むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
910:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/9(水) 19:03:47 ID:W53Y4Ns4ZQ
―――大聖堂(大部屋)―――
神父「うぅ…ぎもぢわるい…」グッタリ
神父2「大丈夫か?」サスサス
神父「…す、すまん…」
コンコン コンコン
神父2「入っていいぞ」
神父「(む…?また見張りのバカか?こっちは体調が悪いと言うのに…!)」
ガチャッ
ダガ「邪魔するぜ…」ズカズカ
神父「えっ」
神父2「だ、ダガ様…牢に入れられてた筈じゃ…!?」
ダガ「」スタスタ
神父2「な、何を…」アセアセ
ダガ「てめぇに用はねぇ…よっ!!」ボゴッ
神父2「うげふっ!?」ガタァァァン
神父「え…?え…?」メダパニ
ダガ「ふ…鈍った体もだいぶほぐれてきたぜ。宣教師に協力してた神父ってのはてめぇだな?」ギロッ
神父「ひっ!?」ズザザッ
ダガ「聞きてぇことが山ほどあるそうだ…。とりあえず洗いざらい吐いてもらおうか?」ポキポキ
神父「ひ、ヒィィィィイイィィ!!?」
911:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/10(木) 21:31:47 ID:2vgJI.yb2c
―――大聖堂(東門)―――
大臣「娘は慎重に運ぶんだぞ!絶対に傷を付けるな!」
兵士1「はっ!」
兵士2「はっ!」
大臣「いやぁ…まさか本当に頂けるとは思ってもみませんでしたぞ!」
司祭「遠慮は入りませんぞ。どうぞ自由に扱ってくだされ?」
大臣「ぐふふ…!それはそれはありがたい。では遠慮なく!」ニシシシシ
司祭「そちらの求める物は差し出したのです。こちらの要件もどうか重んじていただきたい」
大臣「もちろんですともぉ〜?色好い返事をお待ちください…?」ニヤニヤ
司祭「(当たり前じゃ…。ここまでして音沙汰無しでは済ませられんぞ、豚め!)」
912:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/10(木) 21:35:33 ID:tx11JOcd52
アリアス「旅の疲れも抜け切れておられないかと存じますが…。
どうかお身体を気遣ってお帰りになられますようお願い申し上げます」ペコリ
バルガン「フッ!芸術的感性を膨らませるには悪くない場所だった。折が合えばまた立ち寄らせてもらおう」
アリアス「心よりお待ちしております」
バルガン「大臣が運ばせている…あの娘はなんだ?」
アリアス「あぁ。元は我が教団の教徒だったのですが…邪教に通じていたと分かりまして王国に裁きを願いました」
バルガン「薄布一枚被せたところで話は読めている。大臣への"土産"だろう?」
アリアス「…恐れ入ります」
バルガン「フッ!好きだなぁ、あの方も…昔からそうだが…」
アリアス「…事情に通じているのでしたら目を瞑っていただきたく存じます」
バルガン「なに…。どうという事もない。また哀れな女が増えた。それだけの話だ」
アリアス「?」
バルガン「あの方は狩猟を盛んに行っていてな。
我が屋敷に訪れては狩った獲物を自慢気に見せびらかしていたよ…」
アリアス「立場上、当然の嗜みではございませんか…?」
バルガン「そうとも言えんなぁ。なにせ芸術家である父上を頼り、それらを剥製にするのが趣味だったのだから…」
アリアス「別段、不自然とも思えませんが…」
バルガン「フッ…。あの方はな。狩猟を好まれてる訳ではない。剥製が好きなんだ」
アリアス「はぁ……?」
バルガン「今まで手を付けた女もな…。皆、キレイな姿のまま…大臣の屋敷に飾られているんだ」
アリアス「」ゾクッ
バルガン「いい表情だ…。創作意欲がそそられる…。その表情を土産に帰路に着くとしよう」
アリアス「(…ほんと、王国の人間は悪趣味ね…)」
913:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/10(木) 21:40:52 ID:2vgJI.yb2c
