前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
918: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 18:57:34 ID:3tudtLsmHQ
近衛兵38「王子より伝言を承りました!」
団長「おぉ、王子からか。狂った連中は修道服にしか反応せんから、ケガはするまいが…何か不測の事態に出くわしたか?」
近衛兵38「ははっ!それが…」
団長「……?」
近衛兵38「信者と教徒を可能なだけ集めて指定した場所に待機させろとの事で!」
団長「はぁ?」
近衛兵38「それから…なるべく静かに…身を潜める感じでとも…おっしゃってました」
団長「はぁ!?平原だぞ!?どうやって身を潜めろと!?」
近衛兵38「いえ、場所はかなり離れているのですが…林の方だそうです」
団長「林ぃ!?どこまで離れてるんだ!?」
近衛兵38「わ、分かりやすいように小石を撒いておいたそうなので…それを頼りに…」
団長「小石なんぞいくらでも落ちてるだろうが!?それに草だらけで足元なんか見えんぞ!?」
近衛兵38「わ、私に言われましても」
団長「はぁ…王子のワガママも困ったものだな。分かった。ワシがなんとかしよう」ヤレヤレ
ミシング「あたしも付いていきまーす!」ハイハーイ
団長「…そ、そうか」
近衛兵38「こちらは我々にお任せを!」
団長「あぁ、よろしく頼む」
919: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:03:03 ID:banBor1Vxw
―――林―――
アントリア「はっはっはっ…はぁっ!はぁっ!」ゼェゼェ
ラム「…よく走れるね。いい歳なんだから無理はよくないよ」スタスタ
アントリア「な…ぜっ!僕を…はぁっ!し、執拗に…狙うのかね!?」ゼェゼェ
ラム「ん?人間だから?」
アントリア「教団は……司祭が…創った!」
ラム「へぇー」
アントリア「教団への…復讐は達した…はずだ!?」ゼェゼェ
ラム「そうだね」
アントリア「見逃して…くれ!僕は…ホビットの差別を…促しては…いないんだ!」ゼェゼェ
ラム「あっそ?じゃあ死のっか?」スタスタ
アントリア「よせ…!?」ビクッ
「わんっっ!!」タタタッ
ラム「は?」クルッ
マルク「はっ!はっ!」ザッ
ヒメ「やっと見つけたぞ!観念しろ!」ザッ
ルーボイ「ラム!いい加減にしねぇとダメだろ!やりすぎなんだよ!」ザッ
ナラ「ひとを…きずつけるの…かなしい、いっぱい!やめよ…?」ザッ
ラム「…あれ?君……」
ヒメ「あぁ、癒してもらったよ。おまえに刺された傷が深くて、あと一歩で死ぬとこだった!」
ラム「なーんだ?死ねばよかったのに?」
ヒメ「なんだと!?」ムカッ
ラム「君らだけじゃないだろ?あいつはどうしたの?」
ルーボイ「あいつは……」
920: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:08:16 ID:3tudtLsmHQ
アントリア「」ダッ
ラム「あ!」ハッ
アントリア「こんな…こんな…形で…終われないんだよ…!」タタタッ
ラム「待てよ!」スッ
マルク「うぉんっ!!」バッ
ラム「うわっ!?」ピタッ
ヒメ「待つのはおまえだ!」ジャッ
ルーボイ「へへーんだ!通さねぇかんな!」バッ
ナラ「……!」ジッ
ラム「はぁ?どいてよ?」ジロッ
マルク「グルルルル…!」フシューフシュー
ルーボイ「どかねーよーだ!」
ナラ「あのひとは…せんきょうしさまとカロルが…なんとかするの」
ヒメ「さっきの借りを返してやる!」
ラム「ふーん…まぁいいや。どうせ全員殺すから」シラー
921: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:17:12 ID:banBor1Vxw
アントリア「うぐぅ!うはぁ!」フラッフラッ
