前スレ
(少年「ボクが世界を変えてみせる」)
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―――あらすじ―――
人間によるホビットへの差別が当然のように行われる時代
人里を離れ、森の中で静かに暮らしていたホビットの親子がおりました。
母親の名はマリー。子供の名はカロル。
二人はささやかな幸せを願って、穏やかな日々を送っていました。
母は今の生活に満足していました。
もちろん森の中での生活は不自由で贅沢とは無縁なものでしたが多くを望まない母にとっては愛する我が子と生きていけるだけで幸せだったのです。
しかしカロルは違いました。
もちろん愛する母と生きるのに不満はなく、彼自身も多くを望もうとは考えません。
ですが彼にとって一つだけ足りないものがあったのです。
それは友達という存在でした。
幼心に自分たちの置かれた立場は分かっていたつもりでした。
人目を逃れて生きるホビットには仲間もなく、心を通わせる相手を見つけるのはとても難しいと。
それでも小さな身体に宿る希望は膨らむばかりです。
227: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/2(日) 22:10:07 ID:ElWhNBG81s
コンコン コンコン
大臣「ですからね、わたくしが持つ、この特別な捺印を押していただければいいのですよぉ?
ほれ、こっちへおいでなさい?わたくし自ら手解きして差し上げますからぁ?ねぇ?」グイッ
侍女2「きゃっ!で、でも…旦那様が押さないといけないんじゃ…!」グッ
大臣「誰だっていいんですよぉ〜!こんな作業、人の目に付く訳でもなし!ほら、お手を拝借!」モミッ
侍女2「あっ!い、いけないですわ…!そ、そこは…!」ビクッ
大臣「おやおやぁ?たわわに膨らみ、柔らかな感触…手を拝借したつもりがいやはやなんとも!」モミモミ
侍女2「んっ…あっ…こ、公務は…!?」ピクンッ
大臣「おぉっと!こぉれはいけませんなぁ!わたくしとしたことが!
しかしこの感触はなかなかに捨てがたく、侮れんものがありまするな…!」モミモミ
侍女2「っ…んぅ!だ、旦那様が…なさりたいんでしたら、わたしと致しましても…や、やぶさかでは?」ニヤリ
大臣「ほぉう…それはそれは実に興味深いお話…!続きは是非ともあなたのお身体にお聞きしたい!」レロォーン
侍女2「あんっ」クスッ
ガチャッ
大臣「よしよし、あなたのソコも承認待ちのようだ?しっかりと捺印を押して差し上げねば!」ググッ
侍女2「あぁん!旦那様の認可をくださいましっ!」
団長「失礼。お伺いしたいことが……」
大臣「おわぁっ!?」ビクッ
侍女2「きゃあっ!?」ビクッ
団長「お取り込みでしたか。申し訳ない」
228: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/2(日) 22:14:39 ID:ElWhNBG81s
大臣「し、失敬な!の、の、ノックぐらいしたらどうだ!?」アタフタ
団長「ノックしたのですが…まさか公務の最中にお楽しみとは存じませんでな?」
大臣「だ、黙らっしゃい!」
団長「すまないがお嬢さんは席を外してもらえるか?」
侍女2「」タタタッ バタンッ
団長「……」
大臣「なんの用です!要件を言いなさい!わたくしは忙しいのですぞ!」
団長「昨夜の件ですが…とりあえず手配書の見本が完成したのでご確認願おうかと」つ【手配書】
大臣「んぅ〜?」マジマジ
団長「現場の証言が得られなかったので拐われた二人の情報しか載せられませんでしたが…本当に生き残りはいなかったのですか?」
大臣「そりゃそうでしょう。あんな猟奇的な手口を平然と行える人間が目撃者を生かす訳がない」
団長「確かに切り口から見るにためらいの無さが伺えるが…どうにも執事の死だけが不自然に思えまして」