アントリア「短い間だったが濃密な時間を過ごせた。感謝するよ」
司祭「……」
アントリア「辛い選択をさせてしまったかな?君の為と考えていたんだが…」
司祭「…気にするでないわ。決断したのは、このわしじゃ」
アントリア「すまない…。だが君のもたらした犠牲は必ず先に通じるはずだ」
司祭「分かっておる。お前の言うように宣教師がわしらの目論見を読んで動いていたとするならば…全ての辻褄が合うからのう」
アントリア「昨晩、彼女と言葉を交わした時には驚かされた。
彼女の鋭い洞察力…。寒気すらしたよ」
司祭「ふむ…」
アントリア「そしてアリアス君に話を聞いて確信を得た。彼女はホビットではなく、癒しの力を狙っていたのだとね」
司祭「大臣に忍び寄ったのも…わしらの密談を聞くのに不自然でない状況を作る為という訳か」
アントリア「さぁ…?事実はどうあれ、可能性があるのなら排除しておくべきだと思ったのだよ」
司祭「…そうじゃな」
アントリア「…次に会うのは互いの念願を果たす時だ。今ですら君との再会が待ち遠しいよ、ノワール」
司祭「分かっておるよ、アントリア。もはや邪魔者はおらん」
アントリア「クックッ…実に楽しみだ。ではまた会う日まで」
司祭「うむ…」
914:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:36:36 ID:qcweGJ7Au2
―――大聖堂(地下牢)―――
「おい!起きろ!起きんか!?」
ジョー「……ん…」パチッ
ジョー「ぅん…んぅぅ……あたた…!」ズキズキ
ジョー「うおっ!なんだ、こりゃ!?動けねぇぞ!?」ギシギシ
神父「やっと起きたか!」
ジョー「…おっさん?あんた二日酔いで寝込んでたんじゃねぇのか?」
神父「知るか!突然ダガ様に襲われて連れてこられたかと思えば、このザマだ!」
ジョー「あぁ…あんたもか」
神父「それにしても…その顔はどうしたのだ?
もともと目も当てられんような顔が腫れ上がって更にひどい事になってるぞ?」
ジョー「うるせぇ!ダガの筋肉親父にやられたんだよ!」
神父「…一体どういう事だ?なぜあの方が牢を抜け出して……」
ジョー「抜け出したんじゃねーよ。アリアスが出したんだ」
神父「アリアス様が?」
ジョー「俺もよく知らねぇけどダガがそう言ってたんだよ」
神父「や、やはり色々調べ回っていたのがまずかったのだろうか?」アセアセ
ジョー「さぁな?それより他に誰かいないのか?」
神父「知らんぞ?ここには貴様と私だけしかおらん」
ジョー「…どうなってやがる」
915:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:38:12 ID:m1j4TaAkkU
カツンカツン カツンカツン
神父「だ、誰か来たぞ…?」ビクビク
ジョー「みてぇだな…」
アリアス「あら、ここにいたのね。探したのよ?」
ジョー「やっぱりあんたの差し金か…。白々しい小芝居打ってんじゃねぇよ、おばさん」
アリアス「…そんな所にいないであなたもいらっしゃい?」
ナラ「」トテトテ
ジョー「(あ、あの子は…!?)」
アリアス「ここで見ているのよ?」
ナラ「……」
神父「む?なぜナラが…?」
ジョー「知ってんのか?」
神父「私が教えていた修道子の一人だ。不出来な上に無愛想なので、あまり直接関わる事はしなかったがな」
カツンカツン カツンカツン
ジョー「(まだ誰か来るのか?)」
アリアス「……」ペコリ
ダガ「…こちらになります」スタスタ
司祭「うむ」スタスタ
神父「し、し…司祭様ぁぁぁぁ!?」
ジョー「(おいおい…いよいよただ事じゃなくなってきたな…!)」
916:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:41:00 ID:m1j4TaAkkU
アリアス「さぁて…何から聞きましょうか?」
ジョー「…なんの事だ?」
アリアス「とぼけても無駄よ?
