前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
909: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:23:51 ID:H.kvyPRca6
???「」タタタッ
ヒメ「いい加減にしろ!悪かったって言ってるだろ!?」ムキー
カロル「わーん!ヒメくんがおこったー!?」ビエーン
宣教師「はい、では一斉に!」スッスッ
ルーボイ&ナラ「いーけないんだーいけないんだー!せーんせーにーいっちゃーおー!」ソプラノ
ヒメ「あぁ!うるさいな、もう!?」
近衛兵37「ふんがっ!」ダッ
ヒメ「ってうわああ!?カロルぅ!?」ハッ
カロル「グスッ…え?」キョトン
ダッ バッ ドカッ
近衛兵37「ふがっ!?」ドタッ
マルク「がぅぅ!わんっ!わんっ!」ガッ
カロル「マルク!?」
ルーボイ「あぁぁ!?」
宣教師「主人の危機に駆け付けるなんて、さながら忠犬バチコンですね!」
ルーボイ「どこ行ってたんだよ!マルク!」
宣教師「どこって…危険なのでキミが置いてきたのでは?」
ルーボイ「ちげー!ナラと合流する時、急いで走ってたら置いてった!」
ナラ「かわいそー…」
マルク「うぅー…!」ガブガブ
近衛兵37「ふがああ!?」
宣教師「…マルクくん、怒ってますよ?」
ルーボイ「う…やっぱ犬、苦手かも?」タジタジ
910: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:28:50 ID:Ei6luXh5hM
カロル「はい?」ピトッ
近衛兵37「ふ、ふが?おいら…なんで?」フワッ
マルク「グルルルル!」ギロッ
ルーボイ「ひえっ!?」
宣教師「多分、あれは『ケガして疲れてるボクを、よくも置いてったな』っていう目ですね?」フムフム
ルーボイ「ご、ごめん!急いでたからしかたなかったんだよ!?」ブルブル
マルク「ばうっ!ばうっ!」
ルーボイ「ひぃ!?」ビクゥッ
宣教師「マルクくん、後ろを見てください?」
マルク「わう?」クルッ
カロル「……」ジーッ
マルク「」ハッ
カロル「マルク!」
マルク「クゥン……!」ウルウル
カロル「マルクー!」ダッ
マルク「わうーん!」ダッ
バッ ダキッ ギュウウウウ
カロル「助けてくれてありがとう?ずっとボクを探してたの?」ギュッ
マルク「クゥーン!」コクコク
ナラ「いちばんなかよし…だね?」ニコニコ
宣教師「一番も二番もありませんよ?みんな仲良しこよしです?」ニコニコ
ルーボイ「助かった…」ドキドキ
ヒメ「ついでにオレも助かった…。泣き止んでくれないかと思ったよ」ドキドキ
911: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:30:29 ID:Ei6luXh5hM
スタスタ スタスタ
ヒメ「だいぶ離れたけど、誰もいないな?」
マルク「わんっ!あぅん!」ハッハッ
カロル「どうした……の…!?」ビクッ
宣教師「あ、あれはまさか!?」
ルーボイ「兵隊が倒れてんぞ!?」
ナラ「だれか、たたかってたのかな…」ゾォッ
マルク「」タタタッ
カロル「あ、マルク!」ダッ
ヒメ「お、おい!迂闊に近付くな!意識があったら襲ってくるかもしれないだろ!」
宣教師「周囲に人影は見られません。血の匂いも香りますし、すでに亡くなっているのでは…」
ルーボイ「ラムか!?」
宣教師「分かりません。正気に戻った兵の方がラムくんを取り押さえようとして返り討ちに遭ったのかもしれませんし…アントリア神官の仕業なのかもしれません…」
ヒメ「どっちにしても奴らがここにいたのは間違いないな!」
カロル「みんな!見て!こんなの拾ったよ?」タタタッ
ナラ「……?ふく?」キョトン
カロル「うん、それから…」チラッ
ルーボイ「なんだよ?」
カロル「ちょっと…宣教師さまに来てもらっていいかな?」シュン
宣教師「……?」
912: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:34:09 ID:H.kvyPRca6