大臣「んむ、人相書きもよく出来てる…。なにが不自然なんです?」
団長「…なぜ執事だけが舌を切られて、全身をメッタ刺しにされてるのか。衛兵たちは皆、一撃で絶命たらしめているのに」
大臣「はて…気まぐれでは?」
団長「…はたして犯人の仕業なのかも甚だ疑問でしてな?」ジロッ
大臣「はぁぁい〜?」
団長「いえ…失言でした」
大臣「一体なにをおっしゃってるんです?わたくしが処分したとでも?バッカバカしぃい!」
団長「…では引き続き調査に当たりますが、手配書の内容はこれでよろしいか?」
大臣「えぇ。特に問題点はありませんぞ」
団長「ではワシはこれで失礼します」ペコリ
大臣「次からは時と場合を考えて入ってくださいよぉ?わたくしもまぁ…色々とありますからな」
団長「心得ておきましょう」
229: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/2(日) 22:20:42 ID://Pq5MFqdI
―――城(通路)―――
団長「」スタスタ
団長「(ふん。公務の最中に情事に耽るとは、な。拐われた二人の替えをもう見つけたらしい)」
団長「(あんなケダモノ連中に囲まれれば…王子が投げやりになるのも無理はない)」
団長「(しかしこの人相書き……)」
団長「(王子の面倒を見てくれた彼らに似ている…)」
団長「部下が彼らを取り調べたんだったな…。後で調書を確認してみるか」
団長「…無関係であってほしいが」
団長「もし…そうであった時は消えてもらうしかない」
団長「(これ以上、王子が悲しみに囚われない為にも…)」
230: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/3(月) 21:23:46 ID:ss79KI2Bic
―――教会(客室1)―――
母「」ムスッ
カロル「お、お母さま…怒ってるの?」オロオロ
母「べつに!怒ってなんかないわ!」プクー
カロル「……」シュン
宣教師「(き、気まずい)」
マルク「くぅん…」
母「……」
宣教師「ご、ご加減はいかがですか?」
母「宣教師様が手当てしてくださった甲斐あって大きなケガにならずに済みました」ニコッ
宣教師「そ、それはよかったです!ね!カロルくん?」
カロル「う、うん。よかった!」
母「……」プイッ
カロル「あっ……」ガーン
231: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/3(月) 21:27:20 ID:j5u3Ryt06o
母「マルクー!こっち来て一緒に寝ましょ?」ヒョイッ
マルク「わんっ!?」チラッ
カロル「ぼ、ボクも…」オズオズ
母「マルクとあたしでベッドはいっぱいよ?」
カロル「うぅ…」
マルク「あぅん…」
カロル「マルク〜!ボクと替わってよ!」
マルク「あんっ!」コクン
母「マルクー?」ダキッ
マルク「わんっ!?」ジタバタ
宣教師「あ、あの…マルクくんも困ってますし、そろそろ仲直りされては…?」
マルク「わふんっ!」コクコク
母「ケンカなんてしてませんけど?」
宣教師「そ、そうですよねー…。あ、あはは…」ヒクヒク
カロル「うぅ……」ウルウル
宣教師「(すみません、私ではどうにもできないです…)」
232: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/3(月) 21:33:27 ID:j5u3Ryt06o
母「んぅ…マルクはふかふかしてあったかいわねぇ」ギュッ
マルク「クゥーン…」ウトウト
カロル「」グスンッ
宣教師「泣かない、泣かない。男の子なんですから」ポンポン
カロル「…泣いてない、です」グシグシ
宣教師「こっちのベッドもマルクくんには及びませんがふかふかで暖かいでしょう?」ファサッ