宣教師に協力して調べていたのでしょう?」
神父「(や、やはりその件か…。あぁこんな事なら小僧の頼みなど聞いてやるんじゃなかった!)」
ジョー「知らないな。俺達はホビットについて調べてただけだ」
ダガ「てめぇら…素直に吐く気がねぇなら俺と遊んでみるか?」コキッコキッ
神父「ひぃぃ」ビクビク
司祭「ほっほっほ。そう脅してやるな?嘘は申しておらんよ」
ダガ「はっ…失礼しました」ペコリ
司祭「ホビットについて調べておったのじゃろう?何か手掛かりは得れたか?」
神父「め、滅相も…分からぬ事ばかりで…はい!」オロオロ
司祭「別に責めている訳ではないのじゃよ。
お前たちの知っている事を話してくれれば、それでよい」
ジョー「こんな真似しておいてよく言うぜ…」ボソッ
アリアス「口を慎みなさい?」
ダガ「ふ…。てめぇの立場が分からねぇようだな?」
神父「あ…いや…あの…こいつも悪気があって言っているのでは…」アセアセ
ジョー「あんたら、宣教師さんをどうした?」
神父「バ、バカモンッ!だだ黙ってろ!!」アタフタ
司祭「…宣教師、か。ふん…」
917:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:42:32 ID:m1j4TaAkkU
司祭「奴なら既にここにはおらんよ」
ジョー「なに!?どういう事だ!?」
アリアス「先ほど王国に引き渡したわ?」ニコリ
ジョー「んなっ…!なんだとぉ!?」ガバッ ギシギシ
神父「(ば、馬鹿な…!あれほど過保護に扱っていた宣教師を…)」
司祭「……」
神父「(司祭様は本気ということか…!?)」
ダガ「ふ…しかしてめぇらは運がいい」
ジョー「…なにぃ?」ジロッ
ダガ「今の内に喋ればこれまで通り、教団の人間として長生き出来るんだからなぁ?」
神父「そ、それは本当ですか!?」ギシギシ
司祭「うむ…。お前さん程の男を失うのは惜しいからのう?」
神父「し、司祭様…!」
ジョー「騙されんな、おっさん!こいつらが本気でそんなん言う訳ねーだろ!?」
神父「し、しかしだな…」
ジョー「よーく考えろ!あんたなんかを失ったとこで痛くも痒くもねぇに決まってんだろ!?」
神父「な、にゃにをうっ!貴様ぁぁ!!」
司祭「…神父よ、そやつに構うな。わしの言葉が信じられんのか?」
神父「は、はいっ!包み隠さず申し上げます!」
ジョー「おっさん!」
アリアス「ダガ…?」カチャカチャ ガチャッ
ダガ「おう、任せとけ…」ズイッ
ジョー「な、なんだよ?」ギシギシ
ダガ「おとなしくしてろよ…」グワシッ
ジョー「……!?」モガモガ
ジョー「(あ、顎が…!なんつー握力だよ…!)」ググッ
918:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 21:47:01 ID:m1j4TaAkkU
神父「……という訳です」
司祭「ふむ…やはり色々知っていたようじゃな」
アリアス「癒しの力の使い道までは辿り着いていないようですが…」
司祭「…こやつらは利用されとったのじゃろう。秘密を共有する事で協力せざるを得ん状況を作ったに違いない」
アリアス「なるほど、あくまで独占するつもりだったのですね。したたかな娘…」
神父「…わ、私はあくまでも巻き込まれただけなのです!」
アリアス「ダガ?」
ダガ「あぁ…」パッ
ジョー「う……」ゲホッゲホッ
ダガ「」ガシッ
神父「…あ、頭など掴んで何を?」キョトン
ダガ「教えてやるよ…」グッ
神父「は……」
ゴキィッ
神父「」プラーン
ナラ「……!」
ダガ「ふ…いい音がしたなぁ?」ニヤリ
ジョー「あ、あんた…何してんだっ!?」ギョギョッ
ダガ「」ガシッ
ジョー「ひっ…や、やめ…」ジタバタ
アリアス「待って」
ダガ「あぁ?」
919:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 22:01:38 ID:m1j4TaAkkU
アリアス「あなた…最期に何か言い残したい事はある?」
ジョー「え…?」ブルブル
アリアス「」クスリ
ジョー「(くそっ…!こいつ、笑いやがった!俺が泣きわめいて命乞いするとでも思ってんだな!?)」
アリアス「どうしたの?恐怖に凍って言葉が出ないのかしら?」
ジョー「(冷血オバタリアンが…!こうなりゃヤケだ!)」
ジョー「…し、司祭様!」
司祭「なんじゃ?」
ジョー「どうせだったら教えてくれよ!あんたらの目的はなんだったんだ!?」
司祭「……」
ジョー「俺達は何も知らねぇのに、ただ死ねなんて都合が良すぎるだろ!?」
司祭「ふむ…。それもそうじゃな?」
司祭「いいじゃろう。あの世に着いたら神父にも教えてやるがいい?」
ジョー「……!」
司祭「枯れた大樹を再び蘇らせ、実を付ける…。それがわしの目的じゃよ」
ジョー「枯れた大樹を蘇らせるだと?」
司祭「伝承にある大樹とはアピシナの樹と言ってな…。かつてホビットが育てていた物なのじゃよ」
ジョー「(…おとぎ話じゃなかったのかよ)」
司祭「奴らがその樹をどのようにして天高くまで聳えさせたと思う?」
ジョー「俺に分かる訳ねぇだろ。作物は育てても樹なんか世話した事もねぇんだ」
司祭「癒しの力じゃよ。癒しの力を樹に注ぐ事で大樹にまで成長させたのじゃ」
ジョー「……!」
司祭「力をたっぷりと注がれた樹から成る実は…素晴らしく潤った癒しの力そのものよ」
司祭「その実をかじればたちまちの内に傷は癒え、大病を患い濁った体をも浄化する…。
老いて萎れても実の効能に掛かればあっという間に若返るそうな……」
司祭「そして極限まで力の染み込んだ実は…永遠の命をもたらすとまで言われておる」
920:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 22:06:56 ID:m1j4TaAkkU
ジョー「そ、そんな嘘臭い迷信を…信じてんのか?」
司祭「なぜ嘘だと言える?」
ジョー「いや、どう考えたってありえねぇだろ…」
司祭「伝承の通り、ホビットが育てたとされる大樹は存在し、癒しの力も手に入れた…。
それでもなお、お前さんはあり得ぬと言うのか?」
ジョー「……」
司祭「この世は可能性に満ちておる。手の届かぬ物であれ、そこに手を伸ばすだけでも自ずと広がるものじゃよ…。
賢いふりをし、バカを見る者は大勢いるが…好奇心こそが人間の最大の強みだということを忘れてはならん」
ジョー「それで…その秘密に近付いた宣教師さんを…消したってのか…?」
司祭「…そうじゃ」
ジョー「じ、実の娘のように思ってるってのは…嘘だったのかよ!」
司祭「……」
ダガ「こんな時に他人の話か…?これだから偽善者って奴は…」グググッ
ジョー「あ、ぐっ…!」ギリギリ
司祭「やめい!」
ダガ「…失礼しました」パッ
ジョー「はぁっはぁっ」
司祭「愛しておったよ…。あやつは紛れもなくわしの娘じゃった…」
921:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 22:09:11 ID:m1j4TaAkkU
ジョー「…ほ、本当に親子だったって言うんじゃないだろうな?」
司祭「血は繋がらずとも…わしにとっては大事な娘だ」
ジョー「……」
司祭「じゃが…わしを謀ろうというのなら容赦はせん!!」
ジョー「癒しの力を狙ってるなんて…宣教師さんは一言も言ってなかったぜ?」
司祭「それはお前と神父が利用されておったからじゃろう。哀れでならんよ」
ジョー「違うな!あの人は誰かを騙すような人じゃねぇ!