バッ バッ
アントリア「!?」ヨロッ
宣教師「お待ちいただけますか?」ズイッ
カロル「もう逃げられないよ?」ズイッ
アントリア「くくっ…!」ジャキッ
宣教師「武器を手放しなさい。この場を切り抜けてもあなたに未来はありませんよ?」
アントリア「黙れぇっ!?」ブンッ
カロル「…やめようよ?」ジッ
アントリア「アピシナの実は存在したんだ!まだ永遠の国を創る事は可能なのだよ!」
宣教師「永遠の国…ですか」
アントリア「ノワールが亡くなってしまったのなら僕が神国の指導者となり、民を!信者を!教徒を!」
アントリア「守り育て、導いてやらねばならない!僕には使命が……」
カロル「いいよ…。無理しなくて?」オロオロ
アントリア「……!?」
カロル「それって…アントリアさんのやりたい事じゃないでしょう?」
アントリア「な……な…!?」
カロル「…なんとなくだけど、そんな気がする」
アントリア「黙れ!崇高なる使命を汚すな!?」
宣教師「あなたに使命などありません。それは都合のよい勝手な思い込みです」
アントリア「な…んだ…と!?」
宣教師「今、あなたがすべき事は過ちを認め、罪を償う。それだけです?」
カロル「ちゃんと謝って、みんなにホントのこと言った方がいいよ!」
アントリア「く…くく…!」ギリッ
宣教師「断りますか?」
アントリア「当然だぁ!?」
922: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:23:18 ID:3tudtLsmHQ
宣教師「では仕方ありませんね。ラムくんを解放してきましょうか?」
カロル「…う、うん」
アントリア「……!ま、待て!?」
宣教師「なにか?」
アントリア「そ、それは困る…あんな化け物を…!」
宣教師「あんな化け物?」キョトン
カロル「ラムくんは化け物なんかじゃないよ!」
アントリア「化け物だとも!腕を切っても足を切ってもジュクジュクと蠢いて再生する!?気色の悪い化け物だ!?」
宣教師「たとえそうだとして……その化け物になりたがっていたのはあなた方ではありませんか?」
アントリア「そ、それは…!」
宣教師「彼を変えてしまったのもあなた方なのですよ?」
カロル「そ、そうだよ!差別が無かったらラムくんの心は傷付かなかったもの!」
アントリア「……」
宣教師「罪を認め、告白し、償いなさい!」
アントリア「(…冷静になるんだ!まだ終わってない!あの果実さえあれば…!)」
アントリア「(果実さえ…あれば……どうするんだ?)」
アントリア「(あんな化け物になるのか…?いや、しかし今は迷ってる暇は……)」
923: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:25:22 ID:banBor1Vxw
宣教師「どうしますか?」
アントリア「…分かった。君たちの望み通り、皆に謝罪しよう」
宣教師「……」ジーッ
アントリア「(この場はやり過ごし、隙を見て果実を手に入れるしかないか…)」
宣教師「果実が気になりますか?」
アントリア「……は?」
宣教師「あれは処分しますよ」
アントリア「…そ、そうだね。あんな物があってはならない」
宣教師「あなたが利用してきた高官や司祭の腹心だったアリアスからも証言が取れてます」
アントリア「!?」
宣教師「身柄は確保してありますから、彼らにも同様に罪を告白していただくつもりです」
アントリア「そ、そんな事をすれば彼らもタダでは済まないだろう?」
カロル「リルラさんと大臣さんは王子さまに付いていくって?」
アントリア「…だ、だが他国との折り合いは付けられないだろう?僕でなければ!?」
宣教師「まだそこまでは考えてませんよ」
アントリア「あっという間に食い尽くされるぞ!いいのか!?」
宣教師「……」
アントリア「民衆にも他国にもこの件は隠すんだ!今ならまだ間に合う!僕に任せておけ!全て円滑に……全てうまくいく!?」
