前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
760: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:19:00 ID:6JhPr.yEps
ザッザッ ザッザッ
ラム「(なんで僕が……)」グッ
ルーボイ「ラム!」
ラム「…なに?」ジロッ
ルーボイ「助けてくれたサンキューな!宣教師様も俺も司祭様たちに殺されんとこだった!」ニカッ
ラム「」ドキッ
ルーボイ「お前ってひねくれてんけど、なんだかんだでいい奴だよな?」
ラム「べ、べつ…に…そんなこと、ない」プイッ
ルーボイ「照れんなし!」
ラム「…照れてないよ。あてもなく歩いてたら、たまたま人間を見つけたから…腹いせに殺してやろうと思っただけさ」
ルーボイ「はぁ?ウソじゃん?前もそんなん言って行商人のおっちゃん、殺してなかったじゃねぇか?」
ラム「あ、あの時は…!き、君を試したかったから!」アセアセ
ルーボイ「よくわかんねーけど試したって事は…お前ん中でまだ人間を許せる気持ち、あるんじゃねーの?」
ラム「……ありえないね」ムスッ
ルーボイ「なに拗ねてんだよ?」キョトン
ラム「別に…!」フンッ
761: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/20(日) 22:20:19 ID:604BxdA6c.
宣教師「」ハァッハァッ
ルーボイ「大丈夫?宣教師様、顔が青いぞ?」グッ
宣教師「心配…いりません。それより…キミたちは顔見知りなのですか?」
ルーボイ「うん!迷子…じゃなくてパッチ探してた時に追い剥ぎしてたヤツ!」
宣教師「あぁ…一時期、噂になっていましたね…。行商人や旅人を襲って荷物を奪う…ホビット?」
ラム「生きる為ならなんだってするさ。悪い?」
宣教師「まぁ…なんとも言えませんが」
ルーボイ「マルク!大丈夫か!」
マルク「くぅ…クゥン!」ヨタヨタ
ルーボイ「よーし!えらいぞー!」
マルク「あんっ!」ピシッ
宣教師「…ルーボイくんはたしか…動物が苦手だったのでは?」
ルーボイ「大聖堂でナラと一緒にウサギの世話してたら慣れた!」
宣教師「ウサギ…?いましたっけ?」
ルーボイ「あっちのシスター達がマルクみたいなペット欲しいっつってミラルドの町まで行って買ってきたんだよ!」
宣教師「み、ミーハーですね…」
ルーボイ「ラム!しっかり肩持ってろよ!ナラたちと合流するまで落とすなよ!」
ラム「(なんか流されてる気がする…)」
ザッザッ ザッザッ
762: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:38:39 ID:Id45RKe/cY
アリアス「……」
アリアス「……司祭様が死んでしまったら、私達の理想郷、建国はどうなるの…!?」ワシャッ
アリアス「実の栽培にしたって…手掛かりは古文書だけ……解読出来るのは司祭様しかいない…!」ガシガシ
アリアス「神官は……おそらく司祭様の知ってる以上の事は知らない…」
アリアス「…これじゃ計画が台無しよ!
たとえ永遠の命だけ手に入れても…先の見込みがなかったら、そんなのは生き地獄でしかないわ…」ブルッ
アリアス「教団が繁栄して安寧と享楽を貪るには…神秘に包まれた永遠の国でなくてはならない…!
司祭という絶対的な存在が永遠に生き永らえ、認められた人間が永遠の命を授かる…!
この形が最も自然で揺るぎない説得力を産み出すのに……」ガリガリ
アリアス「こうなったら神官が司祭に……いや、神官はダメよ!あの方は何を考えてるのか分からない…!
今回にしてもお膳立てに徹して大した見返りも求めてない…。そういう奴が一番、ブキミなのよ!」
アリアス「かといって私じゃ司祭様の代わりはできない…。
司教や神官のように正式な位を持たないから、まず認めてはもらえないわ…!」
アリアス「あぁ!どうしたらいいのよ!土壇場で一体なにをやってるの!想定外もいいとこよ!?」ガリッ
アリアス「…今まで欲望を押し込めてまで付き従ってきたのは何の為…!?
