むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
689:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:29:10 ID:x1LN.Icy8M
司祭「宣教師よ。お前はわしにこう言ったな?」
司祭「人々に差別を促しているのはこのわしで、伝承も史実も歪められた教えじゃと」
宣教師「はい…」
司祭「そう思うに至った理由はなんじゃ?」
宣教師「それは…」
司祭「村の人間から袋叩きに遇い、傷付いた幼いホビットを哀れに思ったのが始まり…そうじゃな?」
宣教師「」ドキッ
司祭「優しいお前の事じゃ。連れ帰って手当てでも施したのじゃろう?」
宣教師「……」
司祭「なんらかの形でホビットはお前に近寄り、お前もまた受け入れた…」
宣教師「…はい」
司祭「…短いふれあいの中で情が芽生えたか?」
司祭「一人貧しく暮らし、村の布教を行う孤独には穏やかな笑顔がまばゆく写ったか?」
司祭「そこに懐かしい家族の面影を重ねたかったのか?」
司祭「或いは…居心地の良さに憩いが生まれたか?」
宣教師「……!」
司祭「それが手とも知らずに…だから愚かだと言うんじゃ」
宣教師「え…?」
690:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:31:28 ID:I7KxdXpwyw
司祭「情を寄せたお前は疑いなく奴らの言葉を聞き入れたのであろう」
司祭「おそらく不幸な生い立ちを囁き、お前に罪の意識を絡み付け…」
司祭「ホビットに癒しの力など無い…。と言い放たれたのじゃな?」
宣教師「なぜ…!?」
司祭「分からぬか?そういう生き物なんじゃよ」
宣教師「そんな…彼らは違います!」
司祭「癒しの力など存在しないじゃと?」
司祭「それもそうじゃろう。使わずに黙っておればいい話じゃ」
宣教師「(そういえば以前に…村人から受けた傷を短時間で治していたような…)」
宣教師「……!」ブルブル
司祭「うまい所を突いたものじゃ。確かに癒しの力など無いと考えれば全てが裏返る」
司祭「そして奴らは人間の前で癒しの力を見せようとせん」
司祭「そうなれば力を目の当たりにした事のないお前が騙されるのは仕方のないことじゃ」
宣教師「違います…。あの親子は…私を信じて…」ブルブル
司祭「安心せい。奴らの化けの皮を剥がして目を覚まさせてやろう」
宣教師「……」ブルブル
691:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:33:08 ID:I7KxdXpwyw
カロル「んーっ!」ジタバタ
母「」モガモガ
神父「……」
ガチャッ
神父「司祭様…!」
司祭「幼子の拘束を解いてやれ」
神父「よろしいのですか!?」
司祭「構わん」
神父「はっ!」シュルリ
カロル「はぁっ…はぁっ…」
母「」モガモガ
カロル「お母さま…!」
司祭「よく見ておけ」
宣教師「……」
692:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:35:06 ID:I7KxdXpwyw
司祭「幼きホビットよ」
カロル「へ…?ボク…ですか?」
司祭「うむ。お前さんにある事を願いたい」
カロル「…はい」
司祭「もしお前さんが願いを聞き入れ、叶えてくれたならば、こちらもお前さんの望みを叶えよう」
カロル「のぞみ…?」
司祭「そう。望みじゃ」
カロル「……」
司祭「さぁ、ありのままに望みを言うがいい」
カロル「それは…一つじゃないとダメですか?」
司祭「む?な、なるほど…二つという事か?」
カロル「ホントに叶えてくれるなら、お願いしたい事がいっぱいあるんです」
神父「貴様!どさくさ紛れに欲をかきおって!」
司祭「よいよい。いくらでも言うがいい。一つで満たされぬのは子のサガじゃ」
カロル「ありがとうございます」ペコリ
宣教師「(今まで多くを望まなかった彼が…)」
宣教師「(まさかこの機会を利用する気で…!)」
693:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:38:45 ID:I7KxdXpwyw
司祭「ではまずはこちらの望みじゃ」
