むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
399:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/11(月) 15:56:04 ID:OSGANJ/Nfc
母「いつもあたしがやるせなくなると、この言葉をかけて励ましてくれたの」
カロル「ボクもお母さまの言葉に励まされてるよ!」
母「…よかった。あの人も喜んでると思う」ニコニコ
カロル「お父さま…。会ってみたいなぁ」
母「……」
カロル「ねぇ!もっと聞かせて。お父さまのお話!」
母「もちろんいいわよ?」ニコッ
母「そういえばこんなこともあったのよ?」
カロル「へー!」キラキラ
アハハハハ!!
エー!!? ウソダー!!?
…………
400:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/12(火) 20:42:23 ID:Kwo9hE/z3E
――夢――
???「大丈夫かい?」スッ
「平気よ、ありがとう。フィズス」パシッ
フィズス「ケガしてるじゃないか?」
「このぐらい、なんてことないわ?いつもの事だもの」
フィズス「またそんなこと言って…いい加減あきれるよ」
「あら?そんな風に言うけど、フィズスはいつだって助けてくれるじゃない?」
フィズス「当然だろ?同じ村の人間として放っておけないじゃないか?」
「ふふ。どうかしら?」クスクス
フィズス「なんだよ、それ?」ムッ
「べっつにー?」プイッ
フィズス「……なんなのさ」ムスッ
401:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/12(火) 20:45:18 ID:Kwo9hE/z3E
フィズス「で、今日は何があったの?」
「何かって?」
フィズス「とぼけないでよ。何かあったから、ケガしたんだろ?」
「…市場でお米を買ったら、相場より高い値段で買わされたの」
フィズス「……」
「おまけに量も減らしてあったから、文句言ってやっただけ」
フィズス「当たり前だよ。そんな事されたら誰だって文句言うさ」
「そしたら生意気だって言われて、あとはいつも通りよ?」
フィズス「…困った連中だな」グッ
「別にいいのよ。いつものことだもの」
フィズス「ダメだよ!お金はぼくが返すから、後であのおじさん達にも謝らせる!」
「気にしなくていいのに…。フィズスには関係ないでしょ?」
フィズス「関係あるよ!君はこの村の人間だ!
なのに君だけが不公平な扱いを受けるなんて間違ってる!」
「それって…村長の息子として?」
402:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/12(火) 20:47:31 ID:Ix/8/HR8zU
フィズス「どういう事だい?」
「…責任感であたし達を庇うなら、やめた方がいいわよ?
巻き込まれるかもしれないじゃない」
フィズス「なっ…!」
「あたしにはお父様がいるし、辛くないわ。だから無理しないで…」
フィズス「やめてよ」
「え?」
フィズス「そんな悲しいこと言うなよ」
「な、なによ…」
フィズス「君はいつも強がるけど、ほんとはとても寂しいんだろ?」
「冗談よしてよ。別に寂しくなんかないわ」
フィズス「ウソだ!」
「あなたに何が分かるのよ!?」
フィズス「分かるよ。ぼくは君の友達だ!」
「なによ、それ…」ムスッ
フィズス「村長の息子だから仲良くするんじゃない!
君が好きだから仲良くするんだ!もっとぼくを信じてよ!」
「………」カァァ
403:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/12(火) 20:50:01 ID:Kwo9hE/z3E
「………」
「…あ〜あ。買ったお米も踏みつけられて、夕飯には使えないわね。
お父様に怒られないといいけど!」
フィズス「あっ!なにごまかしてんだよ?」
「うるさい!話しかけないでよ!」
フィズス「なんで怒ってるの?」キョトン
「バカ!知らないわよ!」プンプン
フィズス「なんだよ、それ!?」
「帰るから付いてこないで!」プンスカ
フィズス「もう…なんなんだよ」
「ふん!」スタスタ
フィズス「あ、待って!」
「なに?まだ何か用!?」クルッ
フィズス「忘れ物だよ?」つ【袋】
「なによ、これ?」キョトン
フィズス「じゃあまたね。マリー!」タタタッ
マリー「ちょっと!待ちなさいよ!」
マリー「なんだって言うのよ…」ガサッ
マリー「……!」
マリー「…果物がたくさん入ってる…」
マリー「……バカ」ボソリ
…………
404:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 19:56:29 ID:OEv/Nma8qg
母「」パチッ
母「ふぁぁ…ぁ…」ノビ
母「(懐かしい夢だったわね…)」
母「昨日坊やに話してあげたからかしら?」ニコッ
カロル「」スヤスヤ
母「ふふ。起こすのも悪いわね?」ナデナデ
母「朝ごはんを探しに行かなきゃ」スクッ
母「……」
母「(あなた…。あなたに会いたい…)」ギュッ
母「……」
母「」スタスタ
カロル「」スヤスヤ
405:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 19:58:06 ID:RKYfkzbfdU
――村の外れ――
神父「」ガクガクブルブル
神父「い、いくら明朝と言えど早すぎる…」
神父「4時に経てなどと…司祭様は鬼だ!」
神父「暗いわ寒いわ、道のりが果てしない…」
神父「」ハッ
神父「い、いかんいかん!今のは無しだ!
