むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
71:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:36:24 ID:FGq0e0WmdU
宣教師「(やはり私は愚かだった…。
たった一度でもホビットに気を許すなど、神の冒涜にほかならない…!)」
司祭「あぁそうじゃ。
お前には言っておかなければならんな」
宣教師「と言いますと?」
司祭「実は我が教団から『神の声』という本を出すのじゃがいるか?」
宣教師「も、もちろんです!
今後、布教の参考にする為にもぜひ!」
司祭「そうか。代金は後で本部に送るがよい」つ【本】
宣教師「えっ」キョトン
72:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:37:57 ID:L42.WERUbA
司祭「なんじゃ。変な顔しおってからに?」
宣教師「お金を…取るのですか?」
司祭「当たり前じゃろうが。何を訳の分からん事をほざいとるんじゃ?」
宣教師「い、いえ…てっきり頂けるものかとばかり」
司祭「贅沢を言うでないわ。
信者やその家族も身銭を切って教本を求めているのじゃ。
わしらがタダで読んでは平等でなかろう」
宣教師「ふ、普通教本などは無料で配布するものでは…」
司祭「やっかましいぃぃぃい!!」
宣教師「ひっ」ビクッ
司祭「この一冊で神の声に触れられると言うに!!
金を惜しむなどもっての他じゃ!!
貴様、恥を知れぇぇえ!!」
宣教師「は、はいぃぃ!申し訳ございません!!」フカブカ
司祭「はぁっ…はぁっ…。
分かればよいのじゃ…」ゼーゼー
宣教師「(今日の司祭様怖いです…)」ドキドキ
73:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:39:24 ID:L42.WERUbA
宣教師「うぅ…村の方々からの施しが…」グスッ
司祭「ほっほっほ。有意義に使えたのう」ホクホク
宣教師「ま、まぁ神の教えを深く知る意味では……ん?」マジマジ
司祭「どうしたんじゃ?」
宣教師「著者は司祭様となっておりますが…?」
司祭「その通りじゃが?」
宣教師「し、しかし題名は神の声と…」
司祭「わしが神の声に耳を寄せ、書き上げたのじゃから当然じゃ」
宣教師「な、なるほど…」
司祭「さっきから何を訳の分からん事を言うとるんじゃ?」
宣教師「……」
74:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/26(水) 22:42:34 ID:FGq0e0WmdU
司祭「そろそろ村の外に出るのう。ここまででよいぞ」
宣教師「お、お待ちください!」
司祭「なんじゃ?」
宣教師「村長からお聞きなされたとは思いますが…」
司祭「…ホビットが入り込んだそうじゃな」
宣教師「やはりご存知でしたか」
司祭「うむ、なんでも子供だったと聞くがのう」
宣教師「はい…」
司祭「おおかた何も知らぬ哀れな幼子じゃろう。
昨日の件もある。二度とこの村には来るまい」
宣教師「だと良いのですが…」
司祭「幼子と言えど罪深き種族。
時を追う毎に罰が下る。
己の罪深さを理解するまで捨て置く事じゃ」
宣教師「司祭様がそう言われるのでしたら私からもこれ以上の事は…」
司祭「それが良かろう。
奴らに関われば天の怒りを招く。
お前もそれは重々承知している筈じゃ」
宣教師「はい…」
司祭「うむ。ではわしは帰るでな。
この村の管轄は任せたぞい」
宣教師「はい。司祭様もお気を付けて」ペコリ
司祭「」スタスタ
宣教師「…私も教会に戻るとしましょうか」スタスタ
75:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:09:15 ID:BXUEK2.5u2
少年「ふんふふ〜ん」ルンルン
母「坊や、一人で先に行ってはだめよ?」
少年「お母さま、はやくはやく!」
母「まぁ。この子ったら?」
少年「村が見えたよ!」タタタッ
母「あ、ちょっと待って!」
少年「?」クルリッ
母「そのまま入ったら人間に見つかるでしょ?」
少年「あっそうだね…。
でもどうするの?
昨日は頭巾を被ってたのにバレちゃったんだよ?」
76:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:10:28 ID:BXUEK2.5u2
母「坊や。私たちと人間の違うところは何かしら?」
少年「瞳の色と…体の大きさ、かな?」
母「それから肌の色も、よ。
私たちは瞳が黄色くて、肌がとても白いわ。
それに体も人間と比べて小さい」
少年「うん…」
母「肌の色と小さな体はまだいいけれど、瞳の色を見られればどうしてもホビットだと分かってしまうわ。
だから……」
少年「目を隠すんだね?」
母「そうよ、賢いわね!」ニコッ
少年「えへへ!…あ、でもメガネなんて持ってないよ?」
母「安心なさい、お母さんが良い物持ってきたから」ニコニコ
少年「えっそうなの?」キョトン
母「こっちにおいで坊や。支度してあげるわ?」
少年「うん!」
77:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:11:47 ID:4a/V8q7lfc
母「うん、完璧ね!」
少年「………」ムスッ
母「あら、どうしたの坊や?ふてくされたりして」
少年「…なんでこうなるのさ?」ジト
母「まぁ。かわいらしくていいじゃない?」
少年「やだよ。女の子のカッコなんて!」
母「しょうがないでしょ?