宣教師「果実を栽培して民に永遠の命を与える…ですか?」
アントリア「の、ノワールから聞いたのか!だがそれだけじゃない!宗教を全面に出して……」
宣教師「それらは全て民の信頼あってこそ実現できる事ですよね?」
アントリア「あぁ、そうだとも!僕なら実現が可能なのだよ?皆も永遠の命を求める筈だ!?」
924: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:28:16 ID:3tudtLsmHQ
カロル「かわいそうな人…」ボソッ
アントリア「……は?」
カロル「まだ気付かないの?ラムくんを見て、なんとも思わないの?」
アントリア「な、何がだね?」
カロル「少しずつ自分を大事にしなくなってる…。
傷付いても傷付いても治るからって体を痛め付けて…心が麻痺してるんだよ……」
宣教師「……」
カロル「あんなこと続けたら、いつか壊れちゃうよ…。それでも死ねないから…とても苦しいと思う」
アントリア「……」
カロル「守らなくちゃいけない国の人達に…そんな思いをさせるの?」キッ
アントリア「…ぼ、僕が国を治めれば健全な……」
宣教師「騙されたまま、間違った道を歩まされるのは不健全極まりないでしょう」
アントリア「ぐっ!」
カロル「アントリアさんが自分で言えなくてもボクたちは全部話すからね?」
宣教師「…あなたの口から聞いても嘘か本当か分かりませんしね。証人も十分過ぎる程います」
アントリア「黙れ…!」ジャキッ
宣教師「何をなさるおつもりで?」
アントリア「まだやり直せるんだ!僕はこんなところで終わるような人間ではない!!」
アントリア「もう一度、信者を洗脳して全員に永遠の命をくれてやる!!」ザッ
アントリア「奴らのような小市民は未来永劫、僕を崇め奉り、苦しかろうと駒として生き続けるべきなんだぁ!?」
宣教師「…ここまで落ちぶれてしまうとは思いませんでしたよ。今のあなたは小悪党そのものです」
アントリア「この僕が…小悪党だと…!?」
カロル「自分ばっかりで…なんにも見えてないんだね。ホントにかわいそう」
アントリア「ぐ…あぐぅ…!?」ギリギリ
宣教師「なにせ手駒と策を取り上げられた途端、野蛮な暴力に頼る有り様ですから…あなたに神官の位はもったいない?」
アントリア「初めてだよ…!感情任せになぶり殺したくなったのは…!?」
925: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:34:49 ID:3tudtLsmHQ
宣教師「皆さん!これが神官の本性です!」
ババババババババババッ
アントリア「えっ」
ザワザワ ザワザワ
信者's「」ジロジロ
教徒's「」ヒソヒソ
アントリア「しょ、諸君……なぜここに…!?」ワナワナ
団長「貴様の悪辣非道な所業の数々…全て聞かせてもらったぞ!」バッ
アントリア「ち、違っ…違うのだよ?今のは全て彼女に言わされたんだ!事実無根だ?」アセアセ
ミシング「…神官。これ以上、あたし達を失望させないでください?」スッ
アントリア「た、た、たた…た…たまたま……たまたま…たまたま……」
宣教師「その言い訳に続きがあるのでしたら是非ともお聞かせ願いたいですね?」ザッ
アントリア「う……!?」
カロル「ホントのことを話して謝って?」ザッ
アントリア「ふ…ふっふっ!ハハハハハハハハハ!!!」ゲラゲラ
シーン
アントリア「そうだとも?全て僕の仕組んだ事だ?」ニヤリ
宣教師「教団の伝える伝承は嘘なんですよね?」
アントリア「あぁ、嘘だ?」
ザワッ
926: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:37:07 ID:banBor1Vxw
アントリア「今は亡き我が父バンガランが作り替えたのだよ?
実際の内容はアピシナというホビットが癒しの力を注いで育て上げた大樹にまつわる物でね?