こともあろうに司祭様への不平不満などバチが当たる!」
神父「と、言ってまぁ…誰も聞いてはいないわけだが」キョロキョロ
ガサッ
神父「」ビクゥ
子猫「にゃー」
神父「なんだ、猫か…。驚かせおって」
子猫「にゃ?」
神父「しっしっ!」ペイッ
子猫「にゃん!」タタタッ
神父「聖職者を驚かせようとは不埒な獣め!」
神父「くっ!なぜ私がこんな目に…」ブツクサ
406:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:02:23 ID:RKYfkzbfdU
――森――
神父「さて、この辺りか…。奴らがいる枯れ木というのは…」キョロキョロ
スースースヤスヤ
神父「ん…?」
カロル「」スースー
神父「ほう…」ポォォ
カロル「」スヤスヤ
神父「ハッ…。いかんいかん!見とれてしまった…。
しかし今まで数いるホビットを見てきたが、ハッとする美形だな…」
神父「堅物で通る宣教師をたぶらかす訳だ」
カロル「ぅん…」モゾモゾ
神父「それにしても窪みで寝ているが…。
薄着で寒くはないのか?不思議な種族だ…」
神父「話では母親もいたはずだが見当たらないな?
ともあれ、これは絶好の機会に他ならん…」キョロキョロ
神父「このホビットを捕らえて早々に教会で暖を取るとするか。
これから布教する為に荷物もまとめなければな」ダキッ
カロル「」スースー
神父「……軽いな。持ち運びが便利だ」グッ
カロル「ん…」モゾモゾ
神父「……!」ビクッ
カロル「うぅん…ぅん…」スースー
神父「ふぅ…。驚かせおって…」
神父「さっさと連れていくか…」スタスタ
カロル「」スヤスヤ
407:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:04:08 ID:RKYfkzbfdU
神父「(起きるなよ…?絶対に起きるなよ…?)」ドキドキ
カロル「ぅぅ…」モゾモゾ
神父「」ビクッ
カロル「」モゾモゾ
神父「ね、ねーんねんこーろりよ!おーころりよー!」アセアセ
カロル「」スヤスヤ
神父「ふぅ…」スタスタ
「おじさん」
神父「」ビクビクビクゥッ
カロル「」スースー
神父「ね、寝てる…よな?」
408:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:06:02 ID:RKYfkzbfdU
「こっちだよ」
神父「えっ」クルッ
「そっちじゃないよ。こっちだってば!」
神父「(こ、これはもしやホビットの魔術か…。脳に直接語りかけ、たぶらかそうと言うのかぁ!?)」
「ねぇ。聞いてる?」
神父「えぇいっ!神に仕える身をまやかそうなど片腹痛いわ!
なまんだぶなまんだぶ!はんにゃほけらむにゃむにゃそわか!」カァーッ!!
「クスクス…。なにしてんの、おじさん?」
神父「なっ何を貴様!寝たフリなぞ……」
カロル「」ジーッ
神父「しおっ……て…?」
カロル「だ、だれ…?」
神父「だ、誰って貴様が語りかけていたんじゃ…?」
「違うよ。こっちこっち。木を見上げてみて?」
神父「へ…?」
???「やっと気付いてくれた」ニコッ
神父「ほ、ホビット…?」
???「うん、そうだよ?」
カロル「え…」
409:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:08:18 ID:RKYfkzbfdU
???「はじめまして。僕はラム。おじさんは?」
神父「」ポカーン
ラム「おじさん?」
神父「あ、あぁ!き、貴様に名乗る名など無い!薄汚いホビットめ!」
ラム「あはは。ひどいや!その薄汚いホビットを抱えてるおじさんはなんなのさ?」
神父「黙れっ!」
ラム「」クスクス
カロル「……?」オロオロ
ラム「ほら、その子も怖がってるよ。離してあげたら?」
神父「ふざけるなっ!こいつは罪深き種族だ!
