むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
729:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:18:55 ID:5qrvW4u.To
―――夢―――
「……おかあさま、おかあさま」ユサユサ
マリー「んぅ…どうしたの?坊や?」ウトウト
「おなか空いた…」グー
マリー「さっき食べたばかりでしょう?」
「…葉っぱと川の水だもん」
マリー「……」
「ねぇ。街に行こうよ?」
マリー「……!?」
「ボク知ってるんだ!近くに街があるって!
街に行ったらおいしい食べ物がいっぱい買えるよ?」
マリー「やめなさい。おじいさまが起きたらどうするの?」
「なんでダメなの?人間がいるから?」
マリー「そうよ。人間はあたし達をいじめるの。
街に入ったりすれば、とてもタダでは済まないわ?」
「そんな事ないよ!ねぇ、行ってみようよ!」
マリー「……」
祖父「駄目だ」
「…おじいさま」
730:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:20:29 ID:5qrvW4u.To
マリー「お父様…起きていたの?」
祖父「カロルや、いつも言っているだろう?
人間はおそろしくおぞましい種族だ」
「うん…」
祖父「近付くのはもちろん、見かけてもいけない。
私もおまえのお母さんも人間のために苦しんできたのだよ?」
「はい。ごめんなさい…」シュン
祖父「お腹が空いたのなら、これをお食べ」つ【木の実】
「木の実…?」
祖父「あぁ。坊やが腹を空かせてしまわないように残しておいたのだ」
「いいの?」
祖父「もちろんだとも。足しにならないかもしれないが、今はこれで我慢しておくれ?」
祖父「マリーは私たちを食べさせる為に朝から頑張っている。
とても疲れているのだ。少しでも休ませてあげなさい」
マリー「やめてよ、お父様…。子供に気を遣わせるような事は言わないで?」
祖父「…すまない」
「……グスッ」
マリー「」ビクッ
731:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:22:33 ID:PS6bUdj8sg
「ごめ……なさい」ポロポロ
マリー「坊や…?」
「えぐ…ボクが…ワガママ言ったから…」ポロポロ
マリー「坊や…。違うのよ?あなたは何も悪くないの」
祖父「そうだとも、カロルや。おまえが泣くことはないのだよ?
私たちが悪いのだ。まだ幼いおまえに苦労を強いているのだから…」
「ヒック…ひっ…うぅ……グスッ」ポロポロ
マリー「坊や、いい子だから泣かないで?
そうだ、何か探してくるわ?おいしくて、お腹がいっぱいになる物をたくさん!」
「ううん、いらない…。もう、お腹いっぱいだもん…」ポロポロ
マリー「無理しないの!探せばきっと果実が成っている木の一つや二つあるわ?」
祖父「おまえは疲れているだろう。わたしが…」
マリー「なに言ってるの!お父様は病を患ってるんだからおとなしくしていて!」
祖父「しかし…」
マリー「じゃあ行ってくるわね!」
「お母さま…!」
マリー「すぐに戻るからいい子にしてるのよ?」ニコッ
マリー「」タタタッ
祖父「マリー……」
祖父「(フィズスを亡くして、おまえも辛いだろうに…)」
732:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:24:46 ID:5qrvW4u.To
「おじいさま…。ごめんなさい」
祖父「謝るのは私の方だ」ナデナデ
「……」
祖父「ひもじいのだろう?いつもお腹を空かせてしまって…」
祖父「そのうえ私は体が弱いから、生きるのが精一杯でおまえと遊んでもやれない…」
「へいきだよ?おじいさまとお母さまがいて、いつも一緒だから。それだけでいいんだ!」
祖父「そうか…。おまえは良い子だね?」ナデナデ
「えへへ」テレテレ
祖父「(私がいなければ…この子の食べる分も増えるだろう)」
祖父「(マリーの負担も減って、ほんの少しだが楽になるはずだ)」
祖父「(やはり私はいるべきではない…。二人の為にも……)」
祖父「カロルや」ポンポン
「なぁに?おじいさま?」キョトン
祖父「…今夜は私と一緒に寝ようか?」
「…どうしたの?」
祖父「ん?なにがだね?」
「おじいさま。いつも一人で寝たがるから」
祖父「はは…いつもおまえのお母さんに一人占めされてるからな?