その樹から成る果実には計り知れない生命力が宿り、食した者に永遠の命が与えられると言う?」
信者's「そんな…私達は今まで何を信じて……」
アントリア「君たちはこの日の為に踊らされたに過ぎないのだよぉ!?アハハハハハ!!!」
団長「なぜそんな事をする必要があった!?」
アントリア「まずは戦争を止めなければ自由に身動きが取れないからねぇ!?
これを口実に戦争を治め、大樹を探す事から始めたのさ!?」
宣教師「司祭様は勝手に捏造されたと…」
アントリア「ノワールは頭が堅いからな!素直に全国に広めてしまったら我々で独占出来なくなるだろう!?」
ミシング「…じゃあ司祭様に黙って進めたんだ」
アントリア「あぁ!そうだ!そして大樹自体はあっさり見つかった!なんせ目立つからねぇ!?
すかさず伝承を証明する遺産として王国の所有地に指定し、誰にも触れられぬよう厳重に管理させた!」
アントリア「あとは癒しの力だけだ!だがこれが最大の難関だった!
なぜならホビットが全員、癒しの力を持ってる訳ではなかったからだ!」
アントリア「そこで僕はホビットの差別を進め、癒しの力は盗まれた物だと人々に植え付け…教団に目撃情報を募ってみたがどれもガセ!ガセ!ガセ!」
アントリア「かすり傷が一週間したら消えてただの風邪が五日で治っていただの、くだらない情報ばかりだ!?」
アントリア「いつまで経っても進展しないまま…実に30年もの月日が経った!?」
教徒's「30年…!?」ザワザワ
アントリア「らちが明かない…。そう考えた僕は様々な村や町で罪を犯した快楽殺人の常習犯を、とあるツテで集めた…」
団長「…なぜそんなならず者を?」
アントリア「癒しの力を探す為さ!
そいつらにホビットを集めさせ、ひたすら虐殺させれば…いずれその中に異質なホビットが現れると思ったんだよ!」
アントリア「たとえば自力で傷を癒すホビット…それでなければ他人の傷を癒すホビット…。
とにかく傷を負わせれば癒しの力を使う機会が一気に増える!」
カロル「それ…もしかして…」
アントリア「気付いたかね?それがヘマトバザールの起源だよ?」ニタァァ
カロル「……!」ブルッ
927: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:44:55 ID:banBor1Vxw
アントリア「だがそれでもホビットは癒しの力を使わなかった…。いや、持っていなかった」
アントリア「一方でノワールといえばマジメに探す訳でもなく、打開策を見出だすでもなく…呆れたものだよ。
どうでもいいみなしご共の育成支援や貧困に喘ぐ町村への資金援助と学問教授にばかり力を注ぐ……無能な偽善者に成り下がっていた!」
宣教師「(つい見落としがちですが確かに司祭様のもたらした功績は振り返れば素晴らしい物ばかり…。
一方でアントリア神官は王国専属の僧侶であった為か、表立っての名声は少ない……)」
アントリア「僕はいつでも計画に移れるよう、いざとなれば大樹への行き来が可能なようにしておいたのにだ!
その為だけに木っ端役人だったリルラを政務官にまで押し上げてやったんだ!」
アントリア「しかしなぜだ!こんなにも知恵と努力を惜しまない僕に神は振り向こうとしない!結局はノワールが全て持っていく!?」
アントリア「彼は見つけてしまったんだ!10年前に!癒しの力を!?」
宣教師「え!?」
カロル「ボク以外に!?」
アントリア「いぃぃや…多くのホビットを見てきたが…君以外にはいない?
