前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
http://llike-2ch.sakura.ne.jp/bbs/test/mread.cgi/2ch5/1356265301/1-50
―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
818: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/10(日) 22:29:12 ID:bjclyxBH9c
ルーボイ「お、追っかけてくる!」ダッ
宣教師「いいです!行かなくていいです!」ガシッ ズズズッ
ルーボイ「な、なんでだよぉ…!」グッグッ
宣教師「き、キミは!ナラたちを連れてカロルくんのいる場所に向かいなさい!
向こうがどうなってるか把握して…出来ることなら王国の方々に事情を説明するのです!」ギュッ
ルーボイ「?」
宣教師「カロルくんが王子と共に高官や教団、他国に交渉しているのなら少しでも有益な情報を欲しているに違いありません。
真実をナラと一緒にいるシスターにも伝え、カロルくんの言葉が嘘でないと分かるように証人に立ってあげるのです?」
ルーボイ「そ、そっか」
宣教師「…向こうにはまだアントリア神官がいる筈です。
たとえ王子を味方に付けても一筋縄ではいかないでしょう」
ルーボイ「宣教師様はどうすんの?」
宣教師「私はラムくんをもう一度説得してきますから、キミは急いでカロルくんの助けに向かってください?」
ルーボイ「分かった!シスターの姉ちゃんにも頼んでみる!」
宣教師「お願いします」ニコッ
ルーボイ「ところでアントリアって誰?」
宣教師「」ズルッ
ルーボイ「なんでずっこけんだよ?」
宣教師「き、キミは教団に入ったのに高位に属する方を存じてないのですか…!?」
ルーボイ「へっへー!宣教師様に教えてもらった事だけで入団できた!」ニカッ
宣教師「…ま、まぁ修道子の入団模試ですからね。基礎的な教えで十分ですよね」ゲンナリ
819: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:04:01 ID:xYIBIDxiOA
―――客席最後列―――
アントリア「耳が遠くてね。しっかり聞き取れなかったようだ…。申し訳ないが今一度よろしいかな?」
ヒメ「お前の思い通りにはさせない!そう言ったんだ!」
アントリア「…この状況を立て直す術があるとでも?
どう足掻いてもこの国の崩落は免れないだろう?」
ヒメ「国なんかでよければ貴様らにくれてやる!」
アントリア「潔いのはありがたいが…他に何を守るものがあるのだね?」
ヒメ「…ともだちだ!」キッ
アントリア「とも……だち…?」ポカーン
ヒメ「団長!」
団長「ははっ!」
ヒメ「カロルを救出して舞台の仲間と合流しろ!巡礼地の外まで逃がしてやれ!」
団長「はっ……ん?王子はどうなされるおつもりか?」
ヒメ「僕にはまだ果たすべき使命が残ってる!」
団長「し、使命…とは?」
アントリア「くっ…クハハハハハハ!」
ヒメ「何がおかしい!?」
アントリア「こうしてる今も血を流し、渇れる事の無い涙に沈む民を…生まれもって課せられた責任を…果ては肉親である母君さえ投げやりに放って…守るものがともだちとはね?
はたしてこれ以上に滑稽な話が後にも先にもあっただろうか!?笑わずにはいられないよ!ハッハッハ!」
ヒメ「…その全てを奪おうと言う貴様に笑われる筋合いはない!」
アントリア「……」ピタッ
ヒメ「アントリア!貴様に決闘を申し込む!」キッ
アントリア「……?」キョトン
ヒメ「我が父のかたき……いや、王国に仇成す逆賊を成敗する!
この重い役目を全う出来る人物など…オレの他に誰がいる!?」
アントリア「ほう?」クスッ
820: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:07:05 ID:yYh9Yksw9A
団長「な、何をおっしゃって…我々がこの場を放棄してしまえば誰が貴方様を守れると言うのです!?」
ヒメ「光栄に思えよ、アントリア?
王国、最後の王子となるこのオレと心中出来るんだからな?」ニヤッ
アントリア「ふっふっ!子供の発想力はまったく…奇想天外で驚かされる?
