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少年「ボクが世界を変えてみせる」
[8] -25 -50 

1:🎄 名無しさん@読者の声:2012/12/23(日) 21:21:41 ID:apUuk9iOiY
むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。


875:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/9(月) 16:10:26 ID:ur1V531DUI
アリアス「ふぅ…。よくよく使えないわね、あなたも」ボソッ

ジョー「ちっ…」

アリアス「…私に頭を下げさせておいて、その態度はどうなのかしら?」

ジョー「う……」

アリアス「私が来なければ今頃、お客様方の前で血が流れていた。そうなってしまえばパーティーどころでは無くなるのよ?」

ジョー「す、すんません」

アリアス「…間違いなく司祭様にまで責めが及んだでしょうね。これだけの醜態を晒せば、教団は王国に意見出来なくなるわ。
私達の布教に制限がなされて、今後の活動に支障をきたす…。あなたにその責任が取れて?」クドクド

ジョー「ぐっ…!」

アリアス「ナラ!」

ナラ「ひっ…」ウルウル

アリアス「」パシンッ

ナラ「ん…!」ヒリヒリ

アリアス「鍵はあなたに渡していた筈よね?なぜホビットを外に出したの!?」

ナラ「ご、ごめ…なさい」ポロポロ

ジョー「…こ、子供相手になにもそこまでやんなくても…」アセアセ

アリアス「関係ないのだから黙っていなさい。ナラ…あなたに任せた筈よね?」

ナラ「ほ、ホビット…みはる…」

アリアス「そうよ?それがなぜ、こんな事になっているの?」

ナラ「……」

アリアス「答えなさい」

ナラ「とも…だち」

アリアス「……?」

ナラ「いっしょに…あそ、ぼうって…」

アリアス「(…まさかナラが…短時間で心を開いたと言うの…!?)」
876:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/9(月) 16:12:49 ID:4jRYvwqKz2
アリアス「(純粋で疑いを知らないからこそ人の心の境界を容易く越えられる。
それがあの少年の強味であり、人間の持たざる力。油断がならないわね…)」

ナラ「」プルプル

アリアス「鍵は没収させてもらう。あなたも部屋に戻りなさい」

ナラ「」つ【鍵】

ジョー「部屋ってボウズが閉じ込められてるとこか?」

アリアス「そうよ」

ジョー「あんた…この子まで監禁する気かよ?」

アリアス「時間になればナラを出して修道子たちの大部屋に戻すわ」

ジョー「そしたら、この子は寝る時以外はずっとボウズに付きっきりじゃねぇか。自分の時間も与えられねぇ!」

アリアス「それでいいのよ。ナラに時間なんて必要ないわ」

ナラ「……」

ジョー「あんた、なに言ってんだ…!?」

アリアス「この子は誰とも心を通わせない。いえ、通わせられないと言った方が正しいかしら」

ジョー「なっ…」

アリアス「同じ修道子達からも相手にされていないし、かといって教えを熱心に受け入れる訳でもない。
簡単に言えば、彼女ははぐれ者なの。いつもボーッとしているだけで、なんの才も無い不要な子」

ナラ「もど…り…ます」ダッ

ジョー「あっ!」

ナラ「」タタタッ
877:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/9(月) 16:18:02 ID:ur1V531DUI
ジョー「……最低だな。あんた…!」

アリアス「好きに取って構わないけれど、ナラにとってもいい機会でしょう?
親に捨てられて、拾われた教団でも居場所が無かったあの子を受け入れてくれる相手といられるのだし?」