カロル「はい」
司祭「…神父の傷付いた目を治してほしいのじゃよ」
神父「は!?」
カロル「おじさまの目を…?」
司祭「お前さんは気付いておらんが、その手には不思議な力が宿っている」
カロル「手…?」キョトン
司祭「神父よ。彼の目線まで屈んでやれ」
神父「はっ!」シャガミ
司祭「試しに傷に触れてみるんじゃ」
カロル「……」
司祭「さぁ!」
カロル「」ドキドキ
宣教師「」ドキドキ
カロル「」スッ ピトッ
神父「……」
司祭「どうじゃ?」
神父「なにぶん医務室で手当てを受けたもので…痛みは無いのですが…」
司祭「ふむ…布を取って傷を晒してみよ」
神父「え…いや…しかし、外してはならないと医術師から…」
司祭「」ギロッ
神父「は、はい!外します!」シュルリ
宣教師「っ…!」
カロル「」ビクッ
司祭「なるほどな。痛ましいものじゃ…」
694:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:41:10 ID:x1LN.Icy8M
司祭「今度は直に触れてみよ」
カロル「はい…」ピトッ
神父「……」
カロル「痛くないですか…?」
神父「う、うむ…」
―――数分後―――
司祭「変わりなしか」
神父「申し訳ございません…」
カロル「ごめんなさい…」
宣教師「やはり癒しの力は無いのでは?」
神父「小僧!わざとやってるんじゃないだろうな!?」
カロル「ち、ちがう!ボク、力なんて知らないもの!」
母「」モガモガ
カロル「お母さま…」
宣教師「彼のお母様の拘束を解いてあげてください」
司祭「ならぬ。力を隠す腹積もりであれば母親はそのままじゃ」
カロル「へ?」
司祭「素直に力を示せばよい。そうすれば母親は無傷で返そう」
宣教師「待ってください。お母様を人質に取ると言うのですか?」
司祭「穏便に済ませたかったが、こうでもせねば、いつまでも力を隠し続けるじゃろうて」
宣教師「卑劣極まりない。このような仕打ちを神が赦されると思いますか!」
司祭「…ならばこうしようではないか」
695:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:43:41 ID:x1LN.Icy8M
司祭「幼子よ。あと一度だけじゃ」
カロル「でも…ボク、力なんて…」
司祭「もし傷を癒せればお前さんらを無事に帰すと保証しよう」
司祭「無論、初めに言った出来うる限りの望みを叶えるという約束も守る」
カロル「……」
司祭「じゃが傷を癒せなければ…全ては元通りじゃ」
司祭「お前さんらには生涯を地下牢で過ごしてもらうぞ」
カロル「……」
宣教師「それはあまりに不平等な選択ではありませんか!」
司祭「何がじゃ?」
宣教師「なぜ傷を癒せなければ捕らえられるのです!」
司祭「ふん…愚か者め。神父の報告で既に分かっておるんじゃ」
司祭「こやつらは村の人間にまで深く関わり、旅人に罪を着せて崩壊まで追い詰めておる」
宣教師「な…!」
カロル「え…?」チラッ
神父「……」ツツー
カロル「…どういう事なの?」
神父「……」
カロル「おじさま…?」
神父「うっ…む、むぅ…ゲフンゲフン!」
カロル「…ボク、そんな事してない」
母「んーっ!んーっ!」ジタバタ
696:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/22(水) 23:46:06 ID:x1LN.Icy8M
カロル「知らない…。ボクもお母さまも…何もしてない」
司祭「ほっほっほ…言い訳などいくらでも出来る。罪を清算したくば力を見せてみよ」
カロル「分からないよ…。力なんて持ってないもの…」ワナワナ
宣教師「やはり認められません!一方的に二人を貶めて、脅迫するなど…!」
司祭「やかましいわい。お前が認めなかろうが所詮は腕の自由を奪われた女の身じゃ。どうにもなるまい?」
宣教師「初めから…彼に力があるか試したかっただけなのですね…!」
司祭「……」
宣教師「どこまで…信頼を裏切れば気が済むのですか…!」
母「んーっ!」ジタバタ
司祭「…幼子よ。機会は一度。道は二つじゃ…。限られた選択を誤るでないぞ?」
カロル「おじさまを治せば…みんなで帰れるの?」
神父「…ま、まぁそうだな」
カロル「…しゃがんで?」
神父「あ、あぁ」シャガミ