本気で差別を嘆いて…あの親子を助けようとしてただけだ!」
司祭「ふん…貴様ごときに何が分かる…?」
ジョー「分かるさ!あんたより付き合いも短かったけどな!
親代わりだったあんたがそんな事も分からなかったのかよ!?」
ジョー「癒しの力がなんだか知らねぇが!てめぇの欲に目がくらんで的外れな事ばっかしてんじゃねぇよ!!」
司祭「……!」ギリッ
ジョー「けっ!あんたも王国も変わらないぜ?目の前の果実にかぶり付いたケダモノだ!」
司祭「ぐ…くく…!」ワナワナ
ダガ「生意気言ってんじゃねぇぞ、ガキが…!」ガシッ
ジョー「ちっ…!」
アリアス「…もういいでしょ。さようなら」
ジョー「ちくしょう…!ちくしょーーー!!!」
ゴキィッ
922:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/11(金) 22:15:16 ID:m1j4TaAkkU
ジョー「」プラーン
ナラ「あ……う…」
司祭「くだらん時を過ごしたな…。戻るぞ?」スタスタ
ダガ「はっ!」スタスタ
カツンカツン カツンカツン………
ナラ「……」
アリアス「…ナラ」
ナラ「」ビクッ
アリアス「あなた、さっき私になんて言ったか覚えてる?」
ナラ「」ブルブル
アリアス「『カロルは友達だから騙したくない』そう言ってたわよね?」
ナラ「は、い…」
アリアス「あの罪人達はホビットに心を許した愚かな人間…。その末路がこれなのよ?」
ナラ「……」
アリアス「あなたもホビットに心を許してああなりたい?」
ナラ「いやっ…いやです!」ブンブン
アリアス「そう…。それなら分かってくれるわね?」
ナラ「」コクコク
アリアス「…私は後片付けがあるから先に部屋に戻りなさい。夜更かしは女の敵よ?」ニコリ
ナラ「」タタタッ
カツンカツン カツンカツン
アリアス「……」
――――――
ナラ「うっ…うっ…」ポロポロ
ナラ「(ごめん…。カロル…わたし…やっぱり、できない…。じぶんのきもち…したがえない)」ポロポロ
923:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:39:49 ID:hHymL3JH/Y
―――村―――
ザシュッ ドバッ
村人1「」ドサッ
兵士長「…よし、火を放て!」
兵士1「はっ!」ボッ
パチパチ ゴォォォ
大臣「タイマが御禁制だと知らない訳でもないでしょうに…愚かな田舎者達だ…」
大臣「それにしてもひどい匂いですねぇ…。下劣な田舎者はこんな臭い空気の中でしか生きていけないのでしょうか?」
兵士長「報告致します!奥の民家から村長と思わしき死体を発見しました。
妻と思われる女と首を括っているあたり、おそらく心中したのでしょう」
大臣「無責任な方ですなぁ?苦しむ村人達を放って逝かれるとは呆れて物も言えませんよぉ?」
兵士1「あらかた片付いたものと思われます!いかが致しましょう!」
兵士長「周りに燃え移らぬよう、事前に草木は刈り取ってあります。陽が昇る頃には全て焼けていましょう」
大臣「ゴホッゴホッ…で、では帰るとしますか。ここにいてはむせてしょうがない…」ゲホッゲホッ
兵士長「はっ!帰還するぞ!全兵を呼び戻せ!」
兵士1「はっ!」
大臣「(ぐふふ…!土産もある事ですしねぇ。早く戻ってたっぷりと楽しまねば…!)」ニシシシシ
924:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:42:07 ID:hHymL3JH/Y
―――馬車1―――
パカラッパカラッ
アントリア「済みましたか?」
大臣「はいはい。まっさらにしておきましたよ」
アントリア「相変わらず容赦を知らないお方だ。あそこまでするからには余程の罪があったのだろうね?」
大臣「さぁて…大麻の使用とホビットとの内通。
