前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
835: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:28:19 ID:c8hmEAhvxo
―――大樹の根元―――
宣教師「はぁっはぁっ」ゼェゼェ
ムワァァァァァ
宣教師「お、遅かったみたいですね…」タジッ
宣教師「(それにしても血には何度遭遇しても慣れませんね。外なのにおぞましい程に異臭が充満してます…)」キュッ
宣教師「」スンッ
宣教師「(気のせい…でしょうか?鋭い鉄臭さの中に微かな…ホントに微かな甘い香りが……?)」ジッ
果実「」ポツン
宣教師「こ、これは…なるほど、甘い香りの正体はこれでしたか」
宣教師「(2ヶ所、かじられた形跡がありますね…。やはり彼が……)」
宣教師「(それにしても先ほどまでは香りなどしなかったのに…皮が剥がれて果肉が覗き出した途端に強い…)」ピトッ
宣教師「かお…り……が……!」ヌメッ
宣教師「粘液…ではなく果汁…?ねばっこくて…まるで磨り潰した餅米を溶かして戻したような…」ヌチャヌチャ
宣教師「な、舐めてみるだけ……」アーン
宣教師「いやいやいや!わ、私ったら…いったい何を!」パッ ゴシゴシ
宣教師「…興味本意で危うく永遠の生き地獄に片足を踏み入れるところでした」ハァッ
宣教師「」チラッ
死体「」
宣教師「こうなってみると…ふしぎとあなたに抱いていた怒りや憎しみも感じなくなりましたよ」
宣教師「…永遠の命に囚われ、今ある命さえ手放しては意味がないのに…」
宣教師「余生を虚しい復讐に費やし、大勢を犠牲にしてまで…得るべき物だったのですか?」
宣教師「…幼少の折に私が慕い、憧れたあなたは偽りの姿だったのでしょうか?」
宣教師「今となっては…ああなってしまったあなたを突き放した私にも責任があるのだと思えてなりません…」
宣教師「この夜のように暗く淀んだ心を救済する術があったのだとしたら……」
宣教師「さようなら。司祭様…どうか安らかにお眠りください」パシッ
宣教師「……」ギュッ
836: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:31:05 ID:QMnORsLsRI
―――大樹周辺―――
カロル「……」スタスタ
団長「…すまない。謝ってどうなるものでもないが…」スタスタ
カロル「…」フラッ
団長「だ、大丈夫か!?」ガバッ
カロル「えへへ…ちょっぴり疲れちゃった…」ポフッ
団長「…許してくれ。王子もワシも…こんな結末を望んでいた訳ではなかったのだ」
カロル「知ってるよ。二人はとっても優しいから…知ってる」
団長「…すまなかった」ペコッ
カロル「ねぇ、団長さん」
団長「なんだ…?」ジッ
カロル「ボクたちのしてきた事って…なんだったんだろう」フイッ
団長「ワシにも…分からん」
カロル「だよね…」
団長「……む?」
カロル「どうしたの?」
団長「いや、暗くてよく見えないが…向こうで人影らしき物が動いてる…」
カロル「宣教師さまかな!?」
団長「…どうだろうな」
ガサガサ ガサガサ
団長「…向こうも気付いているようだ。一応ワシの背に隠れておけ」
カロル「…はーい」ササッ
837: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:34:38 ID:QMnORsLsRI
―――平原―――
シープ「ゴメンって!ゆるしてよ!」アセアセ
ラム「なにを怯えてるんだい、シープ?」ジリジリ
シープ「……ラム、目が怒ってる!」アセアセ
ラム「怒ってなんかないよ。清々しくて最高にイイ気分さ?」ジリジリ
シープ「じゃ、じゃあ…なんでぼくにナイフを向けるの!?」
ラム「分かってほしいんだ。シープにも?」ユラァ
シープ「な、なにを!?」
ラム「よく見ていて?」サッ スパッ
シープ「な、なにしてるの!?て、手首から血が出て痛そう?」オロオロ
ラム「ふふ…うふふ、ふふふふ」タラァ
シープ「ど、どうしちゃったの…?なんかおかしいよ…?」ビクビク
ラム「大きな力を持ったら、それだけ大きな事を成し遂げられる。僕は今やっと自分の生き方を見つけたんだ?」
シープ「…そ、そんなのいいから!き、聞いてよ!人間たちがまた裏切ったんだ!