なにせ全てのホビットが癒しの力を隠してるんじゃないかと疑い、一匹一匹を極限まで追い詰めてきたが…」
団長「追い詰めた…だと?」
アントリア「あぁ…仲間や家族を人質に取って脅してみたり、ヘマトバザールに様々な形で拷問だってさせた。
一般人の差別感情を煽ろうと布教を徹底し、村や町に住まうホビットを含め、癒しの力に頼らざるを得ない状況だって作った!」
アントリア「しかし、あまりにも無意味に時間と労力を消耗し、豊富な人脈と財を使い捨てた…。
憤りもあって…王国の兵力を使い、焼け跡にしたホビットの集落は数知れず…だ」
団長「お、おのれぇ…!貴様の勝手な都合で多くの人間を巻き込みおってぇ…!」ワナワナ
カロル「……!」
宣教師「(カロルくんのお母様の故郷はたしか小さな集落で……王国に滅ぼされたと言ってましたね)」
カロル「」プルプル
宣教師「(悔しいでしょうが…我慢ですよ。アントリアが全てを話すまでは……)」
928: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:51:17 ID:vWnFtiNco.
宣教師「それで?十年前に見つけた癒しの力はどうしたんです?」
アントリア「君は淡々と聞くのだね!?」
宣教師「聞いてほしいのでしょう?」
アントリア「はぁ…!?」
宣教師「築き上げた物が崩落してしまった、そんなあなたが縋ろうとしているのはなけなしの自尊心。
かつての栄光と多大なる人々に影響を与えた自分の存在を『僕って凄いだろ?』と語りたいのですよね?」
アントリア「な、なんだとぉ!?僕がそんなちっぽけな人間に……」
宣教師「見えますよ。少なくとも今は?」
アントリア「…ぼ、僕は……」ガチガチ
アントリア「わぁぁ…ああああ!!?」ガクガク
宣教師「大丈夫ですか?ほら、どうぞ勝ち誇ってきた頃を思い出して語ってください?
その安い自尊心まで砕けてしまったら…とても自我を保てないでしょう?」
アントリア「ひげぇぇきのぉぉまちぃぃい……!」
カロル「ちょ、ちょっと様子が……癒してあげた方がいいかな?」
宣教師「必要ありません。この方にはもったいないですから」
アントリア「悲劇の町だ!そこで癒しの力が存在すると分かった!!」
宣教師「!?」ピクッ
アントリア「よぉく知っているだろう!?なんせあの町は……君の生まれ故郷なのだからなぁ!?」
カロル「せ、宣教師さまの…!?」
信者's「え…あの娘が悲劇の町の…少女?」ザワッ
アントリア「君たち二人はいつ出会った…?」
宣教師「はい?それはまぁ…3ヶ月程前に布教していた村で…ですよね?」
カロル「う、うん…」
アントリア「それが間違いなんだ!出会ってるんだよ…!10年前からすでに!?」
宣教師「え?わ、私とカロルくんが!?」
カロル「そ、そうだっけ?その頃はボク…まだお母さまとおじいさまと三人で旅してたけど…」
929: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:54:47 ID:nDd6VU8Z3.
アントリア「あれは10年前、耄碌した老人が戦争の話を町人に語った事から始まった悲劇……それがコトの真相だぁ!?」
宣教師「…カロルくん、小さい頃に人間の町に入ったことはありますか?」
カロル「う、うん。一回だけ…おじいさまには内緒で」
宣教師「た、たとえばそこで…誰かとお話とか…しましたか?」
カロル「……」
宣教師「そ、そうですよね?会ってないですよね?」
カロル「ビスケット…」
宣教師「」ピクッ
カロル「…お母さんが焼いてくれたビスケット、おいしいよって…分けてくれた」
宣教師「(あ、あ……なにか…頭痛が…!)」ズキッ
『サクッ…わぁ!おいしいね。これ、なんていうの?』
宣教師「(あ、あれ…?あれ!?)」ズキズキ
アントリア「お花を摘みに行ってる間に町が消えてた!?ではなぜ花を摘む為だけにわざわざ町を出た!?」
『町の外にね、お花があるんだ?黄色と白のかわいいお花!』
宣教師「(あ…あ…お、朧気に…思い出せそうな……)」
930: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:56:19 ID:vWnFtiNco.