40も後半に差し掛かって…女の寿命が間近にあっても堅苦しい規則に縛られて……!?」
アリアス「これからは好き放題に若い男をはべらして、宝飾品に囲まれて、高級な物だけを口に入れて、渋みのある二枚目の使用人を奴隷みたいにコキ使って…!
庭には専用の遊泳場!白馬が駆る馭者付きの馬車!おしゃれな椅子やテーブルを並べた開放的で優雅な食事場!
遊んで暮らして…貴族も羨むような豪遊生活を思い描いてきたのにぃ!?」ワシャワシャ
司祭「」ピクッピクッ
アリアス「」ビクッ
司祭「」ダラァァ
アリアス「ノワールさま!?」ガバッ ピトッ
アリアス「…まだ息がある!?」バッ
アリアス「……」
アリアス「だから何よ。どうしようもないじゃない…」フッ
アリアス「どうしようも……」
アリアス「……!」ハッ
763: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:42:03 ID:U75uC.JQYY
―――平原―――
ルーボイ「ナラと姉ちゃん、まだあっちにいんかなー」
ラム「……」
ルーボイ「なぁって?」
ラム「(なんで僕に聞くんだよ)」
宣教師「表情が浮かないですね?」
ラム「は?いつもこんな表情だけど?」
宣教師「キミが言うようにきれいごとでは何も変わらないのかもしれません」
ラム「……は?」
宣教師「ですが、きれいごとで何かが変わる事もあるんですよ?」
ラム「…何が変わるのさ」
宣教師「人と人の繋がり。それを強固にしてくれる力が確かにあるんです?」
ラム「…どうだか?」フンッ
宣教師「先ほどまで冷酷に徹していたキミがルーボイくんに協力しているのが…いい証拠でしょうね」ニコッ
ラム「やめてもいいんだけど?重いし?」
宣教師「」ガーン
ルーボイ「ほんっと重いよな!宣教師様って!」
ラム「ね?」
宣教師「き、キミたちの身長と釣り合いが取れてないだけです!
同じ身長でしたらげふぁっ!?ごほっ!ごほっ!」ゲホゲホ
ルーボイ「うわっ!?」ビクビク
ラム「おとなしくしてなよ。結構やられてんだから」
マルク「」ヨタヨタ
ラム「……」ジッ
マルク「うー…」フラッ
764: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:44:56 ID:U75uC.JQYY
ルーボイ「そういや宣教師様たち、なんであんなとこにいたんだ?」
宣教師「カロルくんとお母様が騙されないか心配で付いてきたのですが…。
結局はなんの役にも立てず、二人は連れていかれてしまいました…」
ラム「(カロル……?)」ピクッ
ルーボイ「あ…あいつら死んじゃったんだよな」シュン
宣教師「…あの二人の想いを無駄にしない為にも私は真実を伝え続けます。今ある差別が少しでも和らぐように……」
ラム「なんか勘違いしてるみたいだけどカロルくんなら生きてるよ?」
ルーボイ&宣教師「えっ」
ラム「今は人間の王子と協力してホビットと人間が一緒に暮らせる国を作ろうとしてるよ」
ルーボイ&宣教師「えっ」
765: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:47:14 ID:Id45RKe/cY
宣教師「本当ですか!?ホントのホントに本当ですか!?」ガバッ
ラム「あぇっ!?」ギュッ
ルーボイ「う、ウソじゃねぇよな!?な!?」ガシッ
ラム「…ほ、本当だよ」
宣教師「生きてるんですね…!」パァァ
ルーボイ「おぉ!しかも王子とかすげーな!」ウッヒョー
ラム「…そんなに嬉しいの?」