カロル「うん…。宣教師さまは寝ないの…?」
宣教師「おや、一人では寝れませんか?」
カロル「…久しぶりにお母さまと寝れると思ったんだもの。寂しいよ…」
宣教師「私はお母さまの代わりという訳ですか…」ガクッ
カロル「えっ?ち、ちがうよ!そうじゃなくて…!」アタフタ
宣教師「ふふ。冗談ですよ?」ニコッ
カロル「あっ…えと…よかった…。宣教師さまにも嫌われちゃったらひとりぼっちだもん」
宣教師「お母様もキミが嫌いになったんじゃありませんよ。きっと理由があるんです」
カロル「……そうだよね。お母さまがあんなに怒ったの、初めてかも」
宣教師「それはそれとして…じゃんっ!」つ【絵本】
カロル「えっ」
宣教師「絵本、読んであげる約束でしたよね?」ニコリ
カロル「覚えててくれたの…?」パァァ
宣教師「忘れたりしませんよ。約束からだいぶ時間が空いてしまいましたけどね?」
カロル「えへへ。うれしい」テレテレ
宣教師「…では読みますよ?」ニコニコ
233: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/3(月) 21:35:07 ID:j5u3Ryt06o
宣教師「……かくしてウサギさんはおいしいお餅を月に持ち帰りましたとさ。めでたしめでたし」
宣教師「……」パタンッ
カロル「くぅ…くぅ…」スヤスヤ
宣教師「…すっかり夢の中ですね」ニコニコ
母「…寝かし付けてくれてありがとうございます」スッ
宣教師「おや?起きてたんですか?」クルッ
母「えぇ。ちょっぴりやりすぎちゃったかと思って心配で…」
宣教師「やはり演技でしたか」
母「この子ったら何も考えずに頷くんで…お灸を据えてみたんです」ニコッ
宣教師「…どうでしょう?彼なりに考えがあるのかもしれませんよ?」
母「ホントにそう思います?」
宣教師「……すみません。正直、分からないです」
母「でしょう?最近の坊やはあたしにもよく分からない時がありますもの」
宣教師「性格に似合わず頑固なところがありますよね。昔からそうだったんですか?」
母「うーん…好奇心の強い子ではありましたけど、あたしやお父様に叱られたら、すぐに納得してくれる聞き分けのいい子でしたよ?」
宣教師「まぁ14歳といえば成長の過程で多くの壁にぶつかる時期ですし、口に出さないだけで様々な悩みを抱えているのかもしれません。
それが無意識のうちに出て…やんわりと反抗するようになっているのでは?」
母「反抗とはまた違うような気がしますけどねぇ」
宣教師「…そうですね。なんというか……」
カロル「」スヤスヤ
宣教師「自由に生きようとしてますよね。カロルくんって」
母「そうね。同族にしてみたら考えられないくらい…自分の気持ちに正直だわ?」
宣教師「ホビットであると同時に人の血が通ってる彼だからこそ…物怖じせずに踏み込めるのかもしれませんね」
母「そうねぇ…。この短い間に怖い思いもしたし、辛い経験もたくさんしたのに……」
宣教師「……ふしぎですね」
母「……ホント、ふしぎですわね」
234: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/3(月) 21:42:15 ID:j5u3Ryt06o
宣教師「まだ目的の日取りも教えられてないですが、このまま司祭たちに付いていくおつもりですか?」
母「出来ることなら…逃げてしまいたいけど」
宣教師「私はお母様の意思を尊重します。彼は物事を推し量るには…まだ幼いですから」
母「さっきから…ずっと考えてたの。無理にでも連れて逃げようかしらって」
宣教師「…いいと思いますよ。それでも」
母「ううん…ダメね。それってアントリアさんが言ってたみたいに…あたしだけが幸せになる考えだもの」
宣教師「…神官の言葉もあまり真に受けない方がいいかもしれませんよ?