ジョー「…その唯一の相手といられる時間も、そう長くはねぇんだろ?」

アリアス「それもそうね…。まぁホビットにしか相手にされないような子は、初めから神に愛されていないのよ」

ジョー「結局、身勝手に利用してあの子の心を弄んでるだけじゃねぇか!」

アリアス「さっきまであの子の顔も知らなかった分際で意見しないでもらいたいわね?
自己満足の善悪を押し付ける暇があったら、自分でなんとかしてみたら?」

ジョー「……!」

アリアス「しがらみにまとわりつかれた大人に出来る事なんて限られてるのよ。
その証拠にあなた、達者な口とは裏腹に足が震えてるわよ?」

ジョー「…くそ!」ガクガク

アリアス「あなたは今まで通り、必要なことだけに集中なさい。
罪人を見張って、金を手にして、生活を維持するだけの日常に…ね」

ジョー「(くそっ!くそっ!くそっ!)」

アリアス「くれぐれもお客様の機嫌を損ねないように。せいぜいパーティーを楽しみなさい」スタスタ

ジョー「」ワナワナ

シスター1「ワンちゃーん…!」グスン

シスター2「神様ー!かわいいペットをくださーい!」

シスター3「神様にくだらないこと祈らないの!」

神父「ぐがー…ぐごー…」スヤスヤ

シスター1「グスン…なんでこの人、芝の上で寝てるの?」

ジョー「(宣教師さん…絶対にあいつらをぎゃふんと言わせてやろうぜ!)」
878:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/15(日) 20:43:21 ID:Dhvz5ObIgc
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
カロル「えへへ。怒られちゃったね」

ナラ「……」

カロル「どうしたの?元気ないよ?」

ナラ「へい…き」

マルク「クゥーン」スリスリ

ナラ「…!」ビクッ

カロル「マルクも心配だって?」

ナラ「う…うん」

カロル「あ、そうだ!これ食べる?」つ【パン】

ナラ「……?」

カロル「こっそりもらってきたんだ!」ニコニコ

マルク「はっ!はっ!」シッポフリフリ

カロル「ふふ。マルクにも、ちゃんとあるよ!」つ【ローストチキンの切れ端】

マルク「」ハムッ モグモグ

ナラ「」パクッ

ナラ「…おいしい」パァァ

カロル「元気出た?」ニコニコ

ナラ「うん…」ニコニコ

カロル「アリアスさんが許してくれたら、今度はいっぱい遊ぼうね!」

ナラ「そう…だね」

マルク「」モグモグ

ナラ「(カロルはあんなこと…あったのに、こわくないのかな)」
879:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 21:50:02 ID:oAdlPUadgE
―――大聖堂(広間)―――
宣教師「」ズーン

アントリア「お疲れのようだね?」

宣教師「神官…」

アントリア「大臣が可愛がる度に引き攣る君の顔は見ものだったよ?」

宣教師「お、思い出させないでください!」アセアセ

アントリア「クックッ!すまないね…」クスクス

宣教師「…この先、私に純白のドレスを着る機会はないでしょうか…?」フッ

アントリア「ハハ…そこまで思い詰める事はないよ。
君ほど魅力的な女性なら、きっといい人が現れるとも」

宣教師「気休めはよしてください…」グスン

アントリア「あんなものは言ってみれば事故だよ。気に病むことはないさ」

宣教師「さんざん腰を撫で回された上に胸をまさぐられて…とても事故では済ませられません!」

アントリア「やれやれ、大袈裟だな…?」

宣教師「悪かったですね!どうせ下品な男の方には分かりませんよ!?」

アントリア「クックッ!下品ときたか。君もなかなか言うようになったな?」

宣教師「っ!失礼しましたね…!」プンスカ
880:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 21:54:34 ID:IWbPBuUNEE
アントリア「しかし君もノワールも変わらないな?」