腕や足の残骸「」
宣教師「……!」
カロル「細くて短いから大人のじゃないと思う…」
マルク「」クンクン
宣教師「そ、そうですね…。修道子が襲われたのでしょうか…?」
カロル「…これ?」スッ
宣教師「そ、それは……!?」ギョギョッ
眼球「」コロン
宣教師「む、むごすぎます…!子供たちには見せられません!」ブルッ
カロル「うん…。そうだね」
宣教師「…な、なぜこれを私に?」
カロル「みんなには見せたくなかったから…大人の宣教師さまに言おうと思ったの」
宣教師「…分かりました。私が責任を持って土に……」
カロル「ううん。ちがうんだ?宣教師さまに言いたいのは…これって全部じゃないよね?」
宣教師「全部…ですか?」
カロル「うん。腕とか足はあるけど…全部じゃない」
宣教師「い、言われてみれば!?」キョロキョロ
カロル「あとこの眼…瞳を見て?」
宣教師「……?暗くてよく……?」ゴシゴシ
カロル「はい、近くで見て?」ヒョイッ スッ
宣教師「わっ!な、なんで近付けるんですか!無闇に触ってはいけませんよ!」ビクッ
カロル「瞳が黄色いでしょ?」
宣教師「……た、たしかに?」
カロル「ラムくんのだよ。これ、全部」
宣教師「ラムくんの…!?」
カロル「マルクに匂いを覚えさせてるから、これですぐ見つけられるよ」
913: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:42:02 ID:BTDVpUAdHc
オーイ! フタリトモー!
カロル「みんな呼んでる。今のお話は二人のナイショね?」
宣教師「内緒に?」
カロル「うん。ボクが切られた腕を元通りにした時も急に人間の顔色が変わったんだ。
もしラムくんが同じこと出来るって知ったら、ボクみたいに石を投げられるかもしれないでしょ?」
宣教師「…カロルくん」シュン
カロル「宣教師さまになら見せてもなんにも言わないかなって?」ニコッ
宣教師「それは構いませんが…私はどうすれば?」
カロル「みんなになんて言えばいいか分からなくて…」
宣教師「分かりました…。彼らには私から説明してみます」
カロル「ありがとう!」
宣教師「…キミは」
カロル「え?」
宣教師「…ラムくんを救済できると思いますか?」
カロル「きゅーさい?どうかな?ラムくんって何歳なんだろう?」キョトン
宣教師「いえ、そうでなく…彼の心を救えると思いますか?」
カロル「……」
宣教師「私は…何もしてあげられません。
彼はキミのように素直に受け入れてはくれませんでした…」
カロル「…宣教師さまもラムくんとお話したの?」
宣教師「はい…。彼の過去も聞かされました。
それは壮絶で…とても言葉にはならないものでした」
カロル「そっか。なんとなくだけど分かるよ」
宣教師「絶望の淵で彷徨ったまま、更に闇の奥深くへ進んでいく彼を救い上げる術があるのか…私には分からないのです」
カロル「…そうだね。今のラムくんはきっと…何を言っても分かってくれないと思う」
宣教師「それでもキミは彼を救いたいと願っているのでしょう…?」
カロル「うん。ラムくんにも幸せになってほしいんだ?」
914: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:44:37 ID:BTDVpUAdHc
カロル「宣教師さまは誠実な人だから悩んでしまうよね…。
どうしたらいいか…どうもしない方がいいのかなって…」
宣教師「……」
カロル「でもね。悩まなくていいんだよ?」
宣教師「……へ?」
カロル「…宣教師さまは優しい人間だもの。
いつだって誰かに目を向けて…たくさんの悩みを抱えてる人?」
宣教師「そ、そんな…私は…」
カロル「宣教師さまがそのままでいてくれるのってみんなの支えになってると思うよ?」
宣教師「わ、私は…何も成し得ていません。きれいごとを言って……それだけです」
カロル「実際に誰かを救えるのはアントリアさんとか司祭さまみたいな人かもしれないね?」
宣教師「そうですよ…。私なんて…」
カロル「でも心から信じてみたいって思えるのは宣教師さまみたいな人だよ。ボクはそう思う」
宣教師「……!」
