むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
838:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/26(月) 21:20:26 ID:MP0y9eWMw6
ジョー「もういいだろ?俺らも暇じゃないんだ」
アリアス「何か予定があって?」
ジョー「今日は客人を迎えて豪勢な飯が食えるんだ。
あんたと話してる時間も惜しい。腹ごなしを済まさねぇとな」
アリアス「あなたにとって、あたしは食事以下の人間だと言いたいのね」
神父「……」
アリアス「何か動きが見えたら…頼むわね?」
神父「ご心配なく。包み隠さず報告致します!」
アリアス「」スタスタ
神父「……」
ジョー「…てっきり全部報告しちまうかと思って焦ったよ」
神父「そうしてもよかったのだがな」
ジョー「……」
神父「私も空腹なのだ。長引くのは御免被りたかった。それだけのことだ」
ジョー「はは!俺もだ。ご馳走が無くならない内に行こうぜ?」
神父「(…無断で牢を開けるのを止めなかった上に一晩中ホビットを介抱していた等と言えるか!)」
839:🎄 名無しさん@読者の声:2013/8/27(火) 02:02:09 ID:Y2FzbAJ85A
夢中で見ていたらこんな時間に...
こんなに物語に引き込まれたのは久しぶりです。
切なくも考えさせられるお話ですね。
紫煙していきます つCCCC
840:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/27(火) 21:41:43 ID:cDgRUFiY4w
>>839
支援ありがとうございます!
遅い時間帯まで読んでもらえて嬉しい反面、貴重な睡眠時間を削ってしまった罪悪感が…。
差別に焦点を当てたSSなので、読んでいていい気分はしないかもしれませんが、思うところがあると感じていただけて嬉しいです!
支援ありがとうございました!
841:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:03:12 ID:sw/JgG8jwQ
―――大聖堂(礼拝堂)―――
司祭「ほほほ。こうして言葉を交わすのも久しいな?」
???「ここも少し見ない間に変わったものだね」
司祭「…老いて目が曇ったか、アントリアよ?何も変わっちゃおるまい」
アントリア「いや、変わったな。前に来た時より汚れがよく目立つじゃないか」
司祭「ふん。相変わらず嫌味な奴じゃわい」
アントリア「君も相変わらずでなによりだよ、ノワール。
わざわざ遠い所から足を運んできた客人に土臭い田舎料理と味気無い果実酒を振る舞うなんて、なかなか出来る事じゃない」
司祭「…お前の皮肉はうんざりじゃ。本題に入るぞ」
アントリア「クックッ…。せっかちな性分も健在なようで…。
それにしても、せっかく昔馴染みに会えたのに、もう話を切ると言うのかな?」
司祭「あまり王国の連中を待たせておくと、うるさそうなんでな」
アントリア「あぁ…すまないね。どうしても来たいと言って聞かなかったんだ」
司祭「ふん…。ぶくぶく肥えた体で出歩くのは辛かろうに。なぜこんな所まで来たのじゃ?」
アントリア「つまらない要件さ。税率を上げたいから、君から信者を通じて説明してほしいのだと?」
司祭「醜い豚共め…。まだ己を満たす為に民の心を弄ぼうというのか」
アントリア「腐った根からは卑しい花が咲くものさ。
他の養分を吸い取って色ずく花弁は鮮やかでありながら、更なる色を求めてる」
司祭「花じゃと?あんなものは雑草でも贅沢じゃろうよ」
アントリア「…君は言葉が過ぎる。僅かでも慎みを持ち合わせた方がいい」
司祭「大きなお世話じゃ!」
アントリア「…で、話とはなんだね?」
司祭「ほっほっほ。ついに手に入れたぞ…」
アントリア「」ピクッ
842:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:05:18 ID:sw/JgG8jwQ
アントリア「…まさか」
司祭「そのまさかじゃよ!見つけたのだ!癒しの力をな…!」
アントリア「…やめよう。互いに夢を見られる歳でもないだろう?」
司祭「なんじゃ?信じておらんのか?」
アントリア「あんな夢物語を信じろと?」
司祭「なっ…!き、貴様!わしが発見を伝えた時は手放しで喜んでくれたではないか!」
アントリア「それが若さというものだよ。手の届かぬ希望に縋りたくなる愚かな若さ。
しかし次第に学ぶのさ。理想に届かぬ不安に埋もれる日々の中でね」
司祭「…なら、貴様はとうに諦めておったのか…!わしらの念願を…!」
アントリア「叶える努力はしたじゃないか。癒しの力を探す為に手は尽くした。
さんざ王国の力を利用して、様々な犠牲がもたらしたものはなんだね?」