あいつら、約束破って…バンパを切ったんだ!他の仲間も!」
シープ「ぼく…こわくて…仲間を置いて逃げちゃったんだ。あいつら追ってくるかも…」
ラム「あはははははは!!!」ケラケラ
シープ「え!?」
ラム「やっぱりね?だと思った?」ニヤニヤ
シープ「…わ、笑うことないじゃん」
ラム「ザマァ見ろ!!」
シープ「」ビクッ
ラム「きゃはははは!!」ケタケタ
シープ「ぼ、ぼくらが悪かったよ!ラム間違ってなかった!だ、だから…助けてくれない!?」
ラム「…助ける?なんで?」ジトー
シープ「う……」
838: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:37:18 ID:c8hmEAhvxo
ラム「」シュゥゥゥ
シープ「…な、なんの音?」
ラム「」ペロッ
シープ「ひっ…」
ラム「見てごらんよ、シープ?」スッ
シープ「え?き、傷が…治ってる?ラムもカロルおにいちゃんと同じ…?」マジマジ
ラム「…」シュッ
シープ「ひあっ!?」ザシュッ
ピシャッ ピシャッ
ラム「ふふふ」チャッ
シープ「な…に……すんのさ!?」ドクドク
ラム「」シュッ
シープ「いう…!」ドスッ
ラム「」ブシュッ
シープ「え、えあぁぁ!!」プシャァァァ
ラム「……」ジーッ
シープ「んで…!なん…で!?」ガクッ
ラム「……?」
シープ「ぼぐあ…ながばでじょ!?」ググッ
ラム「…本当に仲間だったら、仲間を置いて逃げたりしないよ。仲間から…離れたりしない」
シープ「うぐっ…えっ…うえっ…」コヒューコヒュー
ラム「シープのこと、大好きだったよ。弟みたいに思ってた?」
ラム「…僕を裏切るまではね?」ギロッ
シープ「や…やっだ…しにたく…ないよぉ」ブワッ
839: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:41:33 ID:c8hmEAhvxo
シープ「ら…らむぅ…おねがい…えうっ!だすけで…?」ポロポロ
ラム「しょうがないなぁ…ほら、僕の手を握って?」サッ
シープ「……!」ワナワナ パシッ
ラム「……強く握って?」ギュッ
シープ「う……きず…なおせる……?」ギュッ
ラム「…怖がらなくていいよ」
シープ「う…ん」ブルブル
ラム「…震えてるよ?」
シープ「さむ…さむ…」ブルブル
ラム「握る力が弱まってる」
シープ「あや…く……あやく…しでよぉ……」
ラム「……」ギュゥッ
840: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:42:20 ID:c8hmEAhvxo
ラム「まだ苦しい?」
シープ「はぁ…はぁ…さむ……」
ラム「頑張って?あとちょっとだから?」
シープ「しび…しび…れれる」プルプル
ラム「…そう」
シープ「らら…らららむ…?」プルプル
ラム「なに?シープ?」
シープ「まま…ままま…まだ…?まだ…?」ガチガチ
ラム「……」
シープ「ほんほんほん…とに…なおじてる…?」ガチガチ
ラム「治してない」
シープ「あえっ!?」
ラム「…君が寂しくないように手を握ってあげてるんだよ?」
シープ「だず…け……くれるじゃ…?」
ラム「助けるなんて言ってないけど?」
シープ「ら…むぅ…ごめなざぁい…ごめ…んざい!」コヒューコヒュー
ラム「あはははは!悲しまないでいいんだよ!そばにいてあげるから?」ギュッ
シープ「」フッ ガクッ
ラム「あはは…は……は」パッ
シープ「」バタッ
シープ「…ひっ…ひっ…」ヒュッヒュッ
シープ「……」
ラム「はは……おやすみ、シープ」スタスタ
スタスタ スタスタ……
841: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:45:48 ID:QMnORsLsRI
―――信者の行列―――
ゾロゾロ ゾロゾロ
ルーボイ「…すげー人だかり!」
ミシング「…あ、ルーボイくん!どこ行ってたのー!いないから心配したよー?」フリフリ
ルーボイ「あ、姉ちゃん!いたいた!」タタタッ
ミシング「ん?どしたの?」
ルーボイ「あれ?ナラは?」キョロキョロ
ナラ「ここ……」ヒョコッ
ルーボイ「おう!起きたんだな!」
ミシング「人多すぎてぜんぜん大樹に近付けなーい。夜になっちゃったし、これもうダメだねー」
ルーボイ「それより大変なんだよ!宣教師様に会って!カロルがあっちにいんだって!」アタフタ
ミシング「宣教師が!?」
ナラ「カロル…!?」
ルーボイ「早く一番前に行こうぜ!」
ミシング「お、落ち着いて整理して話そ?」アセアセ
ルーボイ「急がないとヤバいんだよ!伝承が嘘だって教えねぇと!?」
ジロッ ジロッ ジロッ
842: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:48:42 ID:c8hmEAhvxo
ミシング「…ルーボイくーん?冗談言っちゃダメじゃないのー!」
ルーボイ「は?」
ナラ「みんな……みてるよ?」オドオド
ルーボイ「だってうそ……」
ミシング「つくのって楽しいもんねー!でもそれって悪いことなんだよー?