宣教師「嬉しいですよ!これ以上の喜びを感じた事はありません!」ウキウキ
ルーボイ「あいつ生きてたんだな!よかったな、マルク!」
マルク「」フゥ
ルーボイ「……?お前嬉しくないのかよ?」
宣教師「ふふ!マルクくんは信じてたんですよね?カロルくんが生きてると?」
マルク「わんっ!」
ラム「……」
宣教師「こうしてはいられません!会いに行きましょう!」
ルーボイ「ナラたちを連れてきてからでいいじゃん!」
宣教師「あ、そうでした!」ハッ
ラム「……」
宣教師「行きましょう、二人とも!」パッ スタスタ
ルーボイ「せ、宣教師様!肩持たなくていいのか!?」アセアセ
宣教師「彼に不甲斐ない姿は見せられませんからね!」スタスタ
ルーボイ「さ、さっきまでボロボロだったクセに…立ち直り早いなぁ」ポリポリ
766: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:52:14 ID:Id45RKe/cY
宣教師「喜びは元気みなぎる活力です!あぁ、生きてるって素晴らしいですね!」ランランラン
ルーボイ「また倒れちゃっても知らねーぞ!」スタスタ
ラム「……」スタスタ
マルク「」グイグイ
ラム「え?なに?」クルッ
マルク「」スリスリ
ラム「…どうしたのさ。僕に擦り寄ったってエサはあげられないよ?」
マルク「クゥーン…」スリスリ
ルーボイ「バーカ!」
ラム「は?」カチンッ
ルーボイ「お前が寂しそうな顔してっから、マルクが気ぃ使ってんだよ!」
ラム「はぁ!?誰が…!」カッ
宣教師「ケンカはいけませんよ?ルーボイくんも乱暴な口に気を付けて?」
ルーボイ「だってこいつが…」
宣教師「こいつじゃありません!名前があるんですから、ちゃんと呼んであげないとダメでしょう!」ピシャリ
ルーボイ「ふん…」
ラム「……」ムスッ
767: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:54:28 ID:U75uC.JQYY
宣教師「すみませんね。この子は昔からこうなんですよ?決して悪い子ではないのですが……」
ラム「いいよ…。人間に何を言われたって…」
宣教師「あ!今のもよくないですよ!目の前にいるんですから人間なんて呼び方は失礼です!」
ラム「…人間が指図するなよ。お前もあのおじいさんみたいになりたい?」ジロッ
ルーボイ「おい!宣教師様になに言ってんだよ!?」ガシッ
ラム「触るな!汚いんだよ!」バッ
ルーボイ「こ、コノヤロー!」カッ
宣教師「はいはい、ケンカしない」ポンポン
ルーボイ「だ、だってこいつ……ラムが宣教師様になんか言うから!」
ラム「気安く名前で呼ばないでくれるかな?人間くん?」
ルーボイ「てめぇ!?」
宣教師「…カロルくんが見たら悲しみますよ?」
ルーボイ「」ピクッ
ラム「僕には関係ないね」
ルーボイ「お前なんなんだよ!さっきまで普通だったじゃんか!」プンスカ
宣教師「何か気に障る事を言ってしまいましたか?」
ラム「言っても言わなくても同じだよ。人間と一緒に行動してるだけで吐き気がする…」
宣教師「吐き気ですか…。それでしたら、この平原でいくつか薬草を見かけましたからキミの症状に合いそうなのを探してみましょう?」ニコッ
ラム「……お前、バカにしてるの?」イラッ
768: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:57:28 ID:Id45RKe/cY
ルーボイ「へへーんだ!宣教師様は医術も習ってるから薬作ったりできんだぞ!?