宣教師「神官もお変わりなく」

アントリア「それこそ気休めだね。僕もすっかり老け込んだものだよ」

宣教師「いえいえ、まだまだ若さを保っておられますよ?」

アントリア「クックッ!下品な男ほど、しぶといのかもしれないね」

宣教師「あっ…その…さっきのは言葉のあやでして…申し訳ございません」ペコリ

アントリア「今日は君にとって厄日だったろうからね。気持ちが抑えられないのは仕方ないさ?」

宣教師「…はい」

アントリア「辛いだろうがね。悪い夢にうなされたとでも思って忘れなさい」

宣教師「…それは先ほどの話も含めて、という意味でしょうか?」

アントリア「まぁ…君には関わりのない事さ。深く考えない方がいい」

宣教師「そういう訳にはいきません…」

アントリア「…ふむ」

宣教師「教団は矛先をホビットに向けて差別を促し、民の不信感を和らげて…王国は仮初めの平和に乗じて自由に世界を動かしている…。これが今の世界の流れなのですね?」

アントリア「君は相変わらず飲み込みが早いな。会話の断片を拾うだけで、その結論に達するとは…」

宣教師「神官は…こんな不毛な流れに疑問を持たれないのですか?」

アントリア「…時に宣教師くん。君は教団が活動する前の世界を知っているかね?」

宣教師「…急にどうなさったんですか?」

アントリア「年寄りはおしゃべりが好きでね。少し昔語りがしたくなったのだよ?」

宣教師「…知る筈がありません。私は生まれてもいないのですから」

アントリア「それもそうか…。なら疑問を持ってもおかしくはないよ」

宣教師「……?」

アントリア「今から40年ほど前に学者だったノワール・バントン司祭が伝承を解読したのは知っているね?
それは彼の名前が歴史に刻まれたとしても、なんらおかしくない程の発見だった」

宣教師「(もしかしたら偽の伝承にまつわる話でしょうか…)」

アントリア「あれから世界の仕組みは大きく変化した…。
今から話すのはノワールの発見ではなく、我々が過ごした時代の話だがね?」
881:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 21:56:58 ID:IWbPBuUNEE
―――回想(アントリア)―――
……あの時代はとても荒んでいた
人が人を憎み、互いに傷を広げ合う
いくつもの国が争う頃には誰もが癒えない傷を抱えていた

人々の憂いは限りなく、生きる術ばかり限られる
村や町は戦火に焼き払われ、生き残る国もあれば死に絶える国もあった
それでも終局を見せないまま十年に渡って繰り広げられた戦いは、やがて終わらない争いと呼ばれた

僕とノワールはそんな時代に生まれたのだ
過酷で行き場を見失いがちな環境の中で……
今、この時を生きていられるのがウソだと思えるような
思い返すと気の休まらない日々を過ごしていたよ

とはいえ僕は運がよかった
家柄に恵まれていた事もあり、戦火とは無縁な場所にいられたのだからね
民が不安に怯え、ままならぬ生活に喘いでいる事も知らずに浮わついた生活を送っていた
舞踊、剣術などを嗜み、茶会や舞踏会などの娯楽に興じる気ままな日々をね

しかしノワールは孤独な少年だった
平民として裕福な町に生まれた彼は、まだ幼く、無邪気だったそうだ
自国の膝元に置かれた町は、遠く離れた貧しい村々のように煙が立ち込めることもなく
武力が盾となり、なに不自由ない生活を送っていたと言う
まぁ…彼の記憶が定かであればの話だがね
882:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 21:59:02 ID:oAdlPUadgE
しかしある日を境に彼を取り巻く環境は大きく変化した
町と外を隔てる唯一の門が敵国の手によって開かれたのだ
普段ならば決して開くことのない硬く、たくましい樫の巨木で作られた門がいとも容易く……

町の人間には何が起こっているのかさえ分からない内に馬に跨がった無数の兵が攻め込んできた
兵士達は馬上から容赦なく剣を振るい、家々には人の頭ほどもあろう石が投げ込まれ
逃げ惑う人々の背を蹄が突き刺し、先ほどまで活気立った市場には火の手が上がった
よく寝かせた赤ワインを瓶ごとこぼすようにどっぷりと赤い血が地面に溢れる
ノワールはその光景を前にして、ただ立ち尽くしていたそうだ
無理もない。まだ幼い少年だったのだから