カロル「ラムくんもキラキラしすぎてて眩しかったのかも?」
宣教師「」ウルッ
カロル「救ってあげたい…。その気持ちがあって…でも諦める理由の方がたくさんあって…それでも諦めない。
ボクもみんなも、そんな宣教師さまが大好きなんだ。だから宣教師さまは悩まなくていいんだよ?」
宣教師「うっ…うぅ…」ホロリ
カロル「……」ニコッ
マルク「はっ!はっ!」スリスリ
カロル「あ、匂い覚えたの?」
マルク「わんっ!」クイックイッ
カロル「あっちだって?宣教師さま?」
宣教師「…は、はい」グシグシ
915: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/28(木) 20:46:21 ID:TgNiQQVscQ
>>906
ミシング「きゃー!ねぇ、ねぇ、聞いてよー!あたし求婚されちゃった!?」バシバシ
宣教師「いたっ!痛い!痛いですよ!背中バシバシしないでください!?」ヒリヒリ
ミシング「どうしよー?あたしにはダンディーなおじさまがいるのにぃ…求婚なんて困っちゃう?
でも揺れちゃう乙女心?どうして?どうして?あたしって罪な女なのー!?」キャーキャー
宣教師「球根の贈り物ですか?懐かしいですね…。大聖堂の庭園で植えた球根も咲き誇る頃でしょうか…?」シミジミ
ミシング「ちがうもーん!贈るんじゃなくて貰われる方だもーん?」
宣教師「……」
ミシング「ん?どしたのー?」
宣教師「よくよく考えたら…ここどこですか?」キョロキョロ
ミシング「あー…なんかさ、やってみたかったんだって?こういうの?」
宣教師「…こういうのって、どなたが?」
ミシング「クライマックスも近いしねー!思えば長かったなー?
しかもミシングちゃんってば登場しないまま2つ目突入だよ?ひどくなーい?」
宣教師「はい?」
ミシング「…ま、いっか!もし売れ残っちゃったらもらってねー!安くしとくよー?」フリフリ
宣教師「あの…」
ミシング「なーんちゃって!それじゃまったねー!」ダーッ
宣教師「あ、ちょっ……」
ポツン
宣教師「あ、あの…あんなですけど快活でいい人なので…えーと、お、お幸せに?」ヒクヒク
宣教師「……」
宣教師「すみません、帰り道、案内していただけませんか?」
コッチコッチー
宣教師「!?」
宣教師「あなた、わざと置いていきましたね!?」ダーッ
916: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 18:53:10 ID:3tudtLsmHQ
―――平原―――
団長「」スタスタ
近衛兵1「団長!狂った兵の動きはあらかた止まりました!」
団長「うむ。ご苦労さん」
ミシング「おっじっさっまー!!」ダダダッ
団長「」ビクッ
ミシング「ぴょーん!」バッ
団長「うおっ!?あ、あぶない!?」ドッ
ミシング「きゃー!お姫様抱っこ!?あたし達ってばまだ会って間もないのに……逆に感激ー!?」キャーキャー
団長「…し、信者や教徒には伝えてくれたのか?」スッ
ミシング「あーん!降ろし方まで紳士的でクセになっちゃいそー?」ストッ
近衛兵1「お、おモテになりますねー!う、羨ましいー?アハハハハ?」ツツー
団長「」ギロッ
近衛兵1「も、申し訳ございません」
団長「おっほん!」
ミシング「ちゃーんと伝えてきましたよー?みんなで伝えて回ってるんで多分、すぐに全員に……」ピタッ
団長「……?そ、そうか」
ミシング「……」ガタガタ
団長「ど、どうした?」
ミシング「あ、あは…あはは…あたしったら、なに浮かれちゃってんだろ…」ウルッ
団長「は…?」
ミシング「伝え…たんですけど…ぜんぜん間に合わなかったり…怖くて泣いてたのかな。修道子の女の子が……目の前で……」ガチガチ
団長「……」
ミシング「あたし…死んでしまった人達に……なんにもしてあげられなかった…」ポロッ
917: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 18:55:17 ID:banBor1Vxw
団長「辛い思いをさせてしまったな…」
ミシング「辛いのは…あたしじゃないもん…」グスッ