実際はどのような企みがあるか、分かったものではありませんしね」
母「…それでも同族を見捨てたら、この子は一生を後ろめたく生きることになるわ」
宣教師「…前向きに過ごすには重たい枷になるでしょうね」
母「あたしはいずれ先に死んでしまうけど、この子は未来を生きなきゃならないもの。
余計なモノを背負わせたくはないの…」
宣教師「……」
母「親が子供を守るって…そういうのもひっくるめてだと思ったんです。
子供が一人で生きていくことになった時に何もしてあげられないから…それまでに出来る限りのことをしてあげなきゃ」
宣教師「……」
母「…なーんて。こんな風に考えるのも相手方の思うつぼなのかもしれないけど」
宣教師「先ほども言いましたが…私はあなたの意思を尊重しますよ。後悔のないようにしましょう?」ニコッ
母「ふふ…ありがとうございます?」ニコッ
宣教師「…さて、私もそろそろ寝ますね」スッ
母「えぇ。おやすみなさい」ニコニコ
宣教師「おやすみなさい」クスリ
235: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 15:49:26 ID:CFz6aP7Usc
〜〜〜〜朝〜〜〜〜
―――教会(客室1)―――
母「着替えまで用意してくださって、ご丁寧にどうも…」ペコリ
シスター「神官のお言いつけですからね。よくお似合いですよ!」ニコニコ
母「そ、そうですか?まさか教団の修道服を着る日がくるとは思いませんでしたけど…」キチッ
シスター「ホントにお綺麗ですよ。肌が透き通りそうなほどに真っ白なので白い修道服が自然に馴染みますし、青いお花の刺繍がよく栄えます!」
母「まぁ…?お若いのにずいぶんお上手ですのね?」クスッ
シスター「いやいや、お世辞抜きで綺麗ですよ?私なんて細かい事ばっかりしてますから肌荒れがひどいですし…」
母「そんなことありませんよ。あたしなんてとっくにおばさんですもの。若くて瑞々しいあなたが羨ましいわ?」ニコニコ
シスター「そ、そうでしょうか…?えへへ…」テレテレ
母「もちろんお世辞は抜きよ。お嬢さん?」ウインク
シスター「そ、そんなぁ…?」テレテレ
236: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 15:53:25 ID:CFz6aP7Usc
宣教師「」スースー
カロル「」スヤスヤ
マルク「」クピー
母「みんな疲れてるのねぇ…」シミジミ
シスター「朝餉の支度も整えてますからお連れ様が起床なさったらお声かけください」ニコニコ
母「…しばらくは起きないかも。いろいろあったみたいですし、もう少し休ませてあげてもいいですか…?」
シスター「お構い無く?暖めればすぐに食べられる物を用意しましたから、いつでも大丈夫ですよ」
母「…ありがとう」
シスター「では私はしつれ……」ガチャッ
母「あ、あの…」
シスター「なにか?」ピタッ
母「…なんとも思わないんですか?」
シスター「?」キョトン
母「あ、その…教団の方なので…」
シスター「あ…私も教団の一員ですから教えを受けてますし、あなた方を罪深い種族と認識してますよ?」
母「……」
シスター「でも神官があなた方を信じると言うなら話は別です。どうぞ心いくまでおくつろぎください!」ニコッ
母「……」
シスター「では失礼します!ごゆっくり!」バタンッ
母「」ペコリ
母「……」
237: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 15:57:47 ID:CFz6aP7Usc
宣教師「」パチッ
宣教師「」ガバッ
宣教師「」チラッ
カロル「くぅ…くぅ…」スヤスヤ
宣教師「」ホッ
母「おはようございます?」ニコッ
宣教師「…おはようございます」ペコリ