司祭「……」
アントリア「所詮、我々は人だ。無力で…脆い人でしかないのだよ」
司祭「…ならば己の目で見たがええ」
アントリア「ノワール……」
843:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:06:47 ID:DwgOGbbmEY
ズンズン ズンズン
大臣「失礼しますぞ」
アントリア「…大臣、待っているようにと……」
兵士1「……」
兵士2「……」
大臣「んぅ〜?お話し中でしたかな?」
司祭「いや…構いませぬよ。お待たせしたようで申し訳ございませんな」
大臣「とんでもない。彼の高名な司祭殿と同じテーブルを囲んで食事させていただけるのです。いくらでも待ちますとも!」ニコニコ
司祭「ほほほ。大臣から直々にお褒めの言葉を頂けるとは光栄の至りですわい」
アントリア「…大臣。申し訳ないが、もう少し時間をもらえはしないかね?」
大臣「わたくしは構わないんだが…他の者がやかましくてなぁ?」
司祭「(どうせ貴様が待ってられんとごねたんじゃろうが…。豚モドキめが…)」
アントリア「礼拝堂は謂わば神の御前、神に仕える我々としては多少の時間を要しても祈りを捧げておきたいのだよ」
大臣「んぅ〜…。なるほど〜?」
司祭「シスター達がその辺におる筈です。不都合があれば彼女らになんなりとお申し付けくだされ」
大臣「ほう…。シスターとな!?」
司祭「皆、若いながらに気立てが良く、清潔な者ばかりです。不快な思いをさせるような心配もございませんぞ」
大臣「若い…か。ぐふふ」ジュルリ
アントリア「いかがですかな。大臣?」
大臣「司祭殿と神官がそこまでおっしゃるのなら、席を外しておきましょうよ。戻るぞ!」ズンズン
兵士1「」ペコリ
兵士2「」スタスタ
844:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:09:25 ID:sw/JgG8jwQ
―――大聖堂(応接間)―――
アントリア「困ったものでね。あの方は少々、抑えが利かないのだ」スタスタ
司祭「元より豚に理性がある等と思っちゃおらん。着いたぞ」ガチャッ
アントリア「こんな所に癒しの力があるのかね?」キョロキョロ
司祭「バカを言え!奥に部屋を設けてあってな、そこに保管しとるよ」スタスタ
アントリア「…大臣もあの性格だ。あまり待たせてはおけないよ?」スタスタ
司祭「ならば手短に済ませてやろう。ここじゃ」ガチャガチャ
アントリア「二重の鍵か…。君も繊細な男だな?」
司祭「当然じゃ…!これに全てが懸かっておるんじゃからな!」ガチャガチャ
アントリア「(大袈裟な…。何かの間違いに決まってる…)」
ガチャッ
カロル「」ビクッ
司祭「ほほほ!おとなしくしておったか?」
アントリア「…ただのホビットじゃないか」
司祭「ふん…まことにそう思うか?」
カロル「……!」
アントリア「……。確かにキレイなホビットだね。土産にすれば大臣や貴族達が喜びそうではある?」ジロジロ
司祭「醜いものよ。民にホビットとの関わりを禁じながら己らはホビットを娼婦や奴隷として扱っておる。
じゃが…この小僧の価値はそんな安いモノでは収まらん」
カロル「」キッ
司祭「む?なんじゃ、その目は?」
カロル「……」
司祭「まだ懲りておらんのか?」スッ
カロル「」ビクッ
アントリア「(…なんの変哲も無いホビット、としか思えないがねぇ)」ジロジロ
カロル「……」
845:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:11:19 ID:DwgOGbbmEY
アントリア「…ノワール。勿体ぶらずに力を見せてくれないか?」
司祭「よかろう?」
司祭「では…この杖でわしを叩いてくれんか?」つ【杖】
アントリア「…そんな事をすれば君が怪我を負うじゃないか?」
司祭「…構わぬ。全身全霊を込めて叩け」
アントリア「……」
司祭「早くせぬか?」
アントリア「そこまで言うなら…ふんっ」ブンッ
司祭「うぐっ」ボカッ
カロル「わっ!」
司祭「が…あぁ…あぐぅ…!」ポタポタ
アントリア「流血してしまったね。大丈夫か?」
司祭「小僧…!何をボサッと見とる!力でわしを癒さぬか!?」
カロル「……!」
アントリア「彼は腕を縛られているようだが拘束は外さなくていいのかね?」
司祭「関係…ないわい!奴は触れるだけで傷を治せるのじゃ!」
アントリア「触れるだけで…?」
846:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:13:26 ID:sw/JgG8jwQ
司祭「くっ!早くせいと言っとるのが分からんのか!?」
カロル「い…イヤだ!」
司祭「なに!?どういう事じゃ!?」
カロル「おじいさまはボクとの約束を破ったもの!