『一緒に摘みに行かない?』
『ボクとお母さまは明日、また旅しなきゃいけないから……会えなくなるんだ』
宣教師「(そ、そうだ…!たしかこの後……)」
『おい、なにやってんだ!そいつホビットだろ!』
宣教師「(お兄ちゃんが…来て……)」
『なんかこそこそしてておかしいと思ったんだ?』
『兵士さん、こいつが妹にちょっかい出してるんです!』
『見たとこ野良のホビットか。法律で野良ホビットは極力、教団に引き渡すようになってる。嬢ちゃん、そいつから離れなさい』
宣教師「(税の徴収に来た王国兵を呼んで…あの子を連れていこうとした…)」
『離してよ!ボクらはともだちだよ!』
『抵抗するな!』
ガッ ドカッ
『うくっ…ぐすっ……うえええん!』
『はっは!泣いても誰も同情せんよ!』
『ん?なんだ、嬢ちゃん?』
『なに?かわいそうだと?』
『はっは!かわいそうってのは……』
バキッ ガッ ドカッ
『こういうことか?はっは!』
宣教師「(結局、彼はそのまま連れていかれた……)」
『あんな奴、忘れろ。いなくていいんだ、最初から』
宣教師「(…前に見た夢はこの時の記憶?お兄ちゃんが同じように言ってた……)」
宣教師「(あの時の少年が……カロルくん?)」
931: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 20:01:15 ID:vWnFtiNco.
宣教師「そうだ…私は彼を忘れられなくて…次の日、もしかしたらと町の外に出た……」
アントリア「思い出したか!?」
カロル「…あんまり覚えてないけど、宣教師さま…だったの?」
宣教師「き、君は町で兵士に乱暴されませんでしたか?」
カロル「え…どうだったかな。そういうこと、よくあったから…」ウーン
宣教師「私の記憶では…あの子は兵士に連れていかれて……それっきり」
アントリア「…実際は連れていかれてない」
宣教師「……」
アントリア「傷を負った子供だ。動けまいと判断し、目を離していたらあっさり逃げられたそうだ」
カロル「あ!そうだ!町を出る時、お母さまと待ち合わせしてたから、走って逃げたよ?」ピカーン
宣教師「や、やはり…君が…」
アントリア「それを聞いて癒しの力の存在を確信したノワールは自ら悲劇の町へ赴いてみたが…すでに町には君しかいなかった」
宣教師「……!」
カロル「ボクと宣教師さまってずーっと前に会ってたんだ…!嬉しい!」パァァ
アントリア「喜んでいていいのか!?」
カロル「へ?」
アントリア「彼女が君と関わったばかりに…癒しの力があると分かってしまった!
つまりだ!この女が君と関わらなければ僕もノワールも諦めていたかもしれない!?」
アントリア「なぁ、そうだろう!?こいつのせいで癒しの力が狙われ続けるんだ!こいつが君の運命を狂わせたのだよ!?」
宣教師「……」シュン
カロル「アントリアさん」
アントリア「ふっふっハハハハハハ!なんだね!?」
カロル「人のせいにしちゃダメだよ!宣教師さまは関係ないじゃない!」
アントリア「はぁ!?だ、だがね!?この女が……」
カロル「ボクは宣教師さまと出会えて幸せだもの。
癒しの力を狙われてひどい目に遭っても…宣教師さまにもらった幸せの方が大きいよ!」
宣教師「……!」ジーン
932: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 20:07:28 ID:nDd6VU8Z3.
アントリア「ぬっ…あああ!!黙っれ!!」
カロル「……」
アントリア「はぁ…はぁ…お前らのようなお人好しに負けたのかと思うと…震えが止まらんよ!」ワナワナ
アントリア「なぜだ!なぜ僕じゃない!完璧だったじゃないか!何もかもが!?」
アントリア「計画も完璧!君らを確実に追い詰めた筈だ!?」
宣教師「…今の彼の言葉を聞けば敗因は明白ですよ」
アントリア「なにぃ!?」
宣教師「絆を大切にするか、しないかの差です」
アントリア「絆ぁ!?」
宣教師「平気で人を騙し、平気で人を裏切るあなたと…純粋に人を信じ、裏切られても絆を捨てなかったカロルくんでは大きな差があります……」
アントリア「若輩者が偉そうに…!」ギリッ
宣教師「いざとなって利害を伴わず助けてくれる仲間があなたにはいますか?」
アントリア「く…く…!?」
宣教師「あなたは長年の友人だった司祭様にすら黙って…影で悪事を働いていた」
アントリア「ノワールは!正直過ぎた!奴も所詮は愚かな戦争孤児だ!