前にパッチが風邪引いた時だって宣教師様が作った薬飲んだら一発で治ったし!」エッヘン
宣教師「あれは薬湯と偽って生姜湯を与えただけですよ。病は気からと言いますし?」
ルーボイ「えー!?じゃあ俺が転んで擦り剥いた時は!?」
宣教師「消毒して清潔な布をあてがっただけです。軽いケガでしたし」
ルーボイ「ぜんぜんダメじゃん!」
宣教師「薬を一から調合するには時間とお金が掛かりますからね。
修道女の頃に薬学を学んでいるので実習はしてますが、この知識は正直あんまり活用出来てません」
ルーボイ「なんだよ、それ…意味ねーし」
宣教師「思えば将来に備えて手広く身に付けても意外とほとんど使わないんですよね。使う場がないというか…」ウーン
ルーボイ「へー…じゃあ勉強なんてしなくていっか。ずっと遊んでよ」
宣教師「そういうことじゃありません!」
ラム「……」
宣教師「あ!ごめんなさい!今はキミの吐き気を治すのが優先でしたね!ついつい話が脱線して…」
ラム「その時点で脱線してるんだよ…!」イラッ
769: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 21:59:36 ID:Id45RKe/cY
ラム「僕は人間が嫌いだ!だからお前らも嫌い!それだけだよ!」
宣教師「……」
ルーボイ「じゃあなんで俺たちといんだよ!?」
ラム「こっちが聞きたいよ!君が無理やり手伝わせたんだろ!?」
ルーボイ「はぁ!?イヤだったら来なきゃいいじゃねぇか!?」
宣教師「つまり照れ隠しですね?」ニコッ
ラム「違う!!」
宣教師「では何が気に入らないのですか?」
ラム「全部だよ、全部!なにもかもが気に入らない!」
宣教師「それは困りましたねぇ…」
ルーボイ「宣教師様を困らすなよ!」
ラム「……!」
宣教師「信用してもらうにはどうしたらいいですか?」
ラム「まるで僕だけが一方的に信用してないみたいに…」
宣教師「私達はキミを信用していますよ?」
ラム「信用できる訳がないだろ!さっきのを見て、薄気味悪いと思ってるんだろ!?」
宣教師「人道に反する罪深き行いではありましたが…キミ自身を気味悪く思ったりはしませんよ」
ラム「偽善者!!」カッ
宣教師「私が偽善者だとしたら、キミは偽悪的になりすぎです?」
ラム「何度も言わせるなよ!お前なんかに分かったフリをされたくない…!」ギリッ
宣教師「もっと素直になっていいんですよ?」
ルーボイ「そうそう!素直になれっつの!」ウンウン
マルク「あんっ!」
ラム「っ…!」タジッ
770: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/27(日) 22:02:31 ID:Id45RKe/cY
宣教師「会って間もないですし、本来なら私が口を出す事ではありませんが…キミは心のどこかで繋がりを求めて孤独に怯えてる…。そんな気がします?」
ラム「あっそ。思い過ごしじゃないの?」フンッ
宣教師「信じる相手に巡り会えないのはとても悲しいことです。
共に喜びを託し、与え合う相手がいればこそ、束の間の命にも希望が宿り、燦然と光輝くのですから?」
ルーボイ「おぉ!なんかよくわかんねぇけどかっこいい事言ってる気がする!」
宣教師「同じホビットのカロルくんは人を信じる事で強い絆を手に入れてきました」
宣教師「キミの見てきた人間は愚かで傲慢だったのだと容易に想像できます。
ですが、これから出会う人間の中にはキミを拒まない人もきっといる筈ですよ?」
ラム「いないね。もう同族も信じない。裏切られるのはたくさんだ」
宣教師「裏切られるのではと疑ってしまうから何も信じられなくなってしまうのです」
ラム「…何も信じられなくなるくらい裏切られてきたのさ」
宣教師「……」
ラム「みんな何も分かってない…。だから言葉に現実味がなくて、甘ったるいきれいごとに頼るんだ」
ルーボイ「甘い方がうめーだろ!」
宣教師「ルーボイくん、聞きましょう?」
ルーボイ「え?」
宣教師「キミの言う現実とはなんですか?」
ラム「…いいよ。教えてあげる?