母「お気持ちはよく分かりますわ?あたしもひょっとしたら…起きたらみんないないんじゃないかって心配になりましたもの?」
宣教師「……」
母「朝ごはんの支度が出来てるそうですよ?」
宣教師「もしかして待たせてしまいましたか?」
母「いえいえ、気持ちよさそうに眠ってらしたんでそっとしておこうと思っただけですよ?」ニコッ
宣教師「…すみません」
238: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 15:59:23 ID:CFz6aP7Usc
母「謝ることなんかありませんよ。
お疲れでしょうから、ゆっくりお休みになってくださいな?」
宣教師「そういう訳にも参りませんよ。病み上がりのお母様の前で……」バッ
宣教師「……ん?」グイッ
カロル「くぅ…」ギュゥゥゥ
母「あらあら?」クスッ
宣教師「いつの間に私の手を……」
母「しょうがない子ねぇ?いつまで経っても甘えん坊なんだから…」クスクス
宣教師「起こしてしまうのもかわいそうですし、しばらくこのままにしましょうか」
母「気を遣わなくていいんですよ?」スッ
宣教師「あ…」
母「坊やー!朝よー!起きなさーい?」ユサユサ
カロル「う…うぅん」ムニャムニャ
母「ごはんも出来てるわよー?」
カロル「ん……はーい」ゴシゴシ
母「おはよう」ニコニコ
宣教師「おはようございます」ニコニコ
カロル「おはよー…あ、ごめんなさい!」パッ
宣教師「いえいえ」ニコッ
239: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:04:59 ID:yTWeyWMdBg
―――教会(客間2)―――
シスター「」カチャカチャ コトンッ
アントリア「ごちそうさま。君のおかげでいつも気持ちよく朝を迎えられるよ?」
シスター「とんでもないです。お粗末様でした!」
司祭「ふん…いいのう?気立てのよい娘さんがおって?」
アントリア「僕のような老い先短い人間にはもったいないほどにできた子だ。いつでもここを任せられる」
シスター「そ、そんな…やめてくださいよ!」テレテレ
司祭「お嬢さんや、わしのとこに来てみんか?こやつよりよほど良い待遇で迎えるぞ?」
シスター「ご冗談を!私なんかが司祭様に仕えるなんておこがましいですよぉ!」
司祭「む?それは残念じゃのう?」
アントリア「クックッ!手が早いね。孫と祖父ほどに歳が離れてるというのに…」
司祭「バカもんっ!妙に勘繰るな!」
シスター「お客人もそろそろ全員、目覚める頃でしょうから呼んで参りますね!」スタスタ
アントリア「本当によく気の付く子だ」
司祭「うむ…。この紅茶もうまいのう」ズズッ
アントリア「それは白湯だよ、ノワール?」
司祭「……」コトッ
240: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:07:38 ID:CFz6aP7Usc
司祭「しかし大臣の奴め。のらりくらりとしておったが今日中に決められるのじゃろうな?」
アントリア「昨日はそう言っていたがね。なんでも我々の申請を承認待ちの書類に紛れさせて判を押すとか」
司祭「なぜハナからそうせなんだか…」
アントリア「なんだかんだと国王を立ててやるつもりだったんだろう。
お伺いを立てて直接承認してもらえれば、それがなにより望ましい」
司祭「で、それが叶わぬと見て無断で認可を与えようという訳か」
アントリア「そうすれば無理やり議題に上げられるからね。
手際のいい大臣のことだ。すでに力ある上等な役人たちを抱き込んで多数意見を笠に国王を納得させる腹積もりなんじゃないかな」
司祭「毎度、毎度と…人望のない王じゃなぁ。結局は配下に押し負かされとる」
アントリア「君もバックヤードに入って分かったんじゃないか?
高官の圧力が国王の威光に勝っている事実が?」
司祭「わしらの時代は裏表はっきりと分かれておったがなぁ?