お母さまだって、マルクだって返してくれなかった!」
司祭「こ、小僧…!」ギリッ
アントリア「…ホビットよ。君は本当に癒しの力を持っているのかね?」
カロル「……」
アントリア「どうなんだね?」
カロル「知らないよ…」ボソッ
アントリア「……?」
カロル「そんな力、知らない…。ボクはただ、お母さまとマルクと一緒に帰りたいだけ!」
アントリア「つまり力など持っていないと?」
司祭「たわけがっ!貴様は神父の傷を癒したであろうが!わしを癒せぬとは言わさんぞ!?」
カロル「じゃあ約束を守ってよ!みんなを返して!」
司祭「くっ…!卑しいホビットめ…!」
アントリア「ノワール。その時はどのように力を発揮したのだね?」
司祭「祈りじゃ!こいつが手を合わせて祈りよった途端、力を発揮したのじゃ!」
アントリア「祈り、か。君はなぜ祈ったら力を扱えたのだね?」
カロル「ぇ…えと、頭にふわぁって流れてきて、その…なんとなく分かったんです」
アントリア「…真偽はともかく興味深い話ではあるね」
司祭「な、何を呑気に話などしておる!?」
847:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:15:25 ID:DwgOGbbmEY
アントリア「君も元学者なら分かるだろ。我々は好奇心には逆らえない生き物だ」カキカキ
司祭「メモを取っている場合か…!」ズキズキ
カロル「……」アセアセ
アントリア「…ノワールが心配かね?」
カロル「……!ち、違います!ただ、血を流してる、から…」モジモジ
司祭「小僧…!癒せ!癒さぬかぁ…!」ガシッ
カロル「うぁっ…!は、離してよ!」バッ
アントリア「ノワール。君も君だよ。焦って力を証明しようと思うから、そうなるのだ。
君は昔から結果を急いで短絡的に動き過ぎる節がある」カキカキ
ガチャッ
アリアス「失礼します…。やはりここに…し、司祭様…!?」ギョギョッ
司祭「ぐ…ぬぅ…!」ググッ
アントリア「アリアス君じゃないか?懐かしいね。何年越しの再会だろう?」
アリアス「アントリア神官…!これは…どうなってるんです!?」
アントリア「あぁ。僕がやったのだよ。ノワールに頼まれてね」
アリアス「なっ…!なぜそんなマネを…!ご高齢の司祭様が血を流す程の打撃を浮ければ、タダで済まない事など承知しているでしょう!?」
アントリア「無論、承知しているよ。承知の上で頼まれたのだ」
アリアス「っ…!ホビット!」
カロル「」ビクッ
アリアス「司祭様を癒しなさい!今すぐによ!」
カロル「……」
アリアス「何をしてるの!」
カロル「…ボクは約束、守ったもん」
アリアス「……!」
848:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:18:22 ID:sw/JgG8jwQ
アントリア「無駄だよ、アリアス君。どうやら彼の意志は硬いようだ」
アリアス「なら…どうしたら…!」
アントリア「罪深き種族に必要なのは利害の一致。命の不運など目に映らぬ残酷な種族なのだよ」
カロル「……!」
アリアス「くっ…!こうなったら、力ずくでも……」
アントリア「変わらんよ。力で押さえ付けたところで、このホビットは曲がらないだろう」
司祭「はぁ…はぁ…」ポタポタ
カロル「(このままじゃおじいさまは死んじゃう…。でも……)」
カロル「(助けたら…また…)」
アントリア「なぁ、ホビットよ?」
カロル「え?」
アントリア「君の一族はそうして迫り来る惨劇から目を背けて生きてきたのだろう?