お前ら人間がしてきた最低な行為を…」
771: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:48:18 ID:vY0qfpf5TM
―――回想(ラム)―――
『アルの村は物珍しい名産品もなければ、変わった趣向の祭りもなく、ただ穏やかに毎日が過ぎていく。
どこかで育てているような家畜を飼育し、どこにでもあるような作物を栽培し、何か大事を成し遂げたような偉人もいない。
ありふれていて素敵な村。平凡であるがゆえに特異な村。
ここでなくてもいいが、ここでなければならない村。
何もないつまらなさこそがアルの村の財産である』
村長「…伝統は受け継がれ、今日まで平和な日が続いてきた」
村人1「村長の理念に賛同します」
村長「アルの村はおおらかだ。目付きの悪い旅人や一文無しの布教者、行商も他の村の住人も構わず受け入れる」
村人1「そうあるべきです」
村長「果てはホビットさえも住まわせてやり、彼らの為に仕事まで分け与える」
村人1「あれらも幸せでしょう。世知辛い時代に働ける環境があるだけでありがたいと思わないと」
村長「アルの村は今日も変わりない穏やかな日だ」
村人1「そうですね」
村長「ところで…畑をほったらかして平気なのか?」
村人1「今日は熱いからホビットにやらせてます」
村長「平気かね?また作物をつまみ食いされるかもしれないぞ?」
村人1「作物が一つでも減っていたら、あいつら全員の食事を取り上げると村人みんなで相談して決めました」
村長「それはいいな。不作の年には毎回そうしよう」
村人1「ははは!あれらもエサの為にがんばらざるを得ないでしょう」
772: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:51:45 ID:PhPZ.yYWH6
村長「うんうん。また一つ村に大切な決まりごとができた」
村人1「早速伝えて参りましょう」
村長「はっは!まぁ冷たいお茶でも飲んでおいき?今日は熱いからね?」
村人1「氷があるんですか?」
村長「先日、行商から取り寄せた。村の子たちにかき氷でも振る舞ってあげようかと思ってね」
村人1「村長の優しさには頭が下がります」
村長「いやいや、働き者がいると村も潤うし村人たちも楽ができる。ホビットにはまだまだ働いてもらわないとな」
村人1「村長が一家に一つ、こん棒を買い与えてくれたのでおとなしく従うようになりましたよ」
村長「そうか。それはよかった」ハハハ
僕の生まれ育った村は元々ホビットと人間が一緒に暮らしてて…その中でホビットは人間から奴隷みたいな扱いを受けてた。
ザーザーと雨の降る日でもかんかんと陽が照り付ける日でもホビットはお構いなしに働かされる。
村人たちは天気が悪いからとのんきに家でくつろぐのに……
773: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:53:57 ID:vY0qfpf5TM
――――――
村長「出ていけ!村の疫病神め!」シッシッ
ホビット1「なぜです!私達はお言いつけ通り、村の方々に代わって率先して働いてまいりました!
それなのに疫病神だなんて…あんまりなお言葉ではございませんか!?」
村人1「王国がとある町を滅ぼした。ホビットのせいで!」
ホビット2「言いがかりもいいとこです!私達は人間に害を成すようなマネは一切しません!」
村長「お前らの言い分なんかどうでもいい。さっさと村から出ていけ!」
村人2「出ていかないなら王国に報告して皆殺しにしてもらうぞ!」
ホビット3「そ、そんな…あまりに馬鹿げてる」
村長「なんだと?」
ホビット1「村の皆さんが口にしている食べ物も…住んでいる家も…元はと言えば私達が働いてるから出来た物じゃございませんか…」
村長「なにぃ!?」
村人2「ホビットの分際で養ってやってるとでも言うつもりか!」
ホビット1「だってそうでしょう!違いますか!?」
村長「今まで住まわせてやってきた恩を忘れるとは…家畜にも劣る畜生だ!」
村人1「恩知らずに言葉をかけてもしかたない。村で一致団結して、疫病神を追い出しましょう!」