新たな国に用意された貴重な席を蹴り倒すばかりか、この老いさらばえた身に決闘を申し込まれるとは?」クスクス
ヒメ「…悔いはない。元より枷となる身分など捨ててしまいたかったしな。
貴様の愚かな野心が…僕を自由にしてくれた。それだけは感謝しておこう!」
団長「なりませぬ!でしたらワシめが残り、王子が舞台に避難なさってくだされ!」
ヒメ「分かってくれ、団長。こいつの言った事が本当なら、どのみち僕は追われる身となるだろう」
団長「し、しかし…!」
ヒメ「逃亡を続けたとしても陽の目を見る機会は得ずにのたれ死ぬか、捕らえられて処刑されるかの二者択一だろうな」
団長「ぐっ…くく…!」
ヒメ「そんな厄介者が紛れれば幸せにしてやると約束したホビット族も身動きを制限されてしまうだろう。
最悪はあいつらまで一緒に捕らえられて晒し者にされるかもしれない」
団長「わ、ワシが守ります!
ワシが貴方様の道を切り開く剣となり、御身に危機が迫れば鎧ともなりましょう!」
ヒメ「どっちを選んでも、ここで別れるのにか?」
アントリア「ふむ。強力な武具も身に付けてなければ力を発揮できないだろうね?」クスッ
団長「ぬぅ……!」ギリッ
821: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:11:44 ID:yYh9Yksw9A
ヒメ「大丈夫だ、心配するな。おかげでこんなにも心が晴れた」
団長「お、王子…」
ヒメ「ほんの少しの間だけど父上とも和解出来て…いろいろな話ができた。
お前が影で僕の近況を逐一伝えていてくれた事もな?」
団長「…わ、ワシはただ王族に仕える身として当然の事をしたまで」
ヒメ「父上からは口止めされてたんだろ?何も知らずに責めたりして悪かったな?」
団長「め、滅相もございません…!」
ヒメ「民や高官、貴族は僕達を張りぼての王族と小馬鹿にして嘲笑う。
でもそんな中で…お前だけが敬い続けてくれた。その優しさに救われたんだ?」
団長「お、お…おうじぃ…!」ジーン
ヒメ「こんなわがままでみっともない僕によく仕えてくれた。
ホビット族を逃がしてやった後は…自分の為に生きてくれ」
団長「そ、そんな…!ワシは…ワシは…!」ジワァ
ヒメ「…泣くヤツがあるか」クスリ
団長「な、なれば…ワシもここで王子と共に…!」
ヒメ「ダメだ!」
団長「なにゆえか!ワシも武人のはしくれ!死に場所は己で…!」
ヒメ「救ってほしいんだ、あいつらを…。これはお前にしか頼めない務めだ」
団長「な、なぜそこまで…!」
ヒメ「お前に感謝しているのと同じくらい、僕はあいつに感謝してる。
だから生きてほしい。お前にもカロルにも?」
団長「くっ……!か、かしこまりました…。意思は硬いとお見受けする…」ガクッ
ヒメ「頼む。わがままもこれっきりだ?」ニコッ
団長「必ず…必ずや助けに戻ります!危険と感じたら即座に身を隠すのですぞ!?」
ヒメ「案ずるな。お前から培った武術が体に染み着いてる。それにいざという時は恥を捨てて逃げるさ?」
団長「し、しかし…」グッ
ヒメ「くどいぞ?」ジトー
団長「くっ…ご、御武運を…祈っております!!」ダッ
822: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:21:06 ID:yYh9Yksw9A
ヒメ「ほんっと…心配性だな?」クスッ
アントリア「良い家臣に恵まれたものだね?