なにせ罪深く、残酷で、卑しいのだから、見捨てられる痛みを知らないのだね」
カロル「違うよ!お母さまも…お父さまも…見捨てたりしない!誰よりも優しいんだ!」
アリアス「よく言うわね…。司祭様を苦しめておいて…!」
カロル「そんな…ボク……」
アントリア「(ノワールの場合は自業自得としか言いようが無いがね…)」
アリアス「司祭様が死んだら許さない…。あなたの母親も飼い犬も…無事にしておかないわ!」
カロル「(…ボクだって、ホントは助けたい)」
アントリア「もういいだろう。医術師を呼びなさい」
アリアス「くっ!」ダッ タタタッ
カロル「(けど…できるか分からなくて、こわい)」
849:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/8/28(水) 21:21:31 ID:sw/JgG8jwQ
アントリア「ノワール。意識はあるかね?」
司祭「ぐぅ…当たり前じゃ。これしきで死んでたまるか…!」ググッ
アントリア「威勢がいいのは君の持ち味とも言うべきか。意志が身体に伴えばいいが、起き上がるのは難しいようだね」
司祭「貴様が…加減をせんからじゃろうが…」ポタポタ
アントリア「君がそれを口にするかね?友人の手を危うく殺人に使わせておいて。ともあれ今死なれては寝覚めが悪い。肩を貸すよ」グッ
司祭「うぅ……」ガシッ
司祭「ぐわっ!?」ガクンッ ドカッ
アントリア「おっと、重くて落としてしまった。歳は取るものじゃないな」
カロル「あっ…」
アントリア「(さぁ、どうす……)」
カロル「おじいさま!」ダッ ガシッ
司祭「……」グッタリ
カロル「……!」ギュッ
アントリア「(まさか力を?いや、しかし黙って手を握っているようにしか……)」
司祭「お、おぉ…!」ムクリ
アントリア「!?」ビクビクゥゥゥッ
カロル「だい…じょうぶですか?」オロオロ
司祭「どけぃっ!ホビット風情がわしに触れるでないわ!」ドンッ
カロル「っ…!」ドサッ
アントリア「ノワール…!なんともないのかね…!?」
司祭「ほっほっほ…。これで信じる気になったか?」ピンピン
アントリア「(こんな…一瞬で…!)」
カロル「いたた…」スリスリ
アントリア「(これが癒しの力…)」
アントリア「クックッ!クッハハハハ!素晴らしいよ!ノワール!」
司祭「」ニヤリ
850:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:02:46 ID:UA2BXDBNOY
―――大聖堂(通路)―――
アントリア「確かめておきたいんだが…本当になんともないのかね?」ジロジロ
司祭「しつこいのう。見ての通りじゃ」スタスタ
アントリア「…我ながら素晴らしい手応えだったのだがね」
司祭「うむ。死ぬかと思ったわい。よくもあんな一撃をくれたものじゃ」
アントリア「生まれが貴族なものでね。多少は剣の教養も心得ているのだよ」
司祭「平民生まれのわしへの当て付けか?」
アントリア「とんでもない。平民には平民なりの教養がある。
その証拠に君は素晴らしい倹約術を備えているじゃないか?」
司祭「貴様という奴は……」
アントリア「クックッ…。腹を立てないでくれたまえ。
懐かしいのだ。旧友として…広い心で受け止めてくれ」クスクス
司祭「付き合ってられん…!」
アントリア「今日は良い日だ。再会と新たな船出を祝して乾杯しよう。ノワール。
豚の鳴き声、鎧の擦れる音色が取り囲むオーケストラは、きっとさもしい心を震わせてくれることだろう」
司祭「…わしに慎みを諭した男の言葉とは思えんな」
アントリア「今日という日の素晴らしさがそうさせるのだ。
諦めかけていた夢を取り戻せた今日という日がね」
司祭「信じておらなんだクセに…現金な奴じゃのう」
アントリア「大樹への道筋については僕に任せておきたまえ」
司祭「……可能なのか!?」
アントリア「クックッ…。とうに準備してあるとも。
年老いて諦めを知ったとはいえ、夢に備える幼心をも忘れた訳じゃない」
司祭「ほっほっほ!相変わらず…食えん奴め!」
851:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:05:51 ID:UA2BXDBNOY
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
カロル「…やっぱりホントなんだ」ドキドキ
カロル「(…もう分かるよ。二回目だもの。あれは…ボクの力なんだ)」
カロル「(この力で司祭のおじいさまの望みを叶えたら…今度は約束、守ってもらえるかな?)」
カロル「」グー
カロル「…おなかすいたなぁ」
ガチャッ
アリアス「……」
カロル「あっ……おばさま」
アリアス「おば…!?」ピクッ
カロル「」ハッ
アリアス「コホンッ!…先だっての件、司祭様を癒してくれて感謝するわ」
カロル「だ、大丈夫です…よ?」ヒクヒク
アリアス「是非ともお礼をさせてほしいの?
