしたよ!あれなら、すぐに里親が見つかりますよね!」

宣教師「そうですね。子供たちが幸福を得る為にも院長さんや職員の方々に頑張っていただかなければなりません」

司教「おぉ!司祭様、待ちわびましたよ?既に馬車の用意は済んでおりますぞ!」

宣教師「すみません、少し寄り道しまして?」

修道女「子供たちにホビットと仲良くしましょうねーって言ってきました!」

教徒「この町にホビットが来たら仲良くするって約束してくれましたよ!」

司教「そうでしたか。そういえば憲兵さんから伝言を承りましたよ。
団長様は昨夜の事件の後処理で身動きが取れないので代わりにと」

宣教師「領主邸は凄絶だったそうですしね…。私も団長さんにお礼をしたかったのですが…」
260: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/22(月) 21:56:32 ID:gTRPXbGnWE
司教「肝心の伝言なのですが……『偽の王国兵に気を付けるように』との事です」

宣教師「偽の王国兵?」

司教「どうやら手配書を改竄して各地に流した人物がいるそうで…救い主様に懸賞金が懸かっているというデマが広まっているんだとか」

宣教師「なっ…!なぜカロルくんに懸賞金が!?
そんな事をすればお金目当ての悪党に付け狙われてしまいますよ!?」

司教「詳しくは聞いておりませんが…また何か不穏な空気が漂ってますな。
王国の内部に救い主様を始末しようとする動きが見られると」

宣教師「……!アントリア神官を封じたというのに…まだ無益な争いを繰り返したい人物がいるのですか!」

修道女「…私達が早く見つけないと救い主様が悪人の手に渡ってしまうかも?」

教徒「た、大変だ!最近になって、やっとホビットと人で共存する町も増えてきたのに!」

司教「救い主様が王国に始末されてしまったら…今度こそホビットと人間は共存出来なくなるな」

宣教師「……!司教さん、申し訳ございませんが…一度、大聖堂に戻っていただけますか?」

司教「構いませんが…私は何をすれば?」

宣教師「全教団員に報せ、偽の手配書の事実を国中に伝えさせるのです!
そして同時に不審な王国兵の情報も探らせなさい!」

司教「承りました!」

宣教師「どなたの仕業か知りませんが…カロルくんとお母様の無事は私達、教団が何に代えても死守してみせます!いいですね!?」

司教&修道女&教徒「はいっ!!!」
261: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/22(月) 22:03:27 ID:gTRPXbGnWE
―――王都(城下町)―――

女装家「ハァァァ……」ゲッソリ

西の官吏3「これはまた強烈な溜め息ですね」

女装家「強烈ってなによぅ?口臭いとか言うの?」ジロッ

西の官吏3「い、いえ…お疲れ気味ですので」

女装家「そぉなのよねぇーん!シャルウィンちゃん、もうヘットヘトよ?まぼろし〜って感じ?」クタァ

西の官吏3「…ようやく話し合いも済んだ事ですし、そろそろ?」

女装家「そうねぇん…めんどくさいのも終わったし自分へのご褒美に癒しの喫茶店巡りしちゃおっかしらぁん…」

西の官吏3「…いやいや、もう4件目ですよ?何杯コーヒー飲むんですか?」

女装家「ジョーダンよ、ジョーダン!さっさ目的を済ましてオネェ様に喜んでいただかなくちゃ?」スクッ

西の官吏3「ははっ!」

女装家「ちょっと店員さーん?お会計〜!」
262: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/22(月) 22:07:29 ID:gTRPXbGnWE
西の官吏3「して、目処は付いているのですか?」スタスタ

女装家「そうねぇ?あのチョロそうな大后様にオシャレな飾り物渡したら、ちょこっとヒント聞けちゃったわよぅ?」スタスタ

西の官吏3「ほう!さすがシャルウィン様!」

女装家「おバカ!今は"トピ"でしょん!」パシンッ

西の官吏3「っ〜〜〜!(な、なんという馬鹿力…!)」ヒリヒリ

女装家「まぁずぅはぁ〜?教団の司祭が暮らしてる辺境の孤児院に向かうわよぉ〜?」

西の官吏3「そ、そこに例の…?」

女装家「さぁ〜?しっらなぁ〜い?」

西の官吏3「えっ」

女装家「でもでも〜…教団の司祭は例のホビットちゃんと仲良しこよしのただならぬ関係だったらしいわよぉ〜?
それってつまりぃ〜?かなぁ〜りお互いを知り尽くしてるって訳じゃなぁい?」クネクネ