あれほど忠義に篤い人物はそうそういない?」
ヒメ「…待っていてくれたんだな。突然切りかかってくるかと思ったが?」クルッ
アントリア「心外だな…剣を持つ者は紳士でなくてはならない。
申し込まれた決闘を勝利に飢えて汚すほど…剣闘士としての誇りは腐っていないのだよ」
ヒメ「お前…教団員なのに剣技を身に付けてるのか?」
アントリア「まぁ…懐かしい話だがね」スラッ
ヒメ「…そうか。老人だからと言ってためらいは無用だな」
アントリア「残念ながら父君に引導を渡してやれる程度の腕しか持ち合わせていないが…」
ヒメ「…やはりそうか。傷口が一ヶ所しかなかったからおかしいとは思ってたが」
アントリア「ふっ…信者達の意思であった事も捨てきれない事実だよ?」
ヒメ「どうせ貴様が煽ったんだろ?」ジロッ
アントリア「まぁそれは直接、父君に聞いてみたまえ…。ところで剣をお持ちでないようだが?」
ヒメ「」スッ
アントリア「…短刀?まさか護身用の剣を使われるのかね?」ジッ
ヒメ「長いのは重くて使い勝手が悪いんだ」チャキッ
アントリア「ふっふっ…」ジャキッ
823: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:24:19 ID:yYh9Yksw9A
ビュンッ ビュンッ ビュンッ ビュンッ
カロル「や、やめっ!やめてよ!みんな…急にどうしたの!?」ビシッビシッ
信者1「はぁっ!黙れ、化け物!さっさと死んじまえ!」ブンッ
ヒュッ ビュンッ ビュンッ ビュンッ
カロル「い、いたっ…!痛いってば!やめてよ、ボクなんにもしない!ただ仲直りしたくて…」ビシッビシッ
信者2「ぜ、全然効いてないぞ…。あれだけ石をぶつけ続けてるのに」ゼェゼェ
信者3「た、たぶん癒しの力で回復してんだ!一発で殺さなきゃダメなんだ!」
信者4「そ、そんなら石なんかより…さっきやっつけたお付きの兵士達が持ってた剣で…」
信者5「よ、よし…じゃ…じゃあお前やれよ!」ドンッ
信者4「や、やですよ!なんで僕が?」ビクッ
信者5「言い出しっぺだろ?」
信者6「そうだそうだ!」ブンッ
信者4「無理!あんな得体の知れない化け物に近寄りたくない!」
信者7「誰でもいいからやれよ!」ブンッ
???「その任、引き受けた!ワシに任せろ!」ダッ
信者7「お!誰か分からんが頼もしい!」
信者8「あの化け物をやっつけてくれ!」
824: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/13(水) 23:28:26 ID:yYh9Yksw9A
ビュンッ ビュンッ
カロル「う、うあ…痛い!痛いったら、もう!?」グスンッ
???「小僧!」バッ
カロル「え?あ、だ…団長さん!?」ビックリ
団長「少々揺れるが…絶対に肩から降りるなよ!?」ガバッ
カロル「きゃっ!な、なんで?ヒメくん…じゃなくて王子さまは?」ガッ
団長「今は説明している暇はない!一刻も早くここを離れるぞ!」ダッ
信者1「ああ!おい、なにしてんだ!」
信者2「や、奴はさっき王子といた…!?」
信者3「お、追え!追えー!」ダッ
ダダダダダダダッ
信者4「し、神官の指示を仰いだ方が…ああ行ってしまった!」
信者5「し、神官!どうしま……神官!?神官は!?」キョロキョロ
信者6「む、向こうだ!王子といる!」
信者7「け、剣を握ってるぞ!?まるで決闘……」
信者8「こ、国王の次は王子を粛清するのか!?」
信者9「わ、私達はどうすれば?」
信者10「し、神官の勝利を願って祈ろう!あのお方を死なせてはならない!」パシッ
信者11「そうだ!罪深き種族に操られた無能な王族に神罰を!」パシッ
オオオオオオオオオオオオ
825: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:38:13 ID:IihjMlnBD6
―――客席―――
ドカッ ドスッ バキッ ゴシャッ
ドサッ ドサッ ドサッ ドサッ
ズガッ ガタァンッ
信者3「ぐっ…」フラフラ
信者3「あぁ……」バタッ
団長「ふぅ…しつこい奴らめ?ろくに殴り合いも出来ない民草が束になったところでワシの相手が務まるか?」パンッパンッ