団長「だが君の呼び掛けがなくては助からなかった人もいるだろう…?」
ミシング「」ブルブル
団長「ワシも…救いたかったモノが山ほどある。今日だけでも…な」
ミシング「……」
団長「」ポンッ
ミシング「え…?」ファサッ
団長「…せめて救われた命に報いよう。出来る限り力になってやるんだ?」ナデナデ
ミシング「(優しく髪を撫でる分厚い手のぬくもりが革手袋越しに伝わってはわわわわわ)」アワアワ
近衛兵38「団長!ここにおられましたか!」
団長「む?どうした?」パッ
ミシング「うひらうひら…しぃあわせぇ〜…」アヘアヘ
近衛兵1「あの〜…さっきまでと態度が変わってません?」ポンポン
ミシング「癒しの力よりも強力な愛の力にミシングちゃん、メロメロなのです!」キラリンッ
近衛兵1「……」
918: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 18:57:34 ID:3tudtLsmHQ
近衛兵38「王子より伝言を承りました!」
団長「おぉ、王子からか。狂った連中は修道服にしか反応せんから、ケガはするまいが…何か不測の事態に出くわしたか?」
近衛兵38「ははっ!それが…」
団長「……?」
近衛兵38「信者と教徒を可能なだけ集めて指定した場所に待機させろとの事で!」
団長「はぁ?」
近衛兵38「それから…なるべく静かに…身を潜める感じでとも…おっしゃってました」
団長「はぁ!?平原だぞ!?どうやって身を潜めろと!?」
近衛兵38「いえ、場所はかなり離れているのですが…林の方だそうです」
団長「林ぃ!?どこまで離れてるんだ!?」
近衛兵38「わ、分かりやすいように小石を撒いておいたそうなので…それを頼りに…」
団長「小石なんぞいくらでも落ちてるだろうが!?それに草だらけで足元なんか見えんぞ!?」
近衛兵38「わ、私に言われましても」
団長「はぁ…王子のワガママも困ったものだな。分かった。ワシがなんとかしよう」ヤレヤレ
ミシング「あたしも付いていきまーす!」ハイハーイ
団長「…そ、そうか」
近衛兵38「こちらは我々にお任せを!」
団長「あぁ、よろしく頼む」
919: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:03:03 ID:banBor1Vxw
―――林―――
アントリア「はっはっはっ…はぁっ!はぁっ!」ゼェゼェ
ラム「…よく走れるね。いい歳なんだから無理はよくないよ」スタスタ
アントリア「な…ぜっ!僕を…はぁっ!し、執拗に…狙うのかね!?」ゼェゼェ
ラム「ん?人間だから?」
アントリア「教団は……司祭が…創った!」
ラム「へぇー」
アントリア「教団への…復讐は達した…はずだ!?」ゼェゼェ
ラム「そうだね」
アントリア「見逃して…くれ!僕は…ホビットの差別を…促しては…いないんだ!」ゼェゼェ
ラム「あっそ?じゃあ死のっか?」スタスタ
アントリア「よせ…!?」ビクッ
「わんっっ!!」タタタッ
ラム「は?」クルッ
マルク「はっ!はっ!」ザッ
ヒメ「やっと見つけたぞ!観念しろ!」ザッ
ルーボイ「ラム!いい加減にしねぇとダメだろ!やりすぎなんだよ!」ザッ
ナラ「ひとを…きずつけるの…かなしい、いっぱい!やめよ…?」ザッ
ラム「…あれ?君……」
ヒメ「あぁ、癒してもらったよ。おまえに刺された傷が深くて、あと一歩で死ぬとこだった!」
ラム「なーんだ?死ねばよかったのに?」
ヒメ「なんだと!?」ムカッ
ラム「君らだけじゃないだろ?あいつはどうしたの?」
ルーボイ「あいつは……」
920: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:08:16 ID:3tudtLsmHQ
アントリア「」ダッ
ラム「あ!」ハッ
アントリア「こんな…こんな…形で…終われないんだよ…!」タタタッ
ラム「待てよ!」スッ
マルク「うぉんっ!!」バッ
ラム「うわっ!?」ピタッ
ヒメ「待つのはおまえだ!」ジャッ
ルーボイ「へへーんだ!通さねぇかんな!」バッ
ナラ「……!」ジッ
ラム「はぁ?どいてよ?」ジロッ