まぁこれといって大きな罪は見当たりませんが、わざわざ司法の下に裁くのも面倒だったんで片付けておきましたよ」
アントリア「……」
大臣「それはもう赤々と焼けて眼にも鮮やかな光景でしたぞ?神官にも見せて差し上げたかった!」
アントリア「遠慮しておきましょう。焦げた匂いはなかなか取れませんからね。
僕の教会に足を運ぶ迷える子羊達に不信感を与えたくはありません」
大臣「それは残念ですなぁ…」
アントリア「……」
大臣「それにしても…世に悪の種は尽きまじとはよく言ったもので…。
あのような辺境の村まで毒されるようではどれ程に洗い流そうとキリがない」
アントリア「…そんな時代はもうじき終わりを告げますよ」
大臣「え?」
アントリア「いえ、失敬。聞き流してください…」
大臣「?」
925:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:43:56 ID:hHymL3JH/Y
―――馬車2―――
宣教師「」スヤスヤ
バルガン「……」ジーッ
兵士3「な、なりませんぞ、卿!その娘は大臣の……」
バルガン「邪推するな。ただ眺めていただけだ」
兵士3「は、はぁ」
宣教師「ん…んぅ……」モゾモゾ
バルガン「フッ…この娘の裸絵など書いてみるのも悪くはなさそうだ」
兵士3「な、何をおっしゃって……」
バルガン「神に仕える清らかな美女の生まれたままの姿…なかなか良いとは思わんか?」
兵士3「ご、ご冗談を…そんな真似をなされば大臣のお叱りを受けますぞ」
バルガン「あられもないサマでもいい。いや、むしろその方が背徳的で艶やかさも増すだろうな?」
兵士3「…ど、どうか慎重なご判断を」
バルガン「大臣は芸術に理解あるお方だ。願い出れば即座に叶うさ」
兵士3「で、ではそのようになさればよろしいかと」
バルガン「イマイチ乗り気ではないな?貴様も見ろ、この金糸の如く輝き、靡く柔らかな髪…。
やや幼い顔立ちではあるが躯は健康そのもので、よく育っている」
兵士3「確かに…ですが女性絡みで大臣のよい噂は聞きません。触らぬ神に…と言いますし」
バルガン「フッ…肝の小さい男だ?それでよくも私の護衛が務まるな?」
兵士3「なんとでもお言いください…」
926:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:47:25 ID:hHymL3JH/Y
宣教師「」ポロッ
兵士3「何か落とされましたな?」
バルガン「……?」ヒョイッ
兵士3「…紙、ですかな?」
バルガン「いや、これは絵だな…」
兵士3「絵…ですか?」
バルガン「……」マジマジ
兵士3「どうされました?」
バルガン「この絵はこいつが描いた物か?」
兵士3「は…?さ、さぁ?どうなんでしょう?」
バルガン「……」
兵士3「卿?」
バルガン「見てみろ」つ【絵】
兵士3「は、はぁ…?へぇ!これは上手ですなぁ?」
バルガン「まるでこちらにまで息遣いが聴こえそうな程の見事な写生だ…」ギリッ
兵士3「王都の芸術家において五指にも数えられる卿がお認めになるのでしたら素晴らしい出来なんでしょうな!」
バルガン「私が認めたから素晴らしいだと?バカにしているのか!?」
兵士3「えっ」
バルガン「これは私の創造してきた…どの絵画にも勝る代物だ!」
兵士3「い、いや…まさかぁ?そんなこと……」
バルガン「許せん…!」ギリッ
宣教師「」スヤスヤ
バルガン「この絵を描いたのがこいつだとするならば…今すぐに!」スラッ
兵士3「ちょちょっ!落ち着いて!こんな狭い馬車の中で剣など振り回しては危険です!」アタフタ
宣教師「……」パチッ
927:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:50:24 ID:ioWP3.zHhw
宣教師「……?」ゴシゴシ