色メガネで隠すより前髪で目を隠してしまった方が自然だもの」
少年「だからって……」
母「それに女の子のカツラを被っただけじゃない?
服はいつもと変わらないから大丈夫よ」
少年「……うん」
母「安心して?とってもかわいいから!」ニコッ
少年「そういう問題なのかな…?」
78:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:12:53 ID:BXUEK2.5u2
母「それに昨日、人間に見つかったんでしょ?
外から来た男の子ってだけで怪しまれるわよ?」
少年「あ、そっか…。
お母さまも前髪で隠すの?」
母「あたしは色メガネで隠すから大丈夫よ?」ニコッ
少年「っ……!ずるい!」プンスカ
母「うふふ。さあ行くわよ?」スタスタ
少年「むー…」ムスッ
79:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:14:22 ID:4a/V8q7lfc
――村――
母「……いい?自然に振る舞うのよ?」
少年「う、うん」
村の大人1「おっなんだ、あんたたち。
見かけない顔だがよその人かい?」
母「えぇ。娘と旅をしていますの」
少年「」ドキドキ
村の大人1「へーそうなのかい。
今どきは珍しくもないが、昔は故郷を離れるなんて考えられなかったからなぁ…。
女手一つでお嬢ちゃんを連れての旅だ、くたびれちまうだろう?」
母「えぇ、まぁ。…実は主人を亡くしまして、故郷を追われてしまいましたの」
村の大人1「……そいつは大変だな。
あんたも苦労してるんだろう。
この村にいる間は体も心も休めるといいよ。
ここはのどかな村だから悪い奴なんて一人もいないぜ?」
母「ありがとうございます。
お言葉に甘えさせていただきますわ」ペコリ
村の大人1「へへっ!頭なんか下げないでくれよ。
お嬢ちゃん。お母さんの言う事をよく聞いていい子にしてるんだよ?」ナデナデ
少年「」ビクッ
80:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:16:48 ID:BXUEK2.5u2
村の大人1「? どうしたんだい?」
母「あら、ごめんなさい。この子人見知りでして」
村の大人1「あぁ、そうか。
その歳で旅なんかしてちゃ友達もできないもんな?
大丈夫、村の子供らもお嬢ちゃんくらいの歳の子ばかりだから、
いっぱい遊んでいくといいよ」ニコニコ
少年「は、はい」ドキドキ
村の大人1「ほら、キャンディをあげよう。
これを出して話しかければ子供たちともすぐ仲良くなれるさ」つ【袋】
母「まぁ。そんな…」
村の大人1「いいんですよ。
俺が好きでやってるんだから」ニコニコ
母「ありがとうございます…。
ほら、あなたもお礼を言わないと?」
少年「ありがとう…ございます…」ペコリ
村の大人1「じゃあ俺は店があるから戻るが、困った事があったら遠慮なく村人たちに聞いてみな。
みんな嫌な顔一つせず助けてくれるからさ」
母「何から何まですみません」
村の大人1「いいってことよ!」スタスタ
少年「……」
81:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:19:11 ID:4a/V8q7lfc
少年「おじさん、優しかった…」
母「えぇ、そうね。すっかり女の子だと思われてたわよ?」ニコニコ
少年「もう!からかわないでよ!」
母「うふふ。ごめんなさい」クスッ
少年「……ねぇ」
母「ん?なぁに?」
少年「ボクね、お母さまに内緒だったけど
昨日あのおじさんにぶたれたんだ」
母「……そう」
82:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:20:16 ID:4a/V8q7lfc
少年「昨日はね、ボクが市場でお菓子を見てただけで怖い顔してた」
母「……」
少年「頭巾で隠してたから大丈夫かなって思ったけど、取ってみろって言われて嫌がったら捕まえられて」
少年「たくさんぶたれて、たくさん蹴られた」
少年「謝っても許してくれなかった」
少年「みんな冷たい目をしてたよ」
少年「助けてくれようとした人もボクがホビットってわかったら一緒になってぶったんだ」
少年「すごく怖かった」
母「……」
83:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:21:12 ID:4a/V8q7lfc
少年「でも、今日のおじさん、すごく優しくて…びっくりしちゃった」
母「そうね、とても大事な事よ?」
少年「うん…」
母「そこで見るものだけが真実ではないの。
心は色んな表情をするのよ?」
少年「……そうなの?」
母「心はね、たくさんの感情を持っているの。
喜び、悲しみ、愛、憎しみ」
母「喜びと悲しみの感情は自分だけのもの。
愛や憎しみは誰かに向けられるもの」
母「人間は同じ人間を愛し、獣に草木に空に海、空想的なものだって愛せる。
素晴らしいことよ、でもね」
母「ひとたび憎しみを受け入れてしまえば、心は呑まれてしまうの」
母「喜びも、悲しみも、愛も、ぜんぶ…」
母「そして憎しみは、あたしたちに向けられている」
母「何百…いえ、何千年も前から」
84:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:22:55 ID:BXUEK2.5u2
少年「……どうして?