マルク「グルルルル…!」フシューフシュー
ルーボイ「どかねーよーだ!」
ナラ「あのひとは…せんきょうしさまとカロルが…なんとかするの」
ヒメ「さっきの借りを返してやる!」
ラム「ふーん…まぁいいや。どうせ全員殺すから」シラー
921: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:17:12 ID:banBor1Vxw
アントリア「うぐぅ!うはぁ!」フラッフラッ
バッ バッ
アントリア「!?」ヨロッ
宣教師「お待ちいただけますか?」ズイッ
カロル「もう逃げられないよ?」ズイッ
アントリア「くくっ…!」ジャキッ
宣教師「武器を手放しなさい。この場を切り抜けてもあなたに未来はありませんよ?」
アントリア「黙れぇっ!?」ブンッ
カロル「…やめようよ?」ジッ
アントリア「アピシナの実は存在したんだ!まだ永遠の国を創る事は可能なのだよ!」
宣教師「永遠の国…ですか」
アントリア「ノワールが亡くなってしまったのなら僕が神国の指導者となり、民を!信者を!教徒を!」
アントリア「守り育て、導いてやらねばならない!僕には使命が……」
カロル「いいよ…。無理しなくて?」オロオロ
アントリア「……!?」
カロル「それって…アントリアさんのやりたい事じゃないでしょう?」
アントリア「な……な…!?」
カロル「…なんとなくだけど、そんな気がする」
アントリア「黙れ!崇高なる使命を汚すな!?」
宣教師「あなたに使命などありません。それは都合のよい勝手な思い込みです」
アントリア「な…んだ…と!?」
宣教師「今、あなたがすべき事は過ちを認め、罪を償う。それだけです?」
カロル「ちゃんと謝って、みんなにホントのこと言った方がいいよ!」
アントリア「く…くく…!」ギリッ
宣教師「断りますか?」
アントリア「当然だぁ!?」
922: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:23:18 ID:3tudtLsmHQ
宣教師「では仕方ありませんね。ラムくんを解放してきましょうか?」
カロル「…う、うん」
アントリア「……!ま、待て!?」
宣教師「なにか?」
アントリア「そ、それは困る…あんな化け物を…!」
宣教師「あんな化け物?」キョトン
カロル「ラムくんは化け物なんかじゃないよ!」
アントリア「化け物だとも!腕を切っても足を切ってもジュクジュクと蠢いて再生する!?気色の悪い化け物だ!?」
宣教師「たとえそうだとして……その化け物になりたがっていたのはあなた方ではありませんか?」
アントリア「そ、それは…!」
宣教師「彼を変えてしまったのもあなた方なのですよ?」
カロル「そ、そうだよ!差別が無かったらラムくんの心は傷付かなかったもの!」
アントリア「……」
宣教師「罪を認め、告白し、償いなさい!」
アントリア「(…冷静になるんだ!まだ終わってない!あの果実さえあれば…!)」
アントリア「(果実さえ…あれば……どうするんだ?)」
アントリア「(あんな化け物になるのか…?いや、しかし今は迷ってる暇は……)」
923: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:25:22 ID:banBor1Vxw
宣教師「どうしますか?」
アントリア「…分かった。君たちの望み通り、皆に謝罪しよう」
宣教師「……」ジーッ
アントリア「(この場はやり過ごし、隙を見て果実を手に入れるしかないか…)」
宣教師「果実が気になりますか?」
アントリア「……は?」
宣教師「あれは処分しますよ」
アントリア「…そ、そうだね。あんな物があってはならない」
宣教師「あなたが利用してきた高官や司祭の腹心だったアリアスからも証言が取れてます」
アントリア「!?」
宣教師「身柄は確保してありますから、彼らにも同様に罪を告白していただくつもりです」
アントリア「そ、そんな事をすれば彼らもタダでは済まないだろう?」
カロル「リルラさんと大臣さんは王子さまに付いていくって?」
アントリア「…だ、だが他国との折り合いは付けられないだろう?僕でなければ!?」