それともカロルは私と一緒では嫌かな?」
「ううん!いいよ!一緒に寝よう?」ニコッ
祖父「ははは…おまえは本当に優しい子だね」ニコッ
「えぇ!なんで?」
祖父「気にしないでおくれ。じゃあ寝ようか」
「うん!」ポフッ
733:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:26:44 ID:PS6bUdj8sg
「おじいさまの体、あったかい…」
祖父「そうか?」
「うん」
祖父「…カロルや」
「なぁに?」
祖父「…お母さんが好きかい?」
「大好き!」
祖父「そうか、そうか」ニコニコ
「おじいさまも大好きだよ!」
祖父「……!」
「おじいさま?」
祖父「…幸せだ。こんなにも幸福なことはない」ポロポロ
「泣いてるの…?ボク、いけない事しちゃった?」オロオロ
祖父「違うのだよ、カロル。嬉しいのだ。
抱えきれない程に幸せが溢れて…どうしてもこぼれてしまうのだよ」ポロポロ
祖父「私は幸福者だ…。だからこそ忍びない…。
私はおまえ達を…幸せにしてはやれないのだ…」ポロポロ
「おじいさま?」
祖父「…いや、なんでもないよ。もう寝よう」
「うん…」ウトウト
734:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:28:52 ID:5qrvW4u.To
〜〜〜〜〜〜
「」スヤスヤ
祖父「カロルや。もう寝たのかい?」
「」スヤスヤ
祖父「」スクッ
祖父「許しておくれ。二人とも…こうでもしなければ、優しいおまえ達のことだ。
別れを許してはくれないだろう」
祖父「」スタスタ
祖父「」ピタッ
祖父「っ…!いざとなると、こんなにも辛く険しいのか…。
この足を暫し前へ進めれば、自然と別れはいざなってくれるというのに…」
祖父「(二人と別れれば私に生きる術はない…。この別れは永遠となるだろう)」
祖父「(こんな命など惜しくはない。むしろ消えいくサダメなら楽に思えるほどだ)」
「」スヤスヤ
祖父「だが…愛する孫の寝顔を見て別れを選ぶなど……」
祖父「あまりに残酷で…あまりに救いが無さすぎる……」
祖父「(…カロル。マリー。私はやはり……)」
祖父「」ググッ
祖父「ゴホッゴホッ」
「んぅ…」モゾモゾ
祖父「」ビクッ
「……うぅん」スヤスヤ
祖父「…駄目だな、この子の幸せには変えられん」
祖父「せめて強く生きておくれ…。それが唯一の願いだ」
祖父「(往生際の悪いことだ…。遺書を置いて消えよう)」スッ
「おじい…さま…」スヤスヤ
〜〜〜〜〜〜
735:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:30:36 ID:PS6bUdj8sg
マリー「うふふ!果物は採れなかったけど、坊やの大好きなハニービーの蜜が採れたわ!」ルンルン
マリー「…あら?」
「」スヤスヤ
マリー「寝ちゃったのね…」クスクス
マリー「お父様はどうしたのかしら?」キョロキョロ
マリー「ん?なにかしら、この紙は?」カサッ
マリー「」ペラッ
マリー「……!」
マリー「お父様!?」バッ
マリー「お父様…!」タタタッ
736:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:31:43 ID:5qrvW4u.To
「ふあぁ…」ノビッ
マリー「…おはよう。坊や!」
「おはよう…」グシグシ
マリー「あらあら…目を擦らないの。傷付いてしまうわよ?」
「はーい…」
マリー「ねぇ、坊や!これ、なーんだ?」
「……?」
マリー「うふふ!ハニービーの蜜よ?」
「ホント!?」パチクリ
マリー「舐めてごらんなさい?取れたてだから、とっても甘いわよ?」つ【蜜袋】
「ペロッ…あまーい!」パァァ