人々は溺れるようにして火の海の藻屑となった
兵士達は食糧や金品などの物資を手早く回収すると、勝利の雄叫びを上げ、自国の旗を掲げながら悠々と去っていった
ノワールは瓦礫の隙間に忍んで息を潜め、恐怖に震えながらも見つかることはなかったそうだ
隠れている間に何度か鈍い音と痛ましい悲鳴が聴こえたが、か細い腕は震えに抗えず、耳を塞ぐことすら叶わなかったと言っていたよ

足音に体を強張らせ、立ち込める煙を吸い込むたびに咳き込みそうになるのを必死の思いでこらえた
徐々に迫る火に怯え、熱さに悶えながらも彼は耐え忍んだ
兵士達が去っていった後もしばらく瓦礫の下にうずくまっていたらしい……
883:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 22:02:29 ID:oAdlPUadgE
……そうしている内に火の手が回り、炎がメラメラと音を立てて身を隠す瓦礫に迫る
幼き本能は敏感に死を悟り、這うようにして瓦礫から抜け出すと夢中で走っていた

「はぁ…はぁ…」タタタッ

「うぐっ」ゴロンッ

「うっ…くっ…!」ムクリ

「はぁ…はぁ…」タタタッ

「はぁ…あ…あ…あぁ…」ウルッ

「うぅぅ…あああぁ……」ブワァッ

……足が縺れるのも気にせずに走り、転んでは立ち上がり、傷の痛みも感じずに走る繰り返し
痺れ切って感覚もない足、足首は紫色に腫れ上がり、膝の皮は転んだ拍子に破れてずる剥けだった
それでも彼は走り続けた。そして泣き続けた
ほんの数時間前までは何も知らなかった少年がこの時、確かな答えを見つけていたのだ

「うっ…うぅ…うわあぁぁん!」ポロポロ

……もう無いのだと。
家族も、町も、町の人々も、友達も、家も……
思い出だけを残し、一人で生きるしかないのだと


………………
884:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 22:08:06 ID:oAdlPUadgE
アントリア「とまぁこんなところかな」

宣教師「そのような時代があったなんて…知りませんでした」

アントリア「王国は隠したがっているようだからね。だが現実に悲惨な時代があったのだよ」

宣教師「司祭様は…私と同じ孤児だったのですか?」

アントリア「…それだけではないよ」

宣教師「……?」

アントリア「彼の国を滅ぼしたのも王国だ」

宣教師「えっ」

アントリア「だからかな。君には他の者と違う感情を覚えてしまうらしい」

宣教師「(司祭様も…私と同じ境遇に…)」

アントリア「ノワールは気難しい男ではあるが、君が思っているような人物ではないよ?」

宣教師「え……」

アントリア「ホビットを苦しめて楽しむ薄情な男と思っているのだろう?」

宣教師「い、いえ」

アントリア「…まぁ目的の為なら手段を選ばない人間ではあるがね」

宣教師「少し…行き過ぎている気もします」

アントリア「だが終わらない争いを終わらせたのは紛れもなくノワールの功績だ。それだけは分かってやってほしい」

宣教師「はぁ…。あの…司祭様はなぜホビットを憎んでいるのですか?」

アントリア「……」

宣教師「……?」

アントリア「見捨てられたのだよ。孤児だった頃にね」

宣教師「見捨てられた…?」
885:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 22:10:00 ID:IWbPBuUNEE
アントリア「行き場もなくさまよったノワールは見知らぬ森の中で疲れはてて、草むらに横たわって眠ったのだそうだ」