西の官吏3「(な、なんでクネクネ揺れてるんだ、このおっさ……いや、シャルウィン様は)」

女装家「ちょと聞いてるぅ〜?」

西の官吏3「え、あ、すみません」

女装家「んもぉ〜?しょうがない子ねぇん?
他人が話してるのに上の空なんだから…ダメだゾッ?えいっ?」ツンッ

西の官吏3「」ゾワゾワゾワ

女装家「じゃ兵隊ちゃん達呼び戻してきてねん!」

西の官吏3「(うおお鳥肌が寒気が悪寒が止まらん!)」ブルブルブル

女装家「聞いてんの〜?」

西の官吏3「はっ…ただいま…!」ゲッソリ
263: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/30(火) 01:00:37 ID:IHQ0bs/URY
―――西の国(貧しい村)―――

ザシュッ ドバッ ガシュッ

ギャアアアアアア

将軍「ヌハハハ!他愛もない…」ピシュッ

西兵1「当然にございましょう?彼奴らは剣も知らぬ飢えた生ゴミ?
将軍殿の圧倒的な軍略の前にはちっぽけ、ちっぽけ?」

将軍「なにが軍略か?我輩はただ兵を率い、武器を持たせ、皆殺しにするよう命じただけぞ?」

参謀「お見事、お見事、将軍殿の才に敵うものなどありましょうや?」パカラッパカラッ

将軍「……」

参謀「長年、自国の狼藉者を始末して参りました故、我が軍の兵らは殺しの味をよぉく知っておりまする。
しかしかつての"終わらない争い"を存じてらっしゃる猛将はカカドゥーラ様、ただ一人…?」ニィィッ

将軍「…地獄絵図とはまさにあの事」

妊婦「ひ、ひあぁあ」ガクガク

西兵1「おや、まだ生き残りが?」

参謀「身籠っておりまするな」

妊婦「ど、どどどうかお助けを…!?このお腹には命が宿って…!?」ガクガク

将軍「命…か」ジロッ

妊婦「……!」フーッフーッ

将軍「はたしてその命…いかほどの価値がある?」

妊婦「え…?」

将軍「月に一度の税も賄えぬ農村で生まれ育った女が…今、滅びようとする村で子を生んだとして、この国に利はあるのかと問うておる?」

妊婦「そ…れは!」

将軍「お前のような価値なき女子の腹に収まったガキにこそ見る目が無かったのだ?」ブォンッ

バシュッ

ゴロン

将軍「腹を引き裂き、中のゴミを引きずり出して踏み潰せ?今回の目的は皆殺しだ?」

西兵1「ははぁっ!!」
264: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/30(火) 01:04:01 ID:9v4P6Xr0tU
ヒエエエエエ ギャアアアアアア

ブバッ ガシュッ ゴロン

ダダダダダダッ

将軍「クク…ヌハハハ!?なんと愚かしい?
我輩の気分次第で弱き者共が鼻水を垂らし、涙を流し、見るに耐えぬ醜態を繰り返す?」ニタァァ

将軍「それでこそ楽しめる…?だからこそ面白い?侵略とは…弱き者を惨めに死なせる武人の遊戯よ?」ニタニタ

参謀「実に同感」ウンウン

将軍「楽しみだのう?もうすぐそこに戦争の日が迫っておる?」

参謀「平和を手にして何十年……短い歴史でございました」

将軍「平和、平和ではつまらんよ…。我輩はなぁ…偽善的な王国の弱き民を……これでもかとなぶり殺してやりたいのだ?」グフフ

参謀「お二人次第…でしょうな」

西兵2「将軍!」

将軍「なんだ?」

西兵2「納屋の米俵に赤子が隠されておりました!」

赤子「ぎゃあああ!あああん!」ベーベー

将軍「ほう?これはまさしく…玉のように愛らしいではないか?我輩にも抱かせろ?」スッ

参謀「」ジーッ

赤子「ぎゃあああ……きゃ?」パチクリ

将軍「ふふ…かわいいなぁ。それ、たかいたかーい」グオッ

赤子「えへー!えへへー」キャッキャッ

将軍「たかいたかーい、たかいたかーい……」パッ

赤子「へ……」ブワッ

ゴンッ

赤子「ぃ…ぎやあああああ!ああああああ!」ベーベー

西兵2「」ビクッ
265: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/30(火) 01:07:28 ID:9v4P6Xr0tU
将軍「抱くのは飽きた」シラー