マリー「……」ニコニコ
「お母さまも!」つ【蜜袋】
マリー「あたしはいいの。さっき取ったばかりの蜜を舐めたから!」ニコッ
「そうなの?」
マリー「あーおいしかった!取れたてほやほやのあまーい蜜!」キャピキャピ
「ムッ…なんかズルいや?」
マリー「坊やはそれで我慢なさい?ほーっほっほ!」
「…いいもん!」プンプン
マリー「ふふ…」ニコニコ
737:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/7(日) 12:36:05 ID:5qrvW4u.To
「あれ…おじいさまは?」
マリー「……」
「どこに行ったの?」
マリー「…おじいさまは出かけたわ。用事があるからって」
「用事って?」
マリー「さぁ?あたしも知らないけど、先に行ってていいそうよ?」
「え?またどこかに行くの?」
マリー「えぇ…同じ場所に留まり続けると人間に見つかる恐れがあるもの」
「そう…そうだね…」
マリー「さ、ゆっくり食べなさい。食べ終わったら行くわよ?」
「おじいさま…ひとりぼっちになっちゃう。やっぱり待とうよ?」
マリー「……」
「ね?いいでしょ?」
マリー「そうね…。少しだけ待ちましょうか」
マリー「それでも来なかったら、行きましょう…」
「うん!」
マリー「……」
……………………
738:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 19:56:31 ID:PQJ03F4Riw
―――大聖堂(応接間の隠し部屋)―――
カロル「」パチッ
カロル「いっ…!」ギシッ
カロル「腕が縛られ…てる?」
カロル「そっか…。ボク…捕まっちゃったんだっけ」
カロル「」ハッ
カロル「お母さま?お母さまは!?」キョロキョロ
コンコン コンコン
カロル「…?」
???「起きているか?」
カロル「…だれ?」
???「私だ」
カロル「神父のおじさま…?」
神父「うむ。寝覚めはどうだ?」
カロル「……」
神父「ククク…扉越しからでも分かるぞ?
その様子では望みは聞き入れられなかったようだな?」
カロル「うん…」
神父「ははは!当然の結果だな!」
カロル「っ…!」
神父「ホビットの分際で欲を掻くからこういうことになるのだ!」
カロル「なんで…」
神父「む?」
739:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 20:01:27 ID:Iq/2yn3AyA
カロル「なんでダメなの?」
カロル「ボク達が欲しがったらいけないの?」
神父「……」
カロル「ずっと…我慢してきたんだよ?」
カロル「いっぱい頑張ったんだ…」
カロル「自分たちのお家があって、おいしいご飯があって、お日さまが昇ったら心を通わせる友達とたくさん遊んで…」
カロル「お日さまが沈んだら柔らかいベッドであったかい毛布にくるまってぐっすり眠って…」
カロル「起きたらお母さまがいて、優しく笑ってるんだ」
カロル「少しずつだけど…夢が叶ってたのに…」
神父「くだらん願いだ」
カロル「なんでボク達が幸せじゃいけないの…!」
カロル「人間と…友達になったっていいじゃない!」
神父「それが許されるには清らかでなくてはならない。
お前達のように罪深く、浅ましく、薄汚れた種族には許されんのだ」
カロル「ボクらと人間の何が違うっていうのさ…!」
神父「なっ…!ふざけるなよ、貴様ぁぁ!」
カロル「」ビクッ
740:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 20:06:50 ID:PQJ03F4Riw
神父「太古よりお前達は癒しの力を奪った種族として忌み蔑まれる存在だ!
