むかしむかしのことです。
世界は深い緑が生い茂り、深い青が寄り添うように流れる清らかな一つの円でした。
穢れを知らず、怒りも悲しみもなく、渇くことのない喜びが波立てる大地は
争いを寡黙に、繋がりをおおらかにしました。
331: ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:20:17 ID:NaSHqV57P6
――森――
ビュービュー
カロル「」ブルブル
母「寒いの?」
カロル「ううん…平気…」ブルブル
母「もう…こんなに震えてるじゃない?」ギュッ
カロル「お母さま…?」フルフル
母「こうしてくっつくと、暖かいでしょ?」ニコッ
カロル「うん…ぽかぽかする…」ヌクヌク
332: ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:23:38 ID:NaSHqV57P6
母「思い出すわね?昔はこれが当たり前だったっけ…?」
カロル「初めてお家に住んでからは、ずっと暖かかったもんね?」
母「そうね。たまたま見つけた空き家で、もう何年も暮らしていたんだもの。
旅をしていた頃の事なんて、遠く感じるわね」
カロル「もう…あの家も無いんだね」シュン
母「えぇ。無くなっちゃったわね……」
カロル「マルクと遊ぶのに使ってた枯れ木細工の玩具とか
旅人が捨てた林檎の匂袋とか、お母さまが読み聞かせてくれた絵本とか、思い出がいっぱいあったのに…」
母「……坊やがあたしの為に集めてくれた押し花のアルバムも、おじいさまの遺書も焼けてしまったわ…」
カロル「ボクが友達を欲しがったから…?」
母「ううん、違う。きっと過去は捨てなさいっていう神様の思し召しよ?」
カロル「……?」
333: ◆WEmWDvOgzo:2013/1/27(日) 17:25:25 ID:TbIaTri9k.
母「それ以上に大切な物がこれからたくさん集まるから。
抱えきれなくなってしまう前に捨てなさいって、ね?」
カロル「そうなのかな?」
母「そうよ?現に3人もお友達が出来たじゃない?」
カロル「えへへ。そうだね」ニコリ
母「そろそろ寝ましょう?」
カロル「……宣教師さま、心配だな」
母「明日にもなればマルクも宣教師様を見つけてくれるわ?」
カロル「ホント?」
母「えぇ。今夜は安心して眠りなさい?」
カロル「うん。分かった…」ウトウト
母「おやすみなさい、わたしのかわいいぼうや…?」ナデナデ
カロル「おやすみ…なさい」スヤスヤ
母「……」ギュッ
母「(宣教師さま、どうか無事でいてくださいね?)」
334: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:09:34 ID:8C0o4sgn8A
――夢――
カロル「」タタタッ
カロル「」スッ
カロル「やっぱり!初めて見るお花だ!」パァァ
カロル「押し花にしてアルバムに入れよう!」ゴソゴソ
カロル「ふふ。お母さま、喜んでくれるかなぁ?」ニコニコ
ワンッワンッ グルルルル バウッ キャンッ
カロル「?」
カロル「なんだろ…?」クルッ
カロル「」タタタッ
335: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:10:44 ID:tP/EhEtJvg
カロル「あっ…!」
犬1「ばうっ!ばうっ!」
犬2「ぐるるるる…!」フーッフーッ
子犬「くぅん…」プルプル
カロル「大きい獣が小さい子をいじめてる…」
犬2「わんっ!!」
子犬「」ビクッ
犬1「ばうっ!」ドンッ
子犬「きゃいんっ」バタッ
犬1「がるるる!」ガッ
子犬「きゃんっ」ジタバタ
カロル「……!」ワナワナ
336: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:12:56 ID:tP/EhEtJvg
犬1「ばうっ!」ザッ
子犬「……!」プシッ
カロル「や、やめろ!」バッ
犬2「わう?」クルッ
犬1「」グルルルル
カロル「ぅ……」ビクッ
犬2「わんっ!!」
カロル「(こ、怖くない…怖くない…!)」フルフル
犬1「」ギロッ
カロル「〜〜〜!」バッ
犬1「?」
カロル「……!」フリフリ
犬2「わう?」キョトン
犬1「」キョトン
337: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:13:51 ID:tP/EhEtJvg
カロル「(今だよ!ボクが猫じゃらしで惹き付けてる間に…!)」チラッ
子犬「」ポカーン
犬1「」グルルルル
カロル「(は、早く逃げて!?)」チラッチラッ
子犬「」ハッ
子犬「」タタタッ
カロル「はぁ…。よかったぁ…」ホッ
犬1「ばうっ!」バッ
犬2「あおんっ!」ガッ
カロル「えっ?うわっ」ドサッ
ガブッ バウッ イタイ! イタイヨ!! ガリガリ ワオンッ オカアサマー!!?