カロル「こ、この人間たち大丈夫なの?」オロオロ
団長「心配いらんよ。気絶させただけだ。さ、行くぞ?」スッ
カロル「あっ…ぼ、ボク自分で走れるから?ありがとう?」オロオロ
団長「む?そうか?それならいいんだが…」
カロル「あっ…ちょっと待ってね」スッ カタッカタン
団長「椅子などわざわざ元に戻さんでも、そのままにしておけばよかろう?」
カロル「だって人間たちが起きた拍子に椅子の足に頭をぶつけたりするかもしれないでしょ?あぶないよ?」カタッカタン
団長「そいつらはお前に石を投げ……いや、言っても無駄か」クスッ
カロル「はい。これでおしまい!」カタン
団長「ふっ…行くか」
カロル「うん。行こ?」ダッ
団長「なんだ?自分で走る時の方がイキイキしてるな?」ダッ
カロル「(団長さんの硬くってモリモリした肩がお腹に当たって苦しいんだもの…)」タタタッ
団長「(ワシの肩の乗り心地がそんなに悪かったのだろうか…?)」ウーン
826: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:43:18 ID:IihjMlnBD6
―――舞台―――
ヒュオオオオオオ
団長「……!」
カロル「な、なん…で…?」フルフル
近衛兵1「……お戻りに、なられましたか」
団長「…何があった!?この状況…ホビット族がなにゆえ倒れ伏しておる!?」
近衛兵1「申し訳ございません…!力及ばず…仲間の暴走を…食い止める事が出来ませんでした!」ググッ
団長「…仲間の暴走?お前たち……」
近衛兵10「謝るこたぁねぇ!」ズイッ
近衛兵11「ホビットと和解?クソッ食らえだ!」ブンッ
ボトッ コロコロ………
団長「……!」ジッ
カロル「や、やぁぁ…うぁぁぁ!」ガクガク
近衛兵1「き、貴様!団長にそんな…そんな物を投げつけるなど…!」カッ
近衛兵11「そんな物?そんな物ってのはぁ…あのきったねぇ生首け?」ニヤリ
近衛兵1「うっ…」プイッ
近衛兵10「団長の不在時に我々であいつらを始末しておきました!たいしたもんでしょう?」
団長「また貴様らか…!あれほど言い聞かせたにも関わらず…!」ギロッ
近衛兵11「けっ!俺達だけじゃねぇよなぁ?」クイッ
ザワザワ ザワザワ
団長「どういう事だ!?」
近衛兵12「…先陣を切って攻撃に出たのは私です」スッ
団長「なに!?」
827: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:47:16 ID:IihjMlnBD6
近衛兵12「団長や王子のおっしゃる事は理解していたつもりでした。いや、むしろ賛同できていたんです…」
団長「ならばなぜだ!?
ワシが王子に伴って必死の交渉を続けていると知って…なぜ早まったまねをした!?」
近衛兵12「衝動…としか言いようがありません」
団長「自分が何を言ってるか分かっているのか?ど、どうしようもない…!?」
近衛兵12「……」ペコリ
近衛兵1「と、止めはしたんです!ですが本当に唐突な出来事で……」
団長「たった一人であれだけのホビットを始末したとでも言う気か?」ジロッ
近衛兵1「面目次第もございません!一匹を切った時点で他の兵も雪崩のように!」ヘコヘコ
団長「どいつもこいつもなにを考えとるんだ!
内にも外にも身勝手な輩しかおらんじゃないか!」
近衛兵12「…この舞台上から先ほど争った戦場が見渡せる。眼を背けたくとも…視界に入ってしまう!」ギリッ
近衛兵1「お、おい」
近衛兵12「自ずと死んでいった仲間の哀れな姿が一望できてしまうのです!」
団長「……」
近衛兵12「恐怖に強張る死に顔もあれば、悔しげに空を睨み付けるような無念さを感じさせる死に顔…。
虚ろな眼差しにそれぞれの想いがはっきりと宿されているんだ!」
近衛兵10「そういうことさ!俺達は仲間の無念を晴らしたかっただけだ!」
近衛兵12「うっ…うううう」ポロポロ
近衛兵11「泣いていいんだぜ。
でなきゃこの人は俺達の本気な気持ちを分かっちゃくれねぇ!」バンッ
近衛兵12「ぐっ…ふぐぅぅ!だ、団長は一体…うえっ!