ボクもお母さまも、悪いことしてないよ?」
母「決まってることなの。
いえ、決められてしまったという方が正しいわ」
少年「……わからないよ」
母「……ごめんなさい。あなたは知らなくていいことなのよ。
ただ忘れないでね、一面だけを見てすべてだと思ってはいけないの」
母「一つの場面での出来事にとらわれてしまうと、あたしたちは憎しみに呑まれるしかなくなってしまう」
少年「うん…」
母「あなたもいずれ分かるわ。
人間とお友達になるつもりならね」
少年「人間とお友達だと、いけないの?」
母「そうじゃないの。あなたにお友達ができたらあたしは嬉しいわ。
でも難しいの、ホビットと人間は…言葉にはできないほどに」
少年「……」
85:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:28:35 ID:BXUEK2.5u2
母「ねぇ坊や。二つ約束して。大事な約束よ?」
少年「うん…」
母「もし悲しくて、やりきれなくなってしまったら終わりにしてほしいの」
少年「人間と友達になるのを…?」
母「そうよ、その時は二人で静かに暮らしましょ?
あなたが憎しみにとらわれてしまわないように…ささやかな幸せを分け合うの」
少年「わかった…」シュン
母「それじゃもう一つの約束ね?
今から会うあなたのお友達が、あなたにとって信じられる人間だったなら…」
少年「……」
母「どんな事があっても信じてあげなさい?
その出会いを大切に、お互いにとってかけがえのない繋がりだと思って、ね?
約束できる?」
少年「…うん!!」パァァ
少年「約束、するよ!」
86:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/28(金) 11:30:43 ID:4a/V8q7lfc
母「じゃあ約束の指切りをしましょ?」スッ
少年「うん!」ピトッ
母&少年「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます!指切った!」
母「約束破ったら本当に飲ませるわよ?」ニヤリ
少年「えっ」
母「冗談に決まってるじゃない?」クスクス
少年「……!」カァァ
少年「や、破らないもん!」
87:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:36:58 ID:wJajIDVNMY
母「さ、行きましょ?」
少年「うん、ボク場所覚えてるから案内するね!」
母「えぇ。お願い」
子供3「おーい、待ってよー!」
少年「ん?」
子供2「へっへーんだ!くやしかったらここまでおいでー!」タタタッ
子供3「くっそー!」タタタッ
母「村の子供たちが遊んでいるのね。あなたも入れてもらったら?」
少年「……ボクはいいよ」
母「あの子たちも喜ぶわよ?」
少年「そうかな…」
母「そうよ!ほら、いってらっしゃい。
お母さんはここで待ってるから」
少年「う、うん。いってくる!」タタタッ
母「」ニコニコ
88:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:38:15 ID:wJajIDVNMY
少年「ねぇ!ボクも仲間に入れて!」
子供2「えぇー!どうする?」
子供3「ボクはいいよ?」
子供2「じゃあお前も入れてやるよ!」
少年「うん、ありがとう!」
子供3「でもなんで女の子なのに"ボク"なの?」
子供2「あっほんとだ!ヘンだぞー!」
少年「なっ…!ボクは女の子じゃ…」
子供2&3「えっ」
少年「」ハッ
89:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:39:50 ID:wJajIDVNMY
子供2「女じゃねーのか?」
少年「う、ううん…女…だよ…」モジモジ
子供2「やっぱり女じゃんか!」
子供3「まぁまぁ」
少年「ごめん…」シュン
子供2「まぁいいや、何して遊ぶ?」
子供3「おいかけっこは飽きたし、かくれんぼでもする?」
子供2「いいな!やろうぜ!」
子供3「キミもかくれんぼでいい?」
少年「うん、いいよ!」ニコニコ
子供2「じゃあお前オニなー!」
少年「うん、わかった!」ニコニコ
子供3「いや、じゃんけんしようよ!?」
90:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2012/12/29(土) 10:41:09 ID:wJajIDVNMY
少年「え?」
子供3「だってそうしないと不公平じゃない」
子供2「ちぇっ!わかったよ!」
少年「ねぇ」
子供2「ん?なんだよ?」
少年「じゃんけんって何?」
子供2「えっ」
子供3「えっ」
少年「えっ」
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