338: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:15:42 ID:tP/EhEtJvg
カロル「うぅ…」グッタリ
カロル「いたた…!」ズキズキ
カロル「あ、あの子は…ちゃんと逃げられたかな?」
子犬「」クーン
カロル「え?」キョロキョロ
子犬「あん!」バッ
カロル「わっ!?」ビクッ
子犬「」ハッハッ
カロル「なんだ、キミだったの?」ホッ
子犬「あん!」シッポフリフリ
カロル「あは!そっか。逃げられたんだね?」ニコッ
子犬「」コクコク
カロル「よかったね?ふふ…」
カロル「っ…!」ズキン
子犬「くぅん?」ペロペロ
カロル「ふふ。ありがとう。でもボクは大丈夫だよ?」
339: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:17:44 ID:8C0o4sgn8A
子犬「あぅん…」シュンッ
カロル「悲しまないで?キミのせいなんかじゃないもの?
キミもケガをしてるから、ボクより自分を大切にしてあげて?」ニコッ
子犬「……」ペロペロ
カロル「そうそう。しっかり舐めて傷を治さなくちゃね」ニコニコ
子犬「あんっ!」
340: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:18:36 ID:8C0o4sgn8A
カロル「じゃあボクは帰るね。キミもあの獣たちに見つかる前に帰るんだよ?」
子犬「」クーン
カロル「……ごめん。お母さまが心配するから帰らなきゃ」
子犬「」スリスリ
カロル「だ、ダメ!ちゃんと自分のお家に…」
子犬「」ウルウル
カロル「ぅ…」タジタジ
子犬「」シッポフリフリ
カロル「」キュンッ
カロル「(うぅ…。こんなのズルいよ…。ほっとける訳ないじゃない)」チラッ
子犬「」キラキラ
カロル「」ハァ
カロル「…ボクのお家に来る?」
子犬「きゃんっ!きゃんっ!」ピョンピョン
…………
341: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:20:22 ID:8C0o4sgn8A
――森――
カロル「ん…ふぁぁ…」ノビノビ
カロル「………」
母「」スヤスヤ
カロル「(マルク……)」
母「……ぅん?」
カロル「(なんだろう…。胸がざわざわする…)」
母「早起きねぇ…」ポンポン
カロル「わっ」ビクッ
母「あらあら」クスクス
カロル「あ、お母さま…。おはよう」
母「おはよう。こんなに早起きしてどうしたの?」
カロル「なんでもないよ。目が覚めちゃっただけ」ニコッ
母「そう?まぁ枯れ木の窪みはすきま風に当たって寝心地が良くないわよね」
カロル「あはは。そうかも」ニコニコ
母「なーんてね。嘘はダメよ?」ニヤリ
カロル「」ドキッ
342: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:23:01 ID:8C0o4sgn8A
カロル「う、嘘なんてつかないよ?」
母「表情を見れば分かるのよ?」
カロル「……」
母「あたしはあなたの母親だもの。ね?」ウインク
カロル「お母さまにはかなわないや」クスクス
母「まぁ?」ニコニコ
カロル「……お母さま。マルクが昼までに戻って来なかったら、探しに行っていい?」
母「聞かなかったら黙って探しに行く気だったのかしら?」
カロル「……」
母「ダメよ」バッサリ
343: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 18:24:11 ID:8C0o4sgn8A