本気で夢を叶えたいと望むなら!進んで手を汚して当然なんだよ!」
宣教師「…あの方も私に言わせれば十分、悪人でしたよ。
しかしあなたのように誰も信じず、人を手駒としか見れない程、腐ってはいませんでしたが」
アントリア「なにが悪い!?最終的には皆、幸せにしてやるつもりだった!その為に動かしてやったんだ!」
アントリア「頭の悪い正直者は誰かに使われない限り、無駄に人生を使いきるだけじゃないか!
僕はそんな愚図共を有効利用してやったまでだ!」
宣教師「結果としてこうなってしまいましたけどね?」
アントリア「……!?」
933: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 20:09:49 ID:nDd6VU8Z3.
宣教師「彼が深めた多くの絆は今、確かな力となってあなたの前に立ちはだかっています。
この強力な絆に抗う術が今のあなたにありますか?」
アントリア「……」ガクガク
団長「……」
ミシング「あははっ!イイこと言う〜?」
信者's「」ジロジロ
教徒's「」ヒソヒソ
宣教師「私を含め、ここにいる皆があなたに踊らされてホビットを差別してきました…」
宣教師「ですが、そのホビットによって私達は目を覚まし…今こうしてあなたを追い詰めている」
宣教師「…絆なくして人は人を愛せない。絆を踏みにじってきたあなたを救おうとする人間は…ここには一人としていませんよ」
宣教師「罪を受け入れ、償いなさい!それがあなたに課せられた唯一の使命です!!」
アントリア「……し、し、し…うわあああああ!!!」ガクッ
カロル「……」
アントリア「お前なんかに…!僕の…40年を費やした計画がぁ……クソォォォォォ!!!?」ダンッ
団長「うむ!これで分かったな?ワシらはこれまで操られるがまま、憎しみに支配されてきた!
だがそれは作為的なものであってワシらの意思ではない!」
団長「これからやり直そうじゃないか!ホビットにぶつけてきた憎しみを捨て……共に歩める道を築こう!」
ミシング「はいはーい!あたしもおじさまに大さんせー!!」
オォォォォォォ!!!!
団長「…貴様だけは許さん?覚悟しておくんだな?」ガシッ
アントリア「くそっ…ぅあああああ!!!」
カロル「…宣教師さま」
宣教師「分かってますよ。まだ終わりではありません」
カロル「うん!ラムくんの憎しみもなくさなきゃ!」
934: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 20:13:51 ID:vWnFtiNco.
ミシング「だーれだ?」ピトッ
宣教師「うわっ!え?え?」アワアワ
ミシング「惜しいっ!正解は大親友のミシングちゃんでしたー!」パッ
宣教師「ミシング!?あなたも来てたんですか!?」
ミシング「あれ?ルーボイくん達から聞かなかった?」
宣教師「あ…確かシスターのお姉さんも協力してくれてると?」
ミシング「あはは!お姉さんなんて照れるなー!ま、そゆこと!あなたが危ないって言うから心配してたんだよー?」
カロル「……」
ミシング「あ、君、君!お名前は?」
カロル「カロルって言います!はじめまして…えっと」ペコリ
ミシング「ふっふーん!美人シスターのミシングお姉さんだよん?