ここを移動する、間に…何人の屍を踏んでこられたぁ!?」ブワァッ
団長「…甘ったれるなぁ!!」
近衛兵's「」ビクッ
828: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:49:47 ID:IihjMlnBD6
団長「戦っている間は死の恐怖や抗えぬ使命感に押し潰されそうになる!」
団長「戦いが終わっても気が休まる事はない!生きて親しい人との別れを悼まねばならん!
失った物の多さを再確認し、無力感から深い憤りにも苛まれるだろう!」
近衛兵10「そ、そうさ!だから……」
団長「それがどうしたぁ!?」
近衛兵12「ど、どうしたって…!」
近衛兵11「あ、あんたなぁ!分かってて、なんとも思わねぇのかよ!?」
団長「それが争いだ!!ワシらのしてきた事は…適当な大義名分を掲げた、ただの殺し合いなんだよ!!」
近衛兵12「……!」
団長「そんな事は百も承知でホビットに和睦を申し出たのだ!
貴様らもこれ以上、同じ事を繰り返してはならないと認識していたんじゃないのか!?」
近衛兵1「ごもっともです…」
団長「お前たちのした事は仇討ちでもなんでもない…!卑劣で一方的な単なる虐殺だぁ!!」
シーン
団長「恥を知れ!!クズ共め!!」
近衛兵12「…うっ!うぐぅぅぅ」グシグシ
近衛兵7「……」パッ
近衛兵8「くそっ…くそぉっ!」ポイッ
カランカラン ポイッ カランカラン カランカラン
団長「はぁっ…はぁっ…!」ワナワナ
829: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:55:31 ID:IihjMlnBD6
近衛兵12「ではどうすれば…どうすればよかったのです?」エグッ
団長「…なにがだ」
近衛兵12「…戦場の中には私の兄もおりました。ですが…今ここに兄はいないのです」
近衛兵7「わ、私だって…」
近衛兵8「多くの友が…死んでいったんだ…」
近衛兵12「この埋まらない想いを…どうすれば慰められたのです!?」
団長「非情だと言われてもしかたないが…割り切るしかあるまいよ」
近衛兵12「割り切る…!?目の前に仇がいて…どうして割り切れるのです!?」
団長「…お前が今、口にしている想いを殺されたホビット達もどれだけ感じていたか…」
近衛兵12「……!」グッ
団長「奴らは本気で平穏を望んでいたのだろうな。
なればこそ貴様のように激情を吐き出さず、胸の内に込み上げる悔しさをしまい込んだのだろう」
近衛兵12「あ、あいつらなんて…最初から…最初から仲間も家族もいないようなもの……」
団長「バカが!!」
近衛兵12「」ビクッ
団長「そんな言い訳にもならぬ戯れ言をいつまで続けるつもりだ!?」
近衛兵12「くぅっ…くくく……うっうっ!」シクシク
団長「…手分けして亡骸を弔ってやれ。仲間と…無論ホビットの分もな」
近衛兵1「かしこまりました…」ペコッ
近衛兵7「私達はなんてことをしてしまったんだ…」ガクッ
近衛兵8「……」ググッ
団長「ワシにも責任はある…。お前たちの心中を見抜けずに目を離してしまったのだからな…」
団長「(奇しくもアントリアの予言通りになってしまったか…)」フッ
団長「(これでは一体…なんの為に戦ってきたのだ。まだ幼い王子が皆を守りたい一心で戦っていると言うのに…)」
団長「(国とホビット両方を守ろうとすれば遮られ、ホビットだけでも守ろうとしたが、それすら叶わず…)」
団長「(ワシは…ヒメ様の望みを何一つ叶えられておらんではないか)」
830: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 20:57:41 ID:PixKk8pHw2
カロル「……」スタスタ
団長「」ハッ
カロル「」キョロキョロ
近衛兵1「ひっ!」
近衛兵7「い、いつの間に壇上へ!?」
団長「小僧!なにをして……」
カロル「」ピトッ