人を襲い、食物を盗み、王国の怒りを招いて人を破滅に追いやるホビットがどれだけいると思っているのだぁ!!」
カロル「……!?」
神父「己の罪も自覚せずに図々しい事ばかりぬかしおって!恥を知れ!」
カロル「」プルプル
神父「なんとか言ってみたらどうだ!?」
カロル「もういいよ!!」
神父「なにぃっ!?」
カロル「どっか行ってよ!ボク、おじさまと話したくない!」
神父「何を貴様ぁ!ここは我々の敷地内だぞ!?」
カロル「おじさまだってボクとなんか話したくないんでしょ!?」
神父「当然だ!」エッヘン
カロル「なら放っておいてよ!」
神父「い、言われなくともそうするに決まっとろうが!」
カロル「…じゃあそうすれば!?」
神父「ぐぬぬ…!」ギリッ
神父「ふん!」クルッ スタスタ
カロル「…なんなのさ」シュン
741:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 20:13:30 ID:Iq/2yn3AyA
――――――
カロル「…これからどうなるんだろう」
カロル「閉じ込められたままなのかな…」
コンコン コンコン
カロル「……?」
神父「おい!」ドンッ
カロル「わっ!」ビックリ
神父「…聞こえてるなら返事せんか!」
カロル「…な、なに?」
神父「…貴様、なにか頼みたい事はないのか?」
カロル「…へ?」
神父「頼み事はないのかと言っとるんだ!」
カロル「ど、どうしたの?」
神父「うるさい!いいから言え!」
カロル「…何がしたいの?」
神父「な、なに?」
カロル「また騙そうとしてるんじゃ…」ジト
神父「な、なんだと、貴様ぁ!?」
カロル「だって…変だもん」ムスッ
神父「うるさい!あるのかないのか!」
カロル「…もしかして暇なの?」
神父「なっ…なっ…にゃにをぅっ!?
人が下手に出てやればいい気になりおってぇ!!」
カロル「…違うの?」キョトン
742:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 20:47:08 ID:Iq/2yn3AyA
神父「目を癒してもらった礼に頼みの一つも聞いてやろうと言うに!邪推しおってぇ!!」
カロル「えっ」
神父「そこまで疑うなら知らん!いつまでも孤独に震えていればいい!」
カロル「お、おじさま!」
神父「」クルッ スタスタ
カロル「待って!」
カロル「おじさま…」
カロル「…行っちゃったの?」ウルッ
カロル「」ウルウル
カロル「うぇぇん…」ポロポロ
神父「やかましい!泣くな!」
カロル「……」
神父「最初からどこにも行っとらんわ!」
カロル「グスッ……!」
カロル「ごめんなさい…」
神父「ふん!」
カロル「でも…さっきまでひどい事言ってたから」
神父「む?うぅん…うぉっほん!」
カロル「……?」
神父「つ、罪深き種族に借りなど作りたくないからな!それだけだ!」
カロル「…そうなんだ?」ニコッ
743:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 20:49:20 ID:PQJ03F4Riw
神父「あぁ。そうだ!分かったらさっさと言え!
ただし無茶な頼みは聞かんからな!?」
カロル「…ホントにいいの?あのおじいさまに怒られるんじゃ…」
神父「うっ…!そ、それはお前が司祭様の前で口を滑らせなければいい話だ!」
カロル「そっか、そうだね!」
神父「さぁ言え!私の気が変わらん内にな!」
カロル「…宣教師さまに渡してほしい物があるんだ?」
神父「渡してほしい物だと?」
カロル「うん。宣教師さまにあげようと思って絵を描いてきたの!」
神父「…なんと幼稚な」
カロル「ダメ?」
神父「ダメだとは言わんが…そんなことでいいのか?」
カロル「うん!」
神父「てっきり母親と自分を牢屋から出せだのと無茶を言うかと思っていたが…」
カロル「ホントはそうしたいけど、そんなこと言ったらおじさま怒るもの」
神父「まぁな…」
744:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 20:51:06 ID:Iq/2yn3AyA
カロル「だからいいんだ。やり残したのって言ったら、これくらいだから」
神父「ふむ…。ちなみにだが、お前が司祭様に願おうとしていた望みとはなんだったんだ?」
カロル「なんで?」キョトン
神父「なんとなく気になっただけだ。黙って答えろ!」
カロル「あ、うん…えと…」
神父「……」