宣教師「まだそこまでは考えてませんよ」
アントリア「あっという間に食い尽くされるぞ!いいのか!?」
宣教師「……」
アントリア「民衆にも他国にもこの件は隠すんだ!今ならまだ間に合う!僕に任せておけ!全て円滑に……全てうまくいく!?」
宣教師「果実を栽培して民に永遠の命を与える…ですか?」
アントリア「の、ノワールから聞いたのか!だがそれだけじゃない!宗教を全面に出して……」
宣教師「それらは全て民の信頼あってこそ実現できる事ですよね?」
アントリア「あぁ、そうだとも!僕なら実現が可能なのだよ?皆も永遠の命を求める筈だ!?」
924: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:28:16 ID:3tudtLsmHQ
カロル「かわいそうな人…」ボソッ
アントリア「……は?」
カロル「まだ気付かないの?ラムくんを見て、なんとも思わないの?」
アントリア「な、何がだね?」
カロル「少しずつ自分を大事にしなくなってる…。
傷付いても傷付いても治るからって体を痛め付けて…心が麻痺してるんだよ……」
宣教師「……」
カロル「あんなこと続けたら、いつか壊れちゃうよ…。それでも死ねないから…とても苦しいと思う」
アントリア「……」
カロル「守らなくちゃいけない国の人達に…そんな思いをさせるの?」キッ
アントリア「…ぼ、僕が国を治めれば健全な……」
宣教師「騙されたまま、間違った道を歩まされるのは不健全極まりないでしょう」
アントリア「ぐっ!」
カロル「アントリアさんが自分で言えなくてもボクたちは全部話すからね?」
宣教師「…あなたの口から聞いても嘘か本当か分かりませんしね。証人も十分過ぎる程います」
アントリア「黙れ…!」ジャキッ
宣教師「何をなさるおつもりで?」
アントリア「まだやり直せるんだ!僕はこんなところで終わるような人間ではない!!」
アントリア「もう一度、信者を洗脳して全員に永遠の命をくれてやる!!」ザッ
アントリア「奴らのような小市民は未来永劫、僕を崇め奉り、苦しかろうと駒として生き続けるべきなんだぁ!?」
宣教師「…ここまで落ちぶれてしまうとは思いませんでしたよ。今のあなたは小悪党そのものです」
アントリア「この僕が…小悪党だと…!?」
カロル「自分ばっかりで…なんにも見えてないんだね。ホントにかわいそう」
アントリア「ぐ…あぐぅ…!?」ギリギリ
宣教師「なにせ手駒と策を取り上げられた途端、野蛮な暴力に頼る有り様ですから…あなたに神官の位はもったいない?」
アントリア「初めてだよ…!感情任せになぶり殺したくなったのは…!?」
925: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:34:49 ID:3tudtLsmHQ
宣教師「皆さん!これが神官の本性です!」
ババババババババババッ
アントリア「えっ」
ザワザワ ザワザワ
信者's「」ジロジロ
教徒's「」ヒソヒソ
アントリア「しょ、諸君……なぜここに…!?」ワナワナ
団長「貴様の悪辣非道な所業の数々…全て聞かせてもらったぞ!」バッ
アントリア「ち、違っ…違うのだよ?今のは全て彼女に言わされたんだ!事実無根だ?」アセアセ
ミシング「…神官。これ以上、あたし達を失望させないでください?」スッ
アントリア「た、た、たた…た…たまたま……たまたま…たまたま……」
宣教師「その言い訳に続きがあるのでしたら是非ともお聞かせ願いたいですね?」ザッ
アントリア「う……!?」
カロル「ホントのことを話して謝って?」ザッ
アントリア「ふ…ふっふっ!ハハハハハハハハハ!!!」ゲラゲラ
シーン
アントリア「そうだとも?全て僕の仕組んだ事だ?」ニヤリ
宣教師「教団の伝える伝承は嘘なんですよね?」
アントリア「あぁ、嘘だ?」
ザワッ
926: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:37:07 ID:banBor1Vxw
アントリア「今は亡き我が父バンガランが作り替えたのだよ?