もー!お子ちゃまなんだからー!ウソっこで大人をからかって遊んじゃダーメ?」ポンポン
ルーボイ「?」
プイッ プイッ プイッ
ナラ「」ホッ
ミシング「ルーボイくん?場所考えないと?」コショコショ
ルーボイ「なんでだよ?いーじゃん、別に!」
ナラ「むしんけい…だめ、ぜったい」
ルーボイ「むっ!な、ナラまでなんだし!」
ミシング「とりあえず急いでるんでしょ?話は行きながら聞くから?」
ルーボイ「……」ムスッ
ナラ「ひと…すごいよ?」オドオド
ミシング「うーん…地道に行くしかなさそうねー」
843: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:51:31 ID:c8hmEAhvxo
ミシング「…ふー!すいません、すいませーん!」ギュウギュウ
信者13「」ギロッ
ミシング「ちょっと通らせてもらっていいですかー?」ニッコリ
信者13「……」
ミシング「(どこにでもいるよねー。こういう分かっててわざと、どかない人。性格悪すぎ)」
ミシング「私は本部の大聖堂で修行を積んだ教団公認のシスターです?
大事な用件を承っておりまして、急ぎ司祭様の元まで行かなければなりません。
大変恐縮なのですが道を空けていただいてもよろしいでしょうか?」
信者13「え?は、はい。すみません!」アセッ
ミシング「お気を遣わせて申し訳ございません?後ろから失礼致しますね?」スイッ
ルーボイ「分かりやすいおっちゃんだな」スイッ
ナラ「ルーボイ…!いっちゃだめ…!」スイッ
ギュウギュウ ギュウギュウ
ミシング「あーん!き、キリないよー!」スイッ
ルーボイ「もっと早く行けないのかよー!」スイッ
ナラ「ちっちゃいこえで…じゅんばんぬかしって…いわれたよ」オドオド
ミシング「そ、そうなんだけどー…しょうがなくない?」
ルーボイ「あぁも!どけよ!」グイッ
信者14「なにすんだ!そんな前に行きたきゃ回り込めよ!」
ルーボイ「やだ!めっちゃ時間かかるもん!」
ミシング「こんな溢れかえってちゃねー」
ナラ「でも…こっちのほうが…たいへん」
ミシング「あははー。作戦失敗かにゃー?」アセアセ
844: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:57:26 ID:c8hmEAhvxo
―――客席最後列―――
カンッカンッ キンッ ギャリィンッ
アントリア「ふむ…」シュタッ
ヒメ「」シュタッ
アントリア「なるほど…父君とは比べるまでもない?」チャキッ
ヒメ「当然だ。父上は剣を知らないからな」
アントリア「……?」
ヒメ「前国王陛下、失墜の憂き目に遇い、父上の代は王族のあらゆる権限を剥奪された。教育も含めてな…」
アントリア「…どうりで?」クスッ
ヒメ「…僕の代は王政が主軸になったせいで習い事ばかりだけどな」
アントリア「それは気の毒だ?遊びたい盛りだろうに?」
ヒメ「王国最強の剣士、団長仕込みの僕の剣は父のようにはいかない…ぞっ!」ジャッ
アントリア「っ…!」キンッ
ヒメ「はっ!とうっ!たぁぁ!!」シャッ ビュッ ザウッ
アントリア「……!」キンッ カィンッ ギンッ
アントリア「(やれやれ…刀身が短い分、手数が多く、近接距離だとなかなかやりにくい…?)」