近衛兵8「(し、死体に手を添えて…?)」
カロル「……」ペタペタ
近衛兵9「そ、そうベタベタと触っては血が付着するぞ?」
カロル「」スクッ ピトッ
団長「ま、まさか」
団長「(まだ助かる可能性がある仲間を…死体から一匹一匹探しているのか?)」
カロル「」ピトッ ピトッ
近衛兵10「へへ…!」ザッ
近衛兵11「そんなことしたって無駄だよ!生きてる奴なんざ一匹もいねぇ!」
カロル「どうして?まだ分からないじゃない?」ピトッ
近衛兵10「分かるさ!さんざん切り捨ててやったからな!」ニヤニヤ
近衛兵11「そうそう!んで呻き声漏らしてる奴やら息がありそうな奴は念入りにトドメ刺しといたからなぁ!」
近衛兵1「お、おい!なんてこと言うんだ!?」
近衛兵10「あぁ!?団長が訓練の時に言ってたろ!?」
近衛兵11「『倒したと思って油断するな。確実に息の根を止めろ。どちらかが死ぬまでが戦いだ』ってよ!げっひゃひゃ!」ゲラゲラ
近衛兵1「……!」
カロル「」ピトッ ピトッ
831: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 21:00:17 ID:PixKk8pHw2
団長「おい、そこの二名」
近衛兵10「あぁ〜ん?」ギロッ
近衛兵11「なんすかぁ〜?」ヘラヘラ
団長「降りてこい」クイックイッ
近衛兵10「……」
近衛兵11「や、やだなぁ〜?また暴力で解決ですか?」
団長「2対1で構わん?」
近衛兵10「おぉっと?その手は食いませんよ?
俺達二人じゃ一蹴されるのは目に見えてる?」
団長「それならばこうしよう。ワシは素手で相手する?」
近衛兵11「えっ?いいんすかぁ〜?」ヘラヘラ
団長「あぁ、それなら文句はあるまい?」
近衛兵10「ウシシ…!やっちまおうぜ?
俺、このオッサン前から気に入らなかったんだよ?」ニシシ
近衛兵11「だな?俺もめんどくせぇと思ってたんだ!」ニシシ
近衛兵1「お、お前ら自分がなに言ってるか……」
団長「構わん。言わせとけ」バッ
近衛兵10「あんた城内でも相当煙たがられてたぜ〜!?」ピョンッ ストッ
近衛兵11「忠義ヅラして王族に媚びる頑固者だってな〜?」ピョンッ ストッ
団長「ふん…笑止なり」
近衛兵10「ぶった切ってやるよ!」スラッ
近衛兵11「へへ…王国最強の剣闘士と謳われるあんたの首を跳ねたとなりゃいい自慢になりそうだ?」ジャキッ
団長「貴様らのような外道畜生を隊に組み込んでしまった己を恥じる…。
やはりワシは人を見る目がないようだ」
832: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 21:03:54 ID:IihjMlnBD6
近衛兵10「ぐ……はっ」ドサッ
近衛兵11「あ…あぐぅ…はがぁ…!」ボロッ
団長「……」パンッパンッ
近衛兵1「お、お見事…」パチパチ
団長「さて、仕上げだ」ガッ
近衛兵10「」ダラーン
近衛兵1「な、なにを…?」
団長「言ったはずだ?『倒したと思って油断するな。確実に息の根を止めろ。どちらかが死ぬまでが戦いだ』とな?」グッ
近衛兵1「え!?」
近衛兵11「」ビクッ
団長「お前たちも、しかと目にしておけ。ワシが手負いの人間にトドメを刺すところをな?」ググッ
近衛兵10「」ギギギ ギチギチ
近衛兵's「」ゴクリ
団長「……」ググッ
近衛兵10「」ブクブク
近衛兵1「(ほ、本気だ…!団長は本気で絞め殺そうとしている…!)」
「待って!!」
団長「……」チラッ
近衛兵1「き、きみ……」
カロル「……」ピョンッ ストッ
団長「」パッ
近衛兵10「」ドサッ
近衛兵11「ふぅはぁいぅぅ……」ガクガク
833: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 21:07:26 ID:IihjMlnBD6
団長「いいのか?」
カロル「…そんなことしたってみんなが戻ってくる訳じゃないもの」