今はまさに表裏一体、あからさまになっとる」
アントリア「それだけ自由な時代になったのさ…。
ああしたごろつきまがいを飼い慣らしてる現状に民は当然、不信感を募らせるが、その矛先はどうしても国王にいく」
アントリア「王都の人間はそうでもないが…野放しにされ、納税だけを強いられる田舎民にしてみればおもしろくないだろう」
アントリア「それすらも計算づくで高官たちは国作りをしているのだろうがね」
241: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:10:54 ID:yTWeyWMdBg
司祭「…もとはと言えば悲劇の町の一件もホビットへの差別を強いる為に見せしめとして滅ぼしたんじゃしな。
あれから民は王国への恐怖心とホビットへの差別意識を強く植え付けられた訳じゃが…いやはや巧妙じゃのう」
アントリア「そういった恐怖や憎しみを国王に向けさせ、ぶつける矛先をホビットに向けさせればすべて丸く収まる訳だよ。
後は権力と自由を手にいれた高官が裏で糸を操るだけの簡単なからくりだ」
司祭「ふん。俗物共が…!」ギリッ
アントリア「まぁ…王と民をないがしろにした構造が僕らにとっては前向きに働く。そういう意味では実にありがたい話だよ」
司祭「ろくに口を開けぬ民から血税を絞り取るだけでは飽きたらず…。
明らかに法を外れたバックヤードのような純利益の上がる資金源を側に置いて、わしら教団と癒着して信者を洗脳した上で更に寄付金だなんだと搾取する、か。
奴らはいったいどこまで財をもて余せば満足するんじゃ?」
アントリア「あればあるだけいいのさ。危機感を持たずに支配欲を満たせる、誰もが描く理想図に他ならないだろう」
司祭「唯一の救いは密接に関係を持ったわしらが王国にあまり縛られぬことくらいか」
アントリア「…我々もまた、その恩恵を受けているだけになんとも言えないがね」
司祭「ほっほっほ!それもそうじゃな!」
242: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:15:44 ID:CFz6aP7Usc
ガチャッ
シスター「お連れしました!」
カロル「おはようございます!」ペコリ
母「おはよう…ございます」ペコリ
宣教師「……」
アントリア「やあ、おはよう?よく眠れたかな?」
カロル「はい!ベッドがふかふかで気持ちよかったです!」ニコニコ
母「……」
司祭「…まぁ座れ。遠慮はいらんぞ」
カロル「はーい!」ストッ
母「……」ストッ
宣教師「失礼します」ストッ
シスター「食事を暖めておいたんで持ってきますね!」セッセッ
243: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:17:58 ID:CFz6aP7Usc
アントリア「さて、今日は特に予定もないな」
司祭「わしはちょいと市場を見て廻るかのう。せっかく遠出してきたんじゃ。退屈してはいられん」
アントリア「そうか…。君たちはどうする?」
カロル「?」モグモグ
母「どうするって……」
宣教師「どうもしませんよ。昨晩のように扉の外に見張りを置いて動き回れなくするのでしょう?」
司祭「やっぱりやめたと逃げられては困るでな」
宣教師「…年寄りの冷や水ですね。老婆心もほどほどに?」パクッ
司祭「ぬぅ…!?」イラッ
母「そんなことを聞いてどうするんですの?」ズズッ
アントリア「もし良ければ都見物させてあげようか?」
母「え…!」ピクッ
アントリア「もちろん僕も付き添うが…それでもいいなら」
カロル「へぇ…!」ワクワク
母「でもあたしと坊やが外に出たら騒ぎになるんじゃ…?」
アントリア「修道服に付いているフードで目元を隠しておけば誰も気付かないよ」
カロル「お母さま!行ってもいい?」ワクワク
母「あーら、どうせダメって言っても行くんでしょ?」
カロル「あ…う……や、やっぱりいいや」マゴマゴ
母「え?行かないの?あたしは行くけど…じゃあ坊やだけお留守番ね!」クスッ
カロル「……!ず、ずるい!ボクもいく!」プンスカ
母「うふふ。冗談よ、少しは楽しんだっていいものね?」ニコニコ
カロル「やったー!」パァァ
244: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/9(日) 16:23:56 ID:yTWeyWMdBg