アントリア「(後方に下がってはみるが…)」バッ シュタッ
ヒメ「」ジャッ ビュバッ
アントリア「(間髪入れず距離を詰めてくるものだから、さらにやりにくい。護身用の剣の長さに適した戦術を叩き込まれたのだろうな)」ガキンッ
アントリア「(瞬発力、素早い身のこなし、体力…どれをとっても近衛の兵達と遜色ない?)」
ヒメ「やぁぁぁあ!!」シュバッ
アントリア「」ピッ プシュッ
ヒメ「当てたっ…!?」ニヤッ
アントリア「(僅かな灯りは地面に刺された松明と周囲に設置されたランプだけか…。暗がりにいては剣筋の見極めも困難…まぁ老眼もあるのだが)」タラー
ヒメ「(勝てる…!勝てるぞ!)」ザッ
845: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 22:05:27 ID:QMnORsLsRI
ヒメ「その程度か!アントリア!?」キッ
アントリア「期待に添えず申し訳ないが…やはり全身に堪えるよ。寄る年波にはかないそうもない」タラー
ヒメ「…弱気だな!降参してみるか?」ジロッ
アントリア「それもいい?貴方さえ許してくださるのであれば…だがね?」ニコッ
ヒメ「……」ジッ
アントリア「まぁ…都合のいい話だ。遠慮せずに来たまえ?」ジャキッ
ヒメ「…命まで取ろうとは思わない。降参するならしろ!」
アントリア「ふっふっ…甘いなぁ…。カロル君に影響されたのかね?」
ヒメ「あぁ、そうかもな」
アントリア「命を取られないと分かっていれば、戦いを恐れる理由がないのだが?」
ヒメ「…おまえに僅かでも良心が残ってるんなら、負けを認めて信者達に真実を告白しろ」
アントリア「ハハハ」
ヒメ「ホビットに対する敵がい心だけでも取り除くんだ!」
アントリア「ふむふむ?良心を揺さぶる善悪の価値観はそれぞれで異なる…。
大概は多数派の心理に委ねられるが…時代によって総意は覆されてしまうモノ。
この世界でくっきりと善悪に当てはまる真理など…実のところ存在しないのだよ」
ヒメ「…御託はいい。降参か?降参じゃないのか?」ジリッ
アントリア「降参しよう」キッパリ
ヒメ「……え!?」
アントリア「武器も捨てる」パッ
カランカラン
ヒメ「…本当に負けを認めるのか?」
アントリア「もちろんだとも?僕の負けだ?」
846: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:28:15 ID:DE8XnBMSq2
―――大樹周辺―――
ガサガサ ガササッ
団長「…茂みに身を潜ませているが、どうやら隠れている訳ではないらしいな」
カロル「うん…。近付いてきてるね?」ジッ
ガサッ
団長「何者だ!姿を現せ!」
???「……ホビット、じゃなさそうね」ザッ
団長「(し、修道服…!)」
カロル「その声……もしかして?」ピョコッ
アリアス「あぁ…あんた生きてたの?」ジーッ
団長「貴様、教団の手の者か?」
アリアス「どなた?」
団長「…王国軍、近衛師団の者だ」
カロル「…あれ?司祭のおじいさまは一緒じゃないの?」
アリアス「…死んだわよ」
カロル「え?」
アリアス「白々しいわねぇ…?あんたがやらせたんでしょう?」
カロル「ボク!?」
アリアス「ヘマトバザールを壊滅させたってねぇ…?