村の近くに住まわせておく訳にはいかん!」
カロル「」オロオロ
ラム「おじさん、教団の人間でしょ?」
神父「だからなんだっ!?」
ラム「だと思った。分かりやすい格好してるしね」
410:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:10:55 ID:RKYfkzbfdU
神父「貴様と話している暇はない!消えろっ!」
ラム「あれ。いいの?僕もホビットだよ?」
神父「い、今なら見逃してやると言ってるんだ!」
ラム「じゃあ僕を連れて行って、その子を見逃してあげてよ」
神父「バカバカしい!いいから消え失せろ!」
ラム「ふーん」
カロル「ボク…連れていかれるんですか?」オソルオソル
神父「あぁ、そうだ。おとなしくしていろ!」
カロル「ど、どうして?」アセアセ
神父「貴様に話す筋合いはない!」
カロル「お母さまはどこですか…?」
神父「知るか!」
カロル「離してください!ボク帰ります!」
神父「笑わせるな!貴様に帰る場所などないだろう!?」
カロル「いやだ…。行きたくない!」ジタバタ
神父「足掻くな!往生際の悪い奴め!」ガシッ
カロル「やめてください!」バッ
411:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:12:27 ID:OEv/Nma8qg
神父「き、貴様ぁ!ホビットの分際で逆らうとは…!」ビシッ
カロル「っ…!」
神父「おとなしくしておけば手荒なマネはしないぞ!」バッ
カロル「」ビクッ
ラム「……」ジーッ
神父「貴様、まだいたのか!」
カロル「……?」
ラム「ねぇ。助けてほしい?」
カロル「……!」
神父「なんだと!?」
ラム「どうなの?」
神父「黙れ!」
カロル「……」コクリ
ラム「そっか。じゃあ助けてあげるね」ピョンッ ストッ
412:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:13:52 ID:OEv/Nma8qg
神父「ば、バカな!助けるだと!子供に何が出来ると言うのだ!?」
カロル「」オロオロ
ラム「」タッタッ
神父「く、来るな。穢らわしい!」
ラム「怯えなくていいよ。何もしないから?」
神父「信用出来るか!それ以上近付けば…」
ラム「近付けばどうするの?」ニヤリ
神父「近付けば…こいつを殺す!」
カロル「」ビクッ
ラム「殺してどうするの?」
神父「なっ…!こ、殺してどうするだと?」
ラム「うん。どうするの?」
神父「こ、殺して…それから…埋める?」
ラム「どこに埋めるの?」
神父「え、えーと…ちょうど人気も無いし、この辺かなー」
カロル「」ブルブル
ラム「じゃあそうしたら?」
神父「えっ」
カロル「えっ」
413:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/16(土) 20:16:09 ID:OEv/Nma8qg
ラム「ほら、早く」
神父「い、いや。早くと言われてもだな…。その…心の準備もあるし」アタフタ
カロル「」ビクビク
ラム「……」スッ
神父「お、お前もまだ死にたくないだろう?」アタフタ
カロル「は、はい…」ビクビク
ラム「」グッ
神父「そ、そういう事だから、殺すのはまた今度……」
ヒュッ ザクッ
神父「えっ」
グチュッ
ラム「」グリグリ
神父「……あぁぁぁあぁあぁぁ!!?」バタッ
カロル「いたっ…!」ドサッ
ラム「あはは」
神父「め、目が…目がぁぁぁぁぁ!!!」ゴロンゴロン
カロル「な、に…?」
ラム「木の枝を刺しただけだよ」クスクス
カロル「ひっ…」ギョッ
神父「あぁぁあぁあ!!いてぇ!!いてぇよぉぉおぁぁあぁ!!!」ゴロンゴロン
ラム「行こ?」ギュッ
カロル「え、でも…」
ラム「行くよ」グイッ
カロル「わっ…」アセアセ
タタタッ
イテェエェェェ!!イテェェェェヨォォ!!
414:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/19(火) 19:09:35 ID:VGq6gHEdG.
ラム「あー疲れた!」
カロル「…」
ラム「ここまで来れば安心だね」
カロル「う、うん…。ありがとう」
ラム「どういたしまして」ニコニコ
カロル「……」
ラム「僕はラム。改めてよろしく」
カロル「ボクは…カロル」
ラム「カロルくんって言うんだ!」
カロル「うん…」
ラム「カロルくんはホビットなんでしょ?」
カロル「そ、そう…だよ」オドオド
ラム「僕もホビットなんだ。仲間に会えて嬉しいよ!」ニコッ
カロル「うん…」
ラム「どうしたの?」
カロル「さっきの人間…平気かな?」
ラム「平気な訳ないじゃん。目を刺されたんだから?」
カロル「……」
ラム「もしかして…心配なの?」マジマジ
カロル「」コクリ
ラム「ふーん。変わってるね?」
カロル「え…」ガーン
415:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/19(火) 19:11:00 ID:VGq6gHEdG.
カロル「…ラムくんはこの森に住んでるの?」
ラム「違うよ。最近来たんだ。知り合いの人間を追いかけて」
カロル「人間と友達なの?」パァァ
ラム「えー!なにそれ?」クスクス
カロル「へ?」
ラム「君って面白いこと言うんだね?
ホビットが人間と馴れ合う訳ないじゃないか」
カロル「そ、そう…?」
ラム「そうだよ。あんな薄汚い連中、顔を見ただけで吐き気がする…」
カロル「で、でも!優しい人間もいるよ?」
ラム「えっ」
カロル「えっ」
416:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/19(火) 19:12:14 ID:oXJpTUulPQ
ラム「……」ジーッ
カロル「?」キョトン
ラム「本気で言ってるの?」
カロル「う、うん…」ドキドキ
ラム「……バカみたい」ボソッ
カロル「え?」ドキッ
ラム「なんで人間を庇うのさ?」
カロル「だって…優しい人間もいるから…」シドロモドロ
ラム「だから何?」
カロル「だからって……」
ラム「あいつらが僕たちにしてきた事を考えてみなよ?」
カロル「……」
ラム「なに?いい子ぶってんの?」
カロル「ち、ちが……」
ラム「ふざけんなよ!!」
カロル「」ビクッ
417:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/19(火) 19:17:01 ID:VGq6gHEdG.
ラム「お前も知ってるだろ!?
あいつらがどれだけ僕らを苦しめたか…!」
カロル「」ビクビク
ラム「知らないなんて言わせないぞ…!
僕は忘れない…。あいつらから受けた屈辱を…!」
カロル「……なにがあったの?」ビクビク
ラム「なにがあっただって?君も分かるだろ?
今まで生きてきて当たり前に自由があったかい?
ホビットってだけで蔑まれて、傷付けられて…縛られてきたんじゃないの?」
カロル「……」
ラム「人間に差別されたから、こんな寒くて不衛生な森の中に住んでるんじゃないの!?」
カロル「……」
ラム「黙るって事はそうなんだろ!?」
カロル「そう…だね…」
ラム「……ほら、やっぱりそうじゃないか」
418:🎄 ◆WEmWDvOgzo:2013/2/19(火) 19:20:48 ID:oXJpTUulPQ
カロル「たくさん傷付けられたよ…。
どこにも住ませてもらえなくて…。ご飯もまともに食べれなくて…。
ボクらに関係ない事もボクらのせいにされて、ぶたれたり、お家を燃やされたり、お母さまも…傷付けられた」
ラム「人間なんて…そんなもんだよ。弱い所を探って奪うのが好きなんだ」
カロル「それでも、ボクは人間を憎みたくない…。
傷付け合うのは違うと思う……」
ラム「キレイな言葉だね。でも抑えられる?」
カロル「うん。憎しみに傷付けられる痛みは知ってるし、お母さまと約束したもの」
ラム「じゃあさっき僕が君を助けなかったら?」
カロル「え?」
ラム「人間に拐われてお母さんにも会えなくなったら君は耐えられる?」
カロル「」ドキッ
ラム「今は悲しくても共有出来る人がいるからいいよ。
でも人間はそれすら奪うんだ」
カロル「そんな……」
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