カロル「え…そんな…」シュン
母「危ないからダメ。じっとしてなさい?」
カロル「で、でも…」
母「あの子に宣教師様を探すよう頼んだのは坊や、あなたよ?」
カロル「それは…そうだけど」
母「なら最後まで信じてあげなさい?」
カロル「だけど、もし危ない目に遭ってたら…」
母「…お母さんと約束したわよね?」
カロル「うん…」
母「なら信じて待ちなさい。それとも坊やは友達が信用できない?」
カロル「ううん…。信じてる」
母「…そう。いい子ね?」イイコイイコ
カロル「……」
344: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 21:58:00 ID:Ck6no1fVS2
――村(広場)――
ワイワイガヤガヤ
旅人「あー!あー!ただいま発声テスト中!ただいま発声テスト中!」
村長「…何をしておられるので?」
旅人「ん?あぁ。ちゃんとギャラリーの皆さんに声が届くように発声練習をね」
村長「はぁ?とりあえず村人を集めましたが」
旅人「ん。オーケーオーケー!ベリーサンキュー!アイムソーリーヒゲソーリー!」ヒラヒラ
村長「(こんなにストレスの溜まる客人は初めてだ…)」イラッ
345: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:00:07 ID:Ck6no1fVS2
旅人「さぁて。パッチ君は来てるかなーん?」キョロキョロ
村長「一応全員呼んでありますが、被害者の家族は…まだ受け止められないようでして」
旅人「そうですか。んじゃまぁ始めるとしますかね」
村長「(本当に大丈夫なんだろうか…?)」
ザワザワ ザワザワ
旅人「あ、あー!おほんっ!おはようございます。村の皆さん。
こんな朝早くから、お呼び出ししてまことに申し訳ない」ペコリ
シーン
旅人「私を知らない方々もおられるかと思われますので、この場を借りて自己紹介しておきましょう」
村長「(なんだ、意外としっかりしてるじゃないか)」ホッ
旅人「名はアイリ・ワルド。歳は42。スリーサイズは上から82、57、85。
村長の家でお世話になっているしがない旅人です」
ズルッ バタバタッ
村長「……ずっこけてしまった。なに考えとるんだ、あの旅人は?」ムクリ
ワルド「ちなみに現在、独り身でしてね。私に気があるという方は是非一声かけてください」キリッ
ズルッ バタバタッ
村長「」ヒクヒク
ワルド「ははは。皆さん良い反応をされますな?」ケラケラ
346: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:02:28 ID:Ck6no1fVS2
テパ「おい!」ムクリ
ワルド「おや?あんたは昨日の…確かトンマさんと言ったかな?」
テパ「誰がトンマだ、ふざけるな!テパだ!」
ワルド「あーそうそう。そんな感じだ?」ヘラヘラ
テパ「あんた、大人2さん達を殺した犯人が分かったんじゃなかったのか!?」
ワルド「おいおい、そうカッカッしなさんなよ?
若い内は血の気が多いのもしょうがないが、さっきのはほんのジョークだろう?」
テパ「ならさっさと教えろよ!誰が殺ったんだ!?」
ワルド「さぁ?誰だろうな?」ニヤニヤ
テパ「く…!」
ザワザワ ザワザワ
ワルド「まぁ黙ってなよ。これから名探偵が事件の真相を暴くところだ。
横やりが入ると締まらないだろう?」
テパ「……ちっ!」
ワルド「さぁて、お待たせしましたね?