おかげさまで私達の計画はぶち壊しよ……」
カロル「…だ、だって……そうしないとみんなもお母さまも…」オロオロ
アリアス「あんたの母親と数十年の歳月を費やして、とうとうこぎつけた私達の計画…どっちが大事か分かってる?」ギロッ
カロル「お母さまだよ?」キョトン
アリアス「ばぶばぶばぶばぶ乳離れもできないマザコンがぁ…!」イラッ
847: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:31:40 ID:DE8XnBMSq2
団長「…司祭は死んだのか?」
アリアス「えぇ、実にあっけなく?」
カロル「宣教師さまは!?」
アリアス「あの小娘なら…司祭様を殺したガキと逃げてったわよ?」
カロル「そ、そうなの?じゃあ生きてるんだ…!」パァァ
団長「一部始終の経緯を説明してもらおうか!」
アリアス「あーら、それって答えなくてはダメ?」
団長「」ギロッ
アリアス「ふふっ…いいわよ?教えてあげても?」
カロル「ホント!?」
アリアス「なによ、あんた?私を嘘つき呼ばわりするの?」ジロッ
団長「ホビットを罪深き種族と偽って伝えたのは貴様ら教団だ。そう思われてもしかたあるまい?」
アリアス「失礼ね?伝承自体は真実も含まれているのよ?全てが全て嘘って訳じゃないわ?」
団長「なに…?」
アリアス「といっても…ホビットが人間を大樹に案内した部分だけね?」
団長「ほ、ほぼほぼ嘘八百ではないか!」
848: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:33:19 ID:DE8XnBMSq2
団長「永遠の命だと!?」
アリアス「そうよ。目的に達したはいいものの…邪魔が入るなんて誤算だったわ?」
カロル「…邪魔って司祭さまを殺した人のこと?」
アリアス「あんたもとぼけるわよねぇ?好きにすればいいけど?」シラー
団長「…その話が本当であるとして、なぜ永遠の命を手にしたはずの司祭が死んだのだ?」
アリアス「正確には永遠の命を手にしただけで、永遠の命を得た訳じゃないのよ」
カロル「?」
アリアス「大樹から成った実は王都に持ち帰ってから調べる予定だったの。栽培法を確立する為に」
団長「…アントリアの自信の源はそれだったのか。
なにゆえ老い先短い奴らが国作りなど夢見るのか甚だ疑問ではあったが」
カロル「えーと…ずーっと生きてたかったの?」
アリアス「要するに言えばね?でも私は降りるわ?」
団長「なぜだ?ここまで事態を大きくしておいて…」
アリアス「あの実に永遠の命をもたらす効能なんてないって分かったからよ?」
団長「……食したのか?」
アリアス「かろうじて司祭様も息があったから…小さくちぎった果肉を飲み込ませて果汁を傷口に塗りたくってみたけれど…何も起こらなかったわ?」
カロル「……」
団長「まぁ…それもそうか。実を食すだけで永遠に生きられるのであれば今頃は死なない人間で溢れかえっていてもおかしくはない」
アリアス「そう…古文書なんて面白おかしく書かれた嘘だったみたいね。
あの実を食べた人間がこの時代にいないっていうのは…そんな実は存在しないからよ」
カロル「じゃあ…全部、意味なかったんだね」
アリアス「そんなものよ?いつの時代も人が追い求めるのは生への渇望だけれど実現した試しがないわ?」
849: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:35:30 ID:DE8XnBMSq2
団長「…で、永遠が存在しないと分かった貴様は計画を降りると言うのか?」
アリアス「えぇ、夢物語に胸をときめかせるのは、もうやめにするわ?
永遠なんてなくても余生を楽しむ時間はたっぷりあるのだし…今まで通り宗教で大儲けしようと思うの?」
団長「…言っておくが貴様らの犯した愚行を許すつもりはないぞ?」
アリアス「鋭く睨むあなたの目…好みよ?でもやすやすと裁かれる気はないわ…」
カロル「け、ケンカはダメだからね!」アセアセ
アリアス「人殺しがよく言う?」
カロル「っ……」シュン
アリアス「まぁあんたの言う事も一理あるかもね?私だって無益な争いは避けたい?」
団長「いずれにせよ貴様のような逆賊に動かれるのは御免だ。おとなしくしてもらうぞ?」
アリアス「イヤだと言ったら?」クスッ
団長「貴様の意思に委ねはせん。犯した罪には罰が下る」
アリアス「たいした自信だこと?」
団長「貴様こそ、その余裕はどこから来る?」
アリアス「自分たちは戦闘訓練を受けた国の精鋭…なんて勘違いして胸を張ってんでしょうけれど……」ユラユラ
団長「む!?」ピクッ
アリアス「あんまり過信しないこと…よ!?」ザッ
カロル「だ、団長さん!あぶな……」
850: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:38:27 ID:oJM2UgZ8k.