アントリア「そして目を覚ますと数匹のホビットが彼を取り囲んでいた」

宣教師「(そういえばカロルくんのお母様が言ってましたね。ホビットは森に住まう種族だと)」

アントリア「ノワールは怯えながらも必死に助けを求めた」

宣教師「助けてもらえなかったのですか?」

アントリア「…助けてもらえないだけならまだよかったろうね」

宣教師「……?」

アントリア「ホビットは傷付いて動けない彼を流れの激しい川に放り込んだのだ。
自分たちの縄張りに人間を置いておく訳にはいかないと言ってね」

宣教師「なっ…!」

アントリア「濁流に押し流されて気が付いた頃には王国領に辿り着いていた。
冷えきった体と朦朧とする意識をなんとか起こし、川を離れたところで力尽きたのだと?」

宣教師「(ものすごい生命力ですね…)」

アントリア「さすがに彼もその時ばかりは死を覚悟したらしいがね。
運良く、たまたま馬車で通りかかった父上が拾ったのだよ」

宣教師「ということは…司祭様は神官の家で過ごしたんですか?」

アントリア「亡くなった父上は変わり者でね。たまたま拾った見知らぬ子供を誕生日の贈り物として僕にくれたのだ」

宣教師「司祭様は物扱いなんですね」

アントリア「物なら単純で助かるが彼は扱いにくかったよ」

宣教師「…なんとなく分かります」
886:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/18(水) 22:15:48 ID:oAdlPUadgE
宣教師「(司祭様にそんな過去があったなんて…)」

司祭「大臣め!ようやっと寝間に入りおったわい!」ガチャッ

アントリア「クックッ!ご苦労だったね?」

宣教師「」ジーッ

司祭「む?なんじゃ?」

宣教師「い、いえ…」

司祭「……?変な奴じゃな?」

アントリア「さて、僕も寝るとしようかな」

司祭「そうか。では寝間に案内してやろうかの」

宣教師「……」

アントリア「年寄りの長話に付き合わせてすまなかったね?」

宣教師「あ…とんでもありません」

司祭「む?なんの話じゃ?」

アントリア「なに、つまらない話さ」

司祭「……?」

宣教師「……」

司祭「…お前も寝ておけ。庭園の宴も終わった頃じゃろう?」

宣教師「はい…」

宣教師「(司祭様がホビットも王国も憎んでいる理由は分かりましたが、なぜそこまで癒しの力に執着するのでしょうか…)」
887:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/23(月) 11:55:20 ID:kql6e53rLY
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
ガチャッ

アリアス「ナラ。迎えに…」

カロル「」プニィ

マルク「」グニョン

ナラ「ぷっ」

カロル「あっ!今笑ったでしょ?」

マルク「わんっ!」

ナラ「…うぅ」モジモジ

アリアス「……」

カロル「あ、アリアスさん!」

ナラ「」ビクッ

マルク「わんっ」

アリアス「…あなた達、なにしてるの?」

カロル「にらめっこしてたんです」ニコニコ

ナラ「……」ビクビク

アリアス「(…ずいぶん呑気なのね。まぁ良い傾向だけれど)」

カロル「アリアスさんもにらめっこする?」

アリアス「遠慮しておくわ。ナラ?」

ナラ「はい…」

カロル「…どうかしたの?」

アリアス「もう遅いからナラを部屋に戻すのよ」

カロル「え…そんな時間だったんだ。気付かなかった」
888:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/23(月) 11:58:24 ID:ndq7pVhfUU
カロル「おやすみ。ナラ?」ニコッ

ナラ「……」

アリアス「…あなたは返事もまともに出来ないの?」

ナラ「」ビクッ

カロル「叱らないであげて?ボク、怒ってないですから…」

アリアス「そう…」

ナラ「」ウジウジ

カロル「アリアスさんもおやすみなさい」ニコッ

アリアス「おやすみなさい。良い夢を…」バタンッ

マルク「わぅぅん…」

カロル「ナラ…どうしたんだろ?」

マルク「クゥーン…」

カロル「…明日はもっと笑ってくれるといいね?」

マルク「」コクコク
889:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/23(月) 12:01:49 ID:ndq7pVhfUU
―――大聖堂(通路)―――
アリアス「いつの間にあんな顔ができるようになったの?」ニコッ