ささやかではあるけれど、あなたの為に食事を用意させたのよ?」ニコリ
カロル「え…?」
アリアス「ナラ!」
ナラ「は、はい」オズオズ
カロル「……?」
アリアス「彼女は私たちの下で教えを乞う修道女よ。あなたと同じくらいの歳かしら」
ナラ「」ペコリ
カロル「そう。よろしくね?」ニコッ
ナラ「」オロオロ
852:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:08:31 ID:NVVx.F.t9I
アリアス「この子、人見知りなの。慣れるまで、こんな調子だと思うけれど仲良くしてあげて?」ニコリ
カロル「……!」
アリアス「どうしたの?」キョトン
カロル「だって……」
アリアス「…今までツラく扱ってしまったから信じられないでしょうけれど、あなたには申し訳なく思ってる」
カロル「……」
アリアス「ほら、あなた達はホビットでしょう?
立場上、教団の人間は関わり方を知らなかったのよ」
ナラ「…」
アリアス「けれど分かったの。あなたは心から優しい子だと。
司祭様も先ほどはあのような態度をとってしまわれたけれど、あなた達への見方を変えようとおっしゃられていたわ?」
カロル「信じていいんですか…?」
アリアス「えぇ。神に誓って」
カロル「……」
853:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:10:25 ID:NVVx.F.t9I
アリアス「手の拘束も解いてあげるわ」シュルリ
カロル「…ありがとうございます」ペコリ
ナラ「」ビクッ
アリアス「…どういたしまして。さぁ、食事を頂いて?
私は戻らなければならないから、後はナラに任せるわ」
カロル「あ…待ってください!お母さまは…どうなるんですか?」
アリアス「…あなたと同じよ。自由になれる」
カロル「じゃあお母さまとマルクと帰っていいんですか?」パァァ
アリアス「…今は無理ね」
カロル「…どうして」
アリアス「王国って…知ってる?」
カロル「」ビクッ
アリアス「それなら話は早いわ。王国の人間があなた達の存在を嗅ぎ付けて狙っているの」
カロル「王国が…ボクたちを……」
アリアス「この大聖堂の中にも王国の人間が来ているの。
だから…そうね。あなた達が本当に自由になるには…まだしばらくかかるでしょうね」
カロル「お母さまに会えないの…?」
アリアス「…安心なさい。あなたの母親には宣教師が付いてあげてるから」
カロル「宣教師さまが!?」パァァ
アリアス「そうよ。心配はいらないでしょう?」
カロル「はい!」ニコニコ
アリアス「ふふ…。あなた達は教団が守る。安心してゆっくり過ごしなさい」ガチャッ
カロル「ありがとう!おばさま!」ニコニコ
アリアス「お、おば……!!」
カロル「」ハッ
ナラ「」ビクッ
アリアス「……!」バタンッ
854:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/1(日) 19:15:13 ID:UA2BXDBNOY
―――回想(アリアス)―――
アントリア「あのホビットの管理が粗雑なようだが、君らはどう考えている?」
司祭「…何がじゃ?」
アリアス「どう…と言われましても」
アントリア「手に入れた後の事は考えていないのだね。あきれるばかりだ」
司祭「な、なんじゃと…!」
アントリア「傷付けるばかりでは恐怖と反抗心が増すだけだ。
我々人間にも言える事だが、いざという時に最も力を発揮出来るのは心が落ち着いている時だとは思わんかね?」
司祭「ふむ…」
アントリア「それに…手懐けておいた方が言う通りにさせやすい。
彼を今の環境に置き続けて自ら命を絶たれでもすれば…それこそ終わりだよ」
司祭「む…確かに一理ある」
アリアス「神官には考えがあるのですか?」
アントリア「なにも複雑に考えなくていいのだよ。
飢えた野良犬には一切れの肉を与えれば…すんなり従うものさ」
司祭「ふむ……」
アリアス「……」
………………………
―――大聖堂(通路)―――
アリアス「哀れなホビット…。せいぜい束の間の幸せに溺れなさい」クスリ
アリアス「」スタスタ
855:🎄 名無しさん@読者の声:2013/9/2(月) 18:18:17 ID:EnRiGUqGu.