アリアス「もう間に合わないわぁ!!ほぉら、捕まえ……」ガシッ
団長「ふんぬ!」ガッ
アリアス「え……!?」グンッ
ドシャッ!
アリアス「か、がっ…ばふぅ〜…!」ビクンビクン
団長「この女、一端に柔術を遣うのか…」パンッパンッ
カロル「あ、あれ…?なにがあったの…?」パチクリ
アリアス「(わ、技を返された…。この私が…!?)」バックンバックン
団長「あまり過信せぬ事だな?その程度の腕でワシを打ち負かそうなど笑わせる?」フンスッ
アリアス「あ、あん…た!なに…もの…!?」ギリギリ
団長「王族に仕える私兵だ。日々の戦闘訓練もなかなか侮れまい?」
アリアス「ぐっ…くっ…くくききぎぎぎ!!」ワナワナ
団長「身の程知らずが…王子の痛みを思い知らせてやる?」
カロル「団長さん…!」ジーッ
団長「む?」キョトン
カロル「そ、その…殺し、ちゃうの?」オドオド
団長「……」
カロル「もし…そうなら、やめておいた方がいいんじゃないかな…。お、王子さまだったら…しないと思う…」モジモジ
団長「…信用がないのだな。まぁ部下の起こした間違いの後では…それも当然か」
カロル「へ?」
団長「私的な感情で殺人はせんよ。ワシとて節度ある人間のつもりだ」
カロル「し、信用じゃなくって…団長さん、王子さまのことになるとまっすぐだから!」
団長「ん?んぅ…それはまぁ主君と配下の間柄なのだから忠誠を誓っておるが」
カロル「忠誠はよくわかんないけど…王子さまが大好きなんだよね!」ニコッ
団長「だ、大好きとは違う気もするが……」
アリアス「あ、あんた達ねぇ…!」ムクッ
851: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:40:42 ID:DE8XnBMSq2
団長「なんだ?まだ歯向かうのか?」
アリアス「似合わないヒゲ生やして調子に乗るんじゃないわよ…!」ググッ
団長「ひ、ヒゲはよかろう!別にかっこいいと思った訳じゃなくてだな…ほっといたら勝手に生えて、剃るのも面倒だっただけで……」モジモジ
アリアス「こんなところで躓いてられないのよぉ…!司祭様やアントリア神官とは違う…永遠でなくても私にはまだまだ未来がある!」ヨロッ
団長「…よろめいてるじゃないか。抵抗せんでも命までは取らんぞ?」
アリアス「私はねぇ…ダガのバカとは違うのよ…!自分の力だけで教団内での地位を高めた…!
報酬は贅沢な暮らし…イイ男!大豪邸!別荘!馬車!ご馳走にパーティーに使用人!
この世のありとあらゆる欲望を満たさないと私の苦労は報われないのよぉ!?」ワナワナ
団長「…う、うむ。正直だな…」ウーン
カロル「夢がいっぱいあっていいな…。ボクもみんなで住めるお家が欲しいよ…」シュン
アリアス「さっきは油断してたわ…。まさかチャンバラごっこの延長みたいな訓練しかしてない能無しに柔術の心得があるなんてねぇ?」
団長「国を守るという重責を負うからには多少なりと武道に精通しておらねばな」
アリアス「あーそう!?なんだろうとまぐれは一度きりよ!もう油断はしない!その浅ましく勝ち誇った顔を……」
ガツンっ!
アリアス「ぜつぼんごぅおっ!!?」ボゴッ
ドシャッ
???「私もです。拷問されてる間、あなたの勝ち誇った態度を打ちのめして差し上げたいと夢見ていました」ムスッ
アリアス「」ピクピク
団長「お、おぉ…!」マジマジ
カロル「…あはっ!宣教師さま!」ニコッ
852: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:43:13 ID:DE8XnBMSq2
カロル「無事だったんだ!」パァァ
宣教師「……」ジーッ
カロル「?」キョトン
宣教師「」プルプル
団長「無事でよかったが…なんだ、その…どうかしたのか?」
宣教師「どうかしたのかですって!?」キッ
団長「」ビクッ
カロル「」ビクッ
宣教師「…う、う、うれしいに決まってるじゃないですかぁ!!」ダッ
カロル「……えへへ」ニコニコ
宣教師「カロルくん!?ご無事でなによりです!?」ダキッ
カロル「宣教師さまも!」ギュッ
宣教師「すみません、すみません…!いつもいつも偉そうに説教ばかりしておいて肝心な場面ではなんのお役にも立てなくて…!」ガクッ
カロル「そんなことないよ?宣教師さまはいつも大切な事を教えてくれるし、何度もボクらを助けてくれたじゃない?」ポンポン
宣教師「うぅ…!しかし思えば、まともに助けたのは最初の一度だけ…!