カロル「」スッ ピトッ
カロル「(分からないけど、たぶん…)」ギュッ
697:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 19:45:55 ID:X7oKNsh1ok
カロル「」ピトッ
カロル「……」ギュッ
司祭「何のマネじゃ?」
神父「手を…合わせているようですな?」
司祭「手を?」
宣教師「(あれは…祈り?)」
カロル「」スッ
神父「ん?」
カロル「」ナデナデ
神父「な、なんだ?なぜ撫でるのだ?」
カロル「」パッ
神父「はぁ…?」キョトン
司祭「なんと…!」
宣教師「…!?」
カロル「ホントにできた…!」パァァ
698:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 19:47:36 ID:X7oKNsh1ok
宣教師「まさか…そんな……」ガクッ
神父「は?何か起こったのですかな?」
司祭「…素晴らしい…!」
神父「へ?へ?」
司祭「…気付いておらんのか?」
神父「はい?」
司祭「何か変化を感じんか?」
神父「……?」
司祭「愚か者め。目元をさすってみよ」
神父「」スリスリ
神父「えっ」
神父「な、な、なんじゃこりゃぁ!?」ビックリ
司祭「…呆れた奴じゃわい」
699:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 19:50:43 ID:Ncsc1rYezg
神父「見える…はっきりと見えるぞ…!」
宣教師「傷を塞ぐだけでなく、失われた部分まで再生するなんて…!」
司祭「ほほほ。まさしく力を目にしたな?」
宣教師「……」
司祭「オホンッ…もう迷う必要はあるまい?」
宣教師「どうやら、そのようです…」
司祭「うむ。それでよい…。縄をほどいてやろう」
神父「よくやったぞ!」
カロル「えへへ」テレッ
神父「しかしどうして今まで隠していた?
その力を用いれば私の傷も癒せただろうに…」
カロル「ホントに知らなかったんです。ボク、力なんて聞いた事もなかったから」
神父「ならばどうやって発揮したのだ?」
カロル「祈ってみたの。おじさまのケガが治りますようにって?」
神父「それがさっきの手を重ねる所作か?」
カロル「うん。宣教師さまに教えてもらったんだ!」ニコッ
神父「なぜそれで力が発揮されると思ったんだ?」
カロル「みんなの祈りを神様は聞いてくれるって宣教師さまは言ってたよ?
だからもしボクに力があるなら、神様が教えてくれると思ったの」
神父「なるほどな…」
司祭「神父よ、耳を貸すでないぞ。そやつは偽りをごまかしているに過ぎぬ」
神父「」ハッ
司祭「ホビットが神を語るなど、おこがましいにも程がある。そう思わんか?」
神父「そ、そうですな。あまりの喜びにほだされかけてしまいました」アセアセ
カロル「嘘じゃないのに?」キョトン
神父「黙れっ!宣教師のようにたぶらかそうとしても、そうはいかんからな!」
カロル「……」
700:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 20:09:41 ID:Ncsc1rYezg
母「」モガモガ
神父「メスのホビットはいかように?」
司祭「牢に押し込めておけ。もはや幼子以外に用はない」
神父「はっ!」ガシッ
母「んーっ!んーっ!」ジタバタ
神父「おとなしくしろ!」ズルズル
ガチャッ バタンッ
カロル「え…お母さま…」
司祭「さぁ、お前の醜い欲を存分に聞いてやろう?」
カロル「待って!お母さまをどうするの?」
司祭「はて、どうなるものやら…」
カロル「どうして…?約束は守ったのに…」
司祭「なればこそ望みを聞いてやると言うとろうが?」
カロル「待ってよ、だったらお母さまを……」
宣教師「黙りなさい」
カロル「え…」
宣教師「もう演じなくても結構です。気付いていないとでもお思いですか?」
カロル「宣教師さま…?」
宣教師「あなた達は…初めから利用していたのでしょうね」
宣教師「残念です…」
カロル「…?」
司祭「無駄じゃ。こやつは既に目を覚ましておる」
カロル「どういうこと?」
司祭「お前がいくらまやかそうと無駄じゃ」
カロル「?」
宣教師「……」
701:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 20:12:50 ID:Ncsc1rYezg
司祭「宣教師よ、こやつの手を縛れ」
宣教師「は…?」
司祭「何をしでかすか分からんからのう」
宣教師「……」
司祭「まさか出来ぬとは言うまいな?」
宣教師「い、いえ…」
司祭「決別の時じゃ。己に眠る浅はかな情を断ち切ってみせよ」つ【縄】
宣教師「分かりました…」スッ
宣教師「動かないで、くださいね」スルッ
カロル「……」
宣教師「」ギュッ
カロル「っ…!」グッ
宣教師「」ビクッ
宣教師「い、痛かった…ですか?」
カロル「ううん。平気だよ?」ニコッ
宣教師「そうですか…」ホッ
カロル「…宣教師さまの方が苦しそう」
宣教師「えっ」
カロル「…なんでもない」
宣教師「カロルくん…」
司祭「いつまでやっとる?」
宣教師「も、申し訳ありません」アセアセ
702:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 20:14:24 ID:X7oKNsh1ok
カロル「……」
司祭「ほほほ。どうした?これからお前の望みを聞いてやると言うに覇気のない」
カロル「ホントに聞いてくれるんですか?」
司祭「あぁ、聞いてやるとも。好きなだけ言うがいい」ニヤリ
カロル「じゃあ…お母さまとマルクを返してください」
司祭「うむ。聞いたぞ」ニヤニヤ
カロル「へ?」
司祭「して、次はなんじゃ?」ニヤニヤ
カロル「お母さまとマルクは…?」
司祭「聞いた聞いた。じゃんじゃん望みを言うがいい」ニヤニヤ
カロル「……」
司祭「どうした?もう望みは無いのか?」ニヤニヤ
カロル「ひどい…!」
司祭「わははは!本気で叶えてもらえると思ったのか?」
カロル「だって…約束したもの!」
司祭「約束じゃと?」
カロル「ボクが神父のおじさまを治したら、望みを叶えてくれるって!」
司祭「そんな事を言ったかのう?」
カロル「言ったよね、宣教師さま?」
宣教師「は、はい」
司祭「ほう…宣教師よ。まだそやつを味方するか?」
宣教師「…おっしゃられたのは確かな事実かと」
司祭「」イラッ
703:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 20:16:24 ID:Ncsc1rYezg
カロル「お母さま達を返して!」
司祭「ふむ…立場を理解しておらぬようじゃな?」
カロル「え…」
司祭「ほっ!」ビシッ
カロル「いっ…!」
宣教師「な、何を…!?」
司祭「折檻に決まっておろうが!はぃぃ!」ガッ
カロル「ぅっ…」タラー
宣教師「血が…!」
司祭「このっ!このっ!薄汚いホビットめがっ!」バキッ
ビシッ ガスッ ボコッ ベキッ
704:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/5/30(木) 20:17:24 ID:X7oKNsh1ok
司祭「はぁ…はぁ…。老体に負担を…かけおって…」ゼーゼー
カロル「ぅ…うぅ…」グッタリ
司祭「お前の血で杖が汚れてしもうたわい!」バキッ
カロル「あぐっ」
宣教師「」ジーッ
司祭「む?」
宣教師「…何もそこまでする必要があるのですか?」
司祭「まだこのホビットに未練が残っておるようじゃな?」ジロッ
宣教師「そ、そういう訳では…」
司祭「騙されてなお、信用したいなら好きにせい」
宣教師「……」
司祭「また騙されるだけじゃ」
宣教師「はい…」
司祭「さて、出ようかの」スタスタ
宣教師「彼は?」
司祭「しばらくは動けまい。そのまま放っておけ」
司祭「鍵はどのみちわしが持っておる。先ほどのように脱け出す心配はない」
宣教師「なぜ彼だけはこの部屋に?」
司祭「こやつは特別じゃからな…」
宣教師「……?」
司祭「分からずともよい。行くぞ」スタスタ
宣教師「」チラッ
カロル「うぅ…」グッタリ
宣教師「……」
司祭「何をしとる?」クルッ
宣教師「あっ!いえ…」スタスタ
705:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 18:30:09 ID:pgetIhYfwI
―――大聖堂(広間)―――
宣教師「」モグ
宣教師「……」
ストッ
宣教師「?」
アリアス「お隣いいかしら?」ニコッ
宣教師「…どうぞ」