ナラ「……」

アリアス「普段の無口なあなたからは想像できない…。卑屈で…媚びていて…引きつった笑みのあなたからは…?」

ナラ「」ブルブル

アリアス「ダメじゃない?誰が心を開いていいと言ったの?」ニコニコ

ナラ「ごめんなさい…」

アリアス「あなたも知ってるわよね?アレはホビットなのよ?
人間じゃない…。ホビットなの?」ニコニコ

ナラ「はい…」

アリアス「教えも熱心に受けないあなたを置いてあげてるのは何故だと思う?」ニコニコ

ナラ「……」

アリアス「それは…こういう時の為でしょう?」ギロッ

ナラ「ひっ…」ビクッ

アリアス「ホビットを楽しませるのは結構よ?でもあなたはそうじゃないでしょう?」

ナラ「はい…」

アリアス「あなたが少しでも集中出来るように私から助言をしてあげましょうか?」

ナラ「……?」

アリアス「あのホビットはもうすぐいなくなる…。二度と会える日は来ないの」

ナラ「……!なんで!!」

アリアス「声を荒げるなんて珍しいわね。よほど情が深いのかしら?」

ナラ「…ちが…ます」

アリアス「…肝に銘じておきなさい。ホビットと人間は異なる生き物。交わることはないのよ」

ナラ「……」

アリアス「…部屋には一人で戻れるわよね?」

ナラ「」コクリ
890:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/26(木) 20:24:25 ID:hwbXPlLH2c
―――夢(宣教師)―――
……逃げろ!早く!早くしろ!

……なんで私達が!?一体何をしたと言うの!?

……町を出るんだ!ここにいては殺されてしまう!

……無理よ!湖に囲まれたこの町に逃げ場なんてないわ!?

……火が放たれたぞ!王国は本気でこの町を消すつもりだ!

……あぁ!あぁ!あぁぁぁぁ!!

……希望を捨てるな!出口が無いのなら、いっそ湖に飛び込もう!

……待って!子供がいないの…!

……諦めろ!どうせ助からない!

……誰か、誰か手を貸してくれ!妻が怪我をしてるんだ!

……構うな!助かりたい奴は生き残る事だけを考えろ!

……騎馬隊が迫ってきたぞ!

……早く飛び込むんだ!

バシャッ! バシャバシャッ! ボチャンッ!

……うがぁぁ…!く、苦しい!

……なんだぁ!何か…変だぞ!?

……み、水を飲むな!毒が入ってるのかもしれない!

……ぶくぶく

…矢が!矢が放たれだふっ!?

……一人も、生かさない気なの…か…

……ぶくぶく ぶくぶく
891:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/26(木) 20:29:03 ID:pqeXbqy9pQ
〜〜〜〜〜〜
???「ここが例の町か。本来は美しい町であったろうに…」スタスタ

「」グスングスン

???「む…?」スタスタ

「ひっく…ひっく…」グスングスン

???「…お前さんはこの町の子かね?」

「うっ…うえぇぇん…」ブワァッ

???「何があった?泣いてばかりでは分かるまい?」

「ヒック…グスン!おじいさんは誰なの?」

???「わしは神に仕えし人間じゃ。恐れる必要などないのじゃよ?」

「…ほんと?」グスン

???「本当じゃとも。何があったか話してみなさい」

「…わたしが外にお花を摘みに行ってたら、みんないなくなってたの」

???「ふむ…」

「ねぇ、どうして?どうして町が無くなったの?どうしてみんないなくなったの?」

???「…わしでは答えられんな」

「おじいさんは神に仕える人間なんでしょう?神様は教えてくれないの?」

???「神が人に教えるのは…いずれも答えに近いものであって答えではない。
あくまで、それを見つけるのは自分自身なのじゃ」

「……」

???「お前さんの町がなぜこうなったかは…いずれ自分自身で見つけられよう。
それよりも今はお前さんがどう生きるのかを考えねばな」

「イヤだよ…。お父さんもお母さんも…お兄ちゃんもいないなんてやだ」

???「ならばどうする?ここに残るのか?」

「……」
892:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/26(木) 20:34:36 ID:pqeXbqy9pQ
???「お前さんのような子供が一人で生きていけるほど、生易しい世の中ではないぞ?」