カロルは幸せになるよね?
母さまも皆幸せになるよね?
(´;ω;`)っCCCCC
856:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:09:59 ID:rNg5ExPvj.
―――大聖堂(広間)―――
大臣「これはこれはお二方!ようやくお戻りになられましたか!」
司祭「お待たせして申し訳ございませんな」
大臣「まったくですぞ!待つ間、手の中で揺れるグラスの波に溺れておりました!ワッハッハ!」
司祭「(陽も沈まぬ内から大酒を喰らうか…。とても王国の高官とは思えぬわい)」
アントリア「明日の夜には発つのですから控えられてはいかがか?」
大臣「まぁ座りなされ!堅苦しい事は抜きにしましょう!宴の席が濁りまするぞ!のう、娘さんや!」グイッ
宣教師「ち、近いです…!少し離れてください!」ググッ
司祭「では遠慮なく席に着かせてもらいますわい…。時に宣教師よ。なぜお前がおる…?」
大臣「いやなに、この通り手持ち無沙汰だったものでしてな。勝手ながら声をかけさせてもらいましたよ!」
宣教師「庭園の立食パーティーに参加しようと向かっていたら、お付きの方々に連れられたのです!」プンプン
司祭「くっ…!大臣、他のシスターや下仕えの女人を連れて参るので、その娘を下がらせていただけませぬか?」
大臣「滅相もない!司祭殿に面倒はかけられませんよ!この娘が相手をしてくれれば十分です!」
司祭「お、お気遣い召されるな。すぐに……」
宣教師「きゃっ!な、何をなさるんですか!?」
大臣「ワッハッハ!ちょんと撫でただけでウブな娘よ!気に入ったぞ!」
宣教師「…もう耐えられません!」ガタッ
兵士1「」ガシッ
宣教師「…何のまねですか!」グッ
大臣「席に着いてくれ。共に楽しもうぞ?」
宣教師「イヤです」
大臣「」クイッ
兵士1「大臣がお望みである!席に着け!」グイッ
宣教師「……!」ギリッ
アントリア「ああなったら手を付けられんよ。諦めることだ?」ボソボソ
司祭「(王国の豚め…!よくもわしの宣教師を…!!)」ワナワナ
857:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/9/2(月) 21:13:25 ID:LLuv63mkU2
大臣「ほれ、お嬢さんも飲みなさい?」つ【酒】
宣教師「結構です!」プイッ
大臣「ぐふ…ぐふふ。垢抜けておらず、男を知らぬ顔だ。
わたくしはね、お嬢さんのような女がなにより好物なのだよ?」サワサワ
宣教師「(汚らわしい…!村の大人たちにしてもダガにしても…男性とはかくもこのような欲にまみれているのでしょうか?)」プルプル
司祭「オホンッ!よろしいか?」
大臣「おぉおぉ!これはわたくしとした事がなんたる無礼を!」
司祭「…税の底上げを図っておられるそうですな?」
大臣「神官からお聞きなされたか!でしたら話も手短に済みましょう?」
司祭「これまでの割合に収まらぬので?」
大臣「お恥ずかしい!我が国も何かと入り用でしてな!」
アントリア「王国に仕える身としては…とてもそうは思えんがね?
貴族や王族の方々は変わらず財を持て余しておられる」
大臣「手厳しいですな!しかし国を治める苦労をご理解くだされ。
我々も骨身を削りながら民にとって住み良い日々を保っておるのです!」
司祭「むぅ…。しかし王都から離れた土地にある町や村々は、ほとんどが王国の支援もなく自分たちで生活を維持しておりますがの」
大臣「それも国あればこそ、ですな。我が王国の存在無くしては貧しい町や村同士で争いが生まれまするぞ!
治安の維持も国家たる務め!治めるものあらば、治められるものへの抑止力となりえるのです!」
アントリア「(酔っ払いにしては非常に呂律が回っている。よほど使い慣れた言い回しなのだろうな…)」ゴクゴク
大臣「ですから我々貴族や高官による、ある程度の使い回しなど許容の範囲と納めなされ!
平和な暮らしへの投資と、愛すべき国家への還元と考えれば何も惜しむ事はありますまい!?」
宣教師「(…様々な人達を見てきましたが、ここまで最低な人間は見たことがない)」
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