西兵2「……!?」

将軍「お前」

西兵2「は……はっ!」ピシィッ

将軍「赤子の指を潰せ」

西兵2「は…!?」

オギャアアアア オギャアアアア

西兵2「っ……」

将軍「どうした?こうすればよいのだ?」ガッ

西兵2「えっ」グイッ

将軍「親しき友と握手するように…こうして」ギュウッ

西兵2「あがっ!?」グキィッ

メキィッ ベキベキ クシャッ

西兵2「ぐっ!きぃいいいい!?」ジタバタ

将軍「参謀よ、手解きは必要か?」

参謀「…この僕が未だかつて将軍の命に躊躇した事などございましょうか?」

将軍「よくぞ言った?」ニタァァ

参謀「赤子の爪を剥がし、指を潰し、産毛も歯も抜いた上で焼き殺し…野良犬たちへのもてなしにしましょう」ザッ

オギャアアアア オギャアアアア
266: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/30(火) 01:10:15 ID:IHQ0bs/URY
将軍「あの赤子も残念だった…。我輩にも慈悲はある…。親が生きていれば、な」

参謀「えぇ、目の前で子の死をご覧いただけたのに残念です」

将軍「うむ。看取らせてやるぐらいの配慮はしたんだが…」

参謀「お優しいですな」

将軍「あぁ…戦争が待ち遠しい。パカラゥロとシャルウィンが目的に達すれば、すぐにでも始められるというのに」

参謀「楽しみになされてるのは陛下も同じ事では?」

将軍「…うむ。陛下の目の奥に輝きを見たのは皇帝一族暗殺を実行した日以来だ」

参謀「……」

将軍「永遠の命…不朽の美……あぁ、愛する陛下に捧げたい。そして願わくは我輩の妻として……」

参謀「口が過ぎます」ムスッ

将軍「…うぉほん!聞かなかった事にしてくれ」

参謀「かしこまりました」スッ

将軍「(陛下……)」ションボリ

参謀「裾が汚れました故、お先に城へ戻らせていただきまする。はっ!」パシンッ

パカラッパカラッ パカラッパカラッ

将軍「…さて、食糧と金品を回収して次なる狼藉者共を成敗しに参るか」ハァ
267: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:36:23 ID:g4lCkLBiEw
―――南の領土(バンブルの港)―――

ワイワイガヤガヤ

漁師「さぁさ揚がった!月の満ち欠けに逸らされんなぃ!
おまんま食いたきゃ魚買え!んで足らねぇなら稲穂刈れ!今月の築地は見逃しちゃならねぇ!
魚はもちろん蟹に海老、貝に烏賊、蛸と目白押しだ!」

カロル「わぁー!お魚いっぱい?」マジマジ

母「この街では漁が盛んなのね?」

カロル「あはは!箱の中でお魚さんが泳いでるよ?」

母「鮮度を保つ為に生け簀に入れてあるのよ?」

マルク「」ジュルリ

カロル「飼って育てるの?」

母「ううん、後で切り刻んで食べるの」

カロル「!?」ガビーン

漁師「おぉ、嬢ちゃん、坊っちゃん、見ていきなぃ!これがバンブルの商売だ!
新鮮な魚をすぐさま味わいてぇなら遠慮しちゃならねぇ!欲張って欲張って買い漁んな!」

母「そうしたいのは山々ですけど、生憎手持ちがありませんの…」

漁師「なんでぃ!なんでぃ!親子二人の食う分も稼げねぇたぁロクな旦那じゃねぇな!」

母「おほほ…。夫はだいぶ前に他界してまして…今は坊やと二人で旅してるんです」

漁師「……す、すまねぇ」

母「お気になさらず?もう吹っ切れてますから?」

漁師「…」グイッ

漁師「持ってけ?」つ【魚】

母「まぁ!いいんですか?」

漁師「おう、知らねぇにしろ未亡人にゃ言っちゃならねぇこと言った。詫びだ?」

母「そ、そんな…同情してほしかった訳じゃ…?」オロオロ

漁師「昔から生命豊かな水面には魚たちの泳ぎ遊ぶ陰翳が映るんだ。
この地に網が掛かるのは、つまり母なる海に愛されている証拠だ?」

漁師「海鳴りの景色を西へ西へと進めればごっそり獲れる漁場がある。一匹渡したって俺達の商いは尽きやしねぇ?」ニコッ
268: 投稿するたび改行制限に悩まされる、短くまとめる文才が欲しいorz ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:42:07 ID:g4lCkLBiEw
母「本当にいいんですか…?」