とんだ邪魔が入ってしまいましたが続けましょうか」
テパ「」ギリッ
347: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:03:52 ID:Ck6no1fVS2
パッチ「(ルーボイくんはどこにいるんだろう?)」キョロキョロ
ワルド「その前に…パッチ君はいるかね?」
パッチ「えっ」
ザワザワ ザワザワ
ワルド「ごきげんよう。昨日はよく眠れたかな?」
パッチ「」プイッ
ワルド「そうか。そいつはよかったねぇ」ヘラヘラ
ダン「なんだ…?うちの息子がどうかしたのか?」
ワルド「あぁ。そうだった?お父さんもいたんですね?」
ダン「?」
ワルド「昨日の晩は何を食べました?」
ダン「…どういうことだ?」キョトン
ワルド「まぁまぁ。いいから教えてくださいよ」
ダン「…蒸したチキンにサラダ。コーンスープ…だよな?」
ダンの妻「そ、そうだけど…それが何だって言うんです?」
ワルド「慎ましい食事ですなぁ?」
ダン「バカにしてるのか?」
ワルド「とんでもない。ただ最期の晩餐にしちゃ味気無いと思いましてね」
ダン「最期の晩餐…?」
ザワザワ ザワザワ
348: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:06:29 ID:Ck6no1fVS2
ワルド「皆さん。簡潔に言いましょう。のどかな、この村に犠牲をもたらした犯人は……」
テパ「」ドキドキ
ダンの妻「まさか…」チラッ
ダン「(…俺だとでも言うつもりか?)」
ワルド「……」
村のおばさん「あーじれったい!早くお言いよ!」
村娘「そうよ!もったいぶらないで!」
ワルド「……」
村長「いったい誰だと言うのです?」ハラハラ
村長の妻「」ドキドキ
ワルド「俺さ」ニヤリ
村人たち「えっ」
ワルド「くっくっくっ…」
村長「ま、まさか…まさかあなたが?」
ワルド「ふふ…」
テパ「て、てめぇ!よくも大人2さん達を…」
ダン「」プルプル
ダン「許さねぇ!」ダッ
ワルド「なーんちゃって」テヘペロ
ズルッ バタバタッ
ダン「こ、このやろう…」ヒクヒク
テパ「いい加減にしろ!!」ムクリ
ワルド「ははは。すまんすまん。とりあえず犯人はホビットだ」
村人たち「えっ」
349: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:08:12 ID:bd.VSVzfCA
ワルド「ホビットが以前、村に侵入したそうだね?
おそらく犯人はそいつだろう」
ダン「や、やっぱりそうか…!」
村長「ではすぐにでも教団に報告しなければ…」
テパ「あいつ、前にダンさん達に痛めつけられたのを根に持って…!」
村のおばさん「そんなこったろうと思ったよ」
村の大人5「生かしてもらった恩を忘れるとは、なんて薄汚い奴らなんだ」
村娘「うぅ…。ひどい…」シクシク
パッチ「違う!!!」
ワルド「んー?」
350: ◆WEmWDvOgzo:2013/2/2(土) 22:10:19 ID:Ck6no1fVS2
ワルド「何が違うのかな?」
パッチ「カロ…ほ、ホビットはそんな事しない!!」
ワルド「なぜ分かる?」
パッチ「なんでって…それは…」タジタジ
ワルド「残念だがね、ボクちゃん?ホビット以外に考えられないんだよ」
パッチ「な、なんでですか?」
ワルド「ダンさん。あんたを含め、大人1、2さんはホビットの恨みを買ってる。そうだろ?」
ダン「」ギクッ
パッチ「へ?」
ワルド「奴らの住み処に火を放って子供の前で母親を犯したんだもんねぇ?」
ダン「な、なぜそれをあんたが…!」
ワルド「大人1と2に取り引きを持ち掛けたのは俺だからさ。二人から話はよーく聞いてるよ」
ダン「ぐ…!」
ワルド「あんたも誘われてホイホイ付いてったらしいが、まずいね。
罪深い種族とイイことたくさんしちゃったんだもんなぁ?
バッチィ菌が繁殖してふにゃふにゃな息子も膿んでんじゃないのかい?」ニヤニヤ
ダン「あ、ぁ…!」ブルブル
村長「ホビットと交わっただと…!貴様ぁ!どういうことだ!?」ガッ
ダンの妻「あ、あんた…」ワナワナ
ダン「ち、違う…。違うんだ…」アタフタ
テパ「ダンさん…。あんた最低だな!」
村のおばさん「ほ、ホビットと交わるなんて…汚らわしいよぉぉ!」ヒィィ
村娘「こんな人が村にいたなんて…!」アトズサリ
ダン「あ、あぁ……」ガクリ
パッチ「(カロルくんが言ってたのはやっぱりお父さんたちだったんだ…!)」
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