バルガン「目を覚ましたか、ちょうどいい!」ジャキッ
兵士3「よくありませんよ!あぁもうなんでこうややこしい時に…!」
宣教師「」ハッ
バルガン「ん!?」ピクッ
宣教師「ここは!?ここはどこですか!?」ガバッ
バルガン「黙れ!」チャキッ
宣教師「わっ!?危ないじゃないですか!?」ビクッ
バルガン「私の質問に答えろ。さもなくば……」ジャキッ
宣教師「し、質問…!?」
バルガン「この絵を描いたのは誰だ!?」つ【絵】
宣教師「あ、なぜそれを!どなたか存じ上げませんが他人の私物を勝手に取らないでください!」バッ
バルガン「ど、どなたか存じ上げない…だとぉ!?」ワナワナ
兵士3「き、貴様!卿に対してその口の聞き方はなんだ!?」
宣教師「卿?ということは貴族…ですか?くだらない…」
バルガン「フッ…クックックッ!い、いいだろう?そんなに死にたいのなら思い通りにしてやる!」バッ
兵士3「お、おやめください!いけません!いけませんよ!」ガシッ
バルガン「邪魔をするなぁ!!」ジタバタ
宣教師「貴族を名乗る割には随分と野蛮ですね…」
バルガン「……!」プルプル
928:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 18:54:29 ID:hHymL3JH/Y
バルガン「殺す前に聞いておいてやろう…!その絵を描いたのは貴様か!?」
宣教師「殺されるのはイヤですが答えましょうか。私ではないですよ?」
バルガン「…や、やはりな。貴様にこの絵が描ける訳がない!」
兵士3「ならば誰が描いたんだ!」
宣教師「私の友達です。友情の証にとプレゼントしてくれました」
バルガン「…誰だ、そいつは?さぞ高名な画家なんだろうな?」
宣教師「いえ、画家ではありませんよ。ホビットの少年です」
バルガン「ホビット?ホビットだとぉ!?」ガバッ
兵士3「ま、まさか貴様はホビットに通じているのか!万死に値する罪……」
バルガン「そんなことはどうでもいい!!」ダンッ
兵士3「ひっ!お、おやめください!傾いてしまいます!」グラグラ
バルガン「ホビット…たかがホビットがこの私をも凌ぐ才能を持っているというのか…!?」ギリギリ
兵士3「卿、お気を確かに!」
宣教師「……」
929:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/10/30(水) 19:00:16 ID:ioWP3.zHhw
宣教師「私の番です。ここはどこですか?」
兵士3「言うまでもない。王国へ帰る馬車の中だ」
宣教師「……」
兵士3「教団側に頼まれたんだよ。罪人の処罰を王国に一任するとな」
宣教師「そういう事にしておきましょうか。ですが私の行き先は大臣に沿うのでは?」
兵士3「あ、あぁ。そうだ」プイッ
宣教師「ふむふむ。大臣のいない馬車に乗せられたのは幸いでした。
今の私はおそらく積み荷扱い、つまりあなた達は大臣の許可なく私に手出し出来ないんですよね?」
兵士3「くっ」
宣教師「交渉しませんか?」
兵士3「交渉だと?元教徒ごときが図に乗るなよ!?」
宣教師「あなたではありません。卿に言っているのです」
兵士3「なっ!」
宣教師「どうですか?」
バルガン「わ、私がホビットに劣るだと…!?あり得ない…あっていい筈がない…!」ブツブツ
宣教師「卿?」
バルガン「いや、待てよ…?この才能を私の物に出来れば…!」ブツブツ
宣教師「…もし協力してくださるのでしたら私も出来る限りの見返りを用意します」
バルガン「見返り…?」
宣教師「えぇ。私に出来る事であれば応じますが?」
兵士3「バカにするな!卿が貴様などに……」
バルガン「いいだろう…」
兵士3「えっ」
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