漁師「おう!海の男は嘘言わん!坊っちゃんも新鮮な魚食いてぇべ!」

カロル「うん!」キラキラ

チンピラ「おっ!青臭い匂いがすんなぁ!」スタスタ

漁師「げっ!」

チンピラ「げってなんだ、ひでぇな?」

漁師「どうせ金ねぇんだろ?失せな!」

チンピラ「そりゃ言いっこなしだぜ?みすぼらしいホビットにはタダで魚をやるのに俺には無しか?」

カロル「……」モジモジ

漁師「この街はまだホビットと馴染みねぇだろ。来月には教団が連れてくる30のホビットを迎えるってんで街上げて祝福するんだ。
その為に今から大量に魚獲って準備してんだよ。そん中の余った一匹をくれてやっただけだ?」

チンピラ「ならよ、もう一匹くらい余ってんだろ?」

漁師「働きもしねぇ野郎にやる魚はねぇよ。この怠けもんが…」

チンピラ「働く気になるまで温存してんのさ?健康じゃねぇと働きようがねぇかんな?」

漁師「腹空かした女房と子供がいんのに何考えてんだ…?」

チンピラ「そんなん言うなら仕事くれよ?あったらやるぜ?」

漁師「腐るほどあらぁな!斡旋所に走ってこいよ!」

チンピラ「遠いとこで働きたかぁねぇ?重労働もまっぴらだ?」

漁師「んじゃせめて釣竿持って沖に出ろ!女房に内職さして冷や麦食うよか食卓に亭主の釣った魚がありゃチビたちも誇らしいわな!」

チンピラ「へへ!じゃあ竿をくれ?」

漁師「"くれ"だぁ?」ビキィッ

チンピラ「おうよ!一等でけぇの釣ってやらぁ?ついでに船も貸せ?小舟でいいぜ?」

漁師「銛で突っ殺すぞガキぃ!?竿なんざてめぇで作れ!?船が欲しきゃ働いて買えや!?」ガァーッ

チンピラ「とと…?んな怒らんでもよ?」
269: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:44:48 ID:g4lCkLBiEw
母「あ、あの…坊やも怯えてますので…そろそろおいとまします…?」オロオロ

カロル「……」ブルブル

漁師「あ、あぁこりゃいかん!すまんすまん!坊っちゃん怖がらんでな?
ほれ!おまけしてやる?二尾もありゃ刺身に叩きに煮浸し、鍋物、なんでもござれだ?
今日は楽しみが増えたなぁ?そうだろう?」グイッ

チンピラ「けっ!働かねぇで親切されるなんて楽でいいよな?」ジロジロ

カロル「……」ズーン

カロル「…ごめんなさい。やっぱりいらないです」シュン

漁師「え?」

チンピラ「お!じゃあ俺が……」ヒョイッ

バチコンシャタッ!!

チンピラ「」ピクピク

漁師「ふざけんじゃねぇ!」パッパッ

カロル「」ブルッ

母「」ポンポン

マルク「クゥン…」

漁師「わりぃな。さぁ持ってけ?楽しい旅になるといいな?」

カロル「で、でも…」

漁師「そいつの言うこたぁ気にすんな?
ご近所に借りた金踏み倒して博打ばっかやってるロクデナシだ?」

母「ありがとうございます」スイッ

カロル「あ…!」

母「もらっていきましょ?親切に応じないのは失礼な行いよ?」

漁師「おう!出されたモンは頂くのが礼儀だ!スッと出してパッと受け取る!
出した方は気分がいいし、受け取った方は棚ぼた降りたと笑い飛ばす!誰も傷付かんだろう?」

チンピラ「じゃあ俺も……」

漁師「あん?」ポキッポキッ

チンピラ「」ススーッ
270: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:47:08 ID:o6D2/o4bEU
母「ほら、お礼は?」