ホビット2「な、なにをされるおつもりで!?」
村人1「お前らの大好きなこん棒で弱りきるまでぶん殴って一匹ずつ火炙りにしてやる!」
村人2「まともに飯も食えないガリガリなお前らを叩き伏せるのなんて畑を耕すよりずっと簡単だ!」
ホビット2「お、おやめください!いくらなんでもひどすぎる!」アワアワ
774: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:55:35 ID:PhPZ.yYWH6
???「…もういい」ズイッ
ホビット3「や、ヤグ……」スッ
村長「なんだ、お前は?」
ヤグ「あんたらの考えはよく分かった。俺達は村を出ていくよ」
村長「そうだ。それでいい。余計な手間をかけさせないでくれ」
ヤグ「ただ……一つだけ頼みがある」
村長「聞く気はないが言うだけなら自由だ。わたしのおおらかな精神に感謝しろ」
ヤグ「子供を置いてやってほしい…。まだ5つのチビだ…。野ざらしにはしたくない…」
村長「ダメだ。一緒に連れてけ」
???「私からも…お願い申し上げます」スッ
村長「誰だ、お前は」
ファリアン「ヤグの妻のファリアンと申します」ペコッ
ヤグ「身寄りがない俺達の放浪は過酷なものになる…。まだ幼い我が子を養える余裕はないんだ…」
村長「……」
ヤグ「あんたも子供がいるんだろ?俺達の気持ちを汲んではもらえないか?」
村人1「村長とお前らを一緒にするな!」
ヤグ「…どんな形でもいい。あの子が生きていられればいいんだ。頼む…」ペコッ
ファリアン「お願いします…」ペコッ
村長「……」
775: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:57:24 ID:vY0qfpf5TM
ホビット1「わ、私達からもお願い致します!」バッ
ホビット2「ヤグとファリアンの息子だけは…!」
ホビット3「自分たちでさえままならない生活の中…あの子の未来を考えればいたたまれない!」
ヤグ「お前ら……」
ファリアン「どうか…どうかご慈悲を!」
村人1「ダメだ、ダメだ!アルの村のおおらかさに甘えるな!」
村人2「平凡なアルの村に非凡なホビットはいらない!」
ヤグ「……」ジャラッ
村人1「なんだ、懐から汚い袋なんか取り出して…」
ヤグ「……」シュルッ ザーッ
村長「」ピクッ
村人2「き、金貨だ…!何十枚も金貨が出てきた!?」バッ
ヤグ「触るなっ!?」カッ
村人2「」ビクッ
ヤグ「息子を引き取ってくれるなら、この金貨はあんたらにくれてやる…。
だが…イヤだと言えば、あんたらが武器と人手を集める前に村外れの川まで走って捨ててくる…!」
村人1「なんだとぉ!?」
ホビット1「ヤグ!私達も協力するぞ!」
村人2「くっ!そ、村長!」
ヤグ「さぁ…どうするんだ!?」
村長「どうするもなにも…アルの村はおおらかだ?来る者は拒まず、去る者は追わない?」ニンマリ
776: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 21:59:49 ID:vY0qfpf5TM
ラム「おと…さん?おか…さん?」オドオド
ファリアン「…ごめんね、ラム。こうするしかなかったの」ナデナデ
ヤグ「大丈夫だ…。怖がらなくていい…。大丈夫だからな…」ニコッ
ラム「……?」オドオド
村長「……」ジッ
ファリアン「この子のこと…どうかお願いします」ペコッ
ヤグ「いつか…俺達の居場所が見つかったら、必ず迎えに行く…。ラムが成長したら、そう伝えてやってくれ」
村長「…分かった。後は任せなさい」
ファリアン「ラム……元気でね…?」ダキッ
ラム「……?げんき、だよ?」キョトン
ファリアン「そっか…」ギュッ
ラム「おか…さん」ギュッ
ヤグ「俺もいいか…?」
ファリアン「…ラム、お父さんが抱っこしてくれるって?」ニコッ
ラム「うん…」パッ
ヤグ「ほぅら!」ガシッ グワッ
ラム「ひゃっ!」フワッ
ヤグ「はっはっは!高いのは怖いか?」ニコニコ
ラム「」ブンブンッ
ヤグ「そうか、そうか。えらいぞ?それでこそ俺の子だ!」スッ
ラム「……へへ!」ストッ