「生きてたって…みんなも町も戻らないもん」

???「だったらなんじゃ?死ぬとでも言うのか?」

「…それでもいいよ。みんなに会えるなら」

???「ふむ。あの世で再会とな…。はたしてお前さんの家族は望むかの?」

「知らないよ…知らないけど、しょうがないから」

???「しょうがない?」ピクッ

「だって!どうしたらいいの!?
いきなり一人になったって分かんないよ!」

???「やっかましいぃぃぃぃぃ!!!!」

「」ビクッ

???「ケツの青いガキの分際で命をやすやす捨てようなど片腹痛いわぁぁぁ!!」

「…!?」ドギマギ

???「お前さんがどうしても死ぬと言うのなら、わしは断固阻止するぞ!?」

「どう…して?」

???「どうしてもこうしてもあるかっ!とにかくお前さんの生きる場所はわしがくれてやる!
そこでもまだ死にたいとほざくのなら、勝手に死ねばええわい!」

「」キョトン

???「向こうに馬車を待たせとる!行くぞ!」スタスタ

「」ポカーン

………………
893:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/29(日) 21:33:24 ID:nCTLVGdIG2
―――大聖堂(広間)―――
ワイワイガヤガヤ

ジョー「へー!司祭様にそんな過去がなぁ…」

宣教師「…はい。まさか私と似たような境遇にいたなんて思ってもみませんでした」

ジョー「王国を憎む訳だよ。えげつねぇにも程がある」

宣教師「…そういえば神父様は?いらっしゃらないみたいですが…」

ジョー「あのおっさんなら二日酔いで寝込んでるよ。昨日は飲めねぇクセに意地張って飲んでたから」

宣教師「それはまた…あの方らしいと言いますか…」

ジョー「そんな事より聞きてぇんだけどさ。あんたは王国を恨んでないのか?」

宣教師「私ですか?」

ジョー「あぁ。あんたも王国に故郷を滅ぼされたんだろ?」

宣教師「……。特にないです。司祭様のように復讐に走る気もありませんし」

ジョー「…ま、そうだろうな。考えてみりゃあんたはそんな人じゃねぇか」

宣教師「…許せない方ならいますがね」ボソリ

ジョー「ん?なんだって?」

宣教師「い、いえ…なんでもありません」ゴニョゴニョ

ジョー「それにしても王国まで一枚噛むとなると、ますます話がでかくなるなぁ…」

ナラ「」トコトコ

ジョー「ん?よう!昨日のちっこいのじゃねぇか?」

ナラ「」ビクッ

宣教師「?」
894:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/29(日) 21:35:34 ID:nCTLVGdIG2
ジョー「またあのボウズんとこに行くのか?」

ナラ「」コクリ

宣教師「ジョーさん、この子は?」

ジョー「修道子だよ。なんでもアリアスの命令で、あんたの好きなホビットの部屋に入り浸ってるらしいぜ?」

宣教師「なんですか、その誤解を招きそうな言い方は…。要は監視でしょう?」

ジョー「こんな子供に何させてんだかってハナシだよな?」

宣教師「カロルくんでしたら監視など付けなくてもおとなしくしていそうなものですが」

ナラ「……!カロル…しってる、の?」

宣教師「えぇ。私は彼の友達ですから」

ナラ「もしかして…せんきょうし、さん?」パチクリ

宣教師「おや、彼から聞いたのですか?」

ナラ「うん。すごく…やさしくて、だいすきなひと…いってた」

宣教師「なっ…」カァァ

ジョー「ヒュー!隅に置けねぇな、あんたも?」ニヤニヤ

宣教師「ふ、ふざけないでください!」

ジョー「あのボウズに会いたくなってきたんじゃねぇか?」ニヤニヤ

宣教師「っ…!知りません!」プイッ

ナラ「……」
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名前:
sage:


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