団長「そうか…」
近衛兵1「だ、団長……」
団長「…分かるか?ワシのしようとした事の意味が?」
近衛兵1「え?」
団長「瀕死の人間をなおも痛め付け、トドメを刺そうとするワシの行為がどう写った?」
近衛兵1「それは…その…」マゴマゴ
団長「お前たちは心のどこかでホビットだからと考え、躊躇いを殺したのではないか?」
近衛兵12「」グシグシ
近衛兵7「……」
団長「人が人に殺意を向けるサマが恐ろしいと思えるなら、ワシの言わんとする事も分かるな?」
近衛兵8「はっ…」ピシッ
団長「ワシの理屈が通用するのはあくまで戦場の中での話だ。
争いが治まった時点でここは戦場の外であり、その上でワシの言葉を言い訳にしようなど言語道断!」
近衛兵9「う…は、はい」モゴモゴ
団長「小僧が止めていなければ殺るつもりだった。貴様はバカにしているホビットに二度も救われたのだ?」ジロッ
近衛兵11「ふ…ふぁい」
団長「…王子の守ろうとした物をことごとく奪った罪は重いぞ」
ザワザワ ザワザワ
団長「だが…」チラッ
カロル「……」
団長「今回に限り、許してやろう」
近衛兵1「…は、はぁ」
シーン
834: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/15(金) 21:26:21 ID:IihjMlnBD6
近衛兵1「わ、我々は…どう償えば…」
団長「…ワシに聞くな」
近衛兵7「き、きみは?どう償ったらいいと思う?」アセアセ
カロル「…しらない。そんなの自分で考えてよ」キッ
近衛兵7「え!?」
カロル「ボクに聞かれても殺されたみんながどうしてほしいかなんて…今さら分かんないよ」
近衛兵7「そう…だな」シュン
近衛兵8「ち、ちくしょう…!我々はなんてバカなまねを…!」グッ
カロル「そんなに後悔するくらいなら…初めからしなければよかったのに」
近衛兵12「ずみ…まぜん…」ズビーズズズ
カロル「こんなツラい気持ち…無くしたかったから。だから仲直りしようって…言ったのに」フイッ
カロル「…これじゃいつまでも変わらないよ。ずっと…苦しいままだよ」
カロル「なんでみんな分かってくれないのさ…」ボソッ
団長「すまない…」
カロル「ううん。団長さんは悪くないよ」フルフル
団長「せめて君だけは逃がしてやらんとな…」
カロル「…その前に助けたい人がいるんだ?」
団長「む?」
カロル「大樹の向こう側に宣教師さまがいるはずだから…」
団長「…分かった。今すぐ向かおう」
カロル「ありがとうございます」ニコッ
団長「礼を言うのはワシの方だ」
カロル「へ?」
団長「部下たちを責めないでくれて助かった…。ワシとしても直属の部下たちを罰するのは心苦しかったが…お前のおかげで裁かずに済んだ」
カロル「…ボクは許してないよ。ただ…どうしたらいいか分からなかっただけ」
団長「……」
835: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:28:19 ID:c8hmEAhvxo
―――大樹の根元―――
宣教師「はぁっはぁっ」ゼェゼェ
ムワァァァァァ
宣教師「お、遅かったみたいですね…」タジッ
宣教師「(それにしても血には何度遭遇しても慣れませんね。外なのにおぞましい程に異臭が充満してます…)」キュッ
宣教師「」スンッ
宣教師「(気のせい…でしょうか?鋭い鉄臭さの中に微かな…ホントに微かな甘い香りが……?)」ジッ
果実「」ポツン
宣教師「こ、これは…なるほど、甘い香りの正体はこれでしたか」
宣教師「(2ヶ所、かじられた形跡がありますね…。やはり彼が……)」
宣教師「(それにしても先ほどまでは香りなどしなかったのに…皮が剥がれて果肉が覗き出した途端に強い…)」ピトッ
宣教師「かお…り……が……!」ヌメッ
宣教師「粘液…ではなく果汁…?ねばっこくて…まるで磨り潰した餅米を溶かして戻したような…」ヌチャヌチャ