それ以降、やることなすこと空回りしてばかりな気が……」グスンッ
カロル「ううん?宣教師さまは…ボクとお母さまの希望なの。宣教師さまがいてくれるから、人間を信じる時に迷わなくていいんだ…?」ポンポン
宣教師「き、キミという子は……帰ったら山盛りのビスケットを焼いてあげますからね!」スリスリ
カロル「よくわかんないけどやったー!」パァァ
団長「どっちが慰められとるんだか…」
853: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/22(金) 00:53:53 ID:DE8XnBMSq2
ギチギチ ギチギチ
アリアス「」グッタリ
団長「よし、これだけ縛れば自由に動き回れないだろう」
宣教師「荒縄なんてよく常備してましたね?」
団長「憲兵という職業柄な」
カロル「アリアスさん、全然起きないね?」チョンチョン
宣教師「つ、強く打ちすぎましたかね…?」オロオロ
団長「そこそこ大きめの石で後頭部を強打したんだ。死んでいてもおかしくはないな」
宣教師「し、死…!?い、いけません!私はなんと重い罪を…!!」アワアワ
カロル「寝息立ててるから平気だよ?それにさっき宣教師さまのついでに癒しておいたから!」
宣教師「あ、ありがとうございます!危うく人を殺めてしまうところでした!」アセアセ
アリアス「んぅ…んふふ…ふふふふ」ニヘラヘラ
カロル「どんな夢見てるのかな?」
宣教師「にやけ方からして、あまり口に出せないような下卑た夢なんじゃないでしょうか?」
団長「うむ、まぁ大丈夫だな?ほっといて行くぞ?」
宣教師「そういえば王子様と一緒に交渉している最中だったのでは?」
団長「決裂してしまったのだ。アントリアに阻まれてな」
宣教師「や、やはり神官を切り崩せないと先は見えませんか」
団長「だが…奴の真の目的が分かった。永遠の命など無いと知れば……」
宣教師「神官も諦める、と?」
団長「あぁ…一刻の猶予もない。王子の身に何も起こらん内にケリを着ける」
カロル「向こうに戻ろっ!王子さまが心配だもの!」
団長「うむ!行くぞ!」ダッ
宣教師「は、早っ!二人とも俊足すぎますよ!」ダッ
タタタッ………
854: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/23(土) 22:08:37 ID:/YPO/qMeVM
―――舞台周辺―――
近衛兵10「がふっ!うっあぁっ!」ブバッ
バタッ
ラム「」スッ
近衛兵11「ぜ、全滅させた筈なのに…!どうなってんだ!?」ワナワナ
ラム「ふっ…ふふふ!あっははははは!!」ケラケラ
近衛兵11「くっ…!」チャキッ
ラム「あーおかしい?まぁ見つかったのが運の尽きと思ってよ?」クスクス
近衛兵11「た、確かに我々は愚かにも…感情任せにお前の同族を殺めてしまった!
だが今は後悔している!その証拠にこうして手分けして埋葬……」
ラム「…あのさ」ハァ
近衛兵11「あ!?」
ラム「約束破って殺して土に埋めて後悔してますって…バカにしてるの?」
近衛兵11「そ、それは…」
ラム「今は味方がいないから僕一人を相手するのも怖いんだろうけど?」ヘッ
近衛兵11「……!」グッ
ラム「どうせ大勢でいたら寄ってたかって攻撃してくるクセに?」ジトー
近衛兵11「そ、それはない!私はお前たちと分かり合えると信じてる!」アセアセ
ラム「あははっ!嘘くさっ!」プゥクスクス
近衛兵11「(く、くそっ!ムカつくガキだな…!こうなったら一か八か…いや、しかし戦闘中に安全圏から見ていたが、こいつ結構強かったしなぁ…)」
ラム「ん…覚悟はいーい?」チャキッ
近衛兵11「あ、いや…待ってくれ!話せば分かる!」アワアワ
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