アリアス「赦しを頂けたのね。おめでとう?」ニコニコ
宣教師「…ありがとうございます」
アリアス「日暮れ時に独りでお食事?」カチャカチャ
宣教師「はい。今日の間は休んでいていいと言われましたから」
アリアス「そう。あまり食べていないのね?」
宣教師「お腹が空きませんので…」
アリアス「フフ…埃臭い地下牢で食事を摂っていたら、少食にもなるでしょうね?」
宣教師「」ムッ
アリアス「浮かない様子だけれど、まだ例のホビットを引きずってるの?」カチャカチャ
宣教師「い、いえ…」
アリアス「そう」モグモグ
706:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 18:38:58 ID:CxQyg6B8SQ
アリアス「そういえば司祭様が嬉しそうになさってたわよ?」
宣教師「カロ……ホビットを捕らえた事ですか?」
アリアス「それもあるけど、あなたが目を覚ましてくれたのが大きな要因でしょうね」
宣教師「そうですか」
アリアス「どうしたの?」パクッ
宣教師「なぜ司祭様は…私を気にかけて下さるのでしょうか?」
アリアス「?」モグモグ
宣教師「ジョーさんもダガも私を司祭様のお気に入りだと言います…」
アリアス「」ゴクン
宣教師「…どうして、そのように振る舞われるのでしょう?」
アリアス「そう?あまり感じないけれど?」
宣教師「ですが、言われてみると思い当たる事がいくつかありまして」
アリアス「」パクッ モグモグ
宣教師「……」モグ
アリアス「考えられるとしたら、一つはあなたが悲劇の町に生きた子だから」
宣教師「え?」
アリアス「もう一つは…悲劇の町を産み出したのがあなたではないからでしょうね」
宣教師「私ではないとは…どういう意味ですか?」
707:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 18:42:04 ID:CxQyg6B8SQ
アリアス「悲劇の町の件は私達の組織から出版される書物の一節になるほど有名よね」
宣教師「はい」
アリアス「昔は…と言ってもせいぜい30年ほど前でしょうけど、その頃までは人間の町や村に住むホビットも少なくなかった」
宣教師「そうみたいですね。話に聞いた程度ですが…」
アリアス「もともと快く思われてはいなかったけれど、それほど教えも浸透してなかった時代ね」
宣教師「きっかけはなんだったのですか?」
アリアス「知らない訳ではないでしょ?」
宣教師「…ホビットが癒しの力を盗んだという伝承が広まったのでしたね」
アリアス「正確には司祭様が古い書物を解読して文字に興したのが始まり」
宣教師「なるほど」
アリアス「当時の教団はまだ力を持っていなかったけれど、顧問として属していた貴族を通して書物の内容は王国に伝わったの」
アリアス「国王は大変興味を示された。なぜなら…」
宣教師「待ってください。その話は司祭様が私を気にかける理由に関係しているのですか?」
アリアス「そうね…。直接的にではないけれど、一応関係しているわよ?」
宣教師「(…そうは思えませんが)」
708:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/6/6(木) 18:46:10 ID:CxQyg6B8SQ
アリアス「有力な貴族には信心深い人間も少なくない。王国に仕えるアントリア神官の家系もその一つね」
宣教師「……」
アリアス「人とホビットの境は曖昧で、長い期間互いに壁を作りながら保守的に接していた」
アリアス「そんな時代に暴かれた真実は両者を奮わせるには十分過ぎたのでしょうね」
アリアス「伝承を問う人間と否定するホビット。どこへ向かっても争う運命だったのよ」
宣教師「よく話し合えばそのような事態に至らなかったのでは?」
アリアス「無駄よ。争いの種は尽きないのが命のサガ。
つまらない話し合いなんてこじれて、小競り合い程度の攻防も次第に激化していくのが必然の成り行き」
アリアス「惜しみなく武力を注いだ結果、王国によってホビットは住処を追われ…」
アリアス「…上に立った"人"は目的を見失ってしまったのよ」
宣教師「……」
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