アントリア「決まりだね。食べ終えたら出かけようか。教会の留守はシスターに任せよう」
カロル「はーい!」パクパク
母「ほらほら、焦ってがっつかないの?」
アントリア「味わってお食べ?シスター自慢の手料理だ。なかなかイケるよ?」
カロル「えへへ…ごめんなさい」テレテレ
母「宣教師さまも来ますよね?」
宣教師「…私は遠慮しておきます。どうかお二人、親子水入らずで楽しんできてください」ニコッ
カロル「えぇ!宣教師さまも行こうよ?」
宣教師「すみません。昨日まで色々とありすぎて少し疲れてしまいました…」
カロル「そんなぁ……」シュン
母「わがまま言って困らせちゃダメよ?」
カロル「はーい…」ションボリ
宣教師「私のことなど気にせず楽しんでくださいね?」ニコッ
カロル「うん…」
母「ふふ。寂しがりやさん?」ツンツン
カロル「ち、ちがうよ…!」
宣教師「(なかなか無い機会ですし、二人だけで楽しませた方がいいですよね…)」ニコニコ
245: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:16:53 ID:l5W1Sce4Lg
―――城下町(時計塔)―――
カロル「わぁぁあ…!おっきいねー!」キラキラ
アントリア「城下の名物の一つ、時計塔だよ。都まで足を運んだからには欠かせない鑑賞物だ」ウンウン
母「石造り…とは違うんですのね?」シゲシゲ
アントリア「この塔は全て鉄で作られているのだよ」
母「まぁ!鉄で?信じられないわ?」
アントリア「苦労したようだよ。莫大な財と人員を注ぎ込んだ上に完成まで20年の月日が流れたそうだ。
装飾は芸術家が手掛け、建築には鉄鋼等を加工する技術に精通した鍛冶屋連が団結して携わった…」
カロル「たくさんの人間が頑張ったから出来たんだね!」
アントリア「そうだとも。たゆまぬ歩みと共に文明の発展を築いていったのは人の叡智の賜物だよ。
この塔のように一つ一つの大事を為し遂げる毎に我々も時代の進歩を感じさせられる。
だが、やがてはこれも過去の物になり、人は更なる時代を先駈けていることだろう。
元学者として歴史を紐解く職務に殉じてきた僕にとっては…これ以上に胸を熱くさせるものはない」ペラペラ
母「は、はぁ…」
カロル「どうしてここに大きな時計を作ったの?」
アントリア「それは実に単純なのだが…名所を一つ建てて他国の旅行者などを呼び込む為だね。
今は平和条約を結んだ同盟国同士での物流交易や異文化交流を盛んにしているが…やはり分かりやすい目玉は必要だ」
カロル「へぇ!お母さま、ボクらにもそういうのってあるの?」
母「どうだったかしら…。昔は部族で住み分けたりしてたみたいだし、今もみんな散り散りに隠れ暮らすのが当たり前だから…これっていう名物は無いんじゃない?」
アントリア「ホビットは自然物を愛し、恵みに寄り添う種族だ。人間とは社会性や生態そのものが異なるのだね」
カロル「ふーん…」ガッカリ
246: ◆WEmWDvOgzo:2014/2/12(水) 14:21:13 ID:l5W1Sce4Lg
母「あ、あの…そろそろ別の場所に……」
アントリア「? 塔の中に入らないのかね?」
母「え?入るんですか?」
アントリア「単に外から眺めるだけでは面白みに欠けるだろう?」
母「(だって話が長かったんだもの…)」
カロル「入れるの!?」
アントリア「一人につき、銅貨50枚払えば入れるのだよ。我々なら三人だから150枚」
母「お、お金…無いんですけど」
アントリア「…僕が出すが?」
母「で、でも…悪いですし」
アントリア「遠慮はいらないよ?その為に付き添っているのだから?」
母「……」マゴマゴ
アントリア「干からびた年寄りの案内では退屈かもしれないが…財布の紐だけは緩くしてある」ニコッ
母「…や、やっぱりいけません!他人のお金でなんて…!」
カロル「うん。入ってみたいけど迷惑はかけられないもんね?」
アントリア「僕とノワールの夢に協力すると約束してくれた君たちへのお礼だよ。やりたいようにしてるのだ?」
母「け、見物出来るだけでもありがたいですわ?ね?」
カロル「うん!人間の町を歩いて見られるんだもの!楽しいよ?」
アントリア「……無欲だねぇ」
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