ヤグ「…父さんと母さんのぬくもりを忘れるんじゃないぞ?」ジッ
ラム「?」キョトン
ヤグ「もし次に会う時に忘れてたら、力強く抱き締めてやる…。俺達のぬくもりを思い出せるように…力強く…」
ラム「…うん。わかった」コクッ
777: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 22:08:05 ID:vY0qfpf5TM
ラム「…どこ、いくの?」
ファリアン「待っててね?必ず迎えに来るから?」
ラム「ぼくも…」
ヤグ「ダメだ…。お前はここに残れ…。お留守番だ?」
ラム「……うん」シュン
村長「もういいんじゃないか?」
ヤグ「あぁ…無理を言って悪かったな」
村長「気にしなくていい。達者でな」
村人1「さっさと出てけ!」
村人2「疫病神!」
ヤグ「…仲間たちが待ってる」クルッ
ファリアン「そうね…。行きましょう…」スタスタ
ラム「おとーさん!おかーさん!」
ヤグ&ファリアン「」ピタッ
ラム「はやくかえってきてね!」フリフリ
ヤグ「……ああ!すぐ帰る!帰ってくるからな!」フリフリ
ファリアン「う…ふえ…うぅ…」ブワッ
ヤグ「…行こう」パシッ
ファリアン「やっぱり…ダメよ…!あの子も!」バッ
ヤグ「…あの子の為だ」グッ
ファリアン「私達の子よ!?」
ヤグ「子供の体力じゃあてもない旅には付いてけない…。一番最初に死ぬのは子供なんだ…。
空腹に喘いで痩せ細っていく我が子を見たいなら…話は別だが…」
ファリアン「うっ…あああ…!」ポロポロ
ヤグ「泣いても笑っても…なるようにしかならない。俺達はそういう生き方しかできないんだ…」
ファリアン「あぁぁぁぁ…!」ポロポロ
778: ◆WEmWDvOgzo:2014/7/30(水) 22:10:54 ID:vY0qfpf5TM
村長「…ようやく行ったか」
村人1「疫病神がいなくなってせいせいした!」
村人2「自分の子を捨てるなんて最低だな、ホビットって種族は!」
村長「まぁそう言うな。いい置き土産じゃないか」
村人1「そうですね。働き手になるし、一匹くらいなら隠しておける」
村人2「いざとなったら王国に引き渡しましょう」
村長「…これだけの金貨があれば、しばらくは村も不自由しない」ジャラッ
村人1「それにしてもあいつら、どうやってそんな大金を…」
村人2「どうでもいいじゃないか」
村長「……あとはこの子を立派な働き手にしてやるだけだな」
ラム「……」ボーッ
ある時に悲劇の町とかいう事件の噂が広まったんだ。
王国がホビットの根絶に動き出したとか…ホビットを住まわせてる村は重税を強いられるとか…とにかくあることないこと囁かれてた。
噂を鵜呑みにした村人は両親や他の同族を有無も言わさずに村から追い出した。
でもその時に両親が村人に隠して貯めてたお金を渡してくれたおかげで、まだ幼かった僕だけは村に置いてもらえた。
だけど僕は今でも…両親の選択が正しかったとは思えない。
779: ◆WEmWDvOgzo:2014/8/1(金) 21:25:21 ID:bjclyxBH9c
――――――
ムワァァァァア……
ラム「……」ポツン
村人1「今日からここがお前の家だ。誰も手を付けてこなかったから若干臭うが…居候にゃこれで十分だろ」
残された僕は村人が使い古してきた納屋に押し込まれた。
それからの生活は文字通り地獄だったよ。
ラム「……」ボーッ
カサカサッ
ラム「」ビクッ
シーン
ラム「……そうじ、しなきゃ」スクッ
明かりも灯らない真っ暗な部屋の中…ずっとひとりぼっちで過ごしてた。
居心地は最悪だったよ。
虫は出るし屋根は剥げてて雨漏りするし、雨水が染みた床は腐りかけで生乾きの臭いが酷かった。
バンッバンッ
ラム「?」クルッ
「飯だ!戸の前に置いとくから食いたきゃ勝手に食え!」バンッバンッ
ラム「……」スタスタ ガチャッ
ベチャァァァ
ラム「う……!」ウプッ
ラム「……!」サッサッ
食事は1日に一回、村人の食べ残した残飯が納屋の前に放られててさ…。
土だらけの食事を地べたからかき集めて素手で食べるんだ。
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