カロル「ありがと…ございます?」ニコッ

漁師「…ほれ、見ぃ?かわいい笑顔だろ?おめぇの子もこうやって笑えんだぞ?」

チンピラ「は?」

漁師「見てらんねぇよ…。着る物もなくチンチンぶら下げて歩き回るザマをよ…。
いつもおめぇの家から女房の怒鳴り声とひもじそうな泣き声が聞こえんし…深夜から船出に向けた足取りもしょんぼりすらぁな?」

チンピラ「誰のおかげで飯が食えると……」

漁師「おめぇの女房のおかげだろうが?」

チンピラ「ちっ!居心地わりーし帰るぜ!」

漁師「おう、帰れ、帰れ。どうせ捨てる部分でもつまみに来たんだろ。うざってぇから消えちまえ」

チンピラ「……!」ギリッ

漁師「悔しそうなツラすんなら、とっととてめぇで稼げ?
そうすりゃ誰にだって一端に見られんだ?」

チンピラ「」スタスタ

漁師「……」

母「なんだかんだと言いながら、あの方のこと気にかけてらっしゃるんですのね?」ニコッ

漁師「おうよ。海の男は義理人情に厚いんだ」

カロル「あの人間…本当にお金に困ってそう」

母「あら、どうしてそう思うの?」

カロル「なんとなく…」

母「本当に困ってたら、あんな風に遊び歩いていられないわ?」

カロル「…違うと思う」

母「へ?」

カロル「焦って不安になるから好きなことをして紛れさせたくなるのかも…」

漁師「……」

母「それじゃダメじゃない?自業自得よ?」
271: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:50:53 ID:o6D2/o4bEU
漁師「実を言うとあいつんとこは借金してっし…もう三度も納税を怠ってる」

母「…納税?」

漁師「お国に差し出す金だ。それを払わねぇと民の生活は保障されんと…まぁ丸っきりカツアゲだがな。一体、何に使うやら分からん?」

母「払わなかったら…どうなるんです?」

漁師「前までは見せしめに惨殺されるか、街ごと焼き滅ぼされてたが…国王が変わってからは今んとこむごい噂は聞いてねぇ」

カロル「(王子さま…)」パァァ

漁師「だが…義務は義務だ。命は取らんでも憲兵に捕まっちまうのがオチだな」

母「…ますます分からないわ?そんなに追い込まれているのなら、なぜ働こうとしないの?」

漁師「わかんねぇ…。だから俺も口酸っぱく言ってんだがよ」

母「……何か働けない理由でもあるのかしら」

カロル「理由なんてないんじゃないかな」

母「え?」

カロル「あの山賊の人間もそうだったけど…」

漁師「…なにがだ?」

カロル「分からないけど…理由がある人は、ちゃんとした理由を話すと思う」

漁師「……?」

母「…どうなのかしらね。よそ様のことだから悪し様には言えないけど奥さんと子供がかわいそうよ!」

漁師「ま、そりゃそうだな。おっと客が並んだ。ちょいと横に」

母「あ、すみません」ススーッ

客1「あ、いえ」スッ
272: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:52:55 ID:o6D2/o4bEU
客1「お話中悪いね。これくれや」ビッ

漁師「あ、はいはい!こいつですと、ちょいと網にもがいて身を引っ掻いてんで、こっちにしときましょうか?」グイッ

客1「ありがとよ。いくらだい?」ニコッ

漁師「銅貨480枚になります!」

客1「はいよ」ゴソッ ジャラッ

漁師「はいはい!ちょうど頂きます!毎度どうも!」ヘコヘコ

客の子供2「パパ!これっ?」キャッキャッ

客2「高いよ…。こっちの下ろしてある鯵で十分だ」

漁師「はいはい!鯵ですね?いくつ?」

客2「4尾でいいかな…。そんな高くないだろ?」

漁師「4尾ですと…652枚ですね。取れたてなもんで?」

客2「……じゃあ一匹減らしてくれ」

漁師「はいはい!489枚になります!」

客の子供2「やだー!桃色のがいいのー!」

客2「……うるさいな。みんな見てるぞ?」

客の子供2「やだー!やだー!やだー!やーだー!」ジタバタ

客2「……!?」イラァッ

漁師「……」オロオロ
273: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:54:37 ID:g4lCkLBiEw
カロル「」ポンポン