実際の内容はアピシナというホビットが癒しの力を注いで育て上げた大樹にまつわる物でね?
その樹から成る果実には計り知れない生命力が宿り、食した者に永遠の命が与えられると言う?」
信者's「そんな…私達は今まで何を信じて……」
アントリア「君たちはこの日の為に踊らされたに過ぎないのだよぉ!?アハハハハハ!!!」
団長「なぜそんな事をする必要があった!?」
アントリア「まずは戦争を止めなければ自由に身動きが取れないからねぇ!?
これを口実に戦争を治め、大樹を探す事から始めたのさ!?」
宣教師「司祭様は勝手に捏造されたと…」
アントリア「ノワールは頭が堅いからな!素直に全国に広めてしまったら我々で独占出来なくなるだろう!?」
ミシング「…じゃあ司祭様に黙って進めたんだ」
アントリア「あぁ!そうだ!そして大樹自体はあっさり見つかった!なんせ目立つからねぇ!?
すかさず伝承を証明する遺産として王国の所有地に指定し、誰にも触れられぬよう厳重に管理させた!」
アントリア「あとは癒しの力だけだ!だがこれが最大の難関だった!
なぜならホビットが全員、癒しの力を持ってる訳ではなかったからだ!」
アントリア「そこで僕はホビットの差別を進め、癒しの力は盗まれた物だと人々に植え付け…教団に目撃情報を募ってみたがどれもガセ!ガセ!ガセ!」
アントリア「かすり傷が一週間したら消えてただの風邪が五日で治っていただの、くだらない情報ばかりだ!?」
アントリア「いつまで経っても進展しないまま…実に30年もの月日が経った!?」
教徒's「30年…!?」ザワザワ
アントリア「らちが明かない…。そう考えた僕は様々な村や町で罪を犯した快楽殺人の常習犯を、とあるツテで集めた…」
団長「…なぜそんなならず者を?」
アントリア「癒しの力を探す為さ!
そいつらにホビットを集めさせ、ひたすら虐殺させれば…いずれその中に異質なホビットが現れると思ったんだよ!」
アントリア「たとえば自力で傷を癒すホビット…それでなければ他人の傷を癒すホビット…。
とにかく傷を負わせれば癒しの力を使う機会が一気に増える!」
カロル「それ…もしかして…」
アントリア「気付いたかね?それがヘマトバザールの起源だよ?」ニタァァ
カロル「……!」ブルッ
927: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:44:55 ID:banBor1Vxw
アントリア「だがそれでもホビットは癒しの力を使わなかった…。いや、持っていなかった」
アントリア「一方でノワールといえばマジメに探す訳でもなく、打開策を見出だすでもなく…呆れたものだよ。
どうでもいいみなしご共の育成支援や貧困に喘ぐ町村への資金援助と学問教授にばかり力を注ぐ……無能な偽善者に成り下がっていた!」
宣教師「(つい見落としがちですが確かに司祭様のもたらした功績は振り返れば素晴らしい物ばかり…。
一方でアントリア神官は王国専属の僧侶であった為か、表立っての名声は少ない……)」
アントリア「僕はいつでも計画に移れるよう、いざとなれば大樹への行き来が可能なようにしておいたのにだ!