カロル「……」
神父「……」
カロル「……」
神父「…どうした?」
カロル「黙りながら答えようって思ったんだけど、分かんなくて」
神父「普通に答えればいいだろうが!?」
カロル「え?だって黙って答えろって…?」
神父「だからと言って黙る奴があるか!?」
カロル「ご、ごめんなさい」アセアセ
神父「まったく…面倒な奴だな」
745:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 20:58:06 ID:PQJ03F4Riw
カロル「ボクね。宣教師さまを許してってお願いしたかったんだ?」
神父「あぁ。それは前にも聞いたが…」
カロル「それからお母さまとマルクと3人で一緒に帰るんだ!」
神父「ふむふむ」
カロル「あと見張りのお兄さんにおやすみをあげてってお願いしようと思ってたの」
神父「む?なぜだ?」
カロル「お母さんのお見舞いに行きたいんだけど、おやすみが貰えないから行けなくて困ってるって聞いたんだ」
神父「それは確かに不憫だがお前が気にする事でもあるまい?」
カロル「えー。そうかな?」
神父「それはそうだろう?」
カロル「うーん…でも困ってるって聞いたよ?」
神父「そんなものは本人の問題だ。そっとしてやるのが普通だろう」
カロル「でも自分でなんとかできなかったらどうするの?」
神父「知らんわ!こちらには関係なかろう!」
カロル「それならどうしておじさまはボクの頼みを聞いてくれるの?」
神父「はぁ?」
カロル「それっておじさまが優しい人間だからだと思うんだ。
だから関係ないボクを放っておけないんじゃないかな?」ニコッ
神父「なっ…!な、な、なな…!」カァァ
746:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 21:08:18 ID:PQJ03F4Riw
神父「オホンッ…で、それが望みだったのか?」
カロル「ううん、他にもあったよ?」
神父「ずいぶん多いな…」
カロル「パッチくんを探してほしくて…」
神父「…逃げた子供か」
カロル「うん。どこに行っちゃったんだろ…」シュン
神父「……」
カロル「ちゃんと生きてる筈だよ?でも帰ってこないから…」
神父「…そうか」
カロル「うん…」
カロル「あとね。村にお医者さまを呼べたらいいなって…」
神父「……!」
カロル「みんな苦しそうで…無事な人間たちも悲しそうだったから」
神父「(こ、この小僧…)」
747:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 21:15:00 ID:Iq/2yn3AyA
―――回想(神父)―――
司祭「ほう…。そのような事になっておったか」
神父「はっ…。あのままでは村は崩壊の危機に瀕するかと思われます!」
司祭「何を言うとる?既に崩壊しとろうが?」
神父「は?いや、しかし…徐々に修正していけば元通りとはいかずとも息を吹き返せるのでは…」
司祭「ほほほ。それもまた一つの道じゃろうな?」
神父「は…?と、言われますと?」
司祭「まずは王国に報告して出方を見るとしよう」
神父「そ、そんなことを知らせれば…!」
司祭「まぁ…どう転ぼうと主が定められた道じゃよ」
神父「だ、黙っているという訳にはいかないのですか?」
司祭「黙ってなんとする?」
神父「は…?」
司祭「黙っていたとして万が一、王国に知られたらどうする?」
神父「そ、それは…」
司祭「そうなれば責めを負うのは我々じゃ。
謂れの無い罪を問われるのであれば何もかも話してしまった方がよい」
神父「……」
748:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/7/10(水) 21:16:09 ID:PQJ03F4Riw
司祭「そう気を落とすでない。
お前にも、いずれまた別の布教地を任せてやろう。なにも急ぐ必要はない」
神父「い、いえ、そういう訳では…」
司祭「そんなことよりも、そのホビットが癒しの力を使ったというのは確かか?」
神父「そ、そんなこと…ですと…!?」
司祭「なんじゃ?」
神父「はっ…い、いえ…」
司祭「ふむ。それでホビットは癒しの力を使ったのか?」
神父「は、はい……」
司祭「ほっほっほ!そうか…それは実に許しがたい…!」ニヤリ
神父「……」
……………………
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