客2「わあっ!?」バッ

カロル「怒らないであげて?」ジッ

客2「な、なんだ、お前…ホビットのクセに…!」

カロル「……」シュン

客2「うっ…」タジッ

カロル「おいしそうなお魚がいっぱいあるんだもの。お腹空いちゃうよね?」ニコッ

客2「……だ、だからお前はなんなんだ?」

カロル「マルク!泣き止ましてあげて!」

マルク「わんっ!」トトトッ

客の子供2「ふえ?」グズッ

マルク「あぅん?」ペロペロ

客の子供2「ふえ〜?えへへー!」パァァ

マルク「あんっ!」シッポフリフリ

客2「……」

カロル「おじさま!これっ?」つ【魚×1】

客2「なっ…」

母「坊や…」

漁師「あ、それは…」

カロル「あげる?」ニコニコ

客2「…な、なんで初めて会ったお前に…しかもホビットなんかに…同情されなくちゃ」ググッ

カロル「同情じゃないよ?二匹もらったけどボクとお母さまだけじゃ食べきれないの?」

母「(ホビットなんかに…?)」ピクッ
274: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:56:28 ID:g4lCkLBiEw
客2「……い、いら」

客の子供2「」グゥゥッ

客2「」ハッ

客の子供2「ぼくん家ね?夕ごはんだけなんだ?パパは少食でママは痩せたいんだってさ?」ナデナデ

マルク「あう?」

客の子供2「領主様の家のトールくんはパンとお肉、スープにサラダ、豆コーヒーもあるんだよ?」ギュッ

客の子供2「ぼくだって、もっとたくさん食べたいよ…。今日で8歳になるんだもん」シュン

母「お誕生日、だったのね…」

客2「っ…くく…!?」ワナワナ

客2「(お、俺だって…!俺だって必死なんだ…!まだ王政の変化が整いきってないじり貧生活で暮らしはまったく楽にならないんだぞ!)」

客2「(だから今日は築地に入って新鮮なうまい魚食わして…お祝いに新しい靴でも買ってやろうと寝る間も惜しんで働いてきた…!)」ググッ

客2「(けど…僅かな賃金に見合わねぇ労働量で…やっと貯めた金を、この目で見ると……やっぱり惜しい…!)」ジャラッ

客2「(この金があれば…明日からの暮らしがほんの少しだけ楽になる…!この調子で働き続ければ蓄えも出来る…!
今日を我慢して明日に繋げれば…きっと来年にはもっと贅沢に祝ってやれる…!)」

客2「(そんなこと…今日を楽しみに待ち望んでた子供にはわからない…。
なにより子供の笑顔をさておいて保身に揺らぐ自分が馬鹿馬鹿しい)」

客2「(…それでも、その日の辛く悲しい出来事がいつか…微かな笑顔になれば報われるんだと。
今は恨まれても時間が経てば分かってくれるさ)」フッ

客2「(俺たちの必死な暮らしを…こんなホビット程度に同情されてたまるか!)」ジロッ

カロル「(お魚重たいなぁ…。差し出したまんまだもん……)」プルプル
275: ◆WEmWDvOgzo:2014/12/31(水) 14:59:38 ID:o6D2/o4bEU
客の子供2「」ナデナデ

マルク「くぅ…」スリスリ

客の子供2「…あーあ、お金持ちの家だったらなぁ」ボソッ

客2「なんっ…だと!?」プチィッ

漁師「あ、ちょっ…お客さん!」アタフタ

カロル「だ、だめっ…」ビクッ

バッ バシィンッ!

客の子供2「……!?」ドギマギ

客2「…!」ハァッハァッ

母「っ…!」ヒリヒリ

カロル「お母さまぁ!?大丈夫!?」バッ

母「うん、なんともないわよ?」ニコッ

客2「あ、あんた…なにしてんだ!?」

母「あなたこそ何をなさるんですか?ここは往来の場ですわよ?」キッ

客2「お、俺の勝手だ!他人の事情に口出しすんな!」

母「いいえ!同じ子を持つ親として言わせてもらうわ!」ピシャリ

客2「な…な…!?」

母「いくら親が苦しんでいても子供には理解できないんです!」

客2「は…!?」

母「なぜ自分たちだけがひもじいのか…どうして我慢を強いられるのか…他の子たちと何が違うのか…家が貧乏な理由すら分かりっこないでしょう!?」

客2「う…くっ!」

母「…多少は運命を呪いますよ。悲しい言葉をかけられるのはやりきれないわ…?」

母「でも…それでもあたし達は親である以上…そんな想いをさせないように頑張るしかないじゃない!?」カッ

カロル「……」
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