カロルくん、宣教師と仲良しなんだってー?」
カロル「うん!はじめてのともだちなの!」
ミシング「そっか、そっかー?お姉さん、妬けちゃうなー?」
宣教師「あのー…ミシング?積もる話もあるでしょうが……」
ミシング「っていうか、かわいい!頬っぺたツンツンしちゃお?」ツンツン
カロル「やっ!ちょっ!やめて!」プニプニ
ミシング「きゃー!嫌がり方に母性くすぐられちゃう!」ツンツンツンツン
宣教師「……!」イライラ
935: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 20:15:45 ID:vWnFtiNco.
宣教師「……ミシング!!」ガァーッ
ミシング「あひょっ!?」ビクッ
宣教師「まったく!カロルくん、こんな痴女はほっといて行きましょう!」スタスタ
カロル「う、うん。ミシングさん、またね?」フリフリ
ミシング「あれれ?どこいくの?」
カロル「うん。ちょっとね」
団長「おい、君たち!」
宣教師「あ、団長さん。指定した通りに皆を集めてくださってありがとうございました。おかげさまでアントリア神官の悪事を暴けました」
団長「苦労したがな…。それより王子は?」
宣教師「後から来ますよ。団長さん達は神官の拘束と残りの兵の阻止に励むようにとの事でした」
団長「そうか。では王子の事は頼んだぞ!」
ミシング「おじさま!」ヒョコッ
団長「」ビクッ
ミシング「あたしもお手伝いしまーす!」
団長「あ、あぁ…よろしく頼む」
カロル「宣教師さま!」
宣教師「えぇ!」
タタタッ……
ミシング「…あの子、明るくなったなぁ」
団長「……?」
ミシング「ふふ。なんでもないです」
団長「実はな。王子もそうだった」
ミシング「王子様が?」
団長「あぁ、あの方も…よい出会いに恵まれた」
ミシング「絆…ですかね?」ニコッ
団長「うむ。かけがえのない絆だ…」ニコッ
936: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 21:46:08 ID:50l4o5eNes
――――――
ラム「しつこいなぁ…。なんでそんなにがんばるワケ?」
ヒメ「お前を助けてやる為さ!」
ラム「…はぁ?」
ルーボイ「…あいつらが助ける助けるって聞かねぇんだよ!だからアントリアを先にしたんだ!」
ラム「助けるって…邪魔しないでくれた方が助かるんだけど?」
ナラ「しんかん…とめたら、さべつ…ほんとに、なくなる!」
ラム「あぁ、そう…」シラー
マルク「わんっ!わうん!」
ラム「ごめん、全然分かんない」
マルク「あうん」ガーン
ヒメ「おい!おまえらは下がってろ!ケガしてるだろ?」ザッ
ルーボイ「へへっ!お前だって腕、血ぃ出てんじゃねーか!」
ナラ「やくそくしたんだもん…。さんにんで、ひきとめるの!」
マルク「はうっ!?」ガガーン
ラム「もうどうでもいいんだけどなぁ…。差別とか」ボソッ
ラム「(あれ?そういえば…なんの為に…こんなこと……)」
ラム「うーん…どうでもいいや」ボーッ
937: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/30(土) 21:48:39 ID:50l4o5eNes
ラム「剣、抜かないの?」ブラブラ
ヒメ「…オレたちの役目は時間稼ぎだ。攻撃はしない!」
ラム「ふーん…」シュッ
ヒメ「おっと」サッ
ラム「……うまく避けるね?なんかやってんの?」
ヒメ「簡単な護身術さ。おまえにも今度、教えてやろうか?」
ラム「…馴れ馴れしいなぁ」スッ
ラム「(んー…いつもだったら…イラつくんだけどなぁ)」ボーッ
ヒメ「おい、下がったぞ?」
ルーボイ「逃がさねぇかんな!」バッ
ナラ「うしろは…まかせて?」バッ
マルク「くぅーん」イジイジ
ラム「(いい子ぶってる奴らが変にヤル気出して邪魔する…。こういうの…イラつくのになぁ)」ダッ
ナラ「」ビクッ
ルーボイ「ナラ!」ダッ
バッ ガシッ
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