宣教師「な、舐めてみるだけ……」アーン
宣教師「いやいやいや!わ、私ったら…いったい何を!」パッ ゴシゴシ
宣教師「…興味本意で危うく永遠の生き地獄に片足を踏み入れるところでした」ハァッ
宣教師「」チラッ
死体「」
宣教師「こうなってみると…ふしぎとあなたに抱いていた怒りや憎しみも感じなくなりましたよ」
宣教師「…永遠の命に囚われ、今ある命さえ手放しては意味がないのに…」
宣教師「余生を虚しい復讐に費やし、大勢を犠牲にしてまで…得るべき物だったのですか?」
宣教師「…幼少の折に私が慕い、憧れたあなたは偽りの姿だったのでしょうか?」
宣教師「今となっては…ああなってしまったあなたを突き放した私にも責任があるのだと思えてなりません…」
宣教師「この夜のように暗く淀んだ心を救済する術があったのだとしたら……」
宣教師「さようなら。司祭様…どうか安らかにお眠りください」パシッ
宣教師「……」ギュッ
836: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:31:05 ID:QMnORsLsRI
―――大樹周辺―――
カロル「……」スタスタ
団長「…すまない。謝ってどうなるものでもないが…」スタスタ
カロル「…」フラッ
団長「だ、大丈夫か!?」ガバッ
カロル「えへへ…ちょっぴり疲れちゃった…」ポフッ
団長「…許してくれ。王子もワシも…こんな結末を望んでいた訳ではなかったのだ」
カロル「知ってるよ。二人はとっても優しいから…知ってる」
団長「…すまなかった」ペコッ
カロル「ねぇ、団長さん」
団長「なんだ…?」ジッ
カロル「ボクたちのしてきた事って…なんだったんだろう」フイッ
団長「ワシにも…分からん」
カロル「だよね…」
団長「……む?」
カロル「どうしたの?」
団長「いや、暗くてよく見えないが…向こうで人影らしき物が動いてる…」
カロル「宣教師さまかな!?」
団長「…どうだろうな」
ガサガサ ガサガサ
団長「…向こうも気付いているようだ。一応ワシの背に隠れておけ」
カロル「…はーい」ササッ
837: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/17(日) 21:34:38 ID:QMnORsLsRI
―――平原―――
シープ「ゴメンって!ゆるしてよ!」アセアセ
ラム「なにを怯えてるんだい、シープ?」ジリジリ
シープ「……ラム、目が怒ってる!」アセアセ
ラム「怒ってなんかないよ。清々しくて最高にイイ気分さ?」ジリジリ
シープ「じゃ、じゃあ…なんでぼくにナイフを向けるの!?」
ラム「分かってほしいんだ。シープにも?」ユラァ
シープ「な、なにを!?」
ラム「よく見ていて?」サッ スパッ
シープ「な、なにしてるの!?て、手首から血が出て痛そう?」オロオロ
ラム「ふふ…うふふ、ふふふふ」タラァ
シープ「ど、どうしちゃったの…?なんかおかしいよ…?」ビクビク
ラム「大きな力を持ったら、それだけ大きな事を成し遂げられる。僕は今やっと自分の生き方を見つけたんだ?」
シープ「…そ、そんなのいいから!き、聞いてよ!人間たちがまた裏切ったんだ!
あいつら、約束破って…バンパを切ったんだ!他の仲間も!」
シープ「ぼく…こわくて…仲間を置いて逃げちゃったんだ。あいつら追ってくるかも…」
ラム「あはははははは!!!」ケラケラ
シープ「え!?」
ラム「やっぱりね?だと思った?」ニヤニヤ
シープ「…わ、笑うことないじゃん」
ラム「ザマァ見ろ!!」
シープ「」ビクッ
ラム「きゃはははは!!」ケタケタ
シープ「ぼ、ぼくらが悪かったよ!ラム間違ってなかった!だ、だから…助けてくれない!?」
ラム「…助ける?なんで?」ジトー
シープ「う……」
1002.46 KBytes
[4]最25 [5]最50 [6]最75
[*]前20 [0]戻る [#]次20
【うpろだ】
【スレ機能】【顔文字】