その為だけに木っ端役人だったリルラを政務官にまで押し上げてやったんだ!」
アントリア「しかしなぜだ!こんなにも知恵と努力を惜しまない僕に神は振り向こうとしない!結局はノワールが全て持っていく!?」
アントリア「彼は見つけてしまったんだ!10年前に!癒しの力を!?」
宣教師「え!?」
カロル「ボク以外に!?」
アントリア「いぃぃや…多くのホビットを見てきたが…君以外にはいない?
なにせ全てのホビットが癒しの力を隠してるんじゃないかと疑い、一匹一匹を極限まで追い詰めてきたが…」
団長「追い詰めた…だと?」
アントリア「あぁ…仲間や家族を人質に取って脅してみたり、ヘマトバザールに様々な形で拷問だってさせた。
一般人の差別感情を煽ろうと布教を徹底し、村や町に住まうホビットを含め、癒しの力に頼らざるを得ない状況だって作った!」
アントリア「しかし、あまりにも無意味に時間と労力を消耗し、豊富な人脈と財を使い捨てた…。
憤りもあって…王国の兵力を使い、焼け跡にしたホビットの集落は数知れず…だ」
団長「お、おのれぇ…!貴様の勝手な都合で多くの人間を巻き込みおってぇ…!」ワナワナ
カロル「……!」
宣教師「(カロルくんのお母様の故郷はたしか小さな集落で……王国に滅ぼされたと言ってましたね)」
カロル「」プルプル
宣教師「(悔しいでしょうが…我慢ですよ。アントリアが全てを話すまでは……)」
928: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/29(金) 19:51:17 ID:vWnFtiNco.
宣教師「それで?十年前に見つけた癒しの力はどうしたんです?」
アントリア「君は淡々と聞くのだね!?」
宣教師「聞いてほしいのでしょう?」
アントリア「はぁ…!?」
宣教師「築き上げた物が崩落してしまった、そんなあなたが縋ろうとしているのはなけなしの自尊心。
かつての栄光と多大なる人々に影響を与えた自分の存在を『僕って凄いだろ?』と語りたいのですよね?」
アントリア「な、なんだとぉ!?僕がそんなちっぽけな人間に……」
宣教師「見えますよ。少なくとも今は?」
アントリア「…ぼ、僕は……」ガチガチ
アントリア「わぁぁ…ああああ!!?」ガクガク
宣教師「大丈夫ですか?ほら、どうぞ勝ち誇ってきた頃を思い出して語ってください?
その安い自尊心まで砕けてしまったら…とても自我を保てないでしょう?」
アントリア「ひげぇぇきのぉぉまちぃぃい……!」
カロル「ちょ、ちょっと様子が……癒してあげた方がいいかな?」
宣教師「必要ありません。この方にはもったいないですから」
アントリア「悲劇の町だ!そこで癒しの力が存在すると分かった!!」
宣教師「!?」ピクッ
アントリア「よぉく知っているだろう!?なんせあの町は……君の生まれ故郷なのだからなぁ!?」
カロル「せ、宣教師さまの…!?」
信者's「え…あの娘が悲劇の町の…少女?」ザワッ
アントリア「君たち二人はいつ出会った…?」
宣教師「はい?それはまぁ…3ヶ月程前に布教していた村で…ですよね?」
カロル「う、うん…」
アントリア「それが間違いなんだ!出会ってるんだよ…!10年前からすでに!?」
宣教師「え?わ、私とカロルくんが!?」
カロル「そ、そうだっけ?その頃はボク…まだお母さまとおじいさまと三人で旅してたけど…」
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